2014年07月04日

千早「わたしのこころの歌」

・地の文注意です。



・少しヤンデレが強いです。



・アイマスSSとか初めてなんで、見苦しいところあっても優しく見守ってください。







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「プロデューサー、新しい歌の話ですけれど」



仕事に一区切り付けて休んでいた頃、如月千早が声をかけてきた。歌を愛するアイドルである彼女はやはり歌への思い入れが強く、いつも歌の事に頭を悩まされている。



俺はプロデューサーとして彼女を支えてあげているつもりだが、技術面でのサポートはサッパリなもので、歌の話などされても素人程度の事しか分からない。それでも彼女が俺に助けを求めてくれているのはそれだけ俺を頼ってくれているからだろうか。そう考えると、何だか嬉しかった。



「どうした?歌詞の事で相談か?」



実は彼女、新曲の歌詞を自分で作ることになっているのだ。歌に込めたいメッセージや自分の気持ち、相手に伝わるよう歌詞は一字一句考えて作らなければならない。大変な作業だろう。ただ俺は、10代の若さだからこそ出来る青く、それでいて輝かしい歌詞という物に、期待していた。

「歌詞が出来たので。1番だけですが、見て貰おうと思って」



「ん。そうか、もう出来たか」



「結ばれる事の無い片思いをする女性、といった歌詞です。少なくとも私は、そういう事を考えて作りました」



成る程、確かにそういった内容だ。ある男に恋をする女は、しかしその男にもまた好きな女性がいる事に悲嘆していた。普通、と言っては彼女に失礼だろうが、イメージしやすいよくある失恋だ。



恋する乙女の気持ちなど分からないが、どうして私に振り向いてくれないの、とでも思っているのだろう。

「なかなかヘビーな内容だな。まぁ、10代なら失恋も味があって良いかもしれないな」



「そうですか。ところでプロデューサーは、失恋ってどう思いますか」



「ん?失恋か」



した事がなかった。俺も若い内からそういう経験をした事があれば、もっと面白い人間になっていたのだろうか。悲しい事は経験しないに超した事は無い、とは言えないのだ。良い経験は、良い人間を育むものだ。



「さあ、した事がないから何とも」



「そうですか」

千早は悲しそうな顔をした、ように見えた。ひょっとして、彼女は以前に失恋を経験したのだろうか。それが強く心に残っていたのかもしれない。プロデューサーとしてそんな彼女の気持ちをくみ取ってやれないことは、何とも悲しかった。



ほれ見ろ、失恋をしていなかった事が、早速悪い事に繋がった。



「千早、すまないが失恋の事は俺には分からない。ただ、お前はその気持ち、しっかり大事に持っておくんだ。俺のように、経験を持たない人に伝えられてこそ、だと思うぞ」



時間が時間だった。未だ高校生の千早にあまり遅くまで残らせるのは良くない。歌詞は俺の分もプリントして彼女は帰らせる事にした。

〜〜





「やあ、音無さん。お疲れ様です」



「あ、プロデューサーさん。聞きましたよ、千早ちゃんの新曲。歌詞、持ってたら見せて下さい」



どこで聞いたのだろうか。歌詞をまだ知らない辺り、千早では無さそうだが、事務員の音無小鳥さんは、俺と同じく今日は残業である。アイドルの皆とは少し歳の離れている俺は、自然と歳の近い音無さんと良く話すようになっていた。



どうぞ、と言ってコピーを渡し、隣のデスクで残業を始めた。音無さんは、失恋を経験されているのだろうか。興味津々といった様子で歌詞を見る彼女を見て、そのような事を思った。





「私ですか?・・・お恥ずかしい話ですが、そんな浮いた話は今までさっぱりですよ」



「そうですか」



まあ、音無さんは元々そのような人だった。社内や関係者間でも浮いた話は聞かないし、昔の話にも男は出てこなかった。どうやら男どもは見る目の無い奴ばかりだったらしい。或いは高嶺の花とでも思っていたのか。いや、そうも思えない。寧ろ、親しみやすさを感じる人だ、彼女は。



そして俺は、そんな歯が浮くような台詞を言える男ではなかった。何か気の利いた言葉でフォローすべきだったのか、残念ながら良い言葉は思いつかなかった。



俺と音無さんは残業を再開した。例えば俺が2人いたとして、作業の効率は単に俺1人の時の2倍で、それ以外は何も変わらないつまらんものだ。しかし、音無さんと俺の2人だと、お喋りに夢中になって作業効率が落ちる。ただ、その時間は疲れを感じさせない程楽しいのだ。



そんな事を考えている内に、時計は9時を指そうとしていた。それなりに遅くまで働いた。もう上がっても良い時間だろう。



「音無さん、そろそろ上がりましょう。飲みにでも行きますか?」



「あ、いえ。明日も仕事がありますし」



残念だ。酒は大人の付き合いで、その日の疲れもアルコールと一緒に呑めばどこかへ飛んでいく。さっきは音無さんと仕事すると疲れない、などと言っていたが、そうは言ってもやはり疲れるものだ。こうやって考えがすぐ変わる辺り、俺は落ち着きの無い男なのだろうか。

「そういえばプロデューサーさん」



「ん?どうかしましたか」



「千早ちゃんに、ここの表現、間違っていると伝えておいて下さい。プロデューサーさん、あまりこの歌について千早ちゃんのお役に立ててないって考えてらっしゃるみたいですけど、こういう所で千早ちゃんを支える事も出来ると思いますよ」



「あ、本当だ。確かに音無さんの言う通りですね。ありがとうございます、今からでも伝えておきましょう」



音無さんが変える支度をする間、俺は千早に電話を掛ける事にした。

「はい、如月です」



「ん?千早、今外に出てるのか?」



「あ、ええ、ハイ。ちょっと、夜食を買いに」



「ん、そうか。まあ、プライベートにまで五月蠅く言わんが、こんな時間に出歩くとか、夜食とか、色々気を付けるんだぞ」



それから彼女に間違いの件を伝えてから、再度気を付けるように言って切った。



それにしても、彼女が夜食とは考えにくい。歌詞の事を考えているのだろうか、それだけだと良いのだが。いや、良くないか。休むときにはしっかり休め、とも言っておくべきだった。

次の日になって、俺はそれを言わなかった事を後悔した。千早は少し眠そうだった。大方歌詞作りに夢中になっていたのだろうか、千早に一言注意しておいた。



「よく分かりましたね、プロデューサー」



「健康に気を遣ってるお前が夜更かししてしそうな事といえばそれぐらいだろう」



それもそうか、と納得したような顔をした千早はそそくさと仕事に向かっていった。眠そうだし、こんな日に限って付いてやれないのが彼女に申し訳ないと思ったが、千早ももう1人前のアイドル。わざわざ俺が居なくとも大丈夫だろう。



「プロデューサーさん、千早ちゃんちょっと疲れ気味じゃないですか?」



「まあ、一時的な物だと思いますがね・・・。長引くようなら問題ですが」



もし、歌詞の事以外にも何か悩みがあるなら相談して欲しいとも思うが、同時に自分で乗り越えて欲しいとも思う。仕事上とは言っても彼女のパートナー。俺が力になってやりたいが、それが良い事なのかは分からないし、彼女のプライベートにどこまで踏み込んで良いのか分からない。



昼にテレビ局への挨拶を終えて戻ると、千早が丁度昼を取ろうとしていた。他のアイドルや音無さん、社長が見あたらないが、皆外回りの仕事だったか。



偶には一緒にどうだ」



「ええ、どうぞ・・・あの、プロデューサー、ちょっといいですか?」



「何だ、相談か」



「いえ、相談って程でも無いんですけど・・・プロデューサーって、どんな女性が好きなんですか?」



やけにストレートに聞くな、この娘は。女が男にそういう質問をする意味を分かって無さそうだ。アイドルだけあって千早は魅力的な女の子だし、俺は彼女が良く頑張っている事、口数は少ないが感情豊かな事も知っている。



ただ、もし彼女が俺の事を好きなら・・・と思うと嬉しいが、如何せん年の差はあるし、2人の関係上よろしくない。スキャンダルの事もある。

「そうだな、特に女性に求める事は無いが、うーむ、タイプの女性か」



「あまり考えた事ないけど、やっぱり一緒にいて楽しい女性とか、かな?あとは、独り身は淋しいし、帰ったときに安心出来るような、おかえりって言ってくれるような人かな。ははっ、ちょっと気持ち悪いか」



「い、いえ!全然、そんな事ないです」



「何でそんな事を聞いてきたんだ?」



「歌詞の1番を失恋の内容にしたんですけど、2番は希望のある歌詞にしたいと思っているんです。もしかすると恋が実るかもしれない・・・何だかロマンチックで私には似合わないですね」



「そんな事は無いさ。誰もお前の事をそんな思ってないよ、お前のファンも・・・無論、俺もな。おっと、俺はそろそろ営業に行かなきゃならんから、じゃあな」



「あっ、あの!プロデューサー」



「ん?」



「い、行ってらっしゃい」



行ってきます、と言って彼女と別れた。それにしても歌詞の2番か。実は片思いの男の子には好きな子はいませんでした、とかだろうか。女の子の努力次第で彼との距離も変えられるんだろうか。



確かに、1番の歌詞もあってか応援したくなっている。ひょっとして恋敵なんかもいるんだろうか。それと、これはやっぱり千早の体験なのかな、恋の話なだけあって聞き辛いけど。それに、あんまり考えたくない事だし、彼女のプライベートにどこまで入って良いのやら。

〜 〜〜



「ただいま」



返す声は無い。千早にも言った事だが、独り身は辛い事だ。恋人が居ない方が、独りの方が気楽で良いって考えも昔はあった。しかし、仕事をそれなりにこなせるようになったからだろうか、自分を見つめる機会が増えると、時間に追われていたそれまでと違い、多くの物が見えてきた。その中で、このままずっと独りなのかと思うと、何とも言えない気持ちになるのだ。



もう深夜を回っていたが飯も食っていない。幸いにも昨日の残りがあったので温める事にした。温める間、携帯をいじっていると、しまった、千早からメールが入ってたのに気付かなかった。件名はお疲れ様でした、か。10時頃に送ったらしい。



『おかえりなさい』



下の方に、まだ帰ってなかったらごめんなさい、と書いてあるのが何となく彼女らしかった。なんだ、返事をしてくれる人、いるじゃあないか。



「ただいま、千早」



もう夜も遅いから、返事は明日だな。

〜〜



お互い変えると独り身だった事からなのか、おかえりとただいまの奇妙な応酬は気付けば習慣になっていた。慣れていた今では、よっぽど遅くまでの残業でない限りこちらからただいまというと千早からおかえりなさいとメールが返ってくるようになった。



きっと千早も淋しいのだろうか、この奇妙なやり取りは少なくとも俺の孤独は和らげてくれる。尤も、これで千早に対して変な感情が芽生えたりはしないし、仕事上の一線を越える事は無い。千早はプロとしての自覚を他のアイドルの皆より早く持っていた。それは、金を稼ぐ事や愛嬌を使いこなすような意味でのプロではなく、自分の立場を分かっているという意味でのプロである。



この時期になるとアイドルの皆も忙しくなってくる。勿論、それは俺の仕事にも影響してくる。デスクワークをする時も皆外回りばかりで、夕方くらいには1人でパソコン相手、というのも珍しくは無くなってくる。



「あ・・・プロデューサー、お疲れ様です」

「お、千早か。お疲れ」



今日の彼女は誰よりも早く戻ってきた。普段なら残って練習をするのが当たり前なので、仕事で付いていない時以外でこの時間に会うのは珍しい事だった。



「今日は残って練習しないのな。あぁいや、勿論それが悪い事とは言わん。休みを取る事もアイドルの仕事の内だからな」



「今日は、春香と寄る所があって、その、まだ戻ってきてませんか?」



「今日はお前が一番乗りだ、俺を除けば。茶でも飲むか?」

「すいません。あ、そうだ、プロデューサー」



どうぞ、と言って彼女は一枚の紙を渡してきた。歌詞の2番である。



「あぁ、出来たのか。どれどれ」



女の子は男に振り向いて欲しいけど相手は自分の気持ちに気付いてくれない、という内容のようだった。女の子は、男にとって「何でもない存在」から、恋人では無いけれど互いに支え合う奇妙な関係になった。告白したかははっきり書かれていない。



「都合の良い事が起こるのは恋愛としてリアルでは無いです。最終的に2人がどうなるのかは歌いません。あくまで恋愛応援ソングではありませんから」

成る程、言わんとしている事は分かる。彼女なりに考えてここで切っているらしい。変に悩んでいる訳ではないようなので良かった。



それにしれもこの2人、恋人同士ではないながらも支え合う唯一無二のパートナーのような関係、一番淋しい部分を互いに埋め合うような・・・奇妙な、関係。



これはまるで・・・いや、考えないでおこう。



「あっ、千早ちゃんごめ〜ん。ちょっと転んじゃて。あ、プロデューサーさんもお疲れ様です!」

「あっ、春香。それではプロデューサー、ここで失礼します」



「あぁ、その前に1つ良いか?」



「はい」



「この歌のタイトル、何て言うんだ?」



彼女は少し考えた後で、決めてません、と一言言って帰った。決まっていたが言いにくかったのだろうか?それとも、単純に決まっていなかっただけなのか。

〜〜



歌詞も無事完成し、色々とスケジュールを調整したら、早速収録する事となった。千早としては、近くにあるライブまでに歌い込んでおきたいとの事であった。



千早は元々歌に心を込めるのが上手い。彼女が体験した事ならばなおさら気持ちも込めやすいだろう。



収録時、彼女の歌にはとても心が込められていた。思わず悲しい気持ちになるが、その中でも前を向く気持ちを失わないような気持ちにもなれる歌だった。



ただ、少し悲しみが強すぎはしないだろうか。

「そうでしょうか?特に意識してはいないのですが」



「これが悪い事じゃあないからどう歌うかは任せるけど、少なくとも俺はそう感じた。まぁ、踏ん切り付かない状況じゃあ少し不安が強くなっても不思議じゃないしな」



「それはそうですが。別にこれは恋が実らない事を示唆している訳ではありませんし、もう少し前向きな気持ちを入れられるよう歌ってみます」



「・・・もし、もしもだ。もしこの女の子が、好きな人に振り向いて貰えなくて悲しいとしてだ・・・でも」



「・・・でも?」

ここから先を言っても良いだろうか。プロデューサーとして彼女にアドバイスするのは当然の事だ。しかし、これから言う事はひょっとすると・・・。



「あの、プロデューサー、続きを・・・」



「悲しいかも知れないけど、このままがイヤなら自分から変わらないといけないだろうな。そういう気持ちを込めてはどうだろう」



果たして今、俺は当たり障りの無い事を言えただろうか。言ってはならない事だったかもしれない。言ってしまってからこのような事を考えても意味は無いのだが、千早の表情から覗く少々の驚きと、その後に見えた決意が、ますますそれを分からなくさせた。



収録は、さっきよりずっと良くなっていた。

〜〜



それから数日が過ぎた。俺から意識的に少しずつ数を減らしていって、おかえりとただいまの関係は無くなりつつあった。



「CDが楽しみだな」



「えぇ、いつもの事ですが、売り上げの事を考えると少し不安になります。でも・・・」



「でも?」

何だか前に似たようなやりとりをした気がする。千早が意識しているのだろうか。



「でも・・・あの時に作れて良かったと思ってます。おかえりなさい、と、ただいま、の2つがどれだけ大事かを知れたから」



「あの歌は前向きな曲になれたって?」



「ハイ、その通りです」



ところで彼女の恋はどうなったのだろうか。

「ふふっ、知りたいですか?」



「まぁ、そりゃあな」



「終わりましたよ・・・ゆっくり自分を見つめてみて、分かったんです。きっと」



爽やかだった。恋が終わった切なさとか、今までの事とか、そういうのも全部呑み込んで、納得して、けど押し込んだわけじゃあなくて。



そういう爽やかさだった。

・・・って、どっちの話なんだ。普通に考えたら歌詞の女の子の話なんだろうけど、聞くに聞けない。いや、そもそも「終わった」って?



「それ以上の話は無しか?」



「そう言われましても、終わりは終わりですし」



「まぁお前が終わりって言うなら終わりなんだろう」

聞けない俺が悪いのだ、納得させることにした。



「はい、終わりです・・・でも」



「でもは反則にしたいな」



「ふふっ・・・でも、またいつかどこかで始まるかもしれないですね。だって、変わりたいなら、変わらないといけませんからね」



「そうなったら今度はどうなるか分からないよな」

「えぇ、本当に」



・・・。



「・・・さてと、お前もあんま遅くなるなよ。俺は珍しくこの時期に定時で上がれるから帰るけど、何かあったら音無さんか律子に頼むように」



「はい、お疲れ様でした」



千早の恋が終わったかどうかは分からない。ただ、今の彼女がこれで良いと言ったのなら、俺がどうこう口を出す事じゃあないかもしれない。



大切なのは、いつかどこかで始まった恋を、彼女のために、或いは彼女と一緒に考えてやることだろう。

〜〜



「あれ?千早ちゃん、1人なのね」



「あ、音無さん、お疲れ様です」



「春香ちゃん達、多分もうすぐ戻ってくるけど、お茶でも飲む?」



「いえ、今日はもう帰ります。その、1人で色々考えたいんです」

「あらそう。まぁ、私も10代の頃は悩みがいっぱいあったわ〜。1人の方が良いときもあるだろうし、良いと思うわ」



「はい、ありがとうございました」



結局自分から変わる事は出来なかった。でも、それは今がとても愛おしいからで、例えばうまくいくとかいかないとかで考えたとき、どちらの場合に転んでもきっと今とは違うこれからになってただろう。私はそれがイヤに思えた。



だから変わろうとしなかったのだ。今はこれで良い。それに・・・。



私の心はきっと伝わっただろう。



おわり



23:30│如月千早 
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