2016年04月21日

松尾千鶴「私はここにいる」

○雰囲気が暗いけど松尾千鶴誕生日SSです。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458534105



みんなの背中が見える。





それでも私は追いかけることができない。



みんなの背中が離れていく。



それでも私は立ち上がることができない。





「待って、置いていかないで!」





私は叫ぶことしかできない。



私は…。

「はっ!はあ、はあ…。」





私はそんな悪夢で目を覚ました。





「また嫌な夢みちゃったなあ。」





今は夜の12時をまわろうとしているところだ。



明日も仕事があるのに。



だから早く寝ないといけないのに。



私はベッドから立ち上がり、寮の部屋に備え付けられた流しに向かう。



グラスを取り出し、水道水をそそぎ、それを口に運ぶ。



中身を飲み干そうとすると、携帯がなっていることに気づいた。





「こんな時間にどうしたんだろう。」





携帯を見ると『佐藤心』と表示されていた。



私は少し迷ったが、結局電話に出ることにした。





「はい松尾です。こんな夜遅くになにがあったんですか心さん?」



『……。それマジで言ってんの?』



「はい?」





マジもなにもないと思うのだけれど、こんな日付の変わる時間に。





『まあ、いいや。今から部屋行くからちょっとまっててねぇ、千鶴ちゃん☆』



「えっ?今からですか?って切れてるし。」





相変わらず自由すぎる人…。

30分後部屋のドアがノックされる音が聞こえた。





「ケーキもってきたよ〜。」





私がドアを開けるとケーキの箱をかかげつつ心さんが部屋に入ってきた。





「ホントに来た…。」



「ホントに来たぞぉ☆ってどうした目真っ赤だぞぉ、おい。」



「はっ!なんでもありませんから。」





無意識に泣いていたんだ、私は。





「ホントに、ホントぉ?うそついちゃやだぞぉ☆」



「ホントです!ただちょっと悪夢を見ただけで…。はっ!」



「うそつけないよねえ、千鶴ちゃんてっさ。」





なぜか心さんは嬉しそうな顔をしていた。

「それでそれで、どした?このしゅがぁはぁとに話してみ?」



「どしたも何もありませんよ。」



「ふーん。誕生日を忘れちゃうくらいなのに。」



「えっ?嘘?」



「マジで気づいてなかったかあ。誕生日を忘れるにはちょっと若すぎだぞ☆」



「ホ、ホントだ…。」



慌ててカレンダーを確認すると明日は、いやもう今日だけど、私の誕生日だった。





「おい、どうしたんだよ千鶴ちゃん。」



「どうもなにもありませんよ。」



「強情だなあ、おい☆。そんなにはぁとが信用ならんか。」



「そうじゃなくて、くだらないことだから。」



「じゃあなんでそんなに悩んでいるのかなぁ?」



「悩んでませんよ!みんなにおいてかれそうだなんて。はっ!」





またしても墓穴を掘った私に、心さんは千鶴ちゃんはやっぱり可愛いよねぇ、と言った。

「ふーん。つまり最近仕事が少なくて不安なのか。」



「またあけすけに…。それもありますけど、それだけではなくて…。」



「それだけじゃなくて?」



「私やっぱりアイドルに向いてないんじゃないかなって。」



「なんじゃいそりゃ☆」



「一人になると後ろ向きな思いでいっぱいになるんです。」



私は可愛くなんてない。



努力なんて報われない。



なんでみんなはそんなにきらきらしてるの。



こんなネガティブな思いは断ち切ったと思ってたのに。



「なぁるほどね。」



「ね?くだらないでしょ?」





心さんはふと唇を結びまじめな顔になった。



そしてこう言った。





「今から年上としてアドバイスしてあげよう。」



「いつも年齢のこと言うと怒るくせに。」



「おい。黙れや☆」



「はい、すいません…。」





さすがに今のは私が悪い。

「まず最初に言っとくとそんな悩みはみんな抱えてんだよ。」



「だから最初にいったじゃない、くだらないって。」



「おい結論を急ぐな☆」





心さんは話を続けた。





「悩まない人間なんて人間じゃなくて化け物でしょ?」



「それはいくらなんでも言い過ぎですよ。」



「そうかなぁ?じゃあ天使ってことで似たようなもんだし。」





まあいま大事なのはそこじゃねえと続けて言った。





「つまりみんな悩んでいるってことだ☆そういうときはこれだ。」





そこで持ってきたケーキの箱を開けた。



中に入ってたのはオーソドックスな生クリームといちごのケーキ。





「甘いものでも食べりゃいいってこと☆」



「それ、なにも解決してませんよね。」



「別にいいんだよそれで。世の中解決できない悩みばっかりなんだから。」





大人なら酒があるけどなあと心さんはつけたした。





「それにみんな千鶴ちゃんのこと大好きみたいだしねぇ☆」





心さんは携帯を指さした。



私は携帯を確認した。



たくさんのメールが届いていた。



きらりさん、菜々ちゃん、ほたるちゃん、晶葉ちゃん。



たくさんのお誕生日おめでとうのメールだった。



「私も言わないとなあ。」

「お誕生日おめでとう千鶴ちゃん。」

【おまけ】



「ところでこのケーキ心さんの手作りですか?」



「そうだよん☆よくできてるでしょ?」



「上にのっているこの人形も?」



「そうそう。千鶴ちゃんによく似てるでしょ?」



「私こんな怖い顔してませんよ!」



「そうかあ?いつも眉間にしわ寄せてんじゃん。」



「寄せてません!」





ほんとこの人は…。



22:30│松尾千鶴 
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