2016年12月01日

文香「机の下は居心地がいいのですか……?」

文香(……私がこの事務所に入って、ずいぶんと時が経ちました)



文香(初めはまるで異世界のように感じていたこの事務所にも、すっかり馴染んでしまいました)



文香(もうひとつの家……と言っても過言ではないくらいに……)





文香(……人の多いところは……あまり得意ではないのですが……)



文香(でもここは……とても落ち着きます……)



文香(どうして……なんて疑問に思う必要すらありませんね)



文香(……不思議なものです)



文香(目を閉じれば……今でも書に囲まれた私の領域が簡単に思い出せるというのに……)



文香(それがいまや、書ではなく、たくさんの人や視線に囲まれることになるとは……)



文香(……本当に、不思議なものです)



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文香(……などと、少し感傷に浸ってはみましたが本題はそこにはありません)



文香(今の私の興味は、馴染んだこの部屋の一点に向けられています)



文香(……プロデューサーさんの机の下)



文香(そこにはまゆさんと輝子さんが並んで座っていました)



まゆ「……」



文香(まゆさんは……編み物中です)



文香(真剣に……でも楽しそうに編んでいますね……あそこから何ができるのでしょうか?)



文香(きっとプロデューサーさんにプレゼントするものでしょうけど……編み物に造詣は深くないので、わかりません)



輝子「フヒ……」



文香(対して、輝子さんは……きのこの世話でしょうか?)



文香(あのきのこは……なんでしょう?)



文香(きのこにも造詣は深くないので……さっきと同じ言い訳になってしまいました)



文香(物語を読みこそすれ、専門書などはほとんど読まないので……知識はないようなもので……)



文香(……お恥ずかしい限りです)

文香(……しかし、面白いものです)



文香(机の下……なんて、地震でもない限り潜らないものだと思っていましたが……)



文香(こうして机の下に潜む二人に違和感を覚えません……)



文香(……むしろ自然のことのように感じます)



文香(おそらく、二人が……いえ、今日はいない乃々さんも入れて三人が机の下にいることが日常となったからでしょう)



文香(突飛な行動でも、恒常的に続ければそれは日常となります)



文香(この光景を日常と感じるのも、三人の積み重ねによるものでしょう)



文香(……しかし、ひとつ疑問があります)



文香(というよりは、不思議に感じていること……ですね)



文香(……どうして彼女たちは机の下に入っているのでしょうか……?)



文香(……いえ、入るのが日常になっているのですから、おそらくここの居心地がいいからでしょうけど……)



文香(それなら……その居心地の良さっていうのはいったいどこから……?)



文香(……)



文香「……」



まゆ「あの……?」



文香「……」



輝子「お、おーい……?」



文香「……あ」

輝子「あ……気がついた」



文香「……失礼しました。少々考えごとをしていたので……」



まゆ「考え事……ですか?」



文香「そう……ですね」



輝子「だ、だいぶ集中してたな……私達が呼んでも気づかなかったし」



輝子「ずっと見られてたから……少し照れた」



文香「……すいません」



輝子「いや……謝ることじゃないから……大丈夫……フヒ」



輝子「でも……な、何をそんなに考え事してたんだ?」



文香「そうですね……」



文香「少し不思議に思ったことがありまして……」



まゆ「不思議に……?」



文香「はい……」



文香「その……プロデューサーさんの机の下というのは、それほどに居心地がいいのですか……?」



まゆ「ええ、とても……」



輝子「フヒ……いいぞ」



文香「即答……」



まゆ「居心地が悪ければまゆだって出て行っちゃいますし」



輝子「だな……心地いいからずっとここにいる……ずっとここにいたい……フヒ」



文香「……それもそうですね」

文香「ええと……それでは具体的にどこに居心地のよさを感じてるか聞いても……?」



まゆ「どこに、ですか……?」



文香「はい」



文香「その……失礼かとは思いますが……」



文香「私は、机の下に居心地の良さを感じるとは思っていなくて……」



輝子「フヒ……ばっさり……」



文香「……すみません」



まゆ「いえ……そうですよね」



まゆ「普通はこんなところに潜りませんし……」



文香「……」



文香「ですが、お二人は日常のように机の下に潜んでる……」



文香「ならば、私の知らない魅力があるのでは……と、興味を持ちました」



文香「なので……よろしければ、聞いてみたいです」



文香「お二人がここに居心地のよさを感じる理由を」



まゆ「……」



輝子「……」

文香「……ダメ、でしたか?」



まゆ「いえ……そうですね、ここが居心地がいいと感じる理由は……」



文香「……」



まゆ「その……まゆが机の下に入ったのはプロデューサーさんを近くに感じたかったからなんですけど……」



文香「近くに……」



まゆ「はい」



まゆ「この机はプロデューサーさんが普段お仕事に使っている机ですから……いたるところにプロデューサーさんを感じるんです……」



まゆ「置かれているペンからも……しまっている資料からも……普段座っている椅子なんか特に……♪」



文香「はぁ……」



文香(……そういうものなのでしょうか?)



まゆ「そして、ここはそれに囲まれる、一番素敵な場所……」



まゆ「机の下に入ることで……まゆ自身が机になったような気分に慣れるんです……」



まゆ「そしてプロデューサーさんをたくさん感じることができて……うふふ♪」



まゆ「……というのが最初にここに入った理由で……居心地のよさを感じる理由でもあるんですけど……」



まゆ「……それだけでは無いんです」



文香「……」

輝子「フヒ……私も同じだ、まゆさん」



輝子「私も……最初はキノコのために……って感じだったんだ」



輝子「ここは暗くてジメジメしてて……みんな喜んでたから……」



輝子「ほら……今も喜んでるだろ……フヒ」



文香「はぁ……」



文香(……私には違いがよくわかりませんが)



輝子「だから……ここにいたんだけど……」



輝子「今は……それ以外にも居心地のよさを感じてる……と思う……」



輝子「それはきっと……まゆさんとボノノちゃんがいるから……」



文香「!」



まゆ「ええ……まゆも、そう思います」



まゆ「お二人と過ごすこの空間が何より暖かくて……居心地がいいんです」



輝子「私も、すごく落ち着けるんだ……フヒ」



輝子「それに……困ったときにすぐ助けてくれるし」



まゆ「うふふ、お互い様ですよ……♪」



文香「……なるほど」



文香(……机の下とは、おそらくシェアハウスのようなものだったのでしょう)



文香(集まる理由こそ異なれど……同じ共同体で接していくうちに、仲間への絆が深まっていく……)



文香(そしてそれは、まるで家族のように強い絆で結ばれるのでしょう……)



文香(だからこそ、三人は居心地の良さを感じ、机の下に今もなお潜んでいるのかもしれません……)



文香(……)



文香(……少しだけ、羨ましいですね)

輝子「……な、なあ」



輝子「文香さんも……入ってみるか……?」



文香「……なぜでしょうか?」



輝子「あ……その……」



輝子「な、なんか羨ましそうに見えた……から……とか」



文香「!」



文香「……顔に出てましたか?」



輝子「……わりと」



文香「そうですか……」



まゆ「うふふ……」



輝子「フヒ……」



文香「……恥ずかしい」



輝子「そ、それで……どうする……?」



文香「机の下に……ですか」



輝子「ああ……机の下は来るもの拒まず……去るもの追わず……フフ」



文香「そうですか……」



まゆ「……先ほどまでの理由はあくまでまゆのであり、輝子ちゃんのです」



まゆ「もしかしたら、文香さんもまた別の居心地の良さを感じるかもしれませんよ」



文香「……」



文香「……少しだけ、入ってみてもいいですか?」



輝子「もちろんだ……フヒ」



まゆ「それでは、まゆたちはどきますねぇ」



文香「……ありがとうございます」



文香(……何事も、体験です)



文香(少しでも興味を持ったのならば、体験してみるといい……これもアイドルをはじめてから学んだことですね)



文香(書で満足せず……自らの体を使って……)



まゆ「……文香さん?」



輝子「きゅ、急に……と、止まってどうしたんだ……?」



文香「あ……」



文香「いえ……なんでもありません……」



文香(……しかし)



文香(書から少し離れても……自分の世界にふけってしまう癖は治りませんね……)

文香「それでは……お邪魔します」



輝子「フヒ……どうぞ……」



まゆ「とはいっても、今は誰も入ってませんけど……」



輝子「トモダチはまだ中にいるぞ……」



まゆ「……そうでしたね、ごめんなさい」



輝子「いや……」



文香「……」



文香(……ふむ)



文香(なるほど……これが机の下)



文香(……想像していたものとは違いました)



文香(もっと無機質で冷たいものかと思っていましたが……そんなことはなく……)



文香(確かに、薄暗く……静かなのですが……ほのかに暖かい……)



文香(……どこか、書庫を思い出す雰囲気です)



文香(あの、心地のいい閉じた空間を……)



文香(書の匂いこそしませんが……でも……どこか同じ空気をまとっているように思います)



文香(……なるほど)



文香(これは……心地いい……)



文香「……」



輝子「ま、また固まった……」



まゆ「うふ……でも楽しそうですよ」



輝子「だな……」



輝子「まゆさんも最初に入ったときあんな感じだった……フヒ」



まゆ「……」



文香(……あ)



文香(この中で本を読んでみたら……きっと……)



文香「……」



文香「あの……もう少しここを借りていても……?」



まゆ「うふ、構いませんよぉ」



輝子「堪能してくれ……フヒ」



文香「ありがとうございます」



文香「……」



文香「……」ペラ



文香(……)



文香(アイドルになってから……久しく体感していませんでした……)



文香(ひっそりと閉じた空間で、書へと入り込む……この感覚を……)



文香(……)



文香(……)



文香(……ふふ)



文香「……」



文香「……」ペラ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





文香「……ふぅ」



文香(……良いお話でした)



文香(そして……普段より楽しく読めた気がします……)



文香(ここで読んだから……かもしれません)



文香(私の大好きなあの空間に似たここで……)



文香(……)



文香(……あ)



文香(そうでした、ここは机の下……私はこの場所を借りている身……)



文香(早く出なければ――)



文香「――」スッ



文香「……?」



文香(……お二人は、どこに行ったのでしょう……?)



輝子「あ……よ、読み終わったか……?」



文香「!」ビクッ



文香(ど、どこからか声が……!?)キョロキョロ



輝子「フヒ……こっちだ、こっち……隣の机の下……」ヒョコッ



文香「あっ……」



文香「……どうも」



輝子「フヒ……どうも」



まゆ「うふ……どうも、文香さん」ヒョコッ



文香「あ……まゆさんもそこにいたのですね」



まゆ「やっぱり机の下が落ち着きますから……一番落ち着くのはプロデューサーさんの机の下ですけど……」



文香「……すいません」



まゆ「いえ、責める気はありませんよ……貸したのはまゆ達ですし」



まゆ「それで……どうでしたか?」



文香「机の下……」



文香「……想像していたものと違って……とても素敵な世界でした」



輝子「おぉ……」



文香「薄暗さも静かさも心地よく……少し本が読みづらいのが難点でしたが、それもまた趣を感じ……」



文香「私もまた、居心地が良いと感じました……お二人とは違う理由ですが」



まゆ「そうですか……」



まゆ「うふ……居心地がいいって言ってくれてちょっと嬉しいかも……」



輝子「わかる……フヒ」



文香「……?」



文香「……ええと、よろしければ……また机の下をお借りしてもいいですか?」



まゆ「もちろんです」



まゆ「お借りする……なんていわず、いつでも来ていいんですよ?」



輝子「ああ……さっきも行ったけど、来るものは拒まないからな……」



文香「……ありがとうございます」



まゆ「いえいえ……♪」



輝子「フヒ……じゃあ信頼の証に、これを」



文香「これは……キノコ帽子?」



輝子「ああ……机の下のトモダチのしるしだ……受け取って欲しい」



文香「……では、いただきます」



輝子「どうぞ……フヒ」



文香「……」



輝子「……」



文香「……あの、被ったほうがよろしいのでしょうか?」



輝子「で、できたら……ダメ?」



文香「いえ……」



文香「……」チラッ



まゆ「……まゆも持ってますよ?」



文香「……そうですか」

文香「……では」



文香「……」スッ



輝子「おお……いいな……」



文香「……そうですか」



輝子「ああ……か、被ってくれて嬉しい……トモダチも喜んでる……フヒ」



文香「はぁ……」



輝子「フフ……キノコ仲間……違う、机の下仲間が増えた……嬉しい」



文香「……」チラッ



まゆ「……なんですか?」



文香「いえ……」



文香「……まゆさんの被っている姿も見てみたいな、と」



まゆ「えっ……?」



輝子「そ、そうだな……折角だから、3人みんなキノコ帽子……」



まゆ「いえ、まゆは……今日は持ってきてませんし」



輝子「帽子ならまだあるぞ」



まゆ「えっ」



まゆ「……被りました」



文香「……ふふ」



まゆ「なんですかぁ……!」



文香「いえ……とても似合っていたので……」



まゆ「……」



まゆ「……文香さんもとても似合っていますよ」



まゆ「待ち受けにしたいくらいに……」



文香「……ありがとうございます」



まゆ「うふ……」



文香「ふふ……」



輝子「フヒ……机の下ネットワークが広がって……じめじめも増えて……いいぞ……フヒ」



文香「じめじめ……」



まゆ「……まゆたちってじめじめでしたかぁ?」



輝子「あ……」



輝子「い、いや……ごめん……言葉を間違えた……」



輝子「えっと……まゆさんは……なんか、しっとり感が……いい……キノコも喜ぶ」



まゆ「しっとり……うふ、嬉しい……♪」



輝子「そ、そうか……よかった……」



輝子「それで、文香さんは……えっと……なんか……私と同じ感じ……」



輝子「だから……キノコに向いてる……」



文香「輝子さんと同じ感じ……ですか……」



輝子「……い、嫌だったか……?」



文香「……いえ」



文香「私も……少しばかり親近感は感じてましたから……ふふ」



輝子「よ、よかった……フヒ」



輝子「えっと……こ、こんな感じで……だから」



輝子「キノコが喜ぶ人が机の下ネットワークに増えて……嬉しい……って感じか……?」



輝子「……じ、自分で言うのもなんだがよくわからないな……」



文香「ふふっ……」

文香「……輝子さんも似合ってますね」



輝子「そ、そうか……?」



まゆ「ええ……その帽子ピッタリです♪」



輝子「フヒ……照れる……でも嬉しい……キノコも褒められてるみたい……」



まゆ「うふ……可愛い……♪」



輝子「で……でも、やっぱり……恥ずかしいな……あぅ……」



文香「……ふふ」



輝子「ぅ……な、何はともあれ新しいキノコネットワーク……違う、机の下の仲間として……フヒ」



輝子「よろしく……文香さん」



まゆ「よろしくお願いしますねぇ」



文香「……よろしくお願いします」



文香(……今の私は、机の下……としての良さしか体感しておりません)



文香(それも、とてもすばらしいものでしたが……)



文香(……もしも、まゆさん、輝子さん、乃々さんの輪の中に入れたら……どうなるのでしょうか)



文香(……いずれ、その時が来ると嬉しいですね……ふふ)









おしまい



08:30│佐藤心 
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