2017年02月27日
双葉杏「おとなしく寝てろ!」
スローライフファンタジーを聴いて号泣したので
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CGプロ、休憩室―
P「また負けた…」
杏「いぇい!」
P「俺のダルシムは最強のはず…」
杏「杏のザンギエフの方が強い、ただそれだけだよ」
P「相性覆しやがって…あーもーこれで3連敗だ」
杏「全部ストレートでね」
P「くっそ次だ!次は勝つ!」
杏「来い!」
30分後―
P「一向に勝てねぇ…」
杏「粉砕!玉砕!大喝采!」
P「もうザンギエフ見たくねえよ…」
杏「ふっふふ〜ん♪」
P「…って、もう休憩終わりだな、ここらで切り上げようか」
杏「え〜もっとやろうよ〜」
P「ダメ、杏はオフでも俺は仕事あんの」
杏「けち〜」
P「ほら、いちごミルクやるから言うこと聞け」
杏「もー…しょうがないなあ」
P「…次やるときは絶対に勝つからな」
杏「望むところだよ、いつでもかかってきなよ」
P「機体の性能の差が実力の差じゃないという事を思い知らせてやる!」
杏「機体の性能はそっちの方が上でしょ」
P「くっ…!」
P「じゃあな、遅くならないうちに帰れよ。明日収録あるんだからな」
杏「頑張ってね〜…は〜…暇。」
ガチャ
千川ちひろ「あ、いたいた杏ちゃん」
杏「ちひろさん」
ちひろ「プロデューサーさんにつきあってくれてありがとうね」
杏「別にぃ、杏はゲームがしたくてただ誘っただけだし」
ちひろ「またそんなこと言っちゃって…最近プロデューサーさんが忙しそうだから息抜きをしてあげたんでしょ」
杏「そんなわけないじゃん何言ってんの、杏が何でそんな面倒な事を率先してやるのさ、杏はただゲームの相手が必要だっただけで」
ちひろ「はいはい、そういうことにしておきましょう」
杏「だから違うって」
ちひろ「ふふふっ」
杏「違うって」
次の日、車中―
P「収録お疲れ」
杏「うぃ〜…」
P「新しいアメはダッシュボードに入れてあるから」
杏「うー...」
P「今回は前に欲しいって言ってたやつを買ってみたんだけど…って」
杏「うぅ…うにゃ…」
P「眠いんなら寝ていいから」
杏「いや…アメを…アメを食べてから…」
P「寝ながら食うとのど詰まらせっぞ、おとなしく寝てろって」
杏「あぁ…うにゃぁ…パトラッシュ…ぐぅ…」
P「…寝たか、変なコト言ってたけど」
杏「スー…スー…」
P「…お疲れさん」
P「着いたけど…」
杏「ううぅ〜ん…」
P「気持ちよさそうに寝やがって、起こすのが忍ばれるな…しょうがない、運ぼう」
杏「あぁ…」
P「どっこいせ…杏をおんぶするのも、なんか久しぶりだな」
P(前はこんな事が多かったけど、最近は何故か一人で歩きたがるんだよなぁ...まあ一人でやってくれるんならそれに超したことはないんだけど)
杏「えへへぇ〜…うぅ〜ん…」
P「戻りましたー」
ちひろ「お疲れ様です…あら?」
杏「むにゃ…」
P「ははは、帰る途中に寝ちゃったんで」
ちひろ「気持ちよさそうに寝ちゃってますね」
P「疲れてるんでしょうね、このまま仮眠室で寝かせとこうと思います」
ちひろ「ふふふ、それが良いと思いますよ」
P「あとその…俺はこれからテレビ局で来週分の打ち合わせがあるんで、様子を見てて貰っても良いですか?」
ちひろ「わかりました、任せてください!」
P「それじゃあ、お願いします」
杏「ぐぅ…」
しばらくして―
杏「寝てる間におんぶ…」
ちひろ「とっても安心しきったように寝てて、」
杏「あーーーー!!もーーーー!!」
ちひろ「プロデュサーさんの背中に顔を埋めちゃって」
杏「言わなくて良い!言わなくて良いから!!」
ちひろ(もう顔真っ赤…)
杏「ううう…!」
ちひろ「そういえば、最近プロデューサーさんが杏ちゃんをおぶってるのあんまり見なかったんですけど…」
杏「うっ」
ちひろ「というか杏ちゃんがプロデューサーさんにおんぶをねだるのも見てない気が…」
杏「それは」
ちひろ「もしかして、恥ずかしいからとか?」
杏「…そ、そんなわけないじゃんちひろさんも偶には的外れなことを言うんだね以外だよ」
ちひろ「大丈夫、プロデューサーさんには言いませんから」
杏「だから違うって!」
ガチャ
P「戻りましたー」
杏「!?」
ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」
P「お、起きてたか、ちょうど良い、どっか飯でもって…」
杏「あ、ああ、お、おかえり…」
P「ん?顔赤いぞ?大丈夫か?」
杏「だ、大丈夫!杏はおなか減ってないしさ、このまま帰るよ!」
P「そ、そうか、体調には気をつけろよ」
杏「う、うん!じゃあまた!」ダダダッ
P「…逃げるように帰ってったな…本当に大丈夫か?」
ちひろ「ふふふっ、大丈夫ですよ」
P「ちひろさん…何でそんな満面の笑みを…」
ちひろ「さあ、何ででしょう?」
P(なんか怖い)
次のオフの日―…
P(結局この前のはなんだったんだろうな…聞いてもはぐらかされるし)
杏「ねえプロデューサー、キン肉マンの超人しりとりしよ〜」
P「すぐ終わっちゃうだろそんなの」
杏「モンゴルマン」
P「早速終わってんじゃねえか」
P(まあ本人が何もないって言うなら大丈夫か)
杏「まあまあ、杏は今日オフで暇なんだしつきあってよ」
P「俺は暇じゃないから、つかオフなら事務所に来ないで体を休めなさい」
杏「そんなの杏の自由じゃん」
ちひろ(ほほえましい…)
別の日―
荒木比奈「もう『べろべろばあ』のところは自分涙ぼろぼろ流しながら!」
P「あそこで泣かない人類居ないって!」
ガチャ
杏「おはよ〜」
比奈「ああ、杏ちゃんおはようっス」
P「早いな、今日のスケジュールならまだ余裕あるだろ」
杏「ま、早く起きちゃったからね…で、二人ともずいぶん楽しそうだったけど」
比奈「ああ、好きな漫画の話をしてたんっスよ」
P「いやー比奈が知ってるとは思わなかった」
杏「へー…ふーん…」
P「?、どうした?」
杏「いやー楽しそうだなって」
P「そうか?まあ周りにあんまり話せる人が居なかったし、久しぶりにめいっぱい話が出来て楽しかったのかもな!」
杏「そう…」
比奈(ははーん…)
比奈「じゃ、アタシはユリユリとラジオ収録があるんでこれで!」
P「お、そうか」
比奈「それではごゆっくり〜」
ガチャ
比奈「…いや〜」
比奈(ヤキモチやいちゃって…しかも早く来たの絶対にプロデューサーさんに会うためでしょ)
比奈(あのめんどくさがりの杏ちゃんをこんなに変えちゃうなんて…)
比奈「青春っスな〜」
杏「…」
P「んーとそれじゃ、これからの予定を…どした?」
杏「なにが?」
P「いや、すまん。気に障るようなコトなんかしたか?」
杏「別に、なんでもないよ」
P「?」
杏「これは私の問題だから」
P「そうか…ほんとに大丈夫か?」
杏「大丈夫だって、心配しなくて良いから」
杏(あーもーなんで杏がこんなダルい気持ちにならなくちゃいけないのさ)
杏「はぁ…うん?」
杏(スマホにメッセージ…比奈さんから?)
比奈<[さっき話してたプロデューサーさんが好きなマンガ今度もって行くんで!]
杏「…」
――
ピロリン
比奈「お、返信来たっス」
杏<[ごめんなさい、ありがとう]
比奈「ふふふっ」
比奈<[どういたしまして、そしてファイトっス!]
杏<[なんの話?]
比奈<[何でも無いっスよ]
別の日、スタジオ、とあるゲーム番組―
スタッフ「お疲れ様でーす!」
杏「収録終わり!」
神谷奈緒「お疲れ様」
杏「いやー好きなコトして稼げるって最高だね!」
奈緒「杏の口からそんな言葉が出るとはな」
杏「ああ、もう杏はこの番組だけで生きていこうかな…」
奈緒「それは無理だろ」
奈緒「じゃあ私はこれからメイトに寄ってから帰るけど、杏は?」
杏「事務所に行ってくるよ」
奈緒「事務所?これから?なんか用事でもあるの」
杏「いや、プロデューサーに会いに行くだけだよ」
奈緒「へ?」
杏「え?」
奈緒「」
杏「」
杏「…えっ?」
奈緒「そ、そうか、Pさんに会いにね、うん」
杏「なし!今のナシ!つい言っただけ!何でも無いから!」
奈緒「ああそうは思ってたんだ」
杏「ち、ちが…あアメ!アメをもらいに!あくまでアメが目的!」
奈緒「そ、そう、そういう『テイ』ねうん」
杏「違う!あーもー!違う!!忘れて!!」
奈緒「絶対にヤダ、というか無理」
杏「忘れろーーー!!!」
奈緒(顔真っ赤だぞ)
奈緒「まあまあ、大丈夫だから、誰にも言わないから」
杏「嘘だッ!!!」
奈緒(混乱してんなぁ…)
杏「ぬわあああああああああああ!!!」
奈緒(頭抱えてもだえてる姿なんてなかなか見ないぞ)
杏「もうやだああああああああああああああ!!!」
・・・
何で私がこんな気持ちにならなくちゃあいけないんだ。
面倒くさいことこの上ない。
「はあぁ〜…」
こんなの杏らしくない、こんなの杏は認めない。
…そう思いながらも足は事務所に向いている。
まあアレだ、アメだ、アメをもらいに行くんだ。
昨日会えなかったからじゃなくて昨日もらえなかったからプロデューサーに会いに行くんだ。
「おい〜っす、収録終わり〜…って」
「ううぅ〜ん…」
「寝てるし」
いつも杏に働けと言っているくせに自分が働いてないじゃないか。
机に突っ伏して寝てるプロデューサーを見ると、やっぱ仕事って大変なんだな、とか仕事なんてしたくないなって思っちゃう。
将来の印税生活のためとはいえ、出来ることなら杏も仕事なんかしたくないし。
そこで疑問。
なんで杏は仕事なんか続けてるんだ?
ぶっちゃけた話似合わない労働のおかげで、もう働かなくても大丈夫なくらいの貯金はある。
ならなおさら、どうしてこの人類史上最大最悪の怠惰の化身であるこの杏がまだ仕事を続けてるんだ?
いままで考えてなかっただけで、いったんこの思考を始めると止まらない。
いや、考えないようにしていただけだ。
「スー…スー…」
寝ているプロデューサーの顔を横目で見ると心のどこかで安心感を覚える。
杏の働く意味は印税のため、将来ラクして生きていくため。
そのための努力は惜しまないし、全力を尽くす。
でも今となってはそれはただの言い訳で、本当の目的は変わっている。
この杏の目の前で眠りこけている男が変えてしまったのだ。
杏の仕事が成功すると自分のことのように嬉しそうに笑って、
杏が悪いのに何度も何度も代わりに自分の頭を下げて、
杏のわがままを何だかんだ言いながら聞いてくれて、
褒めてくれて、喜んでくれて、おぶってくれて、買ってくれて、付き合ってくれて、一緒にいてくれるこいつが何もかも変えたんだ。
いままで考えようとしなかったのは、認めたくなかったから。
今も認めたくはない。
杏はこんな面倒きわまりない気持ちになんかなりたくないから。
でも、この自分の中に抱える矛盾は日に日に大きくなっていってしまって。
「仕事を続ける意味…」
そんなのは、今まで知ろうとしなかっただけで、とっくに杏は知っている。
認めたくないけど認めている。
「プロデューサーと一緒にいたいからだよ」
口から出た何もまとっていない裸の言葉は、杏の本心。
もっと褒めてほしいから、もっと喜んでほしいから、もっとずっと一緒にいたいから。
だから、杏は働いているんだ。
でも、杏はまだ認めたくない。
面倒な気持ちになりたくないからじゃなくて、これを認めるってコトは杏が杏じゃなくなる気がするから。
今までの自分とはまるっきり変わってしまうかもしれないから。
変わらないといけない時もくるのだろうけど、まだこのままでいたいから。
だからもう少しだけ、もう少しだけ、このままで。
「うぅ…ん…あれ、杏?」
「!?」
よりにもよってこのタイミングでプロデューサーが目を覚ます。
あんなことを言った後だ、顔は熱いし、心臓はバクバクしてる。
「あぁ…寝ちゃってたか…収録は?終わった?」
背伸びをしながらプロデューサーは尋ねてくるけど、上手く答えることが出来ない。
つっかえて、口をパクパクさせてしまう。
さっきのあの言葉はスルっと出たのに、何でだ、おかしいぞ。
「…顔赤いぞ、どうした?熱か?」
「な、何でも無いから!」
まだ本当のことは話せない。
認めるまでまだまだ時間がかかるし、何より伝えるまでの勇気も無い。
でもいつか、いつかは必ずあなたに伝えるから。
でも今は、まだ時間が必要だから。
「おとなしく寝てろ!」
もう少し、向き合う時間がほしいから。
私が変われるまで、このままで。
完
21:30│双葉杏