2013年11月07日

真、まことの剣豪

こんにちは。
このSSは、765プロダクション製作の映画(という設定)です。

書きための投下となりますが、
まだ7割ほどしかできていない上に最近あまり時間がとれないので、完成まで時間がかかります。


(かといってお蔵入りももったいないのでスレッドお借りします)

更新も遅めになると思いますが、のんびりと読んでいってくださるとありがたいです。
(途中での茶茶もかまいません)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1337409825(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)

[登場人物]


菊地真之丞(きくちまことのすけ)
…菊地真

四条院貴音
…四条貴音

あずさ
…三浦あずさ

如月千早太(きさらぎちはやた)
…如月千早

はるか
…天海春香

やよい
…高槻やよい

いおり
…水瀬伊織

みき
星井美希

あみ
…双海亜美

まみ
…双海真美

ゆきほ
…萩原雪歩

りつこ
…秋月律子

ひびき
…我那覇響

人が命をかけるほどのものが、
一体この世にいくつあるのか。

そもそも、そんなものは存在しうるのか。

全てのものに等しくあたる代価を、
自らの生をもってするほどのものが……。

あ、言い忘れました、
濡れ場が何箇所かあります。

苦手な方は各々、遠慮してください。


第一章 剣の道、険しきこと
空が高くなった。

一年に一度はそう感じる季節、いや時期がある。

ああ、自分の背が縮んだのだ、と思わないでもない。

なぜなら、十五の元服の頃からほとんど変わらないこの躰(からだ)で、もう三年も経つ。
とはいえ成人した男子として、
一人の剣術者として、
幼い時分から稽古を怠らない壮健さと、
誰にも負けはしないと磨いた剣の業は十分に持っていると、
そう思っている。

父親が、まだまだ鍛錬が足りぬなどと事あるごとに口を出してきた頃が懐かしい。
孝行したい時に親は無しとはよく言ったものだ。

というより、親とは元々そういうものなのであろう。

父は私が十七の時に、肺の病で亡くなった。

天下の剣豪も、病には勝てぬ、
と城下では専ら話の種になったあの頃は、
自身の内に言い知れぬ怒りがふつふつとあったのが思い出される。

誰に向けたというものではない。

ただ父親が、文字通り、太刀打ちできない相手に斃(たお)されてしまうことに、
何故だかとても苛立った。

剣での勝負なら……。

父上は負けはしませんのでしょうがと、
床に臥せる父親に一度訊いたことがあった。

するとその時は、むくりと起き上がり、静かに禅を組んでこう言った。

例えこの躰は病んでも、気は決して病まず。

そうある限り、この刀は決して折れず、
おまえと……おまえの人生と共にある。

しかし勘違いするな、それは己が敵から身を守ってはくれまいぞ。

魂をもって振るうことに答えてくれるそれだけのためにある。

だが、そのことのなんと難しいことか。

命を捨てよと申すのではない。

命をかけても剣を使うその価値があるものに出会う機会があればよいのだが……」



「父上、お躰にさわります」

「いや、大事ない」
父は続ける

「一つ、おまえの母上を、まだ幼かったあの女子を守った時のことだ。

守ったと言ったが、私も若輩者でな、
半分はあやつが片づけておった。

言っておくが、この江戸でおまえの母より強かったのは私だけであったのだぞ。

私たちの剣技を妬んで、何十人もの男たちが襲ってきた。

ひどい戦いであった……。

全てが終わり、返り血で刀が握れぬほどであったところに、
あの娘は駆けて来てこう言いおった」

私の為だけにお命を粗末になさらないでくださいな。

死んでもよいなどということはこの世にありませんから。


「今のおまえとより一つ下の十六歳、
私が十八だった。

その言葉を言われてはっと気がついた。

命をかけるのは、命が最も惜しい時なのだと」

今は黙っていよう。

そう考え、じっと耳を傾けていた。

「父上」

今日はよく話すものだ、と感じる。

「よいか、この先どんな困難や大敵と出会うやもしれぬが、
自分の思ったことは曲げてはならん、
意志を強く持て。

それが人を二本の足で立たせる所以よ。

たくましく、そして、有意義にいきよ……真」

「はい、もちろんでございます」

私は父に対してそう答えたが、
頬を伝う涙をどうしたものかと思案に暮れていた。


こうして父は、今はもういない。

後から部屋に入ってきた母上は、あらあらと首を少しかしげ、
頬に手を当て落ち着いた様子であったが、
その頬にも流れる涙があったのを私は見落とさなかった。

私の母親は名前をあずさ、というのだが、
今まさにその人と縁側にて話をしているところである。




「これ、真之丞。

呆けた顔で空ばかり見て、どうしたのです?」
静かに座りながら言う。

「ええ、ちと昔のことを。

しかし、私はそれほど間の抜けた顔をしていましたでしょうか」

「侍にあるまじき顔。

おまえは母の私から見ても中々に整った面をしているのですから、
いつでも凛としていなくてはなりませぬ。

それをくずしてよいのはこの私が死んだ時のみです」

「はあ、そのお言葉は何度か頂いておりますゆえ」
そう頷く。

「そろそろ、妻を娶るのも良い年頃……」
ちらりとこちらを見て言った。

息子から見ての母はというと、正直、
目の前の女以上に女らしい人間を真之丞は未だ目にしたことがない。

黒みがかった蒼く長い髪、
それだけでも不思議な色合いで目を引くのだが、
そこに見え隠れする綺麗なうなじ、
きりりと引いた口元の紅が珠のような白い肌によく映える。

これだけならば慎ましやかな容姿なのだが、
全く遠慮のないのが彼女の胸なのである。

腰から臀部への曲線はごく一般、といったところなのだ。

しかし、豊かな胸部のために着物も一つ丈の大きなものを着るしかない。

そうであるから母は新しいものを仕立てるのが面倒だと言って、
呉服屋へと足を向けることはしなくなって久しい。


「比べられるとしたら四条院の姫君くらいか……」

「何か言いましたか」

口に出してしまったようだ。

「いいえ、お気になさらず」

これ以上話を続けると危ない。

母相手では間合いを違えると斬られる。

もちろん刃ではない。

「ちと用を思い出しまして、町へ出て参ります」

そうですか、帰りの遅くならぬように、
という母の言葉を背に、草鞋をはいて屋敷の外に向かう。


居間に飾ってある薙刀は飾りではないのだ。

あれは真之丞の母が使う。

先程のような会話では実際に血の流れることはないが、
実際に剣を持ち、対峙すれば傷なしではすまない。

恥ずかしい話ではあるが、未だにあずさを相手に一本とれたためしはない。

「いや、恥ずべきほどのものではない。

母上が達者すぎるのだ。

現に見よ、道場で、この江戸であの人に敵う者があろうか」

おっとりとした外見とは裏腹に、
鋭い刃筋、
巧みな足の運びで、
近づくのも至難の業であった。

なんたる腕、これが女子でなければ、という者もあったが、
あずさは、
男の身ではかように強くはなれませなんだ、
と優しく微笑みながら言っていた。

その後に相手はぼろ雑巾のようになっていたが。

弱点があるとするならば、極度の方向音痴ということくらいか……。


そうこう考えるうちに四つ角で友人に出会った。

「真、しばらくだったな!」

「ああ、千早太か。

昨日会っただろう」

如月千早太、真之丞が気が置けないと心から感じる人間だ。

歳も同じ十八。

彼は奉行所につとめている。

趣味はうたを詠むこと。

内容はともかく、声に出すのが心地よいのだ、
という一風変わった心意気を持つ侍である。

剣の腕はまあそこそこ、
真之丞相手ならば十に一つもとれればよい、といったところ。

「なに、友と半日会わねばこれ一大事よ。

ときに真、また美しいおまえの母君と一戦交えたいものだな」


真というのは彼に親しい者が使う呼び名である。

これは父の最期の言葉に由来する。

「おまえのその言い方はこの上なくふしだらに聞こえるな。

母が美しいのは認めるが、
おまえとの勝負は許さん、まずは私を負かせてからよ」

この前、千早太は菊地の道場へ押し掛け、
あずさとの勝負を申し出たのであった。


「相変わらず、あずさ殿が好きなのだなあ、真は」

「そんなことはない、
この私がいざ全ての力を出し切り、
天地の間の運ことごとく味方してくれ、
さらに門弟十人を付けてくれたら母上など斬ってみせるわ」

「そんなことができるはずがなかろうに、大体なんだその条件は」

実際、母のことは大事にしている。父を失ってから余計に、ということもある。


「して、何か用件があるのだろう」
と千早太に水を向ける。

これ以上こんな話はしていられない。

「そうであった。

これから四条院の姫君に会いに行こうと思うてな」

「なに貴音姫にか!」

つい勢いが口から出てしまう。

「……というのは戯言で、実は手伝ってもらいたい仕事があるのだ。

もちろん礼はする」
と千早太。

真之丞は、きっと睨みをくれてから答える。

少しむくれた表情だ。


「で、その仕事の内容とは?」

「うむ、それが話せば長いのだがな、
町娘が一人かどわかされた。

今日の朝方のことらしい。

知り合いに話をきいたその母が駆けこんできたと言うていた。

名を、はるか、というそうだ」
千早太はそう言って真之丞に目をやる。

「今の話にどこか長いところがあったのか」

「某(それがし)と真との仲であろうか」

「……。

しかしどうして伝聞なのだ?」
という真之丞の問いかけに、にこと笑って答える。

「その時は、双海屋に行っておった」


「あきれた。

仕事を放って茶屋にいたのか。

なんたる忠勤ぶりよ」

「あそこの団子はうまくてな」

そんなことは、この際どうでもいいのだ。

訊きたいのは……。

「誰がやったか、であろう」
千早太が言う。

「そうだ」

「某の調べたところ」

「ほう、仕事をしているとみえる」
真之丞が口を挟む。

「えい、うるさい!

某の調べたところ、
手の負えないごろつきどもが山賊まがいのことをやっておるとのこと。

きっとその連中だろうと考えた」

「その娘、生きておればよいのだがな」

「なかなかの器量良しとの噂」

「なれば貞操が危うい」

行くぞ、というかけ声とともに二人は駆けだしていた。


今日のところはここまでです。

また近いうちに余裕をみつけて投下していきますので、
それまでしばしのご辛抱を。

本当に、投下の合間も、している最中も適当にコメントしてもらって構いません。

それでは、また。
こんにちは。
今夜投下です。
姫が登場するのはまた後の章です。


第四章 窮、救にして



「で、結局、ひどくお叱りを受けたようだな」
千早太が口を開く。
「だからまな板にせよと言うたものを」

「鉄扇に傷がついたと言われて、私に傷が増えた」
赤く腫れた額を押さえながら、真之丞は言った。

「腫れただけではないか、それは傷とは言わん。

見よ、この向う脛(むこうずね)の傷跡を!」
千早太は、威勢良く袴をたくしあげ、脛を見せる。

「それは、おまえが犬にちょっかいをだして噛まれたときのものだろう」

「それは某と真との秘密、決して他人に漏らすでないぞ」


活気あふれる道場でのことである。

二人は門弟に稽古をつけたりすることもあるのだ。

真之丞は、菊地家の嫡男として、菊地一心流の師範として、
まだ十八ながらもここを任されている。

それは良いのだが、千早太は奉行所に勤める身、
どうしたらこれほどの暇がつくれるのかと問いたくなるほど、
年中出歩いては気ままに過ごしている。

「これも仕事のうちなのだ」
といつだか言っていたような気がした。


外を見やると、庭でやよいが重なり厚くなった木の葉を掃いている。

よく働く子だと、あずさも話していた。

弟たちの世話もあるために、昼時になると一度家に帰している。

「不思議な縁もあるものだ」
真之丞は呟いた。

「何をいまさら、礼には及ばんぞ」

「おまえではない」


それにしても得心ゆかぬのは今朝のこと。

月夜屋敷から帰って自室に行き、
物入れに隠した巾着を確認したところ中身がいやに軽い。

さてはやよいのあの金子はと分かったところでもう遅い。

母上に一言物申さんと意気込んで行ったは良いが、先手をうたれた。

「おはよう、真之丞」

「おはようございます、母上、時に一つ」と、ここから続きがあったのだが……。

「昨日貸した扇子を見せてみなさい」

「はあ、ここに」

「何ですかこの傷は」

「それは昨日、酔った風のやくざな侍を打ち倒した時にできたものにございます」
得意そうに言ったが、
この時のあずさの言外の含みを理解できなかったのがまずかったと今になって思う。

後悔先に立たず。


「このようなものは、上手く使えば傷も歪みもしないのです。

母がそれを見せてやりましょう」

言うが早いか、一陣の風が吹いた。

初太刀は、左足を前に、半身になって刀の柄で防ぐ。

しかしそこまで。

柄に衝撃を感じたと同時に、
鉄扇が重く冷たく真之丞の額を打っていた。


「いやあ、某もあずさ殿に、
したたかに打ち込まれてみたいものだ」

「黙れ痴れ者め。

ああ、まだひりひりと痛む」

改めて、あずさの腕には遠く及ばぬことを感じた……。




「いやよ、
なんでこのあたしがあんたなんかの妻にならなくちゃいけないの?」

「さすれば、水瀬屋も安泰だぞ」

「……。

汚い男はきらいよ、もう帰って」

「ふん、その威勢がいつまでもつかな」

太った男と娘の会話である。

男の方は脂ぎった顔、そして三重のあごで、
高価そうだが派手な着物を着ている。

娘の方は、きつそうな物の言い方で、
前髪を上げ、額が目立つ。

おでこが魅力的な少女は、帰ってゆく男の背中を睨みながら、
さて、これからどうしようかと考え始めていた。




 「黙れ痴れ者め。ああ、まだひりひりと痛む」

「黙れと言われて素直に従うとでも思うか」
千早太が、いたずらっぽく笑いながら言った。

「まあ聞け、水瀬家の娘の護衛の仕事を頼まれた」

「そうか、精進せい」

「真、おまえも来るのだ」

「その仕事を頼まれたのは私ではない」

「廻船問屋のご息女で、四条院家とも縁があるとか……」
真之丞をちらと見ながら言う。

「仕方がないな」

「よし、決まりだな。

では早速出るとするか」




「御免!」
千早太が勢いよくのれんをあげる。
「奉行所の者だ」

「へえ、あんたたちがそうなの。

とりあえず上がんなさい」
額の広い娘が高飛車に言う。

「おい、この無礼な娘は誰だ?」
真之丞が思わず口に出す。

「これ、主人のいおりという娘はおらんかな」
と千早太。

「いおりはわたしよ!」

「なんと!」

二人して同じ反応をしてしまった。


「頼みたいことはひとつ。

同業者の悪井屋(わるいや)を消してほしいの」

「それはまたどうして」
真之丞が訊いた。

「富と権力にものをいわせて、私に婚約を迫ってくるからよ」

「お断り申す」
きっぱりと千早太が断った。

いつになく真剣な顔だ。

そのまま続ける。

「その悪井屋はたしかにやり方が汚いと聞く。

しかし、だからといって命を奪って良いなどとどうして言えようか」

いおりが反論する。
「だったら侍はどうして殺し合ったりするのよ?」

再び千早太。

「某たちは、殺し合うのではない。

相手が命をかけて臨むなら、それに失礼のないように対峙する。

その結果が生であり、あるいは死であるのだ」

>>92

そうなのです。
まあ、撮影現場で色々あったりしたのですが……。
そういった話は完結後に用意してありますので。

「ふうん。

じゃあ、あんたはどうなの?」
いおりは、真之丞を見て言う。

「私は、命をかけたことがない。

まだ、それだけの価値のあるものに出会えていないからな。

もしかしたら、未熟さゆえに、
ただ気付いていないだけかも知れぬが……」

しばらくの沈黙の後、口を開いたのはいおりであった。

「それじゃあ、依頼をかえるわ。

と、いうより、初めの内容でお願い」

「そなたの護衛か」
真之丞が返事をする。
「任された」

お手並み拝見ね、といういおりの言葉と共に、
少し遅めの昼飯が運ばれてきた。




食欲を満たして満面の笑みを浮かべる千早太が話す。
「腹が膨れたな」

「このまま夜まで寝ていても構わんぞ」

「それでは夜に目が冴えてしまうではないか」

「そこまで面倒見きれぬ」
真之丞が立ちあがりながら言った。

「それに、真はどうするのだ?」

「起きて見廻る」

「では寝させてもらうかな」
そう言ってしばらくすると、
ぐうぐうという声が聞こえてきた。

「寝るのが早いやつめ」




昼間の喧騒はどこへやら。

この時間の町並みは、うって変わって息をひそめている。

人々が、暗くなると外へでなくなるのはどうしてか。

そんな中、闇の暗さを恐れぬ者達が、三人駆けている。

廻船問屋、水瀬の店前。

提灯には火が入って、
ぼんやりとした明かりがのれんの文字を浮かびあがらせている。


三人の男、見合う。

無言で頷いた。

まず、一人が入る。

と、土間に立つ小柄な侍がいた。

まだ十六、七くらいか。

「もう一歩入れば、斬る」
小柄な侍が言った。

男は腰を落として、居合いの構えをとる。

真之丞は、入ってきた男をみて、中々にできると見た。


落ち着いた居合いの型。

無駄な力の入っていない腕。

この相手に対して、
これから抜いて構えるのは危険だ、と思う。

こちらも居合いの構え。

先に動きたくはない。

と言って、後からあわせるのも至難の業。

店の前にはあともう、二人か。

二階に千早太がいるが、彼は今、心地よく睡眠をとっている、
あてにはできない。

もうどれほど経ったであろうか。

分からない。

真之丞は腹を決める。

間合いをはかる。

長い駆け引き。

それに対して、一瞬の勝負。

瞬間、相手の男が動く。

抜いて、
斬り込んでくる。

真之丞は抜かなかった。

半歩左に寄り、紙一重でかわす。

男は、返す刀でこちらの右胴をねらう。

真之丞、前に踏みこんで、
脇差を抜き、
右頸(みぎくび)を撃った。

凄まじい勢いで血が噴き出る。

半分割れた頸筋からは白い肉が見えた。

白との対比。

そこから、ぴゅう、と高い音が鳴る。

黒ずんだ赤に染まる壁。

崩れおちる侍。


※男は刀身を返した状態で、次の瞬間には斬りかかることができます。
しかし、脇差の短い軌道ならばその前に撃てるというわけです。
(当然、普通より間合いの詰めが必要ですが)

同時に、入口から二人が入ってくる。

それを見て、真之丞は叫んだ。
「千早太!」

背後の階段から、降りてくる気配は無い。

と、三人目が、入口前の道に立った。

三対一ともなると余程の腕の差がないと生き残るのは難しい。

万事休す、と思いきや、その男は敵ではなかった。

「千早太!

おまえ、どこから?」

「ああ、呼ばれたからな、二階からおりた」
にこと笑う。

「まったく、頼もしい友人を持ったものだ……一人は任せた」

外に千早太、内に真之丞の構図。

「さて、真ほどではないが、某も相当の使い手。

どこからでもかかってくるが良い」

ふざけやがる、と相手は思っただろう。

「調子にの」男は、乗るな、と言いたかったに違いない。

しかしその前に、跳びかかった千早太の剣のもと、一刀両断にされた。

話し上手は聞き上手。剣よりも口の達者な千早太であった。

呼吸をはかる、その妙なることよ。

一方真之丞は、またも強敵。

今日は運が無いな、と思う。

当然、店の者は出てこない。

こんな斬り合いの場に顔をだす者などいない。

皆、息をのんで隠れているのだろう。

相手は正眼(せいがん)、対して、
こちらは抜いてはいるが、構えはとっていない。

おもむろに、ずかずかと間合いを詰める。

当然、面に撃ち込まれる。

ところを、思い切り腰を落とし右に一歩ずれて、
下から脛(すね)を撃つ。

相手の刀身が届く前に、右の脚を斬った。

もう一歩、左に寄り、左手を添え、両腕でもって上段へ。

男の右肩を一太刀、下腹まで割く。

これで終わった。

外を見ようとした時、ちょうど千早太が入ってきて言う。
「三人か」

「だが、これでは終わらぬだろうな」

真之丞は嫌な予感がしていた。


「その通りだわい」

道向こうから大声がした。

奥の部屋から、いおりが出てくる。

「あの声は、て、何よ、これ……」

今やこの土間は、
赤だか黒だかしれない色で染まりきっている。

「や、嫌」
言いながら、腰を抜かし、
嗚咽をもらす。

この惨状を見て気を失わないだけ大したものだと真之丞は思った。

「あれが例の商人だな?」
千早太が訊く。

いおりは目を固く閉じて、首を縦に振った。

「どうする?」

「外に出よう」
真之丞は答えた。

大柄な、というより、ずいぶんと太った男が歩いてくる。

派手な商人風である。


その後ろにはざっと見て十人程の侍がいる。

皆人相が悪い。

「どうする?」
今度は真之丞が訊いた。

「某に訊くなあ、と言うところだが、
助けを呼ぶため人をやってある」

「どれくらい来る?」
真之丞がまた訊く。

「一人だ」

「千早太、血迷うたか」

「十人程の相手ならば、三人で良いだろう」


程良く、角の店を曲がって歩いてきたのはあずさだった。

着物の袖をひしと襷(たすき)であげてある。

本来、こういった荒事をする場合は違う結び方をするものだが、
彼女はいつもの通りの花結びであった。

少し後ろから随ってくるのはやよいだ。

薙刀を持たされて大分、難儀な様子。

「こうなれば私たちはもはや帰っても支障はあるまい、
しかし千早太、人の母をなんと心得る」

「武人だ」
すぐさま答えが返ってくる。

「間違ってはおらぬが……」


すると、穏やかな声であずさが言った。
「真之丞、頼まれた仕事の助太刀に、
母親を呼ぶとはなんたる未熟者……」

「母上、それは……」
真之丞の言葉は遮られる。

「良いのです。

今日は何やら動きたい気分でした。

やよい、御苦労です。

そなたは店の中に入っていなさい」

ぱたぱたと駆けていくやよい。

「何だ、素晴らしく美しい女が来おったの。

これ、こっちへきて奉仕をせんか」
商人が言った。

がはがはといやらしい笑い声だ。


真之丞、千早太は、黙って刀を抜く。

あずさも凛とした太刀姿、
いや立ち姿で薙刀を構える。

「やる気か、これは面白い。

おまえたち、女は殺すな」

その声を聞いて、人相の悪い男たちは全員、刀を抜く。



勝負が決まるのには、そう長くかからなかった。

真之丞も、千早太も奮戦し、残るは一人。

今はあずさが相手をしている。

定寸の刀に対して薙刀はずっと長い。

そのために、懐に入るのは至難だ。

さらに扱う者があずさとあっては、
もう地上には勝てる相手がいないな、
と千早太は思う。

隣にいる真之丞もそう感じるに違いないと思った。


あずさは人を殺すのが好きなのではない。

刀を振るうこと
――自分の場合は薙刀だ――
が心地よいと感じるのだ。

そしてこの相手は斬り合いを臨んでいる。

もはやこの場には男自身、
一人が残るのみであるのに。

勇ましい、とあずさは感じた。

この対手に失礼がないようにしなくては……。

命のやりとりのさなか、そう感じた。


左足を前に、右足は後ろ。

半身に構える。

対剣術に対して普通は、
右足を前に、左足は後ろのほうが有利ではある。

しかしあずさにはそんなことは関係のないことであった。

この薙刀で、敗れたことは一度しかない。

ふい、と切先を下に落とした。

男は、猛然と斬りかかる。

あずさ、右足を軸に左足を引く。

体が変わる。

今度は右足が前に。

間合いが躰一つ分後退する。

空を斬る刃。

刀は返させない。

左肩を石突(いしづき)で撃つ。

骨が砕ける音。

血が流れる。

侍は膝をついた。

剣を落とす。

あずさ、そのまま右手を引き、

左手を前に出す。

真円を描いてはいけない。

それでは遅すぎる。

楕円より、
さらに細く。

迅く。

地面と足元、接地面が発する、びっという音。

相手の胸を突く。

あずさ、もう半身(はんしん)分、踏みこむ。

手は抜かない。

躰に、深く刺さってゆく。

そして、貫いた。

侍が最期に見たのは、美しい女の、慈愛に満ちた表情であった。


※槍、薙刀、長巻などは、反対側(バットでいうグリップエンド)
には何も付いていないというわけではありません。
「石突き」という尖った部分があります。
それを使用すれば対手に強い打撃を与えられます。

あずさは、刃先を、ぐたりとした躰から抜く。

優しげな顔。

そのまま、商人の元へ。

すでに恐ろしさのあまり、腰があがらなくなっている。

「ひ、ひい!」

「このような手段で娘と契ろうなどとは男の風上に置けぬ者。

以後、手出しはせぬように」

先程までとは違う、
静かだが厳しい圧を感じさせる物言いだ。

そして、二人の方も見て言う。
「二人とも、良いですね、
再びこの男が動くようなら斬り捨てなさい」

台詞の最後は、ぞっとするような笑みであった。

「はい」二人は揃って返事をした。




「助かったわ、ありがとう」
いおりが、恥ずかしそうに礼をした。

「なに、某と、真がおれば百人力よ」

「女の人がいたような気がしたけど?」

「そんな者はおらなんだ」
真之丞が言う。

あずさはことが終わるとやよいを連れてすぐに帰っている。

「ふうん、またなんかあったら、
もうないと思うけど、お願いね」

「承知」
と、威勢の良い千早太。

「今日はここで寝ていって良いわ、
明日の朝帰りなさいよ」

ずいぶんと気に入られたらしい。二人はそう思った。

「さて、寝るかな」

真之丞と、それから千早太が、同時に言った。


はい、今夜はここまでです。
ずいぶん遅くなってしまいました。
(もう寝ます)

それでは、また次回にお会いしましょう。
(感想、意見、ご自由に)

第七章 囚われの心、捕らわれの躰



どこか愁いのある表情をしていた。

伏しめがちな瞳、
とても控えめに引かれた唇の紅、
微笑んではいるが、それは微笑みというには希薄すぎる。

胡桃色の髪が、短く切りそろえてある。

儚げだ。

まるで一夜を過ぎれば消えてしまいそうな、
人のみる夢幻のような、そんな雰囲気を纏っていた。

纏わりついていた。

決してひき剥がせないそれはもう自分の一部であって、嫌だとは思う。

しかし、もしもそれを失って、自分は自分でいられるのだろうか、
自らが憎むこの空気を、身の回りから消去して、自分は呼吸ができるのか、
生きていられるのか?

そう考えた。

今日は澄んだ風が吹いているのだが、彼女はそのことを知らない。

綺麗な月が出ていることも……。

ここから見える月の形など、光など、どうでもよいことだ。

見えることを知る必要などない。

ここは遊郭、籠の中。

この中で生きてきたし、これからもずっとそのはずだ。

特に希望はない。

昔そんな響きが心の中にあったような気がするが、
年月が経つといつの間にかなくなっていた。

この身では何もできないが、情けないとは思わない。

翼が折れているのだから、飛べるはずもない。

仕方のないことなのだ、これは、この人生は……。

そんな諦めを抱いて今夜も、見知らぬ男と床へつく。

娘の名前は、雪歩、といった。

胡桃色の髪が、
月明かりの銀色に照らされて、
鈍く、
光る。




「遊郭ですか……」
真之丞が答えた。

「そうです。

まさか私と交わうまで女子を知らぬ訳ではなかったのでしょう?」

そろそろ帰り時だと感じていたが貴音の姫君は、
今日は良く話をしたいらしい。

「もちろん、一度や二度は登楼の経験は」

「そうでしょうとも、今は私の所有物でもあなたは一人の殿方。

しかし、これと決めた女子があれば、契るのもよろしいのですよ?」


「そうなれば、ここへは来ることもありませんな」
少し意地の悪い問いをしてみる。

ささやかな仕返しだ。

「ええ、この私以上に気に入った女子があればの話ですが」

どきりとした。

「姫を好いていると言った覚えはありませぬが……」

「ふふ、そのようなものは見ていれば分かるもの。

隠さなくても良いのですよ。

まったく可愛げのあることです」

「なんのことやら……」

自分でも上手く誤魔化せていないのが分かる。

見てみると、くすくす笑っている貴音姫は機嫌が良さそうだ。

ここ最近、しばらく会っていなかったから、話すこともいくつかある。


「真、あなたの躰のことは、
私が一番良く知っているのですよ。

それはもう、隅々まで……」
言いながら寄って来た姫はとてもいい香りをさせている。

普段のものとは違うお香のようだ。

「そ、そろそろ、嫁御詣でに行かねばなりませぬゆえ……」
自分でも訳の分からない言い訳をして、この場から逃げようと立ち上がった。

「そのような者はおりますまい。

どこへ行こうと言うのです?」

「はあ、実は最近知り合うた者でしてな、
これがなかなかの美人。

気性も温和で、私の好みに合いました」

「戯言を。

では名前を言ってごらんなさい、
手の者に斬らせますから」


これ以上駄々をこねるとまずいなと思い、真之丞は座った。

「話を変えましょう」

「どういったお話なのですか?」

「不老不死の術」

「それは面妖な……、
しかしそのようなものが本当に存在すれば少し面白いやも知れませぬ」

「実際のところどうなのかはわかりませぬが、
幻惑寺の僧が編み出したもので、その者自体に魔力のようなものがあったらしいのです。

対峙した知り合いが言うておりました」

「それから?」

「何でも、杖を地につけば、
投げられた手裏剣もとぶのをやめてしまったとか、
ひと睨みで身動きがとれなくなったとか……」


「興味深い話です。

それで、どう退治したのですか?」

「最後は、その、乳房を……」

「どうしたのですか」

「乳房を見せて、ひるんだ隙に急所を蹴ったようなのです」

「まことに、それは真理ですね。

得体のしれない幻惑の物より、
現実の力のほうが、はっきりと強いのでしょう」

「確かに」

「さらにおかしいのは不死の話です。

いずれやってくる死がなくなってしまえば、
今生きている意味がなくなりますから」

「確かに」

「死があってこその生ですよ。

全ての生き物は、死ぬために日々を生きているのです」

なるほど、もっともなことを言うと思い真之丞は何度も頷いていた。


「時に真?」

「はい」
すぐに答える。

「先程から相槌をうつばかりではありませんか」

「はあ、至極ごもっとも、と感じ入りまして」

「あなた様は、いけずです」

そういわれて、真之丞は頸をかしげた。

何がいけずなのだろうか。

ともかく、少し機嫌を損ねたらしい。

貴音はふいと向こうをむいてしまっている。

ふと、ある考えが浮かんだ。

――思いきって、姫を組み敷いてやろうか……。

いやいや、後がどうなるか知れぬ。

危険だ、とは思うが一度挑戦してみたい。

どうしたものか。

何も今日でなくとも良い。

しかし、貴重な好機であることに違いない。

こう逡巡しているうちに逃してはことだ。

よし、三つ数えたらかかれ。

自分に言い聞かせる。

一つ。

二つ。


「見抜けない私だと思ったのですか」

驚いた。

組み敷かれたのは自分の方であった。

いつもの体勢だ。

「は、いや……」
思わず苦笑してしまう。

「さて、いかがしましょう」

「お手柔らかに願います」

「嫌です」
言うが早いか、口を塞がれる。

貪るように、深く、強く。

ああ、まただ。

いつもこうなる。

快感を与えられるのは良いのだが、姫にはあきれる。

まだ夕方であろうか。

少なくとも夜ではない。


初めて貴音にされた時を思い出す。

あまりの気持ちよさに、気を失ってしまったのだった。

確かに、初めて、
というのもあったろうが、
人のわざとは思えなかった。

普段とは違う淫乱な血が、自分に襲いかかってくるのを見て、
これがこの女の本性なのだと、やっと気付いた。

しかし今日は、今日こそ一念発起して、
組み伏せると考えたではないか。

色々あってその企みは崩れたが、まだ機会はある。

貴音姫が服を脱ぐ時が、強いて言えば好機だ。

考えるうちに裸にされているのはこちらである。

真之丞は笑ってしまった。


「何がおかしいのですか」

そそりたつものを咥えようとするのを止めて貴音が訊いた。

「いつものことながら、手際が良いもので……」

「今、その口をきけなくしてあげます」
と言うなり、深く、のみ込んでいく。

びん、と体が張るのを感じる。

これは声も出ない。

息が口からわずかに洩れるばかりである。

「どうしたのですか?

女子のように喘いでもよろしいのです」

一度口からは出して、貴音が意地悪く、言葉で責める。

先端部を舌でちろちろとなぞられながら、
真之丞は頭が熱くなるのを感じた。

「ほら、もう数回味わえば、果ててしまいますよ」

裏筋に、歯を立てられて、震えた。

なんと心地の良い甘噛みであろうか。

もういくらも我慢ができない。


唇で、くちづけをされた時には、頭の中が真っ白になった。

「力強い射精ですこと」
高らかに笑いながら言う。

跳ねる自分のものを吸われながら、かろうじて息をした。

「さて、今日はいつもより興がのってきましたね」

恐ろしい言葉を耳にしながら、
真之丞は機会を狙っていた。

体が熱い。

するすると貴音が着物をはだいてゆく。

「姫、お覚悟!」
かけ声とともに押し倒した。

意外にも、あっけなく成功して、驚く。

「はて、この後はどうしてくれるのです?」

どうやらわざとらしい


「このまま、手籠めに」

精一杯の虚勢を張って、真之丞は言った。

肥大したものを、貴音の秘部にあてがう。

姫のここは前戯など必要とせず、
いつもするりと受け入れてくれる。

しかしそれも罠なのだ。

一度入れてしまえば、
周りの壁がきゅうきゅうと押しついてきて、
抜けなくなる。

動くのもやっとだ。

たとえ動かなくとも、精を取られる。

初めて交わったあの時も、動かずに果てたことがあった。

跨ったまま、話をされていたのだが、
それだけできつく締め上げられて、射精していた。

だが、今日こそは……。

乱暴に姫の躰に打ちつける。

何度も、何度も。


顔をみると、とても楽しそうだった。

「真之丞様、もっと、強くできますか?」

猫をかぶった甘い声で囁く。

体勢は自分が上だが、結局、
主導権は相手のものだったことを知って、少しがっかりした。

「そう気を落とすことはありません」
そう言いながら、貴音は真之丞の腰部に白く美しい脚を絡ませてきた。

「天に昇る心地にしてさしあげます。

気を確かに持っていてくださいな」

腰が躍った。

正常位の状態で、自分が犯されている。

なめらかに揺れる貴音の腰に、吸い込まれるようであった。


感覚を、間隔をあけて波のように弄られた。

「ああ、素敵ですよ、真……。

こんなに出して」

それを聞いて、自分が射精していたことを知った。

ただ心地よさが躰を駆けてゆく。

自分は、動けないのに……。

何度も、何度も昇天させられて、
真之丞は貴音の躰に倒れ込んだ。

出した回数は分からない。

頭を殴られるような快感に、
ずっと支配されていた余韻を感じて、
そのまま、意識が薄れてゆく。




もう朝が来た。

昨日は帰ってきたのが夜であった。

ふらふらと布団に入り寝たのは覚えているが、その他は良く分からない。

今はもう朝になっていた。

のそりと起き上がって、部屋を出る。

やよいがばたばたと動き回っているのが目に入った。

こんなだらしのない生活はまずいなと思う。

きっと母には怒られる。

千早太はどうしているのだろうか。

ぼんやりとした頭であれこれと考えた。


「おはようございます、母上」

「おはよう、真之丞」
言いながら、あずさは息子の目を覗き込んだ。

「気が抜けていますね。

この後で、道場に行きなさい」

「はい、禅でも組みます。

丹田(たんでん)に力が入らないので……」

あずさは、
四条の姫君と真之丞が逢うのを許してはいるが、
黙認ということだ、今は。

あの娘、貴音には邪淫の性を感じる。

このままではいけない。

結婚するなどと言いだす前に、
相手を探してやらなくては……と考えている。


本当なら本人でやるべきことなのだが、
息子はたぶらかされている。

あのような精根尽きかけた様を見ては、焦るのもしかたない。

一人で町をふらふらとして、万が一があってからでは遅い。

今日は千早太が来てくれるであろうか。

彼は頼りになる。

命のやりとりを剣にて行なう今の世にいて、
武士として、人間として、言葉の使い方を知っている。

人の尊厳を失わない生き方ができる。

真之丞は本当に良い友人を持った。

もくもくと飯を口に運ぶ息子を見守って、
そんなことを考えた。




最近良くここへ来る。

来たくてそうしているのが、半分。
来なくてはならない気がするからが、半分。

ここには、籠の中の鳥がいる。

不憫だが、どうすることもできない。

本当は一つだけ手段があるが、

それを手段と呼べるかが疑問である。

ゆきほ、という名前。

正しい名前が何なのかは知らない。

訊く気もない。

「ここから出よう」

先ほどからずっと苦心していた自分を振りきって、
男は決心した。

「でも、どうやって?」

「金子が用意できれば良いのだが……仕方ない。

逃げるしかないな」

「しかし、それでは」

ゆきほはたじろいだ。

廓抜けは立派な犯罪である。


「案ずるな、遠くまで上手く逃げられれば。

仕損じて追手がかかっても、
この剣の腕があれば、なに、めったなことで斬られはせん」

「奉行所の如月様とそのご友人の菊地様の噂はご存知でしょう?」

着物の袖を口元にやりながらゆきほは言った。

「それは、もう。

こちらから手合わせ願いたいほどだ」
興奮した様子で、男が返す。

「危のうございますよ」

「とにかく、決めたのだ。

これでもずいぶん悩んだ。

しかし、お前も外へ出て自由に暮らしたくはないのか?

何にも縛られずに、いつでも、したいことをする。

そんな生活を。

そうだ、小料理屋でも始めよう。

きっと、今よりずっと楽しくなるはずだ」

実際、とても魅力的な申し出であった。

この男は自分のために勇気を出して行動を起こそうとしてくれている。

だが、実際に外の世界に出るとなると、
これほど恐ろしいことはない。


「私は、怖いのです」

「いつまでもそうではいられまい。

この先どうするのだ?

雛鳥でさえ殻を破って出てくるのだぞ。

えい、こうなれば思い切りあるのみだ。

今夜出よう」

長い長い思案の末、
ようやく、ゆきほの口から答えが、出た。

「もはや、全てをあなた様にお任せいたします」

希望を願うには伏し目がちな表情で、
ともすれば再び束縛の軛(くびき)の中に絡めとられてしまいそうな。

それでも、瞳に宿る光は、先程よりも強くあった。

今夜、星は見えない。

月も出ていなかった。




河原では、二人の男が対峙している。

じりじりと詰める間合い。

じゃり、と音のする足元。

双方、上段に構えて睨みあう。

千早太と真之丞であった。

どちらからともなく、動き合った。

ひゅん、と二つの刃が同時に鳴った。

相手の体の前でぴたりと止まる。

「気が剣に乗ってないな」

「ああ、そうだ。

実を言うと体が少々重い」

「今回は真は某の後ろでそっとしておるのが良いだろうな」


心配するそぶりは露ほど見せずに千早太が言った。

傍らの石ころを蹴る。

彼の場合、外見と中身が一致していないことは良くあることだ。

「私もそう思います」
みきが口を挟む。

適当な呼吸だった。

「冴えぬなあ」
真之丞が空を見ながら言った。

視線の先の青色より表情は晴れていない。

魂もこの一時は曇り空なのである。

「無理をなさらないでください」

傍にいる娘は、自分のことを良く良く案じてくれている。

ここはおとなしく二人の言うようにしていたほうが良さそうだ。

剣者としても、今の状態を鑑みて、そういった判断を下した。


「千早太と、みきに任せる」

「それが良い」

「千早太様……」
みきが今いる所より奥の、
河原の終わりに目をやりながら彼の袖を引いて言う。

「あの男女、風体が例の一件の二人ではないでしょうか」

「どれ、私が訊いてこようか」

「真は下がっておれ」

「冗談だ」

やはり疲れているのか、
しまらない顔の真之丞を留めて、千早太は話を聞きに行く。

「もし、昨夜、廓抜けをした者を探しておってな。

何か知っていることがあれば教えて欲しい」


「あ、あの、私たちは……」
女の方が消え入りそうな小声で話すのを、
隣の武士が続けた。
「単なる旅の者。

ここへきたのは今朝のことだ」

「へえ、どこへも泊まらずに?」

「いや、
江戸に入る前の木賃宿に泊まって、朝早くきたのだ」

「ほう、と言うと、黒井屋ですかな」
千早太が顎に手をやりながら訊いた。

「左様」

「あなた様」

女の方が心配そうに見ているのを目の端にやった。

「しかし、あそこは今やってはおらんのだが」

男の顔が驚きの色に変わるのを千早太は逃さなかった。


次の瞬間、居合いが閃く。

「というのは嘘だ」
間一髪でかわしながら、言う。

「おのれ!」

思っていたよりもずっと鋭い斬撃を二度避けたところで、
剣を抜いて応戦する。

上段から撃った。

すかさず刀身を一文字に受けたのはさすが。

十字に交わる二つの剣。

千早太、そのまま押し込む。

男も負けじと力を入れる。

その時、千早太は一瞬力を抜いた。

対手は刹那のとまどい、そして驚き。

剣先を柄元ではね上げる。

「やめてください!」

女の悲痛な叫び。

そのまま一連の流れで、面を撃つ。


その直前で止めた。

「俺の負けだ」

「お主は遊郭から逃げる時に一人斬ったな。

このまま捕まれば死罪は免れぬぞ」

「ここで腹を切る。

介錯を頼めるか?」

「あの女子はどうする」

「俺が勝手に外に出してやったのだ……ゆきほに罪はない。

どこか遠くへ、逃がしてやってくれ」

「そうしよう」
千早太は頷いた。

「かたじけなし……」

「なに、仕事熱心なほうではないのでな」

真之丞は、それからみきも、離れた場所から見ている。

命が散る様を、
目を逸らさずに。

それが生の、
確かに生の価値であるかのように、

この場にいるものは、決して。

「私がこれから生きて行くことが、何より、あなたがいた証です」
胡桃色の髪が、ほんの小さく揺れた。


はい、今夜はここまでです。

少し前からPCがなんだかやられてしまっていて、
右クリック封印状態なのです。

テンポが変わっていないと良いのですが……。

いつもはすぐ落ちるのですが、今日は少し時間があるので、
何か質問等あれば、どうぞ。
(土日が忙しい方が多いようですね)


第三章 扇編板嘉(せんぺんばんか)



真「大丈夫?」

千早「気分が悪いわ」

真「でもさ、頑張ろうってプロデューサーとみんなと言ったじゃないか」

千早「ええ」

スタッフ「撮影はいりまーす」

千早「使うなら、鉄扇ではなくて、そこのま、まな板が……良いぞ」

監督「カット!」

千早「すみません、一分下さい」
(現場から走り去る。遠くまで)

千早「こんちくしょーっ!」
(大声、凄まじく良く通る声)


――

真「あ、ああ……。その、私は菊地真之丞と申す者だ。
ここからすこしある屋敷で剣の道場をひらいておる。
これは、そなたへの金子だ、大層困っていると訊いたのでな」

やよい「そんなあ、理由もないのに……いきなりはいただけません、おさむらいさま」

真「それなら今考えた、やよい、明日より菊地家へ参って、
掃除、洗濯、炊事、と母上を手助けせよ。これは手付金だ」

やよい「そういうことでございましたら、ありがたくちょうだいいたします」

監督「カット、う〜ん……。高槻さん、もっと歯切れの良い感じでお願いします」

やよい「はいです!」

真「やよい、台本の難しい漢字、良く読めたね」
千早「ええ、本当」

やよい「プロデューサーさんが、よみがなふってくれたんです!」




真「つ、次は、いよいよ、濡れ場だね」
(額に汗)

貴音「ええ、妖艶に演じましょう」

千早「この映画、R−18がつくらしいわよ」

真「そりゃあ、これだけのことをやるんだから……。しかも、僕は男役だよ」

千早「演技指導とかって、どうしたの?」

真「プロデューサーに教えてもらったよ」

(勢い良くスタッフのほうを見て)
千早「プロデューサーァァ!」





濡れ場の撮影終わって、真、貴音があがってくる。

千早「お疲れ様」

真「う、うん」
(顔真っ赤)

貴音「まこと、熱くなりましたね」
(汗が光る)

真「プロデューサーは?」

千早「さっきまでここにいたのだけれど」

P「ん、おお、お疲れ様」

貴音「あなた様、どちらへ?」

P「あ、いやあ、お手洗い」
(はにかむ)

千早「!」
(Pの腰に蹴り)


ひとまずここで。

第四章 窮、救にして



千早「これ、主人のいおりという娘はおらんかな」

いおり「いおりはわたしよ!」

真「なんと!」
千早「なんと!」

監督「カット!菊地さん如月さんは、間髪入れずに、それから同時にセリフ!」

スタッフ「テイク2、いきまーす」

千早「これ、主人のいおりという娘はおらんかな」

いおり「いおりはわたしよ!」
真「なんと!」
千早「なんと!」

監督「カット!呼吸は良いけど、二人同時にお願いします」

スタッフ「テイク3、いきまーす」

千早「これ、主人のいおりという娘はおらんかな」

いおり「いおりはわた」真・千早「なんと!」
監督「カット!!」




いおり「助かったわ、ありがとう」

真「なに、某と、真がおれば百人力よ」

いおり「女の人がいたような気がしたけど?」

真「そんな者はおらにゃんだ」

いおり「……」
(チラ見)

監督「カット。菊地さん、次お願いしますね」

千早「にゃん、っ、にゃん……」
(腹抱えて震えている)

スタッフ「テイク2、いきまーす」

P「おりゃにゃんだ……」
(ぼそり)

千早「ぶはーっ!ひいー、ひぃー!」
(転がり回る)

監督「ちょっと、如月さん」

千早「あっはっはっは!可笑しいー、可笑しいーっ」

スタッフ「……休憩、10分はいりまーす」

千早「し、死ぬ、ぶふーっ!」


第五章 誘いの呼吸



美希「ねえ、みきの胸、大きいでしょう?」

美希「触っても、良いよ」

美希「はいここまで、もうお終い。それじゃ、ありがとう」

男「金子は、いらんのか?」

美希「もう、もらったよ」

男「あ、待て!」

千早「あの娘か……みき、というのは」

監督「はい、OKです!いや〜星井さん、迫真の演技だったね」

美希「とーぜんなの!」

P「美希、ちょっと良いか?」

美希「どうしたの?ハニー」

P「これくらいで良いか?」
(二千円)

美希「……?あは、分かった、そういうこと」

P「お、良いか?」

美希「ハニーなら、タダで良いよ」

P「じゃ、ちょっと裏でな」
(連れて行こうとする)

(角を曲がる所で)

Pに鉄槌

千早「!」
(鳩尾パンチ)

真「!!」
(顎パンチ)

貴音「!」
(腹、掌底)

あずさ「!!」
(股間、蹴り)

P、崩れ落ちる

美希「わあーっ、ハニーが!」

伊織「げしげし」
(踏みつける)


今日で一気にいきます。

第六章 不死の価値



亜美「お姉ちゃーん、お姉ちゃーん?」

真美「なにぃ、亜美」

亜美「最近、疲れてなーい?少し痩せた気がするよ→」

監督「カット、カット!二人とも、勝手に台詞変えない」

亜美真美「はーい」




(頭の上に湯呑みがのっている)

美希「参りました……」

あずさ「動くとこぼれて熱い……」
(湯呑み、ぐらつく)

(頭上でこぼれる)
美希「あっつぁー!」

監督「カット!濡れタオル急いで!」

(10分後)

スタッフ「テイク2、いきまーす」

美希「参りました……」

あずさ「動くとこぼれて熱いですよ」

美希「参りました!」

あずさ「はい、どうぞ」
(机、滑りが悪い。つっかかって、お茶こぼれる)

美希「うあっつぁー!!」


第七章 囚われの心、捕らわれの躰



男「ここから出よう」

雪歩「でも、どうやって?」

男「金子が用意できれば良いのだが……仕方ない。逃げるしかないな」

雪歩「しかし、それでは」

男「案ずるな、遠くまで上手く逃げられれば。仕損じて追手がかかっても、
この剣の腕があれば、なに、めったなことで斬られはせん」

雪歩「奉行所の如月様とそのご友人の真ちゃ……菊地様の噂はご存知でしょう?」

監督「カット。そこで本当の名前と混ぜない!」

雪歩「す、すみません」
(半べそ)

P「雪歩、しっかりな。終わったら真と二人っきりにしてやるから」

雪歩「はい!頑張ります。それから、例の件は……」

P「ああ、真の生着替え写真、ばっちり焼き増ししてあるからな、この後渡せるぞ」

雪歩「プロデューサーも、悪いですねぇ」

P「お前ほどじゃないよ」

スタッフ「テイク2、いきまーす」


第八章 像を結ぶは、人の姿か人の絆か



律子「何さおとっつあん、あたいはまだ眠いんだよォ」

律子「まだ寝てられるってのに、仕ッ方ないねェ」

律子「勝ッ手に死んで、娘に仕事任せちゃあ世話ねェや。さあて、と」

監督「はい、OK!久しぶりに一発出たね」

P「律子、完璧だ」

律子「あたしのキャラって……」

P「これは、律子にしかできないよなあ」

律子「プロデューサーも出ればよかったのに」




律子「あ、お知り合い?」

千早「真、話すのだ。この娘と我らの出会いの時を」

真「出会ったのは、私だ」

響「ふふ……えーっと、なんだっけ?」

監督「カットー!我那覇さん、台詞しっかり!」

P「響、そこは『ふふ、これがご縁でしょうか』だぞ」

響「ありがとう、自分、頑張るぞ!」

P「そうしないと、困るのは響だからな。
見ろ、NGを出すたびにお前の家族が痛めつけられていく」

響「わ、わあ!やめるんだ、プロデューサー!」

P「今のはおまけだが、次からは容赦しないぞ」

千早「やたら響には厳しいわね」
真「うん、確かに」

律子「いじめたくなるのよ、きっと。プロデューサーは響のこと気に入っているから、余計」




真とあずさが交わるシーン

P「うわあ、エロい、エロい!」

P「よし、そこだ!」

P「あずささん、最高です」

P「ああ、すごい……」

P「ちょっとトイレ」
(椅子から腰を上げる)

背後に不吉な気配

千早「せいっ!」
(後頭部に打撃)

P「うっ……ふう」
(気絶)

終わり


最後、駆け足になってしまいました、すみません。

しばらくしたら、新作の一部分を見てもらおうと思っています。
(そっちのほうにスイッチ入ってしまって)

いま作っているのは探偵もので、皆さんから依頼を募集して、
オーダーメイド的に書こうかなと思っています。(安価にはしません)

以下に投下するプロットは、主人公がアイマスの二人なのですが、本編はオリジナルにします。



仮題『さつき探偵事務所』

 長野県、長野市と松本市のあいだ、佐久市よりは左のほう。
うねうねと長い河が流れている小さな市の某所。
蒼のような黒のような、良く分からない色をした屋根、正確には瓦なのだが、とにかく古風な建物。
あるいは、単に古いだけのおうち。
どちらにしろ、ものは言いようだ。
点在する家屋の中にとけて『みき探偵事務所』とは書いてはあるが、
何の変哲もない、普通の一軒家。
大きな庭に、黄色く、背丈のあるひまわりが咲いている。
小学6年生の男の子よりは身長がありそうだ。

 「暑いわあ。あの黄色いのがソーラーパネルなら、うちにケーブルひいてクーラー、がんがんにかけるのにー」
大きな胸を揺らしながら、女性が一人出てきた。
がらがらと音がする引き戸。
玄関からは白黒の犬が一匹。
耳は上半分が折れて垂れ下がっている。
しなやかな筋肉が前脚から後ろ脚まで流れるようなフォルムだ。
重力に逆らわない尻尾、利発そうな顔。


 「ねえー、トルク」
起伏のある、曲線の多い、女性らしい躰。
蒼い髪の色で、てっぺんにはどこにも属さず独立した毛がぴょこんと立っている。
裸足にサンダル、ゆったりとした紺の半ズボンに半袖の白いシャツ。
ときおり、シャツをぱたぱたとめくり上げ、腰のラインと、それからおへそが見え隠れして煽情的だ。
その上の膨らみを想像するだけで、何とも言えない気持ちになってくる。      
名前は、三浦あずさ。
この探偵事務所の所長だ。
と言っても、メンバーはもう一人しかいないのだが。


 「千早ちゃん、遅いわね、まだかしらー」
しゃがんで、トルク、と呼んだ犬に話す。
はあはあと舌を出しながら、息が荒い。
 「あなたよりは涼しいわ、ごめんなさい。そんな瞳で見ないでー」
言いながら、わしゃわしゃと首の周りを撫でる。
犬はごろんと仰向けになり、腹を見せた。
本当なら、触ってやると喜ぶのだが、
遠くから、メカノイズの混じったエンジン音が聞こえてきたので、そうするのをやめた。
あずさは立ち上がり、呟く。
 「あら、帰って来たわね」
犬はそのままの体勢で転がったままじっとりとした目で睨んでいる。


 「トルク、ゴー!」
大きな声で言うと、犬は跳ね起きて駐車場のほうへ駆けていく。
二つの意味で、凄まじい反転である。
一つは肉体的な反応。
さすがの動物らしさで、一瞬にして視界から消えたこと。
もう一つは、精神的な反応。
この女では、遊んでくれないのだろうという判断が、切り替えの速さであらわれたこと。
 「あ、待てー」
口に出した言葉ほど慌てた素振りはなく、のんびりと歩いていく。
ゴーサインを出したのは、犬に向けてであって、自分にではない。


 駐車場、というのは家の裏手にある、何もない所を指して言っている。
実際に、二人はここに駐車しているし、お客さんも停めることが多い。
幹線道路からは少し奥に入った坂の上に位置している。
そこに、青いZZRが入ってきた。
車体の両側にそれぞれ一本ずつ、マフラーが出ているのが、バランス良い。
このバイクを見るたびに、あずさは戦艦を思い浮かべる。
乗り手の細い躰も相まってのことだろう。

 「今日も調子が良い。綺麗に鳴ってくれた」
そう独り言を呟いて、ギアをニュートラルに入れ、エンジンを切る。
サイドスタンドを立てながら白いヘルメットを外し、バイクと同じ青色の髪を振りながら言った。
額には汗が、銀色の水玉のように滲んでいる。
名前は、如月千早。
もう一人の事務所員。
言いかえれば、三浦あずさのパートナー。
彼女のすぐそばには、白黒の犬が伏せていた。


 「トルク、ただいま」
「千早ちゃん、おかえり」
もちろん、返事をしたのは家のほうから来たあずさで、犬では無い。
「ただいま、あずささん」
跨っていたバイクからおりて、返事をする。
「どうだった?」
「ありましたよ。掃除機に付けて、土間を掃除できるフィルター」
「やったー。どこに?」
それを聞いて嬉しそうに、両手をぽんと合わせた。
「マツキヨ商店」
きつく掛けたショルダーバックをはずしながら千早が言う。
「こんなの買わないで、箒で掃けば良いじゃないですか……
ってそんなことより、汗だくなので、お風呂に行きます」


 歩きながら、通気性が良さそうな、薄手の白いライダースーツ、
その前のジッパーを開けてキャミソール一枚になる。
あずさと比べると、ずっと起伏に乏しい躰のラインだが、
すらりとした体型が、上から下まで統一されていて、美しさを感じられる。
N700系のぞみ号が好きな人ならきっと、一目惚れするに違いない。
「千早ちゃん、下はそんな格好だったの?」
「ええ、買い物するだけですし、すぐに帰る予定でしたから」
玄関に入り、土間の脇に設置されたお風呂セットの棚をごそごそとやる。


 「あっ、シャンプーが切れそうなんだった!」
悔しそうに言った。
 「すっかり忘れていたわねー。しょうがない、今度買わなくちゃ」
外に干してあったズボンを渡して、あずさが言った。
 「どうも。そうですね、ああ、悔しい、そして面倒」
受け取ったのは黒の半ズボン。下方向に三本矢印が出ているメーカーのものだ。
 「鍵、おかなくちゃ」
下半身、綺麗な爪、すらりとした踵、細くつややかな脚、小ぶりなヒップを露出させながら、
鍵置き場にバイクのキーを置いて、代わりにそこにある風呂場の鍵を持った。


 「早く着替えなさいよう」
薄いピンクの下着が、白い肌に良く映えた。
 「よし、行ってきます」
 「待った、靴、そのままじゃない」
 「あ、いけない」
ズボッと音をさせて靴から足を取り出す。
名前は知らないが、沖縄に生えているあの赤い花がデコレーションされたサンダルに履き替えて、
つま先をとんとん、と地面につける。
 「うん、私は夕方にしよう」
あずさはそう言って家の中に入って行った。
千早は、風呂桶にバスタオルと垢すり、石鹸とシャンプーを抱えて歩き始めた。


324でいきなり事務所の名前が違いますね。

つくづく思うのが、縦書きの紙面で読んでほしいのです。

そういう仕様にならないものですかね。

加筆修正するので、感想ありましたらお願いします。

スレッドをたてるとしたら明日です。(その時ここでお知らせしますね)

13:55│菊地真 
相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: