2017年05月14日

高森藍子「夢で逢えたら」

地の文有りモバマスssです。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491015177



 社員証をかざすと電子扉が開いて、中に入って少し歩いたところにおれの事務所がある。





 誰よりも早く来るのは、別に勤勉だからというわけではなくて、単純に朝早くに目が覚めてしまうからだった。



 部屋の明かりをつけて、デスク脇に荷物を置き、コーヒーを淹れる。



 早く着いたからといって、仕事を始めるわけでもない。必要があるなら手を付けることはあっても、仕事をするために来ているわけじゃない。





 今日日、残業を取り締まる流れが大きくなっている中、早く出社することはまだきつく言われていない。



 少なくとも、おれの働く部署はそうだった。

 朝の事務所は、静かで落ち着ける。その中に佇んでいるのが、好きだった。



 いつも頭の中には、大樹の洞に潜り込んでいるイメージがある。



 「おはようございます」



 そんな事務所に明るい声が響く。



 レッスンがあろうとなかろうと、こんなに早い時間に事務所にやってくるのは、彼女くらいだった。



 デスクワークをしているおれの他にはまだ誰もいない。いつもの光景だった。



 「おはよう、藍子」



 声をかけると、彼女はこちらに向き直った。



 「おはようございます、Pさん」



 花のような笑顔を浮かべて、挨拶を返してくれる。



 彼女、高森藍子は、おれの担当するアイドルだ。 



 「相変わらず早起きさんなんですね」



 彼女が話すと、あたりの空気が華やぐような気がする。



 「眠りが浅いんだ」

 彼女は平日はほぼ毎朝早くに来て、自分の荷物を事務所に置くと、日課の散歩に出かける。



 といってもそこまで遠出をするわけではなく、プロダクション内を宛もなく歩くだけらしかった。



 「今日も散歩?」



 荷物を置く彼女に尋ねる。



 「はい、ちょっと行ってきます」



 「いってらっしゃい」



 いつものように手を振ってそれを見送る。





 「Pさんもお時間に余裕があれば、ご一緒しませんか?」



 にこやかな表情を浮かべて彼女がそう言う。



 「え、おれ?」



 「お日様浴びながら歩くと、気持ちいいですよ?」

 「おれはいいよ。ちょっとやることあるし」



 「そう、ですか。わかりました」



 特にどうということもなく、彼女は散歩に出ていく。



 手を止めていたスケジュールの見直しを再開する。





 しかし、どうにも座りが悪くて、デスクを離れて窓際に向かう。



 そこから窺える往来は忙しなく走る車でごった返している。



 今は静まり返った事務所も、もう何分もしないうちに賑やかになる。日差しが角度をつけてこちらに差し込んでくる。



 たしかに、日光に晒されていると気分は落ち着く。





 行けばよかったなと後悔し始めた時にはもう、手遅れだった。

 アイドルの高森藍子を知らない人は、そうそういない。



 ふわふわとした愛らしい空気を振りまき、ファンを癒すその姿は、アイドルに明るくない人でも知っていることが多い。



 彼女の放つ柔らかな雰囲気は見る人を暖かく包み込み、幅広い世代からの支持を受けている。



 パーソナリティを務めるラジオの公開録音の倍率は他のラジオのそれよりも何倍も高く、彼女がレギュラーで出演する料理番組は安定した視聴率を保っている。





 彼女が個人でいるより、ユニットを組ませた際に真価を発揮するタイプであることも、彼女の個性を端的に表しているといっていい。



 常にユニットの均衡を保とうと努め、時には率先して前に出るその姿は、ファンの心を掴んで離さなかった。



 散歩以外にも、お菓子作りやカメラなど趣味は多く、そういった主旨の番組に呼ばれることも多い。



 アイドルを始めた頃は自分の没個性さに悩む節も見受けられたけど、徐々にアイドルとしての自分の実力に自信を持ち始めるようになった。





 穏やかで、他人想いで、ファンを愛し、愛されるアイドル。



 アイドルにテンプレートがあるとすれば、きっとそれは彼女に近いと思う。



 これは私見でしかないのだけど、



 彼女はおれの死んだ母親に似ているところがある。



 彼女の担当になった当初は、そんなことは一かけらも思ったことがなかった。





 まだまだ新米だったおれは、彼女のプロデュースに精一杯だったし、彼女もそれに応えてくれた。



 彼女が伸び悩んだ時には、気分転換に買い物に付き合ったり、相談に乗ったり、近くの公園まで散歩に行って一緒にリフレッシュしたこともある。



 逆におれが仕事で辛かった時は、どれだけ隠そうともすぐに彼女に見抜かれた。彼女は他人が困っているのを見逃した試しがない。



 温かい飲みものを淹れてくれたり、手作りのお菓子を差し入れてくれた。



 その優しさは身に染みて嬉しかった。





 おれには少し勿体ないほどに。

 正直に言って、彼女がアイドルとして大成するまでにかなりの時間がかかった。大規模なライブをもっと敢行していれば、もっと早く辿り着けたのかもしれない。



 しかし、彼女がそれを望まなかった。それよりも、地道でもファンときちんと向き合えるイベントをしたいと言った。



 当然のことながら、それに対してプロダクションは難色を示した。彼女の望んだことは、アイドルとしての通例の流れを逸れていたから。





 だけど、いや、だからこそおれは、彼女の要望が通るように上に働きかけた。



 彼女は自分が栄光を掴むことよりも、自分の活動を通じて一人でも多くの観客に幸せになってほしいと願う人間だということを知っていたから。



 それが、彼女のアイドルとしての原動力なのだということを知っていたから。



 そうして拘ってまで、彼女がトップアイドルになれる保証はなかった。だけど、おれには彼女のことが信じるに足る人材だと思えた。



 果たして、幅広いアイドルの需要の一つの形として、彼女のようなスタイルのアイドルも必要だろうという結論が出た。

 母は、おれが高校生だった時に、この世を去った。



 肺の病気に罹り、何年も入院した果てに、いのちを枯らしてしまった。





 生真面目な性格で、いつもおれを静かに叱りつける人だった。



 四六時中怒っていた筈もないのに、頭の中で呼び起こされる彼女は、静かに佇んでいた。



 彼女はおれに、真当な人間に成長してほしくて、不必要に甘やかすことをよしとしなかったのだろう。



 他人に厳しく、自分に対しては更に厳しい性格をしていて、おれは窮屈な思いから、母と絶えずいさかいを繰り返していた。



 結局最後の最後まで、母のことを好きになれなかった。





 大人になった今では、彼女のことを尊敬するに足る存在だと思える。彼女なりの愛情は、躾の中にたしかにあった。



 誰に対しても不器用で、率直な人なのだと。それでも、幾ら今の自分が納得しようと、過去の自分がそれを認めようとしなかった。



 元気だった頃の母はもう、掠れた記憶と写真の中にしか存在しない。





 その母と彼女は、見た目にも性格的にも、似ている部分が少ない。



 それでも、ふとした瞬間に彼女が見せる表情や接してくれる態度に、たしかに重なる部分があった。

 母が今際の際におれに残してくれた言葉を思い出す。



 信じるべき相手を信じ、歩み寄ること。



 人に優しくすること。



 大切なことを、他の人と分かち合うこと。





 彼女の痩せ細った手を握って、おれは頷いた。



 最期までこの人らしいな、と思った。



 不思議と涙は出てこなかった。



 しかしどうしてだか、それから眠りは浅くなった。

 彼女がAランクに上がって、仕事に対するセルフプロデュースの割合が増えてくるにつれて、漸くお互いに余裕が生まれた時、自然におれは気付いた。



 彼女がそばにいる時に、妙な懐かしさを覚えている自分がいることに。



 それが、どこかで覚えのある感情であることを。



 それが具体的になんなのかは、わからないままだったけど。





 もう仕事はそこまで忙しくはならなかった。



 なんといっても彼女の仕事が安定した軌道に乗ったことが大きい。



 変わらないことといえば、地方にイベントをしに行くくらいだった。



 どれだけ人気が出たとしてもこれだけはと、彼女が譲らなかった。



 トークショー、番組出演、握手会、同じ業界人が見れば鼻で笑ってしまうような小さなイベントまで、彼女は手を抜かなかった。





 今回のイベントは、トークショーの後に握手会を続けて行うというもので、中々タイトなスケジュールだった。



 終わる頃にはお互いに疲れきってしまって、やっとの思いで新幹線に乗り込む。



 今日のライブも何事もなく済んで良かった。



 今日一日の出来を振り返りながら、そんなことを思った。



 ファンも、もちろん彼女も、いい笑顔だった。それがなによりだった。

 新幹線に乗り込むまで、空はどんよりとした雲が立ち込めていた。



 それが本格的な雨となったのは、発車してすぐだった。



 車両の一番後ろの左端に彼女は座り、その隣におれが座った。



 車内にはおれと彼女以外にも乗客がまばらにいたが、やけに明るい車内アナウンスが空しく鳴り響く下で、彼らは各々の座席についてなにかに耐えるように微動だにしなかった。



 おれと彼女もそうだった。疲労が体幹に纏わりついていた。



 車窓を窺っても、一面に雨粒がへばりついているのが見えて、それだけだった。



 夜に降るなんて、予報でいっていたか。



 携帯で天気予報を確認すると、ちょうど自分達がいるところの降水確率は四十パーセントだった。



 東京に着く頃には、雨雲を抜け出ているだろうか。





 どうしてだか、雨が降っているという事実が、彼女の今日一日の頑張りに水を差しているように思えて仕方がなかった。

 やがておれは、生家の居間に座っている自分を自覚した。



 目の前にはところどころに傷のついた木製テーブルがある。それには見覚えがあった。



 テレビは、地方の放送局が流している情報番組を映していた。



 すぐにこれは夢だと思った。



 ここは陽の暮れかけた夕方で、台所の方を見ると、夕飯を作っている母の後ろ姿が見えた。



 いつの間にか自分は年端もいかない子供に戻っている。



 わざわざ鏡を見て確認したわけじゃない。これも感覚でわかったことだった。

 母が夢に出てくるのは、初めてだった。そもそも夢を見ること自体、何年か振りのことだった。



 それでもすぐ近くに彼女がいるということが、割とスムーズに受け止められた。



 比喩的にいえば、よく知りもしない芸能人を実際に見た時のような感じに近い。



 見知った上に有名でもなかったけど、夢の中の彼女は、ご機嫌そうにカレーを作っていた。いい匂いが漂っている。





 台所に向かうと、彼女がおれに気付いた。



 カレーを温める火を止めて、おれの方に向き直る。

 記憶の中の彼女よりも、幾分か若いように感じたのは、おれが彼女に近付いたからだろうか。





 彼女は嬉しそうにおれに笑いかけて、いとおしそうに頭を撫でた。



 おれの想像していた彼女とは、まるで感じが違った。



 真当な人間であれと、いつも静かに怒っているような表情だったはずの彼女が、柔和な笑みをたたえている。



 それはたしかに、おれの見知った母にしては異様な光景だったが、不思議と違和感はなかった。



 懐かしささえ、感じられた。





 おれと母は、夢の中でなにごとかを話した。



 すぐに口論になってしまったらと少し不安に思ったが、それも杞憂に終わった。



 まるでずっと過去のある日と、今日という日を無理やり縫合したような、彼女は子供の見た目をしたおれを大人として見てくれている気がした。



 なにについて話したのかは覚えていない。結果として、安堵だけが印象に焼き付いた。



 もう行かなきゃいけないと思い始めるまで、時間はゆっくりと流れた。



 再会に際して、もちろん涙は出なかった。





 彼女は最後にもう一度だけ、おれの頭を撫でた。



 それから、いつもありがとうと呟いた。





 なにに対してのお礼なのかはわからなかったけど、その声を聞いた瞬間、視界に靄がかかった。

 誰かが頭を撫でている感覚で目が覚めた。



 きっと母さんだと思った。



 なぜって、こんなにも優しく撫でてくれているのだから。



 「母さん」



 呼びかければ応えてくれる、そう思って話しかけた。



 頷いてくれると思った。





 手が止まる。



 「……Pさん?」



 予想していたものとは違う声が返ってきて、一発で目が覚めた。



 座席にもたれかかっていた身体が少し左に傾いている。



 なにか柔らかいものに頭を預けている感覚があって、暫くして気が付いた時は本当に焦った。



 「す、すまない、藍子」



 「いいですよ、肩くらい」



 彼女は健やかに笑う。



 まだ新幹線は走り続けていた。

 「寝こけてしまうなんて、だめだな」



 頸を少しだけ傾けてぱきぱきと鳴らす。顔に血が上っている。きっと赤くなっている。



 「そんなことありませんよ、今日はPさんもお疲れさまでしたし」



 「藍子だって疲れてるのに、おれだけ寝るのがだめなんだ」



 「いいんです。帰りの新幹線くらい、気を抜いても」



 暫くおれのおれに対する自虐と、彼女のおれに宛てたフォローの応酬が続いた。



 「……おれはどれくらい寝てたんだ?」



 束の間、自分を虐げることを止めて、気になったことを尋ねた。



 「いつ寝始めたのか詳しい時間はわかりませんが、大体十五分くらいですね」





 十五分。母はその短い時間だけ、おれの、或いは彼女の中に帰ってきた。



 鍋をかき回し、おれに微笑みかけ、頭を撫でてくれた。

 相変わらず雨は新幹線の窓を打っている。



 電光掲示板には次の到着駅名が表示されるばかりで、いまどのあたりを走っているのかもわからなかった。



 「よく眠れましたか?」



 彼女の言葉は、その雨粒の一つ一つに紛れてしまうほど小さく、控えめだった。



 眠ってしまったことを悔いているおれにそう尋ねることが余程気がかりだったのかもしれない。



 彼女を安心させようと思って、なるべく穏やかに答えた。



 「うん。すごく」



 嘘でなく、本当に寝覚めは良かった。



 彼女にとってその答えがなによりだったようで、いつもの笑顔がそこにあった。



 まだ頭には、感覚が新しい。

 やがて新幹線は東京駅に到着し、おれと彼女はそこに降り立った。



 おれに残された仕事は社用車で彼女を自宅に送り届けることだけだった。



 荷物を後部座席に積み込み、運転席に身を滑り込ませると、彼女は既に助手席に座っていた。



 雨は幾らか落ち着いてはいたが、まだフロントガラスにてんてんと落ちては流れを繰り返した。



 夜も本格的に更け始めた車内は、まるで何世紀も前に亡んでしまった深海の王国のように静かだった。



 なにかを話そうとすれば不細工にも口元から泡がこぼれてしまうような気がした。



 万に一つもそんなことは起こり得ないのに、結局おれが話し始めるまでどちらも口を開かなかった。

 「夢に母がいてね」



 一体全体どうして彼女にこんなことを言ってしまったのか、よくわからない。



 別に言わなくたって彼女は気にも留めないことだろう。でもおれは言わずにはいられなかった。





 きっと彼女にだけは、こうして打ち明けたかったのかもしれない。





 おれは夢のことを彼女に言った。



 「おれは夢の中では子供に戻っていて、実家にいたんだ」



 「そこで母に会ったんだ。母というのも、もう何年も前に亡くなっているんだけど」





 「不思議な感じがしたんだ、実を言うとおれは生前の彼女のことが、好きじゃなかった」



 「真面目で、不器用な人だった。いつもなにかに怒っているような印象があった」



 夜の街に車を走らせながら、思いつくままに言葉を並べる。



 彼女は耳を傾けるだけで、なにも言わなかった。

 「でも、それが、どうしてだか彼女は人が変わったかのように優しくなっていたんだ」



 或いは、それが彼女の本当の姿だったのか。おれにはわからない。



 「いっぱい褒められた気がする。よく頑張りましたとか、ありがとうとか、そういうの」



 「そのまま目が覚めたんだ。だから起きた時、そばにいるような気がしたんだよ、母が」



 母を呼んだあの声に、応える声はなかった。





 びっくりしたろ、そう言っておれは彼女に軽く笑いかけた。



 彼女はそれには答えなかった。

 「おれは長い間……本当に長い間、彼女のことが好きになれなかったんだ」



 「でもそれは、もしかしたらそうじゃなくて、好きになろうとしなかったからなのかもしれない」





 もしも言葉が泡となって目に見える形で身体からこぼれるのなら、どんな心地になるのだろう。



 透明な海の中に沈んでいる気分だった。

 赤信号で車が止まる。



 もうワイパーを引かなくたっていいほど、雨脚は弱まっていた。



 「Pさんは優しい人です」



 彼女はなにかをたしかめるように言った。



 「優しくて、頼りになって、落ち着いた人です」



 「私がこうしてここにいるのは、間違いなくPさんのお陰でもあります」





 「それでも、Pさんが誰かに弱音を吐くところを見たことがありませんでした」



 信号が青に変わる。



 アクセルを踏んで、車を再び走らせる。

 「私、誰かが困っているのがなんとなくわかるんです」



 彼女の声がいつもより柔らかい。気のせいかもしれない。少なくとも声色に大きな変化は捉えられなかった。





 「さっき夢の話をされていたPさんは、困惑しているように見えるんです」



 「それでもたしかに、今までに見たことがないくらい幸せそうにも見えたんです」





 小さな通りを走って、やがて目的地の近くに辿り着いて、路地の端に車を停める。



 ここは彼女のマンションのすぐ近くだった。



 車のライトを落とす。あたりには誰の気配もない。

 母の言葉がリフレインする。





 『信じるべき相手を信じ、歩み寄ること』



 おれは彼女を心から信じることができたと思う。



 それと同じくらい、母のことも信じていたい。



 『人に優しくすること』



 そうあれるように、常日頃から心がけている。





 『大切なことを、他の人と分かち合うこと』



 おれは、分かち合えているだろうか。

 「Pさん」



 灯りの落ちた車内で彼女が囁く。



 「こう言うと、怒られてしまうかもしれないんですけど、私、Pさんが悩んでいる姿を見せてくれたことが嬉しくて仕方がないんです」





 「他ならない私に、頼ってくれたというか、こうして打ち明けてくれたことが、」



 「私をシンデレラに導いてくれた最初のファンのために、恩返しができるような気がして」



 朱が差した顔をこちらに向けて。

 「嬉しいことも、たくさん分かち合いたいです。今までそうしてきたように。だから同じくらい、そうでないことも分かち合いたいんです」



 「困っているあなたの味方になりたいんです」



 意思の籠った声だった。それこそが、彼女の。





 「それが高森藍子というアイドルの、アイドルたる所以です」





 彼女もまた、心の優しい人間だった。



 今になって漸く、涙がこぼれそうになる。

 お互いに疲弊しきっていた。



 暗闇の中で、静寂の中で、たった二人でいた。



 おかしなことに、どうにもそれが心地良くて仕方がなかった。





 「本当に大したことじゃないんだ」



 正面から彼女の視線を受け止める。



 「些細なことだって、藍子はそう思うかもしれない」



 「でも、聞いてほしいんだ」



 それでも、とても、大切なことだった。





 「母さんは、優しい人だった――」



 おれは母さんの話を始める。





20:30│高森藍子 
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