2013年11月07日

楓「シンデレラガールズですか?」 P「ええ」

P「応募していない一般の女性に、アイドルとしてデビューして貰うんです」

楓「主旨は聞いてましたけど……そういう名前だったんですね」

楓「シンデレラ……少女の年齢じゃないですけど」


P「そういう自覚のない人を応援するのが今回の企画ですよ」

P「楓さんは間違いなく、アイドルの卵です。俺が保証します」

楓「プロデューサーの保証……そう言われると反論出来ませんね」

P「必要ありませんよ。今後の予定も詰まってますし、しばらくは考える余裕もないと思います」

P「落ち着いたら、自然と自覚できるようになるはずですしね」

楓「今後……何があるんですか?」

P「CDデビューとTV番組への出演、ライブで他の事務所との対バンも予定されています」

楓「……大変そうですね。でも、楽しそう……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1342938229

(前作:P「シンデレラガールズですか?」 高木「うむ」)
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1342/13426/1342606705.html
P「でも、デビューはもう少し先ですね。CDを出すためには、レッスンと他の仕事をこなさないといけません」

楓「……出し惜しみですか?」

P「いえ、そうじゃなくて……下積みがないと、デビューしてもそこで終わっちゃいますから」

P「俺たちの役目はアイドルをデビューさせる事じゃなくて、輝く手伝いをする事なんですよ」

P「これから先も、アイドルとして、なりたい自分を目指し続けるために……最初は苦労しますが、一緒に頑張りましょう」

楓「……ありがとうございます、プロデューサー」

楓「ふふ……私、大切にされてますね」

P「勿論ですよ。楓さんは大事な人ですから」

楓(即答……アイドルとしてだろうけど、それでも……)

楓「ありがとうございます、プロデューサー」
P「さて、先の事も大事ですが、まずは今日の事から――スケジュールの確認をしておきましょうか」

楓「よろしくお願いします」

P「今日の仕事は2つですね。まずは昼前、11時からイベントの手伝いで、ストラップの配布をします」

P「13時には確実に終わるので、休憩を挟んで、昼からはドラマのエキストラに参加ですね。15時に現場入りです」

楓「テレビ……緊張しますね」

P「そのためにやるんですからね。まずは人前に立つ事に慣れましょう」

P「撮影も台詞はありませんし、喫茶店でゆっくりしているだけですから。リラックスして行きましょう」

楓「……頑張ります」

P(それに、配った物を受け取って貰える喜びも……ですけど)

P(アイドルが接するのは、売り上げの数字やファンの数じゃなくて、人そのものなんですからね)
<現場>

楓「よろしくお願いします。どうぞ、よろしくお願いします」

楓(思ったより人が多い……普段は見てる側だったけど、見られるのは……緊張する)

楓(プロデューサーから言われたとおり、控えめでも笑顔を意識して……)

楓「よろしくお願いしま〜す」

P(うんうん、最初はぎこちなかったけど、だんだん慣れてきてるな)

楓「これ、よかったらどうぞ」

?「あ……どうも……可愛い」

楓「ふふ、ありがとうございます」
楓(今の子、制服だったなあ……なんだか懐かしいかも)

楓(アイドルだったら……着る機会あるのかしら?)

P(楓さん、制服見てたけど…………制服より、大人っぽい服の方が似合いそうだと伝えるべきか)

P(宣材の写真もジャケットの撮影もあるから……和服とか? 後で相談してみるか)
?「……犬のストラップ」

?(帰ったらお散歩いこうかな……)
P「お疲れ様でした。イベント大成功でしたね」

楓「お疲れ様です。私だけの力じゃありませんが……」チラチラ

P「楓さん? 何か気になることでもありました?」

楓「……プロデューサー、有名だったんですね。あの765のプロデューサーって言われてましたよ」

P「あー……それこそ俺の力じゃありませんよ。有名なのは俺じゃなくて、アイドルのみんなですから」

P「そこに付き添って、イベントもいくつか参加してただけですから」

P「今回だって、みんなが仕事をこなしたから、話が通じやすかったんですし」

楓「それなら……私が頑張ると、プロデューサーが有名に……?」

P「そうですけど、それを目標にしなくても良いですからね? 俺の知名度なんて、あくまでもおまけですから」
P「俺が有名になることより、楓さんやみんなが、アイドルとして輝いている姿を見ることの方が嬉しいですから」

楓「それだと……今はまだ嬉しくない?」

P「一緒に頑張れるのは楽しいですよ。楓さんが生き生きしてますから」

楓「何だか、いつも褒めてばっかりな気がします」

P「仕方ないですよ、本心ですから。それとも、楓さんは楽しくありませんか?」

楓「……楽しいです。新鮮という感じかも知れませんが……まだアイドルの自覚がないからかも」

P「ステージに立てばまた変わるかも知れませんね。もう少し先になりますが……」

楓「そのためには……ですね。早く立てるように努力します」

楓(急がば真っ直ぐ進んじゃおう……だったはず。春香さんの曲だけど、地道に積み重ねていくのが一番よね)
<公園>

P「次の仕事まで少し時間がありますから、ここで休憩していきましょうか」

楓「分かりました……ところで、プロデューサーは事務所に戻らなくて良いんですか?」

P「戻るよりここにいた方がゆっくり出来ますしね。店に入って休んでも構いませんが、どっちがいいですか?」

楓「そうじゃなくて……私につきっきりでいいんですか?」

P「ええ、平気ですよ。むしろ楓さんと一緒に回ることが一番大切です」

楓「……理由は?」

P「楓さんは今が大事な時期ですからね。最初は仕事を覚える意味もありますし」

楓(……やっぱり。いえ、いたいからと言われても……嬉しいけど困るわ)
P「もちろん、みんなに着いていなくて良いってわけじゃありませんが……」

P「裏方の人数が少ないのも問題なんですよね……すみません」

楓「いえ、むしろ私こそ、迷惑ばかりで……今日も手間取ってしまいましたし」

P「最初から完璧に出来る人間なんていませんよ。いたとしても、そう見えるだけです」

P「少しずつ経験していきましょう」

楓「……はい。でも次はもっと上手くやって見せます」

P「ええ、期待してます」
楓「でも私だけじゃなくて、みんなの事も見ていてあげてくださいね? みんなプロデューサーと仕事をしたいと思っていますから」

楓「それに、今から新しい人が入ってきても……プロデューサーの代わりにはなれませんから」

P「そう……でしょうか?」

楓「はい……だから私も、最初は迷ったんです。みんな、仲が良さそうですから」

楓「新しいプロデューサーが来て、仕事は上手く行くかも知れませんが、でも……」

P「……でも?」

楓「……何でもありません」

楓「午後の仕事も頑張ります。台詞のないエキストラですけど、成功させてきます」

P「ええ、ちゃんと見てますから。何かあってもフォローしますし、リラックスして行きましょう」

P「そろそろ移動しましょうか。早めに入って挨拶を――」ワンワン!

P「!?」ビクッ

楓「あら、犬の鳴き声……近くにいるんでしょうか?」

P「」

楓「……プロデューサー?」

P「ぐっ……な、何でもありませんよ? あ、あはは、次の仕事へ行きましょうか」

楓「……凄い顔してますよ?」

P「う、生まれつきです」

楓「そんな事は…………あ」

P「っ!?」

楓「もしかして、お腹が空いたとか……?」

P「へ? あ……え、ええ、そんな感じです。あはは……」

P(びっくりした……背後に犬がいるかと思った……)フゥ

楓「そうだったんですか。てっきり犬が苦手かと……」

P「は、はは……」

P(言えない……楓さんなら笑わないだろうけど……流石に恥ずかしい)

楓(鳴き声はするのに……犬がいぬ)
<765プロ・夜>

P「お疲れ様です」ガチャ

律子「お疲れ様です。楓さんは……直帰でしたっけ?」

P「ああ、今日は二件あったからな」

P「撮影も延びて、挨拶回りもしたから遅くなってな――律子はロケで動物園だっけ?」

律子「ええ……伊織とやよい、亜美と真美で……4人ともああ見えて体力ありますからね、流石に疲れました」

P「ははは、そっか。でもあの4人だと楽しそうだよなあ」

律子「それは……まあそうですけど。みんな子供らしくはしゃいでましたし」

律子「仕事を忘れてたわけじゃないですけど、無邪気で年相応でしたよ。良い息抜きにもなったと思います」

P「保護者みたいな台詞だけど、律子もまだはしゃいでいい年齢だからな?」

P「こういう仕事してると分からなくなってくるけどさ」
律子「流石にもう子供じゃありませんよ――なんて、前なら否定してましたけど……まだ大人にはなり切れてないですね」

律子「今まで年上のアイドルはあずささんだけでしたから、必然的にお姉さんになってましたけど……」

P「楓さんが入ってから、考えが変わったのか?」

律子「そうですね。みんなから見れば確かに年上ですけど……」

律子「小鳥さんや楓さん、あずささんみたいに大人の女性がいると、まだまだ子供なんだと実感させられます」

P「楓さんは、律子がしっかりしてる大人の女性ってしきりに褒めてるぞ?」

律子「それはまた別で……なんて言うか、仕事だけじゃないですし」

律子「みんなみたいに、大人の女性としての魅力が……年下でも、貴音や美希みたいな子がいしますから」

律子「照れますし、恥ずかしいですよね……あとは戸惑ったり」」

P「律子も十分、大人の女性って気がするけどな」

律子「ありがとうございます、プロデューサー。フフ、嬉しいですよ」

P「いやあ……はは」

P(お世辞じゃないんだけどなあ……)
律子「でも実際、楓さんは魅力的だと思いますよ。アイドルとしてレッスンを積んでいない今でも十分に」

律子「あの雰囲気は貴音にも通じますけど、ミステリアスな気品だったり、女性としての魅力だったり……本当に原石ですよ」

P「そうだな……でも内面とのギャップもあるんだぞ? そこがまた楓さんの魅力なんだけど」

律子「それは……私も時々感じますね。あんなにお酒を飲まれる方だとは……しかも日本酒」

P「一番飲んでたもんな。しかも酔ってなかったし――じゃなくて」

律子「そこじゃないんですか?」

P「それもだけど……実はダジャレが好きなんだ」

律子「……ダジャレですか」

P「ふとした拍子にぼそっと言うから聞き逃しそうになるんだけど、会話にひとつは挟んでくるぞ」

律子「それはまた……千早と気が合いそうですね」フフ

P「合いすぎて、この前悶絶してたぞ」

律子「ああ……そうだったんですか」
律子「そういうギャップは良いですね。作ってない楓さんの魅力だと思います」

P「それを自覚してないところがまたな」

律子「説明しても、首を傾げそうですよね……そういう方向でプロデュースを?」

P「それも相談しようと思ってたんだけど……誰かと組ませるより、ソロで行った方が良いよな?」

律子「……私もその方が良いと思います。竜宮の時とは状況が違いますし……」

律子「他のアイドルとのユニットだと、どうしても『相方の楓さん』になっちゃいますからね」

律子「楓さんの魅力を消すことになるのは、かなり勿体ないですよね」

P「律子もそう思うか……じっくりゆっくり、地道に経験を重ねていくべきだよな」

律子「それがいいと思います。楓さんが焦ってないですしね」

律子「……以前のみんなは、レッスンの先にある物が見えてなかったのもありますし」

律子「でも今は違います。みんなが道を切り開いてくれましたから、この環境に感謝しながら頑張るべきです」

P「……ありがとな、律子」

律子「どういたしまして」
律子「でもプロデューサー、他にスカウトしたい子が見つかった時は、ユニットでデビューもありだと思いますよ?」

P「それは……うーん、見つかるのは嬉しいけど、困ったような……喜ばしいんだけどなあ」

P「そこまで手が回るかどうか……出来なかったら、みんなを不幸にすることになるんだよな」

律子「事務作業は出来る限り私が代わりますから、そこは気にしなくて良いですよ?」

P「律子が……?」

律子「竜宮の時は私が手伝って貰いましたからね。今回は私が手伝います」

P「いや、あれぐらい当然で――」

律子「そういう事です。同じプロデューサー同士、協力するのも当然です」

P「……それじゃ、遠慮無く。まだ見つかってないから、どうなるか分からないけどな」

律子「見つかった時は……ですね。私も負けてられないわ」グッ

P「いやいや、俺の方が律子に追いつかなきゃいけないんだけどな」

律子「それもですよね。特に事務作業とか」

P「うっ……それは律子の計算が速い方じゃ……」
律子「でもその代わり、プロデューサーはアイドルみんなの事を分かってますからね」

P「律子が分かってないとは思わないけどな……同性じゃないと分から気持ちもあるだろうし」

律子「……それはまあ。付き合いもそれなりに長いですし」

律子(プロデューサーへの気持ちだったりね……美希は分かりやすいけど)

P「ただ俺としては、シンデレラガールズは大事だけど、律子の再デビューの事も同じぐらい興味があるんだよな」

律子「もう……何バカなこと言ってるんですか。今は目の前の事に集中してくださいよ?」

P「いや、冗談じゃなくて……今の忙しさだとライブのゲストが精一杯だろうけど、いつか……な?」

律子「まったく……約束は出来ませんからね?」

P「それで良いよ――さてと、それじゃあ今日の仕事を終わらせるかな」

律子「デビューさせたいんでしたら、仕事を早く済ませないと駄目ですね」

P「……よし、気合い入れてやるか」

律子「いつも通りですけどね」
<翌日:レッスンスタジオ>

楓「はぁ、はぁ……」

雪歩「お疲れ様です、楓さん。どうぞ、タオルとドリンクです」

楓「あ、ありがとうございます……ふう」

春香「楓さんって声綺麗ですね! 私びっくりしちゃいました」

楓「そうでしょうか……大きな声を出すのは苦手で。お二人の方が……」

春香「それは……えへへ、レッスンしてますから」

春香「でも楓さんだって、声量はまだ小さいですけど、すぐに上達すると思いますよ?」

雪歩「わ、私もそう思います。声質も綺麗ですし、苦手でもレッスンすればきっと……」

雪歩「自分を変えようと努力したら、きっと……」

楓「雪歩さん……以前は、男性と話すのが苦手だったって……」

雪歩「あぅ……そ、そのぅ……い、今も得意では。緊張しちゃいますから」
楓「でも、ラジオの……パーソナリティ? 上手でしたよね」

雪歩「あぅ……そう言えば聞かれて……何だか照れちゃいますぅ」

春香「うんうん、雪歩と真ののラジオ、楽しいよね。聞いてると元気出てくるもん」

春香「私も歌はあんまり……デビューしたときだったら、楓さんの方が絶対に上手ですよ」

楓「そうは見えませんが……さっきも上手でしたが……」

楓「……それもレッスンの成果、ですね」

春香「えへへ、そうかもしれませんね」

春香「楓さん、一緒に頑張りましょうね。目指せトップアイドルですよっ」

楓「トップアイドル……」

雪歩「まだまだ遠いですけど、諦めなかったら……きっと叶います」

楓「…………はい。頑張りましょう」
楓(春香さんも、雪歩さんも……私から見ればトップなのに、まだまだなんだ……)

楓(歌……千早さんみたいに、気持ちを乗せるなんてまだまだ……焦らず、高望みせず、今は歌を歌えるようにならないと)

楓(まずは最低限……こうやって頑張った気持ちも、全部重ねて、歌に乗せて……)

春香「そういえば、今日プロデューサーさんは一緒じゃないんですか?」

楓「今日は打ち合わせで外に……別行動です」

春香「そうなんですか。忙しそうですね……」

楓「春香さんと雪歩さんがしっかりしてるからと、安心していました」

春香「しっかりなんて……えへへ、楓さんのほうがしっかりしてるのに」

雪歩「プロデューサーが……期待に応えないと」

楓(……かわいい。こういうところは普通の女の子なんだ……)
<駅前>

P(今日の打ち合わせはこれで終了っと……事務所に戻ったら、みんなのレッスンを見て、その後楓さんも……)

P(千早に刺激を受けてるみたいだけど、春香や雪歩にも見習う所があるんだよな……技術の前に、精神的に)

P「今の楓さんならデビューも近いだろうし……今のうちに衣装も考えておくか」

P「イメージとしては和服なんだけど……ドレスも似合いそうなんだよな……贅沢な悩みだ」

P(花も似合いそうだし……セットに入れるか、衣装に入れるか……とりあえずいくつか買っていくか)

P(あわせてみた後は事務所に飾ればいいし――)
\アリガトウゴザイマシター/

P(上手く乗せられて買っちゃったけど……バラはなあ。綺麗だけど……楓さんは派手なのより大人しめの方が……)

P(ドレスならともかく……椿とかユリとか。バラはあずささんか……伊織のイメージが強いな)

P(そっちの提案も――)

?「あ……」

P(やばっ、ぶつかる――っ)

P「いっ……たたた……」ドスン

?「ゴメン……大丈夫?」

P「ええ、なんとか……すみません、余所見を――」ワン!

P「…………」

?「こらハナコ、大人しくしてて」ワンワン

P(い、犬だ……)
?「……どっか痛めた?」

P「いいいいや、なんでも――あ」

P(ティン!)

?「……何?」

P「え、あ、いや……」ティン

P(ティン来ちゃったよ……くっ、これは固まってる場合じゃない!)

?「……立てる?」

P「ああ……ちょっと驚いただけだよ――っと」
P(見た目は今時の女の子……格好良い女の子って雰囲気だけど、クラスにいそうなイメージ)ティン

P(でも……目に輝きがある。内に秘めた意志が……この子は――)ティン

?「……何か?」

P「あ……アイドルに興味はありませんか?」

?「……は?」

P(しまった……つい反射的に……今は楓さんのプロデュースをしてるのに……)

P(でもこの子は、トップアイドルになれる素質があるかもしれない……見逃すのはプロデューサーとして失格……なのか?)
?「……ナンパとか、そういうのは間に合ってるから。花渡されても困るし」

P「あ……ちっ、違う違う! これは事務所に持って行く花で、今もナンパじゃなくて……ほ、ほら!」

?「名刺…………765?」

P「そうなんです……こほん、765プロっていう芸能事務所で、アイドルのプロデュースをしている者です」

?「…………お兄さん、怪しすぎるよ」ジトー

P「本当だって。名刺も本物で……今は新人アイドルのスカウトをする企画があるんだよ」

?「そんな話、聞いたこと無いんだけど」

P「それは当然だよ。まだ水面下の話だから」

P「期限はあるけど、いろんな事務所でそれぞれ新人をデビューさせてからのイベントだから」

?「……その台詞、予習してきたの?」

P「違う違う」
P「本当なんだけどなあ……どうしたら信じてくれるんだ?」

?「いきなり言われて信じるほど、私は簡単じゃないから」

P「ああ、それもそうか……それじゃあその名刺、渡しておくから。気が向いたら連絡を」

?「はあ……」

P「あ……それと、名前……聞いても良いかな?」

?「…………」

P「変な意味じゃないから! 連絡取るときに分からないと困るし」

?「……渋谷凜」

P「渋谷さんね……よし、覚えた。それじゃあ何かあったら連絡お願いします。質問も受け付けるから」

凜「……そ」

P「出来ればゆっくり話したいけど――」

凜「今日はこれから、用事あるから」

P「だよな。俺も実は……と言うわけで、また時間のあるときに」

凜「また会うとは限らないけどね」

P「その時はその時で。でも俺はまた話したいな」

P「君はきっとアイドルとして、ステージの上で輝ける人だと思うんだ」

凜「……そっか、ありがと。それじゃあ」ワンワン!

P「あ……ああ、また」
凜「……変な人」

凜(ぶつかりそうなのを避けてくれたのはいいけど、ちょっと腰が引けてた……私怖いかな?)

凜(頼りなさそうな人だけど……真剣だったよね)

凜(はぁ……何だかモヤモヤする。花、渡されたいわけじゃないけど……贈り物に選ぶセンスは、まあ)

凜(ナンパじゃないのは分かったけど、まだ気になる……勘違いしたのが恥ずかしいから?)

凜(この名刺、どうしよう――)ワン!

凜「ん……行こうか、ハナコ」

凜(アイドルね……私には関係ないかな)
<765プロ・レッスンスタジオ>

P「みんな、お疲れ」ガチャ

春香「お疲れ様です、プロデューサーさん」

美希「ハニーなの!」パァ

律子「こら美希、抱きつくんじゃないわよ?」

美希「む〜、まだ抱きついてないの」

律子「放っておいたら抱きついたでしょう……ほら、汗拭きなさい」
雪歩「お疲れ様です、プロデューサー。その荷物は……」

P「差し入れだよ。みんなにと思って――」

真美「さっすが兄(C)、気が利くね→。中はなんなんの?」

P「飲み物だよ。あとは事務所の冷蔵庫にケーキを入れてあるから」

真美「ナイスだよ→♪ 丁度亜美と食べたいって話してたんだよね→」

P「そりゃ良いタイミングだったな。出来れば起き上がって話して欲しかったけど」

真美「それは無理な相談だYO……」

響「プロデューサー、自分たちがみんなに配ってくるぞ」

真「結構ハードでしたからね。みんなぐったりするのも仕方ないですよ」

P「2人は流石だな……それじゃあ頼んだ」
真「ほら、亜美。汗はしっかり拭かないと」

真美「ううぅ……ありがとね、まこちん」

やよい「あぅ……2人とも元気ですね」

響「やよいも前よりダンス上手くなってるぞ? ターンもビシッと決まってたしな」

やよい「そうかな? えへへ……あそこは伊織ちゃんと練習してたから、それでかも」

響「伊織も頑張るなあ。竜宮の方もあるのに」

やよい「私が困ってたら、教えてあげるわよーって」

真「あはは、伊織らしいね」
雪歩「それと……」

P「どうした?」

雪歩「プロデューサー……ここ、汚れてるので」

P「げっ……こりゃクリーニングだな……」

雪歩「大丈夫ですか? これ、転んだんじゃ……」

P「人とぶつかりそうになってな……怪我はないから」

P「ただ……犬がな……」

雪歩「い、犬ですか……」

P「ああ……」

雪歩「……大変でしたね」

P「……苦手、克服しないとな」

雪歩「そう、ですね……うぅ」
千早「あ……プロデューサ。お疲れ様です」ガチャ

楓「お疲れ様です」ペコリ

P「お疲れ様。2人はダンスじゃなかったのか?」

千早「それもですけど、合間に少し発声の練習を」

楓「……教えて貰っていました」

P「休憩中もか……熱心ですね」

千早「楓さんは飲み込みが早いですから、一緒に練習しているとモチベーションが上がりますね」

楓「いえ……まだまだです。皆さんの練習を見ていると……」

P「それでも、楓さんも上手くなってると思いますよ?」

P「千早は歌のことで嘘をついたり、お世辞を言ったりしませんから」

千早「言えないだけですけどね。フフ」

楓「……そのおかげで助かってます」
楓「でも、私の事より今は千早さん自身の事を……ライブ、ですよね?」

千早「ええ、定例の。楓さんは、その……」

楓「まだ立てるほどではないので、レッスンに集中です」

P「そうですね。今回はちょっと時間が足りないので」

P「でも次回はきっと大丈夫ですから、それまでに仕上げていきましょう」

楓「……はい、頑張りましょう」

楓(歌もダンスも、今よりもっと上手く……)
伊織「…………」

あずさ「…………」

美希「あずさ、デコちゃん。大丈夫?」

あずさ「えぇ……うふふ……」

伊織「……デコちゃん言うな」

美希「汗で光ってるの」

伊織「……うるさいわね」

美希「デコちゃん、きらきらしてるの」

伊織「…………覚えてなさいよ、美希」

亜美「いおりん、元気だね……」

伊織「……どこがよ」

P(あの3人は……竜宮のパートもあるからか。全体練習もあるのに……律子もハードだな)ハハハ
P「お疲れ。調子はどうだ?」

美希「ミキは絶好調だよ。ハニーに見てて貰いたかったの」

P「ごめんな、見ていてやれなくて。代わりにステージでしっかり見させて貰うよ」

美希「任せるの。キラキラしてるミキを見せてあげるね」

P「ああ、楽しみにしてるよ」ポンポン

美希「えへへ〜♪」

伊織「…………」

美希「? デコちゃんも撫で撫でしてほしいの?」ナデナデ

伊織「あたしのチャーミングなおでこを撫でるんじゃないわよ……」

美希「手に力が入ってないの」フキフキ

伊織「……汗ぐらい自分で拭けるわよ」
P「伊織……大丈夫か?」

伊織「アンタにはこれが大丈夫に見えるの……?」

亜美「今日のりっちゃんはいつも以上に本気だったよ……」

P「亜美も……凄い顔してるぞ」

伊織「仕方ないわよ……今日の律子は鬼軍曹だったもの」

あずさ「ハードでしたね〜」

亜美「眼鏡が光ってたよ……あれは鬼だったね」

美希「細かいところまで注意するお姑さんみたいだったの」

P「!? い、いや、それは……」

亜美「うんうん、ミキミキの言うとおりだよ……足が1センチ低いとか言うんだよ→?」

伊織「あれはストレスを発散してるのよ……指を伸ばす角度が5度違うって、そこまで見えてないでしょ……」

美希(……危険なの)コソコソ

亜美「これはまた、ステージに立たせるしかないっしょ」ヒソヒソ

伊織「にひひ、レッスンにも付き合わせてあげるわ」ヒソヒソ

あずさ(あら〜……)

亜美「涙目のりっちゃんを激写だYO」ヒソヒソ

伊織「集中的にいじめ抜いてやるわ」ヒソヒソ

律子「アンタたち、聞こえてるわよ?」

伊・亜「「うひやぁっ!?」」
律子「今日はまた全体練習に戻るけど、明日も竜宮のレッスンはあるんだから……忘れないようにね」ニヤリ

伊織「……鬼だわ」

律子「鬼で結構。今日の課題は明日までに改善するわよ」

亜美「ううぅ、助けてミキミ……いつの間にかいないし」ガク

あずさ「が、頑張りましょう、亜美ちゃん」

伊織「……明日は律子も参加しなさいよね」

律子「私はみんなのチェックをしないといけないのよ」

律子「でも……そうね。3人が完璧になったら、私もレッスンをする余裕が出来るかもね」

あずさ「あ、あらあら〜……大変ですね」

亜美「兄(C)……助けて」

P「えっと……あ、そうそう! 律子に相談が――」
楓(仲良いなあ……)

春香「仲良いですよね、律子さんたち」

楓「あ……ええ。律子さんもキリッとしていて、格好良いです」

春香「ですよね」クスクス

春香「でもあんなに怖い律子さんも、ステージに立つと可愛いんですよ? 勿論、普段も可愛いんですけど」

楓「……見てみたいです」

春香「みんなもそう思ってますよ。律子さんも竜宮小町のメンバーですし」
春香「今回は楓さんも……ですけど。次は――」

楓「大丈夫です。まだ足りないのは、私も分かってますから」

楓「歌も、ダンスもまだ……なので次回は一緒に」

春香「はいっ、楽しみにしてます。次は一緒に……楓さんも765プロの仲間ですからね」

楓(仲間……なんだか、新鮮な響き……)

楓「……頑張りましょう、春香さん」グッ

春香「頑張りましょう、楓さん」グッ
律子「――2人目ですか」

P「迷ったんだけどな……気が付いたらって感じで」

P「ただ、反応が鈍かったから、どうなるか……」

律子「プロデューサーがいと思ったのなら、声をかけて正解だと思いますよ?」

P「社長も同じように言ってくれたんだけどなあ……」

美希「ねえ、何の話?」

律子「仕事の話よ。美希はまだ気にしなくていいから」

美希「……怪しいの」ジィ

律子「怪しいって、何がよ」

美希「ハニーと内緒の話してるの」ブー

律子「はぁ……確かに内密の話だけど、美希が考えるような事じゃないわよ。本当に仕事の話」
律子「それと美希、抱きつくのは止めなさい」

美希「ハニーはこうされるの嫌?」

P「嫌って言うか……ほら、俺が汗かいてるし」

美希「美希は平気だよ。頑張った汗だもん、汚くないよ?」

律子「遠回りに離れろって言ってるのよ。ほら」グイ

美希「む〜……それじゃあシャワー浴びた後だったらいいよね?」

P「はぁっ!? えっ……あ、ああ、そういう……いや駄目だから」

律子「はぁ……」
春香「あはは、美希は相変わらずだなあ……」

楓「……仲、いいんですね」

春香「う、うん。美希はね……」

楓「大胆ですね……抱きつくなんて……」

楓(抱きつくなときつく言う……)フフ

春香「楓さん?」キョトン

楓「……春香さんも抱きつきますか?」

春香「……へ?」

春香「え……ええぇっ!? しししないしない! そんなことしませんよっ」

楓「そうなんですか……」

楓(私の勘違い……? プロデューサーへの視線が……他の人もだけど)
<駅前・夜>

P「お疲れ様でした。明日はOFFですから、ゆっくりしてくださいね」

楓「ありがとうございます。でも……いいんでしょうか?」

P「時には休むことも必要ですよ。ここ1週間は休む暇がありませんでしたからね」

P「生活リズムが変わって疲れもあるでしょうし、ゆっくりしてください」

楓「……はい」

P「私生活も大切に、ですよ。アイドルとしての時間だけじゃ、いつか無理が来ちゃいますから」

楓「ええと……」

楓(そうじゃなくて……プロデューサーは明日も仕事よね。いつ休んでるんだろう)

楓(想像できない……前に休みでも、仕事のことを考えるって言ってたけど)

楓(プロデューサーって休みの日何してるんだろう……暇にしてるんだったら、どこかへ誘っても……)

P「楓さん? 何か忘れ物でもありましたか?」

楓「いえ…………何でも。お疲れ様でした」

P「はい、お疲れ様でした」

P(今誰かに呼ばれた気がしたけど…………気のせいかな?)
楓「休み……何しよう……」

楓(アイドル……見習いだけど、芸能界の人と仕事をするようになってから、なんだか密度が濃い……)

楓(ぼんやり生きてた今までより、よっぽど充実してる気がする……仕事が楽しい)

楓(でも……そのせいで他にしたいことが見つからない。プロデューサーとの仕事が中心だったから……それが楽しくて)

楓(なのに私、プロデューサーのこと、ほとんど知らないのよね……)

楓「そういえば……小鳥さんがビデオ、持ってたような……」

楓(私が入る前の765プロ……見てみようかな)
凜「あ……あの人……昼に会った……」

凜(765プロの……スカウトの人、だよね。声かけるべきかな……)

凜(けど、会っても話すことないし、返事も……決まってないから……)

凜(ううん、断ろうとは思ってるけど……断り切れない)

凜「アイドルに興味はありませんか……か」

凜(あの時の言葉がリフレインする……迷う度に思い出して……気になってきてる)

凜(アイドルなんて、意識したこともなかったのに、何が出来るかって考えてる)

凜「ステージの上で、輝ける人……」

凜(綺麗とか可愛いとか、そんな薄い告白の台詞とは違う……自分を信じてみたくなる言葉……)

凜「…………」

凜(初対面で名前を呼ぶような、軽薄な人じゃなさそうだし……)

凜(もう少し、話を聞いてみるのも良いかな……)

凜「あの――!?」
凜(どうして隠れたんだろう……気付いたら逃げてたけど……)

凜(……ああ、女の人と一緒だったからか。うん、いい判断だったかな)

凜「…………ま、そうだよね。あたしはアイドルとしてスカウトされただけだから」

凜(仕事じゃなかったら声かけてないだろうし、そこまでの関わりがあるわけじゃないしね)

凜(よく見えなかったけど、何となく綺麗な人って感じ……あの時の花は、あの人に渡したのかな)

凜(やっぱり、隠れて正解だったかな……彼女に勘違いさせたら悪いし。あっちは大人で私は15……そんなんじゃないけど)

凜「……帰ろ」

凜(今度あったら断ろう……名刺渡されたけど、電話かけるのも悪いよね)
<繁華街・昼>

凜(歌うのは好き。人から褒められるのも、悪い気はしない)

凜(でも、私にはカラオケで歌う方があってると思う。少なくとも、アイドルになるよりは)

凜(カラオケに行くからって、如月千早みたいに歌えるわけじゃなし……)

凜(765プロダクション……ケータイで調べれば、すぐに名前が出てくる)

凜(天海春香、星井美希、竜宮小町に……有名な人ばっかり)

凜(こんな人たちに混じってなんて無理……それに、こういう可愛い衣装は似合わないだろうし)

凜「だからって、格好良いのも……星井美希みたいにスタイル良くないとね」

?「ねえキミ――」

凜「ん……?」
男「ねえキミ、今ヒマ〜?」

凜(……誰?)

凜(…………ああ、ナンパか)

男A「〜〜〜〜〜」

男B「〜〜〜〜〜」

凜(男2人で……カッコ悪。なんか話してるけど、よく聞き取れない。聞くつもりもないけど)

凜「ゴメン、興味ないから」

凜(こんなのにも掴まるし……今日はもう帰った方がいいかな)

凜(あの人の方がよっぽど……それは関係ないか)
男A「ねえねえ――」

男B「もうちょっと――」

凜(まだ何か言ってる……軽薄。そんなのに引っかかるように……見えるのかな?)

凜(ナンパは無視した方が楽と思ったけど、変にプライド刺激しちゃったのかな……大して無いくせに)

男A「〜〜〜〜〜」

男B「〜〜〜〜〜」

凜「……もう帰るんで」

男A「だったら俺が送っていくよ〜?」

凜「……遠慮しておく」

凜(はあ……どっか行ってくれないかな)

凜(何言ってるのか耳に入ってこないけど、うっとうしいのは変わらない……)

凜(あの人なりの熱意があったら、足ぐらい止めてもいいけど――)

?「――ちょっといいですか?」

凜(はぁ、また増えた…………あ)
P「この子、これから用事があるので。離して貰っていいですか?」

凜(あれ、この人……)

男A「あぁ? 誰だおっさん」

P「俺はこの子の保護者ですよ。それとプロデューサーです」

凜「え……?」

凜(いつそんな……保護者でも――ああ、方便か)

凜(へえ、私のこと守ろうとしてくれてるんだ……1人で何とか出来るけど)

男B「邪魔すんなよおっさん」

P「おいおい、おっさんって……君らとそう変わらないぞ?」

P「それより、嫌がってる女の子を2人がかりでなんて、格好悪いぞ?」

凜(同感)

男B「うっせーよ!」

凜「!?」

P「…………」

凜(殴られ……)

P「……気は済んだか? この子は連れて帰るぞ?」

男B「ケッ、好きにしろよ」

男A「行こうぜ」

P「……ふぅ」

凜(はぁ……よかった)
P「いてて……」

凜「……大丈夫?」

P「ま、まあな、平気だ……眼鏡も曲がってないし」

凜「……お節介だね、アンタ。もしかして、助けたらいい返事して貰えると思った?」

P「いやあ……遠目からじゃ渋谷さんって気付かなかったし」

凜「……眼鏡してるのに、目悪いんだ。あってないんじゃないの?」

P「そういう意味じゃなくて……職業柄、渋谷さんみたいな年の子は守らないとって無意識にな」

凜「ふーん……誰でもいいんだ」

P「そういうわけじゃ……庇うのは当たり前だけど、知り合いだったらなおさらだよ」

凜「必要なかったけどね。1人でなんとか出来たし」

P「あはは、かもな」

凜「……そこは守ってやったって、自慢してもいいんじゃないの?」

P「どうだろうな。結局殴られ損だったかもしれないよ」

凜「……ま、いいや」
凜「それより、さっきの……プロデューサーって」

P「あー……咄嗟に出たのがそれだったんだよ。保護者よりはしっくりくるかなって」

P「そうやって言えば、こっちに注意が向くだろ?」

凜「それで殴られて怪我したら意味無いよ」

P「女の子が怪我するよりはいいだろ?」

凜「……ふーん。アイドルにスカウトしたいからじゃないの?」

P「それは関係ない……と思うぞ。動いたのは気付く前だったからな」

P「助けた後に、そういう気持ちがないとは言い切れないけど」

凜「……損な性格だね。隠せばいいのに」

P「いやあ……よく言われるよ」
凜「……殴られたとこ、痛くないの?」

P「少しだけだよ。こういうのは慣れてるからな」

凜「え……」

P「そこで退くなよ。我慢強いって意味だよ」

凜「……痛いのは変わらないでしょ?」

P「今回は気絶しなかったし、無事解決だから気にするなよ」

凜「……前回は?」

P「……無事解決したな」

凜「そっか……ふふっ」

凜「ちょっと待ってて。ハンカチ濡らしてくるから」

P「そんなに気を使わなくてもいいぞ?」

凜「私がそうしたいだけだよ。助けて貰ったお礼もしないとね」
凜「おまたせ。はい、冷やして」

P「ありがとな……ハンカチなら俺も持ってたんだけど」

凜「意外……男子ってそういうの持ってないと思ってた」

P「学生の時ならともかく、今は社会人だからな」

凜「……そっか。大人だもんね」

P「まあな。ところで渋谷さん、ジュースとコーヒー、どっちがいい?」

凜「……いつの間に買ってきたの?」

P「ハンカチ濡らしに行ってるとき」

凜「……それで冷やした方がいいんじゃない?」

P「こっちをありがたく使わせて貰うよ。ハンカチの方が柔らかいから痛くないからな」

凜「……そ」
P「それで、どっちがいい? ハンカチのお礼だから、好きな方選んでくれていいよ」

凜「……ジュース」

P「はい……でも意外だな、コーヒーだと思ったのに」

凜「高校生がそんなの飲まないよ」

P「大人っぽいから、飲むんじゃないかと思って」

凜「まだ15だよ?」

P「へえ……その割りには落ち着いてるな。もう少し上かと思った」

凜「アンタも……なんだか話し慣れてるよね。女子高生と話せる大人ってあんまりいないよ? 変な人以外だと」

P「アイドルには渋谷さんぐらいの年頃が多いからな――ちなみにその言い方だと、俺は変な人扱いされてないんだよな?」

凜「まあね……でもそっか、ギョーカイジンだもんね」

P「一応な。まだまだ新人だけど」

凜「そうなんだ……」
凜「アンタは……あんなとこで何してたの? 周り、ゲーセンとかばっかりなのに……サボり?」

P「違う違う。仕事の打ち合わせだよ。今度あの辺りのアミューズメント施設でイベントがあるから。その営業だ」

凜「イベント……地味だね。765のアイドルが出るの?」

P「ああ、まだ新人の子だけどな」

凜「へえ……新人……」

凜(他の子が見つかったんだ……)
凜「……いいの? こんな所で話してて」

P「今はちょっと休憩だよ。1本飲むぐらいはいいだろ?」

凜「そこはたばこじゃないの?」

P「たばこはなあ……苦手だし、アイドルにも悪いからな」

凜「そっか。気使ってるんだね」

P「俺の子供の頃は吸うのが格好いいって風潮だったけど、今は変わったよな」

凜「……その言い方、なんだかおじさんっぽい」

P「うっ……」

凜「普通にしてれば、人のいいお兄さんって感じだけど」

P「口を開くとってことか……はぁ」

凜「冗談だよ。そこまで気にしないでよ」

P「……でも気が付くとアラサーだからなあ……」

凜「…………」
凜「……ねえ、こうやって私と話してて、勘違いされないの?」

P「勘違いって……サボりと?」

凜「じゃなくてさ……彼女、かどうかは分からないけど……」

P「彼女? いないけど……んん?」

凜「昨日……綺麗な女の人と歩いてたでしょ? 背の高い……隠さなくてもいいよ」

P「隠すも何も……あ。もしかして、毛先が柔らかくウェーブしてる?」

凜「多分ね。夜だったから、よく分からなかったけど」

P「なるほど……楓さんね……」

凜「……いいの?」

P「いいも何も、彼女じゃないよ。あの人はアイドルだよ。ほら、さっき話題に出た新人の」

凜「…………ふーん」
凜「別の子がいるんだったら、私はもう要らないよね?」

P「要らないって……どうしてだ?」

凜「スカウトって、そんな何人もするものなの?」

凜「それとも、たくさん誘って1人売れればいいってこと?」

P「そうじゃないよ。声をかけたのは、アイドルとして輝けると思った人にだけだ」

P「だから渋谷さんで2人目だよ」

凜「その前の人が新人……?」

P「まだデビュー前だけどな」

凜「そっか」
凜「でもさ、その人がいるのに私も誘うの? 忙しいんじゃないの?」

P「それは……少しだけ。ただそれ以上に惹かれるものがあったからさ」

P「俺の苦労なんて、些細な問題だよ」

凜「……どこに惹かれたの?」

P「そうだな……雰囲気とか素質とか、オーラってよく言われるけど」

P「具体的にって言われると、その目かな」

凜「……目つき悪いって言われるよ」

P「そうかな? 冷めてそうに見えるけど、その奥に熱い気持ちがあるような……本気になったらとことん頑張りそうで」

P「そういう意志を感じたんだけど……違うかな」

凜「……胡散臭い」

P「ははは……上手く説明できなくて悪い」

P「でも、嘘じゃないよ」

凜「……そっか」
P「うちには他にもアイドルはいるけどさ、みんなそれぞれ違った魅力があるんだよ」

凜「知ってるよ、有名だから。みんなアイドルって感じだよね」

P「渋谷さんもそのアイドルになれると思うよ」

凜「……凜でいいよ」

凜「名字で、しかもさん付けって……年上の人からそう呼ばれるのは先生だけで間に合ってる」

P「……分かった。それじゃあ――」

P「凜、俺たちと一緒に、トップアイドルを目指さないか?」

凜「……アイドル、似合うと思う?」

P「思うよ」

凜「可愛いのは苦手だよ? ピンクの衣装来て、笑顔でいるなんて無理」

P「それも似合うと思うけど……それだけがアイドルじゃないよ。格好いいアイドルだっているんだから」
P「うちで言えば、そうだな――」

凜「如月千早……さんとか、四条貴音さん?」

P「そうなるな。もちろん、千早や貴音の通りにの真似をするわけじゃない」

P「凜には凜の魅力があるんだから。その部分をみんなにアピールしていけばいい」

P「アイドルは何か……なんて、人それぞれ、アイドルによって違ってるんだから」

凜「……考えたこともなかった」

P「だったら、これから考えていけばいいよ。そうやって考えて、悩みながら成長していくもんだから」

P「なんて、分かったようなこと言ってるけど、俺だってよく分からないんだよな。アイドルが何か……なんて」

P「でもな、いつだって、どんなアイドルにだって、共通してるものはあるんだよ」

凜「…………教えて」

P「応援してくれるファンに夢を与えることだよ」

凜「…………」

凜「……うん、それは分かる気がする」

凜(私がなりたいって思うのも、夢を与えて貰ってるのかな?)
凜「……なんとなくで、アイドルってなれるものなの?」

P「どうだろうな……俺がアイドルにするわけじゃなくて、舞台を整えるだけだからな」

凜「なれないのは私の責任?」

P「俺たちの……かな」

凜「一連託生、だっけ?」

P「凜がアイドルを目指すつもりなら、俺たちは765プロの仲間だからな。諦めない限り、全力でサポートするよ」

P「俺の夢は、みんな揃ってトップアイドルになってる所を見ることだからな」

凜「仲間か……好きだよ、そういうの」

凜「目指すからにはトップじゃないとね……手抜いたりとか、そういうの苦手だし」

凜「本気になってる人って格好いいと思う」
P「凜も格好いいアイドルを目指さないか? 俺たちと一緒に」

凜「……アイドルって、何をすればいいのかな?」

P「何でも。歌って、踊って、テレビに出て。凜がやりたいと思ってることは、出来るだけ叶えようと思ってるよ」

凜「それなら……歌がいいかな。ライブとか格好いいし」

P「それはもちろん。CDだって出せるさ。そのためには他のこともやらないといけないけど」

凜「……そっか。それじゃあ、よろしくね」

P「ああ、よろしく」

凜「……こういうときは、握手かな」

P「そうだな。頑張ろうな、凜」

凜「……うん、期待に応えてみせるよ」

凜(ここまで私を信じてくれるこの人に……)
<後日・765プロ>

凜「これで私も765プロのアイドル?」

P「もう少し手続きがいるけどな。あとは親御さんと社長の話がもう少し」

P「俺もまた話をするけど……ここで待ってるか?」

凜「……他に行く場所ってあるの?」

P「後でレッスンスタジオに行くつもりだよ。外に出てないアイドルはそっちにいるからな」

P「正式な挨拶は明日になるけど……どうする?」

凜「案内って……アンタがしてくれるの?」

P「俺はちょっと……それと、アンタはそろそろ変えて欲しいかな」

凜「……なんて呼べばいいの?」

P「そうだなあ……みんなはプロデューサーって呼んでくれるかな」

凜「……プロデューサだったの?」

P「おいおい、会ったときに言わなかったか?」

凜「スカウトだと思った」

P「兼任なんだよ……ちゃんと名刺にも書いてあったと思うんだけど」

凜「しっかり見てなかった……。有名だし、もっと大きい事務所だと思ったよ」

P「それは……まあ、スタッフの人数が……」

凜「ふーん、アンタが私のプロデューサーなんだ……」
P「不満だったら別のプロデューサーに代わるぞ?」

凜「ううん、代わらなくていい。私をスカウトしたのはプロデューサーなんだから」

凜「ちゃんと最後まで……私がトップになるまで面倒見てよね」

P「おう、任せろ」

P「あ……でも案内は別の人に――」

楓「プロデューサー……あら?」ガチャ

凜「あれ……」

凜(この人……前にストラップ配ってた人? 目が綺麗で印象に残ってたけど……)

凜(……私以外の新人アイドル)

楓「お疲れ様です……この方が、昨日話していた?」

P「ええ、渋谷凜です」

凜「……どうも」

楓「高垣楓です。これからよろしくお願いします」ペコリ

凜「あ……よ、よろしくお願いします」ペコ
P「楓さん、レッスンを見学してたんじゃ?」

楓「だったんですけど……プロデューサーは今忙しいですか?」

P「そうですね。社長と凜の親御さんが話しているので、それを待って……」

P「その後凜を案内しようと思ってるんですけど」

楓「……案内、私がしましょうか?」

楓「私も最近覚えましたし、プロデューサーが忙しいのなら、このままレッスンスタジオに戻りますから」

P「俺は嬉しいですけど……凜はどうだ?」

凜「……いいよ。お願いします」

楓「それではこちらへ……」

P(2人とも会話が弾む性格じゃないけど、気は合いそうかな)
<スタジオ前>

凜「あの、楓さん……でいいですか?」

楓「はい……私は凜さんとお呼びしても?」

凜「……さんはなくていいよ――いいですよ」

楓「それなら私も……同期ですから。話しやすいように」

凜「……よろしく、楓さん」

楓「はい、よろしく……」

楓(同期が入ってどっきどうき)

凜(綺麗な人だな……何考えてるんだろう)
凜「楓さん、ここは?」

楓「ダンススタジオですね。中で竜宮小町のみんながレッスン中です」

凜「竜宮……」

楓「他のみんなは外で仕事中なので……行きましょうか」

凜「……うん」

凜(竜宮小町……水瀬伊織、三浦あずさ、双海亜美)

凜(さんとか付けた方が……変かな? 芸能人って、テレビに出てないところだと性格変わるとか聞くけど……」

楓「……行きましょうか」ガチャ
律子「楓さん。プロデューサーは――あら、その子が渋谷凜さん?」

凜「ど……どうも。挨拶はまた改めてします。今日は……」

律子「聞いてるわよ。私は竜宮小町のプロデューサーをしてる秋月律子よ。律子って呼んでくれていいから」

律子「他のアイドルの事も見てるから、一緒に仕事をすることもあると思うわ」

律子「年齢でで先輩後輩っていうのはあんまり気にしないでいいわ。これからよろしくね、凜」

凜「よろしく……律子」

律子「ええ。それで楓さん、プロデューサーは?」

楓「もう少しかかるみたいです。なので私が案内することになりました」

律子「そう、お願いしますね。案内が終わったらまたここで――」
伊織「なに、アンタがプロデューサーの言ってた新人?」

亜美「やったねいおりん。これで亜美たちも先輩だよ」

律子「それを言ったら楓さんも後輩だけどね。年は15だから、亜美よりは年上よ」

あずさ「うふふ、可愛い子ですね〜。私も先輩らしくしないと」

凜「あ……よろしくお願いします」

伊織「ええ、よろしく。私は水瀬伊織よ。凜って呼ばせて貰うわ」

亜美「亜美だよ→! よろしくね、しぶりん」

あずさ「三浦あずさです。これから一緒に頑張りましょうね、凜ちゃん」

凜「しぶり……よろしく」

凜(伊織に、亜美に、あずさ……さん。それに律子か)

律子(これは……そうね)キラン

律子「ねえ凜、よかったらレッスン見ていかない? 時間があったらだけど」

律子「普段レッスンなんて見る機会無いでしょうし、今後の参考になると思うわよ?」

凜「邪魔じゃないなら……楓さんもいい?」

楓「ええ、私もさっきまで見学してたから、続きを見たいです」

律子「OK、それじゃあ適当なところに座ってて」

律子「伊織、亜美、あずささん。後輩にいいところ見せるわよ」

伊織「ふん、言われなくても分かってるわよ。この伊織ちゃんの完璧なダンスを見習うといいわ」

亜美「んっふっふ、いおりんって見てる人いると、急に元気になるよね→」

あずさ「その内プロデューサーも覗きに来るかも知れないわよね〜」

伊織「アイツは関係ないでしょ! いつだって全力でやるのよ!」

律子「そうよ。2人がいてもいなくても、本番のつもりでやりなさい」

律子(いい空気ね……今日は最後までこの調子で行きましょう)
楓(凄い……休憩に入る前はあんなに疲れてたのに、曲が始まったらあんなに……)

凜(七彩ボタン……本物だ……当たり前だけど)

凜(初めて生で見たけど……すごい……笑顔で、あんなに綺麗に踊るなんて)

凜(これがアイドルなんだ……私が目指す、トップアイドル)

律子「ほら亜美、足が遅れてるわよ。もっとテンポよく」

律子「あずささんも。もう少し膝あげて」

律子「伊織は指先ね。人差し指が離れてたわよ。ほらもう1回」

凜(あれで駄目なんて……みんなも満足してなさそう……)

凜(伊織も真美も、テレビで見せるのとは違う……)

凜(あずささんだって、おっとりした人かと思ったけど、あんなに真剣に……)

凜「…………」
<屋上>

楓「3人とも凄かったですね。あんな風に身体を動かせるものなんて……楽しそう」

凜「……自分に出来るのか、不安になるよね。ダンスなんて、中学の時に授業でやっただけだし……」

楓「……今って、授業でやるんですね」

凜「え……うん、まあ……」

楓「私は最近レッスンを始めたんですけど、難しいですね……」

凜「……でも、こなさないと、ステージには立てないよね。みんな、こうやって舞台裏で努力してるんだし」

楓「そうしないと、夢も叶いませんよね……苦手でも諦めずに……」

楓「みんなを見ていると、自分に出来るのか不安になりますけど……自分もと、そんな風にも思うんです」

凜「夢……」

凜「楓さんは……どうしてアイドルになろうと思ったの?」

楓「私は……自分の気持ちを、表現するのが苦手なので。そういう部分を変えたくて……」

楓「それと、感謝の気持ちを……歌に乗せて届けたいと思ったんです」

凜「歌で……それも楽しそう」

楓「凜はどうして?」

凜「私は……格好いいアイドルになりたくて、かな?」

凜「それと、やりたいことを見つけるため」

凜「将来の夢とか、まだ全然で……やってみたいことはあるけど、働いてる自分とかイメージ出来なかったから」
楓「凜の年ぐらいだと、それが普通だと思います」

凜「でも、それじゃつまんないから……本気になれることがしたかった」

楓「……アイドルは、本気になれる?」

凜「多分……中途半端は嫌だから。本気でトップを目指すよ」

楓「私もです。トップアイドルに……」

楓「これからよろしくお願いしますね。お互い、夢を叶えられるように」

凜「うん……みんなに負けないように頑張らないとね。他の事務所も、765の先輩たちにも」

楓「負けないように……テレビに出て、CD出して?」

凜「その先も……プロデューサーが言ってたよ? 夢はみんなまとめてって」

楓「私も聞きました……それじゃあ、お互いの夢を叶えたら、その先のは……」

楓・凜「「目指せ、トップアイドル」」

凜「ふふっ、協力して頑張ろうね、楓」

楓「夢が叶うまで……叶ってた後も。よろしく、凜」



END
モバマスキャラを複数だと勘違いしてました。
投下途中で気付きましたが……(汗



20:57│高垣楓 | 渋谷凛
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