2016年11月06日

二宮飛鳥「夕立ち」

・コレジャナイ感あると思います

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その日、午後から日暮れにかけて、軽い夕立ちが通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

ボクが事務所に入ってほんの少しだけ経過したころ。

まだ風が生温い時分のことだったと思う。

すこしうらびれた港湾地区で、ボクは撮影の仕事に臨んでいた。



生憎の空模様というやつで、空も海もモノトーンだった様に記憶している。

天候のおかげか、特に日差しや影を気にすることもなく、撮影自体は順調に進んでいた。



そしていよいよ今日の仕事も佳境といったところで、風景は色濃いグレーのドットパターンを描き出した。



「マズいな、雨だ。飛鳥、ロケバスに戻るよりあっちの倉庫の方が近い。行くぞ」

撮影の中断をスタッフが告げると、プロデューサーはそう言って、僕を導くように移動を始めた。



そして僕らは海の近く、濡れたアスファルトを走った。

「まいったな、今日は雨が降るなんて予報もなかったし、傘をバスに置いてきちまった。悪いな、飛鳥。寒くないか?」

プロデューサーの気遣いに対し、大丈夫、問題はないよ、なんて返したのは、ボクたちの足が止まってから。

潰れた薄暗い貸倉庫の陰で、「すぐに止めばいいんだけどね」なんて言葉を交わしながら、しばらく空を見上げて雨を凌いだ。



なんとなくお互い無言になると、不意に彼は歌を口ずさみ始めた。

雨音で消えてしまうくらい小さな声で奏でられるそれを、ボクは黙って聴いていた。



細く小さく、それでいて歌いなれたような旋律。



なにか不思議な、小さななにかが、ボクの胸に浮かんだけれど、程無くして雨は止み、残りの撮影も滞りなく終わり。

その頃には、雨上がりの虹のように、その感情も霧散してしまっていた。



それから、ほんの少しの日数が経過して。



その日の帰り道、都内へ続く道は、ひどい渋滞が続いた。

遅々として進まないタクシーの車内で、二人でどんなことを話したのかは、恐らく彼も覚えてないだろう。

それくらい、とりとめもないことを、ぽつり、ぽつりと話したことは覚えている。



やはりまだ僕も心を開き切れておらずに、やがて会話は自然に消滅してしまって。

流れてくるラジオからは、知らない人の悲しいニュースと、誰かのつまらないバラードが流れていたように思う。





特にそれに興味を持つこともできず、窓の外に目をやる。

まるで足踏みしているかのように流れることの無い風景をぼんやり眺めていると、不意に僕の耳に彼の声が届く。



話しかけられたわけではない。



先日、雨宿りをしていたときに彼が口ずさんでいたあのメロディだ。

隣に座っていたからようやく聞こえるくらいの小さな声で。

ボクの知らない歌が、頼りなく流れていた。



あの時ボクが感じた違和感は何だったのか。



ふとそのことが頭に浮かび、何かを話しかけようとして言葉を探すけれど、それは途切れてしまった。



そして、ほどなくして目的地である事務所にたどり着いてしまい、結局有耶無耶になってしまった。



それからまた何日か過ぎて。



ボクが事務所を訪れると、仕事を終えて休憩中のプロデューサーが、一人でデスクに座っていた。

ちひろさんがいないなんて珍しいな、なんて思っていると、彼は小さな声で、何かを口ずさんでいた。



ボクがやってきたことに気づくと、歌はそこで止まり、「やぁ、おはよう飛鳥」と挨拶をしてきた。

直前までは覚えていなかったけれど、それは彼がボクの前で度々口ずさんでいた、あの旋律だった。



「その曲は、君のお気に入りなのかい?」



「んー?ああ、なんか無意識に口ずさんじゃうんだよなぁ。俺が学生のころに少しだけ流行った曲なんだよ」



「へぇ。ボクは君の口からしか、それを聴いたことはないけれど」



「まぁバンド自体もすぐに解散しちゃったしなぁ。あっけないもんだ」



あっけない、ね。

世は無常だというけれど。



「そうやって消えてしまうものと、長らく誰かの心の中にあり続けるもの。一体何が違うんだろうね?」



彼は、ボクのそんな言葉に唸って見せると、



「巡り合わせというか、運というか、その実、ほんの少しの違いしかないんじゃないかな」



なんて答えた。



「ボクがこうして選んだ非日常も、いずれは、何かを残すこともなく消えてしまうのかもしれないね。さしずめ、水面の泡のごとく」



自分の口をついた言葉に少し驚く。

あのときの小さなしこりの正体はこれだったのか?

不意にフラッシュバックしたそれが楔となって、ボクの胸を穿とうとしていた。





消える。忘却の彼方に。存在の証明を果たす為のそれが、その爪痕を残すことなく。





ボクがここにいること。



それすらも?

「なんだ飛鳥。不安なのか?」



不安。





「ふん、何を言っているんだい?そんなものを抱くならば、ボクはこうしてここに来ることを選んではいないさ」



強がる。

虚勢を張る。



自分がどれくらい捻じれた奴か、自分がそれを一番よくわかっている。

故にボクは、自分を客観的に見る他人が、自分をどう見るのか、それを楽観的に考えることができずにいた。











そう、ボクがあの時かすかに感じたもの。

それは小さな、けれども確かな不安だった。

「安心しろ。お前はそのままでいい」



プロデューサーのその言葉が、沈みかけたボクの心を、水底から引き揚げる。



「お前は、『二宮飛鳥』のままでいればそれでいい。おまえのありのままを、俺が世間に知らしめてやる。お前がここにいるってことを、俺が証明してやるよ」



そういった彼の顔はとてもまっすぐで。

そして、雲間から差す一条の光のように、まぶしい笑顔だった。





「心配するな飛鳥。俺が信じるお前を信じろ」



「…へぇ。なら、お手並み拝見といこうかな」



本当は叫びたくなるような衝動を抑え、ボクは彼に、プロデューサーに一つ頼みごとをした。



「さっきの歌、もう一度、聴かせてくれないか?」



なんだよ、変な奴だな、なんて苦笑いをしながら、彼はもう一度、あの曲を口ずさむ。



やっぱり、他所では聞き覚えのないメロディ。

けれど、今度は。

どこか安らぐような気持ちを感じるボクが、そこにいた。



それは雲が風にちぎられ、晴れ間が顔を覗かせるような感覚だった。













雨が、止んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



そして、現在。



















青空のような、夜空のような、眩く煌く海の中で、ボクは叫ぶ。

存在の証明を。



















12:30│二宮飛鳥 
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