2016年10月12日

まゆ「お願いですから、目を開けてください、Pさん……」


・すこしだけ甘い



・いつもより軽い











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美優

「Pさん、最近は特にお仕事忙しそうですね。ご飯とかちゃんと食べていますか?



 ……もう、コンビニ弁当はやめて下さいって前にも言ったじゃないですか。若い時の不摂生が後になってたたるんですよ?



 お弁当くらいでしたら私が……い、いえ、それはともかく、あの、聞いた話なんですが……人はハグをすると、ストレスが大幅に減るという研究結果があるそうなんです。



 私も、最近はお仕事が増えてきて、人と接する機会が増えましたし、Pさんのおかげで変われたとはいえ、まだ見知らぬ人とお仕事するのは苦手で……最近、疲れてきたといいますか……ストレスが溜まっていると思ってるんです。



 それで、ですね。Pさんもストレスが溜まっているようですし、あの……ハグ、試してみませんか……?



 そ、そんなに慌てなくても……ただのハグ、ですし……す、ストレスを軽減するための、そう! セラピーみたいなものですよ!



 アイドルのメンタルケアもきっとプロデューサーとしての大切なお仕事で、つまりハグも仕事の一環ということになりますから……いいですよね? ……えいっ。



 ふふっ、抱きついちゃいました。ほら、Pさんも、ギュってしてください。ハグなんですから、遠慮しなくても……



 あの……それとも、私なんかとじゃ、気持ち悪い――ですか?



 ひぁっ! あっ、違うんです! 苦しかったりとか、そういうのじゃ、なくて……本当に抱き締めてくれるなんて、思わなくて……自分から言い出したのに、変ですよね……?



 ふふ……でも、これって凄くイイですね。あたたかくて、目を閉じてるだけで、何もかも忘れてしまいそうなくらい幸せで……ストレスなんてどこかへ行っちゃいますね……本当に。





   ――ええ。本当に、このまますべてが止まってしまえばいいのに。





 ……ふふふ、なんでもないですよ、Pさん。それよりどうですか、ストレスの解消にはなりましたか?



 私はとても癒されましたけど……もっと頑張れそうって、あんまり根を詰めたらダメですからね?



 疲れたら、言ってください。またこうやってハグしますから……ね?」

留美

「あら、まだ残っていたのね、P君。お疲れ様。コーヒーでも淹れましょうか?



 砂糖は、多めが好みだったわよね。ミルクは? いらないのね。じゃあ少し待ってて。



 ――お待たせ。熱いから気を付けてね。ところで仕事のほうはどう? 捗ってる?



 そう、順調なの。それにしては疲れた顔をしているけど。少し休憩した方がいいんじゃないかしら。疲れたままやっても能率が悪いだけよ。



 ――ああ。それとも、美優とハグした分、頑張るつもりなのかしら?



 ふふ、珍しいわね、P君がそんな顔をするなんて。そういえばP君、最近は私も送迎や事務処理の仕事が増えて、オフが少なくなってきてるんだけど――もちろん、美優だけを贔屓する、なんてわけはないわよね?



 ほら、ここに立って。手は肩に置いて、ちゃんと抱き寄せて。……うん、そう。それでいいわ。じゃあ、しばらく胸を借りるから。



 ……それにしても、不思議よね。人間ってどうしてこんなことで、こうも心が安らぐのかしら。抱き締める体温があるだけで、いろんなことが些細なことに思えてくる。なんでかしらね。



 あるいは……こうしていることこそが、人間にとって本当に大切なことなのかもしれないわね。抱きしめてくれる人が、抱きしめてあげたい人がいることが、何よりの幸福なのかも。



 ……この際だから、言ってしまうわね。いつも支えてくれてありがとう、P君。私たちのために頑張ってくれて、感謝してる。



 あなたの頑張りに、どれだけ報いているかわからないけど、これからも私、精一杯やるから。だからずっとそばで応援してね?



 ……うん。そう、ずっとそばで。みんなが私に飽きるまで。



 ふふ。P君はいつまで私を働かせるつもりなのかしらね。でも、いいわ。あなたが願うなら、私は応えるだけよ。



 だから、ねえ、もう少しだけ……このままでいてもいい? ……うれしいわ。ありがとう」



美嘉

「あ、プロデューサー。どうしたのこんなところでぼーっとして。珍しくサボり?



 あはは、誰にも言わないって。アンタが働きすぎなのみんな知ってるし、いいんじゃない、たまには。



 ……うん、ゆっくりしなよ。やるときはやる。休む時は休む。ずっと張りつめてたらさ、いつか切れちゃうから。



 あ、そういえばさ、あの、聞きたいこと、あるんだけど……いいかな。



 あのね、その……覗き見したわけじゃなくて、たまたま、偶然、居合わせちゃっただけでね、その……あはは、何言ってんだろね、あたし。



 ……ごめん、見ちゃったんだ。この前、事務所で……美優さんと、抱き合ってるの。



 あのね! あたしは、アイドルとプロデューサーが、そういうのって、やっぱさ……ダメだと、思うんだよね。



 だって、ファンの人を裏切ってるわけで……ああいうのを知ったら、泣いちゃう人もいるんじゃないかなって。



 ずっと好きだった人がさ……自分じゃない人と、そういうことしてるって知ったらさ……すごく、嫌な気持ちになるよ?



 だから、教えてほしいんだ。プロデューサーはさ、美優さんとのこと……真剣なの?



 ………………え? お互いのストレスを解消するために、ハグしてただけ? メンタルケアを兼ねたコミュニケーション?



 そっか……そっかぁ……なんだ、よかったぁ……。



 でもさ、それってコミュニケーションなんだよね? じゃあさ、あたしともできるよね? まさかできないなんて言わないよね?



 あははっ。スキャンダルかと思って心配したあたしのメンタル、しっかりケアしてもらうんだから★



 よし、じゃあほら、さっさとしてよ。時間は有限なんだから。



 は、はぁ!? べ、別に赤くなってないし……あーもう! 変なこと言うからなんか意識しちゃうじゃん!



 ちょ、ここで女の子にやめるとか聞く? フツー聞く? だから鈍感とか朴念仁とか言われるんだよ、プロデューサー。



 てかやめるわけないでしょ。ほら、わかったらさっさとハグしてよ。待ってるのも恥ずかしいんだから。



 ぁ…………ん……これ、思ってたより、ずっといい。



 ただ抱き合ってるだけなのに……なんでだろ。ストレスなんかどっかいっちゃうね。



 ……もうすこし、強く抱きしめてくれる? ……ん、そう……ぎゅっとして。



 なんでかな……すごく気持ちいい。目を閉じたらこのまま寝れそうなくらい、ふわふわしてる。



 いやいや、寝るわけないから。例えだし……てか寝るとかもったいなさすぎ……



 んー? 何も言ってないよ。そのまま黙ってぎゅっとしてて。あたしが満足するまで、ずっとね。わかった?」



未央

「おっはよー! プロデューサー! 今日も頑張ってるねぇ!



 未央ちゃんはいつも通り元気元気! でもプロデューサーはァー、んん? どうしたのかなー? お疲れかなー?



 あ、その目! ちょっと赤いぞ? まーた徹夜したなー。この働き者め!



 うりうりー、ちょっとは加減しろよー? 自己管理もプロデューサーの大事な仕事なんだぞ?



 そうやって自分のこと後回しにしてるから、みんなにハグされるはめになるんだからね。



 ……ん、いや、だって美嘉ねぇがさ、あんまりにもにやにやしてたから、ついね。カマをかけたら、ポロっと。



 お、お? 黙っててほしい? 未央ちゃんに黙っててほしい? だったら口止め料を頂かないといけませんなぁ。



 よーし、では目を閉じたまえ、プロデューサーくん。こらこらそんな不安そうな顔しない。痛くないから。ちょっとだけだから。ほら、早く。



 ………………ん。動いたらだめ。ほら、未央ちゃんが抱きしめてあげてるんだから、じっとしてて。



 ……いつもさ、頑張ってくれてるの、知ってる。でもね、無理するのは、やだよ?



 プロデューサーにはさ、元気でいてほしいんだ。笑ってさ、私のこと、見ててほしいんだ。



 あんまり無理しないでよ? 未央ちゃんはそういうの、気づいちゃうんだからね?



 ……わかったら、ほら。あるでしょ、やること。



 …………だ、抱き返してよ……ちょっとくらい……いいじゃん。



 あ…………ううん、なんでもない。えへへ……くすぐったいだけ。



 ……でも、ちょっと臭うかな? あとでシャワーくらい浴びてきなよ?



 いやいや、離れないし。別に臭いくらい気にならないし。お、おお? この未央ちゃんを引きはがすつもりか?



 ふははははは、よろしい。ならばフェイスハガー未央ちゃんの本気を見せて……あ、ちょっとさすがに大人の力でマジに抵抗されると……あ、んんっ♡



 ……も、もう……どさくさに紛れておっぱいに触るんだから……



 いや、そんなに謝らなくていいよ……ふざけた私も悪いんだし……それよりほら、シャワー行って来たら?



 それとも未央ちゃんと一緒に入っちゃう? あははは、冗談だよ、もう!



 ……でも、本当にプロデューサーがそうしたいっていうなら……あ、ううん! なんでもない。なんでもないから! ほら、行っといで!」



莉嘉

「Pくんおつかれー☆ あれ、どうしたのその書類? あー、またザンギョーするんでしょ! もう、いくらなんでも頑張りすぎだよー。



 休むのも仕事のうちってお姉ちゃん言ってたよ? ほら、書類なんてほっといて、アタシと遊ぼうよ。ねっ?



 ……え〜、ダメ? 最近ちっとも遊んでくれないよね、Pくん。じゃあさ、3分でいいから時間ちょうだい? いいよね、3分だけなら。



 えへへー。やった! じゃあそこに座ってね。うん、そう。そして両手をこう、がばーっと広げて……いっくよー! どーん☆



 あははははっ☆ Pくんてやっぱおっきーね。オトコのヒトって感じがするー。



 えー、やだー。離れないもーん。お姉ちゃんから聞いたんだからね。みんなとハグしてるんでしょ? なのにアタシとしないのは不公平だよ?



 よしっ、じゃあ3分はこのままだからね。今のアタシはコアラだもん!



 ほらほら、Pくんもアタシのことちゃんとハグしてよー。ん、そうそう。ついでに頭も撫でてくれると、次のレッスンも頑張れるなぁ、なんて。



 ……あっ……んーん、そうじゃないの。ホントに撫でてくれるとは思ってなかったから……うん。気持ちいい。



 もっと撫でてくれる? えへへへ……胸がぽかぽかする……いいなあ。これ、いいなあ。



 ……ねえ、Pくん。これからさ、アタシのゴホウビはこれにしない? もちろん一緒にゴハンもいいけど、こっちのほうがなんていうか、もっともっと頑張れると思うから……いいでしょ?



 ……え〜、ダメ? ほんとに? ……ダメかな? ……ダメなの? ……Pくん……ダメ?



 …………! えっへへー☆ おねだり作戦大成功! Pくんってばあまあまなんだからー。でも、それだけアタシにラブラブってことだよね☆



 よーし、もっと撫でて撫でて! アタシもいっぱいぎゅーってするから! 元気パワー、二人でたくさん充電しよっ☆」



美波

「……あら、目が覚めましたか、Pさん。



 え、覚えてないんですか? テーブルにつまずいて、ソファに倒れこんで……そのまま眠ってしまったんですよ?



 いくらなんでも働きすぎです。身体を壊してしまったら、元も子もないんですから。



 私たちと同じくらいに……いいえ、私たちよりももっと、自分を大切にしてください。いいですか? わかりましたね?



 ……はい。わかればいいんです。ふふっ。



 あ、私ですか? 私は、そうですね……Pさんの、看病? でしょうか。



 本当は長居するつもりはなかったんですけど……膝枕をしたら、Pさんの表情が、ふっと緩んだ気がして。



 ……はい、ぐっすりでした。でも、まだお疲れですよね?



 …………お疲れ、ですよね?



 ………………疲れていますよね、Pさん?



 はいっ。そうだと思いました。ちょっと横になったくらいじゃ疲れは取れませんから♪



 ですから、明日の英気を養うためにも、ハグ、しませんか?



 ふふふ。どうしたんですか、そんなに驚いて。



 なんでって……知ってますよ? みんなとハグしてること。もう事務所中がその話でもちきりじゃないですか。



 ……気づいてなかったんですか? 仕事熱心なPさんもいいですけど、もっと周りに目を向けたほうがいいですよ。



 あ、それとも疲れているから視野が狭くなっているのかも……これはもう、今すぐハグをして元気になるしかありませんよね?



 大丈夫です、Pさんはこのまま横になっていてください。私が、全部してあげますから。



 動かないでくださいね? それでは……美波、いきますっ。えいっ。



 ――ぽふ。



 こ、これは……この歳になってやってみると、思った以上に恥ずかしいですね(///



 や、やめませんよ! こうするのが昔からの夢だったんですから……



 ……あの、トトロです。メイちゃんが、トトロのお腹の上で寝そべってるシーン、ありますよね。私、あのシーンが大好きで、子供のころ、よくお父さんにしてもらったんですけど……ある日、興奮しすぎてお父さんの鳩尾に頭から飛び込んでしまって……大変なことになったんです。それ以来、我が家ではトトロごっこが禁止になって……



 ですから、誰かとこういう風にするのは、すごく久しぶりで、嬉しいんです。



 あの、Pさん。お願いがあるんですけど……深呼吸、してもらえないでしょうか。ええ、トトロみたいに。



 ふふっ。ありがとうございます。



 ………………あ、すごいですね。私が乗ってても、ちゃんと胸板が膨らんで……聞こえます。心臓の音。どくん、どくん、って。



 もしかして、プロデューサーさんも、ドキドキしてますか? 私は……してますよ。ちょっとだけ。



 なんなら確かめてみます? 私の、ドキドキ。直接さわって……あっ、心臓の音、大きくなりましたね。くすくす。



 どうですか? 疲れはとれそうですか? ……わからない? それじゃあ、もうちょっとだけ……こうしていましょうね♪」





「はあ……まだいたんだね、プロデューサー。残業お疲れ様。



 私? 私は、その……忘れ物、かな。



 それで、いつ終わるの? あ、もうそろそろなんだ。じゃあさ、送って行ってよ。いいでしょ?



 ……うん、ありがと。



 ところでさ、ちょっと小耳に挟んだんだけど……最近、ストレス溜まってるんだって?



 それでリフレッシュのために、アイドルとハグしてるとかなんとか……いや、私は信じてないけどね。



 真面目一辺倒のプロデューサーが、アイドルとそんなことしてるなんて……え、なんで謝るの? えっ、本当なの?



 本当にストレスを解消するためにアイドルとハグしてるの?



 ふーん。そっか。ホントにやってるんだ。なに? 別に、謝らなくてもいいよ。



 プロデューサーが無理してるの、わかってるし。独身だから、人肌が恋しいってのもあるだろうし。



 でも、ストレスを発散したいっていうなら、まず私のところに来るべきじゃないかな。



 この事務所で一番付き合いが長いんだし、仕事もトップクラスに忙しいわけだし。こう見えて結構ストレス溜まってるんだよね。



 それに、最近コミュニケーション取れてないよね。すれ違いばかりっていうか。たまのオフも莉嘉とか舞ちゃんとかと過ごしてるんでしょ?



 え、なんで知ってるんだ? ははは、面白い返しだね。じゃあ聞くけど、なんで知らないと思ってるのかな。



 ……ふーん。黙秘か。まあいいや。



 それは置いといて、最近のプロデューサーは私に対して雑じゃない? ほとんどの用事はメールで済ませるし、こっちから電話してもすぐ切るし。



 ここ数週間、NGの業務連絡以外でまともに会話した記憶がないんだけど。そこらへん、プロデューサーとしてどう考えてるのかな?



 うんうん、そうだよね。まずいよね。アイドルとプロデューサーは二人三脚。険しい道を支え合う生涯の伴侶だよね?



 それがろくな会話もないまま、毎日毎日レッスンレッスンレッスンレッスン……嫌になっちゃうよね。手は抜かないけど。



 というかさ、やっぱりどんなに信頼し合ってても、お互いに人間なわけだから、誤解とかあるよね。たとえばさ、ほかのアイドルとはハグしてるくせに、自分とはメールだけのやり取りしかないとか……どんなに信じていても、自分のことなんてもうどうでもいいのかなって、疑ったりするんだよね。



 ……なんで謝るの? 別にプロデューサーのことを責めてるわけじゃないし。私はそういうこともあるよねって、仮定の話をしてるだけでしょ?



 それともなに? 私とはメールだけで済ましてるくせに、未央とはハグしておっぱいまで触ったことに引け目を感じてるわけ?



 ハァ。いや、だからさ。なんで知らないと思ってるの? プロデューサーって、自己評価が極端に低いよね。というか客観視できてないよね。大人なんだからもっと周りに目を向けてよ。ちゃんと見てよ。構ってもらえなくて寂しいって思ってる子がいるのに、どうして気づかないの?



 ……だからさ、謝らなくていいから。申し訳ないと思ってるなら、行動で示してよ。



 どうやってって……聞く? ねえ、それをいまここで聞く? これだけヒントあげてるのにまだわからないの? 信じらんない……帰る。



 待たない。止まらない。プロデューサーなんか知らない。好きなだけ仕事してれば? じゃあね。お疲れ様でした。



 ………………ねえ、いきなり後ろから抱きしめられたら驚くんだけど。というか苦しい。もうちょっと力抜いてよ。



 ……違うから。そこは謝りながらぎゅってするところだから。離してどうするの?



 どうすればいいとか、そんな情けない顔で聞かないでよ。……まあいいや。仕方ないから教えてあげる。



 思いっきり、抱きしめて。あと頭撫でて。それと、名前も呼ぶこと。それで、いいから。



 ……ん。そう。頭を撫でて、首筋から背中までさするように撫でて。髪の上から、そう。上手。



 最初からこうすればよかったんだよ、プロデューサー。ちゃんと教えたから、次からはしっかりしてよ?



 本当にわかってる? ……もう、寂しがらせたら嫌だからね。わかったら、もっと撫でて。もっともっと、抱きしめて」



まゆ

「お帰りなさい、Pさん。今日も一日、お疲れさまでした。鞄、お持ちしますね。



 え、どうしてまゆがここにいるのかって? そんなの決まってるじゃないですかぁ。Pさんのお世話をするためですよ?



 明日は久しぶりのオフですよね。ですから、Pさんがしっかりお休みできるように、まゆがしっかりサポートするんです。



 ちなみにお洗濯とお掃除は済ませておきました。晩ごはんも下ごしらえは済んでいますから、お風呂から上がったらすぐに用意できますよ?



 ……え、玄関の鍵ですか? 普通に開けましたけど。ええ、まだ合鍵はもらっていませんので、まゆが自分で複製しました。ディンプルキーでしたから、ちょっと苦戦しましたけど……愛さえあればそこまで難しいことではありませんから。



 没収ですか? 仕方ありません。はい、これが複製した鍵です。そんな、よく出来てるだなんて……もう、ほめてもおかずが増えたりなんかしませんよ?



 どうしたんですか、そんな不思議そうな顔をされて。あ、もしかして鍵を渡したくないって、まゆがわがままを言うと思ったんですか? もう、いくらPさんが大好きでも、まゆだって常識は弁えてるつもりですよぉ? まゆだって、本当ならこんな手段は使いたくなかったんです。自分で作った鍵と、Pさんからお預かりした合鍵じゃあ、きっと玄関を開けるときのドキドキが全然違いますから。



 でもまゆがお世話をしたいと正直に言っても、Pさんはお家に入れてくれないでしょうから、仕方なくこうしたんです。なぜって……わかりませんか? 最近のPさんが疲れているせいで、事務所の空気がおかしなことになってるからですよぉ? 身に覚え、ありますよねぇ?



 うふふ……実はまゆ、ちょっと怒ってるんですよぉ? 抱きしめてほしいのなら、まゆがいくらでも抱きしめてあげるのに……Pさんはまゆ以外の女の子ばかり……うふふふふ。それはともかくとして、ですね。まゆはPさんの疲れを根本的に解決するために、こうしてここにいるんです。



 ええ、わかってくれてとっても嬉しいです。それでは、お風呂へどうぞ。まゆが浴槽からタイルの溝までぴかぴかにしておきましたら、ゆっくり湯船に浸かってきてくださいね。



 ……どうでしたか、湯加減は。ふふっ、いいです、答えなくても。さっぱりしたお顔をしていますから。さ、夕飯にしましょう。



 献立はずいぶん悩んだんですが、やはり連日の残業でお疲れでしょうから、胃腸への負担を考えて軽いものにしました。ただ、まゆの料理の腕前を披露するせっかくの機会ですので、焼き物、和え物、煮物にお味噌汁と、箸休めの浅漬けを作らせてもらいました。さ、温かいうちに召し上がってください。



 え、まゆですか? まゆには、まゆの手料理を頂くプロデューサーさんを観察するという使命がありますので、どうぞお構いなく。ふふっ。



 ……はい、お粗末様でした。美味しそうに食べてもらえて、まゆもお腹いっぱいになりました。洗い物をしますので、ほうじ茶を飲んでゆったりとしていてください。あ、テレビやスマートフォンはダメですからね? 寝る前なんですから、目への刺激は極力避けてください。



 ……よし、洗い物も終わったし、あとはPさんとすこしだけおしゃべりして、帰るだけ……あら、Pさん? もう、ダメですよ? こんなところで寝ちゃったら。ほら、ベッドに行きましょう? 枕カバーもシーツも掛布もまっさらに洗濯してありますから……ほら、Pさん、しゃんとしてください。肩を貸しますから、立ってください。



 もう、何を言ってるかさっぱりわかりませんよぉ? ベッドまですぐなんですから、頑張ってください。ほら、こっちですよ。あと一メートルちょっとでぐっすりと寝れますから、ここで寝ないでくださ……え、あの……Pさん? Pさん……? えっ、本当に寝て……!? さ、さすがにまゆの力じゃ支えきれな、っ! 



 ――ぼふん。



 ……あの、Pさん。えっと……あの、起きてください。これは……だ、ダメです。あの、Pさんにベッドに押し倒された格好になってるので……ほ、本当にダメなんですけど……お、起きてくださいよぉ……これ、ダメなやつですからぁ……まゆがダメになっちゃうやつですからぁ……!」





まゆ

「お願いですから、目を開けてください、Pさん……」



      【HAPPY END】





17:30│佐久間まゆ 
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