2016年09月06日

佐久間まゆ「マスカレイド」

アイドルマスターシンデレラガールズです。



地の文あり、短いです。何年か後のお話です



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 佐久間まゆは仮面を被る。アイドルでいるために。

「……また一年が経ってしまいましたね」



 まゆの言葉は伝えたい人には届きません。



「今日だけはアイドルのまゆはお休みです。あなたのまゆで居させてください」



 聞こえるはずのない声を、届く訳もないのに空に向かって零します。



 毎年、この日が来るとまゆはただ一人で事務所の屋上に足を向けています



 他の娘はみんな、あの人が眠っているはずの場所に向かうのですけど、まゆだけは一度も足を運んだことがありません。



 ……自分の目で見てしまえば、あの人が居ない事を受け止めなければいけない気がするから。



「また一年が経ってしまいました……」



 屋上のフェンスに背中を預け、その場にペタンと座り込みます。





 持ってきた鞄を開けて、お目当ての物を手探りで掴み取ります。普段は絶対に入っていない、紙の箱を。



 ピリピリとビニールを剥がしてタバコを一本取り出し、口に咥えたまゆは昔とは違って慣れた手つきでライターを使って火を点けます。



 初めての時はまったく火が点かなかったのですが、今ではちゃんと点けられます。吸いながら火を点けるなんて当時のまゆはまったく知りませんでした。



「げほっげほっ……! こほっ……」



 ……いくら火を点けるのが上手くなってもタバコ自体には慣れる事が出来ないみたいです。



「この日だけしか吸いませんしね……」



 むせながらなんとか煙を吸い込むと、鼻の奥に懐かしい匂いが蘇ってきました。



「……ふふっ。今年もまた会えましたね」



 今では年に一度しか会えない、まゆの愛しい人。まゆのすべてを捧げた人。



 ……まゆを置いて一人で去ってしまった人。





「まゆ、頑張ったんですよぉ? 新しく出したCDは事務所歴代最高の売り上げを記録しましたし、最近は女優業も認められて賞まで頂いちゃいました」



 時々むせながら、今年あった事を報告する。年に一度の恒例行事。



「あなたが頑張れって言ったから、まゆは今年もたくさん頑張りました。それこそ卯月ちゃんに負けないくらいに頑張りましたよぉ」



 言葉の合間合間に煙をゆっくりと吸い込むと、口の中が苦い味で一杯になってしまう。



「げほげほっ……!」



 やはりまゆにはタバコは合わないのかもしれません。去年も一昨年も、その前もこうしてむせていた気がします。



「だ、大丈夫です。毎年の事ですから」



 心配された事が嬉しくもありますが、まゆは止めるわけにはいきません。



 あなたに会うためなんですから。





「……うふふっ。いいじゃないですか。一年で一度だけなんですから」



 アイドル佐久間まゆが、アイドルの仮面を外して、ただの佐久間まゆに戻れる唯一の日。



「でも、一年に一度だけって言うのはまゆも寂しいんですよぉ?」



 本当は毎日会いたいのに。あなたとはこの日にしか会えないんです。



「だから、会える時には、一杯甘えるって決めてるんですよぉ」



 普段、まゆはとっても頑張っているからこのくらい役得ですよね?











「……もう、半分くらいになっちゃいましたね」



 手に持ったタバコを見つめながら、ぽつりと呟きます。



 数分前まえでは白くて綺麗だった筒も、今では半分くらいが灰になっています。



 あなたと会える時間は本当にあっという間に終わってしまうんですね。



「まゆと初めて会った時、あなたは言ってくれましたね」



 指でトントンとタバコを叩いて灰を落とします。



「『君はシンデレラになれる』って」



 シンデレラ。あの人がアイドルをスカウトする時にいつも言っていた言葉。





「でも、知っていましたか? シンデレラって灰被りって意味なんですよぉ」



 まゆがシンデレラなら、まゆにはこのタバコの灰が被っているのでしょう。



「あなたが求めたように、まゆはアイドルの頂点に立ちました」



 あの日の光景を思い出しながら、ゆっくりと言葉を探します。



「綺麗なドレスを着て、お城の舞踏会で踊ったんですよぉ」



 まゆは確かに『シンデレラ』になったんです。



 普通の女の子のままなら、被らなくてよかったはずの灰を被って。



「あなたが望んだから、まゆはシンデレラになったんです」



 誰も居ない空間を睨み付けながらまゆは続けます。



「なのに、どうして見てくれなかったんですかぁ?」



 まゆが頂点に立った時、まゆの隣には誰も居ませんでした。



 まゆの目の前には、まゆを讃える多くの人々。



 でも、まゆの隣には王子様たるあなたは居ませんでした。





「……どうして、まゆを置いて行ってしまったんですかぁ……」



 手に持ったタバコを落としそうになりながら、まゆは必死に涙を堪えます。



 せっかく、あなたと会える唯一の日だって言うのに、最後まで笑顔で居られた事はありませんね。



「まゆ……もう無理ですよぉ……。あなたが居ないのにひとりぼっちで頑張るなんて……」



 でも、一度決壊してしまえば、涙は堪えることは出来ないようです。



 また、今年もいつものようにボロボロと涙を零してしまいました。



「どうして……どうしてまゆにあんな事言ったんですか」



 真っ白な病室のベッドの上で、あなたは微笑みながら、まゆにとって残酷な言葉を叩きつけました。



 俺が居なくてもトップアイドルになって欲しい、と。





「あなたの最期のお願いを……まゆが断れるはずないじゃないですかぁ……」



 やせ細った身体で、まゆの頭を撫でてくれたあなたからは、いつものタバコの匂いではなく、どこか無機質な消毒液の匂いしかしませんでした。



「まゆは……あなたと一緒に居たかったんです……」



 例え、この命を絶ってしまったとしても、あなたと一緒に居る事だけがまゆにとっての幸せだったのですから。



「まゆは……まゆは……!」



 その時、強い風が屋上を通り抜けていきました。



「あ……」



 ふと、手元に目をやると、タバコは完全に灰になっていました。



「もう……行ってしまったんですね」





 また今年も言えなかった言葉を飲み込み、先ほどまでの泣きじゃくっていたまゆをどこか遠くの方に追いやります。



「……会えて嬉しかったです。ありがとうございました」



 吸い終えたタバコを携帯灰皿の中に落としてまゆは立ち上がりました。



 先ほどまでの匂いは何処へ行ったのやら。



 きっとさっきの風は懐かしい匂いもどこかへ連れて行ってしまったのでしょう。



「まゆからは見えませんけど……Pさんからは見えるように、まゆはもっと、もーっと頑張りますから」



 だから、アイドルの佐久間まゆを見ていてください。



 あなたの望む通りにまゆはトップアイドルの仮面を被り続けます。



 いつかまゆがあなたと会える日まで。



End





20:30│佐久間まゆ 
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