2016年10月19日

まゆ「シアワセニ堕チルウタ」

前作 まゆ「シアワセノウタ」


夏を越え、涼しい秋が来ました。



事務所はいつものように忙しく、プロデューサーさんとの時間を過ごすことが少なくて寂しいです。



最近はプロデューサーさんのためにお仕事を頑張っていると、いつの間にか事務所の中でもかなりの上位の方に上がっていました。





まゆとしては少し実感が湧きませんが、でもプロデューサーさんが褒めてくれるのでそれが嬉しくて嬉しくてたまりません。



まゆはあなたの笑顔の糧に成れているでしょうか?





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プロデューサーさんに好意を向けるアイドルは多いです。



事務所のほとんどがそうなのでしょう。中には素直になれない子がいますけれど、でもまゆの目を誤魔化すことはできません。



でも、あの離婚騒動以降、プロデューサーさんは少し女性を避けるような仕草をします。



アイドルたちへは目に見えての変化はありませんが、女性スタッフなどに話しかける時、少し間を置くようにしているようです。



プロデューサーさんが苦悩している姿を見て、私はとても胸が締め付けられます。

なんとかできないでしょうか?

プロデューサーさんに必要なのは、絶対な信頼と破られない約束だと思います。



まゆはプロデューサーさんを裏切ることはありません。

そのことに関しては神に誓うことができます。



でも、それを証明することは限りなく難しいでしょう。



まゆの覚悟をプロデューサーさんに示す必要があります。



まゆはプロデューサーさんが幸せになれるなら、なんだってできます。



プロデューサーさんが慌てた様子で病室に入ってきました。



三日前、まゆの家に強盗が入ってきました。



強盗は家にいた両親と私を刺し、両親は即死、まゆは腹部に重傷を負いました。



奇跡的に刃物は内臓を避け、傷も服で隠せると言われました。



お医者様も綺麗に傷を縫ってくれて、安静にしていれば完治すると言ってくれました。



プロデューサーさんは泣きながらまゆを慰めてくれて、凄く幸せな気分になれました。



両親のことは残念でしたが、まゆは今生きていることに感謝しました。



お父さん、お母さん、ありがとう。

アイドルを辞めざる負えなくなりました。



理由は、腹部の傷ではなく精神的なものです。



強盗の事件以降、私はプロデューサーさん以外の男性に恐怖感を感じました。社長でさえ、怖くて動けなくなります。



舞台に出る前で助かりました。せっかくの舞台を台無しにしてしまったらプロデューサーさんに申し訳ないです。



しかし、アイドルを続けることに無理を感じ、まゆはアイドルを引退せざる負えませんでした。

プロデューサーさんが今日もまゆに会いに来てくれます。



まゆはもうアイドルじゃないので、プロデューサーさんとの逢瀬も気兼ねなくできるようになりました。



しかし、プロデューサーさんはまゆに負い目を感じているようで、会うようになってから今でもたまに申し訳なさそうに涙ぐむことがあります。



そんな顔を見たくなくて、まゆはプロデューサーさんに一つ提案をしました。





結婚しませんか?





プロデューサーさんは、まゆに微笑んでくれました。

まゆとプロデューサーさんはしばらくして結婚しました。



しかし、さすがにアイドルを辞めてから間もないので、会うのは良いとしても結婚までなると世間が騒ぐ恐れがありました。



なので内密に、身内だけでひっそりと式を挙げました。



久しぶりに行く事務所はとても懐かしかったです。



みんなで祝福してくれました。まゆは少し泣いてしまいました。



まゆの頑張りは報われたのです。



これからプロデューサーさんを幸せにするのではなく、プロデューサーさんと幸せになっていくのがまゆの人生の指標となりました。



プロデューサーさんとの新婚生活は、プロデューサーさんの職業柄もあり、家で一人でいることが多いです。



これでも昔よりは多少マシになり、みんな気遣っているおかげか家に帰ってくる時間は早く、休みも多くなりました。



プロデューサーさんと家にいるととても嬉しくて。



朝、おはようと言えること。

昼、お弁当を届けること。

夜、二人で布団に入ること。



まゆが夢見た幸せがそこにはいっぱいあって、プロデューサーさんも照れたように、しかし幸せそうに笑っているのを見て、さらにもっと幸せになります。



幸せは幸せを呼び、そこには幸福以外何もありませんでした。



まゆが成人し、プロデューサーさんにとあるお願いをしました。



言うのを躊躇うほど恥ずかしかったけれど、それでもこれ以上幸せになれるのなら、まゆは頑張ります。





赤ちゃんが欲しい。





その時のプロデューサーさんの顔ったら、これまで見たことのないものでした。

クリスマス。



プロデューサーも今日は早くに仕事を切り上げて帰ってきました。



私は娘と共にプロデューサーさんを迎え入れ、家族三人のささやかな聖夜を過ごしました。



雪が降り、窓ん外は綺麗な白が街を覆い尽くします。



そう、綺麗な白。





いえ、







赤色?











































暗い、狭い、寒い、そんな部屋。



まゆはもう何年ここにいるのでしょうか。



もう何年、家族の顔を見ることがなかったのでしょうか。



まゆは怖くて、家族との面会を受けることをしませんでした。



毎日泣きました。

毎日泣きました。

毎日泣きました。



涙が枯れることはなく、幾度となく死のうかと思いました。



でも、最後の時。



プロデューサーさんはまゆに言ってくれました。



ずっと待ってると。



それはまゆをこの世に縛り付ける最後の鎖でした。



いっそ楽になれたらなと思う。



でもまゆはプロデューサーさんを裏切らないことを誓っている。



プロデューサーさんに会いたい。

娘に会いたい。



あんなに幸せだったのに。



ごめんなさい。



ごめんなさい、プロデューサーさん。



まゆが幸せにするはずだったのに。



そのために頑張ってきたのに。



まゆ自身があなたを不幸にしている。



娘も多分、こんな母親を持って不幸なのでしょう。



ごめんなさい。



ごめんなさい。



ごめんなさい。



死にたい。

夢を見ました。



幸せな夢を。



幸せになる夢を。



誰もが笑っていました。



でも、でも。



まゆはそこにいませんでした。



まゆは資格がなかったから。



まゆの資格は失われていたから。



夢を見ていました。



目を開けるとそこは現実で、全てが灰色の景色でした。



まゆの間違い。



それは自分も幸せになろうとしたこと。



まゆの間違い。



それは自分が幸せになれると勘違いしたこと。



まゆの願い。



それはプロデューサーさんを幸せにしたかったこと。



本当に?



本当に。









頑張ったのになぁ。



願うことならば、誰か、まゆの代わりにプロデューサーさんと娘を幸せにしてあげてください。



手を汚してしまったまゆにはもう出来ないことを、誰かしてください。



それぐらい、報いてくれてもいいじゃないですか。



まゆは、頑張ったのですから。











17:30│佐久間まゆ 
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