2016年09月23日

神谷奈緒「プレゼント」

アイドルマスターシンデレラガールズ、神谷奈緒のお話です



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「「誕生日おめでとう!!!」」





 事務所のドアを開けた瞬間、あたしはクラッカーとおめでとうの声の波に包まれた。



「お、おう! ありがとな!」



 面食らってしまい、一瞬呆けた顔になったが、すぐに満面の笑みを作ってお礼を言う。



 今日、9月16日はあたし、神谷奈緒の誕生日だ。



 ソロの仕事を終え、事務所に戻ってみると、そこにはトライアドプリムスの凛と加蓮がニコニコしながらあたしを待っていてくれた。



「どう? 綺麗でしょ? 頑張ったんだよ?」



 加蓮が自慢げにあたしに感想を求めてくる。



 ぐるりと事務所を見回すと朝にはなかった飾りが至る所にされているのに気が付く。なるほど、これは確かに手間がかかっているだろう。



「確かになぁ。よくこんなに出来たよなぁ」



 加蓮と凛もあたしと同じく仕事があったはずだから、これだけの飾りつけをするには相当頑張らないといけなかっただろう。





「……実は、プロデューサーがさ」



「ん?」



 あたしが事務所の飾りつけを見ながら素直に感嘆の声を上げていると、どうにも居心地悪そうにした凛がネタ晴らしをしてくれた。



「私達のソロの仕事って実は嘘で、奈緒のために時間作ってくれてたんだ」



 なるほど。これはPさんの差し金だったのか。



「あー、もう! なんでバラしちゃうかなぁ、凛は」



「だって、奈緒がこんなに素直な反応するなんて思ってなかったからさ」



 加蓮が可愛らしく凛を責め立てると、凛は慌てて弁明を始めた。弁明はまぁいい。



 ……でも、あたしが素直な反応をすると思ってなかったってどういう事だ!





「あ、そうだ。はい、これプレゼント」



 凛と一通りじゃれ合って気が済んだのだろう。加蓮は自分のバッグから包装紙に包まれた小さな箱を取り出した。



「ありがとな! 開けても良いか?」



「もちろん!」



 加蓮の許可を得て、包装紙を丁寧に剥がして箱を開けてみると、中にはマニキュアが入っていた。



「マニキュアかー。加蓮らしいな」



「どう? 奈緒に似合いそうだなって思ったの」



 どうと聞かれても、加蓮が選んでくれたのだから嬉しいに決まってる。



「うん! すごくうれしいよ!」



 とは言ったもののあんまりマニキュアを塗らないあたしにしてみれば持て余してしまいそうではあるが。



「塗ってあげよっか?」



 加蓮が目をキラキラさせながら提案をしてくれる。どうやら、このマニキュアを使ってみたいのは加蓮の方らしい。





「その前に、次は私のプレゼント受け取ってよ」



 あたしがお願いしようと口を開きかけると、今度は凛が手に持った箱をあたしに差し出してきた。



「凛もありがとな! 開けるぞ?」



 あたしが言うと凛はうん、と一言で許可をくれた。



「あ、可愛い」



 凛からのプレゼントは手鏡だった。



「奈緒が使ってる手鏡って前に一緒に買い物に行った時に100均で買ったやつでしょ?」



「あー。よく覚えてるな」



 あんまりメイクとかしないあたしは見えれば良いという理由で100均の鏡を使っているのだ。



「普段使い出来るものが良いかなって思ったからさ」



 確かに手鏡なら毎日使うし、ありがたい。せっかく加蓮からマニキュアも貰ったし、これを機にちょっとメイクにも力を入れてみても良いかもしれない。





「じゃあ凛からのプレゼントも終わったことだし、ネイルしてあげる」



「ああ、頼むよ」



 先ほどからうずうずしていたのだろう、加蓮は自分のポーチから様々な道具を取り出して準備をしていた。



「なら、私はケーキとってこようかな」



「うん、いってらっしゃーい」



 凛はそう言い残すと給湯室の方に行ってしまった。ケーキまで用意してくれてたのか。



 加蓮が真剣な目つきであたしの爪を弄っている。それなりに手入れをしてるつもりでは居たが、どうやら加蓮のお気に召さないらしい。どうにもおしゃれはあたしには向いていない気がする。



「持ってきたけど……」



 少し経って凛が戻ってくると、あたしの状況を見て言葉に詰まってしまった。



「あー……終わってからにしよう」



 加蓮はあたしの爪を弄っているから両手が塞がってるし、あたしも片手しか自由じゃないからケーキを食べるには少しばかり向いてない状況だ。



「ふふっ、そうだね」



 凛が笑いながらケーキをテーブルの上に置いて、あたしの隣に腰を降ろす。



 最近忙しかったし、こんなのんびりとした時間も悪くはない。











 ケーキも食べ終え、いつものように談笑していると、ふいに携帯が振動し始めた。



「ちょっと、ごめん」



 一言断りを入れてから携帯を確認すると、画面には『プロデューサー』と表示されていた、



「もしもし?」



『もしもし? 奈緒か?』



 電話に出るとなにやら騒がしそうな音に混じって聞き慣れた声があたしの名前を呼んだ。



「うん。どうしたんだ? 今日忙しいんだろ?」



 確か、今日は出張で戻ってこれないってちょっと前に聞かされた気がする。



『あー、騒がしくてすまん。やっぱり戻れそうにないから電話で言っておこうと思ってな』



 なにやら視界の端で凛と加蓮がニヤニヤしているがとりあえずは無視だ無視。



『誕生日おめでとう、奈緒』



 電話口ではあるが、Pさんからおめでとうと言われるのはやっぱり嬉しい。



 ここで顔に出すとまた凛と加蓮にからかわれるから表情には出さないけどな。



「ありがとな。Pさんもお仕事頑張ってくれな」



『おう! じゃあすまんが本当に忙しいからもう切るな? プレゼントはまた今度渡すから』



 それだけ言うとあっという間に電話は切れてしまった。なるほど、本当に忙しいみたいだ。





 電話を見るのをやめて顔を上げてみると、そこにはおもちゃを見つけた子供の目をした凛と加蓮が居た。



「よかったね、奈緒。プロデューサーからもお祝いしてもらえて」



「うんうん。今日はPさんに会えないから奈緒は寂しかっただろうし」



「だなー。やっぱお祝いされると嬉しいもんな」



 あたしがそう素直に返すと、途端に二人はきょとんとした顔になった。



 ふっふっふ。二人がこの反応をするのは予想済みだったからな。たまにはあたしが優位に立たせてもらう。



「なんだ? そんな鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔して」



 いつものあたしならここで素直じゃない反応をして、二人に余計からかわれていただろう。



 でも、また一つ歳を重ねたあたしは昨日までのあたしじゃない! 大人に一歩近づいたあたしは余裕をもって二人に対応できるんだ。



 あたしをからかえなかったのがよほど悔しかったのだろう。その後も二人はなんとかあたしをからかおうと色々と言ってきたがすべて受け流してやった。大人だからな!











「んー……?」



 そろそろ良い時間になってきたので、そろそろ解散するかって時に、二人から忘れていたとわざとらしい態度で茶封筒を手渡された。



 なんでもプロデューサーからだそうだ。



 でも、プロデューサーはプレゼントは今度って言っていた事を思い出し、これはなんなのかと二人に問い質そうとしたのだが、二人はまるで逃げ出すかのようにさっさと帰ってしまった。



「やっぱりどう見ても鍵、だよなぁ……」



 二人が帰ったあと、茶封筒を開けてみると中から一本の鍵が出てきた。



「でも、どこの鍵だ? これ?」



 なんで鍵が出てきたのかは分からないが、あの二人が何か意味ありげだった事を考えると、あたしの誕生日に関係してそうな気がする。



 そう思ったあたしは事務所でこの鍵が合いそうなところを一通り探してみたのだが、どうも一致するところが見当たらなかった。



「うーん……」



 なんの鍵か思案しながら駅に向かっていると、ある一つの可能性に思い当たった。





「いやいや……、なわけないって……」



 二人から、ではなく、プロデューサーかと言われた渡された鍵。



 この可能性を試すために、あたしは普段乗っている電車とは違う電車に乗ってここまで来てしまった。



 プロデューサーのアパートに。



「まさかね……」



 半信半疑のまま鍵をドアノブに刺し、回らない事を証明してみせようと力を入れると、ガチャンという音がして鍵は簡単に回ってしまった。



「えっ!?」



 鍵を開けた本人が驚いてどうするのか。とりあえず、開いてしまったならこの鍵はプロデューサーのアパートの鍵で間違いないのだろう。



「……もしかして、Pさん、居るのか……?」



 凛と加蓮のようにPさんもサプライズをしかけていたのだとすれば、あの二人が鍵を持っていたのも頷ける。



「お、お邪魔しまーす……」



 外からでは中の様子を伺い知る事が出来なかったため、あたしは意を決してドアを開けてPさんの住む部屋に入ってみる事にした。





「……Pさん?」



 声をかけながら部屋の奥に進むと、そこはベッドと机と棚が一つだけ置いてある部屋でPさんは何処にも居なかった。



「だ、だよなー! だって出張って言ってたもんな!」



 誰に言い訳をするでもなくちょっと大きな声で言ってみる。



 まったく期待していなかったと言えば嘘になるが、頭の中ではちゃんとわかっていた。



「……ここがPさんの部屋かぁ」



 初めて入った部屋は確かにPさんの匂いがした。



「ここで、Pさんは暮らしてるのか」



 すぐに出て行かなければ悪いとは思いつつも、少しだけいつもPさんが見ている景色が見てみたくなってベッドに腰を降ろした。



 ベッドから見る景色はただのワンルーム。あまり家具は無く、床に無造作にCDやら書類の束が置かれている。





「ちゃんと帰ってるのかな……」



 ふとした疑問が頭をよぎる。Pさんはいつも事務所に居て、あたし達が来るとおはようと出迎えてくれ、帰る時にはお疲れ様とねぎらいの言葉をかけてくれる。



 いつも朝早くから夜遅くまで。ほとんど休んでいるところを見たことがない。



「身体、大丈夫なのかな……」



 仕事を終えれば疲れるのは当たり前だ。現にあたしだって疲れは感じている。それ以上に楽しいからあんまり気にならないだけで。



 キョロキョロと周りを見渡す。もちろんあたし以外に誰も居ないのは分かっているが念のため。



「た、誕生日だし……いい、よな……」



 言い訳をするとPさんのベッドに寝転がる。



「あ……。Pさんの匂いがする……」



 こうしてPさんのベッドに寝転がっているとまるでPさんに抱きしめられているような気になる。



「ふふっ……凛と加蓮には感謝しなくちゃな……」



 思いもかけない誕生日プレゼントをもらってしまった事に頭の中でお礼を言う。



「明日……もう一度……お礼言っておこう……」



 ……あたしは自分で思っていた以上に疲れていたのだろう。Pさんのベッドに横になっているうちに眠ってしまった。











「……! ……お! 奈緒!」



「んん……?」



 あたしを呼ぶ声がする。よく聞き慣れた声があたしを呼んでいる。



「奈緒! 起きろ!」



「ん……? うん!?」



 段々と意識がはっきりしてくると、声の主が誰だかわかってしまった。



 それと同時にあたしの置かれている状況も分かってしまった。



「ご、ごめん! Pさん!」



 謝りながら飛び起きると、目の前にはスーツ姿のPさんが居た。



「い、今何時だ!?」



 Pさんの家に無断で侵入してしまったこともまずいのだが、それよりPさんがここに居ると言う事はもう相当遅い時間だろう。家に何の連絡もせずにこんな時間まで出歩いていては両親に怒られてしまう。



「23時回ってる」



「あああぁぁぁ……!」



 頭を抱えてうなだれる。もうすぐ23時と言う事はすでに終電は無いし、今更連絡を入れたとしてもすでに遅いだろう。





「絶望してるとこ悪いが。お前、どうやって入ったんだ?」



 ……どうやら両親に怒られる前にPさんに怒られなければいけないみたいだ。



「……ごめんなさい。凛と加蓮に貰った鍵で……」



 こういう時は素直に謝っておくのが一番だ。



「鍵? 俺の部屋のか?」



 頷きながらポケットに入れていた鍵を取り出して見せる。



 Pさんは訝し気な表情をしながらあたしから鍵を取り上げるとまじまじと眺めていた。



「あ、あの!」



 謝って許されることではないが、とりあえず謝ろう。



「勝手に入ってごめんなさい!」



 泣きそうになるのを必死にこらえて、頭を下げる。勝手に部屋に入ってしまったのだ。許してもらえなくても仕方がない。





「いや、別に部屋入ったくらいは構わんが……。それよりこの鍵、あいつらはどこで手に入れたんだ?」



 言われてみれば確かにそうだ。Pさんの家の場所はみんな知ってはいるが、鍵を持っているなんて話は聞いたことが無い。



「えっと……ごめん。あたしも凛と加蓮にもらったからわかんない……」



「となるとちひろさんか……」



「ちひろさん……?」



 なんでちひろさんがPさんの家の鍵を持っているんだ……?」



「念のため、スタッフは事務所に家の鍵のスペアを預けてあるんだよ」



 あたしの表情が変わったのを見て気付いたのだろう。Pさんがそう説明してくれた。



「なるほど……」



 そうなるとこのサプライズはちひろさんが仕掛けたのか?



「まったく……こんなことするなら事前に教えておいて欲しかったよ」



 Pさんはようやく気が緩んだのだろう。ジャケットを脱いでネクタイを緩めながらベッドに腰掛けた。





「帰ってきたら部屋の鍵が開いてるから泥棒でも入ったのかと思ってすげぇ怖かったんだからな」



 あー、怖かった、と言いながらPさんはベッドに仰向けに寝転がったのだが、すぐに起き上がってしまった。



「どうしたんだ?」



 あたしが尋ねると、Pさんはちょっと顔を赤くして何か言いづらそうにあーとかそのとか言って言葉を探し始めた。



「その……なんだ。……奈緒の匂いがする」



 ようやく見つけた言葉はあたしを真っ赤にさせるには充分過ぎるほどの破壊力を秘めていた。



「な……ななな! なに言ってんだ!」



 真っ赤になりながらPさんに抗議の声を上げるが、PさんはPさんで赤い顔をしながら言い訳を並べ立てていた。











 しばらく経ってからようやく落ち着いてから、家に連絡を入れていない事を思い出し、携帯を取り出すと加蓮からLINEが来ていた。



 なんでも、あたしの家には加蓮の家に泊まると連絡してあるから心配しなくても良い、とのことだった。



 となると、こうなるのもある程度想定済みなのだろう。



「あ、そうだ。せっかくい会えたんだし、これ」



 Pさんはそう言うと、棚から綺麗に包装紙で包まれた箱を取り出した。



「誕生日おめでとう。少し過ぎたけどプレゼントだ」



「あ、ありがと……」



 加蓮と凛がくれた箱よりも少し重い、箱の中身は腕時計だった。



「何が良いかわかんなくてさ。とりあえず使えそうなものって思ったら時計に行きついた。気に入らなかったら家にでも飾っておいてくれ」



「ううん。大丈夫。すごく気に入った」



 白を基調にしたシンプルだけど上品なデザインの時計はあたしが大人になったと認めてもらえた気がして嬉しくなってしまう。





「ど、どう……?」



 さっそく左腕につけてPさんに見せてみる。



「思った通りだ。よく似合ってる」



「そ、そうかな? へへへ……」



 嬉しくなって思わず笑い声が零れてしまった。



 改めて腕時計を見ると、時計の針が丁度12のところで重なるところだった。



「誕生日、終わっちゃった」



 だからと言ってシンデレラのように魔法が解けるわけではないのだが、せっかくの誕生日が終わってしまうのはなんだかもったいない気がする。



「残念そうって事は幸せな誕生日だったんだな」



「幸せ……。うん。とっても幸せな誕生日だったよ」



 最後の最後にひと騒動あったけど、充分に幸せな一日だった。



「奈緒」



 Pさんがあたしを呼ぶ。



「改めて、誕生日おめでとう」



「うん。ありがとう!」



End





23:30│神谷奈緒 
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