2017年02月24日

ボクが如何にしてまゆさんの緊縛姿に向き合うのか


※独自設定あり、キャラ崩れ注意





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1487078906





 バレンタインデーの朝、輿水幸子が小日向美穂との仕事前の打ち合わせのために事務所に入ると、裸体にリボンだけを巻いている……いや、訂正しよう。

 正しくは、巻き付けようとしたけれども失敗して絡まってしまいまるで身動きが取れなくなってしまっている状態の佐久間まゆがいた。

 何をしているんだろう。

 いや、何をしようとしていたのかは明白ではあるのだけれど、しかしどうしてこうなってしまったのか。まゆはぽんこつではないんですよぉ、などとつい先日言っていたような気がしたけれどもどうやらそれは気のせいだったらしい。

「たすけてください……」



 涙目だった。可哀想になるくらいに。

 それにしても──なんというか、凄い絵面だ。普通に生きてたらそう見れるものじゃない、ある意味貴重な映像だ。思わずまじまじと見てしまいそうになる。

 いや、見ないですけどね。

 ただ乱暴に絡まっているおかげでリボンが柔肌に食い込んでしまっている姿は荒縄に縛られる緊縛プレイのようになってしまっているし、まるで奇跡のように大事なところはきちんと隠れているが下手な全裸よりむしろ扇情的ですらある。

 ……いや、経緯考えると残念ぽんこつという感想しか出てこないですけど。

 さてと、それよりもこのぽんこつさんを果たしてどう片付けたものだろう。

 残念なことに事務所は現在自分とまゆの二人だけである。なのでまるで身動きの取れないまゆをどうにかできるとすれば自分だけであり誰にも状況を押しつける、もとい任せることができない。

 こんなときに限ってプロデューサーさんはどこに行ってるんでしょう、とも思ったが、このタイミングだからまゆは裸体にリボンを巻き付けていたのだろう。

 プレゼントにサプライズはつきもの。

 バレンタインはチョコレートの代わりに、とぉってもあまーいまゆをプレゼントしちゃいますよぉ、なんて企んでいたのだろう。なんとも想像に容易い。



 とりあえず、写真でも撮っておこう。





「なんで撮ってるんですかぁ!?」



 そこに面白物体があれば盗撮してしまうのは現代文化というものである。

 知り合いだしセーフセーフ。

 さすがに拡散するのは可哀想なので写真は丁重に厳重に【いざというときのため】フォルダに保存しておくとして。

 基本的にぽんこつではあるがたまに暴走しがちになるまゆを押さえつけるため にはちょうどいい。

 冗談はこれくらいにするとして。



 しかしやっぱり、これは放置して出ていくわけにはいかないんだろうか。

 幸いにも室内温度はエアコンによって高く上げられているのでまゆが風邪を引いてしまうという可能性は通常に比べるとだいぶ少ないだろう。防寒具をつけたままでは暑く感じるぐらいの温度だ。

 そのまま出ていってもまあ、ギリギリどうにかなるだろうと言えなくもない。

 ──しかし……それではさすがに良心の呵責がありますね。



 幸子はいい子だった。普通であれば見なかったことにして放置したいところだろうところを、やはり放っておくことはできないと思ったのだった。

 カワイイボクは誰かを見捨てるなんてことをしません、そういうことである。

 たすけてください、とも言われたし。

「まったく、まゆさんは本当に仕方がない人ですね。このカワイイボクがすぐになんとかしてあげますよ」



「幸子ちゃん……! 正直幸子ちゃんだと頼りないなぁ、とか、いつも美穂ちゃんを見る目がなんとなく怪しいなぁ、とか思ってましたけど、やっぱり幸子ちゃんがなんばーわんです! あ、いえなんばーわんはプロデューサーさんなのでやっぱりなんばーつーです!」



「………………」

 いや。否定もできないのだけれど。

 確かに頼りになる人間ではないだろうと思うし、どちらかというとそのカワイさのおかげで頼られるよりもむしろ助けてもらう側でいることのほうが自分としては向いているとも思っているが。

 あ、いや、否定できる。美穂さんを見る目は怪しくない。健全です。

 確かに美穂さんがお腹を出しているとついつい目で追ってしまうようになっている気がするけれど、あくまでもそれは風邪を引かないか心配なだけであり何も怪しくはないし健全でしかない。

 美穂さんのお臍にチョコレートを載せたいなんて考えていない。



 閑話休題。



 しかしこれは、と幸子はがんじがらめになったまゆを見て思案する。

 思った以上にリボンが複雑に絡まってしまっている。鞄の中で剥き出しで放り込んだイヤホンでもここまで複雑に絡むことはないだろう、というくらいに。

 大方、最初に絡ませてしまったときに暴れまわって余計に面倒くさくしてしまったのだろう。人間、パニックになってしまえばなかなか冷静に行動ができなくなる。ましてまゆであれば尚更だ。

「まあいいでしょう、これほど絡んでいれば頭を使うよりもまずは適当にほぐしていくほうがどうにかなります」



「ええ……?」



 なんだかんだ言って幸子だって中学生である。あまり細かく気にしすぎない。

 いきますよ、と適当に目についた部分のリボンを引っ張る。



「ひゃあっ」



 ふむ、ここは引っ張っても特に意味がない。それではこちらならどうだ。

「ひうっ……!」



 女性らしく柔らかい、しかし余計なものはまったくついていないまゆのお腹にリボンがぎゅっと食い込む。しかしまるでほどける様子はなくて、どこかが緩んでいるという感じも見当たらない。

 これはなかなか手強いぞと幸子もムキになってさらに別の場所を引っ張るも。



「んぅぅっ……ちょっ、そこはぁ……!」

 余計に別の部位が食い込む。どこを引っ張ればどこが連動して動くのか、それすらも見分けがつけられないほどの絡まりかたには幸子も苦笑いを浮かべる。

 苦笑いである。

 愉しそうに笑ってはいない。

 まさか、まゆが困る姿を──リボンを引っ張るほどに反応するまゆの姿を楽しむほどに幸子は歪んでいない。サディスティックではない。財前時子ではない。



 いや、本当に。マジで。真剣に。

 どちらかと言えば幸子の脳内にあるのは『あれ、この光景見られたら人生詰むのでは?』みたいな、物凄く真っ当なものである、ということを幸子の名誉のためにも主張しておかなければならない。



 こんなところを見られた日には事務所中に、輿水幸子は佐久間まゆを縛って愉悦に浸るド変態ガールだという噂が広がってしまうことは間違いない。

 もしもそんな噂が美穂さんの耳に入ってしまえば──!



『幸子ちゃん……凄い変態さんだったんだね。ううん、たとえどんな幸子ちゃんでも、私は気にしないから』



 物凄く明後日の方向に気を遣われるのが目に浮かぶ……!

 気持ち悪い、と言われるよりもある意味心にくるものがある。美穂にそんな気をつかわせなければならないというだけで罪悪感で死んでしまいそうになる。

 それだけは避けなくてはいけない。

 そのためにもこのリボンを早く何としてでもほどかなくてはいけない、と焦る幸子はますますもって強引にまゆに絡まるリボンを引っ張る。



「さ、幸子ちゃ、強引、すぎっ、んんんっ──だ、だめですぅぅ!」



 まゆが何処かへ達した、そのとき。

 ガチャリと、外界と隔たれた世界を解放する扉が開く音がした。



「おはようございえええええええ!?」



 あ、人生終わりましたね。吊ろう。

 外からの来訪者──小日向美穂の絶叫に、幸子はロープを探すのであった。

幸子がふらふらと心神喪失状態で首を吊るのに都合のいいロープを見つけてきたときにはリボンから解放されきちんと洋服を着たまゆが正座させられていた。

 腕を組んでそのまゆを見下ろすのは美穂だ。

 お説教中、と言った様子だ。

「まゆちゃん、ここは小さな子たちもいる場所なんだから、悪い影響を与えるようなことをしたらいけません」



「はい……そのとおりです……」



「私たちは年上として年下の子たちにはお手本となるようにしないといけないのはわかるよね」



「まったくもって仰るとおりです……」



「それに裸にリボンなんて、こんなに寒いのに……いくら暖房がついていたとしても風邪を引いちゃうよ」



「うう……すみません……」



「というか、いくらなんでも事務所に来たら裸でリボンのまゆちゃんがいたとしても、それはさすがにプロデューサーさんも反応に困ると思うな」



「ふぐぅ……!」

 美穂のもっともな言葉に、まゆはがっくりと膝をついて打ちひしがれる。

 確かに、いくらプロデューサーが大変な人間だとしても喜ぶよりもまず戸惑うだろう。まさか喜び勇んで裸リボンにダイビングしたりした日には国家権力にお世話になることだろう。

 それでも喜んで飛び込みそうなところがプロデューサーさんの恐ろしいところですのね、とまゆが説教される姿に冷静さを取り戻した幸子は思った。

「戻ってたんだ、幸子ちゃん。入れ替わりに走って出ていっていたけど……ところでどうしたの、そのロープ?」



「えっと……そう、そうです。最近ロープ集めに凝っていまして」



「そ、そうなんだ……渋い趣味だね」



 ロープ集めを趣味とするアイドルってなんだろう。少なくともカワイクない。

「ごめんね、幸子ちゃん。まゆちゃんも少し考えが足りなかっただけで、悪気があったわけじゃないから」



「いえ、まあ悪気があってとは思っていませんし……それにボクも焦っていて考慮不足でした。無理にほどくよりも、美穂さんのようにハサミで切ってしまえばよかったんですよね」

 まゆの地獄のように絡んでしまったリボンがとれているのは、美穂がハサミで容赦なく切ったからである。リボンだった残骸はゴミ箱に捨てられている。

 もったいないが既に使い物にならないほどに縺れていたり、短くなってしまっているのでそれは仕方がない。

「あはは、幸子ちゃん、普段はしっかり者なのにたまに抜けているよね」



「た、たまに隙を見せるくらいがボクのカワイさを引き立てるんですよ!」 



「うんうん、そうだね。カワイイカワイイ。幸子ちゃんはとってもカワイイね」



「ふ、フフーン! そうでしょう、そうでしょう!」



 にっこりと微笑み、可愛いなあと美穂は思った。

 可愛いですねぇ、とまゆも思った。

 後日談。或いはオチ。



「はっ、そうです、裸にリボンがダメなら水着にリボンならいいのでは? うふふ、まゆのリボンがエキサイトしてますよぉ」



「バカなんですか?」



「ふぐぅ……!」







おわり



相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: