2017年01月16日

輿水幸子「クリスマスと小箱」

・題材遅刻

・稚拙文

・短い

・地の文





よろしくお願いします。



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「・・・遅いですね」



12月も25日、クリスマスの日に、輿水幸子は事務所で1人寂しく呟いた。

クリスマス特番の撮影も終わり、1人でタクシーに乗りここに戻ってきたのには理由があった。



クリスマスプレゼントだった。一般的にこの日はサンタクロースがいい子にしていた子供たちにプレゼントを配る日であり、

特に彼女のような少女が誰かに贈り物をするという義務はない。



昨年のクリスマスの日、彼女はサンタ衣装でのモデル撮影をしたということもあり、いつも彼女をいい意味でも驚かせる担当プロデューサーに

サプライズをして逆に驚かせようと巨大な箱に入り「プレゼントはカワイイボクですよ」と驚かせる手筈だったのだが、酸欠からか寝てしまい、そのうちに箱ごと別の位置に運ばれサプライズは失敗してしまったことがあった。



そんなことがあって一年間、別な手でプロデューサーを驚かせてみようと試行錯誤したものだったが、どうにもプロデューサーの方が何枚か上手なようで、

逆に彼女が驚かされる日々が続いたのだった。彼女はプロデューサーの鼻を明かすことが出来ず少し歯がゆかったが、それと裏腹にどこか驚かされることを楽しんでいる自分がいることをなんとなく自覚していた。

幸子は大事におもっていた。アイドルになってからずっと付き添っていたプロデューサーのことを。過去に、自分の発言からどう思考を捻じったのかスカイダイビングでライブに登場という企画を持ち出したことは多少彼を恨んだが、

どうやら彼なりに幸子のことを思っての企画であるということを知り、やはり彼は彼だなと思ったことがあった。



自分の中の彼への感情が唯の信頼なのか、それともアイドルとして禁忌であるとされる恋愛感情なのかと葛藤する日もあったが、それでも彼女は彼に心を許しているのは間違いなかった。

そんなプロデューサーのために、今年の彼女はあまり奇をてらわず、素直に小箱を用意してプレゼントを贈るつもりだった、のだが。



「もうそろそろイブさんと一緒に帰ってくるはずなんですが」





文字がびっしりと埋まったホワイトボードを見やる。今日の彼はイブと聖の方に付き添っており、彼女のクリスマスライブが終われば戻ってくるはずだった。



それが帰社予定の時間の一時間を過ぎても戻ってくる様子がない。何があったか心配になったが、千川ちひろ曰く「少し遅れているだけ」とのことだった。

彼女のプロデューサーは幸子をいじるようなことがあっても仕事に対しルーズな面は決してなかったので、その言葉を信じておとなしく待つことにした。





それから2時間後。未だプロデューサーの姿は事務所になかった。日は完全に落ち、いくつもの星が窓の外に輝いていた。

もう9時もまわろうとしていたところ、ちひろには寮への帰宅を促されたが、プロデューサーを待つと決めた彼女の意志は固かった。

プロデューサーは予定を曲げるような人ではないはず。過去に自分が言った我儘に予定通り付き合ってもらったり、逆に仕事があれば些細なことだろうと断ってきた(その後聞いてもらったが)彼を知っていたので、

彼女は待つことが出来た。



「カワイイボクをこんなに待たせるだなんて・・・まったくプロデューサーさんは困ったものですね」



そもそも約束など取り付けていないことなど重々承知していた。年末年始の忙しいタイミングに我儘をいうほど子供ではなかったが、メールで知らせておくくらいはしても良かったかな、と先週の自分を少しだけ恨んでいた。



彼を、いつでもボクをみてくれて、カワイイと褒めてくれて、少しだけ意地悪なあの人に感謝を告げるために、幸子は待ちつづけた。





それももう限界のようだった。ちひろがとうとう戸締りの確認を始めていた。所属アイドルといえど、責任者がセキュリティをかけて退出するならば、幸子も帰らざるを得ない。

待ちたい気持ちを抑え、仕方なく手荷物をまとめる。腕に抱えたままの小箱を寂し気に見つめ、トートにしまおうといったときだった。



カッカッカッ、とコンクリートが響く音が事務所入り口の方から聞こえた。短いテンポで、だんだんと大きくなる足音。

聴くに革靴のようだった。この事務所において革靴を履く人物で今事務所にきてもおかしくない人物を幸子は知っていた。

彼だ。



入り口ドアの刷りガラスにスーツとネクタイが映る。間違いなかった。不安とガッカリ感は何処かへ消えてしまった。







「すみません遅くなりましたちひろさん!!これには重要な訳が!!」





人が去り静まり返った事務所に似つかわしくない大声にを聴いて、脈が少し速まった気がした。



扉を勢いよく開け一直線にちひろのもとへ向かった彼の眼には、ソファに座る幸子は映らなかったようだ。



PCの電源を落としていたちひろへの言い訳曰く、どうやら彼はライブ終了後イブ・聖を女子寮に送り届ける際に寄り道をしていたところ、

公園で甘味を頬張りながら歌を口ずさんでいた聖に子供たちが寄ってきて、即席公園クリスマスライブを見届けるうちにこんな時間になっていたそうな。



不覚にも携帯電話の充電が切れてしまい連絡が出来なかったという彼だったが、そこまで手が離せない状態だったのだろうか?

しかし幸子は信じていたしちひろも信じていた。普段の彼の行動から見える人徳だろう。



ようやくちひろに許しを貰ったのか、彼の言い訳と謝罪のマシンガンがようやく止まった。そういえば、と幸子は一計を案じた。

彼はまだこちらに気づいていない。このタイミングでこっそり近づけば、彼を驚かせられるはず。

仕舞いかけた小箱を取り出し、ブーツが音を立てないように、細心の注意で忍び足。



彼まであと10歩。プロデューサーはまだちひろと話している。



あと9歩。どんな風に驚かすか思案を巡らせた。



あと8歩。小梅と観たホラー映画のごとく、お化けのように接しようか。



あと7歩。ライブの時の輝子のように、絶叫を上げてみようか。



あと6歩。それともまゆのように、そのまま背中から囁きでもしてみようか。



あと5歩。一歩詰めるごとにはやる鼓動に考えがまとまらない。ここはオーソドックスにワッと声を上げよう。





あと4歩というところで、幸子は異変に気付いた。ちひろは既にこちらに気づいたからなのか彼の目の前にいなかったが、

それでも彼はその場を動こうとも振り返ろうともしない。完全にこちらに気づいていて、逆襲の手を考えているに違いない。



あと3歩。このまま逆に驚かされるくらいなら、勢いで押し切ってしまおう。



あと2歩、1歩。忍び足をやめ一気に距離を詰める。が、急に広げた歩幅に足がもつれてしまい、幸子の世界が傾いた。

このままだと勢いで驚かせるどころか床か彼に激突してしまうーーー

「幸子か。ケガはないか?」



傾きは収まった。冷や汗と興奮した呼吸を整えて確認すると、幸子はプロデューサーに抱え止められていた。

30cm以上はある身長差から、彼のいたずらさと心配が入り混じった顔が見えた。



ありがとうございますと伝えて彼の腕から離れる。ふと乃々から貸してもらった少女漫画のワンシーンを思い出して、もう少しだけこのままのほうが良かったかなとよぎった。

そういえば小箱はーーーと手中を見ると、変わらずそこにあることに安堵した。



「メリークリスマスですよ、プロデューサーさん」



一呼吸整えてから、改めて肝心のプレゼントを突き出した。



「まさかこのためにこの時間まで残ってたのか?」



「どうですかプロデューサーさん、少しは驚きましたか?」



「だいぶな」



「フフーン、ボクだってやられっぱなしじゃないんですよ」



少し得意げになった。一方彼はというと、少しばつが悪そうな風だった。



「すまんな幸子、お前の分のプレゼントは今ここにはないんだ」



「ここには?」



彼を問い詰めると、幸子の仕事は昼頃終わると思っていたので、女子寮組の分のプレゼントはイブに預けて配ってもらう予定だったらしい。



「まったくプロデューサーさんは相変わらずダメダメですねぇ・・・」



「なにがだよ」



「こういう時は直接プレゼントを渡すほうがいいに決まってるんです。まゆさんなんか絶対喜びますよ」



「といってもこの時間に俺が女子寮に入るわけにもいかないしな・・・」



なんだかんだ言いつつも、やはりプレゼントを用意してるようだったので、口と裏腹に幸子は満足していた。



「それで、どんなプレゼントを用意してくれたんですか?このボクに相応しいカワイイものだと嬉しいんですが!」



「それは開けてみてからのお楽しみだ。送っていくから下の車に乗って待っててくれ。鍵は開いてる」



入り口を見るとちひろが待ち遠しいかのようにこちらを見ていた。速足で事務所を出て、彼の車に乗り込んだ。



車内から見える街のイルミネーションが、事務所の窓から見た時よりもなんだか輝いているように見えた。





プロデューサーと別れ、女子寮に入るとなにやらいつもより騒がしかった。靴を入れ奥に入るとイブがサンタクロース然とした大きな袋からプレゼントを配っていて、各々喜んでいるようだった。



そんなイブからプレゼントを受け取ると、彼女は自室で開けようと一人その場を後にした。





さて自室に入り手荷物を片付けると、受け取ったプレゼントを卓上に置いた。



縦10cmほどの白い箱がクリスマスカラーのリボンでラッピングしてあった。

しゅるりとリボンをほどき、ゆっくり蓋をあける。箱に入れた爪が何かと当たって小さくコツンと鳴った。



「これは・・・香水ですか」



見覚えがあった。数か月前、幸子がプロデューサーとショッピングに連れて行ってもらった日のこと。

デパートを巡り、行きついた先が香水販売店だった。

彼に匂いのテスターをさせ、自分にどれが似合うか聞いてみたことがあった。



プロデューサーが一番目に選んだ香水を幸子は気に入り、横目でねだったのだが、生憎そのときはもうこれ以上はお金はだせない、とあえなく断られたものだった。





数奇な運命を感じた。幸子がプロデューサーに送った小箱の中身が、同じ店の男性用香水だったから。



きっと彼ならこれが似合うとその店に行って試したのが数日前。箱は埃一つ被ってないことから、彼もまた最近買ってきたのだろう。



試しに手首に一吹きして嗅いでみた。そのときと変わらない匂いがして、思わず口元がにやついた。





幸子が選んだ香水をプロデューサーが使い、彼が選んだ香水を幸子が使う。



なんだか素敵なクリスマスプレゼントを貰ったな、と幸子は大いに満足していた。



きっと多くの可愛い女の子に囲まれているプロデューサーさんはこの気持ちに気づけないでしょう。

けど、いいんです。そもそも仕事上こんな気持ちは持ってはいけないけれど、「彼が選んだ」香水は、志希さん特製の香水より特別で。

周りに気づかれないように、プロデューサーさんの証が身近にあるということが何よりの幸福です。



ともすれば背徳的ともとれる感情が渦巻きながら、輿水幸子の聖夜は更けていくのであった。



23:30│輿水幸子 
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