2016年06月29日

木村夏樹「アタシの好きなプロデューサー」

「タバコを吸いながら、いつでもつまらなそうに、タバコを吸いながらいつでも部屋に一人」







P「んー、進まん」タバコプカー





夏樹「おはよー」



P「おー夏樹か」



夏樹「どうしたんだシケた顔して」



P「いや別に、仕事が進まんだけ」



夏樹「なんだそりゃ、しっかりしてくれよプロデューサーさん」



P「おじさん、がんばりまーす」



夏樹「卯月かよ……」







「アタシの好きなプロデューサー、アタシの好きなおじさん」



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「タバコとインクのにおいのあの部屋にいつも一人、タバコを吸いながらパソコンに向かってた」







P「だー、やっぱ無理だ〜」



夏樹「おいおい、さっきから五分とたってないぜ……」



P「どうにもならない時もあるんだよ、おじさんには」



夏樹「あっそ、……そういやプロデューサーはなんでアシスタントつけないんだ?」



P「……何でだろうな」



夏樹「あのなぁ……」







「アタシの好きなプロデューサー、アタシの好きなおじさん」



「タバコを吸いながら困ったような顔して遅刻の多いアタシを口数も少なく叱るのさ」









P「おい夏樹、また学校遅刻しただろ」



夏樹「う……ごめん」



P「まぁアイドルはお前がやりたいようにやりゃいいけどよ、学校は行っとけ、俺が叱られる」



夏樹「……ごめんなさい」



P「てことで今日はボーカルレッスンだ、トレーナーの嬢ちゃんが待ってるから行ってこい」



夏樹「了解、行ってきまーす」



P「俺はこれから会議だわ、遅刻すんなよー」







「アタシの好きなプロデューサー、アタシの好きなおじさん」



「タバコとインクのにおいの、アタシの好きなおじさん」



「タバコを吸いながらあの部屋にいつも一人、アタシと同じなんだ、会議室が嫌いなのさ」







夏樹「ただいまー」



P「おう、お疲れさん」



夏樹「あれ会議は?」



P「……」



夏樹「プロデューサー……」



P「抜け出してきた」



夏樹「まったく、そんなことだろうと思ったよ」



P「けどよぉ、無意味にだらだら続けてるんだぜ、誰もやりたくねえことを誰かがやりたいっていうまで」



夏樹「結局それでいつも押し付けられてるじゃん」



P「いやまぁ、そうだけど」



夏樹「まったく遅刻の多いアタシのこと言えねえな」



P「はは、違ぇねえ」







「アタシの好きなプロデューサー、アタシの好きなおじさん」

「タバコを吸いながら劣等生のこのアタシに素敵な話をしてくれた、ちっともプロデューサーらしくない」







Live後



夏樹「これで、アタシも引退か……」



P「お疲れさま、最後までよくやったよ」



夏樹「……うん」



P「……」



夏樹「……」



P「俺がまだこの業界に入りたてのころの話だ」



夏樹「うん」



P「別の仕事から転職してきて右も左もわからねえ頃に一人のアイドルを任された」



P「そいつは一般的なアイドルって言うには無理がある感じでな、正直不安いっぱいだった」



P「髪をリーゼントにしてパンクな恰好、ギターを背負って事務室に入ってきたときはバックバンドのメンバーかと思ったくらいだ」



夏樹「それって」



P「まぁ最後まで聞け。俺の力不足もあって最初こそその見た目で営業先からも敬遠されて、時々ある仕事だって何人も入らねえ様なちっぽけなライブハウスでしょぼいライブのオープニングアクトくらいだ」



P「俺は正直『こいつは折れちまうんじゃねえかな』とも思った」



P「けどな、そいつはどんなに仕事がなくたって、どんなにしょぼい仕事だってトップアイドルになるってことに命賭けてるってくらいに真剣に打ち込んで、どんなキツイレッスンだってへばらずにやってきた」



P「そんなそいつを見てたら俺も頑張らなきゃなと思ってな、そこから俺は前の仕事でもやらなかったくらい働いた……と思う」



P「まぁそのせいか学校に遅刻することは多かったみたいだけど、俺にとっちゃそんなもん朝早すぎる学校が悪いとすら思った」



夏樹「はは」



P「だからな、あー!もう何が言いたいかわかんなくなっちまた」



夏樹「ははは!プロデューサーらしいよ!」



P「まぁ結局『木村夏樹は俺にとって最高のアイドルで最高の女』だってことだ」



夏樹「プロデューサー……」



P「いままでよくやったよ、ゆっくり休め、そんで休んだら次の夢に向かって突き進め、それが『俺と共に歩んだ木村夏樹』だ」



夏樹「うん、ありがとう」



P「お疲れさん、よく頑張った」

夏樹「ありがとう……なぁアタシの話も聞いてくれるか?」



P「おう、なんでも話してみろ」



夏樹「地元の奴らとバンド組んで上京してきたはいいもののオーディションでは箸にも棒にも掛からず、アタシは『自分のロックを大勢の人に届けたい』って夢を諦めようとしてた」



夏樹「そんなとき、変なおっさんに声を掛けられて『アイドルにならないか』って言われた」



夏樹「最初はアイドルなんてって思ってたけど、このままじゃ夢がかなわないって思ってバンドのメンバーの後押しもあって結局アイドルになることを決意したんだ」



夏樹「で、社長から『今日から君のプロデューサーだ』って紹介されたのはタバコとインクのにおいがする部屋でつまらなそうにしてるおっさんだった」



夏樹「最初はこんなやる気の無さそうな人間にプロデュースされるかと思うと不安で仕方なかった」



夏樹「だからこそ、アタシがどんなレッスンもどんな仕事も真剣にやってやろうって思ったんだ、そしたら結果もプロデューサーもついてくるって思ったから」



夏樹「けどな、それは違ったんだ、最初からプロデューサーはついてきてなかった」



P「……」



夏樹「アタシに仕事を回すために人がやりたがらない仕事やって、アタシがもっと歌が、ダンスが上手くなるようにマスタートレーナーさんに頭下げて無理にレッスン入れてもらって」



夏樹「最初からプロデューサーはアタシよりも一周先にいたんだ」



夏樹「だからアタシは今日、最高の形で引退できた、満員のスタジアムを埋めることができた、最高の仲間と最高のロックができた」



夏樹「それが全部プロデューサーのおかげだって気づいたときにアタシは気づいたんだ」



夏樹「アタシはプロデューサーが―――」



「アタシの好きなプロデューサー、アタシの好きなおじさん」



「タバコとインクのにおいのアタシの好きなプロデューサー」



おしまい



23:30│木村夏樹 
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