2013年11月07日

美希「ハニーの日記」

■星井美希
他の子たちの面倒を見るようになって、美希と話す時間がめっきり減った。
これは美希も思っていてくれたみたいで、今日はレッスン後に時間をとって少し会話していた。

美希に冗談でさびしかったのかって聞いたら、


「うん。ほんのちょっぴりだけ。プロデューサーも寂しかった?」って照れながら言われた。
思ってた以上にキワドイ返答に、お、おうとしか返せなかったのが悔しい。

なんか最近の美希は女の子らしいというか、なんというか。
想像してたよりもがつがつ来ないな。
■フェスの日取り
律子からフェスの日取りが決まったと連絡があった。
来月のそこそこ大きなフェスだ。
正直、フェアリーにはまだ早い気がするが、良い経験になると思う。

これからは、ライブやフェスを中心にライブの勘を養ってもらおうと思う。
それにもうすぐ開催されるデビューオーディションを受ける必要もあるしな。
ここでこけたら、フェス参加自体が無しになるな。
まぁ、あの子達の実力なら大丈夫だと思うけど。

そういえば春香がこのフェスで、竜宮とフェアリーが出ることを知ってたな。
律子から聞いたんだろうか。
■リーダーとしての星井美希
今日のレッスンが終わった後、美希だけを帰して響と貴音に話を聞いてみた。
リーダーとして星井美希はどうなのか。

最初はどちらも言いよどんでいたけど、忌憚ない意見が欲しいと伝えたら教えてくれた。
まぁ、総括すればまだリーダーの器じゃない。リーダーというよりも仲間としてしか見ていない。
ただ、このリーダーなんていないみんなが同等なユニットが好きとも言っていた。

なるほど。
美希はどちらかというと引っ張るタイプじゃないから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
みんなで協力して、壁を乗り越えるほうがいいみたいだ。
■レコーディング
今日は「オーバーマスター」レコーディングに行ってきた。
さすがに3回目ということもあり、美希は手馴れたものだった。

また美希が2人に対してレコーディングのいろはを教えていたので、俺はミキサーのつまみとか引っこ抜くなよって言っておいた。
そしたら美希は真っ赤になって「もうそんなことしないの! は、プロデューサーは意地悪なの!」と怒られた。

レコーディングも美希のいろはのおかげで何事もなく終わった。
なにか新幹少女がいたような気がするが気のせいだろうか。
■フェスの招待状
フェアリー宛にフェスの招待状が届いた。当然律子のところの竜宮小町にも届いている。
本当なら、デビューしたばかりのフェアリーには届くことのないようなフェスなのだが、社長が参加枠にねじ込んでくれたらしい。
本当に何者なんだろうか、あの人。

フェアリーの実力で考えても多分善戦できるとは思うが、ただ不安なのがフェアリーのことをほとんどの観客が知らないということだ。
これはフェスやライブにおいてかなりのマイナスになる。
実際美希も始めての時にやらかしている。

まぁでも今回は3人で挑戦できるからな。
お互いが支えになってくれれば、乗り越えられると思っている。

いよいよフェアリーの真価が問われるんだな。
俺はあの子達なら出来るって信じてる!

こんな恥ずかしいこと日記でしか言えないけどな。
■フェス前日
ついに明日はフェスだ。
今日までのプロジェクトフェアリーの成果を全て出し切ることになる。

明日のフェスは3つあるステージの3つ目で歌うことになる。
隣の第2ステージにはほかのグループが、その向こうの第1ステージでは竜宮が歌うことになっている。
ステージからでも、他のステージの盛り上がりは見て取れるみたいだ。
こんな逆境の場面、男として燃えないはずがない。
明日が楽しみだ。

そういえば、フェアリーの担当になってから結構な時間が経った。
今までフェアリーのレッスンを見てきたが、明日が一旦の区切りになると思うとこみ上げてくるものがる。
なんか美希の時にもこんなこと書いてた気がする。
最近なんか涙もろくなってきてかなわんな。
■フェス当日
今日のフェスはいろんな意味でサプライズが多かった。
だからそれを書いていこうと思う。

今日はフェス当日だと言うのにあいにくの天気だった。
空は厚い雲に隠れてて、雨の気配があった。
それでも、今日のライブを楽しみにしているファンが集まるのを見ていると、やっぱりこれがアイドルの魅力なんだなって改めて感じた。

今日のフェスは俺たちフェアリーと竜宮は最後の出番だったので、前のグループが盛り上げてくれていないと辛かったりする。
まぁそれでも最後は自分たちの力が全てなんだけどな。

控え室のテントでまだしばらくある出番を待っていた3人の下に、竜宮の3人が敵情視察に来た。
さすがもうすぐBランクのアイドルは貫禄があった。
場慣れしている伊織と亜美が、美希たちにちょっかいを出していた。
まぁ、ケンカにはならなかったのでいいんだが。
あんまりこういうのはダメだと注意した。あずささんが。
竜宮のおかげで少しは緊張がほぐれたみたいだから感謝しないとな。

あぁ、そうそう。伊織にこの間のヒール役のことでお礼したら、
「べ、別にあんたたちのためにやったんじゃないわよ! アレくらいで落ち込まれてたら、その、そう765プロのレベルに関わるでしょ!」
と期待通りの解答をいただいた。
いおりんマジごちそうさまです!
伊織のツンデレを満喫してテントに帰ってきたら、3人から冷たい目線が刺さった。
なんでも「でこちゃんにデレデレしちゃって、プロデューサーは竜宮のスパイなの!」とのこと。
バカなこと言うなよって言ったのがダメだった見たいで、響や貴音にまでスパイや女たらしという称号を言い渡された。
(貴音は判ってて言ったみたいだが)

ひとしきり罵詈雑言を浴びた後、フェアリーの面々の顔から緊張が消えていた。
響が言うには「なんか緊張するだけ損な気がするぞ」とのこと。
くすっと笑う貴音がとても可愛らしかった。
そういえば、第2ステージで誰が歌うのですかって貴音に聞かれたんだが、
このときは俺もまだ知らなかったから「秘密だ。いずれわかるよ」と貴音みたいに言ってやったら、
「そんな・・・・・・。プロデューサーはいけずです」と泣きまねをする貴音を見て2人が
「プロデューサー! 女の子を泣かすなんて最低だぞ! この変態プロデューサー!」
「そうなの! ミキには最近そういうことしてくれないの! いけずなの!」
変態と言う称号までも付与されてしまった。
それと美希の発言は少しずれてるだろ。
そんなことしてないよな? 後で日記を見返そう。
とうとうライブが始まった。
テントに設置されているテレビには、今ステージに上がっているグループが映し出されていて、
3人とも食い入るように見ている。

このときのみんなの胸中は定かではないが、絶望しているわけではなさそうだった。
今までの成果が、確かな手ごたえとしてあるのだろう。
俺自身も今出ているグループよりは下とは思えなかった。
(事実下じゃなかったしな)

みんなの分の飲み物を買いに外に出たら、小雨が降っていた。
これくらいなら、問題ないだろうってそのときは思ってた。

3組目のステージが終わりかけたときに、雨がいよいよ本降りになってきた。
観客の中にはレインコートを着てる人もちらほらいた。
「降ってきたね」響の心配そうな声に貴音が相槌を打っていた。

このまま振り続けたら中止もありえるかってところだった。
というよりも観客のボルテージが下がるほうがはるかに問題なんだろうな。

第3ステージの4組目がステージに上がったときに、美希が大声で驚いていた。
(そういや挨拶しにいったときいなかったな)
「あ!! 新幹線少女なの!」
新幹少女なんだがおもしろそうなので放っておこう(線で消されている)

こうして見ると意外と人気あるんだな。あの子達。
新幹少女のライブを見ていると、テントが開いてスタッフが来た。
ついにフェアリーの番が回ってきた。
さっきまでの和やかな雰囲気はなくなって、一気に張り詰めた空気になった。

何か気の利いたことを言ってやれればよかったんだが、この空気に余計なことで水を差したくなかった。
それにこの緊張感が心地いいとさえ感じた。
プロジェクトフェアリーが一体となっている感じを肌で感じた。
舞台袖で新幹少女の最後の曲を見ていた。
観客席にはかなりのファンが詰め掛けていた。
雨に打たれても、熱気は冷めていなかった。

この観客との一体感は素直にすごいと思った。
盛り上げ方と言うものをわかってるみたいで、フェアリーにもこれから学んで欲しいと思う。

雨の都合で、セットの直しは無しで続けざまにフェアリーが出ることになっている。
なので、観客は基本的に竜宮や第2ステージの誰かのファンじゃない限り動かないと思う。
これはファンを取り込むチャンスともいえる。

だが、曲がりなりにもトリを努めている相手なんだから、相手もかなりの実力と見ていい。
俺は、ここから見ていることしか出来ないと思うと、少し悔しい。
美希に気にしなくていいぞと伝えて、みんなに一言伝えた。
「お前たちなら出来る。それはお前たちが一番わかってるよな」
これだけで十分だと思い、これ以上は言わなかった。
3人も強く頷いて、円陣を組んで気合を入れていた。

響と貴音が先にステージに向かっていった。
美希は俺に「これが終わったら、えっと、今度はデートしようね! あはっ☆」
あまりにも唐突過ぎて、おう、としか返せなかった。
新幹少女の熱気が残っているのだろう、ほぼ無名なフェアリーがステージに上がっても観客が歓声を上げてくれた。
響と美希が観客に向けて手を振ると、観客もこれに応えてくれている。

これはひょっとしていけるのかもしれない。

第3ステージは他の2つと違って一曲分早くスタートできる。
この一曲でがっちりとファンの心をつかめるかどうかが問題だ。

雨の強さも変わっていないし、このままなら大丈夫だろう。

一曲目は美希の「ふるふるフューチャー」をユニット用にアレンジしなおしたものだ。
ここで、可愛らしさをアピールして後半の「オーバーマスター」で度肝を抜いてやろうと言う作戦だ。

結果から言うとこの作戦は見事にはまった。半分だけ。
「ふるふるフューチャー」で観客にフェアリーという印象を植え付けることが出来た。
一曲目から観客の心を半分掴んだと言ってもいい。

これで竜宮に流れる客を少なくできる。

第1ステージの方から、歓声が上がった。
竜宮小町がライブを開始したんだろう。

ライブが始まって、セットリストの半分を消化した当たりで、雨が少し強くなりだした。
だがこれならまだ大丈夫だ。観客の熱気も最高潮といっていい。

今の曲が終わった後には「オーバーマスター」が控えている。
これで一気に決めたい。

第2ステージは今まで、機材の故障で開始が出来なかったらしく、今から開始するそうだ。
申し訳ないが、そこら辺のアイドルじゃ、フェアリーの勢いに追いつくことはできないと思っていた。

そう、そこら辺のC、Dランクアイドルなら。
フェアリーの曲が終了して、簡単なMCをしているときに、
隣のステージから聴いたことのあるベースラインと掛け声が、聞こえてきた。
俺が気づいたんだ美希も気づかないわけがない。
ステージの美希も気づいたみたいで、ステージからは見えない第2ステージの方を見ていた。

春香だ。春香がこのフェスに参加していた。

観客がざわめきだした。
響が慌てて「オーバーマスター」の紹介しようとしたが、
Aランク昇格間違い無しの、今をときめく天海春香が参加しているとわかった観客は、一目散に第2ステージに向かっていった。

第3ステージには半分も観客は残らなかった。
スピーカーから「オーバーマスター」が流れ出す。
が、美希は呆然として歌えなかった。
たった一曲で春香にすべてを持っていかれてしまった、喪失感のせいだろう。

残った観客からはどよめきが聞こえる。
響と貴音が慌てて美希の箇所のフォローに入るが、いかんせんはじめてのパートなのでうまくいかない。

そしてステージの大型スピーカーから一際大きなノイズが走る。
雨にスピーカーがやられたのだ。

スタッフは続行不可能と判断して、第3ステージの観客に中止の放送を流した。
観客は強まった雨足の中、とぼとぼとステージを後にしていき、残ったのはスタッフとアイドルの3人だった。

これで、プロジェクトフェアリーの初ライブは終わった。

プロジェクトフェアリーは、天海春香のたった一曲で負けたのだ。
これが今日の顛末。

あの後雨はかなり勢いを増して、第1・2ステージともに中止となった。
フェス終了後の伊織が言うには、引き分けだといっていた。
が、あの様子だと竜宮の客も春香に持っていかれたのだろう。
痛み分けといったところか。

今回の春香の参加に正直、サプライズを通り越して悪意を感じた。
運営に打診を受けていたのだろうが、自分のランクを考えれば観客がどう動くかわかるはずだ。
それにこのライブには竜宮もフェアリーも出ることを知っていた。
それならなおさら出演なんかしないと思うのだが。

最近の春香の行動がわからない。
俺と一緒にアイドルをしていたときと、変わってしまったのか?
あの後の美希は何一つ話さないまま、帰っていった。

あの傷つき様は相当だ。

響と貴音を家まで送った後に、美希に電話しようとしたが、やめておいた。
電話で何を話せばいいかわからなかったからだ。
それにそもそも取らないんじゃないかとも思っていた。

怒るのも慰めるのも逆効果だと思ったので、
美希に「デートはいつにする?」とメールを送っておいた。
ここで前回までの投下分になります。
ここから最後の話になります。
■美希の不在
先日のライブ終了から今日で1週間。
美希は事務所に一度も顔を出していない。
よっぽど堪えたのだろう。

デートのメールを送ったものの、それに対しても返信はない。

響や貴音も心配して美希に連絡を入れているみたいだが、二人に対しても返信はないらしい。

フェアリーは期間限定だから、無駄に時間を浪費してしまう訳にはいかないのだが、美希がいないとどうしようもない。
■春香と言い争い
今日、事務所でライブ以来久々に会った春香と、先日のライブについて口げんかをした。
春香をプロデュースしていた1年間でさえ1回もしたこともなかったのだが、今回はことがことなだけに。

春香は悪びれた様子を覗かせてはいたが、自分は間違っていないと思っているみたいだ。
春香自身が例の件を考えたとは思えないが、後ろに誰かいるとも考えにくいし。

ひとまず、これからは自分のランクを考えて行動しろと注意しておいた。
春香はどうも腑に落ちていないようだったが、了承してくれた。

あとは美希か。
■美希の姉からの連絡
事務所に美希の姉から連絡があった。
あのライブの日から美希は熱を出して寝込んでいるとのことだ。
確かにあの雨の中で歌っていたのだからそうなってもおかしいことはないのだが。

連絡を返せないぐらい容態が悪かったのか。

このことを響と貴音に伝えると、「明日美希のお見舞いに行こうよ」と響が提案した。
断る必要もないし、美希と話したいこともあるので了承した。

ちなみに何で連絡が今までなかったのか聞いてみたら、美希が連絡を入れているとウソをついていたらしい。
なんでウソをついたんだろうか。
■美希のお見舞い
今日は響と貴音の3人で美希のお見舞いに行ってきた。
思いの外、美希は元気そうにしていて一安心だ。

お見舞いも程ほどに、響と貴音を先に帰して、美希に前回のライブのことについて聞いてみた。
正直、心のケアも出来ていないときに聞くのは良くないんじゃないかと思ったのだが、後にずるずる引きずることはしたくなかった。

美希は思ってたよりも前向きで「今回負けちゃったのはミキたちの力不足なの。それの相手が今回は春香だっただけなの」と。
予想以上に成長していた美希に感心した。

その後に美希から「ここからトップアイドルになるまで、ミキ絶対に負けないよ。誰よりもキラキラするの」と決意表明をもらった。
「春香には絶対負けないの」と春香のことをライバル視していた。

美希は大丈夫そうだな。

関係ないけど、布団から顔だけ出してる美希が可愛かった。
■美希の復帰
美希が事務所に顔を出した。
実に2週間ぶりのことだ。

響と貴音も、あのお見舞いから美希が来るのを心待ちにしていたみたいだった。
当の俺も待っていたしな。

事務所のみんなも美希のことを心配して、美希に駆け寄っていた。
やよいは美希に泣きながら抱きついていた。

結構みんなと仲がよかったんだな。

春香はそのとき仕事に出ていて居なかった。
ひと悶着あっても困るし、今はこれでいい気がする。
■プロジェクトフェアリーの人気
あの雨の中のライブ以来、一旦活動を停止していたフェアリーだが、実は悪いことだけじゃなくて良いこともあった。
765プロが運営している、プロジェクトフェアリー公式ファンクラブの会員が増加しているのだ。
単純な数だけで言えば、竜宮小町の次、765プロ内では3番目に多い。

入会時に記入してもらうアンケートの中に、入会のきっかけと言う項目があるのだが、
その中のきっかけを見ていても、大半の人があのライブで無名グループが頑張っている姿に心を打たれたと書いてあった。
他にも公式の掲示板で「最後の曲が聴けなくて残念」「次にライブするときは絶対に行く」と好意的な書き込みも多々あった。

それにTV局やいろいろなところから、オファーをいただいている。
最後の失態を差し引いても、それだけ評価されているというのは俺個人的な感覚でもすごいと思う。

これをフェアリーに教えたら、3人とも喜んでいた。
響にいたってはうれし泣きしていた(無名の期間が長すぎたせいなのかもしれない)。

これを機にいっそう成長して欲しいと思う。
■美希の覚醒?
トレーナーさんに聞いた話なんだが、美希がレッスンでいつも以上に頑張っているらしい。
何でも前回のライブが相当悔しいらしく、これから負けないためにレッスンしているとのこと。
それに触発されて響も貴音も今まで以上に頑張っているそうだ。

無理だけはしないように伝えておいた。

これからが楽しみなんだが、フェアリーの活動期間がそろそろ終わりに近づいている。

まだ考えたくはないが、響と貴音のこれからも考えておく必要があるな。
■フェアリー再始動
美希が復帰して1ヶ月。
あの時以上にフェアリーが強くなったと感じる。
前までは、彼女たちの個々の潜在能力や持ち前の突出したものだけだった能力にも安定感が生まれたように感じる。

結成当初の我を通す響も、
周りの動きにあわせられなくなりぎこちない動きになる貴音も、
リーダーとして才能がないと思われた美希も、今はメンバーの位置や動きを確認しながら動けるようになっている。

俺の経験則から、同ランクのアイドルなんかよりも遥かにいい動きをする。

今度小さなフェスに参加させてみよう。
■再始動後の初ライブ
今日はライブに挑戦させてみた。
響や貴音はともかく、美希はライブにトラウマなんかを植え付けられていないかの確認もこめてだ。

相手はあまり聞いたことのないアイドルユニット。
負けるようなことはないと思っていたのだが、まさかあそこまで圧倒的な差をつけて勝つとは思わなかった。

これじゃ前の春香と同じ状況だな。春香側だけど。

ここまで実力が伴ったのならなし崩し的にランクが上がりそうだ。
■アイドルランク昇格
プロジェクトフェアリーのアイドルランクがCランクに上がった。
実力を考えれば昇格は当然だと思うが、Bランクでもいいような気もする。

まぁ、ぽっと出のアイドルがそう簡単にぽんぽん昇格するのも、周りのアイドルには面白くないだろう。
そういう意味では竜宮小町はすごいのだろう。もうBランクに上がってしまっている。

贔屓目無しに見ても、フェアリーと竜宮の実力に大きな差はないと思う。
ただ、竜宮の方が場数を踏んでいるという点では、フェアリーよりも本番に強い。
だがその差だけだと俺は思っている。

どうせなら、リベンジの意味も込めて竜宮に再戦を挑もうと思う。
フェアリーの間に竜宮に勝たせてやりたいな。
■竜宮に再戦依頼
今日は律子に前回のライブの再戦を申し出た。
お互い引き分けだったしって言ったら、思いのほかあっさりと了承してくれた。
律子としても竜宮としても、前回のライブの結果に納得していないのだろう。

もしくは、伊織からすでに口ぞえが会ったのかもしれない。

向こうが乗り気なのであれば、こちらとしても好都合なので余計なことは言わないでおいた。
日取りが決まったらまた連絡をくれるそうだ。

ちなみに余談だけど、律子もフェアリーの実力を認めているようで、完全に勝ちにいくと言っていた。
どうやら成長しているのはフェアリーだけではないようだ(当然だが)。
■竜宮との再戦決定(みんなの反応)
フェアリーのみんなに竜宮と再戦することを伝えた。
響と貴音は、前の竜宮のライブ映像を見ていたらしく違った反応を見せてくれた。

響いわく「りゅ、竜宮ともっかい戦うのか? え? 自分別に怖くなんかないぞ。ホントだからな!」
貴音いわく「もう一度戦える機会をいただけるのですか。これは楽しみですね。胸が高鳴ります」
美希いわく「誰が来てももう負けないよ。ミキはトップアイドルになって今度こそ春香に勝つの」

どうやら乗り気なようで安心した。
美希はだいぶ春香を意識しているようだが、その向上心がいい方向に作用している気がする。
■春香の実力
この間、春香がライブに参加したそうだ。
そのライブの相手は、東豪寺プロダクションの最終兵器「魔王エンジェル」
同じAランクアイドルでも相手にすらならない、アイドル界の第二の日高舞候補と言われている。

そんなおっかない相手と、Bランクの春香が何故かはわからないが勝負したそうだ。

結果は、春香が勝利したそうだ。
圧勝というわけにはいかなかったそうだが、最強候補である「魔王エンジェル」を実力でねじ伏せたらしい。

これで春香は実力でAランクになるだろう。

俺と一緒に活動していたときは、こんなガツガツいくような子ではなかったはずだが……。
それに今は誰かがプロデュースしているという話も聞いていないし、自分で仕事を取っていることになる。
これだけの可能性を秘めている子を俺はBランクまでしか連れて行けなかったのか……。

■再戦の日取り
竜宮小町の再戦が決まった。
来月の中ごろに、プロジェクトフェアリーと竜宮小町をメインにした中規模ライブが行われる。
そこでどちらがより観客を盛り上げることができるかで、勝敗を競う。

ルールに関しては前回と変わってはいないようだ。
律子が念を押すように言っていたが、今回【特別ゲスト】は用意していないとのこと。
律子も煮え湯を飲まされているからな。当然といえば当然か。

律子自身もここでどちらのユニットが優れているか、ひいてはどちらのプロデュース能力が優れているかの決着を付けたいみたいだ。
望むところだ。こちとら少しばかり長くプロデュース業やってるんだ。
ひよっこに負けるわけにはいかないだろ!

それと来月の中ごろと言うと、フェアリーの解散時期だな。
早いもんだな。
■新曲
今日は美希専用の新曲を作成することになった。
美希単体としての楽曲は「きゅんっ!ヴァンパイアガール」以来となる、3曲目の新曲だ。
そもそもフェアリーとして活動している間は、どちらかと言えば響や貴音を中心に楽曲制作などをしてきため、美希の曲が意外とすくなかったりする。
(もともとのフェアリーの結成理由を考えれば仕方ないのだが)

まぁ、そこで、フェアリーが解散してから曲を作り出すのは遅いと判断したというわけだ。
リリース時期は竜宮とのライブ後になるだろう。
ファンに向けての初披露はそのライブでってことになると思う。

美希に恒例のどんな曲を歌いたいかと聞いたところ、
「んー。こう、かっこよくてー、切ないけどもどこか力強さを感じるような曲がいいなー」
とこれまた恒例の抽象的な回答。
「あ、あとあと、歌詞なんだけど、女の子が彼氏との付き合いに不安を持っちゃうようなのがいいって思うな」
小娘が何をいっちょまえなことを。


この要件で作曲家さんにお願いしたところ、どうも最近失恋されたみたいでとばっちりを受けた。
■レッスン風景
あと2週間に迫った竜宮とのライブにフェアリーのレッスンに熱が入る。
すこしオーバーワーク気味ではあったが、あの子達のやる気を全身で感じているからやめろとはいえない。

それに見合った効果はでているようで、確実に成長しているのが見て取れる。
このまま、いい状態で本番に臨められればベストだな。

この状態をキープさせるために、来週からは調整期間に入らせよう。
体調を壊してからじゃ元も子もないからな。

それと美希の新曲「マリオネットの心」の練習もはじめた。
響いわくとてもダンサブルな曲らしく、連続で踊るものじゃないらしい。
■ライブ前日
大きいライブ前日には毎回振り返りみたいな日記を書いている気がする。
まぁ、それだけ思うところがあるってことなんだろう。

今回でフェアリーの最後のライブになるしな。
すでにフェアリーのメンバーには次回がラストライブであると伝えてある。
響と貴音のこれからについては俺がソロユニットとして引き継ぐことが決まった。
三人とも残念がっているみたいだったし、短い間だがユニットとして団結できていたことが喜ばしい。

二人のこれからをこの日記に書くのもおかしいから、新しい日記を作ろう。

明日は竜宮との勝負か。
今のフェアリーが勝つって俺は信じてる。

明日のライブはこの日記を持っていって、その場時々の様子を書くことにする。

今日は寝る。
■ライブ
今日のライブは晴天に恵まれた。
それに竜宮小町とのサシで勝負ということで、両方のファンが押しかけてきてくれた。
ファンにはフェアリーの解散はまだ伝えていない。このライブが終わってから伝える手筈になっている。

もちろん、ただファンを満足させるだけなんて甘い考えは俺も律子も持ち合わせていない。
これを機におのおのファンを取り込むという営業戦略もある。
そのためにセットリストを調整もしたりもしている。

スタッフや関係各位などの挨拶をほどほどに、フェアリーたちを控え室に戻した。

リハーサルまであと1時間。
■リハーサル
竜宮小町のリハーサルの後にフェアリーのリハーサルが行われた。
もちろん本気で唄って踊るわけではない。
マイクの調子や音響、演出の最終調整を行う。
(前回のライブで機材の故障があったから、ここは入念に見てもらった)

ステージで立ち位置の調整をしているフェアリーにがんばれよと声をかけた。

開場まであと1時間
開演まであと1時間半
■765プロの仲間たち
本番を前にして765プロの仲間たちが応援に駆けつけてくれた。
何人か(春香は居ない)は仕事が入っているため、この場には居ないが後で見に来てくれることだった。

各々が美希たちに応援してくれている光景に、こういうのを映像に収めてドキュメンタリーにしたらどうだろうかと考えてた。
いかんな。ビジネスライク過ぎるな。

みんなのおかげで、3人の緊張がほぐれたようだ。

本人には悪いが春香がいなくてよかった。
フェアリー、特に美希が動揺しそうだしな。

開演まであと30分
■春香(ページ全体に大きく×がひかれている)
なんてこった。
春香に告白されてしまった。
■左のページの続き(ページ全体に大きく×がひかれている)
さっきの日記の内容は、これに書くようなことじゃないけど、時間がないからメモとして書いておく

・春香は去年からずっと俺のことを好きでいてくれた
(俺も嫌いじゃないと答えたのが失敗だった。ウソでもそんな風に考えられないと言っておけば)
・前回のライブ参加は自分の実力を見てもらいたかったため
・CDセールス勝負の賭け事の内容は、勝者より先に思いを伝えることの禁止
・美希はこのライブバトルで負ければ、俺をあきらめるとのこと

何でこのタイミングで告白なんかしたんだと聞いたら、
「タイミングなんていつでもよかったんです。ただ、プロデューサーさんには私の気持ち知っててもらわないと……」
「あなたとずっと一緒に居る美希に勝てないですから。これは私からの宣戦布告です」といっていた。
もちろんアイドルとプロデューサーの恋愛は許されるものじゃないと拒否をしたが、
「知ってますよ。当然じゃないですか、私はまだアイドルを続けたいですから――だから、これは引退してからの話です」
「返事は今はいりません。いつか然るべき場所でもらいます」
何を言っているのかわからなかった。

それだけ言い残して春香は帰っていった。
ライブは見ていかないのと聞いたら、
「この後仕事があるんです。それに、どっちが勝つかなんかは見なくてもわかります。これでもAランクアイドルですから」
「それに、もしここで負けるようなら、それはそれです」

どうなってんだよ
■開演前
フェアリーの控え室に戻ってきて、周りに動揺がばれないようにしようとしたが無理だった。
響はともかく美希と貴音には隠しきれなかった。

それに美希は今さっきの話のせいでまともに話せなかった。

ダメだな。プロデューサーが私情でアイドルに心配させるなんて。

もうすぐ開演する。
このライブでは竜宮が先にパフォーマンスすることになっているから、フェアリーに舞台袖で見学してこいといっておいた。

俺もフェアリーのパフォーマンスまでに気持ちの整理をつけないと。
■竜宮小町
控え室で竜宮小町のパフォーマンスを見ていた。
さすがに単独でライブを企画できるだけの実力はあるみたいだ。
それに客の盛り上げ方を熟知している。
ところどころでダンスとは別の、ウインクや投げキッスなどのアピールを入れてくる。
これはライブを何回もこなした奴にしかわからない実践勘みたいなものなんだろう。

ステージからそこそこ離れているこの控え室でも、マイクを通した歌声をかき消すほどの歓声が聞こえてくる。

今は春香のことを気にしてるときじゃないよな、フェアリーを精一杯応援しないとな。
■ライブ終了と結果
ライブが終わった。
今はこれを家で書いている。

順を追って書いていこうと思う。


あの後、フェアリーが居るであろう舞台袖に向かおうと設営テントを出たら、そこに美希がいた。
何でも春香からメールが入っていたらしい。内容は当然、このライブでのことと春香からの宣戦布告的な内容。

美希は、「春香から聞いたんだよね? この話」と訊ねてきた。
ごまかさずに「そうだ」と答えると、
「ならミキの気持ち、今は言わなくてもいいよね?」と問われた。
俺はどう答えたものか迷ったが「なんで俺なんだ」と聞いた。
「ナイショなの。そうだなー、ミキが春香に勝てたら教えてあげるの。あはっ☆」
「だから、でこちゃんには悪いけど、今日は勝つよ」と力強く意気込んでいた。

舞台袖で残りの二人と合流した。
二人とも竜宮のパフォーマンスに集中していたから声はかけないでおいた。

竜宮のライブが終了した、と思ったら突然伊織がMCをはじめて
「次はみんなお待ちかねのあの子達よ! 当然! 私達と同じくらい盛り上げてくれるから期待しててよね!」とハードルをあげてきた。
人で埋め尽くされた客席の後方が色めきたっていた。
これも作戦か律子……。

舞台袖に引き上げてくる竜宮小町がプロジェクトフェアリーに声をかけてきた。
「ふん。私達がここまで盛り上げてあげたんだから、失敗なんかしてライブをめちゃくちゃにしないでよね」
「とーぜんなの。それは勝負以前の問題なの」
この二人の間に火花が見える。
ステージのセッティングがもうすぐ完了するというタイミングで俺はみんなに励ましの言葉をかけた。
フェアリーとしての最後のライブだ。全て出し切ってこいと言った。

三人は力強く頷いて、セッティングが完了したステージに走っていった。
ステージに姿を見せた三人を見て観客の歓声が一際大きくなる。
MCもないまま一曲目が始まる。
激しく明滅する照明も心臓に響く音響もどれもが心地よかった。
気付けばあっという間にフェアリーのライブは終わった気がする。
自分の担当アイドルのライブでここまで高翌揚したのは初めてな気がした。
フェアリーと竜宮に力の差はそんなになかったと思う。
けど、フェアリーは勝った。ファンはフェアリーを選んでくれたのだ。
勝利を分けた明確な差はなんだったんだろうか。
律子は「ユニットに差はなかったと思います。ということはプロデューサーとしての力の差ですかね」と言っていた。
俺は何もしていないからそれはお門違いだと言っておいた。
息も絶え絶えに戻ってきたフェアリーを「良く頑張った」と褒めてやった。
観客席から聞こえるアンコールの怒号に俺と律子は前もって決めてあった、フェアリーと竜宮の合同パフォーマンスを提案した。

このアンコール終了後にフェアリーは解散をファンに告げた。
ファンからは残念がるため息と批判の声が聞こえる。
想定していたことだが、実際にファンの声を聞くとつらい。

ここは美希や伊織の機転のおかげで事なきを得た。
そのおかげでいつかフェアリーの限定復活が約束されたわけだが。

この日記を最後にプロジェクトフェアリーの記録を終了しようと思う。
響と貴音の続きはそれぞれの日記に書いていくことにする。

今日のライブは美希や響、貴音にとっても大きな収穫だったと思う。
もちろん俺にとっても。

春香のことは、今は考えたくないから明日考えよう。

今日は寝る。
■春香の昇格
春香のアイドルランクが昇格した。
これで名実ともにAランクアイドルになった春香にお願いされた。
「結構前にした約束、覚えてますか?」
正直記憶にまったくなかったが、春香がAランクになったら何でも言うことを聞くと約束していたみたいだ(日記を見返して思い出した)。

約束は約束なので、何して欲しいかと聞いたら
「えーとですね。実は2つあるんですけどいいですよね? 私との約束忘れちゃうプロデューサーさん?」
こんなこと言われたら「はい」としか言えないじゃないか。

「まずは1つ目。私と美希でバトルできる場を用意してください。理由はいわなくてわかりますよね? それとこれは美希も同意してます」
最終決戦の場だろう。
「2つ目は、私達が求めたときに絶対に偽りなく答えをください」
2つとも了承した。

春香も美希も臨んでバトルするって言うのはそういうことだよな。
正直女の子二人に迫られて嫌な気はしないが、俺はどっちに勝って欲しいんだろうか。
■美希のランク昇格
春香に続いて美希のアイドルランクがCランクからBランクに上がった。
美希自身の功績というわけではないが、プロジェクトフェアリーが竜宮小町を倒したのだからこの昇格も妥当なところだろう。

美希におめでとうと言ったら、
「ありがとう。でもでも、まだメインイベントは後に控えてるの」
と春香とのバトルに意欲的な姿勢だった。

ガス欠しないようになって言うと、
「それなら、前の前のライブの時のデートしてほしいな」
といわれるまで忘れていた約束を提示された。

もちろん約束は約束なので、当然了承する。

最近物忘れが激しいな。
■新曲リリース
今日は新曲である「マリオネットの心」の発売日だ。
個人的には星井美希という女の子は、こういった少し物悲しいながらも力強い歌のほうが似合うと思う。
つまりこの曲は美希にハマっているということだ。

美希自身もこの曲をいたく気に入っているみたいで、次も唄うならこんな感じの曲が良いと言っていた。
新曲かー。
リリースされたばっかで気が早い気がするけど、春香との勝負があるんだったら何かもう一曲用意しておいたほうがいい気がするな。
美希に相談してみよう。
■美希に提案
美希にまた新曲を作らないかと提案した。
本人もまだまだ歌いたいみたいで、二の句もなく了承してくれた。

次はどんなのがいい、と聞いたら
「マリオネットの心とおんなじ感じの曲調がいいな。それでねそれでね、今回はミキ、作詞に挑戦したいんだ!」
と想像以上に乗り気。
何か案があるのかと聞いたら
「まだないよ。それでも唄ってみたい歌詞があるの!」
まぁ、当然全部の歌詞を作るなんて無理なので、ひとまずは歌詞の原型を美希で作ってから、それを元に作詞家さんと仕上げるという形で落とした。
■美希とデート
今日は約束どおり美希とデートしてきた。
ただ今日は夜まで美希に仕事が入っていたため、デートとは名ばかりのドライブだ。
それでも美希が満足してくれたようだから、いいか。

いい歌詞浮かびそうか、と聴いたら
「うーん……。そんなぽんぽんでたら苦労しないの」と怒られてしまった。
そりゃそうか。

「春香がこのデートを見てたらどう思うのかな」と美希がつぶやいていた。
俺は、あんまり深入りしないほうがいいと思い、聞こえない振りをした。

そこそこいい時間になって、美希を自宅まで送り届けたときにじゃあな、って言ったら
「じゃあなじゃないよ、【またね】なの」と注意された。
■ライブの決定
美希と春香のライブの日取りが決定した。
前回の竜宮小町とライブバトルしたライブの別枠で取ってもらえることになった。
前回のライブがとても盛り上がったこともあり、向こうから新規でイベントを立ち上げてくれるとのことだ。

たった二人専用のライブイベントなんて、これ以上ないくらいのお膳立てじゃないだろうか。

それも俺が関わってると思うとなんだか変な気分だが。自分のためにやってるみたいで複雑だ。

とりあえず、明日このことを二人に教えてやろう。

■歌詞
最近美希が新曲の歌詞を考えるのに没頭しているみたいだ。
というよりも歌詞が出てこなさ過ぎて頭を抱えているといったほうが正しいんだが。

どのくらいで頭打ちになっているのか気になったので、歌詞を見させてもらおうとしたら
「や、まだ見ちゃダメなの! は、プロデューサーには完成してから見せるから!」
と一蹴された。

自らハードルをあげるとはなかなかやるな美希め。
■リサーチ
今日は街へ美希が求めるフレーズを探すためにリサーチしにいった。
といっても歌のテーマをまるで聞いていないから、完全に保護者状態なわけだが。

まぁ、これが仕事になるんだから仕方ないよな。
女の子と二人で街中を歩いてるだけの簡単な仕事だけどな。

美希は結構ご機嫌だったらしく、ずっと「ふるふるフューチャー」を口ずさんでいた。

屋台のクレープを食べてるときに美希が不意にお願いしてきた。
「こ、今度のライブでミキが春香に勝ったら、プロデューサーのことをね、その、は、ハニーって呼んでもいい?」
上目遣いで少し目を潤ませて。

正直、美希にこんなこと言われて断れる奴がいるんだろうかと思った。
もちろん俺は断れない。

何でまたハニーなんだ、って聞いたら
「特に意味はないの。プロデューサーはミキにとってのハニーだからハニーなの」
とのこと。

「えへへ。家に帰ってハニーって言う練習するね! あはっ☆」
ちくしょう。かわいいな!


そういえばリサーチはどうなったんだって聞いたら、
「実は歌詞はもう出来てるの。ただプロデューサーと遊びにいける理由が欲しかったの。ごめんなさいなの」
別に謝らなくてもいいのに。
美希は本当に素直な子だ。
■春香とお茶会
今日はたまたまオフが重なった春香と喫茶店でお茶してきた。
こうして春香と二人でのんびりするのは春香をプロデュースしていたとき以来じゃないだろうか。

ただ最近の春香の行動が、あまりにもとっぴ過ぎて落ち着ける雰囲気ではなかったのだが。
それでも二人のときは意外と落ち着いていて、他愛のない会話で盛り上がっていた。

そうしたら春香が突然
「私、美希のこと許せないんです」と言った。
急な話すぎて、なんでだ、と聞き返すと
「だって、私がずっと、一年間ずっと想い続けてたのに、美希は横からあっさり奪っていこうとするんですよ!」
「私だけのプロデューサーさんが、簡単に奪われるのなんて耐えられません!」
「だから私は一人でずっと努力しました!」
「プロデューサーさんがアイドルランクは高いほうが良いって言ったから、私はAランクになりました」
「一番最初に美希に会ったときも、美希はすごく私のこと尊敬してくれてました。とても嬉しかったですけど、美希はその時にプロデューサーさんの悪口を言ったんですよ!?」
「【プロデューサーはいちいち小言がうるさいの】って! 私許せませんでした! 小言だってプロデューサーさんにかけてもらえるなら私はとても嬉しいのに!」
「だから美希に言っちゃったんです。プロデューサーさんをバカにしないでって。あなたみたいな人をプロデュースしなきゃいけないあの人がかわいそうって……」
「正直、今思えば言い過ぎたかなとも思います。大人気なかったかなって。でも私は間違ってるとは思いません」
「美希はそれを聞いたあとに考え直したのか知りませんけど、今は見ての通りプロデューサーさんにべったりくっついて……」
「そんな簡単に手のひらを返す美希が許せないんです。だから私は次のライブで美希に勝って、プロデューサーさん、あなたを取り戻します」
「それからまた二人でトップアイドルを目指して頑張るんです。そしてトップに立った時に、返事を聞かせてください」


こんな強い思いを知ってしまった以上、適当なことを言ってうやむやにすることはできないよな。

春香は思いの丈を吐き出してすっきりしたのか、落ち着きを取り戻していた。
俺はそんな春香に「俺がどっちも好きじゃないって断ったらどうするんだ」と意地悪なことを聞いてみた。
そしたら春香が「断るんですか?」と尋ね返してきたので「もしもの話だよ」といった。
「そうですね。百歩譲ってプロデューサーさんが美希を選ぶならあきらめますけど……、両方断ったら、そうだな……、負け犬同士美希と一緒に……。えへへ、ナイショです」
とはぐらかされた。
すみません
すこしねます・・・

■決戦前日
明日はついに美希と春香の頂上決戦だ。
春香は言うまでもなく本調子なのだろう。
美希はこの短期間でまた実力をつけてくれた。

それに新曲も明日が初のお披露目になるが、今まで美希が歌っていた曲の中で一番しっくりきている。
これなら、新曲だからと失敗することは早々ないだろう。



俺はどっちに勝って欲しいんだろうか。

俺が勝って欲しいと思っているのは……、きっと美希だ。

レッスンに打ち込んでいる美希も
オーディションに落ちて、へこんでいる美希も
ライブでキラキラと輝いて笑っている美希も
俺はずっととなりで見てきたじゃないか。

だから俺はきっと美希に勝って欲しいと思っている。

そして俺は春香より美希の方が……。
■ライブ当日
なんだかんだ言っても今日は来てしまうわけで。
俺にとってはプロデュースしてきた中でも一番大きいライブだと思う。
それを美希と一緒に戦えるんだと考えると胸が高鳴る。

俺は今日のライブで美希が勝てば美希に俺の気持ちを伝えようと思う。
もし負けてしまった場合は、俺も男だ。女の子二人に恥ずかしい思いはさせない。

俺は今日は公平を期すために一切の助言を禁止している。
別に美希や春香に言われたわけではないが、俺自身が勝手にしていることだ。

美希もそれをわかっていてくれているようで、何も言ってこない。
ただ一言「勝って来るね」と言っていた。
■春香のライブ
今回のライブバトルは前回と同じで美希は後攻だ。
つまり春香の圧倒的なパフォーマンスを見た観客を相手にしないといけないということになる。

美希のファンも来ているだろうが、ファンの数では春香のファンの方が多いんだろう。
完全に先日の春香と魔王エンジェルのライブを踏襲しているが、不思議と美希が負けるビジョンが浮かばない。

むしろ美希がスポットライトを一身に浴びて、キラキラしているところが浮かんでくるほどだ。

春香のライブが始まった。
そこそこ大きいアリーナでのライブ。
春香がステージに上がると客席から割れんばかりの歓声が上がる。

この声の大きさだけで自分たちがいかにアウェーなのかがわかる。
春香のライブは圧巻だった。
一声あげればオーディエンスはそれに応え、春香が手を上げればサイリウムを左右に振る。
まさにアイドルとファンが一体になっていた。

春香は一曲目から飛ばしてきた。
「太陽のジェラシー」に始まり、「私はアイドル」や「まっすぐ」などの明るいアップナンバーで、観客のボルテージを最高潮に持っていった。

要所要所でMCを挟み観客の体力を考えている辺りさすがだと思った。
春香は最後のMCをそこそこに、最後の流れに持っていった。
聞きなれたベースラインと、カウント、それと掛け声。アリーナが揺れるのを感じた。
「I Want」だ。
かつてプロジェクトフェアリーがまったく歯も立たないまま負けてしまったあの曲。
どうもこの曲は中毒性が強いらしく、春香には似合わない閣下キャラが定着してしまった曲だ。

言うまでもなくブレイクで休んでいた観客のボルテージはまた最高潮に戻った。
春香はライブで緩急をつけるのが特にうまいと思う。
観客の盛り上がりを意のままに操っている気がする。
「そこに跪いて」の掛け声とともにまたアリーナが揺れる。
春香も満足そうに笑っていた。
「I Want」が終わると春香は観客に向かって話しかけた。
「みなさん。私にはおっきな夢があります! それはみんなが私のことを知ってくれて、私のことを好きでいてくれるアイドルになることです!」
興奮冷めやらないままだったのだろうか、ハウリングした。
「だから私はこの夢を歌にこめて唄います! 聞いてください「READY!!」」
春香がラストに選んだ曲「READY!!」。
これは765プロ全員の曲で誰かのための曲というわけではないが、春香の夢に合う曲という意味ではこれが一番合うと思う。

曲が終わる。
春香のライブも終わる。

客席から春香を呼ぶ声が響き渡ってて、春香もそれに応えるように手を振っていた。

ずっと隣に居た美希は「やっぱり春香はすごいね」と言って嬉しそうに笑っていた。
■美希のライブ
春香のライブの後、観客は当然のように春香と美希のパフォーマンスを比べてくるだろう。
ここで気圧されたら勝てるものも勝てなくなる。
美希もそれをわかっていたみたいで、適度な緊張感を持っているみたいだが動揺はしていない。

舞台袖に戻ってきた春香が俺に挨拶をしてきたが、美希には声をかけなかった。
美希も気にしていないようで、春香と目を合わせただけでステージの方へ歩いていった。

美希を目で送っていると春香も「美希、すごく成長しましたね」と言って嬉しそうに笑っていた。

美希がステージに上がった。
客席から春香の時にも負けないような歓声が響き渡る。
美希がステージの中央に立つと、きらびやかな照明が美希を照らし出した。
「みんなー!! いくのー!!」美希の掛け声とともに音が流れ出す。
美希のセットリストは奇しくも春香と同じで、前半にアップテンポの曲で観客を掴むというものだった。
「Day of the future」のきらびやかなシンセサイザーに乗せて唄い、
「ふるふるフューチャー」の甘い音に負けじと唄い、
「きゅんっ!ヴァンパイアガール」で唄の流れを徐々に変えていき、
「オーバーマスター」を美希一人で唄い上げた。

中間MCのときに春香が「今はどっちが優勢ですか?」って聞いてきた。
正直今はまだ春香だが、ここからの持っていき方では美希の逆転も十分に狙えると思っている。
美希のパフォーマンスは春香の【アイドルとファンで作るライブ】とは違い、本当に【観客に魅せるライブ】なのだと思う。
どっちも一長一短で良いところも悪いところもあり、今日来ている観客がどちら側なのかで大きく変わってくる。

そしてここからが美希の【魅せる】ライブの真骨頂になる。

美希のMCが終わると、ステージの照明がぱっと落ちて暗くなる。
ピアノの旋律が流れる。
「マリオネットの心」だ。
どこか物悲しいメロディーに乗せて切ない気持ちを力強く歌い上げた美希の代表曲。

観客の歓声は一気になりを潜めた。
この曲をリリースしたときは15歳が何て歌を唄ってるんだよ、と一時期話題になった。
(実際俺も思った)
だが、その固定観念にも負けずこの曲はヒットを飛ばした。
美希の表現力の賜物だろう。
これ以来、美希は女性の切ない心情を唄うアイドルとして、男性のみならず女性からも人気を博した。

そして、今日はその女性の切ない心情描いた曲の第二段のお披露目でもある。
曲名は「relations」。男女の三角関係を描いた曲。
作詞はまさかの星井美希で、15歳がうんぬんかんぬんとまた話題になるだろう。

女性としてのプライドを捨ててまで、愛する男性に見てもらいたい、愛する男性に他の女の子がいても構わないから私だけを見て欲しいという、少し歪んだ愛憎劇を美希は歌いこなしていく。
おおよそ15歳の少女が唄うような曲ではないのに、美希は持ち前の表現力でそれを自分の世界に変えていった。
「relations」が終わる。照明がゆっくりと明るくなっていって、美希の姿が観客の前に現れる
その瞬間に怒号とも取れる歓声が上がった。

美希はマイクを取って「みんなー!! ありがとうなのー!!」と観客に応えていた。
「ミキ、今キラキラしてるー?」と観客に投げかけると、観客からは言葉と取れないものが返ってきて、美希は笑っていた。

「ちぇ、美希には勝てないかー。残念」と、春香は目じりに涙を浮かべながら笑った。
とても強い子だなと思った。

ステージで美希はMCを続けていた。
「ミキね、もっともっとキラキラしたいの! みんなキラキラしたミキをちゃんと見ててよね」とウインクを決めた。
「最後はこれを聴いてね! 「CHANGE!!!!」」
美希の歌声から始まったこの曲も、765プロ全員用に作られた曲だ。
美希も春香の「READY!!」を聴いて思うところがあったのだろう。
美希のパフォーマンスを見ていたら春香が、
「プロデューサーさん。私実は悪役ってはまりどころなんですよね。だから美希の邪魔してきますね!」
そういって春香はマイクを持ってステージに駆けていった。
なんて破天荒な……。魔王エンジェルを倒してから、本当に日高舞みたいになってないか春香の奴?

ちょうどサビに入ったところで春香が邪魔していた。
美希も驚いていたみたいだったけど、笑って迎え入れていた。
観客からはまた一際高い歓声が上がる。

スポットライトに照らされた二人がステージでキラキラしていた。
■ライブ後
ライブ終了後に美希から控え室に来てくれとメールがあった。
控え室に向かったら、美希と春香が出迎えてくれた。

美希は恥ずかしそうにもじもじしながら下を向いていて、春香はそれを見てニヤニヤしていた。
痺れを切らしたらしい春香が「ほら、早く。言うんでしょう美希?」と肘でつついていた。
美希はわかったから、と慌てていて、本来はこれだけ仲がよかったのかと思うと自分の存在が憎らしくなってきた。

「え、えっとね、そのプロデューサー、こ、こないだの約束覚えてる?」と居住まいを直して聞いてきた。
「あのリサーチの時のやつか?」って聞き返したら、すごい勢いで頭を縦に振った。
「俺のことを、そのハニーって呼んでくれるんだっけ?」と確認した。
「う、うん。だからミキ今から呼ぶね。ぷ、プロデューサーをは、ハニーって!」すごい目力だった。
だが俺にも言わなきゃいけないことがあったので、「たんま」とストップをかけた。

「美希、良いか。一回しか言わないからしっかり聞いてくれよ?」と美希に伝えた。
「う、うん。わかったの」
「美希、俺は、その、えーとあれだ。そう、そのー」春香にど突かれた。
「美希!」思わず声がでかくなる。
「は、はいなのっ!」
「美希、俺はお前のことが好きだ!」シンプルに伝えた。
「み、ミキも」
「だけど今は付き合えない。わかるよな?」
「う、うん……。アイドルとプロデューサーだから、だよね?」
「だから、誰もが美希を知ってるようなトップアイドルになって、キラキラし続けるんだ。」
「うん」
「それで何年も頑張って、キラキラし疲れた時に、アイドルを引退してさ」
「そのときに、俺と、結婚しよう」きっと俺の顔は赤かったと思う。
「はいなの! ハニー!」と言って美希が抱きついてきた。
胸元にはいつの日かプレゼントしたネックレスをしていた。
俺はそれを美希の左手に持っていって、少し大きなリング型のペンダントトップを美希の薬指にはめた。

「少し先の話だけど待っててくれるか?」俺は無駄な質問を投げかけてやった。
「そんなの聞くだけ無駄なの! ずっとずっと待ってるからね! ハニー!」
■その後
今読み返すとかなり恥ずかしいこと書いてるな俺。
これが世に言う黒歴史ってやつか……。

あの後、美希は春香と並んでAランクアイドルになった。
美希はトップアイドルの一員として日々楽しく活動していた。

もちろん俺の担当だ。
それに春香も、俺が担当を引き受けることになった。
そうそう、春香とのライブでお披露目した「relations」だけど、ライブの効果か、ランキングで一位を獲得して、アイドルとしての地位を不動のものにした。

春香とのライブから今日で、6年か。
美希も21になってますますきれいで大人っぽくなった(俺はおっさんになった)。

その間に、星井美希を取り巻くいろいろなことがあった。
フェアリーの限定復活とか、竜宮小町リベンジとか、まさかまさかの日高舞との直接対決とか。

数え上げればきりがないかもしれない。
でもそれも明日でおしまい。
明日を持ってアイドル「星井美希」は引退する。

明日からはみんなの「星井美希」は、俺の「星井美希」になる。
まぁ、良いよな? 6年も我慢したんだし。

つまりだ、明日俺は美希と結婚する。
この話を持ち出したのは美希からだった。もちろん俺は了承した。

事務所のみんなは喜んでくれた。もちろん春香も(たぶん)。
春香にはこのことを社長よりも先に知らせていた。
そうしたら春香は、
「ふーん。そうですか。どうぞ末永くお幸せになってくださいねー」とそっぽを向いた。
「あ、でも、もし美希に飽きちゃったら私のところ、来て良いですからね?」とも。
こいつ、やっぱり魔王エンジェル以来、Sに目覚めたのかもしれない。
その場に一緒に居た美希も「むむむ、やっぱり春香は油断ならないの!」と言っていた。
まぁ、何はともあれ、この日記に美希のことを書くのはこれが最後になると思う。
今思えば、ホント、長かったなーって感慨深くなる。

そうそう。最近になって、というか美希にハニーと呼ばれるようになってよく考えるようになったんだが、
美希のデビュー曲「ふるふるフューチャー」のワンフレーズにある【教えてハニー 未来は何色?】という箇所。
俺にとって美希との未来は何色かなって、考えるようになった。
たぶんとても明るい黄色なんじゃないかなって俺は思ってる。

なんでかっていうと、と、これ以上はぐだぐだ書いちゃいそうだから、今日はもう寝よう。
明日に備えないとな。それにずっと電気をつけてたら俺の嫁さんを起こしちまう。

あー、ちくしょう。
これ読み返してニヤニヤしてくる。
お し ま い 
あとちょっとだけあるんですけど、お菓子食べてきます。
最後の日記を読み終えて、女性は、古ぼけて擦り切れて色あせた日記を閉じた。
彼女のしわの出た手が日記を強く掴む。

これを見つけたのはつい先ほど、ものぐさな彼女が珍しく押入れの整理をしているときだ。
この日記は、段ボールの中に整頓されて入っていて、全部で20冊を越えていた。
これはその最後の日記だった。

自分について事細かに観察されているのを見ると、つい気恥ずかしくなって背中が痒くなる思いだ。
そういえば、結婚する前、一緒に暮らし始めてからも彼は携帯やパソコンではなく、ノートに何かを書いていることがあったが、これのことだったとは思いもしなかった。
何度聞いても彼は教えてくれなかったから、いつの間にか気にするのをやめていた。

気づけば、彼女の座る縁側には橙色の光が差していた。
読み始めたのは昼前のはずだったのに、と彼女は驚く。
彼女――旧姓:星井美希は歳を重ねても変わらずきれいな髪を揺り下げて、何年ぶりかの歌を口ずさんだ。

教えてハニー
未来は何色?

リズム隊もなく、楽器もなく、照明もステージもマイクもないここで、観客は生垣のライブが開催された。
もう少し若ければ、彼女のことを知っている輩が何人かいたのだが、今ではアイドル星井美希などテレビの過去を懐かしむ番組でしか知ることが出来ない。
当然、彼女が声を張り上げて歌おうとも、むなしくも彼女の歌は斜陽の中に吸い込まれていくだけなのだ。

声に当時のようなハリはなく、ツヤも力強さもない。
歳を取ったな、と彼女は嘆息した。
あぁ。ご飯の用意をしなくちゃ。
彼女は思い出した仕事に、歌うことを切り上げ、部屋に戻ろうとした。

すると、生垣の向こうをパタパタと走る音が聞こえる。
どうやら生垣の向こうにちゃんとした観客がいたようだ。

「美希ちゃん! もうお歌うたわないの?」

門扉が勢い良く開かれ、短い茶髪を揺らしながら女の子が駆け寄ってきた。
小さな女の子は、彼女の腿辺りに抱きつくと、アンコールを要求してきた。

「こら! 美希ちゃんじゃなくておばあちゃんでしょ」
足元にいる小さな女の子とそっくりの女性が、姿を現した。
女の子の母で、彼女の娘。
つまり足元にいるのは、かわいいかわいい、彼女の孫なのだ。
「お歌はね、また今度唄ってあげるね」
孫の頭を優しくなでている彼女の顔に昔のようなお転婆気はなく、母の顔をしている。
「早かったね、遊園地。晩ご飯食べてくると思ってたのに」
彼女は今日の娘たちの予定を思い浮かべて言った。
「この子がね、お母さん一人だとかわいそうってわめきだしたの。もう大変だったんだから」
娘のふくれた顔に昔の面影を感じながら、彼女は孫をなでてやる。
「おばあちゃんのこと、心配してくれたの? 良い子だねー」
「うん! 美希ちゃんといっしょにいるほうがたのしいもん!」
屈託なく笑う孫に、母は毒気が抜かれたようだ。
「そういえば、お父さんは?」
彼女は不在の夫のことを聞いた。
彼女は娘が出来てから、夫のことを【ハニー】というのをやめた。
それにあわせて口癖だった「なの」と一人称の「ミキ」というのも極力控えるようにしている。
もういい歳だし、落ち着きたいからだそうだ。

「後から来るんじゃない? 私はこの子が走り出したから、追いかけてきただけ」
娘はそういうと、孫を玄関に向かわせて手を洗うように言っていた。
この子は彼女と違って、要領の良い子だと夫はいっていた。美希とは似てないな、とも笑いながら言っていたのを思いだした。
彼女に言わせれば、勘違いもはなはだしいと一笑に付してしまう。
なぜなら、
「お父さん、私の胸元に夢中だったの」
と、このように昔から夫を好いて彼女なりに誘惑していたからだ。
家庭を持ってからはかなり控えめになったが、それでもなくなったわけではなかったのだ。
まぁ、今さら夫が取られるような心配はしていないが、娘はともかく同じ血を引いている孫の将来が心配だった。
家の中に娘たちが入っていき、彼女も入ろうとしたら後ろから妨害された。
「ただいま。美希」
「おかえりなさい。浮気者」
最愛の夫が帰ってきた。
「おいおい。いきなり浮気者ってなんだよ」
「浮気者じゃないなら、娘に欲情する変態なの。あっ」
つい昔の口癖がでてしまった。そんな彼女を見て彼は笑う。
「久々に聞いたな。それ」
「ふん。それもこれもあなたのせいなの!」
開き直って言ってやるも、彼のにやけ顔はとまらない。
「どうせ開き直るなら、またハニーって言ってくれよ」
彼は結婚してから、彼女に甘えるようになった。
「やなの」
実際はやぶさかではない。
「おいおい。じゃあどうしたら言ってくれるんだよ?」
「そうね。じゃあ「俺は美希だけを愛しています。娘に欲情するなんてことは一切ありません」って言ってくれたら、いいよ?」
「俺は美希だけを愛しています。娘に欲情するなんてことは一切ありません」
即答だった。
あまりにも早い返答に、彼女は目をぱちくりさせていたが、気を取り直して、
「えへへ。ハニー」と笑った。
旦那が旦那なら妻も妻だ、と娘は傍目に湯がいたそうめんを皿に移していた。
「ねぇハニー。聞きたいことがあるの」
「ん? なんだ」
彼女は縁側に座り、隣に座る彼の肩に頭を預けた。
「えっとね。ハニーの未来は何色だった?」
「なんだ急に? ふるふるフューチャーか?」
いつか聞こうと思っていて思わぬところで知ってしまった質問だが、やっぱり彼の口から聞きたいと思った。
「そうだよ。ハニーの未来は何色?」
「そうだなぁ……。俺は、」
けどやっぱりやめた。いつも意地悪されるから今日はそのお返しをしようと思った。
「明るい黄色でしょ?」
次に目をぱちくりさせるのは彼のほうだった。
「何で知ってるんだよ」
「へへ。これ見ちゃったの」
そう言って顔の横で掲げた、古ぼけて擦り切れて色あせた日記を彼はとっさに奪い返そうとしたが、それはかなわなかった。
「なっ!? お前それ見たのか!?」
「もうハニーってば、ミキのことこんなに思ってくれてたんだね」
嬉しさのあまり、一人称まで戻った彼女はパラパラと日記のページをめくる。
「う、うるさい! それに今は少し違うからな!」
照れ隠しが下手な彼はこれだけしか言い返せない。
またかこのバカップル、と娘はため息を隠さないまま。
「そ、そんなことより、美希の未来は何色だったんだ」
「ミキはね」
「お父さん、お母さん、ご飯できたよー」
「できたよー!」
次は娘に妨害された。
これは娘の小さな反抗なのかもしれない。
それに倣う孫はことの意味を理解できていないようだ。
「お、飯か。行こうか美希」
「うん。ねぇハニー?」
「うん? なんだ?」
石段の上に脱いだ靴を並べていた彼が振り返る。
「ミキの未来はね、とっても甘いハチミツ色だったの!」
「そうか」
「俺もだよ」
彼は、そんな幸せな彼女に優しく微笑んでみせた。

辺りが橙色から群青に染まっていく中で、この家に小さな白い光が灯った。
その光はどことなく薄い黄色が混じっているように見えた。
闇に飲み込まれないように、あるいは己を示すように。
そう、かつての星井美希のようにキラキラと光り輝いていた。

これからのとびっきり甘いハチミツ色の未来のように。



お し ま い
これでホントにおしまいです。
前スレからお付き合いいただいた方、ありがとうございました!
僕の不手際でご迷惑をおかけしてごめんなさい。
本当は最初の想定だといろいろと鬱な話だったんですが、書いてるうちに方向転換していってこんな形になりました。
これもひとつのハッピーエンドなのかな?

次は何を書こうかな
ゴールデンウィーク内で終わらせられてホントによかったです。
約半日お付き合いいただきありがとうございました。
みなさまお疲れ様です。

また、いつかどこかのSSでお会いしましょう。

13:36│星井美希 
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