2016年09月10日

藤原肇「至るべき場所」

総選挙の結果とは特に関係のないSSです



・独自解釈

・オリジナルユニット

・モバP以外のPの存在





などの要素が含まれるのでご注意ください。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1463497836



PM6:30 モバプロ内モバPマイルーム



モバP(以下P)「……うーん」ペラ



ガチャ



水木聖來「ただいまー!」



吉岡沙紀「いやぁ今日は一段とハードだったっすねぇ」



望月聖「……比奈さん……大丈夫……?」



荒木比奈「だ、大丈夫……じゃ、ないッス……」



千川ちひろ「あら、みんなおかえりなさい。レッスンどうでした?」



比奈「死ぬかと思ったッスっていうか、現在進行形で死亡中でス……いたたたた」



沙紀「今回の公演はダンス寄りのステージってこともあって、派手なダンスが多いっすから」



聖「……けど……聖來さんと、沙紀さん……わたしと比奈さんのパートよりも、激しい……」



聖來「そこはほら、昔取った杵柄というか」



沙紀「アタシもストリートにいたころは時々踊ってたっすよ」



比奈「経験の差……同じ部署のアイドルとは思えないッスよ……はぁ。こんなことならアタシも少しは運動しておくべきだったッスねぇ」



聖來「けど比奈ちゃん、運動神経が悪い訳じゃないし、すぐに慣れると思うよ」



比奈「明日にでも慣れてくれないと、身体がもたないッスよ……」



ちひろ「大変だったみたいですね。今お茶いれますから、ゆっくりしててください」



聖「……ありがとう……ございます……」ペコリ



P「…………」ペラッ



沙紀(……Pさん、随分真剣な目してるっすね。こっちにも気付いてないし)



比奈(なんの書類ッスかね)



聖來(お仕事中だし、あまり邪魔しないようにしないとね)



聖「あの……何を、読んでるんですか……?」



比奈(聖ちゃん!?)



P「…………」



聖「…………」



P「…………」



聖「…………」



P「…………」チラッ



沙紀(やっと目を上げたっすね)



P「うわぁっ!?」ビクッ



聖「きゃっ!?」



P「あ、ご、ごめん、みんないつの間に帰ってきてたの!?」アセアセ



聖來「って気付いてなかったの!?」





P「もうこんな時間か……ごめんごめん、ちょっと夢中になってて」



P「っと、その前に。おかえり皆。レッスンお疲れ様」



聖來「うん、Pさんこそお仕事お疲れ様!」



沙紀「お疲れっす!」



比奈「こっちはホントにお疲れでスよ……あいたたた」



聖「……湿布……持ってきますね」トトト



比奈「あぁ〜、聖ちゃんがいつもの万倍天使にみえまス……」



P「あの聖ちゃんがこれ以上天使になるとか、いったいどうなってしまうのか」



沙紀「大天使になるんじゃないっすか?」



比奈「なんか後光で目が潰れそうッスね」



ちひろ「お茶入りましたよ−。Pさんも、少し休憩したらどうですか?」



P「そうですね。これ以上書類とにらめっこしててもどうしようもなさそうですし……う〜ん」バキバキバキ



聖來「なんか今人類からは決してしない音がした気がするんだけど」



沙紀「どんだけ肩こってたんすかね」







PM6:45 



比奈「で、結局Pさんは何読んでたんスか?」



P「ああこれ? 今度やるモバプロ夏期オーディションの応募履歴書」



沙紀「へぇ、オーディションっすか! ってことはウチのユニット、メンバー増やすんすか?」



P「うーん、どうだろうなぁ。正直あんまり乗り気ではない、かな。上からは色々言われてるんだけどね」



聖來「色々?」



ちひろ「ほら、聖來さんたち『C-BLUE』ってコアなファンがけっこう付いてて、最近規模が大きくなってきたじゃないですか。その立役者であるところのPさんに、もっと手広く活動して欲しいっていうのが、上の意向です」



P「とは言え、C-BLUEの公演って色々と手間と時間がかかってるんで、これ以上ユニットを増やすわけにもいかなんですよね。C-BLUEのメンバー自体を増やす方向になるんですけど、オーディションとか、アイドル養成所の子達って、求める人材とどうしても違って来ちゃうし」



比奈「あー……そういえばウチのユニットって、全員Pさんが野生の女の子をスカウトしたんでしたっけ」



聖「……野生……?」



P「聖來さんをスカウトするまでは、それなりの回数オーディションにも参加したし、養成所にも回らせて貰ったけど。でも、こう、ティン!とくる子がいなくてねぇ」



沙紀「かわいい子も多かったんじゃないすか?」



P「そりゃね。僕が採用しなかった子で、今ではトップランクにいる子もいるよ。けど彼女たちは、僕の求めるアイドルではなかったから」



聖「……わたし達は……Pさんの求める……アイドルだった……?」



P「もちろん。だからこそみんなのこと、熱烈にスカウトしたんだよ」ナデナデ



聖「……はい……」



沙紀「いやぁ、照れるっすねぇ」



聖來「ふふっ! じゃあ期待に添えるように頑張らないとね!」



比奈「……そうッスねぇ。せめて裏切らないよう努めたいところッス」







PM7:30



聖來「じゃあPさん、アタシ達帰るけど、Pさんも無理しないで、ちゃんと帰って身体を休めてね」



P「うん、ありがとうございます。みんな、また明日」



オツカレーッス マタアシター



P「……さて」ガサガサ



ちひろ「ああ言ってましたけど、オーディションには参加するんですか?」



P「ええ。多分採ることはないでしょうけど、顔だけは出そうと思ってます。たまには上を立てておかないと」



ちひろ「分かりました。上司のCoPさんにはそう伝えておきます」



P「多分採らない、のところはちゃんと伏せてくださいね」



ちひろ「分かってますって」クスッ



P「……さて、残った仕事片付けますか」



ちひろ「はいっ、がんばりましょう!」





数日後 オーディション前日

AM11:30 都内モフバーガーショップ前



アリガトウゴザイマシター



P「やっぱりモフは良い値段するよなぁ」



P(とはいえ、最近だとワックの値段も上がってきてるし、多少高くてもモフの方が満足感はあるんだけど)



P「さて、早く帰らないと。飢えたちひろさんに何をされるやら……」



「あの、すみません、少々道をお尋ねしたいんですけれど」



P「はい? ああ、良いですよ」



P(あれ? この子、どこかで見たような……?)



「ありがとうございます。モバプロの場所を探しているのですが……」



P「モバプロですか? でしたらご案内しますよ」



「お忙しいでしょうし、ご迷惑では……?」



P「いえ、ちょうど私もそちらの方に向かいますから」



P(ああそうだ、明日のオーディションに履歴書送ってきてた子だ。確か名前は……)



「そうですか、それでは」



P(藤原、肇)



藤原肇「よろしくお願いします」ペコリ





AM11:35



肇「すみません、何分田舎から出てきたばかりで、都会に不慣れなもので」



P「ああ、その気持ち分かります。私も最初は、人の多さに目を回してましたから」



肇「やっぱり、そうなっちゃいますよね。さっきも新宿駅に降りたんですけど、道に迷っちゃって。同じ所ずっとぐるぐる回ってました」



P「あそこは東京に慣れてても迷うので、気にしない方が良いですよ」



P(採用側だと知られたら気を遣うだろうし、すっとぼけておくか)



P「明日のオーディションを受けにいらしたんですか?」



肇「はい。……あれ? 明日のオーディションをご存知ということは、モバプロの方ですか」



P「はい。今日はどちらからいらしたんですか?」



肇「え、ええっと、岡山です」



P「岡山、また随分遠いところから……と、着きましたね。ここがモバプロになります……どうしました?」



肇「はぁ……あ、いえ、すみません。なんだか大きな建物で、気後れしちゃって」



P「明日は案内の者が立ちますので、社内に入って頂ければあとは迷うことはないかと思いますよ。少なくとも、新宿駅よりは分かりやすいはずです」



肇「……それなら、安心です」クスッ





肇「ありがとうございました。場所の確認も出来ましたので、今日はこれで失礼させて頂きます」



P「中に入らなくて良いんですか? 簡単にでしたらご案内出来ますけど」



肇「……魅力的なお誘いですけれど、やはり今日は遠慮させて頂きたいと思います」



肇「知りすぎると、気負ってしまいそうですから」



P「そうですか。それでは明日、頑張ってくださいね」



肇「はい。わざわざありがとうございました。失礼します」ペコリ





P「……礼儀正しい子だったなぁ」



沙紀「おはよーございまーす!!」バチコーン



P「あいたぁ!?」



沙紀「いい匂いがするっすね……あっ、モフじゃないっすか! オニオンリングあるっすか?」



P「つつ……沙紀ちゃん、せめてもう少し手心を加えてくれないと、背中に紅葉が……」



聖「…………」



P「……聖ちゃん? おはよ……」



聖「……え、えい……!」ペチン



P「……」



沙紀「……」



聖「……」



P(今の……)



沙紀(アタシの真似っこっすかね)



聖「……?」



P「いやぁ、ホント」ナデナデ



沙紀「聖ちゃんは可愛いっすねぇ」ナデナデ



聖「……えぇ……?」







オーディション当日

12:00 社員控え室



P(オーディションは午前の部が終了し、半分の面接が終わった)モグモグ



P(午後からは、午前中面接だった子達は体力、歌唱力のチェックへ、午前中にそのチェックを終わらせた子達は面接を受けることとなる)モグモグ



CoP「よっ、正面空いてるか?」



P「お疲れさまです。どうぞ」



CoP「じゃ、失礼して、と。支給の弁当、中身なんだった?」



P「海苔弁ですよ」



CoP「やっすいなぁ。休日出勤してるんだから、弁当くらい贅沢にしてくれても良いだろうに」



P「ま、ま、お弁当食べに来た訳じゃないですし、栄養にさえなればなんでも良いですよ」



CoP「欲がないねぇ」ケラケラ



P「よく言われるんですよ。そんなことないと思うんですけど」





P「CoP先輩は、愛妻弁当ですか」



CoP「おう、休日出勤だって言ったらな、早起きして作ってくれたんだよ。日曜日で、アイツも大変なのに……っと、俺の話はいいんだった」



CoP「で、どうよ」



P「どう、と言いますと?」



CoP「お前の腹の調子でも聞いてるように聞こえるか? オーディションだよ。午前の部の面接が終わって、候補者の半分は見てきたわけだろ。めぼしい子はいなかったのか?」



P「そんなことないですよ。デビューしたら売れそうな子は何人もいましたよ。はい資料」



CoP「どれどれ……ほほぅ、5番の子に目を付けるとは目が高いな。田舎から出てきたばっかりでまだちょっと野暮ったいけど、あの子は光るぞ」



P「ええ、あとはあの分厚い眼鏡を外してコンタクトにしたら、一気に垢抜けると思いますよ」



CoP「……お前、人のこと言えないからな。いい加減その無駄に分厚い眼鏡変えろ」



P「これはね、僕のシンボルなんですよ」



CoP「そんなシンボル捨ててしまえ」



P「話を5番の子に戻しますけど。惜しむらくは、クール部門に配属されることはないだろうってことですかね」



CoP「まぁ、そうだろうな。パッションに行くにはハジケ足りないし、行くならキュートか」





CoP「まぁ一応、他の連中にもそれとなく売り込んではおくよ。で、お前自身が担当したい子はいなかったのか?」



P「そうですねぇ……うーん、強いて言うなら」



CoP「採用する気なさげだなぁ。もしいたなら優先的に配属してやろうと思ってたのに」



P「どちらかというと人員よりも予算の方をひいきして欲しいんですけど」



CoP「ダメに決まってんだろ馬鹿野郎。まったく、最近調子良いから誉めてやろうとしたらすぐこれだ」



P「はぁ……」



CoP「期待してんだよ、上も、俺も、お前とお前のユニットにな」ガタッ



P「それなら予算を」



CoP「つーわけだから、もしティン!と来た子がいたらまず俺に報告しな。色々根回ししてやっから」



P「……ありがとうございます」



P(……予算については、別の機会におねだりするか)



P(めぼしい子……強いて言うなら)ピラッ



P(藤原肇)



P(彼女は、午後のグループだったな)





PM4:00 モバプロオーディション面接会場



候補者「ありがとうございました」ペコリ



ガチャ



P(オーディションも最終盤までさしかかった)



P(けど、この子!と思えるような子はいない)



P(次の候補者は、昨日出会った女の子)



肇「12番、岡山から参りました、藤原肇です。よろしくお願いします」



P(藤原肇)



P(表情が固いな……。緊張のあまり昨日会った僕のことには気付いていないようだ)



同僚P「では、志望動機と自己アピールをお願いします」



肇「志望動機……志望動機は」ゴソゴソ



肇「これ、です」



CoP「……茶碗?」



肇「これを見て、どのように思われますか?」



ザワザワ



P(会場がざわつく。まさかこんな質問されるとは思っていなかったし、無理もないか)



P(ん?)



CoP「――――」



P(先輩? なんでこっち見て――)



CoP「――P、お前どう思う」





肇「――!?」



P(あ、ようやく気付いたっぽい)



P「――」



肇「……」



P「私は陶器について詳しいわけじゃありません。ですからこれから言うことは素人の所感になります」



肇「……聞かせてください」





P「退屈な作品だと思います」





肇「――」



CoP「おいP」



P「付け焼き刃の知識で語るので少々恥ずかしいですが、こういった職人はまず、『上手に作ろうとするな』と教わるという話を聞きました。小手先の技術に頼らず、個性を殺して、無心で器を作り続ける。淡々と数をこなしていくうちに技術が洗練され、その果てに個性が磨かれるのだと」



P「この器は――とても綺麗に作られています。技術を真似て、上っ面を取り繕って、『上手に作ろう』としています」



P「個性を出そうと欲をかいて上手に作ろうとして、結果として没個性になっている。研ぎ澄まされた果てにある誰にも真似できない器ではなく、十把一絡げ、一山幾らの安物になりさがっている、と――そのような印象を受けます」



肇「……」



P「浅学をひけらかし汗顔の至りですが――」



肇「……いえ、おみそれしました」





肇「おっしゃる通りです。その地味で面白くない器は、私が作りました」



肇「その器は、私自身なんです」



肇「幼い頃から陶芸家のおじい――祖父の元で、私も陶芸をたしなんでいました」



肇「だから、祖父に陶芸の道を進めと言われたんです。でも……私は陶芸の道を選べませんでした。挑戦することが苦手で、無難なものを選びがち。精一杯の自己表現の形である陶芸でも、先ほど仰られたとおりの凡庸な作品しか作れませんでした」



肇「そんな私じゃ、このまま陶芸を続けても……いいえ、何をやっても、いいものは生めません。そんな自分を変えたいと思ったんです」



肇「だからまずはその一歩として、憧れだった華やかな世界……アイドルの世界へ飛び込みたいと思ったんです。ここなら、もっといろいろな経験ができると思いましたから」





P「……お話は分かりました。仰ることも理解できます。確かに豊富な人生経験というのは、創作活動を行う上でこの上ない武器になることは間違いありません」



P「より良いものを作りたいという気持ち、そしてそのために未知の領域に足を踏み入れる勇気。それは、とても素敵なものだと、私は思います」



肇「…………!」パァ



P「ですが同時に、陶芸の道は己を殺し続ける道である、とも聞きます。今まで蓄えてきた脂肪を落とし、皮を剥いで、肉を削ぎ、骨を剥き出しにするように、己の過去を捨て、思想を捨て、あるがままの己を形にする作業だ、と」



P「又聞きした知識ですので、私にはそれが本当かどうかは分かりません。ですがそれが事実であるとするのならば、貴女はアイドルの道を進んで経験を積み重ねるのではなく、このまま陶芸の道を進んで研鑽を続けることこそが、良いものを作る道ではないのでしょうか」



肇「っ……それは……」



P「何故、アイドルなのですか?」



 試すつもりで投げた僕の言葉を聞いて、彼女は言葉に詰まった。



P(……なるほど)



 多分、彼女は気付いていないのだ。

 自分が本当に求めるもの。

 自分が本当にやりたいこと。

 それが一体何なのか。



   ◇



 その後、言葉を継げなかった彼女に、他の面接官から差し障りのない質問が投げられ、



同僚P「ありがとうございました」



肇「……ありがとう、ございました」



 藤原肇の面接は一応の終わりを見た。





PM5:00 オーディション会場



 オーディションは無事終了した。今は一部候補者は家路につき、希望者――と言ってもほぼ全員だが――がモバプロ内の施設を見学している。



CoP「お前があそこまで突っかかるのは珍しいな」



P「そうですか?」



CoP「そうだよ。大体今日だって、あの子以外の候補者には質問すらしなかったじゃないか」



P「いやぁ、だって何も言わなくても他の面接官が聞きたいこと聞いてくれるし……というか、僕にパス投げたの先輩じゃないですか」



CoP「お前が興味深そうに眺めてたからパスしてやったんだろ」ケラケラ



P「……あの子、通りますかね」



CoP「そりゃお前次第だよ」



P「ってことは、他のプロデューサーは採らないってことですか?」



CoP「素材は良い。体力もある、歌も並以上にはこなせるし、ビジュアルだって十分合格だ。だが、『並以上』とか『合格点』で生き残れる世界じゃない」



CoP「それに、お前も言ってただろ。自分磨きの一貫としてアイドルやるっていうのはーーまぁ前例がいないわけじゃないけど、色々と厳しいだろ」



CoP「もちろん自分磨きのためにアイドルを始めて、トップアイドルになった女性もいる。ただそういう人は、存在自体が痛烈なまでに輝いていて、そういう小憎らしい言動すらも個性に変えられる女だ」



CoP「彼女は違う。どちらかといえば純朴なタイプだ。『自分磨きのためにアイドルを』なんて小生意気な目的は、彼女にとってマイナスだよ。落として、陶芸の道に戻してやった方があの子のためなんじゃないか」



P「…………」



CoP「何よりタイミングが悪かったな」



P「……今回のオーディション、粒揃いでしたもんね」



CoP「全くだ。全体的なレベルはちょっと最近じゃ考えられないレベルだ。俺が今担当してる子だって、あの子達と一緒にオーディション受けてたらアイドルになれてなかったかもな」



P「その話、先輩の担当の子にしてもいいですか?」



CoP「おいばかやめろ……ま、ある意味で間が悪く、ある意味で幸運だよ、あの藤原肇って娘は」



P「幸運、ですか?」



CoP「だって今回のオーディション、珍しくお前が参加してたろ」ケラケラ



CoP「こういうのを捨てる神あればなんとやらっていうのかね。粒揃いの候補者に埋もれかかったのは不運だったけど、ちゃんと見つけられるプロデューサーが、偶々、奇跡的な確率で参加してたのは、間違いなく幸運だろうさ」



P「……まだ、合格と決めたわけじゃないですけどね」



ピッポッパッ



P「あっ、ちひろさんですか? ちょっと至急頼みたいことがあるんですけどーー」





PM5:30 オーディション参加者控え室



 見学が終わって控え室に戻ってきた肇は、他の候補者に聞こえないように小さく溜め息を吐いた。

 周りの候補生は皆、浮かれたようにキャピキャピと先ほど見て回ったモバプロの各施設の感想を言い合っている。



 ーー良い夢を、見られました。



 面接は散々なものだった。

 昨日自分をこの会社に案内してくれた、あの背の高い男性は、どうやらモバプロのプロデューサーだったらしい。

 彼は肇の作った器から彼女のちっぽけな虚栄心を見破り、肇は彼に投げかけられた質問に答えられずに自らの惨めな浅はかさを露呈させた。



 ――合格できる要素がない。



 気が付くと他の候補者は皆帰ったようだった。一人残された肇が慌てて席を立ち、



「えーっと、あ、藤原肇さんですね?」



 女性に声をかけられた。顔を上げれば、三つ編みのお下げをした、愛らしい女性だ。



「今日は1日お疲れさまでした。私はPのアシスタントをしております。千川ちひろと申します。今日はこれから何か予定はありますか?」



「……いえ、夕食を食べてからホテルに戻って、明日の夕方の新幹線で地元に戻る予定です」



 ちひろと名乗った女性は肇の返事を聞くと、ポン、と胸の前で手を合わせて、それじゃあ、と続けた。



「よろしければ、もう少しお時間頂けますか?」





PM6:00 モバプロ内モバPマイルーム応接室



コンコン



ちひろ『Pさん、藤原肇さん、お連れしました』



P「はい。入って貰ってください」



ガチャリ



肇「……失礼します」



P「いらっしゃい。どうぞおかけになってください」



ちひろ「コーヒーとお茶をご用意出来ますけど、どちらが良いですか?」



肇「……では、お茶で」



ちひろ「お茶、ですね。Pさんもお茶で良いですね?」



P「はい、お願いします」



ちひろ「では、少々お待ちくださいね」



ガチャン



肇「…………」



P「そんなに緊張しなくていいですよ。面接しようってわけじゃないですから」



肇「はぁ……」



P「先ほどは不躾な物言い、大変失礼しました」



肇「いえ、私のほうこそ、昨日からお恥ずかしいところばかりお見せして……」





肇「……プロデューサーさん、だったんですね」



P「ええ。今は『C-BLUE』という4人のアイドルユニットを担当させて頂いています。ご存知ですか?」



肇「お名前は。舞台をメインに活動していらっしゃると」



P「舞台、と言って良いのかどうか……と、その話はまた後にして、さっそく本題に入らせて頂きます」



P「『なぜアイドルなのか』」



P「質問の答え、出ましたか?」



肇「…………」



P「あーいや、そうじゃないな……なんと言えば良いのか……うん」



P「まずは大前提の話をしましょう」



肇「大前提、ですか?」



P「はい。藤原肇さん。私は――いえ、僕は、貴女の才能が欲しい」



P「同時に、貴女を合格とすることで貴女の才能を潰してしまわないか、と不安にも思っている」





肇「才能、ですか……? お恥ずかしい話ですが私は非才の身、それは貴方も――」



P「先ほどの器の話ですね。あの時も言ったように、僕は陶器の専門家じゃありません。というより、むしろそこいらの人より審美眼に劣ると言っても過言じゃない。

 茶碗なんて米がよそえて飯が食えたら陶器だろうがプラスチックだろうが気にしない。

 湯飲みだって茶が飲めるなら紙コップでいいと思ってるし、瓶と壷の区別すら怪しいもんです。

 さっきのはただ、見たまま思ったままを何の遠慮もなく口に出しただけのでまかせです」



肇「……だとするのならなおさら、プロデューサーさんの目は確かなものです。見識もないままに、私の浅はかな虚栄心を言い当てたのですから。

 『個性を殺した果てに個性に至る』というのは……祖父もよく言っていることで、私も幼い頃から何度も聞かされました。

 けれど私にはそれができなかった。自分らしさというものを、求めてしまった」



肇「その結果が、あの器です。自分らしさ求めた結果――」



P「それ」



肇「え?」



P「その『自分らしさ』――『自分らしい表現』を求める姿勢こそ、僕にとって望ましいもので――僕のユニットに、絶対に必要なものです」







P「『C-BLUE』というユニットは――モバプロ内でも多少特殊なグループです」



P「リーダーの水木聖來は、路上でダンスをしているところをスカウトしました。彼女はもっとダンスをしたい、もっと大きな舞台で、ダンスを通じて自分を表現したい、自分を魅せたい、そういう欲求があった。彼女との出会いが、僕のプロデューサーとしての方向性を決定付けたと言っても過言ではありません」



P「吉岡沙紀はストリートグラフィティをしているところをスカウトしました。次第にグラフィティが出来る場所が少なくなる中、彼女もまた、自分の中のアートを表現できる場所を探していた」



P「望月聖は元々聖歌隊出身で、抜群の歌唱力を持っています。あまり人と話すのが得意ではなかったのですが、その分、歌で自分の気持ちを伝えたいという想いは人の何倍も強かった」



P「荒木比奈はアマチュアの漫画家で、創作活動にかける熱意は他のメンバーにひけを取りません。当初は舞台の粗筋や小道具なんかを作る時に裏方として個人的に協力して貰ってたんですが、今はメンバーとして表舞台に立って、それを楽しんでくれています」



P「『C-BLUE』のステージは、彼女たちの個性をぶつけ合って作ります。彼女たちのあれをやりたい、これを魅せたいという意見を最大限汲み上げて、専門の方を交えて、何度も何度も話し合いを重ねて創り上げます」



肇「…………」



P「そういう活動方針のせいか、どうにも華やかな方向には進まないんですよねぇ。実際、ニュージェネレーションのメンバーみたいにCDを出してるわけでも、ましてや個人でデビュー出来てる子もいないのが現実です」



P「貴女の可能性を潰すかも、ということの第一点は、これです。もしウチで採用した場合、ステージの華やかさこそ他に遅れを取らないレベルだとは言え、テレビだとか、CDだとか、そういうきらびやかな活躍が他の部署に比べても少なくなるでしょう」



肇「けどそれは――自分らしい表現を発露させ、舞台を創り上げるというのは、私には、とても素敵なことに思えます」



P「そう言って貰えると嬉しいですね」





P「そしてもう一つ僕が懸念しているのは、この道に進むことで、貴女の陶芸家としての未来を潰すことになりやしないかということです」



P「先の面接でも言いましたが、いずれ陶芸の道を進むのであれば、寄り道せずに進んだ方が良いのではないかと――」



肇「心配して頂いてありがとうございます。けどそれは、私の口から言わせてください」



P「…………」



肇「プロデューサーさんの話を聞いて、先ほどの質問の答えが出ました。

 プロデューサーさんの仰るとおりです。無心に作り続けろと祖父は言いますが、私にはそれが出来ませんでした。

 私は、私自身を、私という器を表現したかった――いえ、表現したいんです。

 それがこれまでの私の場合、陶芸だった。それにしたって、幼い頃から慣れ親しんで近くにあったから、という以上の理由なんかなかった」



肇「もちろん陶芸は嫌いではありません。土をこね、ろくろを回すのは――とても、心が落ち着きます」



肇「それでも今の自分を表現したいと思った時――陶芸では、ダメなのです」





肇「アイドルになって、自分という器が何を表現できるのか……自分でも、まだ分かっていません。

 自分という器に、何を入れられるのかも……でも」



肇「良い器は、どんなものをも、美しく引き立てます。

 そんな器に、私も変えていただけますか」



肇「私でも――アイドルに、なれますか」



P「変えるのも、変わるのも、貴女自身です」



肇「私でも、私だけの作品を――藤原肇というアイドルを、作ることができるでしょうか」



P「貴女にはその力があると――僕は、そう信じてます」





P「僕からも、質問です。先ほども説明したとおり、僕のユニットは多分、テレビだとかCDだとか、そういう派手な活動は控えめになります。もちろん、ステージの煌びやかさは他にひけを取らないものと自負していますが、貴女の憧れたアイドル像とは、少し趣が異なるかもしれません」



肇「――構いません。私の目的は、アイドルになる、というだけではありません。いえ、なかった、のです。ずっと、自分でも気付きませんでしたが。

  私は私という器を表現したい。私すら理解し得なかった私を理解してくれた、貴方と一緒に」



肇「私の知らない私を教えてくれた貴方を――私は、信じます」





P「それでは――藤原肇さん。これからよろしくお願いします。」





肇「ありがとうございます……! 私、自分を表現できるよう……表現しても恥ずかしくない自分になれるよう、頑張ります!」









          ◇









数ヶ月後

PM6:00 モバプロ内モバPマイルーム



肇「ただいま戻りました」



ちひろ「あ、肇ちゃんお帰りなさい。久し振りの里帰りは楽しかったですか?」



肇「はい。存分に堪能させて頂きました。今日はお土産を持ってきたんです。つまらないものですが、どうぞ」



ちひろ「吉備団子ですか、ありがとうございます! 早速お茶を入れて、頂きましょう」パタパタ



肇「……あの、Pさんはどちらに?」



ちひろ「あー、アレなら」





P「わんこー、わんこー、お仕事もう少しだよわんこー」モフモフモフモフ



わんこ「」



肇「……相変わらずメロメロですね」クスクス



わんこ「ワフッ」



P「ん? あれ、肇ちゃん? ああそうか、今日こっちに帰ってくる日だっけ」



肇「はい、寮に戻る前にご挨拶をと思いまして」



P「それはそれは、わざわざご丁寧に。見ての通り忙しいのであまりお構いもできませんが……」モフモフモフモフ



肇「……それは……お仕事で、ですよね? わんこくんと遊ぶので、じゃないですよね?」





肇「これ、Pさんにお土産です」コトリ



P「湯飲み、ですか?」



肇「はい。アイドルになってからはじめて、私が作った器です」



肇「……祖父に、誉められました。良い器を作るようになった、と」



肇「古い杓子定規で当てはめようとしたのは、間違っていたのかもしれない、と。少し寂しそうな顔はしていましたが」



P「間違いではないと思いますよ。肇ちゃんならきっと、いずれその境地には至ったでしょうから」



P「ただ、16歳の多感な時期に、自分を殺せ、は厳しすぎるでしょう」モフモフモフ



P「肇ちゃんの場合、アイドル活動を通して自分の“器”を発露させる機会が出来て陶芸で個性を出さなくてもよくなったから、その結果として良い器を作れるようになったんだと思いますよ」ワシャワシャワシャ



肇「そうでしょうか? ……そうだと、嬉しいですね」







肇「Pさん、この器は、貴方にはどう映りますか?」





肇「あの時と同じ、退屈な器と同じに見えますか?」





肇「あの時と同じように、率直な感想を聞かせてください」





P「………そうですね。僕もあの時と同じ、陶器に関しては素人のままなので、自分の浅はかな感想を何度もひけらかすのは正直恥ずかしいですが」





Pサーン、ハジメチャーン、オチャハイリマシタヨー





P「きっとこの器で飲むお茶は、安物のカップで飲むお茶とは比べものにならないほど格別な味がするんだろうな、と。なんだか、そんな気がします」









――ありがとうございます。最高の、褒め言葉です。









                                    糸冬

                                ---------------

                                





12:30│藤原肇 
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