2016年07月13日

的場梨沙「おくりもの」

モバマスss

地の文有り

書き溜め有り



生温かい目で見てやってください





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 最近はどうも忙しくて、睡眠時間が不足しているからか、日中から瞼が重くて仕方がない。



 それは裏を返せば、うちのアイドル達の人気があることに他ならないので、いいことなんだけど。

 飛鳥「梨沙のプロデューサーさん、いま、少しいいかい?」



 あくびを噛み殺しながらデスクワークをこなしていると、珍しくも彼女の方から話しかけてきた。



 P「飛鳥か。おう、どうした」



 彼女、二宮飛鳥は俺が直接担当しているアイドルではないから、普段から顔を突き合わせているわけではない。



 こうして話すようになったのは、俺の担当しているアイドルが彼女とユニットで一緒になってからだ。



 ユニット企画が一時的に落ち着いてからも梨沙とは仲良くしているらしく、よく一緒に行動しているのを見かける。





 飛鳥「ああ、その、一言でいえば相談があるんだけど」



 ばつが悪そうに、彼女は自分の首元をさする。



 彼女が身体を動かす度に、身につけた装飾品が控えめに鳴る。

 梨沙は見た目の割に人見知りをする方で、誰とでも砕けた話ができる娘じゃない。



 そんな中で飛鳥という娘とは、気が合ったのだろう、顔を合わせてからすぐに自然体でいられるようになったと思う。



 ユニットを組ませてみると、これがまた個性と個性の喧嘩のような、忙しいライブが出来上がる。



 登場からアンコールまで、ちぐはぐに見えて息の合ったコンビネーションは休まるところを知らず、想定していたよりもファンには受けた。





 妙に悟ったようなことばかり話す彼女に、最初は戸惑いこそしたけど、すぐに慣れた。



 梨沙という娘とうちとけるまでに、俺も少なからず苦労をしたからかもしれない。



 言動の割に、意外にまっとうな一面もあるし。

 P「プレゼント?」



 耳に慣れなさ過ぎて、聞き返してしまう。



 飛鳥「男性が異性から貰って嬉しいものって、例えばなにがあるだろう?」



 彼女は少し早口に尋ねてきた。



 P「そんなこと聞いてどうすんだ。誰かに贈るのか」



 飛鳥「言わせてもらえば、誰かしらに贈るからこうして尋ねてるんだけどね。ただ、贈るのはボクじゃない」



 P「ふうん。で、プレゼントねえ」



 飛鳥「手近な男性ということで、プロデューサーが思い浮かんだんだ、見解を伺いたいね」



 俺は少しの間、眠気ではっきりしない頭を働かせて考える。

 P「なんでもいいんじゃないか」



 彼女が怪訝そうな表情を浮かべた。



 飛鳥「なんでも?」



 P「プレゼントを贈る、もしくは贈ろうと思えるような間柄なら、重要なのは中身よりもその行為だ」



 飛鳥「そうなのかい?」



 P「プレゼントを贈ること自体に、十分意義はあると思うんだけどな」



 P「まあ、それでも中身にこだわりたいって言うんなら、贈る相手の趣味とかから考えてみると、案外見つかりやすいと思う」



 我ながら当たり障りのないことを言うものだと思ったが、えてしてプレゼントとはそういうものだろう。



 飛鳥「なるほど」



 対する彼女もいまの説明で納得したのか、何度か頷きながら考え込んでいる。

 P「で、誰に贈るつもりなんだ? 家族か? 友達か?」



 何の気なしに尋ねると、彼女に浅くため息を吐かれた。



 飛鳥「だから、贈るのはボクじゃないって言ってるのに」



 P「あれ、そうだっけか」





 彼女は気難しそうな表情で言った。



 飛鳥「梨沙が、だよ」

 飛鳥「実を言えば、梨沙から同じ相談をされてね。こと贈り物に関しては有用な知識を持ち合わせていなかったから、相談しに来たというわけさ」



 P「へえ、あいつがプレゼントを」



 当の本人はダンスレッスンの真っ最中で、いまごろスタジオでへばっているころだと思う。



 歳相応の幼さと少し背伸びした自意識が窺える彼女が、プレゼントを。



 飛鳥「……多分、梨沙の父親宛てだろうと思うけど」



 俺の心を読んだのか、彼女が付け加えた。





 P「それ以外には思いつかないな。しかし父の日も過ぎてるのになあ」



 飛鳥「……まあ、梨沙にも事情があるんだろう」

 P「相手が親父さんだとしたら、趣味に限らなくても、仕事でよく使うものとか、日用品とかでもいいんじゃないか?」



 飛鳥「と、いうと?」



 P「ネクタイとかハンカチとか。そういうのでも喜ぶんじゃないかってこと」



 俺がそう言うと、またしても彼女は黙りこくって考え始めた。





 それよりも、さっきから眠気がひどい。



 気を抜くと座ったままでも眠ってしまいそうで、たまらず冷蔵庫で冷やしてあったエナドリを流しこむ。



 一口飲めば、胃から喉から、色々なところが熱くはなるが、たしかに目は覚める。

 飛鳥「たとえば、さ」



 エナドリの空き瓶を捨てる為にゴミ箱に向かう途中で、声がかかる。



 P「うん?」



 飛鳥「たとえばの話なんだけど」



 どうしてか、言葉の歯切れが悪いのが気になった。



 P「なんだよ」



 飛鳥「そういうプレゼントって、プロデューサーや……ボクのプロデューサーが貰っても、嬉しかったりするのかい?」



 思わず振り返ると、どこか緊張したように彼女がこちらを見ている。



 飛鳥「……あくまで好奇心から、尋ねているんだけど」





 なぜか彼女の保護者になった心地がした。



 可愛いとこあるなあ、と思ってしまった。



 P「そりゃあな。もちろん」



 飛鳥「そ、そうなのか」



 P「言ったろ。そういうのは気持ちだけでも嬉しいものだって」



 飛鳥「……仮に、ボクがそういうものを用意したら、柄じゃないって思われたりしないかな、」



 P「関係ないって。もしもあいつが飛鳥から貰ったら、嬉しくて泣くかもな」

 思わず彼女が笑みをこぼした。



 飛鳥「それは言いすぎじゃないのかい?」



 P「さあてね、どうだか」



 肩をすくめてみせる。





 P「そういえば、お前のとこのプロデューサー、新しいネクタイがほしいって言ってたっけな」



 そう言ってやると彼女が、僅かにどきっとした顔をする。



 飛鳥「……それをボクに伝えてどうしたいって?」



 P「別に? ただの独り言だけど?」



 そう、これはちょっとだけ大きな独り言。

 それから、再び自分のデスクについて、仕事を始める。





 飛鳥「……ありがとう」



 しばらくして、普段は聞かないような調子の声が届く。



 顔を上げると既に、そこに彼女はいなかった。



 どうせならあいつの色の好みも教えておくべきだっただろうか。





 流石にお節介だと思いなおした。

 携帯を取り出して、メッセージアプリを起動する。



 飛鳥のプロデューサーとのメッセージ欄に、「貸し一つな」とだけ入力して、





 送信する一歩手前で踏み止まった。



 どうせするなら、完璧に内緒にした方がいい。



 あいつは強面のくせに、そういうサプライズに弱いんだ。







 さて、エナドリも飲んだところで、俺もスパートをかけなきゃならない。



 わがままで可愛い、お姫様の為に。

 「贈ることに意味があるから、プレゼントはなんでもいいって、彼はそう言っていたよ」



 「うーん……なんでもいいっていうのはアイツの言いそうなことだけど、結局ヒントはなにもないのよね」



 「趣味に限らなくても、仕事でよく利用するものや、日用的に使うものでもいいって」



 「そう言われても、ねえ」



 「あまり時間に余裕はないのなら、モールを回りながら決めるのはどうだろう?」



 「それ、いいわね! ねえ飛鳥、一緒に回って考えてくれない?」



 「構わないけど、ボクも少し覗いてみたいものがあるから、つきあってくれるかい?」



 「いいけど、なにを?」





 「ああ……ネクタイを、少しね」

 二人のユニットの次のライブを企画して、会場の規模をおさえて、動員数や具体的なライブの流れを練って……



 相変わらず忙しい日々は続いていた。死ぬほど充実はしている。





 今日は営業先に挨拶に向かって、その帰りに梨沙のモデル撮影を見学した。



 特に手間取ることもなく、むしろ少し早いぐらいに撮影は終了し、俺は梨沙を助手席に乗せてスタジオを後にする。



 P「な、本当にいいのか」



 梨沙「なにが?」



 どうしてだか近頃の彼女は、俺に接する態度がぎこちなくなったように思う。



 そっけないというか、俺に対する当たりが弱まったというか。

 P「ここからだとお前の家の方が近いんだぞ? 直帰してもいいのに、なんでまた事務所に戻るなんて言うんだ?」



 梨沙「忘れ物をしてるのよ」



 すげない返事。



 P「ああ、そういうことね」



 いつもよりも二割増しでしおらしい彼女を横目に、俺は車を事務所に走らせる。

 事務所に着くと、彼女は更衣ロッカーに向かった。



 今日は、彼女が忘れ物とやらを回収したあとに家まで送ってやって、俺も直帰だ。



 ようやく一息つけるぐらいには仕事も落ち着いてきたし、少なくとも今日はゆっくり眠れる。



 部屋の前で、壁にもたれかかって、深く息を吐く。



 がちゃ、という音が聞こえて、部屋の扉が開く。



 開いた扉から、大きな袋を抱きかかえた彼女が現れた。



 P「忘れ物って、それか?」



 目を丸くしながら尋ねると、彼女はこくんと頷く。



 梨沙「はい、これ」



 そしてそれを差し出される。



 P「俺に?」



 梨沙「プロデューサーの忘れ物だから」



 訳のわからないまま受け取ってみると、見た目の割には軽い。



 袋は、よく見ると丁寧にラッピングがされていた。

 梨沙「今日、誕生日でしょ」



 梨沙「おめでとう、プロデューサー」



 梨沙「それ、あたしからのプレゼントだから」



 頬を赤くした彼女が、もじもじしながらそう言った。

 P「そっか、今日だったっけか、誕生日」



 なによりもまず、そこの驚いた。



 梨沙「自分の誕生日ぐらい忘れないでよね!」



 P「開けてみてもいいか?」



 梨沙「好きにすれば?」



 嬉しくて、ついその場で見てみたくなった。



 そうしてラッピングをはがしてみると、出てきたのは枕だった。



 大きくて、ふかふかで、夢見の良さそうな枕。





 その枕から視線を彼女に戻すと、どこか誇らしげな様子だった。

 梨沙「プロデューサー、最近目元のクマが凄いの、気付いてなかったの?」



 梨沙「いくらアタシの為だからって、身体壊すまで働いちゃ意味ないじゃない」



 梨沙「これ使って、きちんと休んでよね!」



 幼さの残る、爛漫な笑顔。



 真っ直ぐな感情が、これでもかというほどスムーズに俺の心に刺さる。

 梨沙「え、なに、プロデューサー泣いてるの?」



 P「ばか、これはあれだ、欠伸で出るやつだから」



 梨沙「欠伸なんてしてないじゃない! なんで泣いてるの!」



 P「俺ぐらいになると欠伸が出ずに涙だけ出るんだよ、これが」



 梨沙「またでたらめ言って! プロデューサーのバカ! ロリコン!」



 P「言ってろ」



 そう言って彼女の頭を撫でる。

 P「でも、ありがとな、梨沙」



 P「本当に嬉しい」



 梨沙「なら、いいんだけど」



 彼女の表情が緩まる。



 梨沙「やっぱり渡すのって、緊張した」



 そう言って笑う彼女を見て、合点がいった。

 P「最近お前の様子がおかしかったのって、これでか」



 梨沙「……そんなにわかりやすかった?」



 P「演技的な面でいくと、ドラマ出演はまだまだ先になりそうだな」



 笑いを堪えながらそう言うと、彼女の顔がみるみるうちに赤らんでいく。



 梨沙「ん〜〜!! このロリコンプロデューサー!!」





 柔らかな枕の手触りが気持ちいい。



 俺は世界一幸せ者なプロデューサーだと思った。



 いまから、帰って眠りにつくのが楽しみだ。



08:30│的場梨沙 
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