2013年11月07日

春香「千早ちゃんを好きになりました」

私、天海春香ただいま17歳は、
どうやら如月千早ちゃんという同じアイドル仲間の女の子に恋してしまったようです。

てへっ☆


――――じゃないっ!

【始めに】
※アイドルマスターの二次創作。(たぶん)オールキャラ
※百合注意。苦手な方は回れ右
※更新頻度はばらばら亀更新
※オリジナル設定や自己解釈があるかもしれない
(あと、投下中のレスも大歓迎です)

以上でもよろしければ、どうぞ最後まで宜しくお願いします

千早ちゃん――?

声をかけようとして、私は躊躇った。
吸い込まれそうなほど真っ暗な空の下で、千早ちゃんはあまりにも悲しそうな顔をしていたから。

【00./ハジマリハトツゼンニ】

ある日の夕方のことだった。

「あちゃー、雨降ってきちゃったよ……」
「本当……」

その日最後のレッスンを終え、私たちは事務所へと帰る途中で。
私たちというのはもちろん、私と千早ちゃん。(たまたま同じボーカルのレッスンだった)
私はプロデューサーさんに急いで伝えなきゃいけないことがあって、いつまでも駅で立ち止まっているわけにはいかなかった。

「千早ちゃん、傘持って来てる?」

ダメ元で聞いてみると、案の定「ごめんなさい」という返事。
当然だ、私と一緒に立ち往生しているんだから。傘を持っていたらすぐに出して帰るはず。

「どうしよう……」

泣きそうになって私は暗い空を見上げた。
雨は一向に止む気配を見せない。
単なる夕立でもないようだった。

「春香、もしかして急いでるの?」
「う、うん……」
「そう……困ったわね」

もうすぐそこに765プロの事務所があるビルが見えているのに、ここから出られないことがもどかしい。千早ちゃんも言葉の通り困ったような顔をして遠くのほうへ視線を泳がした。

「傘、借りられる人、いないかなあ」

私は空を睨むことを諦めて、きょろきょろと周囲を見回した。
そうこうしているうちに、時間は刻一刻と過ぎていく。
急いでいる用というのは、オーディションについてのことだった。オーディションで使用する曲を急遽レッスンの先生にいわれ変更することに決めた。もちろん、プロデューサーさんにも許可をとって、書類を送らなければいけない。許可をとるのは簡単だろうけど(うちのプロデューサーさんは「自主性」を大切にしてくれる人だから)書類はどうしても今日までに書いて送らなければならなかったのだ。時刻は既に夜の八時をまわっていて、もう間に合わないかもしれないと思いつつ祈るような気持ちで電車に揺られていた。
「買ってくるのは」
「さっき切符買ったらお金なくなっちゃって」
「なにに使ったの……」
「えへへ……」

私は苦笑しながら手に提げていた紙袋を背後に隠した。
レッスン前に本屋さんで買った千早ちゃんの写真が載った雑誌。765プロのメンバーが誰か一人でも雑誌にとりあげられたら、必ず勉強しようとそれを購入することにしている。
今日はたまたま持ち合わせていたお金がいっぱいいっぱいだった。

「あぁ!」
「ど、どうしたの?」

隠しながら、私は大声をあげた。
駅の時計を見るといつのまにか八時半。プロデューサーさんは九時には事務所を出てしまう。
こうしちゃいられない!

「ちょ、ちょっと春香!」

私は雨の中を飛び出した。
急がなきゃと、そればかりが頭の中を埋め尽くして冷たさも感じなかった。
事務所へたどり着くには横断歩道を渡らなきゃいけなくて、信号が青なのを確認し私は必死に走った。

曲を変えなきゃオーディションに受からない、なんていう強迫観念にとらわれていたのかもしれない。私はとにかく必死で、だからいつもより派手に躓いて――

「わっ!」

横断歩道のど真ん中、雨に濡れた黒と白の地面がすぐそこまで近付いてくる。
咄嗟に出た声とともに、頭から地面に激突しそうになったとき、ふっと身体が宙に止まった。
誰かの手が私の身体を支えてくれていた。

「ち、千早ちゃん……」
「春香、危なかった……」

千早ちゃんは肩で大きく息をして、その長い髪を雨でぐちゃぐちゃに濡らしながらほっと安堵したように呟いた。
信号が青から赤に変わった。
クラクションが鳴らされる。

「ご、ごめんね!」

私は慌てて自分の足で立つと、謝った。
千早ちゃんは「それより早く」と私の手を引いて先に走り出す。
横断歩道を渡ってからも、千早ちゃんは私の手を引いたまま事務所まで走ってくれた。
千早ちゃんの手があるおかげで、私はもうこけずにすんだ。

千早ちゃんの手に導かれながら、私は
なんか変な感じだなあ
なんて思った。
無事事務所で書類を作成し、プロデューサーさんが直接オーディションの運営場所に届けてくれることになった。もう遅いからと私たち二人を車に乗せてくれながら、プロデューサーさんが振り向く。

「にしても二人ともびしょびしょだなあ」

プロデューサーさんの言葉に私たちは顔を見合わせて苦笑した。
急いでいたせいで、まだ息が落ち着かなかった。

「風邪引いちゃったらいけないしな、本当は事務所で乾かせればよかったんだがもう音無さんはいなかったからな……」
「プロデューサーさん、備品とかについては全然詳しく無いですもんね」
「うっ……せめてタオルの場所くらいわかればな」

はあ、と情けなさそうにプロデューサーさんが溜息を吐いた。
私は「落ち込まないでください!」と励ましながらも、確かに寒気は感じていた。
本当に風邪引いちゃったらまずいなあ、なんて思いながら濡れた服や頭を気にしていると、ふいに黙っていた千早ちゃんが口を開いた。

「プロデューサー」
「どうした、千早。寒い?」
「私じゃなくって、春香が。それで、良ければ私の家、もうすぐなので春香にタオルくらいなら貸せます」
「えぇっ!?そ、そんなの悪いよ!」

私が首を振ると、プロデューサーさんは「そうだな」と言いつつ千早ちゃんの家のほうへ方向転換。「けど春香も千早もそんなに濡れちゃってるわけだし」と車をさらに進行させる。
そしてあっというまに家の前に着いてしまった。

「春香、待ってて」
「え、えぇ!?」

いいよそんなの、と千早ちゃんを追いかけようとして、私はなぜか車から転げ落ちてしまった。
身体がうまく動かない。

「春香、大丈夫か!?」

プロデューサーさんが傘を持って駆け寄ってきて、なんとか立ち上がる。
「す、すいません」と笑うと、プロデューサーさんは「すまん」と千早ちゃんに何かを言った。
千早ちゃんが頷く。

「プロデューサーさん?千早ちゃん?」
「春香、家へ上がって」
「えっ!?」
「冷えた身体を休ませた方がいい」

プロデューサーさんを振り向くと、逆に背中を押されてしまった。
おまけに「書類を提出してからまた迎えに来る」とプロデューサーさんは行ってしまった。
千早ちゃんはそれを見送ると、プロデューサーさんに貸してもらった大きな黒い傘を自分たちの上にかざして私の腕を引いた。

「ち、千早ちゃん、いいの?」
「えぇ」

そして私は千早ちゃんの家へと引きずり込まれたのだった。


熱いシャワーを浴びながら私は呆とその日のことを思い出す。
千早ちゃんの家は閑散としていて、必要最低限のものしか置かれていなかった。
着替えと、そしてタオルを貸してもらい今と同じようにシャワーを浴びていた私は、霞んでいた頭で、なのにそのことだけは妙に印象に残っている。
そのとき、千早ちゃんが家に誰もいれたことがないと言っていた理由が少しわかった気がした。

シャワーを浴び終わり、私は千早ちゃんの服に着替えて外に出た。
胸のあたりがなんだか苦しいと思いつつもだいぶ温まった身体で私は千早ちゃんを探した。
そこまで広い部屋でもないのに、千早ちゃんはいなくて焦った私はベランダが空いていることに気付きなにも考えずにベランダに顔を出した。

千早ちゃんは、いた。
けれど声をかけることはできなかった。

あまりにも暗い空の下、千早ちゃんが悲しそうで、辛そうで、見ているこちらが苦しくなるくらいに唇を噛締めて空を見上げていたから。

たぶん、きっとそのときからだ。
私が千早ちゃんにあらぬ思いを抱き始めたのは。

熱いシャワーの温度がさらに上がった気がした。

【00./始まりは突然に】
と、シリアスに振り返ってみたものの、

【01./――】

「はーるるーん!」
「わっ、亜美、真美!?」

どーん!
ふらふら

「あ、ちょっと春香!」
「春香ちゃん、あぶ、あぶな……!」
「あふぅ」

どっ!

「ちょっと、こっち来ないでよ!?」
「は、春香さん、踏ん張ってください〜!」
「あらあら〜」

んがら!

「こら、亜美真美!春香を離しなさいってば!」
「ハム蔵、避難するぞ〜!」
「なんと……」

がっしゃーん!
――なんら変わったことはありません。







「……春香、大丈夫?」
「ち、千早ちゃん……」






たぶん。
こぼしたお茶を拭き拭きしつつ律子さんのお説教の声を聞きながら、私は溜息。
今までと生活はまったく変わっていないし(恥ずかしながらアイドルランクも)、毎日楽しいことばかり。アイドルになってよかったと思っているし、変わったことなんてきっと何一つない。

ただ、

「春香、手伝いましょうか?」
「えっ、い、いいよ千早ちゃん!」

恋する乙女よろしく、私は千早ちゃんへの接し方がよくわからなくなってしまった。
今まで恋愛経験皆無な私には何もかもが動揺することばかり。
千早ちゃんは不思議そうな顔をして私の傍を離れていくし常に緊張してしまって私が私じゃないみたい。
以上
本日また投下できそうなら投下します
このようにのんびりですが、付き合ってくださったら嬉しいです
千早ちゃんが見えなくなって、私はようやく拭き終えた布巾を持って給湯室へ。
苦しいなあ、今の私。
どきどきと音をたてる心臓に耳をすませながら、これが病気だったら幾分かマシだったと思った。
病気なら病院に行って治してもらえばいいけど、こればっかりは苦しいまま一向に治まらない。

どうしよう、なんて言っても仕方ないのはわかってはいるけど。

「どうしよう……」

最近、こればっかだ。
私はふうと息を吐き、さて、お茶を淹れなおして歌の練習をしようと気を取り直そうとしたとき。

「なにが?」

給湯室にひょこっと顔を出したのは美希だった。
「わっ、美希!びっくりした〜」
「ミキこそびっくりしたの」

私の反応に同じように飛び退いた美希がむっとしたように給湯室に入ってくる。
「春香、お茶淹れて」と当然のように紙コップを差し出してくる美希のためにお湯を沸かしながら、私はさっきの言葉が聞かれていたらしいことにハラハラしていた。

美希は鋭い時は鋭いから、バレてしまうかもしれない。
あれ、でも流石の美希も私が女の子のことを好きだなんていうことは――

「春香、お湯沸騰してるよ」
「あっ」
慌ててコンロの火を消すと、美希がじっと私を見ていることに気付いた。

「ど、どうしたの?」
「ねえ、春香」

ぐいっと美希が近付いてくる。
つい反射的に、私は一歩後ろに退いた。けれど美希はそれよりもっと近付いてきて。

「ちょ、ちょっと美希!?どうしたの!?」
「春香」
「ち、近い近い!」
「好きな人でもできた?」
や、やっぱり!
というか、単刀直入というか――

「な、なんで?」
「顔に書いてあるよ」

美希は私の反応に満足したのか、ようやく顔を離してくれた。
ふう、と安堵の溜息。
一体何をされるのかと考えてしまった。

「顔って……」
「ていうのは嘘だけど、見てたら最近の春香、少しおかしいの」
「うっ」

美希はやっぱり、見てるときは見てるらしい。
「それで、相手は?」
「うえっ!?」

つい動転してもう一歩大きく仰け反ると、そこはもう壁で思い切り足をぶつけてしまった。
涙目になってると、「春香はウブだね」と美希に笑われた。

「だ、だって、べつにその、好きな人がどうとかっていうわけじゃ……」
「春香、最近ずっと千早さんのほう見てるよね?」

びくっとした。
美希はもしかして、本当にわかってるんじゃ――
「千早さんのプロデューサー?」

――違ったみたい。
少しだけほっとして、少しだけ違和感。

「当たった?」
「う、ううん……」
「えーっ。じゃあ誰なのー?ミキ、誰にも言わないから教えてほしいの!」

詰め寄られて私は困り果ててしまった。
ぶつけた足もじんじん痛いし。
私はなんだか痛みと突然の違和感に、おかしなことを訊ねてしまった。

「美希は、どうして千早ちゃんのプロデューサーさんだと思ったの?」

えっと美希が首を傾げる。
そうして返って来た答えは、当たり前のことだったのに。
「だって、千早さんは男の人じゃないから違うでしょ?」
「……そう、だよね」

当たり前の答えだ。
千早さんのプロデューサーさんは男の人で、私は女。千早ちゃんも女の子で、だから本当は好きになることなんてありえないんだよね。

さっき美希に何かされると考えた「何か」だって、普通は男女間でやることで。(何かは到底言えないけど)
最近女の子同士というのが当たり前になってきていた自分に気付き、少し呆然とする。

千早ちゃんを好きになってしまったことばかりに気をとられ、世間一般的なことにすら気がまわらなかった。

私、おかしいんだ。
「春香?」

急に俯いて黙り込んだ私を美希が心配そうに覗き込んできた。
泣きそう、というよりも自分に対しての嫌悪感で吐きそうだった。

「春香、顔色悪いよ!?」
「そう?……大丈夫」

無理して笑って、私は美希を押し退けた。
美希はいけないことを聞いてしまったと思ったのか、「ごめんなさいなの」と悲しそうに呟いた。
美希のせいじゃないよ、と言いかけて、私は違う言葉を美希に発していた。

「絶対叶わない気持ちって、どう処理すればいいのかなあ」
美希は一瞬戸惑ったように私を見て、それからすぐに「えっと」と食いついてきた。

「やっぱり諦めるとか……」
「うん」

ちらっと私を見て、それから美希は「けど」と付け足した。
紙コップにお湯を注ぎ、お茶パックをいれて美希に手渡した。

「けどいくら叶わない気持ちでも、きっと大事なものだってミキ、思うな」

大事なもの?
美希を見ると、美希はにっこり笑顔になった。

「ミキなら叶わなくてもいいから傍にいたいって思うし友達として一緒にいることだってできるでしょ?」
私って随分単純だなあって思う。
美希の言葉に落ち込んで、美希の言葉に励まされてる。

おまけに気を遣わせちゃって……。
私のほうが年上なのにしっかりしなきゃ。

「……そっか」
「うん」
「……ありがと、美希」
「どういたしまして」

美希はふふんっとご機嫌よく言うと、お茶の入った紙コップを持って「さ、お昼寝するの」と相変わらずの美希に戻って給湯室を出て行った。

そう、だよ。
確かに私と千早ちゃんは女の子同士だけど、一緒にいることはできるよね。仲のいい友達くらいには、なれるよね。
この気持ちはやっぱりおかしいだろうけど、だけど普段どおり接すれば。

そう思うと、途端に元気が涌いてきた。
「絶対に叶わない気持ちって持ってると苦しいけどすごく幸せだよ」という美希の最後の言葉がまるで自分も経験しているような言い方で少しだけ引っ掛かったけど、今の私はすっかり千早ちゃんのことでいっぱいですぐに忘れてしまった。
本日の投下は以上です
また投下できそうな日に

はるちは可愛いよはるちはあとひびたかぺろぺろ

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