2016年04月20日

白菊ほたる「今も昔も」

「――どうしてもトップアイドルになりたいんです…! どんなに不幸でも!」



……なんて大口を叩いてしまったのだろうか。



私――白菊ほたるにそんな、トップアイドルになれるような、取り立てた長所なんてない。





逆に取り立てるだけの短所ならあるというのに。



不幸体質という、呪われた性質が。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460993242



「いい言葉だ」



だけれど目の前の人――プロデューサーは笑い飛ばすでも、眉を顰めるでもなく、ただ真面目な顔で一つ頷き。



「君なら、トップアイドルになれるよ」



――そう、私のことを信じてくれた。

それからは輝かしい日々が続いた。



アイドルの衣装に身を包んでステージに初めて立った日。



育てていたスズランの木をモチーフにした衣装を着た日。



浴衣を着てみんなと花火を見た日。



クリスマスパーティーに参加して、その後サンタに扮した日。



闇と光の、二面がある剣士を舞台で演じきった日。



モデルにチャレンジして、光あふれる道を歩いた日。



ウェディングドレスを着て撮影をした日。



大きな舞台にソロで立たせてもらってライブをした日。



正月に縁起の良い衣装で厄払いをした日。



――どれも、とても大切な思い出だ。

――――だから、いつもここまでだと思ってしまう。

ここが私の最高潮なのだと。



ここまでが、私の限界なんだと。



これ以上輝くことなんて、できないんじゃないかと。



――思い描いていた、何より輝かしいトップアイドルになれる姿を、私は想像すらできなかった。

「お疲れ様、ほたる」



今日の撮影の仕事が終わって、プロデューサーさんは労いの言葉をかけてくれた。



「プロデューサーさんこそ、お疲れ様です……」



この人は変わらない。



あの日出会った時から、



不幸に巻き込まれた後でも、



ただ真っ直ぐな目で私を見て。



いつも、私の背中を押してくれる。



「……あの、プロデューサーさん」



「ん?」



だから、確認したかった。



あの気持ちもまた、あの時と変わらないのかと。

「――私は、トップアイドルになれると思いますか?」



「もちろん」

一拍も置かずに、返事は返ってきた。



「今も昔も、ずっとそう信じている」



何時の間に後ろに回ったのか、ぽんと小さく背中を押された。



「だからほたるも、そう信じていればいい」



「………………はい」



背中にじん、と熱がこもる。



この熱さがあれば、私はまだ前に進める。



諦めずに――夢を追える。

トップアイドルになる、その日まで。



おわり





21:30│白菊ほたる 
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