2013年11月05日

未央「誰か私を、助けて」

私も含め、みんなが走っている。
前に進もうとみんなは全力だ。

当然私も全力で走っている。スタート地点も同じ。
でも、差はみるみると広がっている。


こんなはずじゃないのに、私だって全力なのに。
なのに、どうして?

みんなはもう見えないぐらい、遠いところまでいってしまった。
私はそれでも走って、走って、走って、必死に走り続ける。

でも、もうそれも限界だ。

私はついに力尽きて、倒れそうに―――

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未央「うわぁ!」

そこでやっと目が覚める。体は汗でびしょびしょだ。

未央「はぁ……はぁ……」

荒くなった息を、少しずつ整えていく。
そうしてある程度息が整ったあと、私はつぶやいた。

未央「……また、この夢」

もう何度目だろう。この夢は。
ここのところ同じ夢しか見ていない気がする。

なぜこんな夢ばかり見るのか……心当たりは、ある。
きっとあの夢は、今の自分の状況を示したもの、なんだと思う。

しまむーとしぶりんは、そこそこ有名なアイドルとして活躍している。
対して自分はまだテレビはおろか、まともな仕事をもらったこともない。

私たちは同じ時期にアイドルとなって、同じようにレッスンを受けていたはずだ。

それが今は……。

未央「……でも、私は絶対に倒れたりなんか……諦めたりなんか、しないよ」

そう一人で、つぶやいて、事務所に向かうのだった。
【事務所】


事務所に着いたあと、ホワイトボードで予定表を確認する。
うん、いつもどおりレッスンだ。

その時いつも私は、しまむーとしぶりんの予定は見ないようにしている。
見たって多分、テンションが下がるだけだし。

……最初のころは、しまむーとしぶりんの仕事の予定が増えると
まるで自分のことかのように喜んでいた。



いつからなんだろう。仲間の予定が増えても嬉しくなくなったのは。


どうしてなんだろう。いっしょにみんなで、喜べなくなったのは。



考えても、答えは見つからない。
いや、見つけたくないから目をそらしているだけだ。


これ以上は考えていても無駄だと感じた私は、
逃げるようにレッスン場へと移動した。
【レッスン場】


レッスン場へと移動した私は、さっそくトレーナーさんにレッスンをしてもらう。

何度も繰り返したレッスンだ。難なくダンスをこなしていく。
歌もそれなり、表現も結構できている。

よし、今日もいい感じだ。

トレーナー「わー……! 凄くいいね!」

未央「えへん! そりゃそうですよ! 伊達にレッスンしてませんから!」

トレーナー「うんうん、これなら有名なアイドルになるのも、そう遠くはないね!」

その台詞も何回聞いただろうか……だいぶ前から聞いている気がする。

私はまだ有名になれていない。
あと何回聞いたら、果たしてみんなと肩を並べるくらいに有名になれるのか。

未央「う……うん! そのとーおり!!」

未央「もう、バーンと!超有名アイドルに!なっちゃいますから!」

こんなのただの強がりだ。
心の中ではそんなの無理だって思ってる。

なれるんだったらとっくの前に―――――



――いや違う、絶対にトップアイドルになれる。

私なら絶対になれる。


……でも、あんなに努力したのに、あんなに頑張ったのに

私はまだこんなところに立っている。


いや、違う、違う、違う。私はなれる、なれる、なれる。



朝に諦めないと言った私はどうした。


私は絶対に諦めないんだ。しまむーと、しぶりんと、3人で同じステージに立つんだ。


みんなで一緒に歌うんだ、踊るんだ、笑うんだ。



夢だったアイドルをこんなところで、捨てるもんか



よし……もう大丈夫だ。
さっきの弱気な私は、もういない

「まだ」普段通りの私でいられる


……まだ?


つまり、それって――――
トレーナー「――ちゃん、未央ちゃん?」

未央「……えっ?」

トレーナー「ぼーっとしてたけど、大丈夫?」

未央「あ……すいません!」

全然声が聞こえてなかった……。
まずいまずい、今はまだレッスン中だ。
気をちゃんと引き締めないと。

トレーナー「疲れた? それなら休憩いれるけど……」

未央「大丈夫大丈夫! まだまだ元気全開です! ほら!」

私は体を、ブンブンと動かして元気なアピールをする。

トレーナー「だったらいいんだけど……じゃあレッスン、再開しますね」

未央「はい! ドーンと来い!」


そこからは、いつもと同じようにレッスンを進めていった。
今日はここまでにします
トレーナー「はい! これでレッスン終了!」

未央「うぃー……疲れたー……」

あとは着替えて事務所に戻って、予定を改めて確認。
明日の準備とかをしたら帰宅、って感じかな。

トレーナー「今日もお疲れ様! 未央ちゃん!」

未央「うん、お疲れ様ー!」

お別れの挨拶をしたあと私は着替えて事務所に向かった。
【事務所】


事務所の扉の前までやってきた。
軽快に開けて入ると、そこには久しぶりに見る仲間の姿があった。

いや、実際に会うのは久しぶりなだけで、テレビとかじゃたまに見かけたりはしてたけど。

卯月「あっ、未央ちゃん、久しぶりだね!」

凛「久しぶり、未央」

二人が気づいてこっちに声をかけてきた。
とても嬉しそうな声だ。

未央「……うん! しまむー、しぶりん、ひっさしぶりー!」

でも私は、素直に喜べず、愛想笑顔をするしかなかった。


このままだと笑顔が偽物だとバレる。


そう思った私はバレないように、私は質問をしてごまかすことにした。

未央「そういえばこんなところで、どうしたの? 」

こんなところというのもおかしいが、二人は基本的にはテレビやラジオの収録なんかで事務所にはいないはずだ。
だから実際に、約1ヶ月ぐらい会えなかったわけだし。

卯月「うん、ちょっとここでミーティングをしてて」

凛「デレラジの内容について、ちょっともっとここはこうしたほうがいい、って話をしてたの」

卯月「いつも同じ内容だと視聴者が飽きるから、そうならないようにね」

デレラジ、しまむーとしぶりん、そしてみかねえがパーソナリティとして進行していくラジオ番組だ。
当然そこに、私の名前はない。

未央「……そ、そーなんだ! うんうん、二人とも真面目だねー」

なぜか私は少し言葉に詰まりながらも、なんとか言葉を返した

卯月「えへへ、真面目だなんてそんな……」

凛「いや、卯月は真面目、だと思うよ」

卯月「凛ちゃんまで……凛ちゃんのほうが真面目だよ?」

凛「でも卯月のほうがこの前……」

そうして二人の褒め合い合戦のようなものが始まった。
よかった、私の少しだけ不自然な対応には気づかなかったようだ。


……うん、二人の邪魔をこれ以上悪いし、まずいことになる前にそろそろ確認をして帰ろう。

そう思って動こうとした瞬間、今度は向こうのほうから質問がきた。

凛「未央のほうは、どう?」
とりあえずここまで、また夜くるかも
――――――――――――――――――――――――――――


『このままじゃ私たち、アイドルになれない……』


『あと70人も集めないと……』





『――――大丈夫』



『さっきだってチャンス、もらえたんだし、諦めなかったらなんとかなるよ』



『だから、がんばろ?』





『凛ちゃん……うん! 私も頑張ってみるね!』





『それでさ、どうせダメならダメで、最後はアイドルらしいことをしたいって思うんだ』


『……! じゃあさ、こういうのはどうかな……』


『アカペラライブ……それなら、みんなでできるね』




『(未央ちゃん……震えてる……)』


『(凛ちゃんも……顔色が……)』


『(そっか……本当は二人も怖いんだ……なら)』



『ね、二人共』




『笑顔、笑顔! えへへっ!』



『じゃあみんな、いっくよー!』




あ……どうしよう

みんなで歌うの……気持ちいい―――



できることなら―――……


こうしてずっと――――……


――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――





あの時の試験――――本当は私、諦めかけていて


―――でも、二人はそうじゃなくて




どうして私が、頑張れるのかって?



それは――――





――――――――――――――――――――――――――――
未央「自分に負けたくない」



未央「違う、いや、それもあるけど」



未央「一番の、本当の理由は」







未央「二人に、負けたくないから」





「…………」





そっか、そういえば、そうだった

私、根っからの負けず嫌いだった


未央「そうだ、だから私も諦めないんだ」


なんで忘れていたんだろう。

これが私の、一番の武器だった。

これがあったから、走り続けてきたんだ。


未央「二人は今だって、トップアイドルを目指して走り続けてる」


それなのに、こんなとこで挫けてたら、二人に笑われちゃう。


未央「だから私は、私も、走り続けるんだ」


未央「二人に追いつこうって、ここまでやってきたんだ」


それなのに私は、何か勘違いをしていた。


二人がいるから、走り続けてこられたようなものなのに。

二人との競争があって、走ってこられたのに。
未央「……っ」


そんな二人に、私はひどいことを言ってしまった。

こんなのだめだ。このままじゃだめだ。



未央「……ごめん! ちょっと行ってくる!」


「……おっと、待て待て」

「君、そんな足じゃ行くの辛いだろ」


未央「で、でも、今すぐ行かないと……」


そうだ、今すぐ行かないと、手遅れになるかもしれない。

今の時点で、もう手遅れなのかもしれないけど、それでも。



「だから俺が付き合って……ん?」



「……いや、大丈夫だ、ここで待ってれば」



……大丈夫? それはどういう意味だろう?



「んじゃ、お邪魔虫は、ここらで退散させてもらうよ」




未央「あ、ちょっと……!」


なんの説明もなしに、お兄さんは去っていった。

さっきの言葉の今は、一体……?



そう思ったすぐあとに、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
卯月「未央ちゃーん!」

凛「未央ー!」



しまむーとしぶりん……?

まさか、私を探しに……?



卯月「あ、あそこ!」

凛「え……あ!」



こっちに向かって二人は走ってきた。



凛「はぁ……はぁ……探したよ」

卯月「もう……私たちの話も聞かないで……」


未央「しぶりん……しまむー……」


私は急な出来事で、何を言えばいいのかわからなくなる

とにかく、今一番にしないといけないのは……謝ることだ


未央「あの! 二人とも……」







凛「ちょっと待って」



謝る前に、止められた。


凛「私がなんであそこで怒ったか、わかる?」


未央「それは……」


私が嫉妬して、ひどいことを言ったから。

そう思ってたけど。


凛「別に、文句言われるのも、嫉妬されるのも、いい」


凛「でも、『どうだっていい』なんて私は、いや私たちは、一度も思ったことはない」


でも、二人は……今日だって……。


卯月「えへへ、今日もミーティングだって言ってたけど、本当は……」


まさか、ミーティングじゃなくて、本当は……


凛「ちょ、そ、それは言わなくていい」


卯月「え? でも言ったほうが未央ちゃんにもちゃんと気持ちが……」




凛「と、とにかく! 私たちは未央のことを忘れたり、ないがしろにしたことなんて一度もない」




凛「だって」







凛「私たち三人そろって『ニュージェネレーション』でしょ?」




それは、いつの日か私たちが決めた、ユニット名。

三人でユニットを組むときの名前にしようと、決めたんだっけ。

まだ、覚えててくれたんだ。


卯月「だから、言いたいことがあったら、別になんでも言ってくれていいよ」

卯月「あ、でも、今日の絶交みたいなことはダメ」



未央「二人とも……」


また涙が出てくる。なんだか今日は泣いてばっかりだ。



未央「ごめん……本当にごめんね……」





何やってるんだ、私。

二人に負けっぱなしじゃないか。



こんなんじゃ、ダメだよね。

ごめんね、こんなダメな私なのに、こんなに優しくしてもらって。










卯月「もう! 謝る必要もないよ?」






卯月「だって私たち、親友だもん!」











今日、私が頑張れる理由が、もう一個増えた。







親友だから、だね





正直、予想外な答えだった。

自分としては、約束したからとか、トップアイドルになりたいからとか。

もしくは一緒に歌いたい、踊りたい、そんな感じの答えが返ってくると思った。

いや、それらもあるんだろう、でも、それを押しのけた一番の理由。



「負けたくない……か」



それに、あの二人との信頼関係。

わざわざ探しにくるなんてな。



「親友……」



前も、似たような言葉をよく聞いた。

『仲間』という言葉を。


久しぶりだ。こんなに、女の子を輝かせたいと思ったのは。

ある意味、一目惚れだ。


初めてみた瞬間から、この子は輝けると思っていた。

それがさっきの話し合いで、確信に変わった

あの子は輝ける。

でも、今のままじゃだめだ。


「……久しぶりに、再開しようか」



俺が前まで、やっていた仕事。


アイドルプロデュースを。


すいません! 予定より超遅くなりました!
正直サボってました! 本当にすいません!

とりあえず今日はここまでです。
【事務所】

あれから1週間が経った。

二人と仲直りした私は、この気持ちを忘れないようにしながら
アイドルを続けるようにしている。

しかしあんなことがあってもアイドルの方はなんの変化もなし。
ちょっとぐらい何か覚醒みたいな感じであっても良かったのに……。

そう思っていたとき、ちひろさんに声をかけられた。


ちひろ「あ、未央ちゃん! 今日はとても良いニュースがあるわよ!」


まさかこのタイミングは……!

そう思って私の期待はマックスになる。


ちひろ「実はね……?」


実は……?

ど、どうなるの……?

そんなに溜められると、私……うぅ!

は、早く早く!






ちひろ「未央ちゃんに専属プロデューサーがつくことになりました!」
……プロデューサー?

期待していたものとは違った。
う、嬉しいような、そうでもないような……。

そもそもプロデューサーがいるとどうなるんだろう?
仕事をとってきてくれたりするのかな?

だったらもの凄く嬉しいけど……。




ちひろ「しかもただのプロデューサーじゃなくて……」


「あ、ちひろさん」



ちひろさんが話している途中に、今話題になっていたその人は来た。



ちひろ「あ、プロデューサーさん、おはようございます!」

P「どうも、おはようございます」


この人がプロデューサー……?


P「お、君は……」



……あれ? どっかで見たことあるような……?

うーん……結構最近だと思うんだけど……

最近……最近といえば……?

って、あ、ああああああ!

未央「お、お兄さん!?」

P「おー、覚えててくれてたか、そうそうお兄さんだ。ただ、そのいい方は誤解されるからやめてくれ」

ちひろ「あれ? 未央ちゃんと兄妹なんですか?」

未央「あぁあぁ、違います違います! 一応知り合いで、私が名前を知らなかったからそう読んでただけです!」



しかしまさかこの人がプロデューサーになるなんて……

だ、大丈夫なんだろうか?


未央「え、えぇーと……失礼なのを前提で聞くんですけど……だ、大丈夫なんですか?」

P「本当に失礼だな、おい」

未央「あはは、いやぁ……そんな褒められても……」

P「いや、褒めてないが?」

未央「テンプレとしてやったほうがいいかと思って」

P「……まあ、さっきの質問だが、大丈夫だ、これでも一応元プロデューサーだから」



あー、なんか仕事で私のこと知っているとか言ってたなぁ。

プロデューサーだったのかー。ふむふむ。



ちひろ「ふふっ、これだけ仲が良さそうなら、プロデューサーさんに任せても大丈夫そうですね」

P「仲が良いというか、馬鹿にされてるというか……」

未央「あ、もしも大丈夫じゃなさそうだったらどうするつもりだったんですか?」


興味本位でちひろさんにそう聞いてみた。


ちひろ「金を巻き上げるだけ巻き上げて、捨ててました」ニコォ

P「……お、おおぅ……」

未央「……なんか、ごめんなさい」


やっぱりちひろさんは怖い。

それだけ事務所のアイドルたちを大切にしてるというのもあるんだろうけど。

そう考えるとちょっと嬉しかったりもした。



P「ま、まぁ話はこれぐらいにして、そろそろ活動を始めよう!」

そういってプロデューサーは私に目配せをする。

未央「え……あ、は、はい!」

ちひろ「ふふっ、頑張ってくださいね、二人共」



ちひろさんに見送られながら、私たちは外に出て、車に乗り込んだ。

……プロデューサーは、少し汗をかいていた。
今日はここまで。あまりの更新の遅さに俺がビックリ。
構想は固まってても文章にしようとすると難しいものですね。
【車内】

無駄な話もいいけど、とりあえずは気になってることを質問しようと話しかけた。

未央「ところでお兄さん」

P「あ、そうそう、これからはプロデューサーと呼ぶようにな」

そういえば、そうだった。
これからはプロデューサーなんだ。

未央「りょーかい、プロデューサー」

P「ん、完璧だ」

こんなことで完璧も何もないと思うが。
まあいっか。悪い気はしないし。

未央「で、質問なんだけど」

P「なんだ?」

未央「活動って、なにをするの?」

P「あぁ、そういえばまだ言ってなかったな」

そういってプロデューサーは器用に運転しながら
私の質問に答える。

P「まずはレッスン場にいく、そこに俺のツテで特別コーチが来る」

P「特別コーチが来るまで軽いミーティング、来たらレッスン開始だ」

未央「……特別コーチ?」

P「ああ、とっておきのな」

とっておきのコーチ……誰なんだろう?

未央「そのコーチって、私も知ってる人?」

P「知ってるな、知ってなかったら俺がちょっとショックだ」

未央「へえ……ねえねえ教えてよ!」

P「それは来るまでのお楽しみだ」

そういったプロデューサーは少し笑顔だった。
うーん、分からない……。

私は頭を悩ませながらレッスン場まで向かうことになったのだった。
すいません。さっきのちょっと嘘です。
本当はここまでで投下終了です。本当にすいません。

20:43│本田未央 
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