2016年08月17日

橘ありす「どうしたんですかPさん、こんな夜の海辺で」

橘ありす「ハーモニカなんか吹いて」



□数年後だと思ってください







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モバP「おっ、やっと来たか」



ありす「はい。で、そのハーモニカは何ですか?」



モバP「お疲れさん。いやあ、今日はいいライブだったなと思ってな」



ありす「意味が分かりません」



モバP「海を眺めながらハーモニカが吹きたい気分の日もあるってことだよ」



ありす「そうですか。そうかもしれませんね」



モバP「こんなところまで呼び出して悪かったな」



ありす「いえ、呼び出す理由を作ったのは、私の方ですから。それで、そのことなんですけれど」



モバP「せっかくだから、少し歩いてからにしないか?」



ありす「じゃあ……そうしましょう」



モバP「昼間はあんなに大勢泳いでいたのにな」



ありす「不気味なくらい静かですね。波も高くないですし」



モバP「俺の実家、この海の向こうなんだ」



ありす「そうなんですか」



モバP「ここからしばらく車で行ったところに港があって、船で行くんだ」



ありす「あのぼやっと見える灯台のところですか」



モバP「そうそう」

モバP「……それでな、ありす」



ありす「あっ、あそこ」



モバP「おっと、どこに行くんだよ」



ありす「そこに何か……これです。ミニカー、でしょうか」



モバP「そうみたいだな」



ありす「すっかり赤茶けてますね」



ありす「どこから流れ着いたのでしょう」

モバP「……」



ありす「どうしました?」



モバP「いや、その、すっかり綺麗になったなと思って」



ありす「私?ほんとですか?」



モバP「昔はこう、ほっぺもプクッとした感じだったのが、すっかりほっそりして、うん。美人になった」



ありす「常に見られてますからね」



モバP「アイドルはルックスも命だもんな。お年頃だと心も体もコロコロと変化するから、大変だっただろう」



ありす「それもそうですし……一番見てほしい人が近くにいたからというのもありますね」



モバP「……すっかり言うようになったな」



ありす「Pさんのおかげです」



ありす「こどものころの私は、自分で何でもこなそうとして強気になってみたり、大人になろうとしたりしてたこと、覚えていると思います」



モバP「そりゃ忘れられないな。何度もぶつかり合った」



モバP「特に名前で呼ぶなってのはいつまでも言われ続けたなあ」



ありす「それは今はいいじゃないですか!もう」



ありす「……きっとどこかで寂しい思いを抱えていたんです。でも、それを伝えるのが何だか嫌で、自分で我慢して、平気な振りもして」



ありす「それなのに誰にも胸の内を言えないことを重たく感じていたんです」



モバP「ありすの中に溜め込んでるものがあるのは薄々気づいていたよ。アイドルとして育てる以上、それを放っておいたままにはできないって思ったな」



ありす「Pさんがアイドルのみんなとの輪を考えてくれたり、あえてこどもっぽいことを言ったり、反対にしっかりしたことを考えては伝えてくれたりするうちに……」



ありす「もっとあなたの考えに触れてみたい、知りたいと思うようになりました」



ありす「もう一度言います」



ありす「ここまで私を導いてくれてありがとうございました」



ありす「そして、大好きです」



モバP「……ごめんな」



ありす「……どうしてですか」



モバP「俺とありすがアイドルとプロデューサーだからだよ」



ありす「そんなことは当然です。Pさんがプロデューサーじゃなければ、私とPさんは出会うはずがないんですから」



ありす「プロデューサーさんのほかの顔は、後から知っていければいいと思います」



モバP「プロデューサーである俺に、思ってもらえる価値なんてないって言ってるんだ」



ありす「そんなこと!」



モバP「まあ、聞いてくれよ」

モバP「プロデューサーになった頃、俺はこう決めたんだ」



モバP『トップアイドルを育てるまで、故郷には帰らない』



モバP「自信がなかったから、自分で自分にはっぱをかけるつもりだったよ」



モバP「そして、受け持ったアイドルには頻りにこう言ってたんだ」



『絶対トップアイドルにしてみせます。信じてついてきてくれませんか?』



ありす「そういえば、そう言ってくれました」



モバP「けれど、当時の俺には、技術も伝も経験も、なにもかも足りなかった」



モバP「結果、トップにたどり着く前にアイドルを諦めてしまった子が何人もいる」



ありす「それはPさんの責任でも何でもないはずです。まだトップアイドルではないですが、私もここまで育ててもらいました」



モバP「それは全部ありすの実力だよ」



モバP「だから、常々、プロデューサーを辞めることも考えているんだ」



ありす「えっ?なんでですか!どうしてそうなるんですか!」



モバP「だって当然だろう?できないことをできるように言ったことで、みんな不必要に傷ついて、去ってしまったんだ。これ以上『絶対トップアイドル』なんて無責任で夢みたいなことを口に出したら、これまで去っていった子がどんな風に思う?」



モバP「みんなに分からないような嘘をつき続けたんじゃないかとこれまで思ってきた」



モバP「そしてこれ以上嘘を重ねる真似になったら、もっと人を傷つけてしまうって考えるようになったんだ」



ありす「そんなことありません!」



ありす「私たちが女の子だから、子供だったからそういう風に言うなら、とんだ勘違いです!」



ありす「みんなPさんと一緒にトップアイドルに上り詰めたいって思ってたことを知っていて、そういうことを言ってるんですか?」



ありす「私の!Pさんのことばを信じてここまで来た私たちの!これまでの気持ちはどうなるんですか!」



モバP「期待なんかしないでくれ!俺はきっとありすとたまたま長く仕事しすぎて、ありすを勘違いさせてしまったんだ!」



ありす「……それなら嘘でも構いません」



モバP「ありす?」



ありす「あの頃のPさんのスカウトは、それはそれは怪しいものでした」



ありす「もちろん見ず知らずの人に声を掛けられることもそうです。そして、それ以上に、自分がアイドルに本当になれるのか、それが全く信じられませんでした」



モバP「俺は……この子ならアイドルにふさわしい、そんな子をスカウトしてきたつもりだったけどな」



ありす「いえ、仮令アイドルになる夢なり野心なりを持っていた子でも、いざそのチャンスがやってくれば、多少は尻込みします。まして私は、アイドルなんて少しも考えていなかったんですから」



ありす「けれど、この世界に飛び込んでみようと思えたのは、Pさんの必死な表情を、眼差しがあったからです」



ありす「Pさんのいうことが理想だってことは、みんな気づいていました。それでも、一度騙されてみようと思って、一緒に夢を見たくなって、Pさんについて行ったんです」



ありす「将来のことなんか全然わかりませんでしたが、結果としてトップになれなかった子も、夢に向かって全力な毎日がとても楽しかった、そう言っていました。私も同じです」



ありす「これでも……私たちにPさんの掛けてくれたことばは、トップアイドルにしたいとの思いは、みんな嘘だったんですか?」



モバP「そうじゃ……」



モバP「そうじゃないな」



モバP「毎日不安だらけだったけど、その時その時アイドルをトップにしたいと思って一生懸命だったこと、どんなことばがみんなに一番届くか考えていたこと。これは……自分で言うのもなんだけど、本当だよ」



ありす「今のPさんは、トップアイドルこそまだですが、すごいプロデューサーなことは、タブレットで調べれば出てきます」



ありす「けれどPさんが一番すごいのは、アイドルの支えになって、いつも応援を欠かさないでいてくれたところだと思います」



ありす「そのやさしさと、近さと、時折みせる厳しさは、きっとほかのみんなにも伝わっているはずです」



モバP「そうか、そんな風に思ってくれていたんだな」



ありす「まだきっかけをつかめていない子のためにも、見守ってくれたらと思います」



モバP「……気づけば考え方も、大人になった」



ありす「ふふっ、やっと年相応になりましたね」



モバP「ありす、もう一度言わなきゃいけないことがある」



ありす「何でしょうか?」



モバP「やっぱりありすの告白を……受け入れるわけにはいかないよ」



ありす「……そうですか」



モバP「いや……もっともっと、ありすのプロデューサーで居たい、そう思うんだ」



ありす「しちめんどくさい人ですね。私は最初から辞めるなんて認めるつもりはありませんでしたが?」



モバP「初心を思い出したって言うのかな。絶対ありすをトップアイドルにできる気がしてる」



ありす「……それは」



ありす「……それはもう嘘じゃないですね?」



モバP「ああ、本心だ」



ありす「……」



モバP「どうかしたか?」



ありす「昔の、まだ新米だったPさんも、今とおんなじ目でそう言ってくれました。それだけです」



モバP「……そうか」



ありす「そうですよ」

モバP「それで、トップアイドルになったその時には、俺の方から言うことを言おう」



ありす「それって!」



モバP「まあ……本音と建前ってやつだよ」



ありす「……んー、でも」



モバP「?」



ありす「何となくそう言ってくれる気がしていたんです」



モバP「あれ?少し驚かせるつもりだったんだけど」



ありす「さっき普通に私を諦めさせるなら『そういう目で見られない』っていうのが普通じゃないですか。なのに『アイドルとプロデューサーだから』って答えるっていうことは、未練が感じられませんか?」



モバP「あっ」



ありす「ふふっ、論破です」



モバP「あー、ここまでのやり取りの最中ずっと見透かされてたのか、恥ずかしい」



ありす「ドキドキしてそれどころではなかったですよ?」

モバP「しかし、どれくらいでトップになれるかな?やっぱり10年くらいの長い目で」



ありす「何を呑気なことを言ってるんですか?アイドルには旬があるんですよ?せっかく気合いを入れ直したんですから、うーん……2年、2年で何とかしましょう」



モバP「2年か。ちょうどいいかもな。見えそうで見えない、そんな絶妙な未来だ。これはお互い頑張らないと。ははっ」



ありす「ちょっとだけ不安ですね」クスクス



ありす「そして、Pさんが過去の失敗ともちゃんと折り合いをつけられるなら、私にとってもうれしいです」



モバP「せっかくプロデュースもちょっとは上手になったんだ。無謀だったころの”夢”も”目標”に変えないといけないな」



モバP「それに、俺のことを想ってくれるありすとも、しばらくはさよならだ」



ありす「きっとすぐまた会えますよ」



モバP「いやっ、早く迎えに行かないとどこかからか攫われそうでなあ……」



ありす「私のつらさが少しは分かりましたか?」



モバP「うん、重々分かる」

ありす「かばんをゴソゴソして、またハーモニカですか?」



モバP「……なあありす、一曲だけ歌ってくれないか?」



ありす「え?缶チューハイなんか出してどういうことですか?」



モバP「いっぺん、アイドルの歌でお酒を飲んでみたかったんだ」



モバP「あと、ほら、月があんなに高くて、いい絵になる、いや」



モバP「潮風にスカートをなびかせて歌うありすが、きっと綺麗だろうなと思って」



ありす「そう言われたら仕方ありませんね」





ありす「では……」







ありす「どう、でしたか?」



モバP「……ありす」



ありす「はい」



モバP「いつかあの灯台の下から、一緒に船に乗りたい、な」



ありす「ええ。絶対に、叶えてみせます」

おわりです。





21:30│橘ありす 
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