2013年11月07日
P「おはようございます、星井さん」 美希「……ハニー?」
P「『ハニー』は駄目ですよ。星井さんも前みたいにプロデューサーと呼んでください」
美希「ハニーからかってるの? 全然おもしろくないの」
P「真面目に仕事をしようと思ってるんです。星井さんも出来る限りお願いしますね」
美希「ハニーからかってるの? 全然おもしろくないの」
P「真面目に仕事をしようと思ってるんです。星井さんも出来る限りお願いしますね」
美希「やなの。そんなハニーはハニーじゃないの」
P「今日はグラビア撮影と夕方からはスタジオでレッスンです。撮影はタクシーで向かってください」
美希「ミキ、ハニーが送ってくれなきゃやなの。それに、いつもみたいに『美希』って呼んで?」
P「今日は高槻さんと真美さんに付き添いますので、済みませんが一人でお願いします」
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春香「おはようございまーす!」
P「おはようございます」
春香「……?」
P「天海さんは今日はイベントですね。夕方は星井さんたちと一緒にレッスンです」
春香「天海さん?」
美希「ミキもなの。星井さんって呼ぶの……」
春香「な、何で?」
美希「ねぇハニー、どうして今日は上の名前で呼ぶの?」
P「練習です」
春香「………………」
美希「………………」
春香「意味わかりませんよ!? 何の練習ですか!?」
P「営業で皆さんの話をしていて、苗字が咄嗟に出てこない場合がありまして」
春香「苗字が?」
P「いつも名前で呼んでいるので、つい普段通りに名前を出してしまう場合もありました。それは良くないと思ったんです」
春香「それは……まぁ、確かにそうですけど、私たちの苗字くらいちゃんと覚えてください!」
P「済みません。反省してます」
美希「ねぇ、じゃあ言葉遣いは?」
P「私も普段から言葉遣いに気を付けないと、いざという時に丁寧な言葉が出なくて相手に失礼ですから」
美希(ハニーが私って言うとかっこ良いの)
P「それに、出演先でもプロデューサーがアイドルに丁寧に対応していると印象が良いでしょう?」
春香「うーん、一理あるかもしれませんけど……」
春香「それは他のアイドルの皆にもですか?」
P「もちろんです。そうでないと練習になりませんから」
春香「いつまで……ですか?」
P「特に期限は決めていませんが、私としてはずっとこのままでも良いかと思っています」
春香「……それって仕事の時だけですよね? プライベートの時まで天海さんなんて嫌ですよ?」
P「変な言い方ですが、基本的にアイドルの皆さんとは仕事上のお付き合いですから、期限を決めなければずっと天海さんです」
春香「……え?」
美希「ね、ねぇハニー? ミキのこと、ずっと星井さんなんて呼ばないよね? ね?」
P「この口調で慣れてしまえば、ずっと星井さんです」
美希「そんなの駄目なの!! 慣れちゃ絶対駄目なのハニー!!」
P「ハニーは駄目ですよ。とりあえず、しばらくはこれでいきますのでご協力をお願いします」
美希「うぅ……星井さんなんてやなの。ねぇハニー、二人きりの時はせめて『美希』って……」
P「呼びません」
美希「じゃあ星井なんてやめてやるの!!」
春香「み、美希、どうやってやめるの?」
美希「家を捨ててミキは『美希』だけでこれからいくの!! そうすればハニーは『美希』って呼ぶしかなくなるのっ!!」
春香(苗字が『美』で名前が『希』になるのかなぁ? そうなると『美』さんって呼ばれそう……)
やよい「おはようございまーすっ!」
春香「おはよう、やよい」
やよい「んぅ? 春香さん元気ないですかぁ?」
春香「あはは、ちょっとね……」
春香(きっとやよいにも……)
P「おはようございます、高槻さん」
やよい「………………」
美希「やよい固まったの」
春香「やっぱり……」
美希「やよいー? やーよーいー?」
やよい「……はっ。あれ? 私どうしたんですか?」
春香「えっと、それは……」
P「大丈夫ですか? 高槻さん?」
やよい「たか……つき……さん? あの、プロデューサー?」
P「はい」
やよい「どうして……千早さんみたいに私を呼ぶんですか? 昨日までは『やよい』って呼んでくれてたのに……」
春香「やっぱり私たちと同じ疑問だよね」
美希「当たり前なの」
P「呼び方は皆さんの苗字が咄嗟に出る様に、言葉遣いは仕事で必要なきちんとした言葉遣いを練習しようと思いまして」
やよい「練習、ですかー……」
P「そうです。協力してくれますか?」
やよい「いつまで、ですか?」
P「特に決めていませんが、とりあえず最低一週間は続けようかと思っています」
やよい「一週間……」
P「高槻さんも協力をお願いしますね?」
やよい「……はい。わかりましたー」
美希「あんな嫌そうなやよい初めて見たの」
春香「うん……」
真美「今日の兄ちゃんつまんない」
美希「真美はまだ良い方なの。苗字で呼ばれるのはキツイの」
真美「真美さんなんてたにんぎょーぎじゃん! 真美と兄ちゃんは深いふかーいあまーい関係なのに!」
美希「そんなの許した覚えはないの。ハニーはミキだけのものだからそんな関係は駄目なの」
真美「んっふっふー、嫉妬は見苦しいぞミキミキー?」
美希「それ以上言ったら雪歩にスコップ借りて穴掘って埋めてやるの」
真美「きゃーこわーい! にーちゃーん、ミキミキがいじめるよー」
P「星井さん、そろそろ時間ですから準備してください」
美希「ハニーが送ってくれなきゃやなの」
P「今日は無理です。時間も無いので早くしてください」
美希「ハニー冷たいの」
雪歩「はぅぅ……」
真「雪歩おはよう……どうしたの?」
雪歩「真ちゃん……おはよう。あの、今日、プロデューサーが……」
真「プロデューサー? プロデューサーが何か言ったの?」
雪歩「わ、私のことを萩原さんって……」
真「え?」
雪歩「練習って言ってたけど……うぅ……ぐすっ」
真「ちょっと!? 雪歩泣かないでよ。あのさ、全然話が見えないんだけど……」
雪歩「穴掘って埋まりたいよぉ……」
真「だめだって事務所に穴掘っちゃ! あぁもう雪歩!!」
真「ちゃんと苗字を覚える練習?」
雪歩「う、うん……そう言ってたよ」
真「意味あるのかなぁそんなの。ボクたちの名前を覚えてないってことじゃないか。酷いなぁプロデューサー」
雪歩「でも、下の名前で呼んでもらえるって、やっぱり嬉しいし」
真「まぁ、確かにそうだけどさ」
雪歩「真ちゃんは、プロデューサーに菊地さんって呼ばれたら、どう?」
真「………………」
雪歩「ま、真ちゃん顔が怖いよぉ……夜叉みたいだよぉ……」
真「……雪歩、冗談でも傷付くからそんな例え止めてよ」
雪歩「ほ、本当だよ? 嘘じゃないよ?」
真「うぅ……今のでボクも泣きそう……」
響「な、なんだよ!? 『やっぱ辞ーめた』なんて言うのはナシだぞ!?」
P「いや、まだ彼が来ると正式に決まってないので、決まってから個別に話そうと思います」
雪歩「い、いったいなんの話なんですかぁ?」
P「んー、まぁ、今後についての話ということで」
春香「今後……」
P「それでも、彼が来てもしばらくは私もいますから、急いで話す必要もないことです」
真「その言い方、なんか引っ掛かるんですけど?」
P「そうですか?」
響「そうだぞ! 言いたいことがあるならはっきり言えばいいぞ!」
雪歩「プロデューサー、気になりなすぅ」
P「まぁまぁ……とにかく、今日は以上です」
-ファミレス-
真「プロデューサー、絶対怪しいよ」
雪歩「私たちに隠し事してるみたいだし……」
真「絶対そうだって! ボクたちに言えないことって、一体なんなのさ!?」
響「自分、ポテサラパケットステーキにするぞー! 皆はどうする?」
真「響はマイペースだなぁ……ボクもそれにしようかな?」
響「あぁ! これが一番うまそうだからな!」
春香「………………」
雪歩「……春香ちゃん?」
春香「……あ……ごめん、ぼーっとしちゃった」
雪歩「大丈夫? 考えごと?」
春香「うん……どうしても悪いほうに考えちゃって」
真「春香……」
春香「もし……もしも、プロデューサーさんがいなくなったり、一緒にお仕事出来なくなったら……」
響「でも辞めないって言ってたぞ?」
春香「辞めなくても、プロデューサーさんが私たちをプロデュースしないってなったら……」
真「あ……そういう意味か」
春香「私……ずっとプロデューサーさんとお仕事したい」
響「そんなの自分だって……」
雪歩「……あの」
真「雪歩?」
雪歩「あの人が来なかったら、プロデューサーはずっと私たちを見ていてくれるのかなぁ……?」
春香「……!」
真「雪歩!? そんなこと……」
雪歩「ご、ごめんなさいぃ! でも私……」
響「うん、自分もそうかもって思う」
真「響まで!? そういうことって……」
春香「その可能性はあるよ、きっと」
真「そ、そうかな?」
春香「あの人が来るかどうかまだ決まってないってことは、プロデューサーさんと私たちの今後もまだ決まってるわけじゃないってことだし」
響「でもさ春香、一体どうするんだ?」
春香「……あの人には悪いけど」
真「ま、まさか……」
春香「765プロには入らないって思わせれば……!」
真「そんなこと……出来る訳ないよ!? 雪歩だってそう思うだろ!?」
雪歩「えっと私……私ぃ……」
真「………………」
響「嫌がらせするってことか? 自分もそれはちょっと……」
春香「そこまでは……私だって、嫌な思いさせるのは違うと思うし」
響「うーん、自分じゃいい考えが思いつかないや。とりあえずボタン押すぞ?」
雪歩「あ! 響ちゃん、私決めてないよぅ……」
響「もう押したから、早く決めないと店員が来ちゃうぞ?」
雪歩「えっとぉ……えぇっとぉ……」
店員「ご注文、お決まりでしょうか?」
雪歩「あ、えっと……うぅ……どうしよう真ちゃん……」
真「え? ボク? ボクは響と同じやつだから」
雪歩「えへへ……これおいしいね」
響「ポテトサラダがハンバーグに入ってるの、初めて食べたけどうまいな!」
真「四人いて三人が同じものってなんか変な感じ……春香、ごめんね?」
春香「ううん、全然謝ることじゃないよ」
真「そうだけど、なんかね……」
響「なぁ春香。さっきの話だけど、ほんとにやるのか?」
春香「うん、私はやろうと思ってる。だけど、三人は?」
真「ボクは……ちょっと恥ずかしいな」
雪歩「私も……」
春香「じゃあプロデューサーさんは私だけのもの――」
響「自分もやるぞ! 春香だけがやったら不公平だからな」
真「不公平ってどういう意味?」
響「あ、いや違くて……は、春香だけじゃ大変だろうなって思ってぇ」
雪歩「そ、そうだよ。春香ちゃんだけじゃ大変だし、私もプロデューサーに……」
春香「雪歩は大丈夫なの? プロデューサーも男の人だよ?」
雪歩「プロデューサーはもう大丈夫だし……特別だから」
春香「………………」
真「三人ともやるんだ……じゃ、じゃあボクも」
響「イヤイヤならやらなくていいぞ、真?」
真「イヤイヤじゃ! ……ないけど」
響「じゃあ四人ともやるっていうことで」
雪歩「うぅ……緊張するぅ」
真「いや、明日からでしょ? 今から緊張するの?」
響「自分もちょっとドキドキする……」
真「そ、そうなんだ……ボクもちょっと……ね」
雪歩「ふふっ、真ちゃんも?」
春香「よし……じゃあ明日からね? 恨みっこなしだからね?」
真「へへっ、わかってるよ」
響「自分、完璧だからな! 大丈夫だぞ!」
雪歩「が、頑張りますぅ」
春香「うん、プロデューサーさんを引き止めるために、皆で頑張ろう!」
-765プロ事務所-
高木「オホン、紹介しよう。彼は我が765プロのプロデューサー候補である『P候補』くんだ」
P候補「よろしくお願い致します」
高木「今日から三日、765プロのアイドルたちの仕事ぶりを見学してもらうことになった。諸君、よろしく頼むよ?」
春香「はい! 質問です!」
高木「天海君、なんだね?」
春香「P候補さんは、まだ765プロに入社するって決まってないんですか?」
高木「あぁ、そうだ。この見学期間の後に決めてもらうことになっている」
春香「はい、ありがとうございます」
響「プロデューサーの言った通りだな?」
真「そうじゃないと昨日話した意味がないよ」
千早(あの人が来ると決まればプロデューサーと……)
やよい「よろしくお願いしまーす!」
響「あ……」
真「響? どうしたの?」
響「やよいとかのこと、考えてなかったな……」
真「どういうこと?」
響「あのあんちゃんが、やよいとか他のアイドルを気に入っちゃったら意味ないんじゃないか……?」
真「あ……そうじゃないか! あーもう! どうするんだよぉ!」
P「じゃあ、今日は我那覇さんと菊地さんの収録に同行してもらいましょうか」
P候補「はい、わかりました」
P「我那覇さん、菊地さん、今日も私は行けませんが、普段通り仕事に向かってください」
真「あ、え? はい、わかりました……」
響「……とりあえず結果オーライ、か?」
真「まあ、そうかな?」
P候補「我那覇さんに菊地さんですね。よろしくお願い致します」
春香「プロデューサーさん?」
P「はい、どうしました?」
春香「今日は、私に同行ですか?」
P「いえ、如月さんの歌の録音があるのでそちらに」
春香「私に同行ですよね?」
P「いや、違いま――」
春香「私……プロデューサーさんと一緒じゃないと……」
P「は、春香?」
春香「最近一緒じゃなくて寂しくて……いつも楽屋で泣きそうになっちゃって……」
P「あの……」
春香「うぅ……あの時を思い出したら……私……」
雪歩「春香ちゃん、演技上手……」
真「演技……かなぁ?」
響「いきなり飛ばしてるな、春香」
んっふっふ〜! 寝る時間かな〜?
-テレビ局楽屋-
P候補「収録お疲れ様でした」
真「お疲れ様です!」
響「今日も頑張ったさー!」
P候補「お二人とも流石でした。現場に立ち会うと、やはり違いますね」
真「はい、最近プロデューサーに言われてることがあって」
響「あれ、真もか?」
真「響も?」
P候補「なんですか?」
真「自分で考えて行動してみなさい、って。今はそれを実践してるんです」
響「自分もおんなじさー。仕事は取ってきてくれるけど、最近プロデューサーが付き添わないのはそれだからかなぁ?」
真「自由にやらせてもらえるのは嬉しいんですけど……」
P候補「なにか?」
真「ボクたち、正直まだやっていいのかわからないこともたくさんあって」
響「そうだなー。すぐアドバイスもらいたい時もあるし」
真「皆忙しくなってきたんで、プロデューサーがいない場合も出てくるし……だから、P候補さんが呼ばれたのかな?」
響「そうかもな」
P候補「お二人を見ていると、私もどこまで協力出来るやら……」
真「うーん、でもプロデューサーも前はちょっと頼りなかったし」
P候補「え?」
響「じゃ、じゃあ自分たち着替えるから!」
P候補「あ、はい、私は外で待っています」
響「真、あれは言わないほうがいいと思うぞ?」
真「ごめん……ボクも言ってから気付いたよ」
響「てゆうか、なんで自分が真のフォローしてんだろ? 真のほうが年上だろ?」
真「う……ごめん。ボクもまだまだだなぁ……あ、春香からメール来てた」
響「なんだって?」
真「えっと……ボクたちの話を詳しく聞きたいから、今日もファミレスに集合だって」
響「またあそこか? 別なとこがいいなぁ」
真「それは後で春香に言ってよ」
響「最近の春香、怖いんだよなぁ……なんでだろ?」
真(そんなのわかるだろ……)
-765プロ事務所-
伊織「ふーん、あなたが新しいプロデューサー候補?」
P候補「はい、よろしくお願い致します」
亜美「よろしくー! 双海亜美だよ!」
あずさ「三浦あずさです。よろしくお願いします」
伊織「水瀬伊織よ。まぁ、もし入ったら頑張って頂戴」
律子「伊織、どうして上から目線なのよ?」
伊織「まだ765プロのプロデューサーってわけじゃないんだから、これくらいが適当でしょ?」
律子「765プロのプロデューサーじゃないからこそ丁寧にしなさい」
あずさ「まぁまぁ律子さん。伊織ちゃんも、ちゃんとしなきゃ駄目よ?」
伊織「ふん、わかってるわよ」
律子「P候補さん、もうアイドル全員には会いました?」
P候補「えっと……先ほど四条貴音さんと双海真美さんとご挨拶しました。後は星井美希さんがまだ……」
律子「あぁ、美希は明後日来ますよ。学校の用事があるって、珍しく仕事以外の理由で明日までいないんです」
P候補「そうなんですか……残念です。是非お会いしたかったのですが」
律子「実際に会うのと、テレビで見るのとだと、ギャップがあると思いますが……」
伊織「そうね、あれは裏表ある女だから」
亜美「それはいおりんじゃないのー?」
伊織「……なによ? このスーパーアイドル伊織ちゃんに裏表なんてあるわけないじゃない」
P候補「いえいえ、美希さんに限って裏表なんてあるわけないですよ。シャイニングアイドル賞新人賞を取るくらいのアイドルですから!」
律子「あはは……直接会えばわかるかもしれないです」
P候補「はぁ……?」
-焼肉屋-
春香「つまり、私たちの人気をさらに大きく出来るのか……あの人にとってはそこがポイントなんだ?」
真「たぶんね」
雪歩「カルビおいしいね」
響「プレッシャーとかあんのかな?」
春香「それはあると思う。私、今日撮影が終わってからいろんな人にP候補さんのこと訊いてみたの」
真「え? そんなことしてたの?」
春香「苦労したよぉ。ちょっと待ってね」
雪歩「響ちゃん、ミノとタン塩はこっちで焼いてね? タレが付いちゃうから」
響「あ、あぁ、わかったぞ……」
雪歩「真ちゃん、そっち焦げちゃうから早く取ってね?」
真「あ、うん、わかった」
春香「えっとね、あの人、前は765プロより小さい事務所のプロデューサーだったみたいで、デビューしたばっかりのアイドルを育ててたって」
響「その話だと、うちのプロデューサーに似てるな?」
春香「うん。でも、そのアイドルも有名になるまで二年くらい掛かってるみたい。その点だとやっぱりプロデューサーさんのほうが敏腕だよ」
雪歩「トントロ頼んでいいかな? いいよね?」
真「まだそれほど人気のあるアイドルをプロデュースしたことがないから?」
春香「話を聞いてると、そうかもって思う」
響「……あれ? 春香、さっき『前は』って言ったか?」
春香「そうだよ?」
響「あのあんちゃん、今はプータローってことか?」
春香「言い方が悪いとそうなっちゃうけど、フリーのプロデューサーさんってことかな」
雪歩「真ちゃんもなにか頼む?」
真「じゃあウーロン茶おかわり」
響「なんで前の事務所を辞めたんだろうな? それは訊いたのか?」
春香「さぁ……そこまでは」
響「うーん、直接訊いてみよっかな?」
春香「……響ちゃん、P候補さんのこと、気になるの?」
響「はぁ? そんなわけないだろ?」
春香「真も言ってたよ? 結構仲良しになってたって」
響「な、なんでだよ真!?」
真「え? なに?」
響「なに? じゃないさー! なんで自分とあのあんちゃんが仲良しになってんだよ!?」
真「違うの? よく話してたじゃないか?」
響「あれはいろいろ話して攻めるって、そういうやつだろ!」
雪歩「せ、攻める……響ちゃん、大胆だね……」
響「おい! 雪歩はどうしてそういうとこだけ突っ込むんだよ!?」
春香「私、響ちゃんを応援してる!」
響「しなくていいぞ!? 全然しなくていいからな!?」
春香「乾杯だよ! 乾杯!」
響「だからー! やらなくていいからー!」
-収録スタジオ-
千早「今日はどうでした?」
P「いや、それは俺が千早に訊くことだからな?」
千早「私は普段よりずっといい歌が歌えたと思います。今日は失敗などのもやもやがありませんから」
P「そうか、よかったな」
千早「プロデューサーはずっと楽しそうでしたね?」
P「あぁ、楽しかったよ。俺もいつかあぁやってレコーディングがしたいよ」
千早「……プロデューサー、口調と呼び方が元に戻ってますよ? 練習はもういいんですか?」
P「あ……そうですね。そういえばずっと元のままだったかも」
千早「それを忘れてしまうほど楽しかったんですね?」
P「いやぁ……面目ない」
千早「私はどちらでもいいですけれど……でも、親しい感じで話してもらったほうが、気は楽です」
P「……そうか」
千早「はい。そのほうが距離が近い感じがして……私、口下手ですから、話していても楽しくないかもしれませんけど」
P「そんなことないぞ? 千早は音楽の話になると結構饒舌だし、俺も音楽は好きだから話していて楽しいぞ」
千早「本当ですか?」
P「あぁ。本当だよ。時々ディープ過ぎて付いていけない時もあるけど……でも、千早と話すのは楽しいよ」
千早「そう言って頂けると……私……嬉しい……です」
P「ありがとな?」
千早「……ふふっ」
P「もう遅いから、千早のマンションまで送っていくな? 車出してくるよ」
千早「はい、ありがとうございます」
千早(夜のドライブ……もしかして……)
寝るのー!
◆
春香「おはようございまーす」
伊織「おはよ」
P候補「あ、おはようございます、天海さん、水瀬さん」
P「おはよう……珍しい組み合わせだな?」
春香「そうですか?」
P「普段見ないペアだからかな。違和感がものすごい」
伊織「そうね。私は春香と合わないから、一緒にいられないと思っているもの」
春香「え、そうかなぁ? 私は結構合うと思ってるけど」
伊織「勘違いよ。認識を改めなさい」
春香「だって伊織、可愛いし……」
伊織「それがなによ? 私が可愛らしくてセクシーなんて当たり前じゃない」
P(セクシーとまでは言ってない……)
春香「伊織だってちっちゃくて猫被ってるけど一応正統派だし、私も正統派アイドルだから合うと思うよ?」
伊織「猫被ってる言うな! それにあんたのどこが正統派なのよ? 完全にイロモノじゃない」
春香「イロモノじゃないよぅ! プロデューサーさん、私って正統派アイドルですよね? ね?」
P「え? あぁ……そ、そうだな……」
春香「ほらぁ! プロデューサーさんだってそう見てるって!」
伊織(そこがイロモノなのよ……普通は正統派ですよねって訊かないわよ)
春香「ところで、お二人はホワイトボードの前でスケジュールの確認ですか?」
P「あぁ。来週はライブのリハーサルがメインになるから、仕事のオファーが来ても後に回す」
P候補「リハのために全員の予定をぽっかり空けるっていうところは珍しいですね」
春香「そうなんですか?」
P候補「はい、普通は仕事の合間にリハをねじ込むって感じですから。それに、メンバー全員のスケジュールを調整するのも難しいですし」
春香「予定はプロデューサーさんが全部調整してくれたんですよね? ありがとうございます」
伊織「律子から聞いたけど、竜宮小町のほうも調整したのね? あんたのその腕だけは褒めてあげてもいいわ」
P「まぁな。新年ライブのこともあったから、事前になんとかしたかったし」
P候補「なにかあったんですか?」
春香「わ、そんなのいいんですよっ! 昔の話です!」
伊織「昔って言うほど昔じゃないわよ? 半年前よね」
春香「いいのいいの!」
P「……ま、いろいろありまして」
P候補「そう……ですか」
春香「でもでもっ、プロデューサーさんは、やっぱりすごいです! アイドル十二人のスケジュールをきっちり調整しちゃうんですから」
P「いや、でも何人いようとやらなきゃいけないことだし……出来ないと思って仕事はしてないよ?」
P候補「う……そ、そうですよね……」
P「はい」
美希「おはようなのー! ハニー!」
P「おはよう美希、今日は早……うわっ!?」
美希「ハニーに洗脳が効いたの! 今日はちゃんと美希って呼んでくれたのー!」
P「いや、洗脳は別に……」
春香「美希! プロデューサーさんから離れて! はーやーく!」
美希「やなの! 春香には関係ないのー! 二日も会ってなかったから充電するのー!」
春香「プロデューサーさんが嫌がってるから! 早く!」
美希「いたいいたいいたいのっ! ハニーは嫌がってないのっ!!」
伊織「止めなさいよ二人とも! みっともないわね!」
P「さ、さすがは伊織! あ、あれ……伊織はなんで俺を引っ張るの……美希を剥がしていてててて!?」
美希「でこちゃんハニーに触んないで!!」
P候補「あ、あの……星井美希さんですよね?」
美希「……へ? そこの人、誰?」
P候補「お、オレ、765プロのプロデューサーにならないかって声を掛けてもらった者で、その……」
美希「プロデューサーに? プロデューサーはハニーがいるけど……?」
春香「美希っ! 聞くならっ! プロデューサーさんからっ! 離れてっ!!」
美希「ああぁ!! ハニー!!」
P「いいからいいから……美希が離れたから、伊織ももういいよな?」
伊織「そ、そうね。まったく、とんだ茶番だったわ!」
春香「……そう言いながら、しっかり腕を掴んだままですけど?」
美希「でこちゃんハニーに触んないで!!」
伊織「さっきと同じセリフね。もう少し捻りなさいよ?」
P候補「うわぁ、ホンモノだ! 美希さんあの、お会い出来て光栄です!」
美希「わぁ!? ちょっと! 触らないで!」
P候補「す、済みません! でもオレ……」
美希「ミキに触っていいのはハニーだけなの! ハニー以外の人には絶っ対、触られたくないの!」
P候補「ハニーって……」
美希「ハニーはハニーなの。ね、ハニー?」
春香「こら美希! また抱きついちゃ駄目!」
P「美希、頼むから今は遠慮してくれ。話が進まないから」
春香「今だけじゃなくて、永遠に抱きついちゃ駄目だよ!」
美希「春香はうるさいから黙っててほしいな。ハニーはミキのなんだから、抱きつくのはミキの勝手なの」
春香「プロデューサーさんはわた……皆のものだから駄目だよ! 駄目!」
伊織「本音が出かけたわね」
P候補「あの……」
美希「あれ、 まだいたの?」
P候補「オレ、765プロに入ったら美希さんをプロデュースしたいんです! 絶対、今よりもっとすごいアイドルにしてみせますから!」
美希「ふーん、そんなの無理なの」
P候補「え……どうして?」
美希「だってミキのプロデューサーはハニーなの。ハニーが来た時から、これからもすーっとプロデューサーはハニーだけなの」
P候補「でもオレ、美希さんをプロデュースしたくて……」
美希「無理なものは無理なの。諦めてほしいの」
春香「美希、プロデュースしてもらいなよ? そうすればプロデューサーさんは私と……」
美希「春香、駄目なの! ハニーはミキだけのプロデューサーなんだからっ!」
春香「美希だけの、じゃないよ! プロデューサーさんはわた……皆のものだよ!!」
伊織「いい加減突っ込むのも疲れたわ……」
P候補「美希さんを……プロデュース出来ない……」
P「あ、いや、それは今後話し合って――」
美希「ハニー、この人が来たら、春香たちみんなのプロデュースお願いする? そうすれば二人で……」
春香「プロデューサーさん、美希はお任せしましょうよ? そうすれば二人で……」
P「いや、その……」
P(二人とも任せるつもり……って言ったらまたややこしくなりそうだな)
美希「ミキはその人にプロデュースしてもらう気はないの。ミキにはハニーしかいないんだからっ」
P「でも美希、誰とでも仕事が出来るように頑張るって言ったろ?」
美希「じゃあサインしてくれるの? 婚姻届に」
P「それは……」
美希「しないなら、ミキもやなの。ハニー以外の人にはプロデュースされたくないの」
P「美希! そんなわがままは――」
美希「ハニーと離れたくないの! 他の人とお仕事させるんだったら、それ以外で一緒にいる時間がほしいの!」
P「それ以外……?」
美希「ミキ、ハニーと一緒にお仕事出来るんだったらちょっとは我慢出来るの。でも……」
P「………………」
美希「ミキを一番キラキラさせてくれるのは、ハニーなの。ハニーしかいないんだよ?」
P「それ……は……」
美希「それに……ミキ、本気だから。ハニーとずーっと一緒にいたいの。ハニーを誰にも渡したくないの」
P「……俺、正直自信がないんだ」
美希「え……?」
P「美希がすごくて……すごくてすごくて、もう俺なんかじゃキラキラさせてやれないんじゃないかって……そう思ってて」
美希「ハニー……」
P「自信がなくてプロデュース出来ないって、そう言うのが恥ずかしくて……新しい人に任せようと……」
美希「……ねぇ、教えてハニー? ミキをここまでキラキラさせてくれたプロデューサーは、だぁれ?」
P「それは……俺、だけど……」
美希「なら、もっと自信持てばいいの! だってハニーにプロデュースしてもらったから、なんとかっていう賞ももらえたの! 半分はハニーの賞なの」
P「そう……かな?」
美希「そうなの! ハニーはすごいプロデューサーなの! ミキとハニーならムテキなの!」
P「……美希がそう言うなら、俺、自信持ってもいいのかな?」
美希「もちろんなのー! もっと胸を張るの! あはっ!」
P「ありがとな……美希」
春香「……あれ? P候補さんは?」
伊織「プロデューサーとあれが言い合い始めたくらいに出て行ったわよ。これでもかっていうくらい背中丸めて」
春香「そっか……」
伊織「それで、どうするのよこの二人? ここにはあんまりいたくないわ」
春香「えぇっと……とりあえずレッスンのスタジオに行く?」
伊織「時間まだ早いわ。はぁ……早く来て損するなんて」
春香「あ、じゃあクッキー食べる? 私、ぷろ……み、皆に食べてもらおうと思って焼いてきたから」
伊織「わざわざ言い直さなくても皆わかってるわよ?」
春香「な、なんのことかな?」
伊織「あんた頑固ね。そんなんじゃモノに出来そうにないわね……」
やよい「おっはようございまーす!」
千早「おはよう……二人とも、なにをしているの?」
小鳥「あら? プロデューサーさんと美希ちゃん、見つめ合っちゃってどうしたの?」
春香「おはよう。ね、クッキー食べる?」
やよい「いいんですかぁ!? ありがとうございます春香さん!」
小鳥「ねぇ春香ちゃん、あれはどういうことになってるの? 私の目の前の席で二人がイチャついてるんだけど……」
春香「あれは……」
伊織「一言で言えば、美希がわがままだってこと」
小鳥「美希ちゃんが? それは……こう言うと美希ちゃんに悪いけど、前からわかってることよね?」
やよい「でも美希さん、プロデューサーとお話してて楽しそうですぅ」
伊織「楽しそう……ね」
美希「ハニー、今日は二人でお出掛けしよう?」
P「美希はこれからレッスンだろ? 駄目だ」
美希「ぶぅ……じゃあ終わってから二人きりでご飯食べに――」
春香「美希! それは許さないから!」
伊織(まぁ、楽しいのが一番かもね……)
高木「――というわけで彼の辞退もあり、新たなプロデューサーはまた探すこととなった。諸君、今は気持ちを切り替えて頑張ってほしい。以上だ」
響「あのあんちゃん、結局来なかったんだな」
真「意外とあっさり済んだね?」
響「でもよかったさー。あんちゃんには悪いけど、自分たちの命には代えられないさー」
真「ほんと、そうだよね……」
雪歩「私なんにも出来なかったけど、よかったのかな?」
真「いいんじゃない? 結局春香の希望通りになったんだから」
響「下手に参加すると精神的にやられるからな……自分もやられたし」
春香「誰に?」
響「誰ってそりゃはる……!!」
春香「うふふ……ひびきちゃーん、今夜空いてるぅ?」
真「………………」
雪歩「ひーん……」
千早「そんな……白紙に戻ったなんて……」
美希「千早さん? どうして世界の終わりみたいな顔してるの?」
千早「あの人が入社したら、プロデューサーは私をちゃんと見てくれるって言ってたのに……」
美希「……はぁ? ハニーはずーっと、美希を見るんだよ?」
千早「美希も春香もあの人に任せるって言ってたのに……」
美希「千早さん、いくら妄想でもそんなこと言うのは許せないの」
千早「私の楽曲をプロデュースしたいって言ってくれたのに……それはどうなるの……」
美希「……それ、ほんとなの?」
千早「私だけのプロデューサーなのに……!」
美希「ハニーに……直接訊くしかないのっ!」
伊織「ねぇ小鳥? ちょっと訊いていいかしら?」
小鳥「えぇ、いいわよ」
伊織「この間呟いてた言葉の内容……やよいの前でなんて見てないでしょうね?」
小鳥「え……な、なんのことかしら?」
伊織「やよいが見たらいけない内容よね? しかも、それを見ているパソコンをやよいに貸すなんて……」
小鳥「わ、私はちゃんと分別あるオトナよ? やよいちゃんの前でなんて見るはずないじゃない?」
伊織「どこ見てんのよ? ちゃんと、私の目を見て言いなさいよ? 挙動不審過ぎてシロでもクロに見えるわ」
小鳥「ぴ、ピヨ……」
伊織「今度律子に頼んで、そのパソコンのデータ丸ごと消してもらおうかしら?」
小鳥「そ、それだけはご勘弁を伊織大明神様!!」
伊織「それなら背後には気を付けることね。それか座席を変えたら? 窓際に座れば見られずに済むわよ?」
小鳥「それが……画面が窓に反射してバレたことがあって……」
伊織(つくづく駄目な大人ね……)
亜美「ねー兄ちゃん? 亜美たちにバラエチーのお仕事って来てない?」
P「亜美たちって、亜美と真美にか?」
真美「うん。例えば、アドベンチャーの番組とか、クイズ番組とか」
P「いや、来てないぞ? そういうのやりたいか?」
亜美「やりたいやりたい! 兄ちゃん敏腕プロデューサーだから、ちょちょいっと取って来れるでしょー?」
律子「亜美、無茶言わないの。そんなに簡単に取って来れたら苦労しないわよ?」
真美「えー!? 前にそういう話、しゃちょーとしてなかった?」
P「社長と? してないけど……ちょっと待ってな?」
律子「プロデューサー、もうすぐライブですからあんまり無理は出来ませんよ?」
P「大丈夫だよ。響宛てにバラエティの話があったから、それ系列で訊くだけ訊いてみようかと思ってな」
美希「ハニー! お話があるの!」
千早「プロデューサー、お話があります」
律子「ちょっと二人とも、プロデューサーは電話中よ?」
P「へ? 一体なん……はい、どうもお世話になってます」
美希「ハニー! さっさと終わらせるのっ!!」
P「え? あーいえ、別の場所での話でして……」
真美「ミキミキ! 今兄ちゃんは真美のために電話してるんだから邪魔しないでよっ!」
亜美「真美ー? 真美と亜美のため、じゃん?」
千早(真美……ここにもライバルが……くっ!)
美希「ハニーはミキのものなんだから、勝手に使っちゃ駄目なの!」
律子「静かにしなさいって言ってるでしょ!?」
美希「律子……さんもうるさいの。ハニー、まだなの?」
P「えぇ、ではまた今度……はい、ありがとうございました! 失礼します!」
長らく夜の暇つぶしにお付き合いありがとうございました。
またなのー!
P「今日はグラビア撮影と夕方からはスタジオでレッスンです。撮影はタクシーで向かってください」
美希「ミキ、ハニーが送ってくれなきゃやなの。それに、いつもみたいに『美希』って呼んで?」
P「今日は高槻さんと真美さんに付き添いますので、済みませんが一人でお願いします」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1334510301(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
春香「おはようございまーす!」
P「おはようございます」
春香「……?」
P「天海さんは今日はイベントですね。夕方は星井さんたちと一緒にレッスンです」
春香「天海さん?」
美希「ミキもなの。星井さんって呼ぶの……」
春香「な、何で?」
美希「ねぇハニー、どうして今日は上の名前で呼ぶの?」
P「練習です」
春香「………………」
美希「………………」
春香「意味わかりませんよ!? 何の練習ですか!?」
P「営業で皆さんの話をしていて、苗字が咄嗟に出てこない場合がありまして」
春香「苗字が?」
P「いつも名前で呼んでいるので、つい普段通りに名前を出してしまう場合もありました。それは良くないと思ったんです」
春香「それは……まぁ、確かにそうですけど、私たちの苗字くらいちゃんと覚えてください!」
P「済みません。反省してます」
美希「ねぇ、じゃあ言葉遣いは?」
P「私も普段から言葉遣いに気を付けないと、いざという時に丁寧な言葉が出なくて相手に失礼ですから」
美希(ハニーが私って言うとかっこ良いの)
P「それに、出演先でもプロデューサーがアイドルに丁寧に対応していると印象が良いでしょう?」
春香「うーん、一理あるかもしれませんけど……」
春香「それは他のアイドルの皆にもですか?」
P「もちろんです。そうでないと練習になりませんから」
春香「いつまで……ですか?」
P「特に期限は決めていませんが、私としてはずっとこのままでも良いかと思っています」
春香「……それって仕事の時だけですよね? プライベートの時まで天海さんなんて嫌ですよ?」
P「変な言い方ですが、基本的にアイドルの皆さんとは仕事上のお付き合いですから、期限を決めなければずっと天海さんです」
春香「……え?」
美希「ね、ねぇハニー? ミキのこと、ずっと星井さんなんて呼ばないよね? ね?」
P「この口調で慣れてしまえば、ずっと星井さんです」
美希「そんなの駄目なの!! 慣れちゃ絶対駄目なのハニー!!」
P「ハニーは駄目ですよ。とりあえず、しばらくはこれでいきますのでご協力をお願いします」
美希「うぅ……星井さんなんてやなの。ねぇハニー、二人きりの時はせめて『美希』って……」
P「呼びません」
美希「じゃあ星井なんてやめてやるの!!」
春香「み、美希、どうやってやめるの?」
美希「家を捨ててミキは『美希』だけでこれからいくの!! そうすればハニーは『美希』って呼ぶしかなくなるのっ!!」
春香(苗字が『美』で名前が『希』になるのかなぁ? そうなると『美』さんって呼ばれそう……)
やよい「おはようございまーすっ!」
春香「おはよう、やよい」
やよい「んぅ? 春香さん元気ないですかぁ?」
春香「あはは、ちょっとね……」
春香(きっとやよいにも……)
P「おはようございます、高槻さん」
やよい「………………」
美希「やよい固まったの」
春香「やっぱり……」
美希「やよいー? やーよーいー?」
やよい「……はっ。あれ? 私どうしたんですか?」
春香「えっと、それは……」
P「大丈夫ですか? 高槻さん?」
やよい「たか……つき……さん? あの、プロデューサー?」
P「はい」
やよい「どうして……千早さんみたいに私を呼ぶんですか? 昨日までは『やよい』って呼んでくれてたのに……」
春香「やっぱり私たちと同じ疑問だよね」
美希「当たり前なの」
P「呼び方は皆さんの苗字が咄嗟に出る様に、言葉遣いは仕事で必要なきちんとした言葉遣いを練習しようと思いまして」
やよい「練習、ですかー……」
P「そうです。協力してくれますか?」
やよい「いつまで、ですか?」
P「特に決めていませんが、とりあえず最低一週間は続けようかと思っています」
やよい「一週間……」
P「高槻さんも協力をお願いしますね?」
やよい「……はい。わかりましたー」
美希「あんな嫌そうなやよい初めて見たの」
春香「うん……」
真美「今日の兄ちゃんつまんない」
美希「真美はまだ良い方なの。苗字で呼ばれるのはキツイの」
真美「真美さんなんてたにんぎょーぎじゃん! 真美と兄ちゃんは深いふかーいあまーい関係なのに!」
美希「そんなの許した覚えはないの。ハニーはミキだけのものだからそんな関係は駄目なの」
真美「んっふっふー、嫉妬は見苦しいぞミキミキー?」
美希「それ以上言ったら雪歩にスコップ借りて穴掘って埋めてやるの」
真美「きゃーこわーい! にーちゃーん、ミキミキがいじめるよー」
P「星井さん、そろそろ時間ですから準備してください」
美希「ハニーが送ってくれなきゃやなの」
P「今日は無理です。時間も無いので早くしてください」
美希「ハニー冷たいの」
雪歩「はぅぅ……」
真「雪歩おはよう……どうしたの?」
雪歩「真ちゃん……おはよう。あの、今日、プロデューサーが……」
真「プロデューサー? プロデューサーが何か言ったの?」
雪歩「わ、私のことを萩原さんって……」
真「え?」
雪歩「練習って言ってたけど……うぅ……ぐすっ」
真「ちょっと!? 雪歩泣かないでよ。あのさ、全然話が見えないんだけど……」
雪歩「穴掘って埋まりたいよぉ……」
真「だめだって事務所に穴掘っちゃ! あぁもう雪歩!!」
真「ちゃんと苗字を覚える練習?」
雪歩「う、うん……そう言ってたよ」
真「意味あるのかなぁそんなの。ボクたちの名前を覚えてないってことじゃないか。酷いなぁプロデューサー」
雪歩「でも、下の名前で呼んでもらえるって、やっぱり嬉しいし」
真「まぁ、確かにそうだけどさ」
雪歩「真ちゃんは、プロデューサーに菊地さんって呼ばれたら、どう?」
真「………………」
雪歩「ま、真ちゃん顔が怖いよぉ……夜叉みたいだよぉ……」
真「……雪歩、冗談でも傷付くからそんな例え止めてよ」
雪歩「ほ、本当だよ? 嘘じゃないよ?」
真「うぅ……今のでボクも泣きそう……」
響「な、なんだよ!? 『やっぱ辞ーめた』なんて言うのはナシだぞ!?」
P「いや、まだ彼が来ると正式に決まってないので、決まってから個別に話そうと思います」
雪歩「い、いったいなんの話なんですかぁ?」
P「んー、まぁ、今後についての話ということで」
春香「今後……」
P「それでも、彼が来てもしばらくは私もいますから、急いで話す必要もないことです」
真「その言い方、なんか引っ掛かるんですけど?」
P「そうですか?」
響「そうだぞ! 言いたいことがあるならはっきり言えばいいぞ!」
雪歩「プロデューサー、気になりなすぅ」
P「まぁまぁ……とにかく、今日は以上です」
-ファミレス-
真「プロデューサー、絶対怪しいよ」
雪歩「私たちに隠し事してるみたいだし……」
真「絶対そうだって! ボクたちに言えないことって、一体なんなのさ!?」
響「自分、ポテサラパケットステーキにするぞー! 皆はどうする?」
真「響はマイペースだなぁ……ボクもそれにしようかな?」
響「あぁ! これが一番うまそうだからな!」
春香「………………」
雪歩「……春香ちゃん?」
春香「……あ……ごめん、ぼーっとしちゃった」
雪歩「大丈夫? 考えごと?」
春香「うん……どうしても悪いほうに考えちゃって」
真「春香……」
春香「もし……もしも、プロデューサーさんがいなくなったり、一緒にお仕事出来なくなったら……」
響「でも辞めないって言ってたぞ?」
春香「辞めなくても、プロデューサーさんが私たちをプロデュースしないってなったら……」
真「あ……そういう意味か」
春香「私……ずっとプロデューサーさんとお仕事したい」
響「そんなの自分だって……」
雪歩「……あの」
真「雪歩?」
雪歩「あの人が来なかったら、プロデューサーはずっと私たちを見ていてくれるのかなぁ……?」
春香「……!」
真「雪歩!? そんなこと……」
雪歩「ご、ごめんなさいぃ! でも私……」
響「うん、自分もそうかもって思う」
真「響まで!? そういうことって……」
春香「その可能性はあるよ、きっと」
真「そ、そうかな?」
春香「あの人が来るかどうかまだ決まってないってことは、プロデューサーさんと私たちの今後もまだ決まってるわけじゃないってことだし」
響「でもさ春香、一体どうするんだ?」
春香「……あの人には悪いけど」
真「ま、まさか……」
春香「765プロには入らないって思わせれば……!」
真「そんなこと……出来る訳ないよ!? 雪歩だってそう思うだろ!?」
雪歩「えっと私……私ぃ……」
真「………………」
響「嫌がらせするってことか? 自分もそれはちょっと……」
春香「そこまでは……私だって、嫌な思いさせるのは違うと思うし」
響「うーん、自分じゃいい考えが思いつかないや。とりあえずボタン押すぞ?」
雪歩「あ! 響ちゃん、私決めてないよぅ……」
響「もう押したから、早く決めないと店員が来ちゃうぞ?」
雪歩「えっとぉ……えぇっとぉ……」
店員「ご注文、お決まりでしょうか?」
雪歩「あ、えっと……うぅ……どうしよう真ちゃん……」
真「え? ボク? ボクは響と同じやつだから」
雪歩「えへへ……これおいしいね」
響「ポテトサラダがハンバーグに入ってるの、初めて食べたけどうまいな!」
真「四人いて三人が同じものってなんか変な感じ……春香、ごめんね?」
春香「ううん、全然謝ることじゃないよ」
真「そうだけど、なんかね……」
響「なぁ春香。さっきの話だけど、ほんとにやるのか?」
春香「うん、私はやろうと思ってる。だけど、三人は?」
真「ボクは……ちょっと恥ずかしいな」
雪歩「私も……」
春香「じゃあプロデューサーさんは私だけのもの――」
響「自分もやるぞ! 春香だけがやったら不公平だからな」
真「不公平ってどういう意味?」
響「あ、いや違くて……は、春香だけじゃ大変だろうなって思ってぇ」
雪歩「そ、そうだよ。春香ちゃんだけじゃ大変だし、私もプロデューサーに……」
春香「雪歩は大丈夫なの? プロデューサーも男の人だよ?」
雪歩「プロデューサーはもう大丈夫だし……特別だから」
春香「………………」
真「三人ともやるんだ……じゃ、じゃあボクも」
響「イヤイヤならやらなくていいぞ、真?」
真「イヤイヤじゃ! ……ないけど」
響「じゃあ四人ともやるっていうことで」
雪歩「うぅ……緊張するぅ」
真「いや、明日からでしょ? 今から緊張するの?」
響「自分もちょっとドキドキする……」
真「そ、そうなんだ……ボクもちょっと……ね」
雪歩「ふふっ、真ちゃんも?」
春香「よし……じゃあ明日からね? 恨みっこなしだからね?」
真「へへっ、わかってるよ」
響「自分、完璧だからな! 大丈夫だぞ!」
雪歩「が、頑張りますぅ」
春香「うん、プロデューサーさんを引き止めるために、皆で頑張ろう!」
-765プロ事務所-
高木「オホン、紹介しよう。彼は我が765プロのプロデューサー候補である『P候補』くんだ」
P候補「よろしくお願い致します」
高木「今日から三日、765プロのアイドルたちの仕事ぶりを見学してもらうことになった。諸君、よろしく頼むよ?」
春香「はい! 質問です!」
高木「天海君、なんだね?」
春香「P候補さんは、まだ765プロに入社するって決まってないんですか?」
高木「あぁ、そうだ。この見学期間の後に決めてもらうことになっている」
春香「はい、ありがとうございます」
響「プロデューサーの言った通りだな?」
真「そうじゃないと昨日話した意味がないよ」
千早(あの人が来ると決まればプロデューサーと……)
やよい「よろしくお願いしまーす!」
響「あ……」
真「響? どうしたの?」
響「やよいとかのこと、考えてなかったな……」
真「どういうこと?」
響「あのあんちゃんが、やよいとか他のアイドルを気に入っちゃったら意味ないんじゃないか……?」
真「あ……そうじゃないか! あーもう! どうするんだよぉ!」
P「じゃあ、今日は我那覇さんと菊地さんの収録に同行してもらいましょうか」
P候補「はい、わかりました」
P「我那覇さん、菊地さん、今日も私は行けませんが、普段通り仕事に向かってください」
真「あ、え? はい、わかりました……」
響「……とりあえず結果オーライ、か?」
真「まあ、そうかな?」
P候補「我那覇さんに菊地さんですね。よろしくお願い致します」
春香「プロデューサーさん?」
P「はい、どうしました?」
春香「今日は、私に同行ですか?」
P「いえ、如月さんの歌の録音があるのでそちらに」
春香「私に同行ですよね?」
P「いや、違いま――」
春香「私……プロデューサーさんと一緒じゃないと……」
P「は、春香?」
春香「最近一緒じゃなくて寂しくて……いつも楽屋で泣きそうになっちゃって……」
P「あの……」
春香「うぅ……あの時を思い出したら……私……」
雪歩「春香ちゃん、演技上手……」
真「演技……かなぁ?」
響「いきなり飛ばしてるな、春香」
んっふっふ〜! 寝る時間かな〜?
-テレビ局楽屋-
P候補「収録お疲れ様でした」
真「お疲れ様です!」
響「今日も頑張ったさー!」
P候補「お二人とも流石でした。現場に立ち会うと、やはり違いますね」
真「はい、最近プロデューサーに言われてることがあって」
響「あれ、真もか?」
真「響も?」
P候補「なんですか?」
真「自分で考えて行動してみなさい、って。今はそれを実践してるんです」
響「自分もおんなじさー。仕事は取ってきてくれるけど、最近プロデューサーが付き添わないのはそれだからかなぁ?」
真「自由にやらせてもらえるのは嬉しいんですけど……」
P候補「なにか?」
真「ボクたち、正直まだやっていいのかわからないこともたくさんあって」
響「そうだなー。すぐアドバイスもらいたい時もあるし」
真「皆忙しくなってきたんで、プロデューサーがいない場合も出てくるし……だから、P候補さんが呼ばれたのかな?」
響「そうかもな」
P候補「お二人を見ていると、私もどこまで協力出来るやら……」
真「うーん、でもプロデューサーも前はちょっと頼りなかったし」
P候補「え?」
響「じゃ、じゃあ自分たち着替えるから!」
P候補「あ、はい、私は外で待っています」
響「真、あれは言わないほうがいいと思うぞ?」
真「ごめん……ボクも言ってから気付いたよ」
響「てゆうか、なんで自分が真のフォローしてんだろ? 真のほうが年上だろ?」
真「う……ごめん。ボクもまだまだだなぁ……あ、春香からメール来てた」
響「なんだって?」
真「えっと……ボクたちの話を詳しく聞きたいから、今日もファミレスに集合だって」
響「またあそこか? 別なとこがいいなぁ」
真「それは後で春香に言ってよ」
響「最近の春香、怖いんだよなぁ……なんでだろ?」
真(そんなのわかるだろ……)
-765プロ事務所-
伊織「ふーん、あなたが新しいプロデューサー候補?」
P候補「はい、よろしくお願い致します」
亜美「よろしくー! 双海亜美だよ!」
あずさ「三浦あずさです。よろしくお願いします」
伊織「水瀬伊織よ。まぁ、もし入ったら頑張って頂戴」
律子「伊織、どうして上から目線なのよ?」
伊織「まだ765プロのプロデューサーってわけじゃないんだから、これくらいが適当でしょ?」
律子「765プロのプロデューサーじゃないからこそ丁寧にしなさい」
あずさ「まぁまぁ律子さん。伊織ちゃんも、ちゃんとしなきゃ駄目よ?」
伊織「ふん、わかってるわよ」
律子「P候補さん、もうアイドル全員には会いました?」
P候補「えっと……先ほど四条貴音さんと双海真美さんとご挨拶しました。後は星井美希さんがまだ……」
律子「あぁ、美希は明後日来ますよ。学校の用事があるって、珍しく仕事以外の理由で明日までいないんです」
P候補「そうなんですか……残念です。是非お会いしたかったのですが」
律子「実際に会うのと、テレビで見るのとだと、ギャップがあると思いますが……」
伊織「そうね、あれは裏表ある女だから」
亜美「それはいおりんじゃないのー?」
伊織「……なによ? このスーパーアイドル伊織ちゃんに裏表なんてあるわけないじゃない」
P候補「いえいえ、美希さんに限って裏表なんてあるわけないですよ。シャイニングアイドル賞新人賞を取るくらいのアイドルですから!」
律子「あはは……直接会えばわかるかもしれないです」
P候補「はぁ……?」
-焼肉屋-
春香「つまり、私たちの人気をさらに大きく出来るのか……あの人にとってはそこがポイントなんだ?」
真「たぶんね」
雪歩「カルビおいしいね」
響「プレッシャーとかあんのかな?」
春香「それはあると思う。私、今日撮影が終わってからいろんな人にP候補さんのこと訊いてみたの」
真「え? そんなことしてたの?」
春香「苦労したよぉ。ちょっと待ってね」
雪歩「響ちゃん、ミノとタン塩はこっちで焼いてね? タレが付いちゃうから」
響「あ、あぁ、わかったぞ……」
雪歩「真ちゃん、そっち焦げちゃうから早く取ってね?」
真「あ、うん、わかった」
春香「えっとね、あの人、前は765プロより小さい事務所のプロデューサーだったみたいで、デビューしたばっかりのアイドルを育ててたって」
響「その話だと、うちのプロデューサーに似てるな?」
春香「うん。でも、そのアイドルも有名になるまで二年くらい掛かってるみたい。その点だとやっぱりプロデューサーさんのほうが敏腕だよ」
雪歩「トントロ頼んでいいかな? いいよね?」
真「まだそれほど人気のあるアイドルをプロデュースしたことがないから?」
春香「話を聞いてると、そうかもって思う」
響「……あれ? 春香、さっき『前は』って言ったか?」
春香「そうだよ?」
響「あのあんちゃん、今はプータローってことか?」
春香「言い方が悪いとそうなっちゃうけど、フリーのプロデューサーさんってことかな」
雪歩「真ちゃんもなにか頼む?」
真「じゃあウーロン茶おかわり」
響「なんで前の事務所を辞めたんだろうな? それは訊いたのか?」
春香「さぁ……そこまでは」
響「うーん、直接訊いてみよっかな?」
春香「……響ちゃん、P候補さんのこと、気になるの?」
響「はぁ? そんなわけないだろ?」
春香「真も言ってたよ? 結構仲良しになってたって」
響「な、なんでだよ真!?」
真「え? なに?」
響「なに? じゃないさー! なんで自分とあのあんちゃんが仲良しになってんだよ!?」
真「違うの? よく話してたじゃないか?」
響「あれはいろいろ話して攻めるって、そういうやつだろ!」
雪歩「せ、攻める……響ちゃん、大胆だね……」
響「おい! 雪歩はどうしてそういうとこだけ突っ込むんだよ!?」
春香「私、響ちゃんを応援してる!」
響「しなくていいぞ!? 全然しなくていいからな!?」
春香「乾杯だよ! 乾杯!」
響「だからー! やらなくていいからー!」
-収録スタジオ-
千早「今日はどうでした?」
P「いや、それは俺が千早に訊くことだからな?」
千早「私は普段よりずっといい歌が歌えたと思います。今日は失敗などのもやもやがありませんから」
P「そうか、よかったな」
千早「プロデューサーはずっと楽しそうでしたね?」
P「あぁ、楽しかったよ。俺もいつかあぁやってレコーディングがしたいよ」
千早「……プロデューサー、口調と呼び方が元に戻ってますよ? 練習はもういいんですか?」
P「あ……そうですね。そういえばずっと元のままだったかも」
千早「それを忘れてしまうほど楽しかったんですね?」
P「いやぁ……面目ない」
千早「私はどちらでもいいですけれど……でも、親しい感じで話してもらったほうが、気は楽です」
P「……そうか」
千早「はい。そのほうが距離が近い感じがして……私、口下手ですから、話していても楽しくないかもしれませんけど」
P「そんなことないぞ? 千早は音楽の話になると結構饒舌だし、俺も音楽は好きだから話していて楽しいぞ」
千早「本当ですか?」
P「あぁ。本当だよ。時々ディープ過ぎて付いていけない時もあるけど……でも、千早と話すのは楽しいよ」
千早「そう言って頂けると……私……嬉しい……です」
P「ありがとな?」
千早「……ふふっ」
P「もう遅いから、千早のマンションまで送っていくな? 車出してくるよ」
千早「はい、ありがとうございます」
千早(夜のドライブ……もしかして……)
寝るのー!
◆
春香「おはようございまーす」
伊織「おはよ」
P候補「あ、おはようございます、天海さん、水瀬さん」
P「おはよう……珍しい組み合わせだな?」
春香「そうですか?」
P「普段見ないペアだからかな。違和感がものすごい」
伊織「そうね。私は春香と合わないから、一緒にいられないと思っているもの」
春香「え、そうかなぁ? 私は結構合うと思ってるけど」
伊織「勘違いよ。認識を改めなさい」
春香「だって伊織、可愛いし……」
伊織「それがなによ? 私が可愛らしくてセクシーなんて当たり前じゃない」
P(セクシーとまでは言ってない……)
春香「伊織だってちっちゃくて猫被ってるけど一応正統派だし、私も正統派アイドルだから合うと思うよ?」
伊織「猫被ってる言うな! それにあんたのどこが正統派なのよ? 完全にイロモノじゃない」
春香「イロモノじゃないよぅ! プロデューサーさん、私って正統派アイドルですよね? ね?」
P「え? あぁ……そ、そうだな……」
春香「ほらぁ! プロデューサーさんだってそう見てるって!」
伊織(そこがイロモノなのよ……普通は正統派ですよねって訊かないわよ)
春香「ところで、お二人はホワイトボードの前でスケジュールの確認ですか?」
P「あぁ。来週はライブのリハーサルがメインになるから、仕事のオファーが来ても後に回す」
P候補「リハのために全員の予定をぽっかり空けるっていうところは珍しいですね」
春香「そうなんですか?」
P候補「はい、普通は仕事の合間にリハをねじ込むって感じですから。それに、メンバー全員のスケジュールを調整するのも難しいですし」
春香「予定はプロデューサーさんが全部調整してくれたんですよね? ありがとうございます」
伊織「律子から聞いたけど、竜宮小町のほうも調整したのね? あんたのその腕だけは褒めてあげてもいいわ」
P「まぁな。新年ライブのこともあったから、事前になんとかしたかったし」
P候補「なにかあったんですか?」
春香「わ、そんなのいいんですよっ! 昔の話です!」
伊織「昔って言うほど昔じゃないわよ? 半年前よね」
春香「いいのいいの!」
P「……ま、いろいろありまして」
P候補「そう……ですか」
春香「でもでもっ、プロデューサーさんは、やっぱりすごいです! アイドル十二人のスケジュールをきっちり調整しちゃうんですから」
P「いや、でも何人いようとやらなきゃいけないことだし……出来ないと思って仕事はしてないよ?」
P候補「う……そ、そうですよね……」
P「はい」
美希「おはようなのー! ハニー!」
P「おはよう美希、今日は早……うわっ!?」
美希「ハニーに洗脳が効いたの! 今日はちゃんと美希って呼んでくれたのー!」
P「いや、洗脳は別に……」
春香「美希! プロデューサーさんから離れて! はーやーく!」
美希「やなの! 春香には関係ないのー! 二日も会ってなかったから充電するのー!」
春香「プロデューサーさんが嫌がってるから! 早く!」
美希「いたいいたいいたいのっ! ハニーは嫌がってないのっ!!」
伊織「止めなさいよ二人とも! みっともないわね!」
P「さ、さすがは伊織! あ、あれ……伊織はなんで俺を引っ張るの……美希を剥がしていてててて!?」
美希「でこちゃんハニーに触んないで!!」
P候補「あ、あの……星井美希さんですよね?」
美希「……へ? そこの人、誰?」
P候補「お、オレ、765プロのプロデューサーにならないかって声を掛けてもらった者で、その……」
美希「プロデューサーに? プロデューサーはハニーがいるけど……?」
春香「美希っ! 聞くならっ! プロデューサーさんからっ! 離れてっ!!」
美希「ああぁ!! ハニー!!」
P「いいからいいから……美希が離れたから、伊織ももういいよな?」
伊織「そ、そうね。まったく、とんだ茶番だったわ!」
春香「……そう言いながら、しっかり腕を掴んだままですけど?」
美希「でこちゃんハニーに触んないで!!」
伊織「さっきと同じセリフね。もう少し捻りなさいよ?」
P候補「うわぁ、ホンモノだ! 美希さんあの、お会い出来て光栄です!」
美希「わぁ!? ちょっと! 触らないで!」
P候補「す、済みません! でもオレ……」
美希「ミキに触っていいのはハニーだけなの! ハニー以外の人には絶っ対、触られたくないの!」
P候補「ハニーって……」
美希「ハニーはハニーなの。ね、ハニー?」
春香「こら美希! また抱きついちゃ駄目!」
P「美希、頼むから今は遠慮してくれ。話が進まないから」
春香「今だけじゃなくて、永遠に抱きついちゃ駄目だよ!」
美希「春香はうるさいから黙っててほしいな。ハニーはミキのなんだから、抱きつくのはミキの勝手なの」
春香「プロデューサーさんはわた……皆のものだから駄目だよ! 駄目!」
伊織「本音が出かけたわね」
P候補「あの……」
美希「あれ、 まだいたの?」
P候補「オレ、765プロに入ったら美希さんをプロデュースしたいんです! 絶対、今よりもっとすごいアイドルにしてみせますから!」
美希「ふーん、そんなの無理なの」
P候補「え……どうして?」
美希「だってミキのプロデューサーはハニーなの。ハニーが来た時から、これからもすーっとプロデューサーはハニーだけなの」
P候補「でもオレ、美希さんをプロデュースしたくて……」
美希「無理なものは無理なの。諦めてほしいの」
春香「美希、プロデュースしてもらいなよ? そうすればプロデューサーさんは私と……」
美希「春香、駄目なの! ハニーはミキだけのプロデューサーなんだからっ!」
春香「美希だけの、じゃないよ! プロデューサーさんはわた……皆のものだよ!!」
伊織「いい加減突っ込むのも疲れたわ……」
P候補「美希さんを……プロデュース出来ない……」
P「あ、いや、それは今後話し合って――」
美希「ハニー、この人が来たら、春香たちみんなのプロデュースお願いする? そうすれば二人で……」
春香「プロデューサーさん、美希はお任せしましょうよ? そうすれば二人で……」
P「いや、その……」
P(二人とも任せるつもり……って言ったらまたややこしくなりそうだな)
美希「ミキはその人にプロデュースしてもらう気はないの。ミキにはハニーしかいないんだからっ」
P「でも美希、誰とでも仕事が出来るように頑張るって言ったろ?」
美希「じゃあサインしてくれるの? 婚姻届に」
P「それは……」
美希「しないなら、ミキもやなの。ハニー以外の人にはプロデュースされたくないの」
P「美希! そんなわがままは――」
美希「ハニーと離れたくないの! 他の人とお仕事させるんだったら、それ以外で一緒にいる時間がほしいの!」
P「それ以外……?」
美希「ミキ、ハニーと一緒にお仕事出来るんだったらちょっとは我慢出来るの。でも……」
P「………………」
美希「ミキを一番キラキラさせてくれるのは、ハニーなの。ハニーしかいないんだよ?」
P「それ……は……」
美希「それに……ミキ、本気だから。ハニーとずーっと一緒にいたいの。ハニーを誰にも渡したくないの」
P「……俺、正直自信がないんだ」
美希「え……?」
P「美希がすごくて……すごくてすごくて、もう俺なんかじゃキラキラさせてやれないんじゃないかって……そう思ってて」
美希「ハニー……」
P「自信がなくてプロデュース出来ないって、そう言うのが恥ずかしくて……新しい人に任せようと……」
美希「……ねぇ、教えてハニー? ミキをここまでキラキラさせてくれたプロデューサーは、だぁれ?」
P「それは……俺、だけど……」
美希「なら、もっと自信持てばいいの! だってハニーにプロデュースしてもらったから、なんとかっていう賞ももらえたの! 半分はハニーの賞なの」
P「そう……かな?」
美希「そうなの! ハニーはすごいプロデューサーなの! ミキとハニーならムテキなの!」
P「……美希がそう言うなら、俺、自信持ってもいいのかな?」
美希「もちろんなのー! もっと胸を張るの! あはっ!」
P「ありがとな……美希」
春香「……あれ? P候補さんは?」
伊織「プロデューサーとあれが言い合い始めたくらいに出て行ったわよ。これでもかっていうくらい背中丸めて」
春香「そっか……」
伊織「それで、どうするのよこの二人? ここにはあんまりいたくないわ」
春香「えぇっと……とりあえずレッスンのスタジオに行く?」
伊織「時間まだ早いわ。はぁ……早く来て損するなんて」
春香「あ、じゃあクッキー食べる? 私、ぷろ……み、皆に食べてもらおうと思って焼いてきたから」
伊織「わざわざ言い直さなくても皆わかってるわよ?」
春香「な、なんのことかな?」
伊織「あんた頑固ね。そんなんじゃモノに出来そうにないわね……」
やよい「おっはようございまーす!」
千早「おはよう……二人とも、なにをしているの?」
小鳥「あら? プロデューサーさんと美希ちゃん、見つめ合っちゃってどうしたの?」
春香「おはよう。ね、クッキー食べる?」
やよい「いいんですかぁ!? ありがとうございます春香さん!」
小鳥「ねぇ春香ちゃん、あれはどういうことになってるの? 私の目の前の席で二人がイチャついてるんだけど……」
春香「あれは……」
伊織「一言で言えば、美希がわがままだってこと」
小鳥「美希ちゃんが? それは……こう言うと美希ちゃんに悪いけど、前からわかってることよね?」
やよい「でも美希さん、プロデューサーとお話してて楽しそうですぅ」
伊織「楽しそう……ね」
美希「ハニー、今日は二人でお出掛けしよう?」
P「美希はこれからレッスンだろ? 駄目だ」
美希「ぶぅ……じゃあ終わってから二人きりでご飯食べに――」
春香「美希! それは許さないから!」
伊織(まぁ、楽しいのが一番かもね……)
高木「――というわけで彼の辞退もあり、新たなプロデューサーはまた探すこととなった。諸君、今は気持ちを切り替えて頑張ってほしい。以上だ」
響「あのあんちゃん、結局来なかったんだな」
真「意外とあっさり済んだね?」
響「でもよかったさー。あんちゃんには悪いけど、自分たちの命には代えられないさー」
真「ほんと、そうだよね……」
雪歩「私なんにも出来なかったけど、よかったのかな?」
真「いいんじゃない? 結局春香の希望通りになったんだから」
響「下手に参加すると精神的にやられるからな……自分もやられたし」
春香「誰に?」
響「誰ってそりゃはる……!!」
春香「うふふ……ひびきちゃーん、今夜空いてるぅ?」
真「………………」
雪歩「ひーん……」
千早「そんな……白紙に戻ったなんて……」
美希「千早さん? どうして世界の終わりみたいな顔してるの?」
千早「あの人が入社したら、プロデューサーは私をちゃんと見てくれるって言ってたのに……」
美希「……はぁ? ハニーはずーっと、美希を見るんだよ?」
千早「美希も春香もあの人に任せるって言ってたのに……」
美希「千早さん、いくら妄想でもそんなこと言うのは許せないの」
千早「私の楽曲をプロデュースしたいって言ってくれたのに……それはどうなるの……」
美希「……それ、ほんとなの?」
千早「私だけのプロデューサーなのに……!」
美希「ハニーに……直接訊くしかないのっ!」
伊織「ねぇ小鳥? ちょっと訊いていいかしら?」
小鳥「えぇ、いいわよ」
伊織「この間呟いてた言葉の内容……やよいの前でなんて見てないでしょうね?」
小鳥「え……な、なんのことかしら?」
伊織「やよいが見たらいけない内容よね? しかも、それを見ているパソコンをやよいに貸すなんて……」
小鳥「わ、私はちゃんと分別あるオトナよ? やよいちゃんの前でなんて見るはずないじゃない?」
伊織「どこ見てんのよ? ちゃんと、私の目を見て言いなさいよ? 挙動不審過ぎてシロでもクロに見えるわ」
小鳥「ぴ、ピヨ……」
伊織「今度律子に頼んで、そのパソコンのデータ丸ごと消してもらおうかしら?」
小鳥「そ、それだけはご勘弁を伊織大明神様!!」
伊織「それなら背後には気を付けることね。それか座席を変えたら? 窓際に座れば見られずに済むわよ?」
小鳥「それが……画面が窓に反射してバレたことがあって……」
伊織(つくづく駄目な大人ね……)
亜美「ねー兄ちゃん? 亜美たちにバラエチーのお仕事って来てない?」
P「亜美たちって、亜美と真美にか?」
真美「うん。例えば、アドベンチャーの番組とか、クイズ番組とか」
P「いや、来てないぞ? そういうのやりたいか?」
亜美「やりたいやりたい! 兄ちゃん敏腕プロデューサーだから、ちょちょいっと取って来れるでしょー?」
律子「亜美、無茶言わないの。そんなに簡単に取って来れたら苦労しないわよ?」
真美「えー!? 前にそういう話、しゃちょーとしてなかった?」
P「社長と? してないけど……ちょっと待ってな?」
律子「プロデューサー、もうすぐライブですからあんまり無理は出来ませんよ?」
P「大丈夫だよ。響宛てにバラエティの話があったから、それ系列で訊くだけ訊いてみようかと思ってな」
美希「ハニー! お話があるの!」
千早「プロデューサー、お話があります」
律子「ちょっと二人とも、プロデューサーは電話中よ?」
P「へ? 一体なん……はい、どうもお世話になってます」
美希「ハニー! さっさと終わらせるのっ!!」
P「え? あーいえ、別の場所での話でして……」
真美「ミキミキ! 今兄ちゃんは真美のために電話してるんだから邪魔しないでよっ!」
亜美「真美ー? 真美と亜美のため、じゃん?」
千早(真美……ここにもライバルが……くっ!)
美希「ハニーはミキのものなんだから、勝手に使っちゃ駄目なの!」
律子「静かにしなさいって言ってるでしょ!?」
美希「律子……さんもうるさいの。ハニー、まだなの?」
P「えぇ、ではまた今度……はい、ありがとうございました! 失礼します!」
長らく夜の暇つぶしにお付き合いありがとうございました。
またなのー!
13:37│星井美希