2016年08月09日

紗枝「昔々の、狐の嫁入り」

周子「紗枝はん、おつかれー」



紗枝「周子はんもおつかれさんどす。今日もトレーナーはんにぎょーさんしごかれましたなぁ」



周子「あたしたちのライブも決まったから気合入ってるよね」





紗枝「周子はんと2人のすてーじ、うちもきばっていきますさかい、よろしゅう申しあげますー」



周子「こちらこそよろしくねー。あ、よかったらこれからお茶でもどう?ちょっと歩くけど、良い感じの和風カフェ見つけてさー」



紗枝「それはええなぁ。予定もないし、お相伴にあずかりましょかぁ」



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周子「それにしてもさ、不思議だよねー」



紗枝「周子はん、不思議ってどない意味なんやろか?」



周子「あたしも紗枝ちゃんも地元が京都でしょ。それがアイドルになって、こうして東京で並んで歩いてるのが、なんか面白いなーって」



紗枝「ふふっ……ほんま、よぉ考えたら確かに奇縁やなぁ」



周子「でしょー?巡り合わせって言うのかな、なんか運命感じちゃうよね♪」



紗枝「……ほんまに、周子はんはいけずやわぁ」



周子「ん?それってどういう……って、あれ、雨降ってきてない?」



紗枝「あら、ほんまやなぁ、お天道様も出てはりますのに」



周子「天気雨だね。カフェまでもう少しあるから、どこかで雨宿りしてく?」

紗枝「うち、折り畳み傘持ってはりますよ〜」



周子「流石は紗枝ちゃん、準備がいいねー!」



紗枝「こないな季節は夕立もありますからなぁ、最近はいつも鞄に忍ばせてはいますさかい……狭いのはかんにんしておくれやす」







紗枝「しばらく降り続きそうやなぁ。周子はん、左肩濡れてへんどすか?」



周子「あたしは大丈夫。紗枝はんこそ、右側濡れてへん?もっとくっ付いてー」



紗枝「やっぱり小さい折り畳み傘じゃ2人は厳しいなぁ」



周子「いいっていいって。あたし、天気雨って嫌いじゃないな」



紗枝「それはどうしてどすか?」



周子「雨粒が太陽の光を反射して、綺麗じゃない?それに……」



紗枝「それに?」

周子「狐の嫁入りって言うでしょ、なんか良くない?狐の嫁入りって言葉」



紗枝「……」



周子「あれ、紗枝ちゃんどうかした?」



紗枝「……うちも狐の嫁入り、好きやなぁ。実は、ちょっとした思い出があるんよ」



周子「へぇ、そーなんだ。しゅーこちゃん聞いてみたいなー」



紗枝「構へんよー。じゃあちょっと語らせてもらいますー」

………

……





むかしむかし……なんて言うても、そない昔やなく、10年くらい前のことやったかなぁ。



ちょうど今くらいの季節で、うちはお母はんに連れられて、お出掛けをしたんよ。

近々、家に団体のお客様がいらっしゃるんで、お出しするお茶菓子を買いにねぇ。



せやけど、いつも贔屓にしとる和菓子屋さんが臨時休業しとってなぁ。

表の張り紙にはなんや理由も書いてあった気するけれど、小さかったうちには読めへんかったなぁ。

さて、どうしたもんか言うてから、お母はんは別のお店で買うことにして、一軒の和菓子屋さんに入ったんよ。



落ち着いた内装の店内には、色とりどりの和菓子がずら〜っと並んで、子供ながらに綺麗やなぁ思いましたわー。



お母はんはお客様にお出しする和菓子にこだわりがあるみたいで、お客様に合ったものにするんよ。

だから、選ぶ時はほんまに長いんやわぁ。

そのお店は初見さんやし、尚更やねぇ。



うちは店員さんに相談をするお母はんの後ろで、手持無沙汰に店内をきょろきょろ見渡してたんどす。

そのときだったんよ。



お店の奥の通路から、こっちを覗き込んでる女の子と目が合って。うち、びっくりしてしもうてなぁ。

その子も同じように固まってしもうて、目が合ったまましばらく2人でお互いの顔、じーっと見つめて。



何秒か、それとも何十秒かもしれまへんけど、そうしている内におかしなってしもて、とうとう吹き出してしもたんよ。

そしたらその子も一緒になって笑いだしてなぁ。



突然のことやし、お母はんも店員さんも、振り返って目ぇまんまるにさせてたわー。

そうして店員さん――その子のお母はんやね、こっち来んさいと呼んで、その子が出てきたんよ。

この和菓子屋の娘さん、ちゅうことやったんねー。



少しだけ年上で、うちより背ぇ高くて、さらさらの黒髪は短く切り揃えられて……さっきまで見つめ合ってた瞳は、ちょっと釣り目なのが印象的な子やったなぁ。



それでお母はんたち、まだ時間かかるから2人で遊んでおいで、なんて言うてなぁ。

うちはまだ小さかったし、このお店の辺りは初めて来た場所やったから、その子が案内してしてくれることになりまして。



そうして、うちはその子に手ぇ引かれてお店を出たんどす。

あまり遠くに行きすぎないように、迷子にならへんように言うて、その後もずぅっと手を握ってくれて。



いろんな所に案内されたなぁ。







蓮の花がぎょうさん咲いた池のある神社。





人懐っこい野良猫がよくお昼寝しとる路地裏。





お土産屋さんで買うてくれたビー玉入りのビンラムネ。







小さいころから手習いで一緒やった芸者はんや舞子はんが遊び相手やったから、こないな年の近い子と遊ぶことが少なかったからなぁ。

うちにとっては全てがきらきら輝いて、新鮮な気持ちで……ほんまに楽しかったわぁ。

そして一通り回ったからそろそろ戻ろう、なんてときやったなぁ。

いまみたいに、突然天気雨が降り出したんよ。



それでも幸いといいますか、その時はうちが番傘を持っとったから。



ちょうど赤い番傘を買うてもろうたばかりで、とっても気に入ってて外出するときはいつも持ち歩いとったんよ。

演舞用のやから実際に雨粒を遮るために使うのは、ほんまはよくないんやけど……当時はそこまでわからなかったんどす。

せやけど傘を開いてみると、稽古場とは違って雨風を受けるからなぁ。

大人用の大きな番傘やったし、小さい頃のうちの力じゃどうにもあきません。



あっちにふらふら、こっちによろよろ〜、なんて。



そうして強い風が吹いたときに、ついに転びそうになったんどす。

地面で激突するときの痛みを想像して、思わず目を瞑ってしもうて。

でも、幾ら待っても痛みも衝撃も来んかった。

恐る恐る目を開けると……その子が、傘とうちの帯をぎゅっと掴んでくれてなぁ。

ふふ、うちは恥ずかしいやら安心したやらで、涙目になってしもたんよ。





――あたしが支えてあげるから、いっしょに持とっか?





そう言って、傘を持つうちの手に自分の手を重ねてきて。

そのとき、ほんまにかっこええなぁと思いました。

2人で1本の傘をさしつつ歩いていると、その子がこんなことをつぶやいたんよ。





――知ってる?こんな雨のこと狐の嫁入りって言うんだって。あたしは、狐の嫁入りってなんか好きだなー





目を細めて笑うその子の横顔を見て、何となく狐みたいやなぁって、そう思うたんよ。





――なら、いまのうちはお婿さんやねぇ





無意識に……ほんまに、自然とそう言ってしもたなぁ。



その子は女の子同士じゃ結婚できないよー、なんて笑ってはりましたけど。

いまでも、あの横顔はよく覚えていますえ。

………

……





紗枝「そうしてお店に戻って、注文も無事に終わって……しばらくしたら贔屓にしてるお店がまた営業再開したんで、結局その子とはそれきりやったなぁ」



周子「……」



紗枝「こんなとこどすねぇ。ご静聴、おおきに〜」



周子「えっと……」







周子「……さっちゃん、なの?」



紗枝「……ふふ、久しぶりにそう呼んでもらえたわぁ、しゅーちゃん♪」









周子「え、ちょっと待って!落ち着かせて……最初から分かったの?こっちで再会したときからあたしのこと」



紗枝「髪型違うし色も明るくなっとったけど、そのおっきいつり目はあの時のまんまやったからなぁ」



周子「前にライブのあと2人で祇園まで行って、小さい頃どこかですれ違ってたかもね、なんて話したけど……もー、あの時に言ってくれれば良かったのに」



紗枝「かんにんしておくれやすー。周子はんがうちのこと忘れてしもたんか、小さい頃のうちを小早川紗枝だと思ってないのか……どちらにせよ、なぁんか悔しくて言われんかったんよ」



周子「忘れてなんかないよ!ただ、まさか、さーちゃんが同じ事務所でアイドルやってるなんて、そんな偶然思わないって……」



紗枝「うちもほんまびっくりしましたなぁ。それに、うちから言い出さないと決めとりましたのに、あの時と同じこと言うんやから……しゅーちゃん?」



周子「なに……さーちゃん?」







紗枝「狐の嫁入りなら、いまのうちはお婿さんやなぁ。一緒に幸せになりましょか、お狐はん?」







周子「……もう、あの時の続き?」



紗枝「あの時より体もおっきくなって、代わりに傘が小さくなってしもたけどなぁ」



周子「ふふ、そうだね……雨、気付いたらだいぶ軽くなってるね」



紗枝「そうどすなー。相合傘も、もうおしまいでしょか」





周子「……もう少しでカフェだからさ。それまでは、一緒に持とっか?」



紗枝「ちゃあんと、支えてくれるんやろか?うれしいわぁ」









傍目から見たら、おかしな2人組みに映るやろなぁ。

雨もほとんどあがってるのに、小さい折り畳み傘を2人して持っとるんやから。

せやけど、この赤くなった顔を見えんようにしてくれるから……しばらくは、このまま相合傘で歩いていきましょ。



20:30│小早川紗枝 
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