2017年01月18日

芳乃「最寄り駅はきさらぎ駅でしてー」

※ホラー要素は一切ありません



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朋「きさらぎ駅?」





芳乃「うむー」



朋「……ってあの?」



芳乃「あの、とはー?」



朋「ほら、都市伝説で結構有名じゃない」



芳乃「あー」



芳乃「うむ、そちらで間違いないでしょー」



朋「へぇ……寮暮らしじゃないしどこに住んでるんだろうって思ってたけど……」



朋「まさかそんなとこに住んでたとはねー」



芳乃「こちらに住むよりかは安全であるゆえー」



朋「えっ、そうなの?」



朋「結構危ない場所だと思ってたけど……」



芳乃「そう語り継がれているようでしてー」



芳乃「確かに現世と黄泉の境目にある駅ではありますがー、ふむー」



芳乃「しかし……ふむー、説明が面倒でしてー」



芳乃「実際に来ていただければ説明もたやすいのですがー」



芳乃「いかがー?」チラッ



朋「……行っていいの?」



芳乃「そなたが望むのならー」



朋(あたしが望むというか……ふふ)



朋「うん、それじゃお邪魔しよっかな」



芳乃「うむー、おいでませー」



芳乃「ふふー、私がご案内しましょー」



朋「ふふっ、お願いね」

茄子「あら、面白そうな話ですねー」



朋「わっ!?」



芳乃「おや、茄子殿ー」



朋「びっくりしたぁ……いつから聞いてたの?」



茄子「ずっと聞いてましたよー♪」



茄子「朋ちゃんの後ろで……ずぅっと……」



朋「ひぃっ!」



茄子「冗談ですよー♪」



朋「へ、変なこと言わないでよ、もうっ!」



茄子「ふふっ」



芳乃「聞いていたのならば、茄子殿もいかがー?」



茄子「私もいっていいんですかー?」



芳乃「もちろん、かまいませぬー」



茄子「ふふっ、ありがとうございますー♪」



茄子「興味があったんですー♪」チラッ



芳乃「ふふー、では向かいましょー」



朋「おー!」



茄子「おー♪」



茄子「……あっ、せっかくだからお菓子とかも買ってきましょう♪」



芳乃「それならば、せっかくですしお泊りでもかまいませぬー」



芳乃「いかがー?」チラッ



朋「……じゃ、お邪魔しよっかな、ふふっ」



茄子「私も私もー♪」



芳乃「うむー、おいでませー」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





芳乃「ではこちらの駅から電車に乗りましょー」



芳乃「きっぷを買ってくださいませー」



朋「おっけー」



茄子「どのきっぷを買えばいいんですかー?」



芳乃「少々お待ちをー」



芳乃「ぽちー、ぽちぽちー、ぽちっとなー」



芳乃「こちらのきっぷを買ってくださいませー」



朋「うわぁ……こんな仕組みになってるのね……へぇー……ふしぎー」



芳乃「特殊な入力をすれば買えるようになっておりましてー」



朋「へぇ……ふしぎー」



茄子「おや、案外安いですねー」



茄子「芳乃ちゃんも毎日買ってるんですか?」



芳乃「いえ、わたくしは定期がありますゆえー」



朋「定期あるんだ……」



茄子「……よしっ、買えましたー♪」



茄子「見た目は普通のきっぷなんですねー」



芳乃「中身も普通でしてー」



朋「じゃ、次あたし買うね」



朋「芳乃ちゃん、お願い」



芳乃「うむー。ぽちぽちー」



朋「……わっ、ほんとに改札通れた」



芳乃「信じてなかったのでしてー?」



朋「……ちょっとだけ」



芳乃「むー」



朋「ごめんごめん」



茄子「芳乃ちゃん。どの電車に乗ればいいんですかー?」



芳乃「どれでもかまいませぬー」



芳乃「しいて言うならばー、空いている電車ならば座れるので楽でしてー」



朋「えぇ……」



茄子「適当ですねー」



芳乃「電車にさえ乗れればよいゆえー」



芳乃「……この時間帯であればー……ふむー、あちらの電車が空いていますー」



芳乃「ついてきてくださいませー」



朋「んー」



茄子「はーい」

芳乃「ふー」



茄子「座れましたねー」



朋「3人並んでね」



茄子「ラッキーでしたね♪」



芳乃「でしてー」



朋「……で、どこまで乗ればいいの?」



芳乃「どこまで、ということはありませぬー」



芳乃「……朋殿ー、茄子殿ー。これからきさらぎ駅へと向かうのですがー、ひとつ心に留めておいて欲しいことがありましてー」



朋「へ?」



芳乃「信じる信じないはこの際どちらでもかまいませぬー。ただ知識として……言葉としてこれだけ覚えておいてほしいことがありますー」



芳乃「それを知らねば、危険であるゆえー」



茄子「どんなことですか?」



芳乃「わたくしたちがこれから向かうきさらぎ駅……および、その周辺は黄泉と現世の境目でありますー」



朋「あー、さっきも言ってたわね」



茄子「それを覚えておけばいいんですか?」



芳乃「うむー。さすれば危難に会うこともないゆえー」



朋「黄泉と現世の境目……うん、覚えたわ」



茄子「私も覚えましたー」



茄子「まあ私がいるので変なことは起こらないと思いますけどねー♪」



芳乃「……」



芳乃「では、心にとどめたならば目を閉じてくださいませー」



朋「ん」



茄子「はーい」



朋「……」



朋「……」



朋(……誰かに手を握られた)



朋(きっと芳乃ちゃんよね……)



朋(……そうよね?)



朋(うー……気になる……でも目を開けちゃだめだし……)



朋(後で聞いて……あ、ううん。声をかけちゃだめとは言われてないし……)



朋(うん、聞こ――)



芳乃「――もう目を開けてもかまいませぬー」



茄子「ふぅ……おはようございます」



芳乃「おはようございましてー」



朋「……」



芳乃「……おや、朋殿ー、どうなさいましてー?」



朋「いや……なんでもないわ」

茄子「手を握ったのは芳乃ちゃんだったんですね」



茄子「急に握られたのでびっくりしちゃいました」



芳乃「うむー、そなたらをこちらへ引き込むためにー」



朋「こちら……ってことは今窓の外に見えてるのは……」



芳乃「現世と黄泉の境目でしてー」



朋「そうなんだ……」



茄子「確かにさっきまで見てた景色とぜんぜん違いますねー」



朋「そうね……高い建物も全然ないし……」



朋「……よく見たら乗客もぜんぜんいなくなってるわ」



芳乃「みな、普通はこちら側に来ないゆえー」



芳乃「死した者のうちの何人かがここへ訪れますー」



朋「全員じゃないの?」



芳乃「全員来ては電車に乗り切れませぬー」



芳乃「境目はここだけではありませぬゆえー、各地に別れるのでしてー」



朋「ふーん……」



朋「……はぁー、綺麗ねー、こんな色の空見たことないわ」



芳乃「ここは現世ではありませぬゆえー」



朋「そっか……」



朋「なんか……ずっと見てたら引き込まれちゃいそうなくらい……」



芳乃「まだ到着までは時間が少しありますー」



芳乃「それまでしばし景色をお楽しみくださいませー」



朋「うん、そうする」



茄子「……わぁ! 朋ちゃん、あそこ見てください!」



朋「ん、どこどこー?」



芳乃「……ふふー」

朋「……あ、トンネル入っちゃった」



茄子「景色を楽しむのはいったんストップですねー」



芳乃「トンネルを出たらすぐ駅でしてー」



朋「あ、そうなんだ」



茄子「どんな感じでしょう……ふふっ、楽しみです♪」



芳乃「そんなに面白い場所でもありませぬー」



芳乃「無人の駅であるためー」



朋「へぇ……無人駅なんだ」



茄子「無人駅なんて久しぶりですねー」



朋「まあ、こっちの方だとそんな駅ぜんぜんないしね」



朋「……あ、トンネル抜けた」



芳乃「ではそなたらー、こちらの扉が開きますー」



朋「んー」



茄子「はーい」

朋「よいしょっと」



朋「……見た目は普通の駅ね」



芳乃「中身もおかしな駅ではありませぬー」



茄子「そうみたいですねー」



茄子「……」



朋「あれ、どしたの茄子さん。急に止まって」



茄子「いえ……」



茄子「無人駅なら……無賃乗車できそうだなーって」



芳乃「こら」



茄子「ふふ、冗談ですよー♪」



芳乃「まったくー」



芳乃「無人とはいえ、見てる者はおりますー、ゆめゆめ忘れることなかれー」



朋「見てる者……?」キョロキョロ



朋「……あ、ほんと。駅員さんがいるわ」



茄子「あれ、無人駅だったんじゃないんですか?」



芳乃「人ではなく、霊でしてー」



茄子「ああ、そういう……」



芳乃「それでは、この者にきっぷをお渡しくださいませー」



朋「ん、はい」



茄子「どうぞ♪」



「……」ペコリ



朋「あ、どうも」ペコリ



茄子「普通の人と応対しているみたいですねー」



芳乃「霊体である以外はわたくしたちと変わりありませぬー」



朋「そうみたいね……ぱっと見霊だとはわかんないわ」



茄子「無人駅ではなく、有霊駅だったってわけですねー、幽霊だけに♪」



芳乃「では参りましょー、朋殿ー」



朋「そうね」



茄子「わっ、ちょっと無視しないでくださいー!」

朋「町並みは普通の町って感じね」



茄子「そうですねー、人も普通に歩いていますし……」



芳乃「人ではなくー」



茄子「霊なんですねー♪」



芳乃「うむー」



朋「……なんか都市伝説で聞いたのとぜんぜん違うわね、ここ」



芳乃「ほー?」



朋「もっと薄暗くて……気味が悪くて……」



朋「出会う人……ううん、霊も体に大きな穴が開いてたり、足がなかったりしてるもんだと思ったけど……」



朋「……ぜんぜん違うわ」



芳乃「それはここを境目と認識していなかったからでしょー」



芳乃「ここがまだ現世であると思い込んでいる者には現世としての側面しか見えませぬー」



芳乃「ゆえに、半分の世界しか認識できぬためー、奇妙で歪んだ世界だと感じるのでしてー」



朋「へぇ……」



芳乃「また、現世であると認識している限りその者は魂の姿を見ることはかないませぬー」



芳乃「ゆえに、出会う者はみな現世を去りし時の姿として見えるのでしてー」



茄子「だからここが境目であるよう覚えてほしいって言ってたんですねー」



芳乃「うむー。認識さえしていればその者の魂の姿を認識することができるゆえー、驚くこともないでしょー」



茄子「なるほどー」



朋「普通の人とかわらないもんね」



芳乃「うむー」



芳乃「側面のみをみれば歪な世界ではありますがー」



芳乃「それを理解し正面からすべてを見ることができれば、ここはとても美しい世界であるのでしてー

茄子「……あら、遠くから祭囃子が聞こえますね」



朋「……あ、本当ね」



芳乃「あちらでは常に祭りが開かれておりましてー」



朋「……常に?」



茄子「大変そうですねー」



朋「売り物なくなったりしないのかしら」



芳乃「それに関しては問題ありませぬー」



芳乃「それに、メインは祭りではなく試練であるためー」



朋「試練?」



芳乃「もっとも、わたくしたちにはまだ関係のないことではありますがー」



茄子「……?」



芳乃「わたくしたちにとっては普通のお祭りでありましてー、気にせずともよいかとー」



朋「よくわかんないけど……普通のお祭りなら、ちょっと寄ってみてもいい?」



芳乃「もちろんかまいませぬー」



芳乃「わたくしの家もそちらの方にありますゆえー」



朋「あ、そうなんだ」



茄子「一石二鳥ですねー」



芳乃「うむー」

朋「綿飴とかたこ焼きとかも売ってるの?」



芳乃「売っておりますー」



朋「あ、ホント?」



芳乃「お金さえあれば買えましてー」



朋「へぇ……いくらで売ってるの?」



芳乃「20円くらいでしてー」



朋「うわっ、めちゃくちゃ安いわね」



茄子「……何か曰くつきの材料を使ってるとかですか?」



芳乃「いえいえ、そういうことではありませぬー」



芳乃「わたくしたちは例外でありますがー。普通ここに来る者は六文しか持っておりませぬー」



芳乃「ゆえに、その範囲で買える値段となっているのでしてー」



朋「なるほど」



茄子「……確か、その六文って三途の川を渡るときに必要なお金ですよね?」



芳乃「おや、よく知っておりましてー」



茄子「一度どこかで見たことがあったので」



朋「へぇ……そんなのあるんだ……」



朋「……あれ、じゃあここでお金をつかっちゃったら……」



芳乃「三途の川は渡れませぬー」



朋「えぇ……」



芳乃「正確には渡し舟に乗せてもらえぬだけでありますゆえー、どうしても渡りたければ泳ぐなどしていただければー」



茄子「三途の川って泳げるんですか?」



芳乃「理論上は可能でしてー」



芳乃「果てしなき川を泳ぎきる体躯を持ってすればー」



茄子「普通は無理なんですね」



芳乃「うむー」



芳乃「ゆえに、ここで六文を無くしてしまったら、永遠にこの境目をさまようかー、働いて稼ぐかしかありませぬー」



朋「お仕事あるの?」



芳乃「主に祭りの出店でしてー」



朋「あぁ、なるほど……」

朋「そんな罠があるのね、ここの祭り」



芳乃「うむー」



芳乃「『六文を使わぬように』との注意を死してはじめに受けるゆえー、それを守れるかどうかという閻魔殿からの試練となりますー」



茄子「わぁ、閻魔様……」



芳乃「閻魔殿はここでの行為もすべて見ておりますー」



芳乃「そして、それも加味して天か地か、どちらへ進むかを決めるのでしてー」



芳乃「仮に現世で善行を積んでいたとしても、境目での行動により、その分が帳消しになる可能性もありますゆえー」



朋「……もしかして今も見られてるの?」



芳乃「おそらくはー」



朋「ひえー……変なことできないわね……」



芳乃「とはいえ、今はお金を使っても何の問題もありませぬゆえー、大丈夫でしょー」



芳乃「注意を受けているわけでもありませぬしー」



芳乃「そなたらが現世で罪と問われるようなことをこちらでやるとも思えませぬしー」



茄子「もちろんです♪」



芳乃「ふふー」



芳乃「しかし、そなたらが魂となってこちらへ来ることになったときのため、このことは覚えておくとよいでしょー」



芳乃「地獄へと落ちたくないのであればー」



朋「ん、肝に命じておくわ」

茄子「……あっ、屋台が見えました!」



朋「ホントね……たい焼き、りんご飴、やきそば……」



茄子「食べ物ばっかりですねー」



朋「射的とか輪投げとかないのかしら」



芳乃「もう少し先に行けば娯楽の屋台もありましてー」



朋「ん、そっか」



茄子「芳乃ちゃんのお家はまだ先ですか?」



芳乃「うむー。進みましょー」



茄子「はーい♪」



朋「……あ、ちょっと待って」



朋「その前にりんご飴買ってくわ」



芳乃「わかりましてー」



朋「……あっ!」



朋「もしかして、変なりんごだったりする?」



芳乃「食べ物に関しては問題ありませぬー」



朋「よかった……すいませーん!」



茄子(食べ物に関しては……?)





朋「んー、おいしーっ!」



茄子「……朋ちゃん。私も一口もらえませんか?」



朋「いいわよ、はい」



茄子「ありがとうございます♪ あむっ……」



茄子「……あらほんと、美味しい……!」



茄子「もう一口♪」



朋「あ、ちょっと!」



茄子「〜♪」



朋「もう……自分の買いなさいよ……」



茄子「そうですねー、私も自分の買ってきますー♪」



朋「……二口も食べられちゃった」



朋「茄子さんったら……もう」



芳乃「確かにここの食べ物は美味しいものが多くー……ふむー……」



芳乃「……わたくしも買ってきますー」



朋「ん。じゃあここで待ってるわね」



朋「……ふふっ」

茄子「買ってきましたー♪」



芳乃「買ってきましてー」



朋「お帰り」



朋「……芳乃ちゃんは綿飴買ってきたのね」



芳乃「うむー」



茄子「わぁ、美味しそうですねー」



芳乃「とても美味でしてー……あむっ」



芳乃「〜♪」



茄子「……」



茄子「芳乃ちゃん、一口……」



芳乃「自分で買うのでしてー」



茄子「冷たい……」



朋「ふふっ」



芳乃「おや、朋殿の望んでた屋台が見えましてー」



朋「えっ、どれ?」



芳乃「あちらにー」



朋「……人魂すくい?」



芳乃「うむー」



朋「……って何?」



茄子「人魂をすくうんじゃないですか?」



芳乃「うむ、金魚すくいの人魂版でしてー」



朋「へ、へぇ……」



茄子「さっき食べ物に関してはといったのはこういうことだったんですねー」



芳乃「うむ、娯楽系の屋台は現世のものとは少し変わっているものが多くー」



芳乃「しかし、結構楽しいものが多いのでしてー」



茄子「あら、やったことがあるんですか?」



芳乃「うむー。自慢ではありますが人魂すくいの腕には自信がありますー」



朋「自慢なんだ」



芳乃「えへん」



芳乃「いかがでしてー? そなたらもやってみましてー?」



茄子「せっかくだからやってみたいですねー」



朋「……そうね、せっかくだしね」



芳乃「では参りましょー」

芳乃「三人分お願いしましてー」



「……」コクッ



「……」スッ



芳乃「ありがとうございますー」



芳乃「お二人も、どうぞー」



茄子「ありがとうございますー」



朋「うわぁ……本当に人魂が浮かんでるわ」



茄子「これすくったら持ってかえっていいんですか?」



芳乃「それはできませぬー」



芳乃「しかし、すくった数に応じて商品はもらえましてー」



朋「あ、そうなんだ」



芳乃「うむー。彼らも六文稼ぐための労働として働いてるゆえー、ここから離れられずー」



芳乃「ゆえに、その代わりとしての商品でしてー」



朋「ふーん……」



朋「……この人魂って全部稼ぐために働いてる人なの?」



芳乃「うむー」



朋「ふーん……みんな大変なのね」



茄子「狙って狙って……えいっ!」



茄子「……ふふっ、取れましたー♪」



朋「すごっ、一発で!?」



茄子「イェイっ♪」



芳乃「ではわたくしもー」



芳乃「そりゃー」



芳乃「……うむ、取れましてー」



朋「おー、芳乃ちゃんも……」



茄子「次は朋ちゃんの番ですねー♪」



芳乃「わくわくー」



朋「えぇ……何このプレッシャー」



芳乃「じー」



茄子「じー♪」



朋「……」



朋「……えいっ!」



朋「……わっ、とっ、取れた!?」



朋「嘘でしょ!?」



茄子「本当ですよー♪」



芳乃「なぜ自分で驚いてるのでしてー」



朋「いや、まさか取れるとは思わなくって……」

朋「取られてくれてありがとね」



「……」ペコリ



朋「わっ、お辞儀したわこの人魂」



朋「小動物みたいでかわいいわね……ふふっ」



茄子「取られてくれてありがとう……ってのもおかしな言葉ですねー」



芳乃「いただきます、と同じようなものでしょー」



朋「いや、食べないわよ」



芳乃「そういう意味でいったわけではありませぬー」



芳乃「……さて、では続いてすくいましょー」



茄子「そうですねー♪」



芳乃「そなたには負けませぬー」



茄子「ふふ、そういわれると私も負けたくなくなってきますね」



朋「私もがんばろっと!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





茄子「……あっ、破れちゃいました!」



芳乃「ふふっ、どうやらわたくしの勝ちのようでしてー」



芳乃「わたくしはまだまだすくえますー、そりゃー、そりゃー」



茄子「むー……残念ですー……」



朋「でもすごいじゃない」



朋「あたしなんて二つ目……ううん、二人目の人魂すらとれなくてずっとこの子と遊んでたわ」



「……」ピョンピョン



朋「ふふっ……♪」



朋「ね、この子すっごいぷにぷにしてるのよ」



朋「こうやってプニプニすると気持ちいいの」プニプニ



茄子「そうなんですか……えいっ」プニプニ



茄子「わぁ……気持ちいい……♪」



「……」ゴロゴロ



朋「こうしてると本当にペットみたいね」



朋「……持って帰っちゃダメかしら?」



芳乃「ダメでしてー」



朋「あ、芳乃ちゃん」



茄子「終わったんですか?」



芳乃「すべてをすくい終わったゆえー」



朋「えぇ……そんなことってあるの?」



芳乃「人魂すくいは得意でありますー」



芳乃「えへん」



茄子「ふふっ、すごいすごい♪」ナデナデ

芳乃「こちらがみなへの商品となりましてー」



朋「私は……飴玉一個」



芳乃「ほぼ参加賞でしてー」



朋「むー……ちょっと残念」



茄子「私は綿飴ですかー」



茄子「……さっき芳乃ちゃんが食べてるの見てて食べたいなーって思ってましたし、ラッキーですー♪」



芳乃「それは何よりー」



朋「芳乃ちゃんのは何なの?」



芳乃「焼きそば10個無料引換券でしてー」



茄子「いっぱい食べれますねー♪」



芳乃「期限はないのでのんびり使うつもりでしてー」



芳乃「さて……では次へ参りましょー」



朋「ん、そうね」



朋「じゃ、またねー」フリフリ



「……」ピョンピョン



朋「……ね、芳乃ちゃん。人魂ってかわいいわね」



朋「正直人魂すくいって聞いたときは若干引いてたけど、今は持って帰りたいわ」



芳乃「ダメでしてー」



朋「わかってるわよ」



朋「……野良人魂とかいないかしら」



芳乃「……」



茄子「ホントに気に入ったんですねー」



芳乃(……人魂は人の魂)



芳乃(人の霊であれば、どの霊であっても人魂の姿へと変わることは容易にできましてー)



芳乃(また、逆も然りー)



芳乃(……)



芳乃(……まあ黙っておきましょー)

朋「しかし面白いわねー」



朋「食べ物は普通なのに他が変なのばっかで……射的も人魂狙いになってるし」



茄子「動くものを狙うなんて普通の射的よりレベルあがってますねー」



朋「確かに……」



芳乃「ゆえに商品も良いものが多いのでしてー」



茄子「へぇ……」



朋「……弾が当たって痛くないのかしら?」



芳乃「弾は色のついた水でありますゆえー、問題はありませぬー」



朋「あ、水鉄砲なんだ」



茄子「確かにそれなら痛みはほとんどありませんねー」



朋「……ちなみに、あの的も六文無くした人たち?」



芳乃「うむー」



朋「はー……本当に大変ねー」



茄子「私たちも気をつけなければいけませんねー……もっと先の話だとは思いますが」



朋「先であってほしいわ」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





朋「……結構歩いたわね」



茄子「そうですねー、祭りも抜けちゃいましたし」



茄子「芳乃ちゃんの家は後どのくらいですか?」



芳乃「もうそろそろ見えましてー」



朋「さっきもそれ聞いた気がするけど……」



茄子「もうそろそろって人によってぜんぜん違いますからねー」



芳乃「……今度はもうすぐかとー」



朋「……」



朋「……あ、なんか川が見えてきた」



茄子「わぁ……おっきな川ですねー」



茄子「……あ」



茄子「芳乃ちゃん。あれってもしかして……」



芳乃「うむ。あの川は名を三途の川と言いますー」



茄子「やっぱり……」



朋「へぇ、あれが……」



芳乃「……おや、見えましてー。あのほとりにある家がわたくしの家でしてー」



芳乃「では、どうぞー」



朋「ん、おじゃましまーす」



茄子「おじゃましまーす♪」



茄子「ふふっ……まさか生きている間に三途の川が見れるとは思いませんでしたー」



朋「あたしも。死んで見るもんだと思ってたし」



芳乃「普通はそうでしてー」



芳乃「ではこちらの部屋へどうぞー」



茄子「芳乃ちゃんの部屋ですか?」



芳乃「わたくし一人しか住んでおらぬゆえー、すべて私の部屋のようなものでしてー」



茄子「……じゃあ、何か恥ずかしいものがおいてあったりは……?」



芳乃「そなたは何をするつもりでしてー」



茄子「家捜しですっ♪」



芳乃「茄子殿をただいまより出禁としますー」



茄子「わっ、冗談です冗談!」

朋「一人暮らしなのね、芳乃ちゃん」



芳乃「でしてー」



芳乃「とはいえ、来客はまったくないわけではありませぬがー」



朋「あ、そうなんだ……こんなところにあるし、誰も来ないものかと」



芳乃「いえー。閻魔殿や、三途の川の渡し人……鬼や神が来ることもありますー」



茄子「そうそうたる面々ですねー」



朋「一回見てみたいわ」



芳乃「しかし、現世の人をこの家に呼ぶのは初めてでしてー」



朋「あたしたちが初めてなんだ」



芳乃「うむー、初めての人のお客様でしてー」



芳乃「ようこそー、ふふー」

芳乃「今お茶をお持ちしますー」



朋「ありがとー」



茄子「ございますー♪」



芳乃「ふふー、少々お待ちをー」



朋「……ぱっと見普通なのにねー」



茄子「……?」



朋「あ、ううん。この世界の話」



朋「窓の外見ても大きな川があるだけで……外の風景も普通の町並みとそんな変わらなくて……」



朋「でもここって現世とはぜんぜん違う場所なのよね」



茄子「そうですねー。ここへの訪れ方も特殊でしたし」



朋「まあそうよね……あたしたちが現世からこっちに来たときって、現世の人にはどう見えてるのかしら」



茄子「もしかしたら騒がれてるかもしれませんね、急に人が消えたって♪」



朋「じゃあ戻るときも大変ね」



朋「急に人が現れた!……って、ふふっ」



茄子「きっとSNSとかにアップされちゃいますねー」



朋「一躍時の人になれるわね」



茄子「……インタビューの練習でもしますか?」



朋「『どのようにしてこんなテレポートのようなことができたんですか?』」



茄子「きさらぎ駅から帰ってきただけですよー♪」



朋「……あははっ、絶対信じてもらえないわね!」



茄子「そうですね、うふふっ」



芳乃「なにやら盛り上がってるようでしてー」



朋「あ、お帰り芳乃ちゃん」



芳乃「お茶です、どうぞー」



茄子「ふふっ、ありがとうございますー♪」



芳乃「して、何の話をー?」



朋「現世からここに来た時、現世の人たちはあたしたちを見てどう思ってるんだろうなーって」



芳乃「あー」



茄子「ちなみに、今は急に姿がパッて消えるっていう説が濃厚ですー」



芳乃「ふむー」



芳乃「……わたくしも考えましたがー、答えはでないままでしてー」



朋「わ、芳乃ちゃんも知らないことあるんだ」



芳乃「わたくしとて、知らないことくらい普通にありますー」



芳乃「普通の人なのですからー」



朋「あはは、ごめんごめん」



茄子「でも、こんなところに住んでるあたり、普通の人ではないですよねー」



芳乃「なれば、ここに順応している二人もまた普通ではありませぬー」



茄子「それを言われると……」



朋「ふふ、あたしたち三人普通じゃない人間なのね」

芳乃「しかし、そなたらの順応っぷりには驚きましてー」



芳乃「もう少し目を疑ったり、飛び上がって驚いたりするものかとー」



朋「まあ……芳乃ちゃん関連だし」



芳乃「むー……」



朋「……ってのはおいといて」



朋「ほら、きさらぎ駅って都市伝説で結構語り継がれてるからね」



朋「現実とは違う姿でも、ここが普通の世界じゃないってのはわかりきってたから、あんまり驚かなかったのかもね」



芳乃「なるほどー……」



芳乃「……それにしても人魂とはしゃぐ朋殿の姿は順応が早すぎると思いましたがー」



朋「まあほら、普通と違う場所って割り切ったらなんとかね」



朋「もしも生首すくいとかだったらすっごく驚いてたと思うけど……」



茄子「地獄みたいな絵ですねー」



芳乃「ふむー……なるほどなるほどー」



芳乃「……では、茄子殿はー?」



茄子「驚きより面白いが勝ってましたー♪」



芳乃「うむ、そなたは平常運転でしてー」



茄子「こういうのって面白いから私好きなんですー♪」



朋「……やっぱ茄子さんは茄子さんね」

朋「あむ……ポテチ美味しい……」



茄子「こんなところにきてもポテチ食べるんですねー」



朋「だってせっかく買ってきたんだもん……ってか茄子さんも食べてるじゃない」



茄子「美味しいのでー♪」



芳乃「ぽりぽりー……」



朋「あむあむ……」



茄子「……ふふっ」



茄子「変なところでのんびりしてますね、私たち」



朋「友達の家でのんびりすることは別に変なことじゃないでしょ」



茄子「それもそうですねー♪」



芳乃「ぽりぽりー……」



芳乃「……ふふー」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





芳乃「……おや、もうこんな時間でしたかー」



朋「ん? 何かあるの?」



芳乃「うむ、ちょっとしたー」



茄子「ちょっとした?」



芳乃「……」



芳乃「……そなたらもいかがー?」



朋「まだ内容も聞いてないのに……」



茄子「何をするんですか?」



芳乃「向かってみてのお楽しみでしてー」



朋「えぇ……」



芳乃「損はさせませぬー」



茄子「……どうします?」



朋「どうしよっか?」



芳乃「いかがー?」



茄子「……」



朋「……いこっか?」



茄子「いきましょうか」



芳乃「ふふー」



芳乃「では、ついてきてくださいませー」



朋「どこに行くかも教えてくれないの?」



芳乃「すぐつくためー、教えずともー」



茄子「すぐつく……向かい先は三途の川ですか?」



芳乃「おおー、大当たりでしてー」



茄子「ってことは……水浴び?」



芳乃「それは今はしませぬー」



朋(水浴びすることはあるんだ……三途の川で……)



芳乃「今はそうでなくー」



芳乃「……くふふー」



朋「怪しい笑いねー」



茄子「わくわく♪」



朋「……ん?」



朋「この霊の列なに?」



芳乃「渡し舟の順番待ちでしてー」



芳乃「この時間に渡りたがる人が多く、待ち時間が長くなりますー」



茄子「帰宅ラッシュみたいですねー」



芳乃「黄昏から夜へ変わる、ポツリポツリと星が瞬き始める瞬間の景色は絶景でありー」



芳乃「また、それを船の上で眺めるということがより情緒を生みー」



芳乃「ゆえに、人気の時間でありましてー」



茄子「へぇ……」



朋「案外自由なのね、この辺は」

芳乃「しかし、人気の時間であるがゆえこのように待機列ができー、退屈な待ち時間が増えますー」



芳乃「ゆえにわたくしの役目は、その退屈を晴らすことでしてー」



朋「晴らすこと……」



芳乃「いかな方法を取るか、そなたらならもうわかるのではー?」



茄子「……あー」



朋「うん、わかった」



朋「ステージも見えたしね」



芳乃「ふふー」



芳乃「それでは参りましょー、お二人ともー」



朋「打ち合わせとか全くしてないけど」



茄子「うふふっ、行き当たりばったりのステージなんて初めてかもしれませんねー♪」



芳乃「そなたらとなら、何も決まってなくともできるでしょー」



芳乃「わたくしはそう信じておりますー」



茄子「……舞台裏とかはー?」



芳乃「もちろんありませぬー。このままステージへー」



朋「……ねぇ、マイク一本しかないみたいだけど」



芳乃「普段はわたくし一人で行っておりますゆえー」



芳乃「もちろん、そなたたちが来るとも伝えてないゆえー、これ以上マイクが来ることもありませぬー」



茄子「ふふっ、仲良く使いましょうね♪」



朋「うん……」



朋「ちゃんとできるかな……」



芳乃「わたくしたちならばー」



芳乃「では、舞台上へー」



芳乃「あー、あー、マイクテストでしてー」



芳乃「みなさま、こんばんわー。依田の芳乃でしてー」



芳乃「退屈しのぎとしてわたくしたちの声に耳を傾けてくれれば幸いですー」



「……」



朋「……誰も何も言わないわね」コソコソ



茄子「でもこっちを見てくれた人は何人かいますよ」コソコソ



芳乃「死人に口はありませぬゆえー」コソコソ



朋「あ、そういう……」コソコソ



茄子「……思い返せば、みんなしゃべってませんでしたねー」コソコソ



芳乃「さて……普段はここでわたくしは説法を行ってるのですがー」



芳乃「たまには趣向を変えるのもよいかと思いましてー、友人二人を連れてまいりましたー」



芳乃「では、どうぞー」



朋「あ、どうも。藤居の朋でしてー」



茄子「鷹富士の茄子でしてー♪」



芳乃「……そなたらー、どういうつもりでしてー?」



朋「ちょっと依田の芳乃って自己紹介がうらやましくなっちゃって」



茄子「でも芳乃ちゃんのほど語感がよくはなりませんでしたー」



芳乃「……では、以後使わぬようにー」



芳乃「わたくしのモノであるゆえー」



朋「はーい」



茄子「はーい♪」



朋「しっかし、狭いわね、これ」



茄子「そうですねー」



茄子「ステージは広いのにみんなでひとつのマイクを使ってますからー」



芳乃「これもまた修行でしてー」



朋「何の修行よ……」



芳乃「さて……知ってるものもおるかもしれませぬがー、わたくしたちはアイドルでしてー」



茄子「知ってる人ー?」



「……」スッ



茄子「わ、結構いますねー」



茄子「うふふっ、ありがとうございます♪」



芳乃「そして、アイドルが3人集まったら何をするかは決まっていましてー」



芳乃「音源はありませぬゆえー、アカペラになりますがー」



朋「えっ、ないの!?」



芳乃「普段は説法を行っているゆえー」



朋「……そういえばそうだったわね」



茄子「アイドルが説法を行うってのもすごい話ですけどねー」



芳乃「今日まではアイドル依田芳乃として立ってはおりませぬー」



芳乃「しかし、今日はアイドル依田芳乃でしてー」



芳乃「ゆえに、歌を歌うことは必然でありますー」

朋「で、何歌うの?」



芳乃「何を歌いましょー?」



朋「考えてなかったのね」



茄子「ふふっ、適当ですねー」



芳乃「現世ではこのようなこともできぬゆえー、これもまたよいでしょー」



茄子「境目だけの限定ステージです♪」



朋「まあ普通こんな何も考えずにステージに上がることなんてないしねー」



朋「あははっ、普段のあたしたちを知っている人からしたらびっくりかも」



茄子「こんな密着してることもありませんしねー」



朋「……こんな状況でほんとに歌えるのかしら?」



茄子「ためしに歌ってみますか?」



芳乃「今その歌を考えてるところですがー」



茄子「おや、そうでした♪」



芳乃「ふむー……」



朋「あー、どうしよ。何歌うとしても絶対歌詞間違えるわ」



茄子「覚えてなかったら『ラ・ラ・ラ♪』って感じでごまかせば大丈夫じゃないですか?」



朋「や、絶対大丈夫じゃないでしょ」



朋「……いっそダンスに専念してようかしら?」



茄子「あら、朋ちゃんってダンス得意でしたっけ?」



朋「ううん、苦手」



朋「……でも、歌詞間違えるよりは恥ずかしくないし」

芳乃「ふむ、決まりましてー」



茄子「何歌うんですかー?」



芳乃「Take me☆Take youでしてー」



茄子「わぁ、芳乃ちゃんが最近歌った曲ですねー」



朋「……ずるいわ」



芳乃「ふっふっふー」



朋「んー……一番はたぶん覚えてるけど……」



芳乃「なれば大丈夫でしてー」



芳乃「アカペラで全部歌うつもりはありませぬゆえー」



朋「あ、そうなんだ……よかった……」



茄子「間奏を口で歌ったりする必要はないんですねー」



芳乃「それを危惧し、一番のみとしたのでしてー」



芳乃「もしやりたかったのであれば、前奏をお願いしますー」



茄子「んー、また別の機会にやりますー♪」



芳乃「わかりましてー」



朋「別の機会にやるの?」



茄子「かもしれませんねー♪」



芳乃「……そなたら、準備はできましてー?」



朋「ん、いつでもいいわよ」



茄子「はーい♪」



芳乃「では参りましょー」



芳乃「せーのー――」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





朋「いやー、結構盛り上がったわね!」



朋「最初はどうなるかと思ったけど……一本のマイクでも案外なんとかなるもんね!」



茄子「そうですねー♪」



茄子「声は聞こえなかったけどみんな腕を振ってくれたり、跳ねてノッてくれたりして……」



朋「ね! 途中からは列そっちのけであたしたちのライブを見てくれて!」



茄子「渡し人まで何事かって見に来て……そのまま楽しんでくれて!」



芳乃「……そして閻魔殿が来て怒られましてー」



朋「……ね」



茄子「まさか生きてるうちに閻魔様に叱られるなんて思いもよりませんでした」



茄子「列を乱させるな……って」



芳乃「しかし、わたくしたちが渡し人たちの邪魔をしていたのは事実でしてー」



芳乃「次があるとしたら、もう少し自重しましょー」



朋「そうね……」



朋「……芳乃ちゃん一人の時はどうしてたの?」



朋「説法って言ってたけど……」



芳乃「短い説法数種を何度か繰り返して話しておりましたー」



芳乃「わたくしの声が聞こえてから、聞こえなくなるまでで一回りするくらいにー」



朋「あー、なるほど」



茄子「私たちもいくつかの曲を繰り返し歌ってればよかったのかもしれませんね」



芳乃「うむー」



芳乃「一度聞いたものを歌えば、足を止めることもなく進んでくれるでしょー」



芳乃「……おそらくー」



朋「あはは……」

朋「……ねぇ、芳乃ちゃんっていつもこんな感じで説法やってるの?」



芳乃「こちらの家に帰るときはかかさずー」



朋「へぇ……」



芳乃「はじめは趣味で行っておりましたがー……後に閻魔殿に善き行いであると褒められー」



芳乃「閻魔殿からもお願いされたのですー」



茄子「するようにって?」



芳乃「うむー」



芳乃「あちらのステージやマイクもわたくしのために閻魔殿が用意してくれたものでしてー」



茄子「へぇ……」



芳乃「ゆえに、余り迷惑はかけたくなかったのですがー」



芳乃「今日は少しばかり羽目をはずしてしまいましてー」



芳乃「ふふー」



朋「……ふふ」



茄子「うふふ♪」



芳乃「……ああ、もちろんわたくしは閻魔殿に頼まれたということのみでこれを今日まで続けてきたわけではありませぬー」



朋「ふふっ、わかってるわよ」



茄子「芳乃ちゃんがやりたいからやってきたんですよねー?」



芳乃「うむー」



芳乃「きっとわたくしはこれからもこちらに帰ってくる限り行うことでしょー」



芳乃「みなの退屈を奪うためにー」

芳乃「ただいまー」



朋「ただいまー」



茄子「ただいまー♪」



茄子「んーっ、今日はいろんなことがありましたねー♪」



朋「そうねー」



朋「はー、楽しかったわー」



芳乃「そういっていただけると幸いでしてー」



芳乃「しかし、まだ終わりではありませぬー」



朋「?」



芳乃「夕食を食べー、体を清めー、並んで共に寝ましょー」



茄子「ふふっ、楽しみですね♪」



芳乃「うむー」



朋「……もしかして、体を清めるって水浴びで?」



芳乃「温泉がありましてー」



芳乃「……もし望みであればそれでもかまいませぬがー?」



朋「温泉がいいわ」



芳乃「でしょー?」

芳乃「ふふー、それでは夕食は何を作りましょー?」



朋「摩訶不思議な材料とか使わないわよね?」



芳乃「不安ならば、そなたにはこの焼きそば無料券を差し上げましょー」



芳乃「祭りはいつまでもやっているゆえー、そちらをそなたの夕食としませー」



朋「あっ、うそうそ! ごめんごめん!」



朋「お料理手伝うから許して、ね?」



芳乃「まったく……しょうがないひとでしてー、朋殿はー」



芳乃「許しましょー」



朋「ふふ、ありがと!」



芳乃「その代わりー、しっかりと手伝うことを約束してくださいませー」



朋「うん、なんだってやるわ!」



朋「不器用なりに!」



芳乃「……」



茄子「……私も手伝いますねー」



芳乃「うむ、お願いしますー」



芳乃「そなたがいれば安心でしてー」



朋(……なんかちょっと納得いかないわ)

茄子「うふふ、朋ちゃん。包丁でモノを切るときはもう片方の手を猫の手にするんですよ?」



朋「それくらい知ってるわよ!」



茄子「あと、にゃーん♪って言わなきゃダメですよー」



朋「それは嘘でしょ!」



芳乃「ふふー」



芳乃「……やはり、そなたらを呼んで正解でありましたー」



朋「ん?」



芳乃「久方ぶりに我が家がにぎやかになりましてー、ふふー」



茄子「よ……」



芳乃「……ここでは、人ならざるものとはよく絡みますが人とはほとんど絡みませぬー」



芳乃「そのことを……心の底では寂しいと思っていたのかもしれませぬー」



朋「……まあ、あたしたちを誘うとき、すっごく来てほしそうな顔してたもんね」



芳乃「……そうでしたかー?」



茄子「お泊りしようって話しのときも嬉しそうでしたねー」



芳乃「うむー、自分ではその気はなかったのですがー」



朋「あと、祭りを回るときも楽しそうだったわねー」



茄子「ふふっ、三途の川のステージに立つときも、とっても楽しそうでしたねー♪」



芳乃「……照れましてー」



朋「よしよし」ナデナデ



茄子「あら、かわいい♪」ナデナデ



芳乃「うむー……」



芳乃「……しかし、そなたらからそう見えていたということはやはりわたくしは寂しかったのでしょー」



芳乃「ゆえにお二方ー、わたくしの家に来ていただきまことにありがとうございましてー」



芳乃「おかげで、わたくしの寂しさはなりを潜めましてー」



芳乃「こんなにも楽しくなりましてー、ふふー」



茄子「うふふ、まだお泊りは始まったばかりなのに、締めの挨拶みたいですねー♪」



芳乃「おや、そうでしたー」



朋「ふふっ」



朋「……それに、今日が最後ってわけじゃないでしょ」



芳乃「!」



朋「あたしここ気に入ったし、また呼んでよ」



朋「都市伝説で聞いてた話とぜんぜん違って……本当に楽しかったわ」



茄子「もちろん、私も楽しかったですよー♪」



芳乃「……気に入ってくれたようなら何よりでありますー」



芳乃「またいずれ、そなたらをもう一度招待しましょー」



茄子「あら、もう一度だけですか?」



芳乃「……もう何度も、と言い換えましょー、ふふー」



朋「うんっ! 何回でも行くわ」



茄子「あっ……でも、その前に今度は私のお家に来ませんか?」



芳乃「茄子殿のー?」



茄子「はい♪」



茄子「私もちょっと芳乃ちゃんが羨ましくなっちゃって……人の来ないところに住んでいますから」



朋「あっ、そういえば茄子さんも寮暮らしじゃなかったわね」



朋「どこに住んでるの?」



茄子「ひつか駅の近くですよー♪」



茄子「ここが気に入ったなら、きっとあっちも気に入ってくれると思います、ふふっ♪」













おしまい



17:30│依田芳乃 
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