2016年11月24日

藤原肇「手を取って連れ出して」

アイドルマスターシンデレラガールズ。藤原肇のSSです。





SSRおめでとう。でも引けなくてコミュとか全く関係ない話だよ仕方ないね。





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日本に三日三晩滞在していた台風が、夏の蒸し暑さを引き連れて出ていってしまった。



真上に昇るお日様の光は暖かいのに、風は冷たくツンと頬を刺してしまい、私のそばをすぐに通り抜けてしまうから少し寂しく感じてしまう。



あれだけの雨風を打ち鳴らしながら大暴れしたせいか、赤ちゃんが泣き疲れてぐっすり寝てしまったように、空は静かで、それでいてどこまでも高く透き通っていて、手を伸ばしても簡単には届かなそう、だなんて思ってみたり。





ゆっくりと歩きながら周りを見渡せば、風で飛ばされてしまった葉っぱが冷たいコンクリートの上でカサカサと音を鳴らしている。木々にしがみついて残っている葉ももう少ししたら色づいていくのかな。



 台風が吹き荒れていた間、私たちは寮の中で安静にしておくように言われていた。



久しぶりにも感じてしまう外の景色は見えるもの感じるものがガラリと変わっていて、まるで世界が塗り替えられてしまったよう。







だからなのかな。





秋の装いは未だに夏の気持であった私の心に手を取ってくれているようにも思えたのは。







「おはようございます」



「おう、おはよう。ちゃんと休めたか?」



「外にも出られませんでしたし、久しぶりにしっかりと休めましたよ。プロデューサーさんは?」



「そりゃもちろん、だ」



少し言葉に詰まらせながら目をそらす。



私のプロデューサーさんは季節が変わっていても相変わらず嘘が下手だ。



私がじっと目を見つめるとプロデューサーさんはバツが悪そうに悪かったと小声で謝る。





「台風で中止になったイベントの埋め合わせとかてんてこ舞いだったんだよ」



仕事を理由にされては私がそれ以上何も言えないと分かっているのか、プロデューサーさんはもう一度悪かったと謝ってから私にホットコーヒーが注いであるマグカップを渡す。



「外は冷えてただろ」



ありがとうございますといただきますを伝えマグカップを手に取る。



本体を支える左手に熱が伝わってきたことで、私の手先が冷えていたことに気が付く。





「……おいしいです」



「事務所にこもりながらおいしい淹れ方を試行錯誤してたんだ」



「そんな時間があったなら休んでください」



「それはちひろさんが許さなかった」



そういうプロデューサーさんの目は少し虚ろでどこか宙を舞っているようにも見てた。





「まぁ、その甲斐があって今日はもう仕事がないんだけどな」



「そうなんですか?」



「世間はやっと台風から解放されたから、そっから立ちなおすのに精一杯なんだよ」



肇だって今日も休みだろ? とプロデューサーさんはひとつ大きなあくびをする。



「事務所に来ても何も面白いものはないぞ?」



「確かにいつも通りでした」



「確かにって……じゃあなんで来たんだ?」 



私のほうをちらりと横目に見ながら尋ねてくるプロデューサーさんに私は一言。



「なんででしょうね?」と、とぼけるしかできなかった。





カチカチとマウスをクリックする音が聞こえる。



画面を見つめるプロデューサーさんはいつも以上に真面目な顔で、あごに手をやりながら時々うなったりしていた。



「今日のお仕事は終わったんじゃないんですか?」



「これはソリティアだから大丈夫」



「……」



「冗談だよ。いや冗談ではないか」



「どういうことですか?」



「今日はもう誰も来ないからいつ閉めてもいいんだけど」



プロデューサーさんは言葉を濁す。



あぁそっか。私が居るとプロデューサーさんが帰れないんだ。





「ごめんなさい。すぐに出る準備をしますから」



私が荷物をまとめようとしていると後ろのほうから呼び止める声が聞こえる。



「肇はこの後、時間あるか?」



「ええ、大丈夫ですよ?」



 どうしたんですかって尋ねようとして振り返ると、プロデューサーさんは、もうすでに出かける準備が整っていて、私にコートをぽいっと渡してくれた。 



「よし、お散歩するぞ」



 準備も用意も何もかもが目まぐるしいプロデューサーさんはまるで、台風みたいだなんて思ってみたり。





お散歩っていってもプロデューサーさんの中では目的がしっかりあるみたいで、事務所の最寄りの駅から電車に揺られていく。



変装用の帽子を気持ち、深めにかぶりながら。



「三軒茶屋ってひびき、お団子を食べたくなるよな」



吊革につかまりながら突然プロデューサーさんがそんなことを言うものだから、私も「え?」としか言えないでいると、プロデューサーさんもその反応が予想外だったのか、コホンとひとつ咳払いをしながら。



「って周子が言ってた」って前を向きなおして車窓の景色を眺めだす。



私の頭の中で周子さんが大きなため息を吐きながらやれやれとあきれている。



お団子を買って渡せば大丈夫かな?





「お、そろそろかな?」



車掌さんのアナウンスに耳を傾けながらプロデューサーさんが私の肩を叩く。



ぐぐぐ、と電車がゆっくりと止まっていって、ブザーが鳴って、ドアが開くと同時に、せき止めていた川の水があふれ出る様に、人が流れ出していく。



「よっと。大丈夫か?」



プロデューサーさんが私の手を取って助けてくれたおかげで、なんとか私自身も流れずに済んだ。



プロデューサーさんも良かった良かったって言いながら手を離す。



「……あっ」



「ん? どうした?」



「いえ、なんでもありません」



そっかなら行くぞ、とプロデューサーさんが前を歩く。



私もそれに付いていく、渇いた秋風が、また頬をかすめた。





「いらっしゃいま……せ……」



よく見慣れたお花屋さん、そのカウンターにはエプロンを身に着けた凛ちゃんが驚いた顔をしながら交互に私とプロデューサーさんを見て、大きく息をつく。



「驚かさないでよ」



「お客さんが来たのに驚くなよ」



「見知った顔がお店に来たら驚くって」



「それはすまない。お花をください」



「唐突だね。誰かにプレゼント?」



「事務所に花を置きたいんだ」



「それもまた唐突だね」





いいんだよ。台風だって来たばっかりだしだなんて少し意味が分からない言葉を並べながらプロデューサーさんが店内のお花を物色し始める。



「肇のプロデューサーっていつもあんな感じだったっけ?」



ちらりと横目にプロデューサーさんを見ながら凛ちゃんが私に耳打ちをする。



私はそれに困った顔をしながら「台風のせいなんです」としか答えられなくて曖昧にほほ笑んだ。





「台風といえば、大丈夫でしたか?」



寮にいた私たちとは違って凛ちゃんは自分のお家(だからここになるのかな?)に居た訳だからこうして会うのは一週間ぶりになる。



久しぶりのようなそうでないような不思議な感覚。



「大変だよ、入荷するはずのお花が届いてなかったりで」



 お父さんもお母さんもいまそれで大忙しって、凛ちゃんのため息が聞こえる。



もしかしたらどこも似たような状態なのかもしれない。



「もともと時期的にあんまり花も置いてなかったのもあるから数は少ないけど、まぁ好きに見ていって良いよ」



そう促されて辺りを見渡すと数々のお花が花束で飾られていたり、ポットに入っていたりとそれぞれの色をまとっていた。





「いいのあった?」



「ひゃあっ!」



突然声をかけられてドキリとしてしまう。



プロデューサーさんは、あ、悪いと全く悪びれず。



凛ちゃんは口元に手を押さえて肩が小刻みに震えている。



「……まだなにも探してないです」



「そうか、凛はなんかおすすめある?」



「っぷ、ふふっ……肇がひゃあって……ふふ」



「凛ちゃん!」



「ふふっ、ごめんって。えーとおすすめ?」



凛ちゃんがごそごそとカタログを引っ張り出す。



まだ顔がにやけてる。そんなにおかしかったのかなぁ……





「んーとね。あぁ、ここには無いんだけどもうすぐこれが届くけど、どう?」



凛ちゃんが指をさしたところを見てプロデューサーさんはなるほどと呟く。



「用意するまでに少し時間がかかるけど……」



「肇はどう思う?」



「え? 私ですか?」



そもそもここに来るまでに事務所に花を置くなんて話すら出てこなかったのに、あまりにも突然過ぎる選択に困ってしまうけれど、四つの目が私を見つめるから「良いと思います」と声を振り絞りながら、やっとの思いで、そう答えた。





凛ちゃんのお店から離れて、噴水の見える公園のベンチへと腰かける。



すっかりと空は秋のものになっていて、周りの木々も少しずつだけど色づいている。



事務所からはそう離れていないはずなのに、木々に揺れる葉っぱがほのかに黄色い。



「良かったんですか? お花すぐに買わなくて」



「まぁ、よく考えたら花瓶とか何も用意してなかったよなって思って」



「そうでしたか」



「秋だぞ」



「秋ですね」





「肇の実家はやっぱり秋になると紅葉が綺麗なのか?」



ふと、思い出したようにプロデューサーがどうなの? と尋ねる。



萌える赤。



黄色の絨毯。



深い緑の渓流。



それぞれがそれぞれの色を主張していて、うまく混ざり合っている。



十六年間、それを当たり前として見てきたからうまくは言えないけど、きっと綺麗だと思う。



「来ますか? 岡山」



「いいの?」



「花瓶ぐらい私が作ってみせますし、ちょうどいいかと」



「なら、善は急げだな。世間が落ち着く前に行ってみるか」



プロデューサーさんがそう言って立ち上がり、私に向って手を伸ばす。



その手をつかみ私も笑ってそれに応える。





ーーーーー



ーーー









額から汗のしずくが垂れ落ちていくのが分かる。



それをなんとか、作務衣の袖でぬぐい、深く息を吐く。大丈夫、もう少し。



手の平に熱がこもるのが分かる。



ひんやりした土との温度差が心を落ち着かせる。



台風も、秋へ移ろう風景も、秋から移ろう風景さえも、残念ながら私の熱をどこにも連れだしてはくれないみたいだった。





「できたか?」



「ひゃあっ!」



突然声が降ってきたことに驚いてしまい思わず器を落としそうになってしまう。



「あ、すまんすまん」



「いえ……私もつい気が緩んでしまいました」



振り返るとプロデューサーさんが腕組をしながら私の手に持ってある器をしげしげと眺めていた。



それはそうと。



「なんでプロデューサーさんまで作務衣を着ているんですか?」



「流石にスーツで陶房はちょっと違うと思って」



「言われてみればそうですね。似合っていますよ?」



「それはありがたい。肇も作務衣、似合っているぞ」



「ふふっ。ステージ衣装とどちらが似合っていますか?」



「大人を困らせるんじゃない。どっちも同じくらい最高にキュートだぞ」





ふふっていつものように笑おうとして笑えなくて少し困る。

 

確かに意地悪な聞き方をしたのは私だけれど、もっと、なんだか……こう、ね?







「どした?」



「なんでもありません」



顔をうつむかせながら器を持って立ち上がる。



どうやら熱は手の平から顔にまでのぼってしまったみたい。



「どした?」



「なんでもありません」



顔をうつむかせながら器を持って立ち上がる。



どうやら熱は手の平から顔にまでのぼってしまったみたい。





「何回来てもここの窯は凄いなぁ」



目の前にある大きな登り窯のことを褒められると自分自身のことのように嬉しくなってしまう。



中に入るとすでにこれから焼く器が置いてあって、おじいちゃんからは空いてるところであれば好きなところに置いていいって言われていたから、隣に居るプロデューサーさんにどこがいいですかって尋ねてみる。





「え? 俺に聞いちゃうの?」



「ダメですか?」



「ダメってわけでは無いけど、場所によって柄が変わるんだろ」



きっとそこは経験とか職人の勘に任せたほうが、ってプロデューサーさんは言いたいのかもしれない。



それでも狙ったところを目がけて竿を振りかざすよりも、いまは川の流れに身をゆだねてみたいとも思った。



きっとこれは相手がプロデューサーさんだからこそなのかなって。



「心配はいりません。プロデューサーさんなら大丈夫ですよ」



「そこまで言い切っちゃうか」



「はい、だって私が信じている人ですから」



プロデューサーさんの大きなため息が聞こえる。なにかおかしいことを言っちゃった?





「そうだな……じゃあここで」



プロデューサーさんが指定した場所はまるで、この器が置かれるのを待っていたかのようにシンと静まり返って、それでいてすっぽりと綺麗に収まる。



うん、これでいい。ここがいい。





「完成までどれくらいかかるんだ?」



「だいたいですけど、焼くのに二週間、窯から出すのに一週間ってところでしょうか」



「やっぱり時間かかるんだな」



「それだけ楽しみが長続きすると思えば……」



 それもそうだな、とプロデューサーさんは笑う。



「今は暗いですけど、焼成しているときは窯の中が真っ赤になるんですよ」



「それは……ぜひ見てみたいな」





「それはそうと」ってプロデューサーさんが右手を私の目の前の高さまで掲げる。



もちろん繋いだままの私の左手も一緒に。



「手……離さなくて大丈夫?」



「プロデューサーさんは手を離したいですか?」



「いや、ええと」



「でしたらもう少しこのまま」







握った手にちょっとだけ力を込めてみる。





この器が焼き上がるころにはもう本格的に秋が深まっているのかもしれない。





次も、その次の季節も、こうやってお互いに手を取って巡る季節の中を連れ出していけたら。





それはきっと素敵なことだって思います。









「手を取って連れ出して」おわり。







おまけ



「それで、できたのがこれなんだ」



届いた器に凛ちゃんが、ふぅんと声をもらしながら持ち上げたり、さすったりしている。



「いい色だね、きっとどの花にも似合うと思うな」



それで、持ってくるお花はこれで良かったの? って凛ちゃんが育苗ポッドを持ってくる。



物は使われてこそ。



だからこの器に花が飾られて初めて花瓶になれるんだって。



真っ赤なポインセチアがやわらかな風を受けてふわりと揺れた。



次の季節を楽しむための準備を、心の中で少し、始めてみる。





21:30│藤原肇 
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