2016年10月08日

高垣楓「特別な貴方との、特別で普通な日常」

プロデューサー。

 

 ねぇ、プロデューサー。



 貴方は。





 いいですか、貴方は特別なんです。



 知っていますか、貴方は特別なんです。



 分かっていましたか、貴方は特別なんです。



 貴方は、特別。



 貴方は、私にとって特別なんです。



 特別な人物。



 特別な異性。



 特別な存在。



 私にとって、貴方は特別なんです。



 他の誰よりも特別。



 誰よりも大事で、大切で、好ましい人。



 他の何よりも特別。



 何よりも望ましくて、魅力的で、恋しい男性。



 他のどんな誰よりも何よりも特別。



 貴方の他のどんな誰よりも何よりも輝く、唯一の、愛おしい存在。



 私にとって貴方は、そんな、かけがえのない特別なんです。



 特別で、特別な、特別。



 他にもいろいろ、特別に思うものはありますけど。



 好ましくて、恋しくて、愛おしいものは、貴方の他にもたくさんありますけど。



 でも違う。



 特別だけど、特別じゃない。



 貴方と比べれば、貴方という特別と比べてしまえば。



 数多ある特別も、等しくただの普通な普通。



 貴方は特別なんです。



 私の中の誰よりも、私の思う特別のその内の何よりも、貴方はずっと特別なんです。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1475141046



 こんな私と出逢ってくれました。



 こんな私の手を取ってくれました。



 こんな私をアイドルという夢へ導いてくれました。



 こんな私に添ってくれました。



 こんな私を見捨てずにいてくれました。



 こんな私と歩を合わせて同じ道を進んでくれました。



 こんな私を望んでくれました。



 こんな私を受け入れてくれました。



 こんな私をシンデレラへまで至らせてくれました。



 こんな私へ好意を教えてくれました。



 こんな私へ恋心を宿させてくれました。



 こんな私へ愛を刻んで抱かせてくれました。



 貴方は特別です。



 誰よりも何よりも。



 私にとって、一番の特別なんです。



 高垣楓という人にとって。



 高垣楓というアイドルにとって。



 高垣楓という女にとって。



 高垣楓という、この、私にとって。



 貴方は特別。他のどんな何よりも、特別なんです。

 だから、特別だから。



 他のどんな特別とも違う。貴方が、それほどの特別だから。



 だから、すべてが特別になる。



 貴方がいる。貴方がそこへ、その場へ、その時間へ。



 貴方が一緒にいてくれるなら、私のすべては、そのどれもが特別に輝くんです。



 なんでもない。意識すらしない。日常の中のどうでもいいようないろいろ。



 朝、起きる。



 眠たさに瞼を擦りながらふらふらと立ち上がって、顔を洗い、身支度を整える。



 昼、動く。



 特に計画もなく買い物に出掛けて、特に纏まりもなく品物を選んで、両手の重みを少し後悔しながら家まで帰る。



 夜、眠る。



 買ってきたお酒を一人でゆったり呑みながら、別に何をするでもなく思うでもなくぼーっと過ごして、そして何かきっかけがあったわけでもなくなんとなく布団に潜る。



 そんな、どうでもいい日常。



 何もない。後から何か思いを馳せることもない。そんな、なんでもない日常が。



 それすらが、そんなものすらが特別になってしまう。



 忘れられない。大事で、大切な、かけがえのないものへ。



 そこに貴方がいるのなら。それで、それだけで、私の何もは特別になってしまうんです。



 貴方がいる。私の横へ、私の隣へ、私の傍へ。



 そうしたなら、そうしてもらえたなら、特別になる。無色の空間も、灰色の時間も、どんな色でも特別に輝くんです。

 貴方は特別。



 私が誰よりも好きで、何よりも大好きな、



 私が誰よりも恋しくて、何よりも慕っている、



 私が誰よりも、何よりも、他のどんなすべてよりも愛している貴方は、



 特別なんです。



 特別の中の特別。



 他のどんな何よりも大きくて、他のどんな何すらも特別へ変えてしまえるような、他の何でも及ばない本当の特別なんです。



 だから。



 だから、ごめんなさい。



 嬉しいんです。



 本当に嬉しいんです。貴方にそう言ってもらえて。



 貴方にそれを許してもらえて。委ねて、贈ってもらえて。



 心地のいい高鳴りに胸が震えてしまうほど。



 幸せな暖かさが身体へ染みて蕩けてしまうほど。



 本当に。本当に本当に嬉しいんです。



 でも、だけど、だからこそごめんなさい。



 私にとって貴方は特別だから。



 どんな些細な日常すらも特別へ昇らせてしまうほど、貴方は、私にとって特別な存在だから。



 だから、ごめんなさい。



 貴方のその言葉に、私は、すぐには答えられません。



 『シンデレラのお祝いに、何か、特別なお願いを』なんて。



 特別なお願いを――私のわがままを、なんでも叶えてくれるだなんて。



 そんな貴方の言葉に、私は、欲しい特別をすぐに答えて返すことができません。

 それはあります。



 欲しいもの。普段では、普通では、特別でなければ触れられないようなたくさんのもの。



 特別な場所。特別な時間。特別な品物。



 けれど、私にとって貴方は特別だから。



 貴方と二人で居られるなら、私には、どんなものも特別だから。



 だから、ごめんなさい。



 特別な何か、という貴方の言葉に、私はすぐ特別なものを返して求めることができません。



 できません。……でも、だけど。



 もし。もし、叶うなら。



 特別でもなんでもない普通で普段通りの日常、それを願っても、貴方が許してくれるなら。



 私はそれが欲しい。



 何か特別なことをするわけじゃない。普段通りに起きて、出掛けて、眠って。そんな日常。



 それを、私は貴方に叶えてほしい。



 そんななんでもない日常を、貴方と特別に彩りたい。



 貴方と、過ごしたいんです。



 私の普段通りの日常を、貴方に寄り添ってもらいながら、一日。



 ……どうでしょう。



 許してもらえますか。貴方との一日を、過ごさせてくれますか。



 ねぇ、プロデューサー。





「私のお願い、叶えて、もらえますか……?」

「……」



「……」



「…………」



「…………プロデューサー?」



「あ、えっと、はい」



「それで、どうでしょう。叶えて……もらえますか?」



「いや、まあ、そのお願いを聞くことについては何も問題ないんですけど」



「本当ですかっ」



「ええ。……ただあの、そのお願いと共に送られてきた言葉たちに少し固まってしまいまして」



「? そんな固まってしまうようなこと、言ってしまいましたか?」



「それはもう。……好きとか、恋とか、愛とか」



「普段から言っているじゃないですか」



「まあ、それは、言われてますけど」



「それじゃあ問題ないですよね」



「いや、こう、普段から言っているから問題ないみたいな話では……というか、普段から言っているっていうそれがまず問題というか」



「皆さん受け入れてくださってますよ?」



「まあ大分前からのことですしね、もはや恒例で」



「最近はいろいろアドバイスをもらったり、応援したりしてもらっていますし」



「ああ、最近留美さんとよく一緒なのはそういう」



「花嫁修行真っ最中です」



「貴方はアイドルでしょうに」



「その前に女です」



「それはまあ」



「それにお嫁さんです」



「いや独身」



「将来のお嫁さんです」



「未来設計図まで描けてるんですね」



「ええ。結ばれる旦那様まで決まってます」



「アイドルがそれはまずいのでは」



「魔法をかけられてしまいましたから。私をこんなふうにした、悪い魔法使いさんの責任です」



「いけない人も居たものですね」



「ええ、こんなすぐ傍に」



「真っ当なプロデューサーとして真っ当にプロデュースしただけのつもりなんですが」



「まっすぐ、一途に、あんなにも、です」

「……」



「責任は取ってもらわないといけません。魔法使いでプロデューサーな、王子様に」



「もっと良い人はいると思いますけど」



「そうですね。――でも、それでも、私は貴方がいいんです」



「……応えることはできませんよ」



「ええ、応えてもらえなくても構いません。――今はまだ」



「いつか応えるとも」



「振り向かせてみせますから構いません。そう思えて、誓えるほど、大好きですから」



「……」



「あら、頬が赤くなってきて。……ふふ、可愛いです」



「男に可愛いは」



「事実ですもん」



「や、でも」



「いいじゃないですか。可愛いの、私は好きですよ」



「貴女は、またそういう」



「ふふ、惚れた弱み――というか、惚れた強み、ですね」



「もう……」



「私をこんなにして、こんな私に愛されてしまった自分自身を恨むことです」



「……いや、まあ、恨みはしませんけどね。困りはしますが」



「でしょうね。貴方は、私とのことを悔やんだり無かったことにしたりはしないでいてくれる人ですから」



「そんなことをするのは失礼でしょう」



「それでもなかなかできないことです。――そしてだから、そんなところでも私は貴方に惹かれてしまうんです」



「……無かったことにしないのは。僕とのことを、どんな些細まで覚えているのは貴女もでしょうに」



「そうですね。惚れてますから」

「……」



「ふふ、似た者夫婦ですね。仲睦まじい、幸せ夫婦」



「貴女の夫になったつもりは」



「いずれなるんですから同じことです」



「決まってしまってるんですか」



「ええ、諦めませんから。――まっすぐ一途な想いは報われる。諦めなければ純粋なその願いはきっと叶うと、私

にそう教えてくれたのは貴方でしょう?」



「それは、そうですけど」



「私は貴方のおかげでシンデレラになれました。だから、シンデレラとして持ち得る何もかもすべてを注いで、私は貴方へ尽くすんです」



「僕なんかに」



「貴方だからです」



「……」



「ふふ。――と、それじゃあプロデューサー」



「……なんですか」



「お願い、聞いてくれるんですよね?」



「ああ、ええ、まあそれは」



「私と、私のなんでもない普段通りの日常を、一緒に過ごしてくれるんですよね」



「構いませんよ。……むしろ、本当にそんなものでいいんですか?」



「ええ。むしろ私は、これがいいんです」



「楓さんがそう言うなら。……ええ、荷物持ちでもなんでも引き受けます。ご一緒しますよ」



「ふふ、ありがとうございます」



「それで……なんですけど、どうしましょう。日程やら何やらは」



「私とプロデューサーのお休みが合うのならいつでも。何曜日でも、前日翌日の予定が何でも、貴方と居られるなら構いません」



「……またそういう」



「本心ですから」



「はぁ……まあでも、そうですね。それなら、多分次の週末辺りに一日くらい……」



「それじゃあそこで」



「いいですか?」



「もちろんです」



「わかりました。ではそこで」



「はい。……ふふっ、ああ、今から楽しみです」



「そんなになるほど……」



「なりもしますよ。プロデューサーさんと一緒に、いろいろ、たくさん過ごせるなんて」



「普通の日常に僕が一人紛れ込むだけでしょう」



「貴方が一人いるのなら、私にとってそれはかけがえのない特別になるんです。何度も何度も言ったじゃないですか」



「まあ、聞きましたけど」



「だから……ええ、楽しみです。とても、とっても」



「まあ、楽しみに思ってもらえているらしいのは嬉しいですけど」



「ああ、本当に心が踊ります。プロデューサーと、日常を。……朝、同じ布団の中での目覚めを。心地のいい微睡みを。お昼、街へ出ての買い物を。こっそりお忍びの散策を。夜、一つの湯船の中へ二人で入るお風呂を。寄り添いながら朝と同じく一つの布団の中で眠りへ落ちる最後を。そんないろいろを、一緒に過ごせるなんて」

「……ん?」



「楽しみです。楽しみで、本当に楽しみ……」



「楓さん」



「……はい?」



「今、一緒の布団とか一緒にお風呂とか、聞こえたんですが」



「ええ、言いましたからね」



「え?」



「?」



「いやそのあのはい、えっと、どういう」



「どういうも何も、そのままですよ。言ってくれたじゃないですか、私の日常を私と一緒に過ごしてくれるって」



「や、まあ、それは言いましたけど」



「目覚めて出掛けてお風呂へ入って眠る。私の、なんでもない日常ですよ?」



「いや、そのなんというか、一緒っていうそのことの規模というか意味が思っていたのと違うというか」



「……ダメだ、ってことですか?」



「ダメでしょう」



「プロデューサー……私に、嘘を吐いたんですか……?」



「や、嘘とかじゃなく」



「でも無駄です。言質は録ってありますから」



「……そのレコーダーはいつの間に」



「留美さんが大人の女性の嗜みだからと」



「あの人は……」

「ふふ、言ったじゃないですか。いろいろと、応援してもらってるって」



「言ってましたけど」



「最近は婚姻届の書き方なんかも教えてもらっていて」



「練習するものなんですかね、それは」



「して損はしないものですよ。――って、あ、そうです」



「なんです?」



「婚姻届を書くのも最近の私の日常なので、これもぜひご一緒しましょう。二人で書いて完成させましょう。ええ、それが良いと思います」



「いや、まあ、しませんけどね」



「えー……どうしてですか。楽しいのに、婚姻届を書くの」



「楽しいものじゃないと思いますけど」



「楽しいですよ。貴方と結ばれる将来を夢見ながら書き記すのは」



「……」



「なんて、冗談です。……レコーダーは」



「婚姻届の方は本当なんですね」



「ええ、もうすっかり日常です」



「……しませんよ?」



「ふふ……ええ、まあ、それでも構いません。――二人で一緒に過ごすことについては、許してくれるんですよね?」



「……まあ、そっちについてなら」



「なら構いません。――さっきも言った通り、私は諦めませんから。この願いが叶うまで、何度でも幾度だって貴方へ尽くすだけです」



「……応えませんよ。応えられませんから」



「ええ、それで構いません。応えられないから、と応えてもらえなくても。――でも」



「……」



「ふふ。……いつか、いつか必ず、そんな何をも取り払って素直に応えてもらえるよう、この想いを受け止め抱き締めてもらえるよう、振り向かせてみせますからね。……大好きな、大好きな、愛おしい私のプロデューサー」



12:30│高垣楓 
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