2017年02月23日

モバP「南条光が泣く瞬間?」

思わず聞き返す。

「光が泣いたのって見たことある?」 前振りも何もなく、いきなり問い掛けてきたのは小関麗奈。



清く正しい悪の道を邁進せんとする自称・大悪党で、自分が担当している数少ないアイドルの1人だ。





南条光と言うのは同じく担当しているアイドルで、小関とは対象に正義の味方に憧れ、そうならんとすべく努力を欠かさぬアイドルである。



悪を志す者と正義を目指す者、対象とはいえ、お互い憎からず思っているように見えるのだが……さて。



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「そうよ、アンタ担当なんだから、一回くらい見たことあるでしょ?」



どうした小関、いつにも増して唐突だな。



「悪ってのはそういうもんよ。常にヒーロー裏をかき、先手を取るの。だから、愚民から見ると何事も突飛に見えるってワケ」



フフン、と得意げに笑う白い歯とおでこが眩しい。



なるほど、確かにテレビのヒーロー物でも、行動は悪者が先に起こしている気がする。



「で、見たことあるの?」



改めて聞かれると……どうだったかな。



ーー初めてのお仕事。まだ見ぬ世界に期待を膨らませ、その瞳を輝かせていた。



ーー初めての失敗。拳を握り、歯を食いしばり、悔しさに耐えていた。



ーー初めての握手会。来た人全てを忘れまいと、しっかりファンを見据えていた。



ーー初めてのライブ。みんなに夢を与えるアタシのスーパーお仕事タイムはこれからだ!と熱く燃えていた。



ーータンスの角に小指をぶつけた時。く、うぅ……ヒーローは決して挫けないぞ……!と強がっていた。



……あれ、泣いてなくね?

思い返すと、泣いているシーンが一切浮かばない。

初ライブとか普通泣くよね? 何で打ち切りっぽい事言って決意を新たにしてるの? 超かっこいいんだけど南条さん。







「ねえ、ちょっと。黙ってないで何とか言いなさいよ。ねえってば。……ちょっと、ほんとに大丈夫?」



おっと失礼。悪いが、南条が泣いてるのは見た事無いな。

少なくとも、お前が泣いた場面ではあいつは泣いてなかったよ。



「アタシの事はどうでもいいのよっ! 泣いてないし!」



はいはい。



「て言うか本当に無いの? 何かこう、苦手な物とか、弱点とか……」



好き嫌い無く何でもよく食べるし、苦手な物……ああ、あれだ、シルバーブルーーそれはやめなさい。



っス、サーセン。



でも、他には……そうだ、さっき冷蔵庫にプリン入れてたぞ。スイーツファイブの撮影で貰ったどこぞの高級プリンだとか。



「ナイス、それよ! 帰って来た時にそのプリンがどうにかなってたら……」



なってたら? いや、あんまり酷いのは止めるけども。



「なんてね。いくらアタシでも、プリンに手を出す程落ちぶれちゃいないわ。アタシは南条を泣かせて這いつくばらせたいだけであって、プリン自体が憎いわけじゃないもの」



優しいんだか優しくないんだか。



「優しいワケないでしょ! アタシは悪の帝王、悪のカリスマを目指してるの! プリンをバズーカの弾にするなんて、そんなの小物や畜生のする事よ。アタシの理想とは程遠いわ」



バズーカの弾にする気だったのか?

その感覚はわからんが、特に何もしないならそろそろ出ようか。スーパーお仕事タイムが始まるぞ。



「フン、準備はとっくにできてるっての。さあ、行くわよ! レイナサマの名前を世界中に響き渡らせる日が来たんだから!」



オーケー、それじゃ行こうか。お仕事にはちゃんと真剣なのよね、この子。



ーーー



「くうぅ……悔しい! 次こそはきっと……!」



もはや聞き慣れたこの言葉。小関が様々なアイドルにイタズラを仕掛けていくという冠番組、レイナチャレンジ。今の所全敗中だが、失敗後には毎回言ってるな。



今回は相手が悪いよ、次は頑張ろう。



「アンタそれ毎回言ってるじゃない!」



おっと、さすがに覚えてるか。いやでも実際相手が悪い。木場さんをイタズラで驚かすのは無理ゲーってもんだろう。



「うう、何で瞬きした瞬間に視界から消えるのよ……。後半かなり本気だったのに、一切笑顔を絶やさずあしらわれたって何なのもう……」



海外帰りってやっぱり凄い。

と、あれ? 部屋の前に南条が立っている。何かを見ているようだが、部屋の中に何かあるのか?



「光? どうしたの、そんな所で突っ立って。邪魔だから部屋に入るか、レイナサマ万歳と言って平伏しなさい」



何だよその二択。



「え? あ……麗奈。と、プロデューサー、おかえり」





珍しい。……と言うか、初めて見た気がする。明らかに落ち込んでいる。



どうした? 何かあったのか?何かされたか?



「い、いや、何でもない! 何でもないんだ、本当に。誰かを笑顔にできれば、アタシはそれで……」



そう言って、顔を俯かせ走り去る。何だってんだ、一体。

誰かを笑顔にって、どういう意味かわかるか? 小関。……小関?



「ちょっとアンタ、何食べてんのよ!」



部屋の中から小関の怒号が聞こえる。これまた珍しい、レイナサマのマジギレモードだ。



待て待て、何があった?



「こいつが光のプリン、食べてんのよ!」



あれまあ。麗奈の掴んだその手には、さっき見た、某高級プリンさんが。すでに半分程食べられているようだ。

とりあえず、手を離してやれ。跡になるといけない。



話を聞くと、千川から冷蔵庫におやつがあると言われ、中のプリンを食べてしまったらしい。



あー、なるほど……。いや、ちゃうねん、おやつを常備してある冷蔵庫って談話室の物やねん。



ああいや、そんな恐縮しないでいいよ、君はまだ事務所に入って日も浅いし、説明しなかった千川が悪い。



「だからって、こんな豪華なのが入ってたら確認くらいするでしょ? 名前……は、書いてないにしても、一個しかないんだし」



ご尤も。だが、そう責めてやるな。ああ、待って、泣かないで。アイドル泣かせたら俺が千川に捻られちゃうから頑張って堪えて。



とは言え、食べちゃったのはしょうがない。同じ物を千川に用意して貰ってくるから、小関はちょっと南条呼んできてくれ。



「アタシを小間使いにしようっての? いい度胸じゃない」



頼むよ、マジで。とりあえず怒気を引っ込めてくれ、怖いから。



「アンタ」



プリンを持ったままの子をジロリと睨む。怖いって。



「今から光呼んでくるから、ちゃんと謝りなさいよ」



そう言って、南条を呼びに行ってくれるレイナサママジ悪のカリスマ。



……ああうん、そのプリンは食べちゃっていいよ。ただ、次からはちゃんと確認してくれるとお兄さん嬉しいな。……やめて、待ってだから怒ってないから泣かないで!



ーーー



ヒーローに憧れていた。

たとえ自分を犠牲にしても、誰かの笑顔を守る事が何より大事だと思っていた。



例えば、自分が楽しみにしていたプリンを、他の誰かが食べてしまっていたとして。

それで、その誰かが、笑顔になれるならーー



「それで、いいじゃないか」



そう言葉にして、自分を納得させようとする。だけど、どうしてか。



ーー涙が流れた。



「いいわけ無いでしょバカじゃないの?」



声をかけられビクッとする。悪いことはしてないはずだけど……。



「麗奈、どうしてここにーー」



「嬉しい時も悲しい時も、何かあったらとりあえず屋上に。全く、わかりやすくて助かるわ」



振り向いて言った言葉を邪魔される。なんだろう、怒っているような笑っているような……。





「正義のヒーローがプリンを食べられたくらいで泣くなんてね」



うぐ。



「なーにが『誰かを笑顔にできればー』よ。それで自分が泣いてちゃ意味無いでしょうが!」



うぐぐ。



「そもそも、大事な物なら名前書いときなさいよよ!アタシ達以外もあの部屋使うんだから、誰かが間違って食べるに決まってるでしょ!? そんなんだからバカ光って言われんのよ! 主にアタシに!」



麗奈以外に言われた事無いよ!?



「たまにプロデューサーも言って笑ってるわよ! アンタがベッドではしゃぎ過ぎてキヨラツイストくらった時とか!」



なっ!?



「バイクに乗せて貰ってテンション上がって変身ポーズ取ろうとして、両手離して転がり落ちた時とか!怪我無くて良かったわねホント!」



その節はご心配をおかけしました!



「してない! 夏休みの宿題忘れてて、アタシに泣きついてきた時とか! 学年違うでしょうが!」



あの時は助かった、ありがとう!



「どういたしまして! 来年はちゃんと自分でやんなさいよ!」



頑張る!



「……ハア。全然元気じゃない。心配して損した」



えっ?……あれ?



「今まで散々イタズラしてきたのは気に留めないくせに、プリン程度で凹んでんじゃないわよ。アンタを最初に泣かすのはこのレイナサマって決まってんの! アタシ以外に泣かされたら承知しないんだから!」



何だろう、これは。励ましてくれてるのかな。



「何よ、ニヤニヤしちゃって気持ち悪い」



いや、麗奈は優しいなって。怒る理由はいつも誰かのためだ。



「優しくない!アタシは悪のカリスマなの!」



でも、キヨラツイストはやり過ぎだって止めてくれたじゃないか。



「うぐっ」



バイクから落ちた時、心配して来てくれた。



「アタシ以外にやられるなんて許さないってだけよ!」



宿題だって、手伝ってくれただろ?



「学年違うのにね! アタシの優秀さを崇め奉りなさい!」



今だって、落ち込んでるアタシを励ましに来てくれたんだろ? ありがとう、もう大丈夫だよ。



「だから違うっつってんでしょ! 人の話しを聞けってのよバカ光!」



まあ、プリンを食べられなくて凹んでるっていうのは確かだけど。

いつまでも凹んでる訳にはいかないもんね!

ああ、でもおやつ抜きだからお腹が減るなあ。麗奈、何か持ってない?



「正義のヒーローがワルにタカるの? ……まあ、そうね。無くもないわ。飴だけど、要る?」



ホント!?ありがとう、麗奈!



麗奈から数個の飴を受け取り、まとめて頬張る。

やっぱり麗奈は優しいなあ。



ところでコレ、何味?あんまり甘くないね。若干酸っぱいようなーー熱っ痛っ!?



「アーッハッハッハ!引っかかったわね!こんな事もあろうかと用意しておいたハバネロキャンディーよ!まさか、正義のヒーローが食べ物を無駄にするような事はしないわよねえ? アーッハッハ……ゲホゲホ」



やられた!まとめて頬張ったのが仇になったか……だが、ヒーローはこんな事では挫けない! 思ったよりも辛味薄いし!



「ま、腐ってもアイドルだからね。清良監修の元、喉に影響が出ない程度の辛味に抑えてあるから、フツーに耐えられるでしょ。ほら、行くわよ」



? 行くってどこへ?



「アンタのプリンを食べた子の所よ。怒られないかって可哀想になるくらいビクビクしてたわよ」



なんと! なら、気にしてないよって言ってあげないとな!



「それと、プリン。新しいのをちひろが用意してくれるって。アタシの分もあるのかしらね? まあ、もし無かったらーー」



ちひろさんなら用意してくれてると思うけど。でも、もし麗奈の分が無かったらーー



半分貰うわ!

半分あげるよ!



ーーー



おねげえしますだお代官様!何卒、何卒お慈悲を!!

地に頭擦り付けます!足舐めます!ガチャ回します!!



「必要ありません。光ちゃんの貰って来た物と同じプリンを、スイーツファイブのスポンサーから頂いてますから。ほら、頭を上げてください。ちゃんとみんなの分もありますよ」



おお、やはり……天使!女神!ちひろ!



「やめろ捻るぞ」



っス、サーセン。



「あ、あの、あたしは……」



「ああ、ごめんなさい。私の伝達不足でしたね。談話室の冷蔵庫の中のおやつは好きに食べて大丈夫ですからね」



「ううん、あたしも気付かなかったから。ごめんなさい」



お互いに非を認め、譲り合う。うむ、良きかな。



ところで、何であの部屋に? 前はあまり来てなかったよね? 担当変わった?



「あ、はい! 今度から…….」



「あなたの担当になるんですよ」



はぇ?



「三好紗南です! 好きな物はゲームと夜更かし!ゲームのショーとかゲームのお仕事とかしたいです!よろしくお願いします!」



あ、ウチの子だ。南条と仲良くなれるタイプだ。



「すみません、以前のプロデューサーが退職されて急だったので、連絡が滞っていたみたいです」



おいおい千川ぁ〜お前社会人なんだからさぁ〜そういうトコだぞ?



「あ?」



っス、サーセン。



ともかく、よろしくな三好。小関と南条もすぐに戻って……ああ、ほら。



ドタドタと、聞き慣れた足音が聞こえてくる。



「南条光、ただいま戻りましたーっ! とりあえずお水くださいちひろさん!」



「ちひろ、アタシの分のプリンもあるんでしょうね? あ、あんたさっきの……腕、痛む?」



「ううん、大丈夫。ごめんね、ありがとう、怒ってくれて。南条……さん?にも、謝らないと」



「ちひろさんがプリンくれたし、アタシなら気にしてないぞ! だから君も気にするな!」



「ああいうヤツよ。ほっといて、プリン食べましょ。 えーっと、名前何だっけ?」



「三好紗南です。……あなたは?」



「麗奈!麗奈の分のプリンもあるって! 新人祝いだって、寿司もだ!紗南も一緒に食べよう!あ、アタシは南条光!ヒーローなアイドルを目指してるんだ、よろしくな!光って気軽に呼んでくれ!」



「ううん、それでも、ごめんなさい。光……と、麗奈。うん、よろしく! 」



「ちょっと、アタシの事は悪の大王レイナサマって……ああもう、光! プリン持ったまま走るな!転ぶわよ!」



「あたし、三好紗南!ゲーマーアイドル目指してるんだ!光と麗奈はゲームやる?どんなゲームが好き?」



いやあ、にわかに賑やかになった。

年も近いし、タイプも似てる。いっそユニットでも組ませてみるかな?



まあ、まずは俺の分のプリンを……え、無い? 千川ぁ!





おわり



20:30│南条光 
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