2014年06月06日

芳乃「おやーこれは封印しなければなりませんねー」こずえ「えぇ〜」


卯月「は、はい? 芳乃ちゃんなんて言ったの?」



芳乃「この子はー妖しき力を持っていましてー、国を安んずるためには、抑え込んだ方がよろしいかとー」





こずえ「ちからー…こずえのなかにあるけどー……でも、ふーいんってなぁにー」



芳乃「無垢たればこそーしっかりとー、ご利益を配られる神様になるようにー、祀り上げてさしあげますー」



こずえ「こずえ、かみさまになるのー?」



芳乃「そうですともー」



芳乃「ではー方位を調べてー、気脈と合致させましょうー」ヒョイ



こずえ「わぁ…だっこー?」



芳乃「六壬ではー、ふぅむ、ここですねー」



こずえ「ここですかー」



芳乃「一社作りにしますがーさびしくないようにいたしますのでー。さてでは、囲うといたしましょうかー。紙垂と注連縄も要りますねー」





卯月「…………」



卯月(どうしよう! なんかすごいことしてるっぽいけど口が出せない……!)





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卯月「あ、あの、芳乃ちゃん? こずえちゃんを閉じ込めちゃうみたいに聞こえるんだけど……」



芳乃「そうですよー、神域と区切りますのでー」



こずえ「こずえ、さびしいのはー…いやー…」



芳乃「ご心配なくー。いずれお札を出せば、そこにお力を込めて外界と接することはできますのでー」



こずえ「そうなのー? じゃあ、よろしくねー」



卯月「か、軽い…! あの、あのあの、封印ってなんでそんなことを」



芳乃「ですからー、世を平らげるためにはー、妖しき力を災いにしないためにー祀り上げて神様にする必要があるわけでしてー」



こずえ「こずえ…あやしーぃ?」



芳乃「そうですねー、あなたもみんなに笑顔でいてほしいでしょうー?」



こずえ「うんー、こずえそのためにいるんだよー」



芳乃「そうですかー、では調伏も滞りなく進みそうですねー」





卯月「……どうしよ、止められない……! なんかほのぼのしてるし……! だ、誰か」



歌鈴「おはようございま……うわぁ…っ!! な、なにをやっているんですかぁ? こんなに気を引っぱるようなものを置いて!」



卯月「あっ、歌鈴ちゃん! 良かったぁ! 芳乃ちゃんがこずえちゃんを封印するとか言ってるの! 私じゃなにも言えなくて……っ、お願い! 巫女の立場から止めてあげて!」



歌鈴「わ、わわ、わたしがですかぁ!?」



卯月「お願い、このままじゃこずえちゃんが……」



歌鈴「えええっ! とはいってもぉ! わ、わたしじゃあ……」





芳乃「ではー、この台に乗って下さいますかー。直接ではなくー和紙の上にどうぞー」



こずえ「はぁ〜い」



芳乃「では囲う前にー、レイラインのレイアウトを点検しますー」



こずえ「わぁー、なんかまわりがとおーくかんじるー…」





卯月「ほらぁ、ちゃくちゃくと封印が進んでるよぉ!」



歌鈴「わ、わかりましたあ! お、お待ちくださぁい!!」ダダッ!!



芳乃「おおー、神職の方がおられましたかー、巫女は誰でもなれますけれど心強く感じますー」



歌鈴「えっ?」



芳乃「これからいくつかの儀式を奉じなければならないのですがー、祝詞を朗誦したことはございますかー」



歌鈴「あ、はい。一度だけですが……」



芳乃「そうですかー、では私が祝詞を書くのでー手伝っていただけますかー」



歌鈴「え、え、え?」



芳乃「では、さっそく取り掛かりましょうかー」



歌鈴「え、あっ、はい!」





卯月「歌鈴ちゃん……」





数時間後、どこから材料を持ってきたのか、事務所の一角に小さな社が完成しました。



その本殿には清潔な和紙が敷かれ、こずえちゃんはそこにぺたっと座り込んでいます。



注連縄が架かり、紙垂がそこに吊るされています。



社の周りには――こずえちゃんを『見張る』ためと言っていましたが――鏡と、柱が飾られていました。



私、島村卯月は普通の女子高生アイドルですが、わかります。



……この一角は空気が違います。







歌鈴「注連縄の向き、出雲大社と同じですね」



芳乃「それはー、入来を防ぐのではなくー、出て行くのを防ぐ必要があったのでー。禁足の処置をしましたー。厳密にやれば紙垂は必要ないのでしょうがー」



歌鈴「なるほど……べ、勉強になりますっ!!」



芳乃「私の方が年下ですよー、どうぞお気を楽にしてくださいー。あ、お風呂に入ってきましょうかー」



歌鈴「ええっ、お風呂、ですかぁ?」



芳乃「儀式がまだ残っているのでー身を清めるのですー」



こずえ「もうすぐでおわるのー…?」



芳乃「ええ。もうすぐ皆に力を与える神様になりますよー」







こずえ「わぁーい…やったー……えへへー、みんなみんな、こずえのものー…」



芳乃「ええ、その思いもー、しっかりと加護に変換しますのでー」





卯月「……待ってよ」





卯月「封印とか神様とか私全然わからないけど……こずえちゃんがなんかかわいそうだよ」



芳乃「……そう見られますかー…」



卯月「こずえちゃんも喜んでいるみたいだけど、きっとなにもよくわかってないんだよ。閉じ込めちゃうのかわいそうだよ」



芳乃「ですがー、このままではいずれ国を脅かすことになるのでー、私としても辛いのですがー」



こずえ「こずえ、みんなのわらったかおが…みたいー……」



芳乃「本人もそういっておりますので……その力をせめて皆様に還元できるよう、しっかりと封印してお祀りするつもりですー」



卯月(……話がかみ合わないよー!)



卯月「還元って、そんなのおかしくないかなぁ……? 神様の力を利用しているっていうか……」



芳乃「利用……御利益というのは、そのような側面も確かに持っていますねー」



卯月「へっ?」



芳乃「縁結びしかり、健康祈願しかり、国土安穏しかりー……祀られた神様の御利益は、その神様の在り方に由来するのですー」



芳乃「讒訴され、大宰府で没した菅原道真様は雷神として恐れられ、天神様として祀られましたー。天神様を祀る天満宮が合格祈願の御利益を持っているのも、道真様が学問を究めたいと思っていたから故ですー」



芳乃「磐長姫命様もそうですー。瓊々杵尊様にフられたこの神様は、失恋したゆえに『縁結び』の願いを受けるのですー」



歌鈴「へぇえ〜、そうなんですか!」





芳乃「ともすれば世の中を乱すような力を、祈って鎮めて良い力にして、分けてもらうのですよー」



こずえ「ちから…わけられる?」



芳乃「はいー、社の中でゆっくりお休みいただければー」



こずみ「わぁーい…」



芳乃「みなさまをトップアイドルに導く大願成就の御利益ですよー」



卯月「……ああ……あぁ……」



卯月(どうすればいいんだろ……)



卯月「私の方が、間違ってるのかなぁ……」





芳乃「それでは、お風呂に参るといたしましょうー」



歌鈴「はい」



お風呂に、二人は行ってしまいました。



社にはうとうとと眠そうなこずえちゃん。





卯月「ねえ、こずえちゃん……」



こずえ「ん……なぁにー……?」



卯月「やめよ。危ない力を持っているそうだけど、そんなの関係無いよ……アイドルやりたくないの?」



こずえ「こずえはねー…みんながわらってれば、こころがぽかぽかして……それであったかくなるのー」



こずえ「あったかくなったら…そのままおやすみするのが……しあわせー」



卯月「みんなこずえちゃんがいなくなったら寂しがるよ? こずえちゃんのプロデューサーさんだって……」



こずえ「こずえはねー…どこにもいかないの」



卯月「え?」



こずえ「おほしさまのきらきらがなくならないみたいに、ずっとずっとみんなのそばにいるのー…」



卯月「……っ!」



こずえ「そうしたらー……ずーっと、ゆめのなかでも、みんなを、わたしのものにできるのー」



こずえ「わたしはどこにでもいてー、みんなをすっぽりつつむのー…」



卯月(ああ、この子は分かっているんだ――私なんかよりもずっと、この世界のことを)



卯月(その上でこうした方がいい……って……)





こずえ「あぁ…なかないで…?」



卯月「う、ううっ……」ポロポロ



卯月「ごめん、ごめん……私の方が、耐えられないんだ……もう、こずえちゃんは決めているのに……だめだね……っ私……!」



こずえ「なきやんで……なきやめー」



卯月「ぐすっ……ごめんね…」



こずえ「なみだどっかいっちゃえー、なかないで…なくなこらー……」





卯月「うん……ねえ、こずえちゃん。みんなに、せめてバイバイしてからいこうよ」





こずえ「ばいばい……?」









〜遊佐こずえにお別れを言う会〜





芳乃「なんでしょうかーこれはー?」



卯月「これくらいやってあげてもいいでしょう? こずえちゃんだって寂しいはずなんだから……」



芳乃「そうですねー、鎮めるための儀式の前に、やっておくといいでしょうー」



卯月「ありがとう、さあみんな……!」



芳乃(……あの垂れ幕でいいのでしょうかー)





千枝「ううっ…、なにがどうなっているのかわかりませんけれど……離れ離れは寂しいよぉ」



こずえ「ちえ…こずえはどこにもいかないよー…?」



みりあ「ひっく、くすんくすん……っ、私絶対、こずえちゃんのこと忘れないからっ!!」



こずえ「ありがとー…」



マキノ「不合理ね。こんな年端もいかない少女にそんな力があるなんて……、それを封印しなきゃいけないなんてね。リスクは確かに回避すべきものだけれど、こんなやり方なんて…」



こずえ「しんぱい…してくれるの…? ありがとー…でもだいじょうぶ、だからー……」



マキノ「――っ!」



マキノ「バカね! 私の心情に気を配ることないの! こんな時は泣きわめいてもいいのよ……!」ギュウ



こずえ「わぁ、あったかーい……」



飛鳥「神か……信じる人にとっては必要な拠り所なのだろうね」



由愛「泣いちゃ……ダメだよね…こずえちゃんが…安心できなくなっちゃいますから……見守ってくれるんだから……っ」





卯月(クラリスさんは……いないか。止めてくれそうで……ちょっと期待してたのに)





千鶴「あの〜……拝詞、祝詞の清書仕上がりました」



歌鈴「わぁ……上手い!」



芳乃「これは達筆ですねー、魂が込められておりますー」



千鶴「え、えへへ……ちょっと恥ずかしいです……」



卯月(儀式に使うっていう言葉か。掛……畏……拝、奉、恐、恐……漢字ばっかり……)



こずえ「あ、もうじかん…?」



卯月(こずえちゃんの話し方とギャップがあるなぁ)





芳乃「それではみなさん、よろしいでしょうかー」



みりあ「うっ、うっ……お別れするのやだ……!」



歌鈴「みりあちゃん……」



こずえ「あのねー…きいてー」



みりあ「っ……?」



こずえ「こずえがねー、こずえをこずえにしているものをねー…みんなにあげるのー……だから…おわかれじゃないのー……」



みりあ「なに、それー……!」



こずえ「みんながーこずえのことかんがえてるときー……こずえもみんなのことをかんがえているのー…そうやってぐるぐるぐるぐるってねー……おもったことはまわっていくのー…」



みりあ「なに言ってるのー……わかんない……」



卯月「――みりあちゃん。いずれわかる時が来ると思う。私も、あなたも……ちょっとずつわかってくるよ、このこと」





芳乃「皆さま、よろしいでしょうかー?」



みりあ「くすん……」



マキノ「ええ……」



千枝「お祈り、毎日するからね……!」



芳乃「では社にお越しくださいー」ヒョイ



こずえ「どなどなー……」





芳乃さんは優しく社の中の和紙の上に、こずえちゃんを座らせました。





芳乃「ねんねんころりよー」



こずえ「ふわぁ…こずえ…おやすみ、していーの…?」



芳乃「ええ、心を静謐に保ち、お休みくださいますようにー」



歌鈴「眠らせるんですね…」





1分後。

こずえちゃんから寝息が聞こえてきました。





部屋は暗くされ、ロウソクが点けられました。



芳乃ちゃんは大幣を持ち、社の周りを何回か歩いて回ると、何事かを呟き始め、それが終わると深く頭を垂れました。



そして、ゆっくりと祓言葉が書かれた紙を持ちあげ、厳かな声でそれを読み上げ始めます。





芳乃「掛けまくも畏き――――――諸の禍事 罪 穢有らむをば祓へ給ひ清め給へと白す事を――――」





卯月(なんだろ……背中がぞくりとする……)



飛鳥「なんだか、空気が震えていないかい」ボソ





飛鳥ちゃんがそう小さく呟いた、その時でした。



社で眠るこずえちゃんの体がびくん、と跳ねて――





ぱっぎぃんっ!!





と電灯が明滅し、弾け飛びました。





千枝「きゃあああっ!!」





歌鈴「お、おおお、落ち着いてくださいっ!! だっ大丈夫ですのでぇぇ!! 抑え込んでくれるのでぇぇ!!」



マキノ「あなたが落ち着きなさい!」



千鶴「はわわ……!」





ばきん!! ぱりぃぃん!!





空気が妖しく慄いて、時計やテレビから火花が散ります。





由愛「ひゃああ……!!! た、助けて!」



歌鈴「大丈夫です大丈夫です!!」



飛鳥「ボクは基本、唯物思考なんで……この状況はいささか焦るんだがね……!」





ごうっと、どこからか風が。室内なのに。





千枝「空気が……怖い……っ! ううぅっ、体の中が寒いよぉ!」



卯月(これ……なに!? 膝が震えちゃう……っ!! こんなすごいものが、こずえちゃんの中に……!?)





芳乃「――――高き尊き神教のまにまに 直き正しき眞心もちて 誠の道に違ふことなく 負ひ持つ業に勵ましめ給ひ――――」





混迷する状況で芳乃さんだけが動じず、厳かに、ゆっくりと言葉を紡いでいました。





卯月「みんな、祈りましょう!!」



マキノ「え?」



卯月「こずえちゃんに優しい眠りがあるよう、お祈りしようっ!」



歌鈴「……そ、そうですっ!! みなさん落ち着いて、祈ってくださぁい!」





みりあ「わたし、祈るっ!」



千枝「ち、千枝も……!」



由愛「お、おやすみなさい……良い夢を……っ!」





こんな時、驚きですが、子どもの方が迷いなく動きます。





私も、手を合わせて祈ります。







卯月(休んで、こずえちゃん……! こずえちゃんのこと祈るから……それで私たちのことを思いだして……!)



飛鳥「やれやれ……!」



千鶴「お、お祈りします!」



マキノ「安らかに……!!」





ゴオオオオオッ!!!





猛烈な風。







バンバンバンバァン!!





弾けていく電灯。







ズオオオオッ――





と、無音で空気が軋む音。







芳乃「――――!」





明瞭に響く、芳乃ちゃんの声。









高まった状況は一気に収束して――やがて静寂が訪れました。







歌鈴「…………」





卯月「…………」





芳乃「…………」





歌鈴「お、終わったんですか?」





芳乃「――はい」





こずえ「…………」





卯月(あ、寝息がかすかに聞こえる……)





芳乃ちゃんは歩いて、社の戸を閉めました。



大幣を振り、最後に礼をして――私たちに向かい合います。





芳乃「少し荒ぶられましたが……静かな眠りが、もたらされましたよー」



飛鳥「これで、終わり……」



由愛「うぅぅ、こずえちゃぁん……これで……よかったんだよね」



卯月「封印が、終了したんだね――」







マキノ「ロウソクも風で消えちゃって……電灯も割れて。真っ暗ね。ちひろさんに言っておかないと」



飛鳥「中々、刺激的な体験だったよ……」



卯月「あ、見て!」



千枝「え?」





真っ暗な事務所。窓を明かりを求めて見た時、私はそれに気付きました。





千鶴「光が幾筋も――あれは」



卯月「流れ星だよ! それもあんなにいっぱい!」



飛鳥「これは、すごいね……! こんなのは初めてお目に掛かる」



由愛「いっぱいいっぱい降り注いで――――きれい」



みりあ「う、うわぁぁぁんっ!!」



マキノ「どうしたの?」



みりあ「だって、あの流れ星……こずえちゃんからの贈り物だと思ったら……!!」



千枝「みりあちゃん……!」





芳乃「これからも、あの力はみなさんを守ってくれますよー」



芳乃「ですからー、みなさんも感謝の気持ちを持つようにしていただければー」



卯月「うんっ! わかってる……!!」









…………こずえちゃん、さようなら。おやすみなさい。









――



――――



――――――



数日後







未央「ねえ、しぶりん、ロケに行く前に『こずえ様』参りしとこうよっ!」



凛「いいね。……でも今回は、杖とか買っていかないでよね」



未央「か、買わないよ! 『こずえ様』の御利益があるっていうから買ってみただけ!」







ちひろ「『こずえ様』参りの方はこちらへどうぞー!! 大願成就にダイエットの御利益、宇宙パワーと魔法のチカラが入ったお札も取りそろえております!」  



桃花「どうか次の総選挙はより良き順位になるようお願いいたしますわ」



千佳「流れ星を自在に降らせる魔法を使えるようになりますように……!」







モバP「頼むこずえ様……! 俺に、強運……いや、平運でいい……40K出せば普通に引き当てられる運をくれー!!」











卯月「…………なんですかこれ」





卯月(撮影があって数日ぶりに事務所に顔を出したら、あの社に人だかりができてる……!)



歌鈴「あ、卯月ちゃんおはよう」



卯月「歌鈴ちゃん! この状況は何!?」



歌鈴「ひぇえ!? な、何って……みなさん、こずえ様のチカラにあやかりに来ているのでは……?」



卯月「あ、あやかりに?」





芳乃「そうですともー。みながお祈りに参られ、祈りをささげることで、御霊は安んじ、その御利益を授けるのですー」



卯月「あ、芳乃ちゃん……でも、なんかこの状況……こずえちゃんのために祈ってる人がいないような……」



芳乃「人は得てして、己の都合で信心を揺らすものですからー」



卯月「そうかもしれないけど……それじゃあ、封印されてるこずえちゃんが不憫だよ……あんな小さい時に祀られちゃったのに……」



芳乃「はてー?」



卯月「えっ? な、なにかな反応は?」



歌鈴「卯月ちゃん……あのね」









こずえ「おはよう卯月」









歌鈴「こずえちゃんはそこにいるよ」



卯月「」



卯月「え?」



卯月「ちょっと待って下さいね……え?」



卯月「え? え? え?」



卯月「あれぇええええええっー――――!!?」





マキノ「私のケースより取り乱しているわね」



飛鳥「世間一般の女子高生の感性からすれば、あのレベルの反応が自然なんだと思うよ」





卯月「ふ、封印されたんじゃなかったの!? な、なんで出てるの? こずえ様こずえ様ってみんなお参りしてるのに?」



芳乃「わたくしが封印したのはですねー、あの方に宿っていた霊格であり、荒ぶる力そのものでしてー、決して幼子を幽閉しようとしたわけではないのですよー」



卯月「へっ?」



歌鈴「あはは、私も最初は勘違いしてたんだけど……卯月ちゃんはずっとだったみたいだね」



マキノ「力そのものとも言える霊的存在が、あの社に縫いとめられるまで一昼夜の時間が必要……そのためにこずえさんは社で眠らされた……そういう論理よ」



歌鈴「社に祀られている御霊は『こずえ様』とみんな呼んでいるんです。神号もあるんですけどね」



卯月「そ、そんなぁ〜すっごく心配したのに〜……」



こずえ「こずえがここにいちゃ、いや?」



卯月「そ、そんなわけないよ!! すっごくうれしいよー!」



こずえ「ありがとう」





卯月「でも、なんか……口調が変わってない?」



こずえ「こずえねー、お昼寝好きだったんだけど、『こずえ様』と分かれてから眠くなくなっちゃったのー」









芳乃「人の身に戻ったということですよー」



こずえ「人の身? 前よりも頭の中がすっきりしてる感じだけどー、これが普通なのー?」



マキノ(セリフに漢字が出てきている……脳のタスクが空いて思考力が上がったのかしら?)



芳乃「それで確認いたしますがー、『こずえ様』のお世話はー」



こずえ「こずえもやるんだよねー、覚えてるー」



芳乃「『こずえ様』はあなたがお世話すると一番喜ぶのですよー。忘れないでいてくださいねー」



こずえ「わかってるー。じゃあ、千枝たちに呼ばれてるからー」









卯月「なんかちょっと変わっちゃいましたね。口調だけじゃなく、オーラも……」



飛鳥「彼女に取って『こずえ様』は、加護でもあり枷でもあった……といったところかな」









その後、私たちの事務所は破竹の勢いで成長していきました。



出る番組は必ず高視聴率を叩きだし、ライブも成功し、CDの売り上げもどんどん伸びていきました。



そして、みんなは口々にこう言います。



『こずえ様』のおかげだ、と。





御利益は、確かにありました。







もちろん、こずえちゃん自身も皆と同じぐらい活躍しています。



でも、それは……どこか、今までの彼女とは違う活躍のしかたでした。







不思議な言動。間延びした口調。





ふわりとした不思議な雰囲気、宇宙的でさえあった瞳の輝き。





その魅力はなりを潜め、頭の回転の速さ、フレッシュな笑顔……そんなものがセールスポイントになっていました。







卯月(私はそれを――特別な何かを持っているわけじゃないからそう思うのかもしれないけれど――もったいない、と思っちゃいます)



卯月(他の誰にもない魅力を、こずえちゃんは備えていたはずなのに)







卯月「…………」



こずえ「あっ卯月、お参りにきたの?」



卯月「うん……」



こずえ「そっか」



卯月「この社の中には、『こずえ様』がいるんだよね。こずえちゃんが持ってたっていうとてつもない力……」



こずえ「そうだよー」



卯月「ねえ、戻りたいとか思わない?」



こずえ「戻りたいって……?」



卯月「ほら、あの頃の、力と分離する前のこずえちゃんに」



こずえ「ああー、どうかなー。最初はプロデューサーさんもびっくりしてたからね。『ぷろでゅーさーとひらがなで呼んでくれよぉぉ!!』って」



卯月「そこ!?」



こずえ「『キャラ崩壊』とか、『この路線変更誰得だよ』とも言われたし、ね」



卯月「そ、そういうのはショックじゃなかった?」



こずえ「ショックは受けたよー。頭良くなって、色々なことに気付くことができて、一人で着替えられるようになって、なんかパワーアップしてたつもりだったからー」



卯月「そうなんだ……」



こずえ「――でも気にしなーい。今の私を好きでいてくれるファンもいるしー」



こずえ「…………あの時のこずえがいなくなったわけでもないしー」



卯月「えっ?」





こずえ「この『こずえ様』にお参りするとねー、すごく懐かしい気分になる時があるんだー。それでこう思うの」



こずえ「こずえは変わったけど、変わってないこずえもいるって」





卯月「あっ……」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



こずえ「こずえはねー…どこにもいかないの」



卯月「え?」



こずえ「おほしさまのきらきらがなくならないみたいに、ずっとずっとみんなのそばにいるのー…」



卯月「……っ!」



こずえ「そうしたらー……ずーっと、ゆめのなかでも、みんなを、わたしのものにできるのー」



こずえ「わたしはどこにでもいてー、みんなをすっぽりつつむのー…」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





卯月(あの時の言葉……本当に)



こずえ「こずえはここにいるの。でも昔のこずえも、まわりにいて……どこにでもいるの」



卯月「うん……そうだね……」



こずえ「だから――私は前に進めるの。全部捨ててないって思えるからー」





卯月「ねえ、それでもちょっぴりさびしくない?」



こずえ「さびしいときはあるよー」



卯月「そっか……じゃあ、そのさびしさがもし我慢できないくらいふくれあがっちゃったら、『こずえ様』にお願いしたらいいと思うよ」



こずえ「お願い?」



卯月「うん……もう一度、あの頃の自分に戻れますようにって」



こずえ「それ……叶うかなー? 『こずえ様』がこずえの中に戻っちゃうと、社が空っぽになっちゃうお願いだしー」



卯月「叶うよ」





卯月「『こずえ様』は――アイドルのお願いを叶える、『大願成就』の御利益があるんだから」





こずえ「……なるほどー」



卯月「えへへ。それでまたなにか問題が起きそうなら、芳乃ちゃんに頼も?」



こずえ「……うん、わかったのー…」



卯月「あはは! じゃあ帰ろうか!」









――



――――





芳乃「時が移ろうにつれ、神の在り方も微妙に変わっていくものですー」



芳乃「ただ、神様が神様となるのは、そこに人の願いがあるからなのですよー」



芳乃「『国を奪ってごめんなさい、恨まないでいただきたい』、『ご先祖様、安らかに』」



芳乃「いつも感謝の心を忘れずにー、労わり、敬意を払い、みな幸せになりましょうー」











蘭子「そなたが現世に降りし神の移し身か!?(こんにちは、あなたが芳乃さんですねっ!)」



芳乃「なんとも言霊が乱れてー、はいー、わたくしが依田は芳乃でありましてー」



蘭子「我が深淵、蟠る闇を測れるかっ!?(わ、私にも不思議な力とかないですか)」



芳乃「…………」



蘭子「……むむ」



芳乃「はいーありますよー」



蘭子「その言葉に魂を賭けるかっ!?(本当ですか! やった!)」



芳乃「みなを笑顔にする素敵な力ですー。それだけですが、それだけあれば十全でありますからしてー」



蘭子「な、なぬぅ!? (ええー! そんなっ!)」



















08:30│モバマス 
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