2013年11月05日

モバP「反応データ収集ねぇ…」

遅筆ゆえごゆるりと。
描写を少々加えております。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372022699


秋葉「ロボに感情を組み込みたいから協力してくれ」

P「おっけー。断ってもどうせ何かを人質に取られて無理矢理協力させられるに決まってる」

秋葉「聞きわけがいいな。交渉用の、Pのパソコンから出てきた由愛のパンチラ写真が無駄になってしまった」

P「はははマジやめろよお前そういうの」

秋葉「はははこっちの台詞だ。担当アイドルを超ローアングル撮影とか正気の沙汰ではない」

http://i.imgur.com/420de0B.jpg?1
池袋秋葉(14歳。超科学の申し子。SFかファンタジーかというスペック)

http://i.imgur.com/pS3OqGZ.jpg?1
成宮由愛(13歳。ママに勝手に応募された子。水彩画が得意)

秋葉「で、だ。大抵の日常的なデータはアイドルたちから採ることが出来たんだが」

秋葉「あまり日常では起こり得ない部分のデータが欲しくてな」

P「日常で起こらないなら反応をプログラムしておく意味無いだろ」

秋葉「お、口答えするのか。パンチラ写真が火を噴くぞ」

P「由愛ちゃんを怪獣みたいに言うな!」

秋葉「比喩だ。それで、まずコンピューターが欲しい反応を提示する」

P「ふむふむ」

秋葉「そして既に取り込み済みのアイドルたちの情報から、そのデータを採取するのに最適な人物がはじき出される」

P「ふむふむ」

秋葉「あとはPが、頑張るだけだ」

P「マジか」

秋葉「これを耳につけておけ。超科学の産物だ。心の声が聞こえる」

コードの無いイヤホンのような物を手渡される。

超科学ってすごい。

耳に装着。

耳が塞がってしまったが、周りの音が聞こえにくくなる、というようなことはないみたいだ。

秋葉「あとは表面上の反応と内面の反応をメモしてきてくれればそれでいい」

P「そこだけアナログだな」

P「…」

秋葉「何を見ている」

P「…」

秋葉「私の心は聞こえないように設定してある」

P「なーんだ」

秋葉「では早速、コンピューターが欲する最初の反応は、『声を掛けるたびに舌打ちが返ってきた時の反応』だそうだ」

P「いやに具体的」

秋葉「これを採取するために最適なアイドルは…出た、『成宮由愛』だ」

P「お前は由愛ちゃんに何か恨みでもあるのか。やだよ、そんなことしたら由愛ちゃんが可哀想だ」

秋葉「このパンチラ写真をまず早苗さんに見せてみようと思う」

http://i.imgur.com/BiNCjIG.jpg?1
片桐早苗(28歳。警官アイドル。悪を滅するモバマスの破壊的な良心)

P「ごめんね由愛ちゃん俺も命が大事だから」

秋葉「頑張ってきてくれ」
由愛(Pさんいるかな。営業とか行っちゃったかな)

由愛(いるといいなー)

カチャッ

由愛「おはようございます」

P「…」

由愛(Pさんいた!えへへ、昨日描いた絵、見てもらおう)

由愛(ちょっと、自信作。Pさんの好きな青系の色もたくさん使ったし、上手だねって言ってもらえたら嬉しいな)

P「…」

由愛ちゃんの内心が聞こえている。

これから、絵を見せようと話しかけてきた由愛ちゃんに舌打ちを返さなければならないと思うと、心が痛む。

開始前からもうやめたい。

ああ、俺の好きな色とか考えながら描いてきてくれたのに。

舌打ちされたら、悲しいだろうな、がっかりするだろうな。

ああ、今日も由愛ちゃんはあんなに可愛らしいというのに。

スカートひらひらで、髪の毛もふもふで、期待しているのを押し隠すような小さい笑顔で。

これからあの顔を曇らせなければならない。

ああああ由愛ちゃん今日はどんなパンツ穿いてるんだろう。

由愛(いつ見せにいこうかな)

由愛(いきなり見せにいったら、上手く描けたの自慢しにきたみたいになっちゃうかも)

由愛(でも、早く見てもらいたい。会話の、自然な感じで出来ないかな)

由愛(昨日のお天気の話から入って、公園にお散歩にー、みたいな感じで、絵を描いてたら夕方になっちゃっててー、みたいな)

由愛(あくまで絵の話はおまけ程度な感じにして、メインは夢中になりすぎた失敗談みたいな)

由愛(そしたらPさんが「絵ー描いたの?見せて見せて」とかそういうふうになって、最初はちょっと嫌がったほうがいいかな)

由愛(結局のところこれ見せたかったんだなみたいに思われたら恥ずかしい)

P「…」

会話のシミュレート始めちゃった!

心が痛む!

由愛ちゃん、そんな会話は成り立たないんだ、ごめんよ。

舌打ちで一発終了なんだ。

由愛(よし、そんな感じで。よぉし)

P(そんな意気込まないでくれ…)

由愛「あ、あの、Pさん、今日はすごく晴れてますね。あの、昨日も、すごくいいお天気で」

P「…チッ」

由愛「!!」ビクッ

由愛「あ、ごめん、なさい…」

P(こちらこそ…)

由愛(…Pさん、今日は機嫌悪いんだ)

由愛(機嫌、良くなってもらいたいな)

由愛(絵は、まあいいや、いつでも見てもらえるもんね)

由愛(いつもPさんにたくさんお世話になってるから、今日は私が、Pさんのために何か、出来ることをやろう)

由愛(お茶とか淹れようかな)

P「…」

絵のことはもういいんだ。

俺のために何かをって…いい子だなぁ由愛ちゃんは。

とりあえずメモ、舌打ちをするとびくっとなる。

そして相手の精神衛生を考え動き始める。

由愛ちゃんが俺から離れ、ぱたぱたと給湯室のほうへ向かって行った。

お茶を淹れる音が聞こえる。

冷蔵庫もあけたらしい、プリンあった!という心の声が届いた。

由愛(私が買っておいたやつ、誰かに食べられちゃってもいいかなって思ってたけど、残っててよかった)

由愛(これ、Pさんもおいしいって言ってたお店のプリン、これで、少しでも笑ってくれたら、いいな)

由愛(『由愛ちゃんは優しいなー』とか、言われちゃったりして…あああ気持ち悪いな私、なに変なこと考えてるの)

由愛(今はPさんのために、ってやってるんだから、見返りなんか求めちゃ駄目なのに)

由愛(とりあえずこれとお茶、持って行こう)

パタパタパタッ

由愛「Pさん、あの、お茶、淹れました。あと、これ、プリン、Pさんがおいしいって、言ってたやつです」

P「…」

めげずに話しかけてくれる由愛ちゃんマジ愛してる。
温かい湯気を立てる湯のみが机に置かれた。

やはり暑いときも熱いお茶だよね、夏バテしにくくなる。

由愛「Pさん、今日は、あの、何だか元気無いみたいだから、あの、それで」

由愛「これ食べて、元気が出たら、いいなって、あの…」

P「…チッ」

由愛「!!」ビクッ

由愛「…あ」

由愛ちゃんが何かに気付いたらしい声を上げる。

一拍置いて、プリンが手から取り落とされた。

蓋がついていたおかげでこぼれずに済んだが、中ではおそらく、形が崩れてしまっているだろう。

とりあえずメモ、びっくりする、あとプリンを落とす。

由愛ちゃんが慌て、プリンを拾おうと屈む。

由愛(Pさん、多分、機嫌悪いんじゃないんだ…)

由愛(私が、うざかったんだ)

床に片膝を着き、転がったプリンに手を掛けたまま、由愛ちゃんは動きを止めてしまった。

うざいとか、あるわけないのに。

由愛(すぐ絵を見せびらかそうとするし、お茶淹れたくらいでいい気になるし)

由愛(そういうのがうざかったんだ)

由愛(あとこの前のお仕事でも失敗あったし、フォローしてもらうばっかりで役に立たないし)

由愛(すぐ泣くし、駄目駄目で成長無いから、嫌われちゃったんだ)

由愛(優しいとか言ってもらえるわけないよ。なに思い上がってるんだろう)

由愛(…うざい子のくせに)

P「秋葉あああああ!!限界だぁああああああああ!!」

由愛「!!」ビクッ

秋葉「おっ、戻ったな助手。で、どうだった」

P「あ、これもう死のう、と思った。死んで詫びるしかないと」

秋葉「Pの感想を聞いてるわけじゃないのだが」

P「ネタばらししたら泣いちゃって大変だったんだぞ。その瞬間だよ、『あ、死のう』と思ったのは」

秋葉「どうせその後、撫でたりさすったりぎゅっと抱きしめたりしてフォローを入れたんだろう?」

P「うん、あと持ち上げて振り回したりした。一緒にプリンも食べた。今度の休日に二人で絵を描きに出掛ける約束もした」

秋葉「よかったではないか」

P「うん、超よかった、秋葉ありがとう。しかしやはり由愛ちゃんは天使だな」

秋葉「では次にコンピューターが欲するデータだが」

P「おい、何がどう天使なのか聞けよ、おい、聞けよおい」

秋葉「お次は『貰ったプレゼントがビックリ箱だったときの反応』だそうだ」

P「さっきと比べて精神的にかなり楽だな、ただの悪戯じゃないか」

P「というかそれなら麗奈がやってるだろうし、そういうところからデータを取ればいいんじゃないか」

http://i.imgur.com/XzCqg65.jpg?1
小関麗奈(13歳。いたずらっ子。画像はバズーカで空を飛ぼうとしたときのもの)

P「あ、もしかして麗奈が対象なのか?あいつが悪戯される側なのはレアだし」

秋葉「このデータを得るために最適なアイドルは…『イヴ・サンタクロース』」

http://i.imgur.com/SLIrxFM.jpg?1
イヴ・サンタクロース(19歳。裸を晒してスカウトされたサンタ。事務所では流石に服を着ているのではないかと思う)

P「…なまじ展開が想像できる分つらい」
イヴ「おはようございます〜。サンタさんですよ〜」

イヴ(…Pさんいないんですかねー。今日はとっておきのプレゼントを持ってきたのに)

カチャッ

P「お、イヴ、おはよう」

イヴ「あ、Pさーん!おはようございます〜」

イヴ「今日はPさんにですね、いいもの持って来ましたよ〜」

イヴ「じゃじゃーん、これです〜」

P「トマトだ」

イヴ「はい!女子寮のお庭で栽培したトマトです〜」

P「ありがとう、お昼に食べるよ」

イブ「おいしいトマトですから味わって食べてくださいね〜」

P「うん。しかしこれ、でかいしつやつやだな!おいしそうだ!」

イヴ(Pさん喜んでくれました。よかったですー)

イヴ(サンタ冥利につきますねー)

P「俺もイヴにプレゼントがある」

イヴ「えっ?」

P「ちょっと待ってろ」

イヴ(Pさんが?私にプレゼント?Pさんはサンタじゃないのに?)

イヴ(新しいお仕事でしょうか。あ、衣装?なんでしょう、どきどきしますー!)

イヴ(人からプレゼント貰うなんて子供の頃以来ですー。いつもはみんなに振りまくほうですからねー)

P「…」
>>9
ごめん。由愛ちゃんに気を取られすぎた。
久々に貰ったプレゼントがビックリ箱。

俺なら物凄く落胆する。

トマトを机に置き、既に配置してあったカラフルな色合いの箱を手に取る。

赤いリボンで装飾された、手の平より少し大きい程度の四角い箱だ。

それに目を留めたイヴが、あっ、と声を漏らした。

イヴ(衣装じゃない!普通のプレゼントですー!)

イヴ(衣装でも嬉しかったけど、Pさんが私に用意してくれたプレゼント、三倍くらいは嬉しいですー!)

イヴ(綺麗に包装されてるし、なんでしょう。あ、でも、高価なものだったら少し申し訳ないですねー)

イヴ(私からのプレゼントはトマトですし)

P「…」

めっちゃ期待してる!

ごめんねこれビックリ箱なの!

開けると中からばね仕掛けのピエロが飛び出てくるの!

イヴは箱を大事そうに受け取ると、どきどきした様子でソファーに腰掛けた。

膝の上に乗せたプレゼントをしばらく嬉しそうに眺めた後、ゆっくりとリボンを解き始める。

堪えきれないらしい期待が、笑みとなって表情に漏れ出している。
イヴ(高価なものでなくてもいいですー。Pさんが、私のために選んでくれたんならなんでも)

イヴ(嬉しい。プレゼント嬉しい。なんだろうなんだろう)

イヴ(嬉しすぎてすぐ開けちゃうのがもったいないですー!)

イヴ(…あ!もしかして!)

イヴ(このまえ営業について行ったとき、立ち寄った雑貨屋さんで私が見てたマグカップ!)

イヴ(あれ可愛いと思って気にしてたこと、気付いててくれたのかもしれません!)

もうやめてー!

それ以上期待を膨らませないで!

ビックリ箱なの!

見た目もいかにもな派手派手の箱で、明らかに怪しいでしょうに!

もう!

…。

ん?待てよ?マグカップ?

イヴ(いやいやそんなはずないです。そんな期待通りに欲しいものがもらえるわけ…)

イヴ(でも、もしそうだったらどうしよう)

イヴ(そうだったら、嬉しいな)

イヴ(いやいや、違う違う、多分、何か、お饅頭とかですよーきっと。それでも嬉しいですー)

イヴ(…でも、もしかしたら)

外し終えたリボンを、イヴは丁寧に畳んで座る傍らへと置いた。

蓋に手を掛け、こくりと喉を鳴らし、そして、開けると同時に。

かちりと何かが音を立て、ばねに押されたピエロが勢いよく飛び出した。

覗き込むようにしていたイヴの額に、ピエロがむにっと当たる。

イヴ「きゃあ!」

驚いたあまり、イヴがソファーの上で引っくり返った。

膝の上から落ちたビックリ箱が床に転がり、みよんみよんとばねを揺らす。

メモメモ、引っくり返る。
イヴ「えっ?えっ?何?なんですか?」

イヴ(びっくりした、びっくりした、びっくりした!何か飛び出た!ぶつかった!)

イヴ(生きてる?生き物?なに?)

P「ビックリ箱」

イヴ「ビックリ、箱…」

言いながらイヴは起き上がり、転がった玩具を確認する。

そうして事態が飲み込めると、あー、と声を漏らしながら、乱れたスカートの裾を直した。

イヴ(イタズラ…)

イヴ(よくよく考えたら、当然です。トマトのお返しにマグカップがもらえるわけないじゃないですかー)

イヴ(がっかりしちゃだめです。当たり前なんですから)

イヴ(そもそも、私はサンタでPさんはサンタじゃないんだから、プレゼントをもらえると期待するほうがおかしいです)

イヴ(馬鹿ですねー私は)

イヴ(Pさんがイタズラをしかけてきたんだから、楽しそうにしなくちゃ)

イヴ(笑わなくちゃです)

イヴ「も〜、びっくりしましたよ〜!なにするんですか〜!」

イヴ(悲しくない、がっかりなんかしてない)

イヴ(ちゃんと笑えてるでしょうか)

イヴ(Pさんが期待していた通りの反応をしなくちゃ)

イヴ「いい子にしてないと、クリスマスにプレゼント貰えないんですからね〜!」

イヴ(馬鹿な悪い子は、プレゼントを貰えない…)

発する声と内面とを両方聞きながら、踵を返し事務机へと近付く。

一番下の引き出しに、もう一つ箱が入っているのを思い出したのだ。

引き出しを開け、その箱を取り出す。

笑いながら怒り、同時に悲しむという器用な芸当をこなすイヴは、床へと向かいがちな視線のせいか、こちらの所作には気が付いていないようだった。

俯き気味のその眼前に、白地に赤と緑の星が入った包装の箱を差し出す。

イヴが気付き、顔を上げた。

P「今度は本物」

イヴ「えっ?」

P「前にイヴが欲しそうにしてたから」

イヴ「…っ! …えっ、なんですか〜もう」

P「イヴがいい子だからプレゼント」

イヴ「…」

今まで忘れていたという事は言えない。

心を読んでいますという事はもっと言えない。
晶葉「で、それをもらってイヴはどうした」

P「しばらくは警戒するふりしてた。『また飛び出てきます、また飛び出てきますよ〜』って言いながら」

晶葉「結局マグカップだったんだろう?喜んでたか?」

P「一生大事にするらしい」

晶葉「よかったではないか」

P「うん、よかった。赤面イヴというレアなものが見れた。晶葉ありがとう」

晶葉「では次といこうか」

P「俺の心が罪悪感で破裂寸前なんだが」

晶葉「お、『貰ったマグカップを叩き割られたときの反応』だそうだ」

P「あ、これ破裂だわ」

晶葉「ははは今のは嘘だ。冗談冗談」

P「はははマジやめろ」
とりあえず由愛ちゃんとイヴ。また書いたら投下します。
晶葉、名前間違えてごめんね。池袋とアキバだなーって思ってたらこんなことに。
晶葉「では続けよう。続いては、『ムツゴロウさん並の可愛がりをされたときの反応』」

P「おお、これなら誰も悲しい思いをしなくて済むな。出来れば年少組みが良い」

晶葉「最適なアイドルは…『藤居朋』だ」

P「おおう…」
http://i.imgur.com/Q7i7XPw.jpg?1
藤居朋(19歳。占いに人生をゆだねる少女。何故なのか敬語を使ってくれない)

カチャッ

朋「あ、P、おはよう」

P「!!」ガタッ

朋「な、何よ。何テンション上げてんの。それより聞いてよ、今日朝の占いでさ」

P「おいで、朋おいで!」

朋「…どうしたのよ」

朋(…あ、またあたし何かやらかしたのかも)

朋(朝の占い最悪だったし。怒ってるのかな)

朋「あたし、なんかやった?」

P「…」

朋が警戒している。

呼んでいるのにこっちへこようとはしない。

さて、こういうときムツゴロウさんならどうするか。

おそらく、問答無用で近付き、力任せに撫でまくるのだろう。

踏み潰されたって戦うに違いない。

大股で大胆に近付く。

朋が怯えたように体を震わせた。

朋「ご、ごめん、なんか失敗あったんでしょ」

朋「あたしが謝りに行ってすむことだったら、いいんだけど…」

P「朋!」

ガシッ ギュッ

朋「!!」

P「よーしよしよしよしよしいい子だなあ朋は!よしよしよしよし!よし!よーし!」

ナデナデナデナデ

朋「は?え?何?何すんのよいきなり。離して!」

P「よしよし可愛いなあもう!」

朋(なにこれ?なんなの?どうしちゃったのP)

朋(いつも何気なく手繋いできたりいきなり肩抱いたりとか不意打ちスキンシップはあるけど)

朋(っていうか可愛いとか普通に言わないでよ。そんなことばっかり言ってるからみんな勘違いするんだってば!)

P「よしよしよし」
朋が滅茶苦茶に戸惑っている。

そうか、可愛いって言うの駄目なのか、女の子ってそう言われたら喜ぶんだとばかり思ってた。

でもムツゴロウさんは言うだろうから、俺も今は言っちゃうもんね。

P「朋をよく観察してみましょう!」

朋「えっ?えっ?」

P「髪がもさもさしています」

朋「なっ、あ、あたしだって気にしてるのよそれ。ちゃんと纏めてるんだから文句無いでしょ」

P「可愛いですね!」

朋「なんなのよ!」

P「正面から見てみます」

抱き寄せていた朋の体を少しだけ離し、正面から顔を見据える。

朋は一瞬だけ目を合わせ、すぐに横を向いてしまった。

P「一瞬でしたがやっぱり可愛いですね」

朋「や、やめてよもう…」

朋(なんなの、なんなの?)

朋(今日は恋愛運も最悪だったし、『そういう事』じゃないよね)

朋(いつも『由愛ちゃん大好き』って言ってるし、他にも可愛い子いっぱいいるのにあたしにくるわけないし)

朋(でも、じゃあ、なんなの?どういうつもり?からかってるの?)

P「よーしよし」ナデナデ

朋の顔が赤みを帯びていく。

ちょっと一回離れよう、メモを取らなくては。

朋を一旦解放し、机に向かってメモ帳を広げ、ボールペンを走らせる。

メモ、てんぱる。

メモを終え、再び愛でようと振り返ると、朋は口元を両手で押さえてしゃがみ込んでいた。

朋(意味わかんない、もう全然意味わかんない…)

ちょっとよく分からなくなっているらしい。

安心しろ、俺も全然わからん。

さて、あとムツゴロウさんは何をしていただろうか。

よく聞くエピソードだと、指を食われたとかなんとか。

というわけで小さくなっている朋に向かって手を差し伸べ、指を広げてみせる。

朋「…何?手相みるの?その前にこれどういう事だか説明…」

P「食え」
朋「…は?」

P「どの指でもいいから食え」

朋「もぉおお何なのよぉ!」

声を荒げる朋に近付き、頭が同じ高さになるまで腰を落とす。

口元を押さえていた手を退かそうと掴んでみると、微かに震えているようだった。

案外大した抵抗も無く、両の手を下ろさせることが出来た。

露わになった唇に、とりあえずこれと思い人差し指を近づけてみる。

触れる。

柔らかい。

そのまま口内に指を侵入させ舌に触れると、びくっと震えて奥のほうへ引っ込んでいってしまった。

朋(P…おかしくなっちゃったんだ)

朋(私の不運が伝染して、何か酷いことがあって、おかしくなっちゃったんだ…)

朋(可哀想なP…どうしたらいいの、どうしたら元に戻るの)

なにやら狂人認定されている模様。

やはり指を食べさせるのはやめて、撫でるのをもっとたくさんやったほうがいいか。

メモを取るために指を引き抜く。

唇と指先との間で、唾液が糸を引いた。

ティッシュで拭き取り、メモ。

ええと、狂ったと思われる、と。

朋「手、洗ってよ、汚いよ」

P「ん?そうか?」

別にそうでもないと思ったが、朋がなにやら恥ずかしそうにしているので、給湯室で手を洗うことに。

背中のほうから、朋の心が聞こえてくる。

朋(言葉が通じた!ちょっと正気に戻ったんだ!この気を逃す手は無いわ!)

朋(何があったのか聞かなくちゃ)

朋(安心しなさいP、あんたはあたしが助けてあげるわ!ピラミッドパワーとかで!)

手を洗い、ハンカチで水気を拭きとりながら朋のもとへ戻る。

朋はなんだか決意を秘めたような表情で立ち上がっていた。

朋「P!何があったのか教えなさいよ!あと、とりあえず開運の呼吸法を教えるわ!まず息を大きく吸って!」

気にせず近付き抱きしめ、もさもさの髪をまた撫でる。

ナデナデナデ

ヨーシヨシヨシ

朋(…またなの?でも、負けないわ!)

あとムツゴロウさんって何してたっけ。

…確か、象の、おしっこを、手ですくって飲んだとか。
P「よしよしよし可愛い可愛い…朋?」

朋「何?戻った?やったわ!」

P「トイレ行きたくない?」

朋「…えっ?」

P「トイレ。出ない?あ、おしっこのほうね」

朋「…」

朋「…P」

P「何?出る?」

朋の目に何かが光った。

よく見るとそれは涙で、頬を渡り顎の線をなぞって滴り落ちる。

あ、やばい、泣いちゃった。

朋は強い力で精一杯という風に抱きついてきながら、震える唇を開いて小さく言う。

朋「あたしがずっとついててあげる。ずっとPと一緒に居るわ。怖いことなんて何も無いから…」

朋「だから…病院行こ…?」
晶葉「お、来たな。どうだ、いい思いができたか?」

P「なんか本気で心配された」

晶葉「何をしたんだきみは…ネタばらしはしたのか?」

P「した。口を利いてくれなくなった。心の声も『馬鹿みたい』しか聞こえないし」

晶葉「そうとう酷いことをしてきたらしいな」

P「でも朋の意外な一面もたくさん見れた。案外色っぽいかったよあの子。あと優しくしてもらった」

晶葉「よかったではないか」

P「まあ、その点に関しては、晶葉ありがとうと言わざるを得ない」

晶葉「では次さくさくいくよー。お次はこちら」

P「軽いの来い軽いの来い軽いの来い」

晶葉「『談笑中に突然発狂されたときの反応』、これだ」

P「あー大惨事の予感。対象は?」

晶葉「ええと、『安部菜々』、だそうだ」

P「あー」

http://i.imgur.com/8Rp81Gc.jpg?1
安部菜々(永遠の17歳。らしい。ウサミン星からやってきたウサミン星人。らしい)
そんなこんなで朋ちゃん。
また夜にでも投下します。
まゆ(もうすぐ会える)

まゆ(Pさん……大好きなPさん……この扉の向こうに)

まゆ(服、変じゃないかしら。いきなりだったから、あんまり選んでる時間なかった……)

まゆ(……とりあえず、にやけて変な顔にならないようにしなくちゃ。深呼吸、深呼吸……)

何やら扉の向こうから、恋する乙女な心の声が聞こえてくる。

いつもこんなに恋愛思考全開なのだろうか。

まゆのような可愛らしい女の子に想いを寄せられて、俺という男はかなりの幸せ野郎である。

コンコンコンッ

P「うぇいうぇーい」

カチャッ

まゆ「失礼します」

P「おっ、来たなまゆ」

まゆ「はい、晶葉ちゃんから電話を貰って、Pさんがまゆにお話があるって…」

P「……」

なるほど、俺から話があって呼び出したとかそういう感じになっているのか。

アイドルに対する愛を語るため呼び出すって、何事なの。

人によっては怒って帰ってしまう事もあるだろうが、さて、まゆはどういう反応を示すか。

まゆ(やっぱりPさんかっこいい……はぁ、好き)

P(何がそんなにいいんだろう。俺よく変わり者だって言われるんだけど)

P「とりあえず座るといい」

まゆ「じゃあ、となりに失礼しますね」

腕と腕とが触れ合う距離で、まゆが隣に腰を降ろす。

微笑みを湛えた目で見つめられ、少しどきどきしてしまった。

自然な動きでこちらの腿の上に置かれた小さな手が、何だか微妙にくすぐったい。

段々と、まゆの思考が単純化してきた。

隣、近く、二人きり、好き、大好き、といった端的なものが浮かんでは消えを繰り返している。

P「今日来てもらったのは他でもない」

まゆ「はい」

P「まゆにも由愛ちゃんの可愛らしさを存分に知ってもらおうと思ってだな」

まゆ「……由愛ちゃん?」

笑みが固まり、そして消えた。

これは……まじめに話を聞くモード?

聞く態勢も整ったようなので、では、と断ってから口を開く。

P「まず名前が可愛い。由愛ちゃん、ゆめ、これはやわらかい生き物と考えて間違いない」

P「そして実際やわらかい。お肉がどうとかじゃなくて、何だかふんわりしてる」

P「髪の毛とかふわふわだし。触ったことあるか? すごいぞ、超ふわふわ。まとまり難いのを気にしてる感じもまた可愛い」

P「気の弱いところもいいよな。守ってあげたくなるっていうか、安心させてあげたい」

P「服は基本的にママが買ってきたものを着ている。俺も買ってあげたい。って言うか買ってあげました、二着くらい」

P「たまに着てきてくれるんだよ。すっごい照れた感じで事務所に入ってくるの、超可愛い」

P「でも絵を描くときは着ないんだって。汚れたら困るからだそうで。汚れたらまた新しいの買ってあげるのに」
P「あと最初の頃は男の人苦手とか言ってたんだけど、今では膝に乗せてあげるとリラックスしすぎて寝ちゃうレベル」

P「しばらくすると寝てたと気づいて飛び起きるんだ。ごめんなさいごめんなさいって必死に謝ってくるのも可愛い」

P「でもそういうときにぎゅっとしてあげると静かになっちゃうの。耳とか真っ赤にして、身動き一つしない状態」

P「可愛い。由愛ちゃんが可愛い過ぎて生きるのが楽しい」

まゆ「……」

P「続きまして、朋の話」

まゆ「……」

まゆ(……どうして)

P(ん? 何か今反応が)

P「朋といえばまずあのもさもさポニーテール。いきなり触ると嫌がるけど、触りたいってお願いすると触らせてくれるんだ」

P「仕方ないとか言って。可愛いですね」

まゆ(……どうしてPさん)

P(あとでメモ取ろう。メモ、どうして)

P「占いに頼りきりだった朋から『あんたのこと信じてるから』とか言われたときは涙が出るかと思ったよ」

P「最近はへこんでるときでも俺が声掛けると元気になったりすんの。あの反応は反則だって」

P「ではお次はさとみんの話。妹系でおっぱいで天然系、これはもうほとんどチートキャラですよ」

P「やっぱりあのちょっと抜けてる感じがいいよな、お世話してあげたくなる」

P「今日も試しに俺の家の鍵渡してみたら、それを事務所の鍵だと勘違いしてさ」

P「いやホントに天然で可愛い、痛たたたたた痛い、痛いよまゆ」

まゆ「……えっ」

腿に添えられた手に、ぎゅっと力が込められていた。

指先が食い込み、スラックスに皺が寄っている。

まゆ「あっ、ごめん、なさい……あぁ、まゆ、何てことを」

P「痛いとか言ったけど平気だ、痛くない、俺強い子だから心配要らない。でも急にどうしたのまゆ」

まゆ「……」

まゆ「……Pさん、どうして他の子の話ばっかりするんですか」

まゆ「今日は、とっても嬉しかったんです」

まゆ「お仕事の邪魔になっちゃうかもって、会いたいの我慢してたら、晶葉ちゃんから電話があって」

まゆ「Pさんが、まゆを呼んでるって、お話、なんだろうって、わくわくしてたんです」

まゆ「Pさんのしてくれるお話なら、まゆ、何だって聞いてあげたいって思ってる」

まゆ「思ってるんですけど……でも、やっぱり、辛いんです……好きな人から、他の女の子が可愛いっていうお話を聞くのは……」

P「……まゆごめん、わかった、もういいよ。デリカシー無かった、謝る、ごめんなまゆ」

まゆ「どうして、他の子ばっかり、好きなのに、まゆはこんなに愛してるのに、まゆが悪いの? 悪いところは直しますから、何でも言って欲しい」

P「まゆ悪くないよ、ごめんな、撫でてやるから許して」

まゆ「Pさん好みの女の子になります、何をされたっていいんです、まゆが全部受け止めてあげますから、だから」

まゆ「まゆだけを見て欲しい、まゆだけに触れて欲しい、愛してるんです、本当に、心の底から」

P「まゆ、まゆ、悪かったよ、ごめんな、ほら抱っこしてあげるからこっちおいで」

何やらかを小さく呟き続けるまゆを腕の中に収め、ゆっくりと頭を撫でてやる。

荒くなっていた呼吸が、胸元で段々と落ち着いていくのがわかった。

無理無理、中止中止、まゆが可哀想である。
まゆ(撫でてもらうの気持ちいい……)

まゆ(とりあえずここまでは……あっ、いけない、集中集中)

P(ん? とりあえずもっと撫でてやるか)

P「まゆごめんな、ちょっとした実験で、反応を見たかったんだ」

まゆ「……実験、ですかぁ?」

P「うん。晶葉がロボット作るって言うんで、みんなのから色んな反応のデータを集めてたんだ」

まゆ「晶葉ちゃん……?」

P「まゆに嫌な思いさせたな。ごめんなまゆ」

まゆ「ふぅん……そう、晶葉ちゃん。そうなんですかぁ」

まゆ(そうよねぇ。まゆの気持ち知ってるのに、Pさんがわざわざ呼び出してまでまゆにこんなこと言うなんてあり得ない)

まゆ(Pさんはいつもまゆのことを気遣ってくれる、まゆを想ってくれている……なのに)

まゆ(晶葉ちゃん、そういう事するんだ。Pさんに変なことさせて、まゆの気持ちを掻き乱して……)

まゆ「……Pさん、喉かわきませんかぁ? ジュース取ってきますね」

P「ん、そうだな、たくさん喋ったから喉かわいた」

P「あと一応言っとくけど、俺のやり方が気遣い足り無さすぎだっただけで、晶葉が悪いんじゃないからな」

まゆ「……Pさんのそういう優しいところ、まゆ大好きです」

その後。

まゆの入れてくれたジュースを飲み膝枕で和みつつなでなでされていると、急激に眠気が襲ってきた。

目を開けていなくてはと思いながらも、まぶたが自動で落ちてくる。

あれ、なんでこんなに眠いんだ。

寝るな寝るな、折角まゆの膝枕で幸せなのに…。

……あ、駄目だこれ寝るわ。

やわらかなふとももの感触に癒されながら、曖昧な世界へ落ちてゆく…。

まゆ(ごめんなさい、Pさん)

……。

……。

「本当に大丈夫なのよねぇ?」

「しばらくすると分解されて水になってしまう薬だ。人体に影響はまるで無い」

「なら、いいけど……そろそろかしら?」

「そうだな」

「――」

「――」

もやもやした意識に、少女たちの会話する声が入り込んできた。

何だろう、よくわからない、夢かこれ。

頭が重く、会話も所々が聞こえるような聞こえないようなで、意味を捕らえることがほとんど出来ない。

なんだこれ、夢か。
「……おい待て、なんだそれは」

「何って……わからない? もともとは護身用なんだけど、少しだけ、ねぇ、うふふ、改造を」

「何故いまそんなものを取り出すのだ」

「……」

「待て、話が違うではないか! 予定ではこの後――」

「もういいの。もういいのよ。もう、用済みなの」

「何が……」

「ところで、いい指輪してるのねぇ。なんだかPさんが好みそうな、素敵な指輪…」

「これ、は、助手が、私にと……」

「ふぅん」

バチバチッ

「ぐぅっ――」

「――」

「――」

「……これ、なぁんだ?」カチッカチッ

「ぐっ、うぐ……それ、は」

「工具箱に、丁度いいのがあったの。これがあれば非力な女の子だって、太いワイヤーも軽く切れちゃうのよ」

「何を……っ!」

「――」

「やめ――」

「――」

「――っ!!」

……。

P「うおぁ!」

寝てた!

なんか怖い夢見た気がする!

最後に悲鳴が聞こえた気がする!

……なんで寝てたんだっけ?

あ、まゆだ、まゆに膝枕してもらってて寝ちゃったんだ。

いま何時……七時!?

これは、あれだ、帰ろう、まゆも帰っちゃったみたいだし。

誰か起こしてくれればいいのにー。

P「晶葉ー。あれ、いないのか? 晶葉ー、おーい」

帰り際に晶葉の研究部屋に立ち寄ってみるが、電気は消えているし静かだし、人のいる気配が無い。

何だ晶葉のやつ、帰るときに起こしてくれればいいのに。

明日にでも文句を言ってやろう。

心の声が聞こえるイヤホンを外し、作業机の上に置いて退出。

携帯を取り出してさとみんに電話をかける。

さすがに合鍵を持たせっぱなしは色々まずいだろうし返してもらおうと思ったのだが、あれ、出ない。

まだレッスン終わって間もなくくらいの時間のはずだけど、もう帰ったのかな、いつもは大喜びで電話に出るのに。
まあ、いいか、明日返してもらえば。

P「お腹空いたし帰ろう」

帰ってエビフライとか食べよう。




帰る道の途中、何度か晶葉とさとみんに電話をかけたが、どちらも出なかった。

俺からの電話に出ないなんて、寂しいじゃんかこんちくしょう。

もやもやしながらお腹を空かせ家に帰ると、まゆが居た。

誰に言うでもなく発したただいまの声に、おかえりなさいと返答があって驚く。

まゆ「お鞄、お持ちしますねぇ」

P「……」

まゆ「Pさん?」

P「こら!」

まゆ「!?」

P「勝手に人の家に入ったら駄目だろ!」

まゆ「……はい。あの、でもまゆ、お夕飯を作って――」

P「こら! 駄目だろ!」

まゆ「……ごめんなさい」

P「反省してるか?」

まゆ「してます……」

P「よし。じゃあご飯食べよう。何作ったの?」

まゆ「……エビフライを」

P「なんと。ちょうどエビフライが食べたかったんだ。まゆは俺のことよくわかってる」

まゆ「……本当に? うふふ、嬉しい、以心伝心ですね」

まゆ「あと揚げるだけなので、少し待っていてくださいねぇ」

P「ところでまゆ、どうやって入ったの?」

まゆ「……はい?」

P「いや、家に。鍵掛かってただろ」

まゆ「……」

まゆ「普通に、鍵を開けて入りましたよぉ?」

P「まゆピッキング出来るのか。今度やり方教えて」

まゆ「うふふ」

まゆと二人でお夕飯の時間、まゆの作ったエビフライとサラダはとても美味しかった。

ご飯も好みの硬さにばっちり炊けていたし、まゆは俺のことを本当によく理解しているのだなと感心してしまう。

食後の緑茶を飲みながら二人でまったり。

P「事務所で起きたら一人で寂しかった。まゆ起こしてくれればよかったのに」

まゆ「ごめんなさい、急ぎの用が入ってしまって……Pさんも気持ちよさそうに寝ていましたから、そのままにしておいてあげたくて」

P「そうなのか。でも次はいい夢見てる感じでも叩き起こして」

まゆ「はい、Pさんがそう言うなら」

まゆ「……それじゃあ、まゆは後片付けしちゃいますね」

P「俺もやる。一緒にやろう」
まゆ「……一緒に」

まゆ「……」

まゆ「いえ、Pさんは休んでいてください。お仕事でお疲れでしょう?」

P「いや、寝てたし。まゆ夕飯作ってくれたし。ごちそうさま」

まゆ「お粗末さまです。あの、でも、最後までまゆにやらせて下さい」

まゆ「Pさんのお役に立ちたいんです。それがまゆの、幸せですから」

P「そうなのか。じゃあ俺は何してよう」

まゆ「うふふっ、ごろごろしていてもいいですよぉ。あ、先に食後のお茶を淹れちゃいますね」

まゆ「フルーツも用意しましょうか。りんごがありましたよねぇ」




まゆに剥いてもらったりんごをしゃくしゃく食べつつ色々と考える。

その一、テーブルに置かれているナイフ、まゆがりんごを剥くのに使ったものだが、うちの物ではない。

どこから持ってきたのだろうか。

持ち歩いていたのかもしれない。

職質されたときに困るからやめるよう言ってやらねばならない。

その二、りんごを剥くまゆの手に注目していて気づいた、左手薬指の指輪。

あれ俺が晶葉にあげたやつと全く同じものだ。

まゆも同じところで買ったのだろうか。

いやもしかして、晶葉のやつ嬉しいとか言ってたけど本当は全然いらなくて、まゆにあげちゃったとか。

悲しい気持ちになる。

その三、いつの間にかまゆが着替えていることに今さら気付いた。

事務所に来たときはリボンのふりふりな服だったのに、今はシンプルなTシャツにショートパンツというとても簡単な装いだ。

ご飯を作るために動きやすい服に着替えたのだろうか。

まゆが洗い物を終えて一息ついたら色々と聞いてみよう。

その四、部屋の隅に置かれている紙袋、あれ何。

俺が買っといた何かだっけ、何が入ってるんだっけ。

覗いてみよう。

大き目の紙袋を手に取り開いて中を見てみる。

布地の何かが入っている。

取り出してみると、リボンのふりふりな服だった。

あ、まゆの服だ、何だまゆの荷物か。

この服、なんだか黒っぽいシミで汚れてしまっている。

ああ、汚れたから着替えたのか、でもこの黒っぽいの何だろう。

……まあいいか。

さて、先ほどまでまゆが着ていた服を広げて観察していると思ったら、ほんのりといけないことをしている気持ちになってきた。

ばれないように戻さねば。

あれ、袋の底にゴミみたいなのが入ってる。

ティッシュの塊、赤黒いシミがこれにも着いている。

あらあら、まゆったら、ごみと服を一緒に入れちゃって。

捨てておいてやろうと手に取ると、何かを包んでいるのか、硬いような柔らかいような不思議な感触がした。
ゴミじゃないのかもしれないと思い、一応確認しておこうとティッシュを広げてみる。

青白くて、細長い、二本の、アスパラをしょうゆに漬けたみたいな……。

……あっ。

指だ、人間の。

驚いたあまり、ティッシュごと手から取り落としてしまう。

二本の指が床に転がった。

女性のようにしなやかな指と、子供のように小さな指。

P「……」

P「まゆちょっと来て!」

まゆ「はぁい、呼ばれると嬉しくてすぐ来ちゃうまゆですよぉ」

まゆ「……あら」

P「あの、紙袋が何だっけって思って、開けたら、服と、これ、指、何これ」

まゆ「……」

まゆ「お菓子です」

P「は?」

まゆ「ドッキリのために作ったんです。クッキーと、マシュマロを加工して」

P「いや、でも、これはちょっとリアルすぎるけど」

まゆ「お菓子です。食べますか?」

P「え、本当にお菓子? でも、色合いとか、断面とか、血の感じとか……」

まゆ「……食べてみますか?」

P「遠慮しておく」

まゆ「……ふふ、ですよね、まゆも嫌です、あんなもの」

P「……あれ? 待て、何かおかしい」

まゆ「……」

まゆ「Pさん、あの、それより、その服……」

まゆ「あ、でもPさんが欲しいって言うなら、差し上げますけど」

P「服? あ、これか、すまん返す、勝手に広げてみたりしてごめん」

まゆ「いいんですよぉ、Pさんなら」

シミの着いた服を返すと、まゆはそれを受け取り紙袋へと乱雑に放り込んだ。

続いて転がる指も回収し、ティッシュで包み直し紙袋へ。

何かがおかしい。

P「とりあえず、こういう怖いドッキリはやめてくれ、超びびった」

まゆ「ごめんなさい……」

P「うん、もうするなよ、ホントに泣くぞ俺、怖いと結構すぐ泣くぞ」

まゆ「泣いてるPさんも見てみたいかも……」

まゆ「あっ、嘘です、冗談ですからそんな嫌そうな顔しないでください、そんな顔されたらまゆが泣きそうです」

P「……とりあえず、もうやめてね」

P「あっ、あとまゆにいくつか聞きたいことがあるんだけど」

まゆ「はい、なんでしょう」

P「まずあのナイフ、持ち歩いてたのか?」
まゆ「……はい、果物を剥いたりするのに、使い慣れたものがいいと思って」

P「料理するのに、包丁はうちのを使ったんだろ?」

まゆ「はい。でも、りんごの皮向きとかは、その……手に合ったものが、よくて」

P「そうか。まあいいや、でも持ち歩くときはちゃんと注意しなきゃ駄目だぞ」

まゆ「はい」

微笑むまゆ。

よしよしと撫でてやってから、次の質問へ。

P「その指輪は? 買ったのか?」

まゆ「……」

P「晶葉にあげたやつと同じに見えるんだけど、晶葉から貰ったの?」

まゆ「……約束、してくれました。指きり」

P「ん?」

まゆ「Pさんをたぶらかして、本当に、いけない子。でも、安心してください」

まゆ「もうしないって、約束してくれましたから。指きり、約束の証、うふふ……」

P「たぶらかされてないって。それ、晶葉から無理やり取ったんじゃないよな?」

P「まゆも欲しいんなら買ってあげるから、とりあえずそれは晶葉に返すんだ」

まゆ「そうじゃない……そういうことじゃ、ないんです」

P「そうじゃないって? どうなの?」

まゆ「いいじゃないですか、そんなの。それより、せっかく二人きりなんですからぁ、もっと楽しいお話をしましょう」

P「まだ質問がある。鍵、結局どうやってあけたの?」

まゆ「……」

P「さっきは流したけどピッキングってそんな簡単なものじゃないだろうし、どうやって部屋に入ったんだ」

まゆ「……うふふ」

まゆがこちらの胸に手をつき、寄り添うように体重を預けてきた。

突然の負荷に抵抗できず、そのまま後ろに倒れこむ。

覆いかぶさるように上に乗られ、少々強引なことをしないと身動きが取れない状態。

ショートパンツのポケットに手をいれ、まゆが一本の鍵を取り出す。

うちの鍵だ。

まゆ「ちゃんと言いましたよぉ、鍵を使って入ったって」

P「いつの間に合鍵なんか」

……合鍵。

うちの鍵は、二本しかない。

合鍵は元の鍵が無ければ作れない。

二本とも俺が持っているのに、作れるわけが……。

まゆ「浮かれてる女の子がいたんです」

P「えっ?」

まゆ「花を貰って浮かれてる女の子が。一緒に、鍵も貰ったって」

P「……」

待てよ? 一本は俺が持っている。

でも、今日だけ、たしか、もう一本は。
まゆ「Pさんの家の合鍵だなんて、そんなの許せない……でも」

まゆ「この子もしっかり約束してくれましたよぉ、もう二度とPさんを誘惑しないって」

まゆ「指きり、約束、うふふ、意外に強情で、指だけじゃ……うふふ、でも、もう安心ですよぉ」

まゆ「Pさんを駄目にするいけない虫たちは、まゆが駆除してあげますから」

P「……電話に出ないのは、そういうことか」

合点がいった。

全て把握した。

家にいたまゆ、俺に何も告げずいなくなり、電話に出ない晶葉とさとみん。

黒いシミの着いた服、指輪、指きり、約束、ティッシュに包まれた指。

なるほど、わかった、なんてこった。

P「まゆ、お前」

まゆ「うふふ」

P「お前、晶葉の実験に協力してるだろ」

まゆ「……えっ?」

P「となるとさとみんも協力者か。おかしいと思ったんだよ」

まゆ「えっ? えっ?」

P「自分で気づいてるかもだけど、今日のまゆの言動は不自然だったから」

まゆ「……まゆには、なんのことだか」

P「まゆ、手繋ごうか」

まゆ「えっ?」

P「ほら早く」

戸惑いながら、まゆが手に手を重ねてくる。

指を絡め、小さなまゆの手をしっかり握る。

P「じゃあまゆ、『プロデューサーとまゆの100の約束』その27を言ってみろ」

まゆ「あっ……ええと、その」

P「どうした、忘れちゃったのか? その27はまゆが決めたやつなのに」

まゆ「……手を繋いでいる時は、素直な気持ちを正直に言う、嘘をついたりごまかしたりしない」

P「よし、じゃあ質問。晶葉の実験に、協力してるな?」

まゆ「……はい」

P「ターゲットが俺で、俺から何らかの反応データをとってくるよう晶葉に頼まれた、ってことで間違いないか?」

まゆ「……その、通りです」

まゆが突然脱力し、倒れる俺の胸に顔を埋める勢いで突っ伏した。

ああー、と変な声が漏れている。

まゆ「ごめんなさい晶葉ちゃん、まゆ、失敗してしまいました……」

P「まさか俺がターゲットにされるとは。アイドルからデータを取る実験じゃないのか」

さとみんの実験が終わったあと、次の対象者が決まった際の晶葉の思案、画面を見るのを嫌ったやり取り。

あれは俺の名が表示されていたからなのだろう。

即席で偽の、別の「反応データ」をでっちあげ、俺に対する最適な仕掛け人は誰かと考えていたに違いない。

やられた、ちくしょう、やられる側ってこんな気持ちなのか。

まゆ「あの、まゆ、どこが駄目だったでしょう」
P「なんか、色々と違和感があったけど、一番はあれだな、切り取った指」

まゆ「指、ですか? 本物そっくりに、作ったらしいんですけど」

P「まゆ、あれ俺に食べさせようとしたじゃん。あれがおかしい」

まゆ「おかしかったですか」

P「まゆの行動原理は全部、俺のため、というところにつながるはず」

P「なのに床に落ちたものを、しかも自分でも『あんなもの』とか言ってるやつを、俺に食べさせようとするなんて」

P「これはもう、何か目的があって俺の心を揺さぶりに来てるとしか思えない」

P「怖がらせるために色々と積み上げてる最中、みたいな」

まゆ「無理がありましたか。ですよねぇ……あーあぁ、失敗」

失敗してがっかりしてるまゆ可愛い。

とりあえず、抱きつくみたいな姿勢で乗っかっているまゆをどかさなければならない。

足の付け根辺りまで露出した格好で腰元に跨られていては、色々とまずいのである。

まゆ「……Pさん、全然怖がりませんでしたねぇ」

P「いや、怖かったぞ、指とか」

まゆ「晶葉ちゃんや里美ちゃんに何かあったと思わせる予定だったんです、三人で打ち合わせして、指輪と鍵もお借りして」

まゆ「なのにPさん、心配する素振りも見せませんでした。まるで、二人の無事を確信してるみたいな」

P「無事をっていうか、危険があるとはまるで思ってなかった」

まゆ「まゆなら二人に危害を加えかねない、とは思わなかったんですかぁ?」

P「あの二人に限らず、身近な人に何かあったら俺すごい悲しむよ、超泣くね」

P「まゆが本気で俺の悲しむようなことをするなんてあり得ないから、心配の必要はないというわけです」

まゆ「……」

P「はい、じゃあ、『プロデューサーとまゆの100の約束』その5を言ってみろ」

まゆ「……相対的ではなく、絶対的な魅力を磨く」

P「まゆは俺との約束を破らない、何があっても。だからまゆは人を傷つけたりしません」

まゆ「……いま、急に言いたくなったので言いますけど」

P「ん?」

まゆ「大好きです」

P「うん。ありがとう」

まゆ「はい」

まゆ「では、まゆの携帯から晶葉ちゃんに電話をしてあげてください。実験終了の合図です」

P「わかった」

起き上がり俺の上から退いて、まゆは携帯を取り出した。

手早く操作し、差し出される。

晶葉の番号が画面に表示されていたので、通話ボタンを押して呼び出し開始。

数コールの後、晶葉が電話に出る。

晶葉「まゆ! 何故電源を切っていた! 今どこだ!?」

P「まゆかと思ったろ、残念だがプロデューサーだ」

晶葉「P……。そうか、いま家か!? まゆもそこに!? すぐ逃げてくれ!」

P「いやもう怖がらせようと思っても無駄だ。全て看破した」

晶葉「いいから逃げろ! 話し合っている暇は無いんだ!」
P「だから、ばれてるって。俺がデータ収集対象だったんだろ。やられたよ全く……」

とその時、玄関のほうで何やら物音がした。

がちゃがちゃと、扉をいじくる音。

鍵がかかっているのを確認したらしく、続いてインターホンの高い音が響く。

P「誰か来た。それじゃ、実験失敗で残念だったな、明日たっぷり仕返しするから覚えとけ」

晶葉「待て! 出るな! さな――」

電源ボタンを押して通話終了。

さて来客は誰だろう、いきなりドアを開けようとしたが何だったのだろうか。

覗き穴から外を窺うと、そこには担当するアイドルの一人が立っていた。

多少の驚きとともに、鍵を開けてドアも開けて声を掛ける。

P「どうしたの早苗さん」

早苗「Pくん……里美ちゃんが……」

……あっ、もしかして仕掛け人の一人だろうか。

とうとう登場したと思ったら、ちょっと出遅れてますよ早苗さん。

P「その件ならもうバレバレなんで……って何で泣いてるんですか、役に入り込みすぎだよ」

早苗「……中に、まゆちゃん、いるんでしょ?」

P「えっ、うん、まあ、いるにはいるけどあの、違うぞ、全然いやらしいこととかはしてないですよ、健全です」

早苗「あがらせてもらうわよ」

言うが早いか、早苗さんが俺を押しのけて部屋に入る。

何故かまだばれてないつもりらしい。

まあ、まゆから失敗したと告げてもらえばいいだろう。

そのあと三人で甘いものとか食べに行こう。

早苗「まゆちゃん」

まゆ「あらぁ、早苗さん、どうしたんです?」

早苗「あんたが……よくも、里美ちゃんを」

まゆ「えっ? あっ、どうして泣いて……」

早苗「可哀想な里美ちゃん。こんなことになるなら、もっと早く手を打っておけば」

まゆ「え? あの、Pさん、これは……?」

P「ん? 仕掛け人の一人じゃないのか? ドッキリ大失敗と教えてやれ」

まゆ「いえ、実験は、私たち三人だけで……」

P「えっ、じゃあこのひと何しに来たの?」

早苗「まゆちゃん、あんた、よくもこんな事しでかしてくれたわね」

何だか、並々ならぬ雰囲気になってきた。

早苗さんは本気で泣いているようだし、本気で怒っているようにも見える。

もしかして、さとみんがまゆに酷い事をされたという情報をどこからか聞きつけて、ということか?

P「あの、早苗さん? どこから聞いたか知らないけどまゆがさとみんを――」

早苗「Pくんは黙ってて!」

怒鳴り声に驚く間もなく、凄い力で突き飛ばされた。

壁に背中を打ち、変な声が漏れる。

まゆが悲鳴を上げて立ち上がり、こちらにかけて来ようとする。
が、早苗さんに腕を掴まれ阻まれていた。

まゆは怒りと嫌悪の篭った目で睨みつけるが、しかし早苗さんは意に介した様子も無い。

そのまままゆの腕を引っ張り、床に倒す。

これは、まずいかもしれん。

止めに入ろうと、打ちつけた背中をいたたと押さえながら立ち上がる。

しかし、一歩を踏み出すより早く、一言を発するより早く、早苗さんはテーブルの上に置かれていたナイフを手に取り――。

早苗「あんたみたいなキチガイ、最初からこうしておけば良かった」

まゆの胸に思い切り、深々と根元まで突き刺した。

……えっ?

まゆが苦痛に顔をゆがめ、声にならないうめき声を漏らす。

ナイフを握る手をどかそうと必死に早苗さんの腕を掴み、身体をよじり、一度大きく咳き込んだかと思うと、そのまま脱力して動かなくなった。

P「……まゆ? 早苗さん、えっ、なに? まゆ? 早苗さんそれ、えっ?」

早苗「もっと早く、こうしておけば……あはは、誰も、里美ちゃんだって、傷つかずに……」

まゆの胸からナイフを抜き取り、早苗さんがよろよろと立ち上がる。

恐れを含んだ顔でまゆから離れるように後ずさり、壁に背をついて座り込んだ。

対照的に俺はまゆに素早く近寄り、頬に手を沿え、口元に耳を近づけてみる。

……息をしていない。

まゆが。

まゆが死んでしまった。

P「まゆ……」

胸を一突き、助かるはずも無い。

受け入れられない、こんな現実は受け入れたくない。

しかし、どうにも、受け入れるしかないようだった。

今まさに生命を散らしたまゆに対し俺がしてやれることなんて、一つしかない。

混乱する頭が、なぜかその一つだけを思い浮かべた。

心臓が止まってからも何十秒かは、脳に残った酸素の分だけ感覚が消えずにいるという都市伝説。

数秒しかないのであれば、せめてもの事を果たすべく、受け入れて行動に移すしかない。

触れているのが分かるかもしれないと思い手をとって、聞こえているかもしれないと思い言葉を紡ぐ。

P「まゆ、まゆ大好きだよ。俺もまゆが一番大好きだ」

おそらくまゆが、最も喜ぶのではないかと思われる言葉。

最後にこんな事を言うのが良いのか悪いのか今の頭では判断がつかないが、それでも言ってやりたかった。

まゆの胸に顔を埋め、名を呼び続ける。

まゆ、まゆ。
ちくしょう、なんでこんな……。

まゆ。

胸から溢れた赤いものが口の中に入ってきたが、構わず名を呼ぶ。

まゆ、まゆ。

どうして、まゆが。

ちくしょう……。

……。

……。

ちくしょう、ケチャップだこれ。

あっ、心臓も動いてるよこれ!

P「……騙しやがったな」

まゆ「……ごめんなさい」

頭を抱くように、まゆの腕が後頭部に回された。

まゆ、本当に死んでしまったかと思った。

まゆ生きてて良かった、騙されたけど本当に良かった!

P「良かった、まゆが生きてて良かった……」

まゆ「……早苗さん、撮れましたか?」

早苗「バッチリだよー」

急に和んだ空気に顔を上げ、振り返る。

いつの間にか早苗さんが、携帯のカメラをこちらに向けて構えていた。

早苗さんが携帯をちょちょいと操作し、こちらに画面を見せる。

動画が流れていた。

『まゆ、まゆ大好きだよ。俺もまゆが一番大好きだ』

P「……」

まゆ「言い値で買います」

早苗「いいよ、あげるよ。あとで送っておくから。……ええと、Pくん、ごめんね? あ、これ、刃が引っ込むナイフね」

まゆ「根元だけ本物なんです、りんごの皮を剥けるように。ごめんなさいPさん」

P「許さない」

まゆ「怒って、ますよね」

P「今は怒ってない。まゆが生きてて安心してる。でもあとで凄い怒る」
まゆ「ごめんなさい。まゆは動画欲しさにPさんが悲しむことも平気でしちゃう悪い子なんです……」

P「悪い子は嫌いだ」

まゆ「……っ! ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません……。許してください……」

P「……反省してるか?」

まゆ「して、ます」

P「そうか。じゃあ、まゆが生きてることを実感したいからこっちおいで」

まゆ「はい」

寄ってきたまゆを抱きとめ、これでもかとばかりに頭を撫でる。

頬を寄せ、吐息を感じ、実感する。

P「まゆ生きてる。良かった」

まゆ「ごめんなさい」

P「いいよ。甘いものでも食べに行って笑い話にしよう」

早苗「あっ! あたしも! 食べたいなー」

P「早苗さんは駄目」

早苗「なんでよ」

P「まゆをキチガイ呼ばわりしたから駄目」

早苗「……それは、まあ、ごめん」

まゆ「Pさん、これ、全部まゆが書いたシナリオなんです」

まゆ「早苗さんは台本に忠実にやって下さっただけなので、怒らないであげてください」

P「……早苗さんも反省してるか?」

早苗「してる、やりすぎた、ごめん」

P「じゃあ早苗さんも連れて行ってやる」

ホントにごめんね、と繰り返す早苗さん。

腕の中で小さくなっているまゆ。

ふと一つ吐息をついてから、まゆが顔を上げた。

どうしたと問うように見つめてみると、まゆは照れくさそうに、おずおずと口を開いた。

まゆ「あの、動画は持っていても、いいですか……?」
P「おはよう」

晶葉「おはよう助手……もしかして怒っているか?」

P「怒ってる、と言いたいところだが、データ取られる側の気持ちがわかったので何とも言えない」

晶葉「……やりすぎだった、かな」

P「シナリオはまゆなんだろ。まゆには十分怒っておいたから、もういいよ」

晶葉「すまなかった」

P「ああ、まゆからこれ、指輪。貸してくれてありがとうってさ」

晶葉「そうか。大事な指輪だからな」

P「で、色々聞かせて欲しいんだが」

晶葉「何でも聞いてくれたまえ」

P「今回コンピューターが出した収集するべき本当の反応は?」

晶葉「『大切な人に危機が迫ったときの反応』、対象はお分かりの通り、Pだ」

P「俺アイドルじゃないのに……。まゆを起用したのはなんで?」

晶葉「集中力と演技力のある人間が必要だったからな。心の声を聞かれても計画がばれないように、『Pさん大好き』で心を埋められるまゆが適役だった」

P「そんなの装置を外させとけばよかっただろ」

晶葉「急に外させたのでは助手に警戒されると思ってだな。まゆは心の中まで演技が完璧だっただろ」

P「全然気づかなかった。あっ、途中で怖い夢見た気がするんだけど、あれも晶葉の仕業か」

晶葉「ああ、眠りが浅くなる頃を見計らって、軽く印象付けをだな。あってもなくても良かったんだが、まあダメ押しみたいなものだ」

P「印象に残っているような、残っていないような」

晶葉「失敗だったか。ああそうだ、最初は助手が夢に見たことのような、私に危機が迫るシナリオを用意していたんだ」

P「そうなのか」

晶葉「しかしまゆが大切な人役は絶対自分がやりたいと言うもので、結局ああいう筋書きになった」

P「ほほう、大切な人役を自分でやるつもりだったのか」

晶葉「ん? そうだが?」

P「そうか、自分が俺の大切な人だという自信があるのか、ほほう」

晶葉「……何だ、それは、大切じゃないって、ことか」

P「いや、超大切。しょんぼりするな、大切だよ、凄く」

晶葉「……」

P「ほんとに、マジで」

晶葉「そうか」

P「そうだとも」

晶葉「ならいい。では次と参ろうか」

P「懲りはしないのね」

晶葉「次にコンピューターが欲する反応は『執拗なセクハラを受けたときの反応』だそうだ」

P「やるまでもないだろ。嫌がられて、俺がクビになって、終わりだ」

晶葉「いや、この会社はきみを失うわけにはいかないから大丈夫だ」

P「マジか。で、俺は誰にセクハラすればいいの、データのために仕方なく、仕方なくやるよ俺は」

晶葉「これを採取するのに最も適したアイドルは……適した人物は、『千川ちひろ』だ」

P「だから、アイドルじゃないじゃん」

http://i.imgur.com/2ndLBmh.jpg
千川ちひろ(年齢不詳の事務員。守銭奴のヒールだなどと言われているが、案外お茶目ないい人なのではという説も支持したい)
まゆを二ヶ月も書いてましたすみません。落ちてるんじゃないかと思ったら、残ってて良かった。
なれない事はするものではありませんね、次からはまた馬鹿みたいな話にします。ではまた書けたら投下しに参ります。
例のイヤホンを受け取り、晶葉の研究部屋から事務室に戻る。

音を立てないようにそっと扉を開け、入室、やはり音を立てないように閉める。

ターゲットである事務員ちひろさんは、ソファーに座って何かの資料をぺらぺらとめくっていた。

テーブルの上には湯気を立てる湯飲みが置かれていて、なにやらまったりお仕事に取り組んでいる様子。

いたずら心に多少わくわくしながら傍らまでこっそり近づき、声を掛ける。

P「おはようございます」

ちひろ「わっ! びっくりした! もう、忍び寄るのやめてって言ってるじゃないですか」

P「普通に挨拶したのに」

ちひろ「そうですね、先週は後ろでいきなりクラッカー鳴らされましたからね。その点は進歩したと言えます」

P「ちひろさんを驚かすのが生きがいだから。あれあれ、俺はちゃんと朝の挨拶したのに、ちひろさんからの挨拶が聞こえないぞ」

ちひろ「……おはようございます」

ちひろさんが頬をぷくっと膨らませて可愛い顔をしていたので、わき腹をつついて空気を吐き出させておいた。

きゃあきゃあ言いながら身体を捩って逃げようとする姿が嗜虐心をそそる。

さてしかし、苛めている場合ではないのである。

セクハラとは具体的に、どういうことをすればいいのだろうか。

真面目に普通に生きてきたので、そういうことにはとても疎いわけで。

反撃しようとしたのかなんなのか、こちらのわき腹をくすぐろうとちひろさんが手を伸ばしてきたので、がっと掴む。

華奢な体躯ごとがっちり掴まえて逆にくすぐり回してやることで返り討ちとし、さらに考える。

セクハラ、セクシャルハラスメント、性的いやがらせ。

ふむ、何かちょっと見えてきた気がする。

ちひろ「あははははっ、やめてやめて、降参、降参ですっ! あはっ、ちょっと、降参っ」

P「じゃあ解放」

さてじゃあまずはどうするか。

昨日のまゆの一件でデータを取られる側の気持ちがわかったので、あまりやりすぎないよう心がけるつもりだ。

軽くいこう、軽く。

くすぐられて嬉しそうに呼吸を荒げているちひろさんを解放し、テーブルを挟んで対面のソファーに腰を下ろす。

ちひろ(ちょっと楽しかった……言うともっとやられちゃうから言わないけど)

P(もっとやりたい)

もっとやりたかったがぐっと堪え、さっさとデータ収集をこなすとする。

では軽く、様子見のジャブ程度に。

P「ちひろさん」

ちひろ「はぁ、はぁ……な、何ですかもう。あ、そうだ遊んでる場合じゃないですよ、スタミナドリンクとエナジードリンクが10本セットに――」

P「セックスさせてください」

ちひろ「……ふん?」

変な声が漏れている。

思考は停止している模様。

漫画なら頭上に疑問符が浮かべられているような表情でぽかんとしている。

言われた言葉を確かめるため繰り返そうとしたのか口を開き、最初の一文字を発した瞬間に理解したようだ。

こちらを見つめたまま、顔がほんのり赤くなる。

ちひろ「なに言ってるんですか」
P「いや、ちひろさんとセックスしたいなと思って」

ちひろ「駄目ですよ、やめましょうよそういう冗談、ここには小さい子だって来るんだから」

P「今は俺とちひろさんしかいない。って言うか冗談ではない」

ちひろ「……」

P「……」

俯いてしまった。

凄い、恥ずかしがってる、貴重だ。

もしかして純粋乙女だったりするんだろうか。

二十台も半ばだしさすがに経験無しとかではないだろけど、いや、でもこの反応はあり得ないでもないぞこれ。

赤くなったちひろさんの思考が、イヤホンを通して聞こえてくる。

ちひろ(なにこれ、どういうことこれ)

ちひろ(プロデューサーさんもこういうこと言うんだ、ちょっと意外)

ちひろ(いつもの悪戯かな。多分そうだ、私が恥ずかしがってるの見て楽しんでるんだ)

ちひろ(それにしてもいきなりセックスとか……わっ、わっ、想像しちゃった、だめだめだめ)

ちひろ(あー、自己嫌悪、何なのもう……)

見た目に変化はないが、頭の中では凄いことになっているようだ。

どんな想像したんだろう、声が聞こえるだけで映像が送られてこないのが悔やまれる。

どうのこうのすれば見えたりとかそういう機能が無いものかと試行錯誤していると、唐突にちひろさんが立ち上がった。

読んでいた資料をソファーに置き、火照った顔で呟くように言う。

ちひろ「お茶淹れてきます。あっ、コーヒーのほうがいいですか?」

P「お茶で」

返答にはいと一つ頷き、ちひろさんが給湯室に消える。

はぐらかされたという事なのだろうか。

とりあえずメモを取っておこう。

なんて書くか、ええと、エロい想像をする、とこれでいいか。

ちひろ(びっくりした、けど、悪戯だよね。ほんと意地悪な人)

ちひろ(アイドルの子達にはすごい優しいのに、私にだけ意地悪するんだもん、困ったもので)

ちひろ(……私だけ、特別とか。いや、いやいや、ないないない、何考えてるんだろ、馬鹿みたい、あり得ない)

ちひろ(あり得たとしても困るし、会社の同僚ってだけで、別に、まあちょっと素敵かなと思ったことも無いでもないけど)

ちひろ(ライブの後とかアイドルの子達と一緒になって飛び跳ねて喜んでるところとかは可愛いと思ったりしたけど、でも)

ちひろ(男性として意識したこととかは、まあ、って言うか私が女性として見られてないし、多分)

ちひろ(あれだけ可愛い子達に囲まれてるのに、私なんて、ねえ、いや私もラブレターとか貰ったことあるけど、そういうことじゃなくて)

ちひろ(なんなのこれ、もう本当に……)

ちひろ(……)

ちひろ(お茶こぼれてた)

お茶をこぼした様子。

そして思考がすごい事になっている。

普通に可愛いと思うけどなちひろさん、茶目っ気があって、気が利いて。
ちひろ(だめだ、もうよそう、考えるのをやめよう)

ちひろ(はいやめ、やめやめ。お茶持っていって、適当にツッコミとかいれて、それであとはいつも通り)

ちひろ(ろくな抵抗とかしないからいつも意地悪されるんだ多分。強気にいかなきゃ、強気に)

ちひろ(やり返したりしよう、仕返ししよう仕返し)

そうしてお茶をこぼしたことなど無かったかのように戻ってきたちひろさん。

顔の赤みは既に引いている。

仕返しするつもりらしいから、警戒していなくては。

あの熱々のお茶を、頭からかけられたりとかするかもしれん。

いや、叩きつけられたりとか、血が出るのも覚悟しておこう。

メモ、仕返しされる。

さあ迎撃準備万端だ! おら! かかってこい!

ちひろ「はい、お待たせしました」

P「ありがとう」

ちひろ「あっ、百円になりまーす」

P「金取るのか」

ちひろ「あはは、冗談ですよーだ。変なこと言うから、仕返しです」

……仕返しが、些細過ぎる。

仕返しっていうのは、もっとこう、ねえ、悪戯を後悔するレベルでやってあげなくてはですよ。

あっ、でも悪戯も仕返しも愛がなくちゃだめだぞ、愛がないとただの犯罪者だ。

淹れてもらったお茶をすすって一息つき、湯飲みを置いて口を開く。

P「駄目ってことでしょうか」

ちひろ「はい? だめって?」

P「だから、セックスはさせてもらえないと」

ちひろ「……もう、やめましょうよ、ほんとに困ってしまいますよ私」

ちひろ(あっ、強気にいかなきゃ)

ちひろ「訴えますからね、なーんて」

P「ああ、そう」

言葉を受け、ぱたりとソファーに倒れてみる。

手足を投げ出しだらだらして見せ、がっかりしたという感情を大々的に演出してから大きな声を出す。

P「あーあ。あーあーあー! ちひろさんとセックスしてぇなあー!」

ちひろ「ちょっ……!」

P「駄目?」

ちひろ「だめですってば」

P「じゃあ諦めます。ので代わりに胸を揉ませていただいても?」

ちひろ「いただいても? じゃないですよ、何ですか胸って」

P「おっぱいを揉ませていただいても?」

ちひろ「いや言い方じゃないです」

ちひろ(強気に、強気に)

ちひろ「あっ、でも一分で一万円ならいいですよ、とか言ってみたりして」

ふふん、と悪戯っ子のような表情で言うちひろさん。
勝ったような顔をしているので、負けるものかと財布を取り出し中から一万円札を三枚抜き取る。

扇状に広げ、テーブルに置く。

P「じゃあ三分で」

ちひろ「……」

固まってしまった。

心なしかしょんぼりしているようにも見える。

しまったかもしれない、お金を出すのは流石にやりすぎだったかもしれない。

ちひろ(……新しいMP3プレーヤーが欲しかったしあとランチを豪華に、じゃなくて、だめだめ、そうじゃないでしょ私)

ちひろ(本気、じゃないよね。それともほんとに? ほんとにそういう事したいって思ってるのかな)

ちひろ(それなら普通に口説いてくださいよって感じだ。そしたら、まあ、嬉しい、とか、思うかもだし)

ちひろ(……本気でこのお金出したんだとしたら、悲しい。ちょっとがっかり)

ちひろ(お金払えばえっち出来るような女だと思われてるってことだもんね。プロデューサーさん、そんなふうに考える人じゃないとは、思うけど)

ちひろ(もしかして、馬鹿にされてるのかな、私。社員としては私のほうが少し先輩だけど、プロデューサーさんに比べたら会社への貢献度とか低いし)

ちひろ(アイドルの子達と仲良くなれるように私のことも構ってくれてるんだと思ってたけど、違うのかも、普通にイジメられてたのかも)

ちひろ(なんか凄い悲しくなってきた)

P「あの、ごめん、悪かったから、ちょっとずつ涙ぐむのは、あの、罪悪感が、アレですので」

ちひろ「……涙ぐんでないです」

P「うん、そうだ、涙ぐんでない、ないけどほら、これ、ハンカチ」

P「ちゃんと洗ってあってきれいだから是非使って、目元に当てて柔軟剤の素晴らしさを実感してみて下さい」

あわあわしながら立ち上がり、ハンカチを手にテーブルを迂回。

手渡されたハンカチで顔を隠し下を向いてしまったちひろさんの隣に腰掛け、どうしようか迷った挙句、肩を抱いて引き寄せてみた。

鼻をすする音が聞こえたので、とりあえず頭を撫でてみる。

P「あの、ごめんなさい、いや本当に」

ちひろ「……実際に、お金出すのは、やりすぎです」

P「だと思ったんですよ俺も。でもなんか、負けられないって思って、なんか、手が勝手に……」

ちひろ「ちょっと、ショックでした。お金で、からだ売るような、人だと、思われてるのかもって」

P「思ってない、全然思ってないです。あり得ないです」

ちひろ「そりゃあ、いつもお金のことばっかり、言ってるかもだし、でも、事務の仕事だし」

P「うんうん。お仕事ですものね」

ちひろ「一分一万円、とか、言った私も悪かったですけど」

P「悪くない、大丈夫、全然悪くない」

ちひろ「何か、今日のプロデューサーさん、いつもより意地悪です」

P「ごめんなさい、俺はどうしようもない意地悪クソ野郎ですごめんなさい」

ちひろ「なんで、今日は、えっちな事ばっかり、言うんですか」

P「……」

どうするかこれ。

実験ですとか言える空気ではないっぽい。

ごまかすか、そうしよう、ごまかすのが最善に決まってる。
P「反応が可愛いから、つい」

ちひろ「……なにそれ」

P「ごめんなさい。やりすぎました反省してます」

ちひろ「しかも急に優しくするし」

P「反省の証です」

ちひろ「こんなふうに抱きしめたりして、勘違いされるとか思わないんですか」

P「勘違いと言いますと」

ちひろ「……私のこと、好きなのかもとか」

P「いや、そこは、好きに決まっているでしょうに」

俺という人間は、嫌いな奴とは目も合わせないし言葉も交わさないというタイプの協調性皆無野郎なのである。

撫でたり慰めたりしている時点でかなり好意的に思っているということを読み取って欲しい。

というか、こんなに愛らしい事務員さんを嫌う人間なんていないでしょうに。

金の亡者で鬼や悪魔をぶん殴ってへらへら笑うレベルの性悪とかならまだしも。

アイドル達にも慕われているのに、もしかして気づいていなかったりするのだろうか。

ちひろ(……好きなんだ)

P「さて、俺の大好きな優しいちひろさんは、そろそろ許してくれる頃合いなんじゃないかと思うのですが」

ちひろ「どうしようかな」

P「じゃあお昼おごるから許して」

ちひろ「お金で解決ですか」

P「じゃあ夕飯もおごるから許して。今日は頑張って早く終わらせて飲みに行こう」

ちひろ「酔わせていやらしいことする気ですね」

P「しない、絶対しない、神に誓って。両親の名誉にかけてもいい」

ちひろ「……もうよく分かんない」

P「ん?」

ちひろ「お店、私が決めてもいいなら奢られてあげます」

P「お手柔らかに」

ちひろ「だめです、手加減無しです」

P「致し方ない」

ちひろ「……あの、お化粧直しに行きたいんで、その、離してもらえると」

P「泣き止んでますか?」

ちひろ「もともと泣いてないです」

P「そうですね」

最後に強くぎゅっとしてやわらかさと温かみを堪能し、二回ほど撫でてからやっと解放する。

顔は上げずにハンカチで隠したままゆるゆる離れていくので、どんな表情をしているのかは確認できなかった。

ちひろ(プロデューサーさん、そっか、好きなんだ。なんか、さらっと言われちゃった)

ちひろ(返事、どうしたらいいだろ。何か、タイミングが……っていうか、私はどう思ってるんでしょう)

ちひろ(プロデューサーさんの近くにいると安心するっていうのは、事実なんだよなぁ。ハグされるの気持ちよかったし)

ちひろ(……今日一日、考えさせてもらおう。夜のご飯のときに返事すれば、いいよね)

ちひろ(お仕事頑張って、早く終わらせられるようにしよう)
P(……)

ええと、メモ、仕事に対して意欲的になる。

……このメモ合ってるか? 何か違うような気がするんだが。

何を間違えているのか考えていると、トイレに向かっていたちひろさんが振り返り、そういえば、と口を開いた。

ハンカチから目元だけ覗かせ、涙の余韻を残した鼻声で続けて言う。

ちひろ「スタミナドリンクとエナジードリンクが10本セットに5本おまけが付いてくるらしいんですけど」

P「いやらしい話をした後にスタミナドリンクって言われると、変な想像をしてしまう」

ちひろ「……ばか」

P「冗談、ごめん」

ちひろ「それで、どうします?」

P「50セットずつ発注しといて下さい。今日もたくさん飲む予定なんで」

ちひろ「……やっぱりいやらしいこと考えてる」

P「どえらい誤解だ」
P「見ろ、スタドリとエナドリ貰った」

晶葉「おお、よかったではないか」

P「『終業まで頑張りましょう』だって、事務員可愛いなぁおい、これもデータ収集の特典なのか。晶葉ありがとう、どっち飲みたい?」

晶葉「いや、いらんよ。それまずいんだもん」

P「そうか? 病み付きになる味だと思うけど。疲労がポンと飛ぶし」

晶葉「危ない言い方をするんじゃない。というかセクハラがどう作用すればスタドリとエナドリになるんだ」

P「よくわからん。けどなんか最終的にはなんか機嫌良かったよ」

晶葉「……ちひろっちはもしかして、言いにくいんだが、その、特殊なアレの人なのか?」

P「微妙なところだ。でも毎日悪戯してても笑顔だし、意地悪した直後でも優しいな、そういえば」

晶葉「そうなのか」

P「……」

晶葉「……」

P「ちひろっちって」

晶葉「何だ、いいではないか、結構仲が良いんだぞ私達は。さてさて次に移ろうか」

P「軽めのをお願いしますコンピューター様」

晶葉「コンピューター様によると次に採るべき反応は、えーと、『ただただ見つめられたときの反応』!」

P「らくらくじゃないか。見てればいいんだろ、見るだけ、らくらく」

晶葉「これを採るのに最適なアイドルは……『片桐早苗』だ!」

http://i.imgur.com/uUK5V63.jpg
片桐早苗(28歳。はっちゃっけっぷりが素敵なお姉さん。トランジスタグラマーとかいう謎の才能の持ち主)

P「その人、俺がデータ収集してるの知ってるだろ」

晶葉「知っているな」

P「心の声の件も知ってるのか?」

晶葉「知っているはずだ」

P「どうすんだよ」

晶葉「知っているからこそ取れる反応もあるはずだ。どうにかこうにか、なんやかややってうやむやとこう、いい感じに」

P「アドバイス下手!」
そういうわけで事務員でした。何だかいい人過ぎたような気もするけど、まあ、大丈夫、多分。
さて前回で早苗さんの印象が何だかなという感じになってしまったので、次は急遽早苗さん救済回です。
ではまた書けたら投下しに来ますです。

20:41│モバマス 
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