2017年05月19日

杏「てのひらのあめは」

あんきらSSです。冒頭の幼少期の話は想像です。



「はい杏ちゃん、アメあげる!」



「あ、ありがとうきらりちゃん、、おいしいね、これ」





「杏ちゃん、きらりとおともだちになろ!」



「え、杏とお友達になってくれるの......?」



それが、双葉杏ときらりの初めての出会いだった。



小さい頃は内気で友達を作るのが苦手だった杏に対して、きらりはわけ隔てなく仲良くしてくれた。



気が付けば、二人はお互いにとって一番の友達になっていた。



小学校を卒業するころには、すっかり今の杏も明るい性格になっていた。



中学校に上がる前に、きらりは親の転勤の都合で引っ越すことになった。





「あんずちゃん、きらりのことわすれないでね。」



「きらりちゃんは心配性だね、私が忘れるわけないよ」



「きらりね、アイドルになって、杏ちゃんにまた会いに行くから。」





こうして、二人は別々の中学へと進んだ。





中学校に入り始めると、杏は周囲から距離を置かれるようになった。





いじめではない。





杏は、何をするにおいてもちょっとやれば一番になれたのだ。





体は小さいからスポーツとかは限度があるけれど、勉強や芸術においては何でも一番を取れた。





周りの人間が必死になってほしがるものを、涼しい顔でさらっていく彼女がやっかまれるのは時間の問題だった。





「双葉さんは天才だから」



「なんか気味悪いよね」



「ちっこいくせに生意気だよ、」





学校には、居場所がなかった。





親は何も言わなかった。 ただ、やりたいことをやれと。





ーーきらりだったら、なんて言ってくれただろう。





ーー私はただ生きているだけなのに、周りの人は勝手に私から離れていく。





ーー私と一緒に歩いてくれる人は、誰もいない。





ーーこんな私を、誰か助けてくれないかな。





ーーそんな気持ちで私は、祈るように東京へ一人暮らしした。





ーー世の中そんな甘くないよね、自分から歩み寄ることも忘れた私を救ってくれる人なんて、誰もいないと思ってた。





ーーだからプロデューサーには感謝してるよ。あなたのおかげで、私はきらりとまた会えた。







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1490976917



「あんずちゅわ〜ん、ずっと寝転んでばかりだと体によくないにぃ、おそとにいくにぃ☆」



「えー......杏、今日は休みたい〜」



「あんずちゃんときらりちゃん、今日も仲良しだね〜」





お手製のお菓子を頬張りながら、かな子は和んだ顔で見守る。





「二人を見てると、今日も平和だなあって思うね」





クローバーのしおりを作りながら、智絵里もニコニコしながらみている。





「なかよしとかじゃないよ〜あ〜、きらり〜持ち上げるな〜」





「あぁ〜んずちゃあん!!あんまりいうこと聞かないと、きらりぷんぷんだよぉ?」





ワイワイ騒ぐ中、プロデューサーが割り込むように声をかける。





「杏、きらり、いいか」



「ん〜、どうしたのPちゃん?」



「お前たち二人に、新しい仕事が入ってきた。」 





プロデューサーが詳細を説明する。





「にょっわー!? それってつまり、きらりと杏ちゃんがいっしょにおしごとするってことだにぃ?」



「そうだ、二人でユニットを組んでライブをやってもらう。」





ーーきらりとお仕事。しかも、初めてのユニットだ。





「やっとぁーー!!Pちゃん、ありがと!!」



「きらりちゃん、よかったね!」



「杏ちゃんきらりちゃん、がんばってね!」





一緒にいた智絵里とかなこもうれしそうにしている。その様子を、杏は飴をなめながらソファーに寝っ転がって眺めている。





ーーきらりと二人でライブ。





ーーしょうがないなあ。たまには私も、頑張ってみるか。





ーーぶっちゃけ、アイドルのお仕事も、ちょっと頑張ればみんな喜んでくれるから、私は本気の本気でやったことはないのかもしれない。





ーーだけど、きらりだけは特別なんだ。きらりのためなら、私はいくらでも頑張れる。





ーーきらりは、わたしにとっての恩人だから。









こうして、彼女たちあんきらの活動が始まった。きらりは、今日も杏の家で衣装を作っている。





「あんずちゃんとユニットが組めてうれしいにぃ、きらり、がんばるよぉーー」





ーーきらりは今日も元気そうだ。もちろん私も、やる気がないわけではないけれど。





ーーきらりがミシンと格闘する姿を見ながら、私は手に取った飴をなめる。





ーー私が飴を好むのは、はじめてきらりと合った時を思い出すからなんだろう。





ーーいつも一人で心細かったわたしを、助けてくれたきらり。





「……きらりはさ」





ーー待ってるのも退屈なので、杏はきらりに聞いてみる。





「んー? どうしたのぉ?」







「どうして、きらりはいつも杏と一緒にいるの?」







我ながら、何が聞きたいのか的を得ていない質問だ。





「......それはねぇ、杏ちゃんが、変わらないでいてくれたからだよ」





少し間をおいて、きらりは話し始める。





中学に入ってから、きらりの生活は一転したこと。





中学生にしては規格外の大きな体はすぐに好奇の目にさらされたこと。





個性を受け入れてくれていた優しい土地が、大親友の杏が恋しかったこと。





高校生になってもそんなのは続き、気が付いたら、ピエロを演じることでしか自分を守る術を持てなかったこと。





ーーそんなとき、久しぶりに再会した杏ちゃんはきらりのことを覚えてくれた。





ーーそれだけじゃない、きらりの心を分かってくれていた。





ーー見た目だけじゃなくて、変わらずに私を見てくれた。







「だから、きらりは杏ちゃんのことが大好きなんだよぉ、でも、どうしてそんな質問をしたにぃ? もしかして、きらりといっしょにいるの、いやかにぃ......?」





ーーああもう。そんな顔するなよ。体は大きいくせに、繊細だなあ。





「......嫌だったら、杏はとっくにきらりを避けてるよ。」





素直に否定するのが照れかったのか、杏は目をそらしながら言った。





きらりはとてもうれしそうな顔をして、作業に戻った。





ーー周りに何も求めないから孤独になった私と、周りから求められようとして頑張って、それでも孤独になったきらり。





ーー私たちは、反対だからこそ、引かれあったのかもしれない。





あんきらの初ライブへの準備は順調に進んでいき、いよいよ前日となった。





「明日が本番だ、ゆっくり休んで本番に備えてくれ」





「あんずちゅわん、あしたはがんばるにぃ☆」





「おっけー」







ーー明日は私の本気を出して、きらりとのステージを成功させるんだ。





その日の夜は、柄にもなく少し胸が高鳴っていた。









ーー当日、本気を出した杏のステージは、今までにないくらい歓声と成功を収めた。







そして、この日のライブをきっかけに、杏はさらに人気を上げた。





事務所にいる時間はめっきり減り、一日の終わりに事務所に戻るくらいしか顔を出さなくなった。





「ただいまー、あー疲れた。」





「杏ちゃん、おかえりぃ☆」





毎日のように疲れた顔をして事務所に戻ると、いつもきらりが杏の帰りを待っていた。





「うん、ただいま、一緒に帰ろうか」





杏は察し始めた。自分がライブで本気を出したことで、きらりの存在感がかすんでしまったこと。





そしてあんきらという二人組である以上、どうしても優劣が付いてしまうこと。





きらりは仕事が減ってきていた。





私にはそれが歯がゆかった。





きらりのほうが、私なんかよりもっともっとアイドルへの熱意があるはずなのに。





またあの時と同じように、自分の何気ない行動が、今度は大切な人の頑張りと心を踏みにじるのがつらくて、ぬいぐるみを抱く力を強めた。









「杏ちゃん、今日も良かったねー、この調子で、明日も頼むよ」



「ありがとうございますー、がんばります」



いつもの調子で杏は返事をする。今日も今日とて収録だった。どうやら、この作品の監督に気に入られたらしい。



「ところで......杏ちゃんって相方いたよね、あの、でかい女の子」



「......はい、いますよ」





ーーなんかいやだなあ、そういう言い方。





まあいつものことだろうと聞き流す杏に、監督は無神経な言葉を投げる。



「彼女、最近見ないけどどう? 正直色物すぎるから、アイドルとしては寿命は短いと思うけど......でも杏ちゃんの相方だし、今度出してあげようと思うんだけど、どうかな」





ーーなんだと。





後半は聞こえていなかった。監督から見えないその右手は、血管が浮かぶほど強く握りこまれていた。





ーーお前に何がわかるんだ。きらりがどれほどひたむきに、どれほど悩みながらアイドルをやってきたと思ってるんだ。





「.....きらりと相談してみますね、スケジュールのかみ合いもあると思いますし」





それを言うので精いっぱいだった。





一番きらりをそうさせているのは自分なのに、怒る権利などあるのだろうか。



どこに向ければいいのかわからない悔しさを、歯を食いしばって耐えることしかできなかった。



普段からなめてる飴も、その日は味がわからなくて、途中でかみ砕いて飲み込んでしまった。





ーーこんな風にこの怒りも、すんなり飲み込めればいいのに。







ーー私は、きらりが大切だ。





ーー小さい頃独りぼっちだった私を助けてくれた。





ーーいつか恩返ししようと、きらりのためなら頑張ろうと、ずっと思ってた。





ーーけれど、いざ本気で頑張ってみたら、大切なきらりを傷つけるだけだった。





ーーもうこんなのは嫌だ。





ーー今度こそ私が、きらりにちゃんと恩返しをするんだ。







杏は、以前よりさらに仕事を増やした。





「プロデューサー、杏はいくらでも働く、どんな仕事でもやる。だから、きらりにもチャンスをあげて。共演でも何でもいいから」





「きらりは杏なんかよりもずっとずっとアイドルにあこがれてきたの。お願い」





百年に一度くらいしか見れないほど珍しい杏の真剣な顔での願いが通じたのか、プロデューサーは了解してくれた。





杏はほぼ休みなく働いている。ぐうたらニートだったころの彼女が今の自分の姿を見たら驚きで気を失うんじゃないかというほどに。





そして、きらりの仕事もだんだん増えていった。杏ほどではないが、暇な日が確実に少なくなってた。











そんな時、杏は過労で倒れてしまった。





ーーいろんな人が心配してくれた。





ーーきらりは仕事をほっぽって病院に来たらしい。





ーーやれやれ、そんなんじゃまたお仕事減らされちゃうかもしれないよ。





ーー私が誰のために頑張ってるかもしらないで。





けれど、そんな杏の内心はつゆ知らず、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら自分に抱きつくきらりを見ると、杏はそんなことは言えなかった。





杏は、しばらくの療養を言い渡された。









ーーまた、きらりに迷惑をかけちゃったな。





女子高生一人が持つにはあまりにも大きい部屋で座り込みながら、杏は物思いにふける。





ーーきらりのために頑張ってたのに、結局倒れて迷惑をかけちゃった。





ーーけれど、今のきらりは順調に波に乗ってきてる。





ーーもうこれ以上、私は何かしないほうが良いんじゃないか。





飴玉を取ろうとする。





ーーだとしたらもう、私にできることは一つしかない。





しかし、袋にはもう飴はなかった。





行き先をなくした右手をポケットに入れ、携帯を無造作に取り出す。





ーーいままでありがとね、きらり







「......もしもし、杏です。うん、そろそろ戻ろうかな、って」





ーーー数年後ーー







「にょっわ〜!!きらりんパワーで、今日も元気にいくにぃ!」





ーーテレビの向こうで、大切な人は今日も輝いている。





コーヒー牛乳を飲みながら、杏はテレビを眺める。





ーー私は、今親の元で仕事の手伝いをしている。ゆくゆくは、社長の座を継ぐんじゃないかな。





ーー事務所のみんなには何も言わずに去った。今思い返しても、薄情な別れ方だと思ってる。





ーーけれどきらりをこれ以上、私のせいで不幸にしたくなかったんだ。





ーーもっとうまくやる方法はあったのかもしれない。





ーーけれど、私はみんなが思っているほど器用じゃないんだ。





ーー周りを遠ざけることでしか、人を不幸にしない方法がわからない不器用な人間だ。





ーー結果として、きらりがアイドルとして輝いているし、これ以上のことは私にとってない。





ーーそしてもう二度と、きらりと会えることはないだろう。





ーー会えばまた心配させてしまうし、今までのことを考えれば、私のような人間はきらりのそばにいるべきではなかったのかもしれない。だから、これでいいんだ。



今日はやけに自分への言い訳が多いな、とひとりごちて杏は郵便物を取り、水にぬれる街を眺めながら、一つ一つ郵便物を確認する。





その中に一つ、手紙などとは明らかに違う、硬い物体の感触があった。





飴玉だ。





心臓が高鳴る。この飴玉の味、袋は忘れるわけがない。きらりと初めて会ったときにもらった飴玉だ。





よくみると、飴玉には小さな便せんがついてた。





さっきまで潤っていたはずののどがやたら乾く。緊張しているのか。





緊張をごまかすために、飴玉を口にした。今となってはもう会えない、大切な人の思い出の味。甘党の杏には、絶妙な甘さのイチゴ味。





気持ちを少し整えながら便箋を開く。





そこには





「必ずトップアイドルになって、会いに行くから」





と書いてあった。





誰からの手紙かなんて、考えるまでもなかった。





甘いはずの飴の味が、どんどんしょっぱくなっていく。





さっきまでの大雨が嘘かのように、外の天気が晴れる。





それと入れ替わるかのように、彼女の机には、大粒の雨が降り注いだ。









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