2017年02月28日

槙原志保「ブレンド」

志保「緊急会議を開きます!」



アヤ「なんだよ、太ったのか?」



志保「いの一番にそれを聞きますか!?」





伊吹「あ、それあたしも思った」



志保「違うんです! 今太ったことは問題じゃないんですよ!」



アヤ「太ったのかよ」



伊吹「あたしたちアイドルだよ? ダイエットしなくていいの?」



アヤ「アイドルなのに思いっきり肌を焼いてた奴に言われちゃおしまいだな」



伊吹「ねえそれあたしのこと!?」



アヤ「さあ?」





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志保「伊吹ちゃんのうっかりさと私の体重のことは置いておいて……」



伊吹「志保もなにげに酷いね……」



アヤ「プロデューサーからのお叱り案件くらいには重要なことだと思うけどなー」



志保「今日の議題はそのプロデューサーについてなの!」



アヤ「ん? プロデューサーがどうかしたのか?」



志保「えっとね……プロデューサーって、コーヒー嫌いだったりするかな?」



アヤ「はぁ? そんな訳ないだろ?」



志保「で、でも! この間こんな事があったんですよ!」





……数日前……



モバP(以下P)「撮影お疲れ様でした」



志保「お疲れ様でした〜! ひゃ〜、寒い寒い!」



P「急に冷え込んできましたね。直ぐに事務所に戻りましょうか」



志保「はーい♪」



P「っと、その前に……自販機で暖かい飲み物でも買っていきましょうか。どれがいいですか?」チャリンチャリン



志保「うーん……じゃあこの缶コーヒーで!」



P「これですね」ピッ! ガコン!



P「どうぞ。熱いので気を付けてくださいね」



志保「ありがとうございます♪」パキョッ!





志保「んっ……はぁ……あったかい……」ホゥ…



P「じゃあ駐車場に向かいましょう」ゴクッ



志保「プロデューサーさんは何を買ったんですか?」



P「僕ですか? あったかい紅茶ですよ」



志保「あっ、それ新商品ですよね!?」



P「ええ、CMでやっていたのを見て飲みたくなりましてね」



志保「その……一口もらえたり……」エヘヘ



P「いいですよ。はいどうぞ」



志保「ありがとうございますー!」ゴクリ



志保(…………あれ? これひょっとして……)



P「美味しいですか?」



志保(か、間接キスだったりするんじゃ……)



P「……志保さん?」



志保「はえっ!? あ、はい! 甘さ控えめで!」



P「それはよかった」





志保「そ、その……ありがとうございました! あ、よかったら私のコーヒーもどうですか?」



P「……いえ、遠慮しておきます」



志保「……かっ、間接キスなら私は気にしませんよ!?」



P「間接……? ああいや、そういう事ではなくてですね」



志保「?」







P「僕、そういうコーヒー嫌いなんですよ」







嫌いなんですよ……嫌いなんですよ……嫌いなんですよ……







志保(コーヒーが、嫌い……っ!?)



…………



志保「ってことがあったのぉ!!」バンバン!



アヤ「……思ったよりストレートな話をぶち込んできたな」



伊吹「一瞬惚気話かと思った」



志保「のろっ……そ、そういうのじゃなくてですね!」



伊吹「はいはいご馳走様。それで? その時に理由は聞かなかったの?」



志保「頭の中で「嫌い」って言葉がぐるぐるしちゃって、そこまで頭が回らなかったの……」



アヤ「そこで聞いておけば解決する問題だったろうに」





志保「やっぱりプロデューサーってコーヒー苦手なのかなぁ……そうと知らずにコーヒーばっかり淹れてた私って……」ドンヨリ



伊吹「いや、それ勘違いだから」



志保「えっ?」



アヤ「プロデューサーが嫌いって言ったのは「缶」コーヒーのことだな。コーヒー自体が嫌いって訳じゃないぞ」



志保「缶、コーヒー……?」



伊吹「プロデューサーって食事にしろ何にしろ結構サッパリしてるのが好きでしょ? あんまり余韻を楽しむって感じじゃないよね」



アヤ「だから後味がくどかったり喉にしつこい食べ物とか飲み物とか……意識して避けてるはずだよ。カップ焼きそばとかソースを半分くらいしか入れないし」



伊吹「それでも口の中に焼きそばの味が残ってたみたいで、わかりやすく気分が悪そうだったもんね」



志保「そ、そうだっけ……?」



伊吹「志保がそれに気がついてないのってなんか意外……」



アヤ「大方、一緒に飯食べたり喫茶店で休憩してる時は自分のものに夢中なんだろうよ」



志保「うっ……」



伊吹「図星みたいね」





伊吹「まあコーヒーが嫌いってわけじゃないし、そんなに気にすることもないんじゃ……」



志保「ま、待って! 話はこれで終わりじゃないの!」



アヤ「ん?」



志保「その……プロデューサーさんが好みの飲み物って、どんなのかなーって……もし私のコーヒーが苦手だったら、ずっと我慢して飲んでくれてたってことになるし……」



アヤ伊吹「「…………」」



アヤ「……やっぱり惚気話の類だったか……」ヒソヒソ



伊吹「……志保の淹れたコーヒーならプロデューサーが嫌いって言うはずないのにね……」ヒソヒソ



アヤ「……いつも美味しそうに飲んでるよな……」ヒソヒソ



伊吹「……志保はその顔しか見たことないからわからないのかも……」ヒソヒソ



アヤ「……笑顔ばかり向けられてた弊害か……こりゃ思わぬ落とし穴だな……」ヒソヒソ



志保「……何でこそこそ話してるんです?」





アヤ「で、アタシらは何すればいいんだ?」



志保「へ?」



伊吹「協力してほしいから呼んだんでしょ? 何でもは無理だけど、できることならやるよ!」



志保「ほ、本当?」



アヤ「普段からこうしてコーヒー淹れてもらってる恩返しみたいなもんだ。それに、今後のコーヒー料も含めて……な?」



伊吹「アヤってば、素直に協力するって言えないんだ〜」ニヤニヤ



アヤ「ばっ、違うって!」



志保「あ、ありがとうございます!! それじゃあ……」



……翌日……



伊吹「プロデューサー、コーヒー淹れるけど飲む?」



P「……伊吹さんがですか?」



伊吹「何よ、その不安そうな顔は」



P「いえいえそんな、ドリップコーヒーにお湯を注ぎすぎて豆が溢れちゃうんじゃないか、なんて心配はこれっぽっちも」



伊吹「してるじゃない!」



P「冗談ですよ。僕の分もお願いしてもいいですか?」



伊吹「まったくもう……ちょっと待っててね」







伊吹「じゃあ志保、よろしくね」



志保「はい!」





伊吹「はーい、お待たせ」コトッ



P「ありがとうございます……ん? 常備してあるインスタントじゃないんですか?」



伊吹「えっ、わ、わかるの?」ギクッ



P「流石に飲み慣れてますからね。それで、このコーヒーはどうしました?」



伊吹「あ、えっと……そう! 貰い物のドリップコーヒーなの!」



P「なるほど、普段と香りが違う訳ですね……うん、美味しいですよ」



伊吹「……具体的には?」



P「え?」





伊吹「あ、その……アタシ、コーヒーの味があんまりわかんないからさー! 喫茶店で食レポなんかするようになった時の参考にさせてもらおうかなー、なんて!」



P「……あまり参考になるとは思えませんが……そうですね、コクというより酸味がかなり強いです。勿論、良い意味でですよ? ただ……個人的にはここまでサッパリしすぎなくてもいい気がしますけどね」



伊吹「なるほどねー……うん、参考になったよ!」



P「本当ですか……?」



伊吹「本当だってば! じゃあそれ飲んでおいてね!」ダッ



P「……自分の分は飲まなくていいのでしょうか?」





……さらに翌日……



アヤ「ようプロデューサー。コーヒーでも飲むか?」



P「アヤさんが淹れてくれるんですか?」



アヤ「まあな。インスタントだけど我慢してくれよ?」



P「文句なんて言いませんよ。お願いしますね」



アヤ「よしきた」







アヤ「じゃあ頼んだぜ」



志保「うん!」



伊吹「なーんか、あたしの時と対応違わない?」



アヤ「アタシは意外としっかりしてるからな」



伊吹「どういう意味!?」



アヤ「はいお待ち」コトッ



P「ありがとうございます」



アヤ「いやー、実家で使ってるやつ買ったんだけど使いきれる自信なくてさ。協力感謝するよ」



P「なるほど、どういう風の吹き回しかと思ったらそういうことでしたか……うん、美味しいですね」



アヤ「だろ? このちょっとだけ酸味がある感じがいいんだよ。そう思わない?」



P「そうですねぇ……僕からするとまだコクが強すぎる気もしますけど」



アヤ「おっと、そう感じたか……まあ焙煎って書いてあったし、そういう商品なんだろうな」



P「ですね」





アヤ「まあ美味しく淹れられるまで付き合えとは言わないからさ、ある程度消費するまでは付き合ってくれよ」



P「ええ、構いませんよ……いや、こちらは淹れてもらう側ですからそんな偉そうなことは言えませんね。よろしくお願いします」



アヤ「その間、志保のコーヒーは飲めないと思ってくれ」



P「……それは少し残念ですね」



アヤ「ははは、だろうな」



アヤ(本当は今飲んでるんだけどなー、お試しブレンド第二弾)





…………



伊吹「ねえねえプロデューサー! ドリップコーヒーでも美味しく淹れられるって方法を教えてもらったから飲んでみてよ!」



…………



アヤ「なあプロデューサー。このインスタントコーヒーの淹れ方を変えてみたんだけど……どうだ?」



…………



伊吹「はい、プロデューサー!」



…………



アヤ「お待ちどうさん、プロデューサー」



…………



……数週間後……



志保「できた……これ以上ない、完璧なブレンド! これならプロデューサーさんも納得のいく味……のはず!」



伊吹「おめでとー……」パチパチ



アヤ「いやー、思った以上に疲れたなー……」パチパチ



志保「協力してくれてありがとうございました!」



伊吹「志保が用意した色んなブレンドをインスタントって嘘つくの大変だったよね……」



アヤ「淹れ方変えた程度でインスタントがそんな簡単に味が変わる訳ないからな……」



伊吹「いつ指摘されるかハラハラしたよね……」



アヤ「正直なところ、結構心臓に悪かったぜ……」



志保「ありがとう! 本っ当にありがとう!!」





志保「このお礼はまた今度ご飯にでも……」



伊吹「あー、そういうのは今じゃなくていいから。プロデューサーにそれを振る舞っておいで」



アヤ「早く行きたいって顔に書いてあるぞ」



志保「えっ!?そ、そうかな……」



伊吹「さあ行った行った!」グイグイ



志保「わわっ! う、うん、わかった! 行ってきます!」ダッ



アヤ「しっかりやれよー」ヒラヒラ



…………



志保「ぷ、プロデューサー!」



P「おや、どうしましたか?」



志保「そ、その……コーヒー! 今から飲みませんか!」



P「そうですね、いただきます」



志保「今日のコーヒーは自信作なんです! 味わって飲んでくださいね!」



P「ええ、楽しみにしてますよ」



志保「じゃあちょっと待っててくださいね!」ドタバタ





志保「お待たせしました!」



P「ありがとうございます……うん、いい香りですね」



志保「……」ドキドキ



P「では……」ズズッ



志保「……」ドキドキドキドキ



P「……うん、美味しい」



志保「……!」パァッ!



P「程よくスッキリとした味わいで、後味もしつこくない……僕好みのコーヒーですね」



志保「そ、そうですか! よかったです!」



P「さて、それじゃあ僕からお礼にお茶請けをプレゼントしましょう」



志保「え?」



P「どうぞ、シフォンケーキです」



志保「シフォンケーキ!! しかもホール!!」



P「さあ、志保さんも自分のコーヒーを用意してくださいね」



志保「はーい! あ、生クリームもついでに泡立ててきますね!」



P「えっ、これはそのままでも……」



志保「一切れ目はちゃんとそのままいただきますので!」ダッ!



P「……やれやれ、今から全部食べきるつもりでしょうか……」



志保「それでは準備ができましたので……いただきまーす!」パクッ



志保「むっ! 美味しい! これ美味しいですよ!」



P「……それはよかった」ホッ



志保「プロデューサーさん、これ何処で買ったんですか?」



P「仕事ついでに関西のお店で買ってきました」



志保「関西!?」



P「なのでここにある分で終わりです」



志保「そ、そうですか……」シュン…



P「また買ってきてあげますよ」



志保「本当ですか!?」



P「その代わり……」



志保「その代わり?」







P「またこのコーヒーを淹れてくれませんか?」



志保「…………はい! 喜んで!」









…………



アヤ「……やれやれ、随分回りくどいことをしたもんだよなー」



伊吹「ホントにね。それに……多分プロデューサーは気づいてるっぽいし」



アヤ「あ、やっぱりか? 途中から自主的に好きなコーヒーの味とか喋ってくれたし、そんな気はしてたんだよ」



伊吹「明日から志保のコーヒーだよ、って教えたら急がなきゃって飛び出して行っちゃったし……どこまで何を買いに行ったのやら」



アヤ「プロデューサーもプロデューサーでサプライズ好きだぜ」



伊吹「どうする? 見に行く?」



アヤ「……いや、やめておこう。どうせ帰ってきた時に惚気られる」



伊吹「あー、そうだね……」



アヤ「しばらくコーヒーはブラックで飲まなきゃな」



伊吹「志保にブレンド淹れてもらって、ね♪」





終わりです。







17:30│槙原志保 
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