2016年09月06日

水木聖來「えっ?肇ちゃんウインク出来ないの?」

SS VIP初投稿です。

よろしくお願いします。





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肇「はい…」



驚いた聖來さんに、私は肩を落としながら答える。



「ウインクが出来ない」



それは、日頃からビジュアルレッスンで、「表情が固い」とトレーナーさんに指摘される私の、特に苦手な課題。

最近ようやく、笑顔は自然になってきたと言われるようになったものの、未だにウインクだけは克服できなかった。



ポップなアイドルの曲では、当然振り付けにウインクも含まれていて、避けては通れない。



今日のレッスンでも怒られてしまい、戻った事務所で大きなため息をついたところを、たまたま居合わせた同僚たちに見られ、相談に乗ってくれたのだけど…

聖來「なるほどねぇ…」



いつき「うーん、ウインクかぁ…特に意識しなくても出来ちゃってたからなぁ…」



紗枝「うちもやなぁ。肇はん、こないな感じに、ぱちこーんって、出来へん?」



いつきさんも紗枝ちゃんも、パチンと、いとも簡単に見事なウインクをきめる。



うん、とてもかわいい。

肇「…頭の中でイメージは出来るんです。でも、思うように瞼が動かなくて…」



いつき「うーん、難しく考えすぎなんじゃない?もっとらく〜に考えてみようよ!」



聖來「んー、確かにそれはあるかもね。まぁ、肇ちゃん真面目だし、そこが可愛いところでもあるんだけどね。」



そう言って聖來さんも素敵なウインクをきめる。



うぅ、優しいフォローが今は痛いです…

紗枝「ちなみに肇はん、苦手いうんはどこまでなもんなんやろ?」



いつき「あーそうだね。とりあえずちょっとやって見せてよ。」



肇「いいですけど…ほんとに出来ませんよ?」



聖來「まぁまぁ。何かアドバイス出来るかもしれないし。試しに、ね?」



肇「わかりました…」

確かに、出来る人にアドバイスをもらうのが一番かもしれない。



軽く息を吸って、覚悟を決める。



肇「じゃあ、いきます。」



3人の視線を受けながら、私なりのウインクをする。

肇「…………」



3人「…………」



肇「…………」



いつき「……あー」



聖來「……これは、なかなか強敵だね…」



紗枝「……あらぁ…」



三者三様の反応。



そのどれからも、何とかフォローしようという空気を感じる。



うぅ…だから言ったのに…

肇「……えっと、どう、でした?」



紗枝「……想像以上やったわぁ。」



グサッ



思わずこぼれたであろう、紗枝ちゃんの一言が刺さる。

思ったことをはっきりと言ってくれる。



この子のいいところなんだけれども、今回はもうちょっと、オブラートに包んで欲しかった。



彼女の場合は八つ橋に…?



いや、それだと周子さんか。



そんなくだらないことを考えて、何とか心の平静を保つ。



大丈夫、まだ頑張れる。

聖來「えーっと、とりあえずは、どっちかの目を開けるといいんじゃないかな?」



肇「これでも一応開いてはいるんです…」



いつき「えっ、うそ。どっちが?」



肇「……左が。」



いつき「……あれでかぁ。」



紗枝「……両方瞑ってはるようにしか、見えへんかったなぁ。」



グサグサッ



今度は、二人からの本音。



あ、ちょっと挫けそう。

聖來「ま、まぁ、一応は開けられるんだし、少しずつ、もっとぱっちり開くように練習しよう!ね!きっと出来るよ!」



聖來さんの言葉で、折れかかった心が何とか踏ん張る。



肇「うぅ、でも、具体的にどうやったら…」



いつき「あっ、あれは?視力検査みたいなやつ!」

聖來「閉じる方の目を押さえてみる方法ね。ちょっとやってみようか。利き目は左?」



肇「えっと、開けられているのは左なので、左目かと。」



紗枝「……うっすら」



肇「もう!紗枝ちゃん!」

聖來「はいはいからかわないの!いつきも笑わない!」



そういう聖來さんも、少し笑いを堪えている。



……そんなに変だったのかなぁ。



聖來「こほん!で、左が利き目だから…ちょっと右目押さえてみて。」



肇「わかりました。」



軽く、右の瞼を指で押さえる。



左目は、パッチリと開いている。

聖來「あら、ちゃんと開くじゃない。」



肇「まぁ、今まで視力検査はこなせてきてましたので。」



いつき「やっぱり、難しく考えすぎだったんじゃない?案外簡単に出来そうじゃん!」



肇「確かに、なんか出来そうな気がしてきました。」



聖來「じゃあ離してみよう!」



肇「はい!」

ぱっと、指を離す。



その瞬間、右目もパッチリと開く。



そのままぱちくりと、二度三度と瞬きを繰り返す。

3人「……………」



肇「……………」



3人「………(プルプル」



肇「……どうぞ、笑ってください…」



紗枝「な、なんでやの……(プルプル」

紗枝ちゃんがちっちゃい肩を震わせながら尋ねてくるけど、そんなの私が知りたい。



なんでこの瞼は言うことを聞いてくれないのか。



いつき「肇ちゃん、意外と不器用なんだねぇ」



肇「手先には、それなりに自信あるんですけど…」



結局、その後も数回試しはしたものの、結果は全部同じ。



どうも、この方法はダメみたい。

聖來「……なら、逆を試してみましょ。」



肇「逆、ですか?」



聖來「開こうとするのを押さえるのがダメなら、閉じようとする方を押さえてみるの。」



いつき「あー、目薬さす時にやるような感じ?」



肇「なるほど…」



左目を指で開かせながら、右目をぎゅっと瞑ってみる。



紗枝「……なんや、もう左目がぷるぷるしてはるけども…」



いつき「……そういう紗枝ちゃんも、もうぷるぷるしてるよね…」



紗枝「いつきはんかて……」



聖來「……二人は気にしなくていいから。肇ちゃん、指を離してみて。」



肇「はい…」



変なツボに入ったのか、既に笑いを堪えている二人をよそに、そっと指を離す。

すると――



聖來「出来てる!出来てるよ肇ちゃん!あーでも左目どんどん細くなってってる!」



肇「う〜、そ、そんなこと言われても〜」



紗枝「あかん!あかんよ肇はん!ここで目ぇ閉じたらあかん!ほら!うちを見て!しゃっきりしぃ!」



いつき「なんで雪山で遭難したみたいになってるの!っていうか肇ちゃんも見なくていいから!」



聖來「ちょっと!すごい顔になっちゃってるわよ!アイドルがしちゃいけない顔になってる!」

そう言いながら、3人とも笑ってる。



もう、釣られて私まで笑っちゃって、結局この方法でもダメ。



しばらく4人で笑いあって、落ち着くまでに10分くらい掛かった。

肇「はぁ…結局無理なんですかね〜…」



この日、何度目かになるため息をつく。



いつき「……まぁ、あれで出来たとしても、自然にできるようにならないとダメだよね〜」



聖來「最初は感覚を覚え込ませてって思ったんだけどなぁ…あとは表情筋を鍛えるってのがあるみたいだけど。」

紗枝「……地道〜にやるしか、あらへんのかなぁ。」



肇「……まだしばらくは、レッスンで怒られるのかな〜」



すっかり諦めムードで落ち込んでしまう。

ふと、開いていた窓から、びゅーっと、強めの風が。



顔にまともに受けてしまって思わず目を閉じる。

肇「痛っ…」



紗枝「どないしたん?」



肇「左目に、埃が入っちゃったみたい…ゴロゴロする…」



いつき「あー、今目薬持ってないや。瞬きしたほうがいいよ。」

いつきさんに促されるまま何度か瞬きをする。



繰り返すうちにじんわりと涙が出てきて、埃を洗い流してくれた。



肇「んー、取れた、かな。いつきさん、ありがとうございま……?」



ハンカチで涙を拭いて顔を上げると、3人ともポカンとして私を見ている。



なんだろう、涙で目でも腫れちゃったんだろうか。



肇「えっと…?」

紗枝「肇はん!出来とった!ういんく、出来とったよ!」



肇「……は?」



紗枝ちゃんに言われて、今の行動を思い返す。

いつきさんに促されるまま、涙を流そうと瞬きを繰り返した。



無意識のうちに、埃の入った、左目だけを。



それは、今まで散々苦労しても出来なかったことで――



肇「――あっ」

やっと、出来た。



出来てしまえば、なんてことはなかった。



なぜこんなことが出来なかったのか、不思議に思えるくらい、あっさりと。

いつき「なるほどねー、そういうことかー。」



聖來「利き目が逆だったんだね。どうりでやりづらいわけだよ。」



紗枝「よかったなぁ、肇はん。」



でも、よかった。



これでレッスンもこなせる。



やっと、次のステップに進める。



じんわりと、安堵と、感謝の気持ちが、胸にわいてきた。

肇「みなさん…ありがとうございます!」



いつき「いいっていいって。そんな大したことはしてないし。」



紗枝「せやなぁ。結局うちもあんましお手伝い出来へんかったんに、そんなお礼なんてなぁ?」



肇「……えっ。」

いつき「そうだねー。まぁクレープ辺りが妥当かなー。」



肇「えっ、あのっ。」



聖來「そういえば、この前駅の近くに美味しそうなお店がオープンしたんだってね。そこにしようか♪」



肇「あれ、聖來さんまで。」



いつき「…肇ちゃん、最近元気なかったからちょっと心配してたんだよ。」



聖來「なんとなく、上手くいってないのはわかったしね。」



紗枝「うちらで、なんとか元気づけられんかなーって、話しとったんよ。」



肇「えっ、あっ…」

ポカンとしているうちに、3人は私を置いて足早に歩いて行ってしまう。



照れ隠し、なんだろうか。



……なんだか結局、振り回されっぱなしだ。



もっとも、相談には乗ってもらったし、ありがたいことに、解決まで付き合ってくれたけども。

先にいった3人は、振り返ると早く来いと言わんばかりに笑って手招いている。



……まぁ、このくらいはいい、かな。



苦笑しながら息を吐く。



今度は、ため息ではなかった。



21:30│水木聖來 
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