2016年10月04日

愛梨「ハートドリンク?」

・シンデレラガールズSS

・三人称地の文あり

・ハートドリンク:アイドルとの親愛度がアップするアイテム







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「おはようございますっ! 今日も暑いですね〜」

「あっ、プロデューサーさん……はまだ寝てますね。今日もお泊まりですかぁ」

「真夏だからって、ソファーで寝てたら風邪ひいちゃいますよっ」

「あれっ、プロデューサーさんの机に置いてあるこれ、なんでしょう〜?」

「何か美味しそうな飲み物と……『ハートドリンク取り扱い説明書』?」

「んー……?」

※   ※   ※   ※   ※   ※ 



目を覚ますと、胸の谷間があった。

終電を逃しソファーで夜を明かしたプロデューサーの視界に、朝一番で衝撃が入ってきた。

夏物の薄手のワンピースの胸元から覗くそれは、綺麗な曲線を描く女体の神秘。

「ぅおっ、おっ……」

プロデューサーの口をついて出そうになる、女性の体の部位はなんとか飲み込んで。

「……おはよう、愛梨」

「おはようございますっ!」

プロデューサーはゆっくりと体を起こそうとするが、視線が極上の丸みから外れてくれない。

早く頭を働かせなければ。

前かがみになっている愛梨を見続けるのは目に毒だ。

「今日も暑いですね〜。汗かいちゃいましたっ! 脱いでいいですか?」

「ちょっと待てぃ!」

目覚ましとしては十分すぎる刺激で跳ね起きる。

一瞬で眠気が吹き飛んだ。

「愛梨! それワンピースだろ! その下は下着だろ!」

愛梨はすでに裾を捲り上げようとしている。

「あっ、そうでしたぁ。でも、ちょっとぐらいいいですよね?」

「やめなさい」

ようやく頭が冴えてきたプロデューサーは、愛梨に異変を感じ始める。

トロンとした目、艶を帯びた荒い吐息。

なんとなく嫌な予感がして、デスクの上に目をやる。

「……ハートドリンクが、ない!?」

ハートドリンク。

見た目は南国が似合いそうなジュース。

『アイドルの美容のため』と表向きはなっているが、その実は千川ちひろと一ノ瀬志希が共同開発した惚れ薬である。

プロデューサーとアイドルの信頼の築き方はアイドル業界全体の永遠の課題であり、複数のプロデューサーとアイドルを抱える当プロダクションも例外ではなかった。

試作品であり、人体に大きな悪影響はないが、飲んだ直後は記憶が曖昧になるなど効果には疑問が残る段階である。

使用は義務ではなくひとまず配布されたというだけで、十時愛梨の担当プロデューサーは使用するつもりは毛頭なかった。

愛梨との関係性は良好であり、むしろスキンシップに甘くなっているのがかえってそれはそれで気にかけなければならないような状況であった。

「愛梨! 俺の机にあった飲み物飲んだな!?」

激務に追われ、ハートドリンクを放置してしまった事を後悔した。

「ん〜、どうでしょうねぇ〜」

ふふふ〜、と酔っ払いみたいな笑い方をする愛梨。

プロデューサーの隣に座る動作も、腰や首をくねるようにしていて妙に艶めかしい。

座ったまま上半身をプロデューサ−の方に向ける。

手をソファーにつくので、両腕で胸元が扇情的に寄せられている。

「愛梨、近い」

「プロデューサーさん、私もう我慢できないんです」

「……何が」

「暑すぎるから、脱いでいいですよね?」

「ダメだ」

プロデューサーは口から理性が飛んで行ってしまいそうになるのをぐっと堪えて断ると愛梨は芝居がかった泣き真似を見せた。

「そうですか……。私の脱ぐとこなんて、見たくないってことですか」

「そうじゃない。女の子はもっと自分を大事にしなさい」

「でも、今日は最高気温38度ですよ! 人の体温より高いんですよっ」

「わかったわかった。冷房つけてくるから待ってろ」

「あ! ひょっとしたら、人間の体温の方が低いなら、くっついたほうが涼しいかもですねっ」

「何を言って……って、抱きつくな!」

プロデューサーの胸元で、愛梨の体がむにゅりと柔らかく反発し、つぶれる。

電撃のような快感が背骨を伝った。

「ふおああああ!? ちょ、柔らかっ!」

「んん〜すりすり〜」

何で女の子はこんなに甘くて良い匂いがするのか。

何で女の子の髪はこんなにさらさらなのか。

「えへへ……、プロデューサーさんの匂い、落ち着きます〜」

愛梨は惚けた笑みを浮かべながら、抱える腕の力を強くする。

じっとりした汗の湿り気も、脈拍の鼓動すら伝わってきそうな距離。

プロデューサーの口からは、ひぃう、という肺の奥から悲鳴が漏れ出したような音が出た。

心臓が血流を巡らせて全身に異常事態を伝え、理性と本能がけたたましく警報を鳴らしている。

愛梨は何かしようとしてる。何か言おうとしてる。

その先は絶望的な快楽と滅亡だ。

見ちゃいけない。見たい。

聞いちゃいけない。聞きたい。

「プロデューサーさぁん……」

愛梨は抱きつく腕を緩めて顔を上げ、熱を帯びた瞳で見つめた。



「私は……プロデューサーさんだけのものですよ?」



これは事故だ。

事故なんだ。

全部暑さのせいだ。

全部ハートドリンクのせいだ。

「愛梨ぃぃぃぃぃっ!」

焦がすような熱が、甘い香りが、ねっとりと絡みつく声が、すべてを狂わせて破壊した。

プロデューサの両腕が愛梨の無防備な背中に回り―――――――

「……やっぱりだめですっ!」

愛梨がプロデューサーの肩をぐっと押して離れる。

「おおっ! どうした!?」

「はぁ……はぁ……思い、出しました。私、夢があるんです」

「夢?」

「私、トップアイドルになって、お嫁さんになって、家庭を持ちたいんです」

「それは……とっても素敵な夢だな」

「はい。そうしたら、子供におとぎ話を聞かせたいんです。なんにも知らなかった子が、プリンセスになって、一番、誰よりも輝く物語を」

「愛梨……」

アイドルへの本気であることは感じていたが、言葉ではっきりと出され、胸を打たれた。

こんなふらふらの状態なのに。

自分の幸せだけじゃない、周りの幸せも考えられる子。

本能に流され、純粋な女の子の夢を壊しかけた己を恥じた。

プロデューサーの使命として、この子を輝かせること、笑顔にすることを心に強く誓った。

「だから、プロデューサーさん」

「おう! 何だ!?」

「一緒に夢、叶えてくれますか?」

「もちろん!」

「私をトップアイドルにしてくれますか」

「なれるさ!」

「じゃあ、トップアイドルになったら、お嫁さんにしてくれますか?」

「ああ!」

「わぁい! やったぁ!」

「……ん? あれ?」

とんでもないことを言ってしまった気がする。

「プロデューサーさん、約束ですからねっ」

「お、おう」

「じゃあ、そろそろレッスンの時間なので、行ってきますっ!」

「え、お前、もう体はなんともないのか……?」

プロデューサーの疑問には答えず、それまでのことがなかったかのように、愛梨は軽い足取りで部屋を出ていった。

「……いってらっしゃい」

嵐が去り、混乱だけが残った。

しばらく呆然としていたが、徐々に事の重大さに気づく。

こうなったらもう、愛梨の記憶が抜け落ちていることを祈るしかない。

愛梨のことだ、きっとなんとかなるだろう。

最近熱心にビジュアルレッスンをしていたからか、切ない表情も様になってきたな、今度ドラマのオーディションに出させてみるか、など現実逃避気味な思考しか出てこなかった。

「……暑い」

ひどく汗をかいた上に、愛梨と抱き合っていた熱が残っているのか、体が熱くてしょうがない。

こんな状態では頭も回るわけがない。

冷たい飲み物を求め、ソファーから腰を上げる。

おぼつかない足取りで冷蔵庫へ。

扉を開ければ、きっとこの暑さは解消される。

そしてその願いは、冷蔵庫に入っていた『それ』を見て、叶うこととなった。

目に入ったのは、昨晩まではデスクに置いてあったはずの飲み物。

南国が似合いそうなジュースが、手つかずの状態で冷蔵庫に鎮座していた。

「……あれ?」

汗は一気に引いた。









おわり



21:30│十時愛梨 
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