2016年06月07日

モバP「本とキノコの共通項」

文香「……ん? この本」



ペラペラ



文香「へぇ……」





ペラペラ



文香「……うん」



文香「あの、叔父さん。この本を買いたいんですけど……」



―――――――――

――――――

―――



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―――

――――――

―――――――――



文香「あの…… プロデューサーさん、輝子さんを捜しているのですが…… 何処に居るかご存知ですか?」



モバP「んー? 輝子なら机の下にいるはずだけど……」



モバP「呼ぼうか?」



文香「あ…… お願いします」



モバP「あいよ」



コンコン



モバP「輝子、お客さんだぞー」



輝子「んー?」



ゴソゴソ



輝子「お客さん?」



モバP「そう、輝子に」



輝子「……って、文香さん?」



文香「はい…… その…… いきなりお呼び立てしてすみません」ペコリ



輝子「フヒッ!? いや、全然大丈夫ですから!」ペコペコ



文香「いえ…… お忙しいところ…… すみません…… すみません…… 」ペコペコペコ



輝子「いえっ、本当に大丈夫ですから!」ペコペコペコペコ



文香「いえ…… 本来なら先にご連絡を――」

モバP「――えーと、まぁ、なんだ。話が進まないから挨拶はそのくらいにしておかないか?」



文香「え……?」

輝子「フヒ……?」



モバP「文香は何かしら用があったんだろ? 輝子に対して」



文香「……あ、そうでした」



文香「実は…… この本を輝子さんにお渡ししたくて……」



輝子「え?」



輝子「……」



輝子「……ッ!?」



輝子「ま、まさか……!」



輝子「これは……!!」



輝子「日本菌類色彩図譜!?」



輝子「……しかも、正本!? 写本じゃなく!?」



輝子「……フヒッ!」



文香「……えっと、喜んでいt」



輝子「……ヒィヤッハーーー!!」



文香「!?」ビクゥッ



輝子「逢いたかったぜっ! マイセイクリッドブッッック!!」



輝子「Oh Yeah!!!」



文香「……え?」ドキドキ



文香「あ、あのプロデューサーさん……?」ドキドキ



モバP「あー…… 文香は知らないかもしれないけど、輝子って感極まるとデスでメタルな感じになるんだ」



文香「そ、そうなんですか……?」



モバP「ああ。まぁ、心底喜んでるって事だし、直ぐ元に戻るから」



輝子「……あっ」

輝子「フヒ…… お、お恥ずかしいところを……」



モバP「ほら」



文香「は… はあ……」



輝子「あ、あの、それで、な、なんで文香さんがこれを……?」



文香「あ、はい…… これは私がお世話になってる書店で…… たまたま見付けた本で……」



輝子「うっ、売ってたのか!? これが!?」



文香「え? はい……」



輝子「す、凄い本屋だな……」



モバP「ん?」



モバP「そんな珍しい本なのか? それ」



輝子「そ、それはもう……」



輝子「しゃ、写本ですら大きな図書館とか、博物館でないと、お目に掛かれないくらいの、稀少本」



輝子「私も、せ、正本を見たのは、初めて、だったり」



モバP「へぇ、そりゃ凄い本だな」

文香「そういう本だったのですね……」



モバP「……ん? 文香、知らずに買ってきたのか?」



文香「え? はい……」



文香「その…… 輝子さんて、キノコがお好きだとは聞いてたので……」



文香「ならこの本も…… 喜んで頂けるのでは…… と、思いまして……」



輝子「……そ、それでわざわざ買ってきてくれたと?」



文香「はい……」

文香「余計な事かも知れませんが…… もしかしたら喜んでくださるかと思いまして」



輝子「よっ、余計な事なんてとんでもないですっ」



輝子「寧ろ、文香さんにそこまでしてもらえて…… す、凄く嬉しくて…… フヒ」



輝子「Yee haaa!!!」



文香「!」ビクゥッ



輝子「じゃ、じゃなくて、感激してるくらいです。フヒ」



文香「そ、それは良かったです……」ドキドキ



輝子「……あっ、お金」



文香「お金…… ですか?」



輝子「う、うん。お金払います」



文香「……えーと?」



輝子「ほ、本の代金、です。フヒ」



文香「……あっ」



文香「それはプレゼントなので、お代はいただかなくても……」



輝子「そ、そういうわけにも、い、いかないです」



文香「いえ…… お気になさらずに。私がしたくてやった事なので……」



輝子「で、でも、高かったんじゃないですか?」



文香「……え?」

輝子「こういう稀少本は、ぷ、プレミア価格が付いてる物だから」



輝子「プレゼントとして貰うには、流石に高価過ぎる気が」



文香「……あっ、そういう事なら大丈夫です……」



文香「特段高い物では無かったので……」



輝子「……フヒ?」



文香「そこのお店は…… 商売気質があまり無いらしくて、割増金とかもしないんです……」



輝子「き、奇特なお店だな」



文香「ふふ…… そうですね」



文香「ですから…… お気になさらず、受け取ってください」



輝子「え? えーと……」



輝子「うーん……」



モバP「……まぁ、ありがたく頂戴しておけばどうだ?」



輝子「し、親友……」

文香「プロデューサーさん……」



モバP「申し訳ないと思うなら、今度は輝子が文香にプレゼントを送れば良いさ」



モバP「文香、再来週誕生日だろ?」



文香「あ… はい……」



モバP「じゃあ、丁度良いし」



モバP「輝子はどうだ?」



輝子「……うん」

輝子「あ、あの、その、す、素敵なプレゼントありがとうございました」



文香「はい」



輝子「た、誕生日、プレゼント、一生懸命選ぶので、フヒ、た、楽しみに、していてください……!」



文香「はい、楽しみにしてますね」



輝子「エヘ、エヘヘ……」

文香「ふふふ……」



輝子(ま、また一人、私とプレゼント交換してくれる人が……! これはもう……)

文香(可愛い… すごく可愛らしいですね……)



輝子「アイメイドニューフレンドッ! Oh Yeah!!」



文香「!?」ビクゥッ



輝子「……あ、ご、ごめんなさい。突然大声なんて」



文香「い、いえ、だ、大丈夫ですので……」ドキドキ



輝子「……そ、そうだ」



輝子「あの、じ、時間、空いてたりしますか?」



文香「……え?」



文香「はい、今日はオフなので……」



輝子「そ、それなら、お、お茶飲みませんか?」



輝子「その…… フヒ… ご、ご馳走、したい……ので」



文香「……」

輝子「……?」



輝子「あの…… ダメ?」



文香「……!」



文香「だっ、駄目じゃないですっ!」



文香「その、私をお茶に誘う人なんている筈がないと思ってたので」



文香「つい… 驚いてしまって……」



輝子「じゃ、じゃあ」



文香「はい、是非お付き合いさせてください」



輝子「……オウフ。な、なんか、そう言われると、か、勘違いしちゃいそう///」



文香「……あの?」



輝子「フヒッ!? いえ、なんでもないです!」



輝子「そ、それじゃあ行きましょうか」



文香「はい」



輝子「ではコチラに」



ゴソゴソ



文香「……って?」



文香「つ、机の下…… ですか?」



輝子「あ、はい」



文香「あの…… 流石に机の下に二人は入り切らない気が……」



輝子「フフ、だ、大丈夫です。意外と快適空間、ですので」



輝子「安心して入って来てください」



輝子「では……」

文香「あっ、入っちゃった……」



文香「……」



文香「あの、プロデューサーさん」



モバP「……まあ、入ってみれば分かるさ」



モバP「多分、ビックリすると思うけど」



文香「……?」



輝子「あのー、文香さん?」



文香「あっ、はい、今行きます」



文香「……えっと、お邪魔します?」



ゴソゴソ



文香「……え?」



文香「ひ… 広い……?」



文香「つ、机の下なのに…… どうして……?」



輝子「フヒヒ、じ、実は、晶葉さんが空間を拡げてくれて」



輝子「さ、最近、ここの人口密度が増えてきたから」



文香「机の下がですか……?」



輝子「うん、まゆさんやボノノさん、あと、た、たまに杏さんやのあさんも来たりと」



文香「……へぇ」



文香「結構な人気物件だったんですね」



輝子「うん」

文香「それにしても……」



文香「凄いですね…… 晶葉さん……」



輝子「うん、晶葉さんマジぱない」



輝子「……」

文香「……」



輝子(……ドラえもん?)

文香(……ドラえもん?)



輝子「……あ、スリッパどぞー」



文香「あっ… ありがとうございます」



文香「というか…… 日本家屋式なんですね」



輝子「フヒヒ、やっぱり、靴を履いたままじゃ、り、リラックスできないですし」



輝子「そ、それに、靴を脱ぐと、帰って来たって気がしませんか?」



文香「ふふ…… そうですね…… なんとなく、分かります、その気持ち」



輝子「フヒ、ご理解頂け、きょ、恐縮です」



輝子「……あっ、た、立ち話もなんですので、上がってください」



文香「はい、それでは…… 今度こそ、お邪魔しますね……」



―――――――――

――――――

―――

―――

――――――

―――――――――



文香「美味しい」



輝子「ほ、本当?」



文香「はい、凄く美味しいです」



文香「花の様な香り…… 深くて穏やかなコク…… 優しく、爽やかに消えて行く渋味」



文香「そして喉を通ったあと、ふわっと甦る香り」



文香「紅茶に拘りが在るわけでもない私が言うのも分不相応かもしれませんが……」



文香「それでも…… 本当に美味しい紅茶だと思います」



文香「それに、このきのこの形をしたケーキも可愛らしくて、味も凄く美味しいですし……」



文香「お茶もお菓子も本当に美味しくて……」



文香「ま、マジっすか……?」



文香「ふふっ、マジ…… ですよ」ニコ



輝子「……!」



輝子「……」



輝子「Woo-hoo!!!」



文香「!?」ビクゥッッ



輝子「あ…… これまた失礼を…… フヒ」



文香「い、いえ、お気になさらず……」ドキドキ

文香「……そ、それにしても」



文香「輝子さんて…… お茶を淹れるのがお上手なんですね」



輝子「フヒ、じ、実は、まゆさんに教えてもらったんです。お茶の淹れ方は」



文香「まゆさんにですか……?」



輝子「そ、それに、そのケーキもまゆさんからもらったんです」



文香「へえ、そうだったのですか?」



輝子「しかも、まゆさんの手作りなんですよ」



文香「……え?」



文香「こ、これ、手作りなんですか?」



輝子「は、はい」



文香「……す、凄いですね」



文香「料理が得意とは聞いていましたが……」



文香「こういう意匠を凝らしたケーキまで作れるとは……」



文香「……」



文香「なんと言うか、凄い人ですね…… まゆさんて……」



輝子「うん…… まゆさん、マジぱない」



文香「……」

輝子「……」



文香(……私より三つも年下なのに)

輝子(……私と一つしか違わないのに)



文香「……うん」

輝子「……うん」



文香(頑張らないと……!)

輝子(頑張ろう……!)

文香「……あっ、では、もしかして、そのメイド服もまゆさんに?」



輝子「……えっ?」



輝子「あ、この服はのあさんに」



文香「のあさんに……?」



輝子「この前、紅茶を淹れるのなら、この服を着るといいわ」



輝子「ってプレゼントしてくれたんです」



文香「……ああ」



文香「そういえば…… メイド服姿のあさん、私も見たことがあります」



文香「……なるほど。お揃いと言うわけですね」



文香「……その、良く似合っていると思いますよ」



文香「とても……可愛らしいです」



輝子「……フヒッ」



輝子「ど、どうも、ありがとうございます」



文香「……でも、何故その服を?」



輝子「え?」



輝子「あ、こ、これは、ちょっとしたサプライズというか…… ま、前フリとか、話のタネに?」



文香「……」



文香「……前フリ」

文香「そうだったんですか……」



文香「では…… もしかして、何かしらの反応をした方が良かったのでしょうか……?」



輝子「え……? あ、はい、で、出来ればその方が……」



文香「……やはり」



文香「すみません……」



文香「私、リアクションとか突っ込みというものがどうにも出来なくて……」



輝子「えっ!? いや、こちらこそ、その、変な前フリしてごめんなさい」



文香「……私、いつもそうなんです」



文香「ラジオやテレビの仕事でも…… 周りの方に迷惑掛けてばかりで……」



文香「こんなことでは…… 駄目だとは分かっているんですけど……」



輝子「フヒ!? いや、私もトークとか全然ですしっ」



文香「でも……! せっかく輝子さんが気を遣ってくださったのに……」



文香「……本当にすみません」



輝子「え、いや、わ、私も変なフリしてごめんなさい」



文香「でも……」



輝子「いや、本当に」



文香「……」



輝子「……」



文香「あっ、あの!」



文香「……その」



文香「……めっ、メイド喫茶か!」



輝子「!?」



文香「の、のあさんか!!」



文香「……」



文香「……ご、ごめんなさい」



文香「こんな事しか…… 思い浮かばなくて……」



輝子「い、いえ、ふ、文香さんの思いは伝わって来たので」



輝子「そ、それに、か、可愛かったですから、凄く」



輝子「……フヒッ」



文香「……え?」



輝子「あっ、いえ、な、なんでもないです。ハイ」

輝子「そ、それよりっ、こ、紅茶のお代わりはどうでしょうか?」



文香「そうですね…… すみませんが…… お願いできますか?」



輝子「はいっ、直ぐに用意します」



文香「あの…… ところで…… あそこにある丸太について訊いても……?」



文香「先程から…… 気になってしまって……」



輝子「え? あ、あ、あれ?」



輝子「あれは、げ、原木栽培用の丸太、です」



文香「原木栽培……?」



輝子「ま、丸太にキノコの菌を植えて、生育させる栽培法なんですけど」



文香「……あっ」



文香「そう言われてみると…… 何かで見た事が有る気がします」



文香「確か…… 椎茸が実っていたような……」



輝子「あ、そ、それです」



輝子「この原木にも椎茸が植えてあるんですよ」



文香「へえ……」



文香「あの…… 近くに寄って見てみても……?」



輝子「ど、どうぞどうぞ」

文香「では…… 失礼して……」



文香「……」



文香「……あっ、確かに、椎茸が生えてますね」



輝子「うん、ま、まだ生えてきたばかりで、小さいけど」



文香「そうですね…… でも…… 小さくて可愛らしいと思いますよ……」



輝子「……フヒッ」



輝子「そ、そうですか……!」



輝子「そう言ってもらえると、う、嬉しいですっ、フヒッ……」



文香「……」ジ〜



文香(こっちも可愛いなぁ……)



輝子「……あの?」



文香「……えっ?」



輝子「?」



文香「いや…… あの…… その……」



文香「あっ、こっちの丸太にも茸がありますねっ!」

輝子「あ、そ、そっちは舞茸、です」



文香「舞茸……」



輝子「舞茸って結構由緒があってですね、こ、今昔物語集にも出てきたりするんですよ」



文香「えっ? 今昔物語って…… 平安時代に書かれたあの今昔物語ですか?」



輝子「はい。マイタケ以外にもキノコって、ふ、古い書物に記載されていてですね――」



―――――――――

――――――

―――





―――

――――――

―――――――――



輝子「――このように、キノコはその薬効や毒性を説明するため、古くから書物に書き残されてきたわけです」



文香「……凄い」パチパチパチ



文香「凄く…… 興味深いお話でした」



文香「古代ローマや古代中国時代に研究され、それが書物にまで記されている」



文香「何と言うのでしょうか…… 凄く想像力や探究心を掻き立てられて」



文香「本当に…… 良いお話をありがとうございました」ペコ



輝子「い、いえ、こちらこそどうもです」

輝子「……ハッ!?」



文香「……?」



輝子「あ、あの、その、ごめんなさい」



文香「えっ?」



輝子「い、いきなりこんなこと喋り出して…… そ、それもすごい長い時間……」



文香「えーと……?」



輝子「わ、私、キノコの事になると、み、見境なく喋ってしまって」



輝子「相手の事とか、全然考えず……」



輝子「いつもは、お、お喋りとか全然ダメな癖に……」



文香「……ああ、なるほど。そういう事でしたか」



文香「……」



文香「……輝子さんの気持ち、私にも分かります」



輝子「え……?」



文香「私も…… 本の事となると…… 分別を忘れて喋喋しくなる事が多々あるので……」



輝子「そ、そうなのか?」



文香「……はい」

文香「人との会話が苦手で、普段は口を噤んでばかりいる人間なのに」



文香「本の話題となると…… つい……」



輝子「う、うん。それで、話を終えて…… ふと我に返って周りを見ると……」



輝子「なんとも言えない、気まずい空気が満ちていて……」



文香「はい…… そこで漸く気付くんですよね……」



輝子「……うん」



文香「……また、やってしまったと」

輝子「……また、やっちゃったって」



文香「……はぅぅ」

輝子「……あぅぅ」



文香「……」

輝子「……」



文香「……ふふっ」

輝子「……フヒッ」



文香「もしかしたら…… 私と輝子さんて……」



輝子「うん、わ、私も同じこと考えたと思います」



文香「なんと言うか……「

輝子「なんと言うか……」



(似てる……?)

(似てる……?)



文香「……ふふっ」

輝子「……フヒヒッ」



文香「ふふっ―――」

輝子「フヒヒッ―――」



―――――――――

――――――

―――

―――

――――――

―――――――――



文香「……ここは、不思議なところですね……」



輝子「……?」



文香「静かで整然としてるのに…… 温かくて…… 心が安らぐというのか」



文香「居心地が良くて……」



文香「悪いとは思ってるのですが…… ついつい…… 長居をしたくなってしまって……」



輝子「い、いえ、悪いなんて、と、とんでもないです」



輝子「と、というか、私も文香ともっとお話をしたいと思ってたので」



輝子「そ、それに、そう言ってもらえると嬉しいです」



輝子「わ、私もここが…… す、好きだから……」



文香「……好き」



輝子「あ、その、つ、机の下が好きって変かもしれませんけど…… フヒ」



文香「いえ…… 輝子さんの気持ち……私にも分かります」



文香「ここは不思議で…… 素敵なところですから……」



輝子「……えへへ」

文香「……また、ここに来ても良いですか?」



輝子「……え?」



文香「今日のお礼に、今度は私がお茶をお淹れしたいと…… そう思いまして……」



文香「輝子さん程上手には淹れられませんが……」



文香「お願いできないでしょうか……?」



輝子「え、あ、も、勿論ですっ、私も文香さんの淹れた、お、お茶を飲んでみたいですし」



輝子「また、こ、こうやって…… お茶を飲みながらお話をしたいと思ってましたから」



文香「……ふふ、では、決まりですね」



輝子「う、うん……!」



輝子「あ、そ、そうだじゃあ、夕食も――」

鳩時計<ポッポーポッポー



文香「もう…… 5時ですか……」



文香「……そろそろ、おいとまさせて頂きましょうか」



輝子「え? もしかして、何か予定でも?」



文香「いえ……」



輝子「な、ならもう少し… というか夕食も食べていったらどうですか?」



文香「……それは、凄く嬉しいお誘いですが」



文香「やはり…… 私はもう退室するべきでしょう……」



輝子「……?」



文香「近く、皆さん帰ってくるでしょうから……」



文香「その時…… 私がここに居たら……」



文香「きっと…… 皆さんの迷惑になってしまいますので……」



輝子「……え?」



輝子「めっ、迷惑なんてならないですよっ?」



文香「……いえ」



文香「私の様な陰鬱で口不調法な人間は…… 居ない方が良いでしょう……」



文香「今まで…… そうだったように……」



輝子「……あの」

「むーりぃー…… 仕事もうむーりぃー……」



「ふふ、今日のお仕事は終わりましたから、もう大丈夫ですよぉ」



輝子「ん……」



輝子「か、帰ってきたみたい」



乃々「ただいま」

まゆ「いま帰りましたぁ」



輝子「お、おかえりなさい」



まゆ「はい輝子ちゃん、ただい……」



まゆ「……あら?」

乃々「……んー?」



文香「その…… お邪魔しています……」ペコペコ



まゆ「いえいえ、これはご丁寧に」ペコ

乃々「あの… えっと… どうもなんですけど…」ペコペコペコ



まゆ「玄関に見たことのある靴があったので、もしかしてとは思ってたのですが」



輝子「うん、ほ、本をプレゼントしてもらったお礼に、お茶のお誘いをしたんです」



まゆ「プレゼントですかぁ。良かったですね、輝子ちゃん」ナデナデ



輝子「フヒヒ」



輝子「あ、それで、いきなりですけど」



輝子「文香さんが、きょ、今日からここの一員になりました」



輝子「よろしくお願いします」

文香「……」



文香「……ぇぇえええーーっ?!」



文香「輝子さん何をっ!?」



まゆ「はぁい、了解ですよぉ。 じぁあ、歓迎会の準備をしましょうか」



文香「って、ま、まゆさん!?」



乃々「ちょ… 調理は苦手なので、ケーキとかの買い出しの方を担当したいんですけど」



文香「乃々さんまで!?」



まゆ「はぁい、調理の方は任せてください」



まゆ「それじゃあ文香さん、美味しい料理を用意しますので楽しみに待ってくださいね」



文香「え? は、はい、楽しみにしてます?」



乃々「やっぱり、ショートケーキがおすすめかと… あっ… 勿論、鷺沢さんの希望次第ですけど…」



文香「は、はい、ではショートケーキでお願いします?」



まゆ「それではもう暫く、輝子ちゃんとくつろいでいてくださいな」



文香「は、はい」



まゆ「では、まゆは少しの間キッチンに行ってますので、輝子ちゃん少しの間お願いしますね」



輝子「うん」



乃々「じゃあ… 私も行ってくるんですけど」ゴソゴソ



輝子「き、気をつけて行ってらっしゃい」



文香「えっと…… 輝子さん……?」

輝子「……」



輝子「……ま、前は、きのこが在れば、それで良いと思っていたんです」



文香「……?」



輝子「こ、こんな風に、普通とはいえない人間ですから、私の周りには誰もいなくて」



輝子「独りぼっちで……」



輝子「そ、それでも、私にはきのこが有ったから……」



輝子「……いえ、私の世界には、きのこが在れば良いと、そ、そう思っていたんです」



輝子「で、でも…… ある日、親友が現れて…… い、いつの間にか、彼は私の世界に当たり前にいるようになって

か、かと思っていたら、親友と同じように、まゆさんやボノノさんが現れて、私の世界には二人が当たり前にいるようになって」



輝子「そ、それからも次々と、私の世界に、掛け替えのない存在が増えていって」



輝子「きのこしか無かった私の世界は、私の知らなかった幸せでいっぱいになっていました」





輝子「ふ、普通の人にとっては当たり前の幸せかも知れませんけど…… 私にとっては、何より大切な幸せで」



輝子「……き、きっと私じゃ手に出来ないと、心のどこかで諦めていた幸せが」



輝子「だから……! その、あの、口が下手なんで、分かりにくい――」



ギュ



輝子「――え?」

文香「いえ…… 輝子さんの言いたい事…… ちゃんと…… 伝わってますから」



輝子「そ、そう?」



文香「はい…… 本当に…… ありがとうございます」



文香「私にも…… このような事を言ってくれる人がいて…… 嬉しくて…… 幸せで……」



文香「……」



文香「……うぅっ」



輝子「なっ、涙すかっ?!」



文香「す、すいません…… ちょっと、感極まってしまったらしく……」



輝子「そ、そうですか」



輝子「……で、でも、私だけじゃないんですよ?」



輝子「こ、これから文香さんの世界にも、大切な存在が増えていって、知らない幸せを教えてくれるんです、絶対」



輝子「だから」



文香「はい…… 大丈夫です……!」



文香「……私」



文香「これからは…… 自分の殻に閉じ籠らないで……」



文香「自分から…… コミュニケーションを取るようにしますから」



文香「逃げずに…… 勇気を出して……」



輝子「う、うん」



輝子「そ、そう思ってくれたのなら、いっぱい喋って良かったです」

輝子「ま、まぁ、でも、そこまで気合いを入れなくても良いと思いますよ?」



輝子「文香さんはこの事務所に入って日が浅いから良く知らないかもしれませんけど」



輝子「ここの人は皆優しいですから」



文香「ふふ…… そうですね」



輝子「そ、それに…… ちょっと普通とは違う人も結構居るので、普通と違う事も気になりませんし」





「へぇ、中々捻りの在る台詞を言うじゃない」





輝子「……え?」



のあ「で、輝子の中で私は、普通と普通じゃない、どちらにカテゴライズされているのかしら?」



文香「のっ、のあさん!?」



幸子「まぁ、カワイイにカテゴライズされるボクにとって、普通とか普通じゃないとかは関係無いお話ですけどね」フフン



小梅「わ、私は…… 普通じゃない方…? あ、でも… 普通だったらあの子が見えないし… 普通じゃなくて良かったのかも……?」



輝子「幸子に」

文香「小梅さんも?」



輝子「ど、どうしてここに?」



のあ「どうしてって…… 文香の歓迎会を開くって、まゆからメールを貰ったから来てみたのだけど……」

のあ「というか、貴女達二人こそどうしたのかしら?」



文香「……?」

輝子「……?」



小梅「だ、抱きあってて……」



文香「……あ! 失礼しました」パッ

輝子「ご、ごめんなさい」



幸子「しかも文香さんの顔には涙の跡が見えますね!」



文香「!」



のあ「……爛れた関係に成るのは少し早すぎると思うのだけれど」



輝子「??」

小梅「??」

幸子「??」



文香「のっ、のあさんっ!」



のあ「ふふ、冗談よ」



輝子「た、爛れた関係ってなんだ?」ボソボソ

小梅「さ、さあ? でも火傷とか湿疹みたいなものだよね? 爛れって」ボソボソ

幸子「ええっ!? じゃあ怪我でもしたってことですか!?」



文香(……可愛い)

のあ(……可愛い)



幸子「大丈夫なんですか!? 二人とも!!」



文香「ふふ…… 大丈夫ですから…… 安心してください」



輝子「わ、私もなんともないぞ?」



幸子「そ、そうですか」



小梅「あれ? じゃあ爛れた関係って……?」



のあ「ああ、爛れた関係というのは」



文香「のーあーさん!」



のあ「……まあ、年を喰えば分かるようになるんじゃないかしら?」



輝子「な、なんか」

小梅「誤魔化された」

幸子「気がしますね」



のあ「コホン」

のあ「それにしても…… 少し、変わったみたいね、貴女も」



文香「……それは、分かりません」



文香「ただ、怖がらなくも良いのだと…… そう思えるようには…… 成れたとは思います」



文香「普通とはいえない私でも…… 受け入れてくれる人達がいると……」



文香「とある女の子が……」



文香「……教えてくれましたから」ニコ



のあ「!」

小梅「!」

幸子「!」

輝子「……フヒッ///」



のあ「……ふう」



のあ「どうやら、とんでもない怪物を目覚めさせたのかも…… しれないわね」



のあ「ねぇ? 輝子……」



のあ「って、何時まで顔を赤らめてるのよ」



ペシ



輝子「……ん?」



のあ「そっちも、見惚れるのも大概にしときなさい」



ペシペシ



小梅「……あれ?」

幸子「……んー?」

のあ「ふう…… こっちも漸くお目覚めというところかしら?」



のあ「全く、手が掛かって仕方無いわね…… 本当に」



輝子「とか言いながら」

小梅「満更でもない」

幸子「のあさんなのでした」



のあ「……」



ペチペチペチ



「「「あうっ」」」



のあ「ふぅ、本当に手が掛かるわね」



文香「ふふ…… ですがなんだか…… のあさん、お姉さんみたいですね……」



のあ「姉……? この三人組の?」



文香「はい」



のあ「……ふふっ、そうね」



のあ「でも…… 私の妹ならもう少し、聡慧でであって欲しいのだけど」



幸子「むっ! ボクはカワイイだけじゃなく、成績だって優秀ですよっ」



輝子「わ、私は…… 普通、くらい?」



小梅「私も、普通かな……?」



のあ「……はぁ」



のあ「学力と知性との違いが分からないようじゃあ、まだまだ子供ね」



幸子「うがっ! なんか呆れられた!?」



のあ「さてと、漫談はここまでにして」

のあ「私はまゆの手伝いに行ってくるから」



幸子「あっ、それならボクも」

小梅「私も…」



のあ「そう? なら付いてきてもらおうかしらね」



文香「……あの、私も何か手伝いたいのですけど……」



輝子「わ、私も」



のあ「私もって……」



のあ「歓迎会のゲストとホストに準備を手伝わせるのはどうかと思うのだけど」



文香「……確かに、そうかもしれません」



文香「けれども…… 皆さんが…… 私の為に…… 何かをして下さるなら……」



文香「私も…… 何かしたいんです…… 我が儘かもしれませんが…… どうしても……」



のあ「……本当に、変わったわね」



文香「……え?」



のあ「輝子は?」



輝子「わ、私もしたいです。ふ、文香さんの為に…… フヒ」



のあ「……うん、そこまで言うのなら、二人は乃々の手伝いに行ってもらえるかしら?」



のあ「非力なあの子じゃあ、ケーキと飲み物だけでも大変だろうから」



文香「はい……!」

輝子「う、うん」



のあ「それじゃあ…… 乃々のこと頼んだわ」



幸子「料理の方は任してください!」



小梅「気をつけて… いってらっしゃい」



文香「はい…… いってきますね」

輝子「う、うん、いってきます」



―――――――――

――――――

―――

―――

――――――

―――――――――



輝子「おおっ、け、結構、寒い……!」



文香「そうですね…… もう…… 10月…… ですから……」



輝子「い、インドア人間の私には、き、厳しい季節だぜ……!」



文香「ふふ…… 私も…… 同じです……」



文香「……あの」



文香「じゃあ……」



文香「手…… 繋ぎませんか……?」



文香「少しぐらいなら…… 寒さも…… 和らぐかも…… しれませんので……」



輝子「……」



輝子「……えっ!? あっ、ぜ、ぜひお願いしますっ」



文香「それでは……」



ギュ



輝子「……フヒッ」



文香「ふふっ」



文香「……」



文香「……あの」



文香「また…… お休みの日にでも…… 出掛けませんか……?」



文香「私がお世話になってる書店には…… キノコに関する本も…… まだ有ると思うので……」



文香「一緒に…… 探してみたり…… とか……」



文香「どうでしょうか……?」

輝子「……」



輝子「Yeeeehaaaaw!!」



文香「!」ビクッ



輝子「Alright! take me to heaven!!」



輝子「……あっ」



輝子「ま、また、失礼を……」



文香「い、いえ…… 喜んで頂けたみたいで良かったです……」



文香「ただ……」





「あれってもしかして」 ヒソヒソ 「似てない?」

「テレビで見たこと有るよ」 「えっ、うそ」

「人違いだろ」 ザワザワ 「あれってアイドルの」

「写メお願いしようよ」 ヒソヒソ 「有り得ないって」





文香「移動した方が…… 良さそうですね……」



輝子「そ、そうみたいですね」



文香「では……」







「「「「「あ、逃げた」」」」」





輝子「はあっ、はあっ、な、なんか、映画っ、みたいですねっ」



文香「そうですっ、ね……!」



輝子「走るのはっ、苦手なんですけどっ」



文香「でもっ、こういうものもっ」



文香「凄く……!」



輝子「は、はい!」



文香(楽しい……!)

輝子(楽しい……!)





輝子(……あれ?)



輝子(でも、何か忘れているような……?)





乃々「ふぅ、ふぅ……!」



乃々「む…… むぅーりぃー……!」



乃々「ケーキだけに景気良くでっかいホールケーキとシャンパン二瓶買ったはいいんですけど……」



乃々「も、もりくぼの筋力じゃちょっと無理が有ったかもしれません……!」



乃々「いや、ちょっとと言うか、マジ誰か……!」



乃々「へるぷみーーーー!!」





おしり



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