2016年06月21日

佐藤心「はぁとが走り出す」


佐藤心さんのssです。



地の分メイン





よろしくお願いします



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「ふぅ、ふぅ、ふぅ」



 みんみんと鳴くセミの声、

 じりじりと刺すような太陽の光、

 しげしげとそこら中に生えている草の匂い

 

 夏の匂いであふれた公園をはぁとは走っている。



 食後のアイスを食べようとしているときに事件はおこった。





「はぁとさん、海にいきませんか」

 

 事務所内限定のクールビズらしい。

 靴下を一番下まで下げ、ズボンを少しまくった格好のプロデューサーが言った。



「へ?今から?」

「そうですね…… 一週間後のオフの日とかどうですか?」

「予定は空いているけど…… まさか泳ぐの?」



 いくらプロデューサーでも26歳の女の子をいきなり泳ぎに誘ったりはしないよね☆

 そう問いかけるように見つめたはぁとの目から、プロデューサーは、さっと目線を逸らした。



「まじ?」

「できれば、まじでお願いします」

「でもいきなりどうしたの? 今までこういうお誘いなかったじゃん」

「それはその…… 最近、お互い忙しかったので、それのリフレッシュをと思いまして……」

 

 いつもよりはっきりとしない言い方、何か隠している。

 プロデューサーの意図を考えるのと、いつもと違う言い方に少し戸惑って、

 はぁとは言葉に詰まった。

 

 蒸し暑いむんむんとした空気が事務所を襲った。



「……とかいって、ほんとははぁとの水着姿見たいだけなんでしょ?

 やーん☆プロデューサーのえっち♪」

 

 暑さに文句を言いたいのに言えないこの空気を早く変えようと、

 はぁとはいつものように冗談をかけるが、いつものような気の利いた返答もなく、

 プロデューサーは目を逸らしたままだった。



「…………すいません」

 少ししてから、プロデューサーは重い口を開けた。

 暑さのせいか、顔が少し赤くなっている。



「すいませんってどういうこと?」

「その……はぁとさんの言った通りです」



 言った通り、はぁとは今までの発言を思い出す。

 

「ほんとははぁとの水着姿見たいだけなんでしょ?やーん☆プロデューサーのえっち♪」



 夏にやられそうなはぁとの身体は、さらに熱を帯びていった。





「え?まじ?」

「まじです」



 顔が赤いままのプロデューサーが頷いた。

 その姿を見ていると、はぁとの顔も赤くなっているのでは?

 と思えて、今度ははぁとが目線を逸らした。

 

 火照った身体を冷やすために、はぁとは溶けかけのアイスを一気に飲んだ。





「……わかった。じゃあ、一週間後ね。

 ……今日はお仕事全部終わったから、はぁともう帰るね☆」



 ハロゲンヒーターのようになっているプロデューサーに、行くという意思を伝えて、

 はぁとは事務所を出た。

 

 頭はきんきんとしていたが、身体はまだ熱かった。





「ふぅ、ふぅ、ふぅ」



 一定の呼吸を保ちながら、はぁとは走っている。

 

 事務所の他の子には負けるかもしれないが、はぁとだってアイドルだ。

 一般的な女の子と比べたら、体力には自信がある。





「ふぅ、ふぅ、ふぅ」



 サングラスにタイツに帽子、

 ジョギングの3種の神器を身に着けたおじさんが、はぁとの少し前を走っている。

 いつもこの公園を走っているのだろうか。

 はぁとと同じように安定したリズムで走っている。





 そういえば、今までずっと走ってきたなぁ



 走っているおじさんの背中を見ていると

 そんなことが、はぁとの頭に浮かんだ。



 はぁとは昔から手先は器用だったが、人としてはどこか不器用なところがあった。



 かわいい服を作りたい。

 そう思ったら、みんなが受験勉強をしている中、一人で服飾の勉強をしていた。



 アイドルになりたい。

 安定していた仕事をやめて、アイドルのオーディションを受けるようになった。



 やりたいことができるとそれしか見えなくなった。

 

 まさに猪突猛進だった。





 ある日、いつものように走っていたら、突然プロデューサーが現れた。

 彼ははぁとにアイドルという道を作った。



 その日から、はぁとは彼と一緒に走るようになった。

 二人で走ると、一人の時より速く走ることができたし、完走した時の感動も二倍だった。



 プロデューサーとならどこまででも走っていける。



 そう感じながら、はぁとはトップアイドルへの道を走っている。



「ふぅ、ふぅ、ふぅ」



 自販機が並んだ広場で、前を走っていたおじさんが立ち止まった。

 つられてはぁとも立ち止まる。



「あつい☆あつすぎる☆ いくらはぁとのことが好きだからって太陽さんアピールしすぎだぞ……」



 タオルで汗を拭いていると、いつもの冗談が頭をよぎったが、返事がなさそうなので言うのをやめた。

 

 今度からは、もう少し遅い時間に走ろう。

 

 ペットボトルの蓋を開け、浴びるようにスポーツ飲料を飲んでいく。



「ごく、ごく、ごく」



 水分補給をしているはぁとの前を老夫婦が通りすぎた。

 左手で白い日傘を差したおばあさんと右手に買い物袋を持つおじいさん

 

 二人とも夏の太陽のように眩しい笑顔だった。



 はぁともいつかは走れなくなる日がくるのだろうか。



 二人の背中を見ながら、はぁとは考える。





 二人全力で走った日々のことを思いだしながら、手を繋ぎ歩いていく。

 

 夏の幻か、二人の背中がはぁととプロデューサーの背中に見えた。





 そういうのも悪くない。

 ふいに現れた幻想に、はぁとは魅了されそうになった。



 でも、はぁとはまだ走れる。

 走れなくなってからのことは、またその時に考えよう。



 走ろう。

 見えた幻を現実にするために。

 二人の日々を少しでも濃く、鮮やかにするために。



 はぁとが走る準備をし始めると、休憩を終えたおじさんは走りだした。



 プロデューサーに一番スウィーティーなはぁとを見せたい。



 思えば、一人で走るのは久しぶり、

 誰かのために走るのは初めてだ。



「一週間後は、はぁとの水着姿で悩殺するからな♪プロデューサー♪」



 いつも以上に熱くなりそうな夏に期待しながら、はぁとは宣誓した。



 じわじわと身体が熱くなっていく。

 胸がどきどきと高鳴る。



 はぁとが走り出す。





20:30│佐藤心 
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