2013年11月06日

小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season3

第二十六夜 百物語


小梅「白坂小梅の……ラジオ百物語」

ほたる「第三シーズンっ!……が、がんばりました」

茄子「はい。みなさん、こんばんは。白坂小梅のラジオ百物語、第三シーズンの始まりです」

白坂小梅(13)
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白菊ほたる(13)
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鷹富士茄子(20)
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377432933



小梅「第三シーズン……。なんだか、ずいぶんやってきた感じ……」

茄子「そうですねえ。でも、ここで失速してはいけませんよね」

ほたる「……ええ、がんばらないと」

小梅「あんまりがんばるのも……。怪談、だから……」

ほたる「あ、そ、そうですね……」

茄子「ふふっ。でも、いろいろと楽しめるといいですね。今シーズンも」

小梅「う、うん」

ほたる「そういえば……前回のシーズンは偶数シーズンということで、ゲストさんが多めでしたが……」

茄子「奇数シーズンの今回は私たちがメインとなりますね」

小梅「……三人で……ゆっくり? さっぱり? うぅん?」

茄子「怪談ですし、しっとり、ですかね」

小梅「あ、そ、それ……」

ほたる「なるほど……。しっとり……」


茄子「さて、第二シーズンの感想のメールなどたくさんいただいておりますが、それらを読むのは後回しにしまして……」

小梅「うん、今日は……アイドル百物語から。実は……今回は百物語についてのお話」

ほたる「へえ……」

茄子「百物語についてですか……」

小梅「うん。実際に……百物語をした経験があるって……」

茄子「なにやら面白そうですね。一体どなたなんでしょうか?」

小梅「えと……柊志乃さん」

ほたる「それでは……柊志乃さんのお話、お聞きください」
柊志乃(31)
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○一言質問
小梅「これまでで一番背筋が凍えた時は……?」
志乃「前日は新宿で飲んだはずなのに、起きたら静岡にいた時かしらね」

 こんばんは……小梅ちゃん。
 いい夜ね。
 酔うにも、語るにも。

 うふふ……。
 いやだ、プロデューサー。

 さすがに小梅ちゃんにワインを勧めたりはしないわよ。
 それは、もっと先のお楽しみ。

 さてと……怪談だったわよね。

 それなら、ちょうどいい話があるわ。
 私が、昔……そう、怪談会に参加した時のお話。

 いまから、七年……いえ、八年だったかしら。
 それくらい前のこと
 蒸し暑い夏の夜に、なにか変わったことで夜明かしをしようと、そう決めた一団があったのよ。

 その中に、私もいたの。

 ……と言っても、私はその頃から、ゆっくりワインが味わえればそれでいいと思っていたけれど。
 ただ、ノリがよくて、さらには実行力のある人がその中にいたのね。
 たしか、どこかの社長だとか言ってたかしら。


 私がワインを味わってる間に、あれよあれよという間に話ができあがっていたの。
 その人が後援しているとある劇団の練習場で百物語を開催しようって、そんな話がね。

 月も見えない曇り空の蒸した空気の中、私たちは、その練習場とやらに移動したわ。
 薄暗い中で見る限り、ただだだっ広いだけの場所に見えたわね。

 そこで、私たちは怪談を始めたの。
 そう……百物語をね。

 小梅ちゃんのことだから……百物語の本当の作法を知っているかしら?

 ええ、そう……ろうそくを立てるのではないやつね。
 行灯に青い覆いをして、百本の灯心を入れる。
 そうして、話が一つ終わるごとに灯心を引き抜いていく……。

 それが、昔々の百物語の作法。

 本当はいくつか部屋を隔てたところに行灯を置いて、わずかな青白い灯りの中話すものらしいけれど……。
 さすがにそこまではできないから、劇団の小道具の行灯を練習場の端において、私たちは逆の隅に集まったわ。

 それでも、行灯の光しかない中に飲み仲間の青白い顔が浮かぶっていうのは、一種幻想的な光景だったわね。

 話が終わるごとに行灯から灯心を引き抜きに行く。
 たったそれだけのことなのに、暗い中を一人進んで行くのは心細いものよ。

 たとえ、後ろに友人たちがいると知っていても……。
 いえ、知っているからこそ、無様なことはできないし、余計に気が張っていたかもしれないわね。

 怪談話は進んでいったわ。
 まあ、みんな知っているようなものやら、ちょっとそれは怪談なのかって思うようなものまで混じり初めて……。

 それでも、空気というのかしら。
 私たちはひたすらに話を進めていった。

 そういえば、百の話を終えると、怪異が現れるというね、とふと漏らす人がいたわ。
 そうらしいわね、という賛同の声。

 いくつか話をすると、今度はまた別の人が、百の灯りを消したら、現れるものはなにか決まっているのかい? と尋ねる。
 さあ、どうなのかな、曖昧な声がそう応じる。

 そんなことが何度かあって、おい、どうした、と誰かが言ったのね。
 なにを気にしてるんだ、と。

 顔を見あわせて黙り込む一同。

 そうして、しばらくして、何人かが口をそろえて言い出したのよ。
 行灯の上に……なにかいるってね。

 私たちの視線はもちろん、行灯に向かった。

 そうしたらね……。
 いたのよ。

 たしかに行灯の上に、なにかの影があるの。
 慌てて、ここをよく知っている件の社長さんが、灯りをつけたの。
 行灯じゃない、蛍光灯をね。

 そこでぱっと消えていたら、それはそれで面白かったんでしょうけれど……。

 残念なことに、それは消えていなかった。
 それどころか、はっきりと見えてしまったのよ。

 青い光を発する行灯の上、そこに、女性がいるのが。

 いいえ、浮いていたのではないの。
 ああ、いえ……。
 浮いているとも言えるのかしら?

 それは、なにか帯のようなもので首をつっていたのよ。

 人が驚くと、どうなるか知っている?
 きっかけがあれば恐慌状態になるんでしょうけれど……。
 私たちの場合は、むしろ魂が抜けたようになってしまったわ。

 悲鳴を上げるでもなく、呆然とそれに近づいていったの。

 怖いとか不気味とか以前に、わけがわからないって気持ちが強かったのでしょうね。
 それが実在のものなのか、それとも、霊だとかそういう……まあ、変なものなのか、それもわからなかったから。

 だって……私たちが入ってきた時には当然そんなものはなかったし、百物語をしている最中に首を吊ることなんてできるものかしら?

 そうして、私たちはそれを見た。

 でもね、やっぱり顔って見られるものじゃないのよ。
 首を吊っているらしいこと、浴衣らしきものを着ているその体のラインからして女性であること。

 そこまでは判別しても、顔はなかなか見られない。

 ところがね、大胆な人が……あるいは短気だったのか、緊張に耐えられなかったのか、そのあたりはわからないけれど……。
 とにもかくにも一人が顔を見たの。

 そうして、

『Kだ!』

 って彼は叫んだわ。

 私たちはその声に、揃ってその首をくくった女性の顔を見た。

 苦しそうに歪み切った、鬱血した顔。
 でも、それは、たしかに飲み仲間のKそのもので……。

 そして、そのKは、その場にいたの。

 だから、おぞましい縊死者の顔に集まっていたみんなの視線は、一斉に、そこに立つはずのKの顔に移ったわ。

 そこに、Kはいた。

 真っ青な顔でね。
 けれど、たしかに生きた人間として。

 そのことにみんなで驚いて、もう一度振り向いたら……。
 もう首を吊っている女は消えていたのよ。



 幻だったのか。
 みんなが百物語の雰囲気と暑さにやられてしまったのか。

 なんだったのかはわからないし、誰も語ろうとしなかった。

 もちろん、その後で百物語は続くことはなく……。
 それどころか、この夜のことを話題に出す人はいないくらいだった。

 でも……。
 それから、二年くらいしてからかしらね。

 人づてにある話を聞いたのは。


 Kが自殺したって。

 え?
 首をくくったのかって?

 さあ……。そこまでは知らないわ。


茄子「……不思議というか、なんというか……」

ほたる「不気味な話……ですね」

小梅「う、うん」

茄子「未来の自分を見たとも、あるいは、これを見てしまったから死を選んだとも取れるお話ですが……」

ほたる「真実は……わかりませんよね」

小梅「……でも、なにかは、あった……」

茄子「そうですね……。しかし、語り終えてもいないのに出現していたんですよね……?」

ほたる「百の物語が語られたら……という噂はありますが」

小梅「う、うん。百物語が降霊の儀式って考える人は……いる。でも、怪談話をしてるとそれだけで寄ってくるとも……言う」

茄子「実際の所はどうなんでしょうねえ……」

ほたる「ええと……果たして、どんなことが作用して、どんな結果を生み出すかはわかりませんが、次のコーナーでは、物語を語ることで……」


 第二十六夜 終

 そんなわけで、第三シーズンスタートです。
 今回は、岡本綺堂の『百物語』あるいは、それの原話となった『首くくりの女』(宝暦頃の綺談随筆集に収録)を元にしたお話でした。
 古典的ですが、シーズンスタートには似合っていると考え、志乃さんに語ってもらいました。
 前スレ等は>>1のWikiページからリダイレクトした先に記させてもらいました。
 あるいは
http://ss.vip2ch.com/ss/小梅「白坂小梅のラジオ百物語」
 からどうぞ
 なお、今回からトリップをつけております。

 では、今スレもよろしくお願いいたします

第二十九夜 海


茄子「それでは、本日もアイドル百物語のお時間となりました」

ほたる「今日は……いったいどんな?」

小梅「今日の話は……海でのお話」

茄子「海ですかー。山もそうですが、海も怪談は結構聞きますよね」

ほたる「昔の……船幽霊とか……」

小梅「うん。山や海は……一つ間違えると死と隣り合わせだし……。不思議な話もたくさんある」

茄子「海難事故はいまでも大変ですからね」


小梅「うん。事故で遺体があがらないこともあるから……」

ほたる「いつまでも行方不明というのは……つらいですね」

小梅「だから……。『戻ってくる』話は多い。今回はそれはあんまり関係ないけど……」

茄子「今回はどなたのところに?」

小梅「……及川雫さん」

ほたる「及川さんはあまり海……というイメージではないですが……」

小梅「うん。だから、旅行の時のお話……みたい」

茄子「なるほど。……では、及川さんのお話です。お聞きください」

及川雫(16)
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○一言質問
小梅「超常現象に……遭遇したい?」
雫「うーん。あんまり怖いのはいやですねー。あ、でも、件さんは会ってみたいです。牛さんなんですよねー?」

 こんにちは、小梅ちゃん。

 今日は怖いお話なんですよねー?
 はい?
 怖くなくてもおかしなお話ならなんでもいい?

 そうですかー。
 じゃあ、私の話でも大丈夫かなー?

 私自身は実体験だから怖いお話だと思ってるんですけど……。
 試しにプロデューサーさんに話してみたらそうでもないかなって思っちゃって。

 え?
 感じ取り方はそれぞれだから、あんまり気にしなくていい?
 なるほどー。ありがとうございます。

 じゃあ、始めますねー。
 これは、私が臨海学校で海に行った時の話ですー。

 実家の近くは、海水浴場が無いので、なかなか海に行くのって難しいんです。
 最近はお仕事でビーチに行ったりするんで、私は楽しんでるんですけどねー。

 あ、違いました。臨海学校の話でした。

 えっと、そういうわけで、うちの地方の学校は臨海学校として、海に出かけてくんですよー。
 私は小学校、中学校と行きました。

 今日は、中学校の時のお話です。

 臨海学校の二日目に、遠泳の時間があったんです。
 臨海学校に行ったみんながみんな遠泳したってわけじゃないんですよ。
 泳ぐのがそれほど得意じゃない人は浜辺にいましたし、漁業関連の資料館に行ったグループなんかもあったはずです。

 でも、私はせっかくの海だったんでいっぱい泳ぎたくて。
 遠泳のグループに申し込んだんですよ。

 土地の方に船を出してもらって、先生たちがその船で併走する横を、みんなで一生懸命泳ぐんです。

 でも、やっぱりそこまで海に慣れてませんから。
 すぐに限界って人が出てきて、その子たちは船に乗って、みんなを応援するんですね。

 私もしばらくは泳いでたんですけど、どれくらいですかねー……。
 自分では結構泳いだなってところで、船に乗ったんです。

 それからは、まだ泳いでいる友達を応援しつつ、ぼーっと波間を眺めたりしてました。
 揺れる船の上でどこまでも続く海を眺めてるって……。
 なんだか不思議な気持ちになるものですよ。

 もしかしたら、これって海の近くに住んでる人にはわかりにくい感覚かもしれませんねー。
 海が珍しいものじゃないんですものね。

 ともあれ、そうして眺めていたら、別のグループが近づいてくるのが見えたんです。
 数人の人の頭が固まってこちらに近づいてくるのが。

 地元の人かなー。
 それとも、私たちと同じく遊びに来た人かなー。
 そんなことを考えながら、そちらを見てました。

 ところがですね。

 近づくその人たちの様子がなんだか変なんです。
 なにが変なのか、船の上から見ている私はずっと気づかなかったんですけど……。

 そちらを見た遠泳中の友達の一人が悲鳴を上げて、ようやくわかりました。

『く、首っ!』

 彼女はそう叫んで船に転がるように上がってきたんです。

 ああ、そうか、と私は思いました。
 近づいてくる集団には、いつまで経っても体が見えなかったんです。

 水の下ですから、遠ければ見えないこともあるでしょう。
 でも、すぐそこに来ているのに、首の下にあるはずのなにも見えなかったら?
 体を動かしている気配すらなかったら?

 そうなんです。
 その首の……首たちの下にはなにもなかったんです。

 ただ、長い髪が……黒々と水に揺れるだけで……。

『生首が寄ってきてる!』

 誰かがそう言った途端、遠泳してた子たちはみんなパニックになりました。
 先生たちが大声で船に上がってこいと叫び、わらわらとみんなが船に取りすがり……。

 私はそんな中で、なんとなく生首をまだ見てました。

 一、二、三、四……。
 数えてみると、全部で七個。

 しかも見る限りは女の人のものばかり、七つもありました。
 そう、女の人の生首が七個

 七人も一度に亡くなられたのかな……。
 私はそんなことを思って、なんだか悲しくなりました。

 でも、そんなにたくさんの女の人の生首が見つかった、ってなったら、大きなニュースになると思いませんか?

 ええ、そうです。
 実際には事件として取り上げられていないことでわかるとおり、それは、海を流れてきたご遺体じゃあなかったんです。

 っていうのも……。


 けらけら笑い出したんですよ。


 その首たちが。

 それまでたしかにつぶられていたはずの目をかっと見開いて、私たちを見て……笑ってる。

 もうパニックなんてものじゃありませんでした。
 みんな、船の上で腰を抜かしてましたよ。

 そこで、騒ぎを聞きつけて、船を動かしていた地元の漁師さんが出てきました。

『ああ、こんなもん、相手にしちゃだめだ』

 漁師さんはそう言って、ばしんばしんと銛で海面を叩きました。
 なんだか、そのとき、笑っている生首が不満そうな顔をしたのを、覚えています。

 漁師さんは、苛立ったように、銛で何度も海面を叩き、私たちにはよくわからない言葉を首たちに投げかけました。
 ええかげんにせんと、なんとかをかけるぞとかなんとか言っていたような。
 ごめんね、耳慣れない言葉だから覚えてないんです。

 それから、漁師さんは船の運転に戻って、ぐいぐいスピードを上げ……。
 生首は、するすると離れていきました。

 どこに行くのか……そもそもどこからやってきたのか……。

 七つの生首が、お互いの真っ黒な髪をからませあいながら、波間に消えていきました。

 それの正体?

 ええ、先生がかなり強い調子で漁師の方に聞いていたみたいですけど……。
 知らんほうがいい、って言われて、教えてもらえなかったらしいですよ。

 あれが妖怪とかそういうものなんですかねぇ?
 考えてみれば、目の前に現れても、ただ笑ってるだけでしたけど……ねえ。


茄子「生首が固まって……」

ほたる「七個も……」

小梅「正体はわからないけど……漁師さんの態度からすると……。あまりよくないもの、かも」

茄子「地元の人はなんとなく知っている『悪いもの』なのかもしれませんよね」

小梅「う、うん」

ほたる「そういうものがあるんですねぇ……」

茄子「でも、七つというのは、なにかありそうですね。意味ありげな数ですし……」

小梅「きょ、凶悪な亡霊だっていう、七人ミサキ……って伝説もあるけど……」

ほたる「凶悪なんですか……」

茄子「ふうむ。いずれにしても、近づかれすぎなくてよかったのかもしれませんね」

ほたる「漁師さんが追い払ってくれなかったら……」

小梅「笑い声を聞いてるだけでも……怖い結果になる話はあるし……。ともかく、雫さんやお友達に……害がなくてよかった」

茄子「そうですね、本当に」

ほたる「さて、それでは、次のコーナーは海の……特に夏の海の怪談特集を……」


 第二十九夜 終

 いやあ、夏も終わりますね。ということで海でのお話を一つ。
 雫さんは泳ぐとき胸は邪魔じゃないんでしょうか。

第三十八夜 桜


茄子「……さて、本日は次のコーナーにて終わりとなります」

ほたる「最後のコーナーは……アイドル百物語、です」

小梅「きょ、今日で第三シーズンが終わりだから……これが、最後」

茄子「それにしても第三シーズンも終わりですか。早いですね」

ほたる「でも……次の第四シーズンでようやく百物語も半分なんですよね?」

小梅「うん……。次のシーズン終わりで、ちょうど五十個だから……」

茄子「まだまだ先は長いですね。ずいぶんいろいろなお話を聞いてきた気もしますが」

ほたる「ええ、怖い話も、寂しい話も、面白い話もありましたね……」

小梅「うん……楽しい。ふふ」

茄子「さて、それでは今回はどんなお話なんでしょう?」


小梅「きょ、今日は、あいさんにお話を聞いたんだけど、あいさんらしい……お話だと思った」

ほたる「東郷……あいさんですね?」

小梅「あ、うん。そう」

茄子「東郷さんといえば、いろんな意味でかっこいい方ですよね」

小梅「うん……。それに、気を遣って……くれる」

ほたる「細やかそうですよね」

茄子「そんなあいさんらしいお話、ということですか」

ほたる「楽しみですね……。では、お聞きください」

東郷あい(23)
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○一言質問
小梅「あいさんは……怖いものってある?」
あい「怖いものばかりさ。たとえば、小梅君に嫌われたらどうしよう、とかね?」

 やあ、小梅君。

 怪談だったね。
 ……うん。
 では、はじめようか。

 これは、私がまだ髪を長くしていた頃の話だ。
 そうだな、小学生……だったかな。

 その日は週末で、休みの日だったはずだ。
 早朝、私は散歩に出た。

 実を言うと、前日に、父が家に知り合いを招いていてね。
 普段とは違う雰囲気なもので、幼い私ははしゃぎまわってしまったのさ。
 その結果、その頃にしてもずいぶん早くに寝付いてしまったんだ。
 おかげで妙に早く起きてしまった私は、悪戯心を出して早朝の散歩としゃれこんだわけさ。

 そうはいっても遠くまで行くほど分別がついてなかったわけじゃない。
 せいぜい朝ご飯までには戻れるように、私は近所を歩き回った。

 そうして、公園に近づいたところで、見知らぬ老婦人が向こうから歩いてくるのに気づいた。

 実に上品な様子でね。絣模様の着物を、こう……ぱりっと着こなしていらした。
 それだというのに、その肩に桜の枝を担いでいるのが、妙な気持ちにさせたものさ。

 いや、季節がおかしかったわけじゃない。
 桜真っ盛りの頃だったよ。
 父が知り合いを招いたというのも、花見にかこつけたものだったしね。

 でも、満開の桜の枝を担ぐなんてね。

 そもそも、桜の枝は折るものじゃない。
 そうだろう?

 こんなしっかりとした老婦人が……という気持ちが、私の胸をぎゅっと切なくさせたのさ。

『あの』

 だから、私は勇気を出して話しかけた。

『桜の枝を折るのはよくないと……思います』

 婦人は私の言葉にびっくりしたように目を見開くと、次いで実に穏やかな笑みを浮かべたものだ。

『ええ、ええ。お嬢さんの言うとおり』

 でもね、と彼女は続けた。

『これは、取り返してきたものなの』

 とね。

 不思議そうな私に、婦人は続けた。

『雨風ならば耐えられましょう。けれど、大勢で根を踏み、幹を揺らし、花見と称するだけでも、本当はつらいことなの』

 彼女は悲しそうに言っていたよ。

『まして、見ていない人のために持って行こう、なんて言って枝を折っては家に持ち帰る人に至っては、ね』

 だから、取り返して回っているのよ、と彼女は笑ったものだ。
 取り返すと言っても、どうやってそんなことを?

『興味がおありなら、見ていても構いませんよ』

 疑問に思っている私を前に婦人は言って、とある家の前に立った。
 家の扉をじっと見ながら、担いだ枝を、左右に三度振る。
 それだけして、また歩き出す。

 私は、黙って後を追いかけたよ。
 どういうことか、さっぱりだったからね。

 婦人はまた別の家の前に立ち、同じように枝を振る。


 そこで、気づいた。

 老婦人が、先ほどより若返ってはいないか?
 肌の張りが戻るどころか、身長すら変わっているように見える。
 私はごしごしと目をこすったよ。


 だが、見間違いではなかった。


 五軒目を終えた時には、もう、老婦人ではなく……。
 そうだね、いまの私くらいの女性に変じていた。

『これで、終わり』

 彼女がそう言った途端、強い風が吹いた。

 目を開けていられないほどの突風が過ぎ去ったときには、女性も、桜の枝も、もうどこにもなかったよ。
 花びら一枚も、そこには残っていなかった。

 わけがわからないまま、私は家に帰った。
 朝ご飯に遅れるわけにはいかないからね。

 この話の結末を耳にしたのは、その日の昼食時の事だ。
 井戸端会議で近所の噂を仕入れてきた母が教えてくれたのさ。

 実は、そのしばらく前に、公園の桜の中でも一番の大木の……しかも最も見目いい枝が折られていたんだそうだ。
 ところが、その朝になって、まるで折られたような痕もなく元に戻っていたらしい。

 不思議なこともあるもんだねと言い合う両親を前に、私は一人秘密を知っているというそのことに奇妙な喜びを抱いて口をつぐんでいたものさ。


ほたる「なんとも……しっとりしたお話ですね」

茄子「なるほど、あいさんらしい素敵なお話でした」

小梅「う、うん」

ほたる「なんだか、ほっとしますよね」

小梅「うん。でも……なにかの精は、怒らせると怖そうでも、ある」

茄子「たしかに……。やはり何事にも敬意をもって接するべきでしょうね」

ほたる「ううむ……」

小梅「じゃ、じゃあ、次のシーズンの……お話……」


ほたる「ええと、次回からは第四シーズンということで……。偶数シーズンはゲストさんもいらっしゃるんですよね?」

茄子「その通り。なんと、次回はお二人もゲストさんが来てくれます」

小梅「じ、次回は、しょーちゃ……星輝子さんと輿水幸子さんが、来てくれ……ます」

ほたる「三人でパーソナリティをやられるということで、私と茄子さんは……一回お休みですね」

茄子「はい。次にお会いするのは第四十夜となりますね」

小梅「ちょっと……緊張する。楽しみだけど」

ほたる「イレギュラー、ですからね」

茄子「ともあれ、今シーズンはここまでとなります。では、小梅さん。第四シーズンを前に一言」

小梅「色んなお話で、あなたたちが知らない世界に……連れていってあげる。あの子も早く、って言ってるから。また、ね」


 第三十八夜 終

 そんなわけで、第三シーズン終了です。
 おつきあいいただきまして、どうもありがとうございました。

 小梅ちゃんも言ってますが、まだ半分にも達していないので、これからもがんばっていきたいと思っております。

 第四シーズンのスレは九月後半か、十月頭くらいに立てられたらいいですね。



 では、また。

19:33│白坂小梅 
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