2016年09月12日

P「ストイックな元隣人」

――ねえ。ねえってば。



ほら、起きなさい。もう朝の10時よ?



休みだからって、いつまでもぐーすか寝てちゃダメ。自堕落は敵!





さ、布団干すから。朝ご飯そこにあるから、たーんとお食べ♪



そうそう、まずは上半身を起こして……って、掛け布団を奪い返すな!



こら! いい加減起きなさい! 起きろ〜〜!



起きて――









「起きて、Pチャン!」



P「ぬわあっ!?」



P「あ……」





みく「やっと起きたにゃ。みくが朝来たら、ぐっすり寝ちゃってるんだもん」



みく「疲れてる?」



P「ああ……みく、か」



みく「そう、みくだよ。Pチャンの担当アイドルの前川みく」





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スレタイにモバつけ忘れました







P「……そうだよな。みく、だよな」



みく「……大丈夫? 寝ぼけてない?」ジトーー



P「いや、大丈夫。ちょっと、懐かしい夢を見ただけ」



みく「ふーん……まあ、いいけど」



みく「それよりPチャン、もうすぐ始業時間だよ? ちゃんとしないとちひろさんに怒られちゃう」



P「おっと、そうだったな。よし、まずは今日のスケジュールの確認からだ」



P「今日も頑張ろう」



みく「合点承知にゃ!」



P「はは。みくはいつもやる気満々だな」



みく「当然にゃ! トップアイドル目指して、毎日気合いを入れていかないと」



P「……そうだな」



俺がシンデレラプロダクションに就職したのは、今から2年半前のこと。

はじめはアシスタントとして経験を積んでいき、今年の春からいよいよひとりでアイドルのプロデュースを務めることになった。

あてがわれたアイドルは、前川みく。大阪出身の15歳の少女で、本人たっての希望で猫キャラを推したプロデュースを行っている。

彼女とのコミュニケーションは、まあ悪くないと感じている。少なくとも、口論が絶えないとか口数が少なくなるとか、そういった状況にはなっていない。



だが、肝心のプロデュースに関しては……芳しいとは、言えない。



P「はい。はい……そうですか」



P「ご連絡いただきありがとうございます。今後機会があれば、ぜひうちの前川を」



P「……失礼いたします」



ピッ



P「またダメだったか……」





みく「ただいま、Pチャン。レッスン終わったよ……って、どうしたの? 元気ないにゃ」



P「ああ、おかえり。ええと、実は」



みく「……ひょっとして。また、オーディション落ちてた?」



P「……すまない」



みく「そっか……」



みく「で、でも。また頑張ればいいにゃ! 次があるんだし」



みく「ていうか、どうしてPチャンが謝るの? ダメだったのはみくの力不足なのに」



P「いや……俺が、もっと君に合った仕事のオーディションに参加させていれば」



みく「Pチャン……」



みく「……みくは、今回のバックダンサーのお仕事、やりたいって思ったよ。だから、オーディションにも参加したにゃ」



みく「だから………ううん、なんでもない」



P「みく?」



みく「お昼、食べてくるね。午後からはダンスレッスンだし、栄養補給しないと」



P「あっ……ちょっと」





ガチャ、バタン





P「………みく」



P「はあ……ダメなプロデューサーだな。俺」





まだ駆け出しの新人アイドルとはいえ……いや、新人だからこそ、最初からつまづきっぱなしは堪えるだろう。

自己嫌悪に陥りそうになるが、ため息をついていても始まらない。





P「また、次の仕事を探さないと」



P「今参加できそうなもののうち、みくがオーディションに合格できそうなものは……」





その日の夜





居酒屋の店員「いらっしゃいませー!」



P(昼間にあんなこと言っといて、早速酒で紛らわそうとしているのはどうなんだろうな)



P「……いや、たまには息抜きが必要だ。夜に酒を飲むくらい許されるよな」



店員「カウンター席でよろしいでしょうか?」



P「あ、はい。大丈夫です」



店員「では、こちらの席へどうぞ」







女性客「ね〜大将、ひどいと思わない? 私はお客様にためにと思ってやってるのに、上司の女は勝手なことするなーって怒るのよ?」



大将「は、はあ……俺にゃあ、難しいことはよくわかんねえで」



女性客「あの人いっつも私を目の敵にしてるの。なにが気に食わないのか知らないけど、むかつくっ!」



女性客「大将! ビールおかわり!」



大将「へ、へぇ。ビール追加で」







P(うわあ。隣の席の人、酔ってるなあ)



P(けど、どこかで聞いたことあるような声……というか、後ろ姿にもやたらと見覚えが)ジーー



女性客「……ん?」クルリ



P(やば、見すぎたか)



P「って、あれ?」



女性客「あら〜、ごめんなさい。少し騒ぎ過ぎちゃってオホホ……」



女性客「って、え?」







P「……夏美、さん?」



夏美「……P……くん?」





大将(なんだかよくわからねえけど、これで解放されそうだ……)





夏美「………」チビチビ



P「………」チビチビ



夏美「……えっと。恥ずかしいとこ、見せちゃったわね」



P「いや、そんなことはないけど……だいぶ荒れてたみたいだな」



夏美「……おっしゃる通りです」カアァ



P「今、キャビンアテンダントやってるんだよな」



夏美「うん。あちこち飛び回ってるわ……今は、まとめて休みとってる最中だけど」



P「そうか。休みも大事だよな」



夏美「ええ。……Pくんは、芸能事務所で働いているんだっけ」



P「ああ、うん。一応、アイドルのプロデューサーをやってる」



夏美「アイドルの……へえ、すごいじゃない。今ブームでしょ、アイドル」



P「そのぶん数も多いから、プロデューサーの数もたくさん必要なだけだよ」



P「………というか、あれだな」



P「久しぶり。大学の卒業式以来か」



夏美「……久しぶり」



夏美「……セリフの順番、おかしくない?」



P「おかしいな……」



夏美「………」



P「………」



夏美「ふふっ」



P「はは」





相馬夏美さん、25歳。

俺と同い年の彼女とは、大学時代に出会った。

高校を卒業した俺はキャンパスの近くのアパートに住み始めたのだが、隣の部屋を借りていたのが彼女だったのだ。







P「あれ?」



夏美「あ、お隣さんの……」



P「ひょっとして、同じ大学ですか」



夏美「学年も同じだなんて、奇遇ですね」







学部も同じで講義が被ることも多く、プライベートでも頻繁に顔を合わせる仲。いつからか、どちらからともなく声をかけあうくらいの関係に進展していた。





夏美「Pくん、午後の講義同じだよね。お昼一緒に食べない?」



P「ああ、いいよ。学食?」



夏美「ふふふ……じゃーん! なんと今日は、お弁当を作ってきちゃったわ!」



P「おおっ!」



夏美「学食は混むし、中庭で一緒に食べよう?」



P「ありがとう」











夏美「……すぅ」



P「おーい」ツンツン



夏美「はわっ!? あ、私寝ちゃってた?」



P「ぐっすりとな」



夏美「あちゃー。せっかく二人で課題を片付けてたのに」



P「もう終わりでいいんじゃないか? 十分形にはなってるぞ」



夏美「んー……でも、もう少し手直しできると思うのよね。このレポート」



P「けど、これ以上夜更かしして身体を壊すのもよくない。もう寝よう」



P「女の子は身体を大事にしないと」



夏美「………」



夏美「……そうね」フフッ











夏美「懐かしいなあ。一緒に遅くまで課題をやったり、私があなたのご飯作ってあげたり」



P「いきなり遊びに誘われることもたくさんあった気がする」



夏美「だって、隣の部屋だから誘いやすかったんだもん。待ち合わせとか必要ないし」



P「男友達に羨ましがられたなあ。ちょっとふくよかだけど、美人とデートできてずるいって」





夏美「うふふ。一言余計」



P「過去の事実を述べているだけだ。しょうがない」



P「けど……痩せたね。夏美さん」



夏美「日頃の努力の賜物よ。まだまだ物足りないけどね」



P「……十分じゃないか?」



夏美「あら? Pくんは、このくらいの肉つきが一番好みってこと?」



P「だ、誰もそういう話はしてないだろう」



夏美「うふふ、冗談よ♪」



P「……酔ってるなあ」



夏美「まあね♪」



夏美「今夜は最初からやけ酒のつもりだったから、ガンガン飲んでたのよ」



P「やけ酒……さっきの、仕事の愚痴と関係が?」



夏美「そういうこと」



P「……聞いていいか?」



夏美「楽しい話じゃないわよ?」



P「わかってる。……すみません、唐揚げ一皿ください」





夏美「そりゃあ、私だってマニュアル通りにやることの大切さは理解しているつもりよ」



夏美「でも、お客様のために多少アドリブきかせることって、そんなにいけないことかしら」



P「……難しい話だな。アドリブの程度にもよるだろうし」



P「たとえば、突然通路で腹踊りを始めたりしたらさすがに怒られるだろう」



夏美「そんなことしないわよっ」



P「でも、4年前の忘年会では」



夏美「わーっ! わーっ! 若気の至りを掘り返すの禁止!」





夏美「……それに。普通に注意されたり怒られるだけなら私だって納得するわ」



夏美「なんていうか、責め方が陰湿なのよ。先輩のひとりとか、関係ないところでも私へのあたりが強いし……」



P「………」



彼女は昔から、思い立ったら一直線。目標に向かって頑張って頑張って、ついやりすぎてしまうところがあった。

いわゆるストイックな性格なのだが……それは時として、周囲の反感を買ってしまいかねない。

それは、昔から感じていたことだった。





夏美「……ううん。これは私の自意識過剰かもしれないし、言っても仕方ないわね」



P「……苦労してるんだな」



夏美「嫌な女でしょ。久しぶりに会った友達に、陰口交じりの愚痴をこぼしてるなんて」



P「話を聞きたいって言ったのは俺なんだから、気にすることないって」



夏美「………」



夏美「それもそっか」ケロリ



P「開き直りはやっ」



夏美「引きずりすぎるのは性に合わないもの」



夏美「そうだ。代わりにPくんの仕事の愚痴を聞いてあげるから」



P「俺の?」



夏美「そう。それとも、愚痴のひとつもないほど順調? それはそれでおめでたいけど」



P「……いや、そんなことはないよ」



夏美「でしょうね。そんな顔してる」



P「わかるのか」



夏美「わかるわ。一緒に寝たこともあるくらいの仲なんだから」



P「そうか……」





P「寝たと言っても、酔いつぶれた夏美さんを介抱してたら、離してくれなくなっただけだけどな」



夏美「酒癖が悪くてごめんなさい」



夏美「……なるほどねー。アイドルのプロデュース、うまくいってないのね」



P「彼女は新人で、俺もプロデューサーとしては未熟者だから……どうしたものかと悩んでる」



P「今日なんかは、少し彼女とギクシャクしてしまった気もするし」



夏美「ギクシャク?」



P「ああ」





今日の出来事を、かいつまんで説明する。もちろん、みくの名前は出していない。





P「午後からも、なんだか元気がないようだったし。帰り際の挨拶も声が小さかった」



夏美「………」



夏美「私は、その子のことを全然知らないから、憶測でしかものを言えないわ」



夏美「でも……なんとなくだけど、その子は私と同じな気がする」



P「同じ? 夏美さんと?」



夏美「本当に、なんとなくの話よ」





夏美「今の話を聞く限りだと、その子はトップアイドルへの意識がすごく強いみたいだし」



夏美「レッスンだって、毎日一生懸命やってるんでしょう?」



P「ああ。居残りで自主練をやる日も多い。あんまり無理をしているように見えたら、こっちから止めるようにはしている」



夏美「やっぱり」フフ



夏美「その子はきっと、やりたいことに一直線なのよ。とても真っすぐ、自分を曲げない」



夏美「だから、今回挑んだオーディション。本気でやりたいと思って、本気で準備して、本気でやり切った」



夏美「それを『もっと君に合った仕事を選ぶべきだった』なんて言われたら……もやもやしちゃうの、なんとなくわかるわ」



夏美「もっと頑張るから、もっと自分を信じてほしい――そう、思っちゃうのよ」



P「………」



P「そうか……俺は、彼女を信じ切れていなかったんだ」





あの時のみくの表情を思い出す。

視線はこちらを向いていなかったが……間違いなく、寂しそうな顔だった。

その意味を、今ようやくはっきりと理解して、胸が締め付けられる。





P「昔からそうだ。俺はいろいろと計算をして、現実を見ようとして……それで」



夏美「それは決して間違いじゃないわ。現実を見ることは大事だから」



夏美「けれど、だからこそ」



P「……俺達は、かみ合わないとわかってしまった」



『俺達』とは、俺とみくのことではない。

俺と、夏美さんの。



夏美「一応、付き合ってみたことはあったけど……やっぱり、『仲のいい隣人』がちょうどいい関係だったのよね」



夏美「たったひとりのパートナーとしては、大切な何かがズレていた」



P「お互いに、そう思った」



夏美「………」



夏美「そう、ね。お互いに」





それは、大学時代の楽しくもほろ苦い想い出。

卒業後は、俺も彼女も仕事が忙しくて、こうして今日再会するまで顔を合わせたことはなかった。



でも、本当にそれだけなのだろうか。

会おうと思えば、会える機会は何度かあった気がする。たとえば、彼女が東京に来た時とか。

俺は――



P「……いや」



今は、それよりも。



P「もし、夏美さんと俺の担当アイドルが同じだとしたら……俺は、あの子ともかみ合わないことになってしまう」



P「それは……ダメだ」



俺は彼女を信じ切れていなかったのかもしれない。

けれど、彼女は俺のことを信じてくれていた。うぬぼれかもしれないけれど、そう感じている。



P「俺は、責任をもってご両親から彼女を預かっているんだ。諦めたくない」



夏美「Pくん……」



P「ありがとう、夏美さん。おかげで、やるべきことがわかった気がする」



P「プロデューサーとして、いろいろと現実を見て考えなければならないのは正しい。でもそれ以前に、ちゃんとアイドルを見て、そして信じる」



P「やってみせる」



夏美「……ふふ」ニコニコ



夏美「いい顔してるわ。頑張れ、プロデューサーさん♪」



P「ああ、頑張るよ。まずは明日、彼女に謝るところからだ」



夏美「………」



夏美「ちょっと妬いちゃうかも」ボソッ



P「さ、話はここまでにして。うまい酒飲もうか」



夏美「……ええ、そうね」



P「……それと。東京、いつまでいる予定?」



夏美「え? 一応、週末まではいる予定だけど」



P「わかった。今日が水曜だから……土曜日。また、会えないか」



夏美「いいけど、何をするの? 久しぶりに一緒に映画でも見る?」



P「それもいいな。でも、話したいことがあるんだ」



夏美「?」





土曜日





夏美「やっほー! Pくん!」



P「おはよう」



夏美「どう? 張り切ってオシャレしてきたんだけど、似合ってる?」



P「似合ってるよ。思わず胸元に目が行くくらい」



夏美「うふふ♪ セクハラ」



P「こういうやり取りも懐かしいな」



夏美「そうね。なんだか学生の頃に戻った気分」







夏美「映画まで、また時間があるし……先に、あなたの話っていうのを聞きましょうか」



P「ありがとう」



P「まず、この前の担当アイドルの件なんだが。あれは無事解決した」



P「一昨日、俺なりに『これからは、ちゃんと見て信じてプロデュースする』って伝えたら、笑顔でうなずいてくれたよ」



夏美「そっか、よかった。気になっていたのよ、そのこと」



夏美「というか、それなら一昨日に電話で教えてくれればよかったのに」ムス



P「ごめんごめん。どうしても、それと一緒に伝えたいことがあって。で、そっちはどうしても直接面と向かって話したかったんだ」



夏美「……それって?」



P「とりあえず、座れる場所に移動しよう。近くに公園があるから、そこのベンチにでも」





わいわいきゃいきゃい





夏美「土曜日だから、結構人が多いわね」



P「席が余ってて助かった」



夏美「それで、話の方は」



P「お、あそこにクレープの屋台があるな。せっかくだし買って」



夏美「待って」グイ



P「うわっ」



夏美「……まさかとは思うけど。話、どんどん先延ばしにしようとしていないかしら」ジトーー



P「……すみません」



夏美「まったく。そんなに言いづらいことなの?」



P「かなり勇気がいることだ。俺にとっては」



夏美「そう……でも、私を呼んだってことは、言う決心はついているのよね」



夏美「だったら話して。私も、ちゃんと聞くから」



P「……そうだな。うん、いつまでも逃げてちゃダメだ」



P「相馬夏美さん」



夏美「は、はい」







P「アイドルになる気は、ありませんか?」



夏美「………」



夏美「………」



夏美「はえぁ?」



P「うん。その反応は予想していた」



夏美「うん、予想されてないと困るわ……いったいどういうことなの?」



P「理由はいくつかあるから、今から説明する」



P「まずひとつ。俺は、夏美さんとの関係を諦めたくない。歯車がかみ合わないのはわかっているけど、だからって疎遠になっていくのは嫌だ」





会うチャンスはあったのに、それを見過ごしてきた。

その理由はきっと、彼女のことを忘れようとしていたから。

近くにいて、それでいて遠かった彼女。そのジレンマに耐えられなくて、いっそ遠ざけてしまえばいいと無意識で思っていたのだ。

それは、学生時代を引きずっていた自分の、後ろ向きに凝り固まった感情。どうせ無理なら一切合切割り切ってしまえという、現実主義に見せかけた結論。





P「彼女……担当の子とは、少しずつでも前に進んでいくことを決めた。難しくても、やってやると決めたんだ」



P「なら、君についても同じだ。一歩一歩、始めていけばいい」



最終的に、彼女とどういう関係に収まるのか。それはわからない。自分自身どう思っているか、まだはっきりとはしていない。

ただ、ひとつだけはっきりしていることがある。



P「このまま、『元隣人』の関係で終わることだけは、嫌なんだ。この前君と話して、改めてそう思った」



夏美「……Pくん」



P「もうひとつの理由は単純で、夏美さんが職場の人間関係に困っているようだったから」



P「アイドルは安定しない職業だけど、自分自身を出していくことが大切だから。ストイックな夏美さんには、向いていると思う」



夏美「………」



P「もちろん、転職という大事なことをこの場で決めてほしいなんて言うつもりはない。バカらしいと思えば、今すぐ断ってくれてかまわ――」



夏美「ぷっ」



夏美「あはっ、あはははははっ!!」



P「……夏美さん?」



夏美「な、なにそれ……ふふっ。全然ちっとも、Pらしくないよ。Pらしくない、めちゃくちゃな理論だわ!」



夏美「でも、それが好き。私、今すっごくドキドキしてる」



夏美「さすがにすぐには決められないけど、前向きに検討させてもらうわ」



P「………」



P「久しぶりに見た。そんな楽しそうな顔」



夏美「あなたがそうさせたのよ♪」



そう言って笑う彼女は、本当に幸せそうで。

俺もつられて、顔がにやけてしまっているのを感じた。



P「夏美さん。そろそろ映画――」



夏美「ねえ。また昔みたいな呼び方してくれないかな?」



P「………」



P「……夏美」



夏美「よろしい♪」







これは、決してゴールではない。

一度奪われてしまったボールを、再びこちら側に戻しただけに過ぎない。

だから……ここからまた、リスタートだ。



翌週





みく「ふんふんふふーん♪」



みく「昨日はゆっくり休めたし、また今日からアイドル頑張るぞーっ」オーッ



みく「Pチャンとも最近いい感じだし、やっと真のコンビらしくなってきたのにゃ」





P『ちゃんとみくのことを見る。聴く。だから、少しずつわかりあっていこう』





みく「にゃふふ……♪」



みく「おっはよーにゃー! 今日も一日――」ガチャリ







夏美「お客様。かゆいところはございませんか?」



P「ないけど……なぜ耳掃除を」



夏美「いいじゃない。久しぶりに私の膝の感触が味わえてうれしいでしょう?」



P「………」



夏美「♪」





みく「………」



みく「こ、コンビ解散にゃーーー!!!」ウガーー!!





夏美「相馬夏美です。よろしくお願いします」



みく「ふしゃー!!」



夏美「あら? なんだか誤解されてるみたい?」



P「夏美……さんは、今日からアイドルとしてプロダクションの仲間になったんだ。みくと一緒に、俺の担当アイドルとして頑張ってもらう」



みく「……新入りアイドルってこと?」



夏美「そういうことね」



みく「なんだ。みくはてっきり、Pチャンが彼女でも連れてきたのかと思ったのにゃ」



夏美「まあ元カノだけど」ボソッ



P「ややこしくなること言わない」



みく「前川みくです。よろしくお願いします」



夏美「よろしくね、みくちゃん」



夏美「あと、かしこまった口調はいらないわ。みくちゃんのほうが先輩なんだから」



みく「先輩……みくが?」



夏美「うん♪」



みく「そっか……先輩かあ。みくもついに後輩をもつところまで来たのにゃ〜」ニヘラ



みく「よーし、夏美チャン! 早速みくが事務所の中を案内してあげるにゃ!」



夏美「いいの? それじゃあ、お願いしちゃおうかな」



P「あれ、それは俺がやろうと思っていたんだが」



みく「Pチャンは他のことやってにゃ。さあ、しゅっぱーつ!」



夏美「離陸いたしまーす♪」





ガチャ、バタン





P「………」



P「仲良くやれそう……なのかな。ひとまずは」



P「頑張らないとな。二人ともストイックだし、行きすぎるところがあるから」



P「……そういう意味じゃ、チキンな俺と組むのは悪くないか」



夏美「あ、そうだ。P」ヒョコッ



P「あれ、どうしたんだ。戻ってきて」



夏美「みくちゃんが可愛いからって、エッチな目で見ちゃダメだからね」



P「いや、見てないから」



夏美「ホントにー?」



P「……多分」



夏美「ふうーん」ジトーー



夏美「まあ、いいわ」



夏美「もしみくちゃんにそういう視線を向けそうになった時は、私で我慢してね。許してあげるから」



夏美「それじゃあね♪」







P「さらっととんでもないこと言うだけ言って出ていったな……」



夏美「あ、そうだ」



P「またか! いい加減みくが待ちくたびれて」





夏美「ありがとう。そして、これからよろしく。私のプロデューサー」



夏美「じゃあね♪」





ガチャ、バタン





P「………」



P「そういうところが、昔からずるいんだよなあ……」







おしまい





08:30│相馬夏美 
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