2013年11月07日

莉嘉「城ヶ崎莉嘉、思春期始めました!」

美嘉「莉嘉、このジャケット着るならあげるよ★」

美嘉「そのパンツならこっちのニーソに合わせた方が似合うよ」

美嘉「そのペディキュアよりこっちの方が、莉嘉には合ってるよ★」


美嘉「違うって、ウインクピースの表情はこうだって★ こう」

お姉ちゃんは、アタシの自慢のお姉ちゃんだ。
いつもオシャレでカッコいい。
顔も美人だけど……まあ、これはアタシだって似てるしそんなには……うん、負けてない。

でもいつだってお姉ちゃんは、キレイだ。
これはちょっとかなわない。

友達もお姉ちゃんを見ると、「莉嘉のお姉さんステキだねー」「げーのー人みたい」「わたしもあこがれちゃうなー」って言ってくれる。
アタシにちょっかい出してくるクラスの××も、アタシがお姉ちゃんといると真っ赤になってモジモジしだす。

うん、そう。お姉ちゃんはアタシの自慢だ。

テレビに出てくる芸能人なんて、正直大したことない。
お姉ちゃんの方が、ずっとずーっとキレイだ。
それにカッコいい。

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美嘉「へへへー★ 莉嘉、このパンプスいけてるっしょー?」

美嘉「みてみて! セクシー美嘉の、のーさつポーズ★ どうよどうよ?」

美嘉「今日もさ、たーくさん男の人に声かけられちゃったよ。ま、みーんなパスしたけどね★」

すごいなー。いいなー。
アタシもお姉ちゃんみたいになりたーい☆
てゆーかなるんだー!

ともかくアタシのお姉ちゃんはすごいんだ!
世界いちカッコいいし
宇宙いち美人
あとそれから……ともかく、とにかくいちばんイケてる

アタシはお姉ちゃんが大好きなんだ。

だからコーデもメイクも、お姉ちゃんをさんこーにしてる。
マネっこじゃないよ。
でもお姉ちゃんをインスパイス……? してれば大体おっけー。

休みの日、その日もアタシはリア友達と街へ繰り出した。
チャラ男「キミ、かわうぃーねえ! おにーサンと遊ばない」

パス

ギャル男「ちょっとどーお? 楽しーコトしなぁい?」

パスパス

道を歩いてると、すぐ声をかけられる。
お姉ちゃんもそうだ。
でも絶対ムシ!
どう見ても、ヤーな顔つきの人ばっかだもん。
お姉ちゃんもそう言ってた。

P「ちょっと君、いいかな?」

パ……?
P「少しだけ、話を聞いてくれないかな? 俺はこういうものなんだけど、決して怪しい者じゃない」

アタシは名刺を受け取った。
こんなことは初めてだ。
芸能スカウトとか名乗る人って、大抵がウソっぽいのに、この人はなんか違った。

アタシは名刺を見た。
うわーアタシたちが遊びで作る名刺じゃないよ、本物の名刺だ。

アタシの後ろでリア友たちが、ヒソヒソとだけど騒いでる。

莉嘉「芸能プロダクション?」

P「そう。貴女をスカウトしたい。歌ったり踊ったり、そういう芸能界に興味は無いかな?」

莉嘉「アタシが芸能人? えと……」

この人、本物の芸能スカウトの人だ。
アタシはちょっとだけドキドキしてきた。
今までの人とはなんか違う。
本物の雰囲気が、この人にはあった。
P「貴女にその気があるなら、すぐにでもご両親に会ってお話がしたい。そこで詳しい話もする」

莉嘉「あ、うん……」

P「だが先ずは、貴女だ。貴女がやりたくないなら仕方ない。でもやりたいなら……アイドルをやってみたいなら……」

アイドル?
アタシが?

P「俺にプロデュースをさせて欲しい。貴女には、才能がある!」

莉嘉「うーん、アタシがアイドルになれるかな?」

P「俺の目に狂いはない。貴女の顔、スタイル、そして雰囲気、どれも才能に溢れてる」

莉嘉「あははははは」

アタシは笑った。
自信満々に言う割には、この人そんなに見る目ないな。
P「何か変なこと、言ったかな? 俺は真剣だよ」

莉嘉「アタシを見てそんなコト言ってたら、お姉ちゃんを見たらきっとPくんビックリしちゃうよ?」

P「Pくん?」

莉嘉「ここに書いてあるから、いいよね。Pくんで」

P「あ、まあそりゃ呼び方はどうでもいいけど、貴女のお姉さんって、そんなにすごいの?」

莉嘉「アタシよりすごいよ。アタシ、お姉ちゃんよりキレイな人はいないと思うなー」

P「……会ってみたいな」

莉嘉「いいよー! へへへ、びっくりしても知らないからねー」

アタシはケータイで、お姉ちゃんを呼び出した。
休日のこの時間だから、たぶんそんなに遠くにはいないだろうと思っていたけど、やっぱりだった。

リア友たちとはお別れして、アタシとPくんはカフェに入った。
な、なんか、大人のふいんきー……
お姉ちゃん、はやくきてよー……
美嘉「莉嘉ー! っと、誰?」

莉嘉「芸能スカウトの人。あのね、お姉ちゃんに会いたいんだって」

振り返ってPくんを見ると、Pくんは驚いた顔をして固まっていた。
あれ?

P「き」

莉嘉「き?」

美嘉「?」

P「君! 名前は!? 芸能人に……アイドルになる気は?」

美嘉「は? え?」

P「君はアイドルになるんだ! ならなくちゃ駄目だ!! 君のような女の子がアイドルにならなくてどうする!? 才能ある娘が普通の生活なんかしてちゃだめだ。君はアイドルになるべく生まれた人間なんだ!!!」

美嘉「あ、ちょ!」

Pくんは、お姉ちゃんの手を握ると一気にまくしたてた。

うんうん。そーだよ!
こうでないと。
お姉ちゃんを見、てこれぐらいの反応はしなきゃウソだよねー☆
そのあともPくんは、1時間ぐらいずっとお姉ちゃんに話しかけていた。
手を握ったまま。
お姉ちゃんはまわりの目が気になるのか、赤くなってキョロキョロしてたけどPくんの手をふりほどいたりはしなかった。
変なの。

いつもならそんな男の人がいたら……

美嘉「あははー★ ごめんねー!」

とか言って、かるーくあしらっちゃうのに。

まあでもちょっとわかる。
Pくんは真剣だったし、なんといっても本物のスカウトさんだ。
その雰囲気は、お姉ちゃんにも伝わったみたいだ。

「君は綺麗だ」そう繰り返すPくん。
お姉ちゃんは黙って聞いていたけど、最後に一言だけ言った。

美嘉「やってみても……いいかな」

Pくんは、握ったままのお姉ちゃんのてをブンブンと上下に振った。

お姉ちゃんが、げーのー人かー。
アタシは嬉しくなった。
やっぱりお姉ちゃんはすごい!
すごいんだ!!
アタシもお姉ちゃんみたいに、カッコよくてカワイくなりたい!!!
P「あ、も、もちろん貴女……ええと、名前は?」

Pくんはアタシを見て言った。
そういえばまだ、名前を言ってなかった。

莉嘉「アタシ、城ヶ崎莉嘉。お姉ちゃんは美嘉だよ」

P「美嘉に莉嘉、か。莉嘉さんも、アイドルやらないかい?」

莉嘉「アタシも?」

P「もともとそのつもりで声をかけたんだ。どうかな?」

莉嘉「……うん。アタシもやりたい!」

美嘉「ちょ、莉嘉!? あのさ、莉嘉はまで中学生でさあ」

P「事務所には中学生はおろか、小学生の所属アイドルもいる」

莉嘉「じゃあアタシその中で、ナンバーワンになるよ!」

P「学業も社会良識も、ちゃんとやらせるし教える。もちろん美嘉、君にもだ」
うえー。
Pくん急に、せんせーみたいなこと言いだしちゃったよお。
でも、お姉ちゃんは笑い出した。

美嘉「あははははっ★ でも、パパやママがなんて言うかはわかんないよ?」

P「なに、同じように説明するさ。じゃあよろしくな、美嘉さ……いや、美嘉」

美嘉「さっき莉嘉も言ってたけど……アイドルだろうと何だろうと、どうせやるならオンリーワンよりナンバーワンになりたい!」

P「その意気だ。一緒にがんばろうな」

美嘉「うん★ 一緒にトップアイドル、目指そうね!」

えー! ちょっとちょっと、アタシもいるんだよー!!

P「ああ。莉嘉も、な」

莉嘉「え? あ、う、うんっ!!!」
Pくんとわかれて、アタシ達はいっしょに帰った。

一緒に電車に乗ってても、お姉ちゃんはずっと黙ってた。
別に機嫌が悪そうじゃない。
むしろ、ちょっと嬉しそうだ。

莉嘉「お姉ちゃんでも、スカウトされると嬉しーんだ?」

美嘉「え? あ、そうじゃないけどね」

お姉ちゃんは、すこし赤くなった。
こんなお姉ちゃんは、アタシ見たことない。

美嘉「面と向かって手とか握られながら綺麗だとか言われたのって、初めてかもしんない……」

莉嘉「えー!? お姉ちゃん、いっつもモテモテじゃない」

美嘉「あー……」

お姉ちゃんは肩を落とした。



地元でもお姉ちゃんは、ゆーめい人だ。
何人もの男の人が告ったけど、みんなフラれた。
お姉ちゃんに釣り合う人なんて、そうそういるはずがない。
だからお姉ちゃんは、誰ともつき合っていないと思ってたのに。
美嘉「なんかさー。アタシなんかが相手するはずないって、決めてかかられてんだよねー★」

莉嘉「でもさ、何回か告白はされたって言ってたよ? 前にお姉ちゃん」

美嘉「告られたって言ってもね……メールとかケータイだったり。あと、友達同伴ってのもあったなー。はあ」

莉嘉「好きって言われるだけじゃ、告白じゃないの?」

美嘉「アタシは嬉しくないな。なんかさ、アタシに告るのって宝くじ買うみたいな感覚らしいよ」

莉嘉「おっけーもらえたらラッキーみたいな?」

アタシもちょっとムッとした。
そんなのは嬉しくないよね。

美嘉「目、見てはっきり言ってもらったのは初めてかもね★」

莉嘉「ふーん」
次の日、Pくんはウチにやってきてパパとママに挨拶をした。
そしてアタシとお姉ちゃんが、アイドルになる事を認めて欲しいと頼んでくれた。
ママは笑って「好きにしたらいいわ」と言ってくれたけど、パパはにがーい顔してた。

美嘉「ねー★ いいっしょ、パパー★」

けどお姉ちゃんがパパにハグしてほっぺにChu☆したら、パパはシブシブと頷いた。
よーし。
アタシもおんなじように、パパにChu☆してあげた。
男の人って、たーんじゅん☆

Pくんは、丁寧にパパとママに説明をして書類を作ってた。
暇になったアタシとお姉ちゃんは、お喋りして時間をつぶしてた。

美嘉「アイドル、かー。セクシー系でトップアイドルになりたいなー★」

莉嘉「アタシもー!」

美嘉「え? 莉嘉はカワイイ系でいきなよ」

莉嘉「お姉ちゃんみたいに、セクシーでカッコよくなるんだー。ね、えへへ」

美嘉「そっか。じゃあ、がんばろーね★」
それから数日、ずっとお姉ちゃんは機嫌が良かった。
大事にしていたピンクゴールドのブレスも、お願いしたら貸してくれた。
ラッキー☆

でもそれも、Pくんに連れられて2人で初めて事務所に行くまでのことだった。
P「とりあえず今日は、顔出しして自己紹介な。まだ色々と教えなきゃいけないけど、とりあえず挨拶はいつでも『おはようございます』だ」

莉嘉「知ってる知ってる☆ ぎょーかい用語だよね。あはは、莉嘉げーのー人みたい」

美嘉「みたいじゃなくて、芸能人だよ。ね、プロデューサー」

P「そうだぞ。デビューは未だだが、2人とももうウチの所属アイドルだからな」

莉嘉「うわーい☆ アタシげーの人☆ げーのー人☆」

美嘉「はしゃがないの★ でもそうか、アタシも芸能人か」

P「それからこの業界は年齢に関わらず先に芸能界入りした方が先輩なんだが、ウチは新規立ち上げした事務所だし、変に序列を作らない方針だから一応全員同列とはなっている」

莉嘉「なんのこと?」

美嘉「みんな平等、ってコトかな」

P「ああ。だがそれでもやっぱり先に所属した娘は、先輩だと思って接してくれな。とりあえず打ち解けるまで」

莉嘉「ようするに、お友達になったらふつーでイイってことでしょ? はーい☆」

美嘉「全員アイドルになるんだよね。どんな娘なのかな?」

P「全員、俺がスカウトした。みんな綺麗だが、色々と個性的でな」

お姉ちゃんが、ちょっとムッとしたのがわかった。
そーだよね、お姉ちゃんが一番キレイなんだよね。
Pくん、わかってないな。
P「というわけで、新たに所属することになった城ヶ崎美嘉と城ヶ崎莉嘉だ。みんな、色々と教えてやってくれ」

美嘉「城ヶ崎美嘉です★ よろしく!」

莉嘉「おはー☆ 莉嘉でーっす」

あれ?
反応うすい?
みんな小声で「よろしく」って言うだけ?

確かにみんなアイドルになるってだけあって、可愛い娘ばっかりだ。
学年で1,2番の娘ばっかり集まったカンジ。
まあでも、お姉ちゃんほどじゃないかな。

莉嘉「よろしくねー」

杏「あー? あ、うん」

おない年ぐらいの娘に声をかけてみた。
なんか眠そう。

莉嘉「杏ちゃんだったよね。杏ちゃんは何年生?」

杏「がっこー? 行ってない」

莉嘉「え?」

杏「あんなトコ行くもんじゃないよ。がっこーなんて、義務教育でたくさん」

莉嘉「え?」
渋谷凛「たぶん勘違いしてる。杏は17歳」

17歳……ちょっとオドロキ。
5つも上なの!?
お姉ちゃんとタメなの?

菜々「ナナもね、17なんだよ! キャハっ☆」

この人はいくつなんだろうと、自己紹介の時から気になってた人だ。
17かあ、なんだかおない年みたいな、ずっと上のような気がしていた。

美嘉「あ、アタシも17だよ★ JK3〜」

卯月「17歳なら、私や智香ちゃんと同じだね」

智香「よろしくねっ☆」

なんだか可愛いけど普通っぽい娘と、髪が長いポニテの娘がお姉ちゃんに挨拶した。

美嘉「よろしくー★ あ! お願いします」

卯月「あ、いいよいいよ。私たちもデビューはまだだし、同じ歳なんだから」

美嘉「そう?」

智香「うんっ! 美嘉ちゃんはダンスの経験は?」

美嘉「うーん。好きなアーティストのV観て、カラオケでフリまねるぐらいかな」

智香「良かったら一緒にやらない? ダンスレッスンっ☆」

P「ダメだぞ、智香」
智香「えっ? あ、はいっ……すみません」

美嘉「? なに?」

卯月「気にしなくていいよ。智香ちゃんのダンスについてくのは、レッスン受けてる私とかでも大変だから。それでプロデューサーさんは、止めたんだと思うよ」

美嘉「……アタシ、やってみたいなダンスレッスン」

P「美嘉。さっきも言ったが、今日は挨拶で……」

美嘉「いずれやるんでしょ? なら、興味あるから★」

P「……少しだけだぞ。卯月、ちょっと」

Pくんは、卯月ちゃんを呼んで少し離れた所へ行った。
お姉ちゃんには聞こえなかったみたいだけど、アタシには2人の話が聞こえた。

P「適当な所で止めてくれ。無理をさせないでくれ」

卯月「がんばりますけど……私に止められるかな」

えー、なにそれ。
お姉ちゃんたちは着替えると、レッスンスタジオに向かった。
ちゃんとアタシとお姉ちゃんのジャージは用意してあった。
アタシはイエローで、お姉ちゃんはピンク。うわーい★

智香「好きなアーティストのプロモって言ってたよねっ? 誰が好きなのかな」

美嘉「ん〜今は、Andreea-Banicaとかー?」

智香「あ! セクシー系で素敵だよね。Love in Brasil、アタシもマネしたよっ☆」

美嘉「アタシも、目指すトコはああいうのかな」

智香「えっと……こう、だっけ?」

タン タン タンッ!

え……?
ちょ、ちょっと……すごい?

美嘉「……すごいね」

智香「アタシ……ダンスだけは、自信があるんだっ☆ チアで鍛えてるし」

美嘉「チア?」

智香「チアリーディング。美嘉ちゃんは、なにかやってるの?」

美嘉「……別になにも。でも、これからやってくつもり」

タン タン タンッ!

え? あれ? お姉ちゃんもできるの?
す、すごいすごい!

智香「……すごいねっ」
それからお姉ちゃんとポニテの娘は、しばらく同じダンスで踊ってた。
ポニテの娘のダンスがすごいのはアタシにもわかったけど、お姉ちゃんもちゃんと踊れてる。

智香「ポップコーンとかできるっ? ここでターンして……」

卯月「あ、あの智香ちゃん、そろそろ……」

美嘉「ポップコーンってEXILEがよくやるんだよね、あれってこれでいいのかな?」

卯月「美嘉ちゃん、今日はもう……」

智香「あれね、プロモだけじゃわかりにくいけどバックでこうして……」

美嘉「あ〜なるほど★ それでうまくマネできなかったんだね〜」

卯月「あの……」

P「卯月、いい」

卯月「え?」

P「気の済むまでやらせていい」
卯月「いいんです……か?」

P「ああ、いいものが見られた。美嘉……それから智香もか、これから俺が徹底的に鍛えてやる」

Pくんは嬉しそうに笑ってた。
鍛えるって、どーゆうこと?
お姉ちゃんはレッスンなんかいらないと思うんだけどな。
あんなにすごいじゃーん☆

P「卯月、悪いが莉嘉を他の娘の所に連れて行ってやってくれ。俺はここで2人を見てる」

卯月「わかりました。行こ、莉嘉ちゃん」

莉嘉「はーい☆」
事務所に戻ると、みんながだべりんぐの最中だった。
アタシも加えてもらって、お菓子を食べた。
うま☆

凛「中学生も多いから、莉嘉も張り合いがでると思う」

莉嘉「あ、そういえばねー。戻ってくる途中で、なんかオドオドした娘にすれ違ったんだけど」

凛「オドオド? もしかして……」

三村かな子「乃々ちゃんだよ! 莉嘉ちゃん、もう乃々ちゃんに会えたんだね」

卯月「新記録かも知れないね」

莉嘉「なんのこと?」

凛「アイドル活動に消極的ですぐに逃げようとする上、仕事が終わるとすぐさま帰る乃々に会うのは至難の業」

市原仁奈「まぼろしのアイドル、ともよばれてるんでごぜーますよ」

卯月「会うためには、コツとカンとテクニックが必要だもんね」

なんだそりゃ?
一番くじのシークレットキャラみたいなもん?
お話ししてるうち、みんなとかなり打ち解けた。
確かにみんな、けっこう美人でかわいー!。
ま、アイドルになろうってんだから当たり前かもね。

一時間ぐらいして、お姉ちゃんたちは戻ってきた。
かなりぐったりしてる。

智香「すごいね美嘉ちゃん、アタシびっくりだよっ☆」

美嘉「いや〜アタシもレッスンの厳しさを思い知っちゃったよ。でも、負けないよ★」

智香「うんっ! これからよろしくねっ☆」
帰りの電車で、お姉ちゃんは言った。

美嘉「アタシ、ちょっと自信なくしたなー★」

莉嘉「えー!? なんで?」

美嘉「今日会った娘、みんな可愛かったでしょ」

莉嘉「ま、ねー。でも、お姉ちゃんの方がキレイだよ」

一瞬の間。

美嘉「アハハ。莉嘉にはげまされたかー★」

莉嘉「えー? アタシほんとにそう思うよ」

美嘉「そう? なんか嬉しい★」
莉嘉「ほんとのほんとなのにー!」

美嘉「うん、ありがと。でもね……」

莉嘉「?」

美嘉「やっぱ甘くないわ。トップになるの、大変そう」

お姉ちゃんらしくない、自信なさそうな言葉。
でも……

莉嘉「お姉ちゃん、なんかさっきより嬉しそうだよ?」

美嘉「……うん、なんか楽しくなってきた。トップアイドルになるの、最高にクールな気がしてきた★」
それからすぐ、アタシは事務所からデビューする何人かに選ばれた!
CDデビューだよ! CDデビュー!!
でも、お姉ちゃんは……選ばれなかった。

美嘉「おめでとう、莉嘉。がんばってよ★」

莉嘉「うん! お姉ちゃんも早くデビューしてね」

美嘉「ま、アタシはまだレッスンだから」

莉嘉「お姉ちゃんは、そんなのいらないのに」

美嘉「そんなことない。それより……うかうかしてると、アタシが後から追っかけて追い抜いちゃうよ?」

こうしてアタシはデビューした。
CDは売れたし、一気に人気者になれた。
アタシはCDを発売して、ちょっといい気になった。
学校とかでも、明らかにみんなの見る目が変わった。

「あ、城ヶ崎莉嘉だ」「昨日テレビにもでてたよね」「やっぱカワイイよね」

気がつかないふりしてたけど、ちゃーんとアタシには聞こえてくる。
周りの子が、みんなアタシを見てアタシのこと話してるのはちょー気分がいい。

クラスの友達も、キャアキャア言ってくれる。

「莉嘉っちの友達だって言ったら、兄貴にすごいうらやましがられた」「アタシもメル友とかに自慢しちゃった」「こんどまたプリクラとってよ。一緒に」

みんなに喜ばれて、アタシも嬉しくなった。
なーんか、アタシがお姉ちゃんになったカンジ?
アタシのおかげでみんながハッピーなら、アタシもハッピー☆

莉嘉「Pくん、アタシもっともっとテレビにでたい☆」

P「もっとレッスンするか? それなら考えてもいいが」

莉嘉「えー……レッスンはいいよー」

P「ふう。美嘉は一生懸命なのになあ」
そう、これがアタシには意外だった。
お姉ちゃんは美人、そしてキレイ。
そんなお姉ちゃんが、毎日汗まみれでレッスンをしている。

美嘉「ステップこう?」

卯月「うん。でもそこで右手はお腹に」

美嘉「ここで振り返った方が良くない?」

智香「いいねっ! キマってるよっ☆」

P「莉嘉もどうだ?」

莉嘉「おっことわりー☆」

初日に張り合ってから、なんだかお姉ちゃんは智香ちゃんと仲良くなったみたいだ。
あの、なんだか普通な感じの卯月ちゃんも。
けど、お姉ちゃんに体育会系のノリは合わないのになー。
だいたいねー、Pくんもどうかしてるよ。
お姉ちゃんに、あんなレッスンさせてるなんて。

Pくん、お姉ちゃんのすごさがわかんないの?
アタシ早く、みんなにお姉ちゃんを見てもらって自慢したいよー☆
これがアタシのお姉ちゃんだよ、すごいでしょ!? って☆

智香「美嘉ちゃん、すごい上達したねっ☆」

美嘉「智香に言われると嬉しいなー★ 最近ね、ちょっと……楽しいんだ」

卯月「わかるよ。なんだか自分が上達してるのが実感できると、嬉しいよね」

莉嘉「……ねー。そろそろ帰ろうよー」

美嘉「あーごめん、莉嘉。先に帰っててよ」

莉嘉「えー……」

美嘉「もうちょっと、さらっときたいんだー★」

莉嘉「……わかった」
その日、お姉ちゃんはかなり遅くなってから帰ってきた。
それはいいんだけど、問題はその帰宅方法。

お姉ちゃんは、Pくんに車で送られて帰ってきた。

P「遅くなって申し訳ありません。電話でお伝えしたように、夕食も摂らせました」

Pくんはママに挨拶して帰った。

美嘉「〜♪ 夜景が綺麗な、MidnightGirl〜♪」

莉嘉「お姉ちゃん」

美嘉「んー? なに、莉嘉」

莉嘉「なんでPくんに送ってもらったの?」

美嘉「えー……がんばってるなあって言われて……みんなで夕食ゴチになってー……」

莉嘉「ぶー。アタシも行きたかった!」

美嘉「? なんで?」

あれ? なんでだろ?
なんでアタシも行きたいんだろ?
美嘉「ファミレスだよ? ファミレス。プロデューサー、薄給なんだって。ふふっ★ あ、でも莉嘉たちのデビューでちょっとマシになったって、感謝してたよ」

莉嘉「……なに食べたの?」

美嘉「え? 莉嘉?」

莉嘉「お姉ちゃんは、なに食べたの?」

美嘉「パスタセットだけど……キノコのやつ」

莉嘉「ふーん」

美嘉「莉嘉、もしかしておこなの?」

莉嘉「……」

美嘉「あー。仲間はずれにされたってキブン? もー、ゴメンゴメン★」

莉嘉「そんなんじゃないよ」

美嘉「もう……そうだ! お詫びにホラ、あのブレスまた貸したげるから」

莉嘉「え……ホント?」

美嘉「うん。ほら★」
ピンクゴールドのブレスは、お姉ちゃんのお気に入りのアクセサリーだ。
めったに使わない、とっておきの一品? とかお姉ちゃんも言っていた。
お古とか、そうでなくてもアタシがうらやましそうにしている物はよく貸してくれるお姉ちゃんだけど、このブレスはよっぽどじゃないと貸してくれない。

莉嘉「へへへ……どうかな?」

美嘉「莉嘉はピンゴじゃなくてゴールドが似合うと思うけどね」

莉嘉「でもこれつけると、お姉ちゃんみたいでしょ? ね、アタシにも似合う?」

美嘉「……なに? そんなこと考えてたの?」

莉嘉「アタシもお姉ちゃんみたいになりたーい☆」

ブレスをつけて、アタシはクルクルと踊った。
これつけて、今度はステージにあがりたいな。
美嘉「莉嘉。そのブレス、あげるよ」

莉嘉「へ?」

美嘉「莉嘉にあげる。似合うから」

莉嘉「でもこれ……お姉ちゃんの……」

美嘉「アタシは当分、そんなのつけらんないから」

莉嘉「どうして?」

美嘉「しばらくはレッスンの日々だって、プロデューサーに言われたー★」

えー!? なにそれ!!
Pくんは、まだお姉ちゃんをデビューさせないの!?

美嘉「だからそれつけてさ、テレビに出演なよ」

莉嘉「でも……」
お姉ちゃんのデビューがまだ先と知ってちょっとムカっときたアタシだけど、ブレスを目にしたらまたちょっと気が変わった。
これ、アタシがもらってもいいの?
これつけて、お姉ちゃんみたいになれる?

美嘉「莉嘉がつけてくれるなら、アタシも嬉しいから。だから、あげるよ★」

莉嘉「……うん。ありがとう、お姉ちゃん☆」

美嘉「ふふっ。ようやく笑ったね」

その夜、アタシはピンクゴールドのブレスを握ったまま眠った。
やっぱりお姉ちゃんはカッコいいし、それに優しい。
アタシが欲しいものをちゃんとわかって、わけてくれる。
やっぱりアタシのお姉ちゃんは、最高だ☆
一旦ここで、止まります。
変化はすぐにおこった。
アタシのまわりは、変わっちゃった。

「城ヶ崎美嘉、ちょーカッコいー!」「マジヤバくない?」「てゆーかセクシー系? りすぺくたん」

……まあこれはいいよ。
アタシもそれは嬉しい。
けどさー。

「あ、あれアイドルの娘じゃない?」「そうそう! 見たことあるー!」「あれでしょ? 城ヶ崎美嘉の妹のー……」

アタシは、お姉ちゃんの妹じゃなーい!
いや、妹だけど……
でもそうじゃなくて、えっと……
鶴「要するにアイディンティティーの問題よね」

……千鶴ちゃんは、頭がいい。
よく宿題とかも教えてくれるし、字もきれいだ。
けど、時々よくわからない言葉を口にする。

千鶴「自分が何者なのか……自分という存在は、何をもって立証されるのか。莉嘉ちゃんは、自己の確立が姉という存在の付随であることには不満なのよね」

莉嘉「?」

杏「書道だけかと思ったら、デカルトにも詳しいのか。千鶴は」

杏ちゃんが、ソファーの上から声を出す。
振り返ると、目は閉じたままだ。

莉嘉「でかると? でっかいヨーグルト?」

杏「デカルト。まあ……そういう哲学者……哲学する人の名前」

鉄学ってなんだろ?
工場的ななにか、かな?
里奈ちゃんが、前にバイトしてたトコにかんけーある?

千鶴「いえ、文香さんからこのあいだ聞いて、その受け売りです」

杏「あー、話が合いそうだよね。2人とも賢いから」

ぶー。
それじゃアタシは、賢くないみたいじゃーん!
千鶴「人間は考える葦である……という言葉の解釈には、感心しました」

考える足?
手や頭は?


杏「そう、良かったね。じゃあ寝るから……あ、莉嘉」

莉嘉「? なに?」

杏「千鶴は要するに、莉嘉は美嘉のオマケと思われるのが嫌なんだろって言ってる」

莉嘉「んー」

そう、かな。
うん。お姉ちゃんは大好きだけど、アタシはお姉ちゃんのオマケじゃない。
それはイヤ。

莉嘉「うん! アタシはアタシだもん☆」

千鶴「大変だね。莉嘉ちゃんも」

莉嘉「え? なにが?」

千鶴「だって、莉嘉ちゃんが今のまま芸能界で自己を確立していくとなると、美嘉さんが路線としても存在としても先行しているわけで、しかも莉嘉ちゃんは……」

杏「ところで千鶴、またTシャツに字を書いてくれない?」

千鶴ちゃんの呪文のような言葉をさえぎって、杏ちゃんが言った。

千鶴「構いませんが、もう少し良い言葉を書きたいんですけど」

杏「気に入ってるんだけどなー、これ」

杏ちゃんが着てるシャツには『働いたら負け』と書かれている。
あれ、千鶴ちゃんが書いたのか。
※訂正

>>64
×長富蓮美「そうですよ、アイドル像とかも時代と共に移り変わっていくんですよ。ふふっ、刻(とき)の流れの中で」
○長富蓮実「そうですよ、アイドル像とかも時代と共に移り変わっていくんですよ。ふふっ、刻(とき)の流れの中で」
画像先輩、ご指摘ありがとうございます。


>>92
×鶴「要するにアイディンティティーの問題よね」
○千鶴「要するにアイディンティティーの問題よね」
杏「これ見てるとさ、よし! もっとだらけようと思えるんだよねー……」

ダメじゃん!

千鶴「でも内容はともかく、字は気に入っています。我ながら……いい字だと思います」

杏「じゃあさ、『だが断る!』って書いてよ」

千鶴「かまわないですけど、どういう意味があるんですか?」

杏「この双葉杏がもっとも好きな事のひとつは、仕事を持ってきたプロデューサーに『NO』と言ってやることだ!」

莉嘉「ようするに、お仕事したくなーいってことでしょ? お仕事、楽しいのになー☆ ね、千鶴ちゃん」

千鶴「え? ええと、その……」

莉嘉「あれ? 千鶴ちゃん、お仕事嫌い?」

千鶴「嫌いなわけじゃ……嫌いじゃ……でも可愛くなれるか自信が……可愛く……」



杏「莉嘉、仕事したいならちゃんとレッスンしなきゃダメだよ。杏みたいになりたくなかったらね」

莉嘉「えー? 杏ちゃんだって、レッスンしなくてもお仕事できてるじゃーん☆」

杏「それももう限界。世の中は甘くない」

千鶴「そうですね、レッスンは大事ですよね。それに……」

杏「千鶴、早く書いてよ。ほら、ここ」


なんだろう。さっきから杏ちゃんは、千鶴ちゃんが何か言おうとするたびにそれをじゃましてるみたいに見える。

……
気のせいかな。
お姉ちゃんは、仕事が忙しくなった。
ほとんど毎日お仕事があり、帰ってくるのも遅い。

アタシは、はんぴれーするみたいにヒマになった。
てゆーか、テレビとか出演る時も「あの城ヶ崎美嘉の妹の、莉嘉ちゃんです」とか紹介されるようになった。

ぶーぶーぶー!
おもしろくなーい!
「あのさ莉嘉っち、サインお願いしたいんだけど……」

クラスの友達に、アタシは頼まれた。

莉嘉「いーよー☆ この色紙?」

「あ、それがその……さ、莉嘉っちじゃなくて、莉嘉っちのお姉さんの……」

莉嘉「え?」

「あ、兄貴に頼まれて……」

莉嘉「……ふーん」

「あ、私も……いい?」「あたしもお願い!」「私もほしーい!」

ぶー……
お姉ちゃんをみんなに見てほしかったし、自慢はしたかったけど……こんなの違う。
思ってたのと、なんか違うよ。
みんなから頼まれた色紙を持って、お姉ちゃんの部屋に入った。
今日は早く帰るって聞いてたのに、お姉ちゃんはまだいなかった。

ふとお姉ちゃんの机を見たら、いつだったかPくんがお姉ちゃんにくれたヘアゴムが置いてあった。
お姉ちゃんのアクセの中では、チャコールグレーの地味なヘアゴムはういてる。

莉嘉「これ、アタシがつけても似合うかな?」

アタシはちょっと借りて、ヘアゴムで髪を結ってみた。
鏡をのぞく。

莉嘉「んー? どうかな?」

美嘉「……莉嘉、なにやってるの」

鏡の端に、お姉ちゃんの顔が見えた。帰ってきたんだ。
アタシは振り返る。
お姉ちゃんの目は、怒った時のそれだった。

莉嘉「どしたの? お姉ち……」

美嘉「返して」

莉嘉「え?」

美嘉「ヘアゴム。返して」

莉嘉「ちょっとつけてみただけだよ。それに……」

美嘉「いいから返して」

言い方は静かだけど、アタシはわかった。
お姉ちゃん、かなり怒ってる。
それも、これまでアタシが見たことないぐらい真剣に。
アタシはヘアゴムを外すと、お姉ちゃんに返した。

莉嘉「……ごめん」

美嘉「莉嘉、これはアタシの大事な物なの。だから莉嘉でも勝手に触らないで」

莉嘉「いつもは……」

美嘉「これは今までのアクセとは違うの。努力して、認められてもらえた、大切な物。いくら莉嘉でも貸してあげらんない」

莉嘉「……」

美嘉「わかった?」

莉嘉「……わかんない」

美嘉「え?」

莉嘉「わかんないよ、そんなの! 今までは何でも貸してくれたじゃない。大事にしてたピンゴのブレスだってアタシにくれたのに!!」

美嘉「莉嘉……」

莉嘉「わかんない! わかんない!! わかんない!!! お姉ちゃんのけちんぼ! わからずや! お姉ちゃんのママのでべそ!」

アタシは、お姉ちゃんの部屋を飛び出した。
そのまま家も出ちゃった。

何度かケータイが鳴ったけど、アタシは電源をきっちゃった。
だけどれーせーになってみると、アタシは急に心細くなってきた。
お姉ちゃんが怒ったのはアタリマエだ。
いくら仲がよくたって、勝手に使われたら怒るよ。
とゆーか、アタシはワガママだった。

でもなんでか、さっきアタシはショックだったんだ。
なんだろ?
なにかがとってもショックだった。



なんだろ?
ちょっと頭が冷えてあたりを見渡すと、もう暗くなっている。
帰んなきゃ。

でも……なー……
帰るのはなんだか、気がすすまない。
とゆーか、お姉ちゃんと顔をあわすのが気まずい気がする。

莉嘉「はあ……」

P「探したぞ。莉嘉」

莉嘉「えっ!?」

Pくんだった。
え?
なんで?

P「美嘉がな、泣きながら電話してきたんだぞ。莉嘉に悪いことした、って。探してほしい、って」

莉嘉「……ほんと?」

悪いのはアタシなのに。
お姉ちゃん、アタシを心配してくれたんだ。

晶葉「ふむ、実践で使用するの初めてだったが、どうやら我ながら正確な位置把握だったな」

P「ああ。流石だよ」

あれ? 晶葉ちゃん?

P「莉嘉のスマホな、電源を切っても位置情報がわかるようにしてある。もちろん、緊急時しか使わないつもりだったが」

そっか、それですぐにアタシの居場所がわかったのか。
P「さ、帰ろう。美嘉が心配している」

莉嘉「でも……」

P「大丈夫。俺がとりなしてやる。それに……帰りながら、莉嘉に話したいことがある」

晶葉「では私は失礼する。莉嘉、またな」

莉嘉「あ、うん。でも……勝手にアタシの居場所、探ったりしないでよ」

晶葉「不要な心配だ。これは莉嘉たち仲間を助ける時しか使わない」

莉嘉「ん……うん、そうだよね。ごめん、助けてもらったみたいなのに」

晶葉「気にするな」

莉嘉「うん。でも、さっきアタシが言っちゃったことは忘れて」

晶葉「もう忘れた」

晶葉ちゃんが帰ると、Pくんはアタシに話しかけてきた。

P「最近の莉嘉が機嫌が悪いのは、仕事が少ないからでもあるんだろ?」

うん。確かにそれもある。
アタシも、お姉ちゃんみたいにお仕事がしたい。

莉嘉「Pくん、アタシももっとお仕事したいよー!」

P「……莉嘉」

いつもニコニコしてるPくんが、その時マジな顔になった。
こんなの……そう、あのスカウトされた時いらいだ。
P「レッスンをするなら、出演す。だけど、今のままじゃあ出演してやるわけにはいかない」

莉嘉「えー……」

P「莉嘉は可愛い。誰が見てもそれは間違いない」

莉嘉「え? あ……う、うん////」

P「加えて、莉嘉には身近にお手本がいた。その通りにしていれば、莉嘉は間違いなく魅力を発揮できた」

莉嘉「それってお姉ちゃんのことでしょ? うん、アタシお姉ちゃんをずっと参考にしてた」

P「でも、もうそれじゃあ駄目なんだ。美嘉がデビューして、あれだけ人気が出たなら莉嘉は美嘉とは違う魅力を出さないといけない」

莉嘉「なんで?」

P「同じ路線、同じキャラクターじゃあ莉嘉は美嘉に勝てないからだ」

そっか、確かにお姉ちゃんはすごい。
アタシもお姉ちゃんにはかなわない。
アタシはお姉ちゃんをお手本にしてるから、色々と似てるし……顔だって姉妹だから似てる。

同じことしてたら、アタシはお姉ちゃんにはかなわないんだ!

え!?
じゃあアタシ、お姉ちゃんよりすごくならないとダメなの?
P「けどな、心配しなくてもいいぞ莉嘉」

Pくんは、アタシの頭に手を置いて言った。

P「莉嘉には莉嘉だけのいい所もある」

莉嘉「? それって、お姉ちゃんよりも?」

P「ああ。だから俺は莉嘉をスカウトした。心配するな、美嘉にも負けないぐらいの人気が出るようにしてやる」

正直、信じらんない。
アタシがお姉ちゃんに負けないなんて。
でもなんでだかアタシは、Pくんがそう言ってくれたことがうれしかった。
うれしくってたまんなかった。

莉嘉「Pくん、大好き☆ えへへっ」

アタシはPくんにだきついた。
すごくすごく、うれしい気持ちが胸からあふれてきた。

P「ちょ、り、莉嘉! ま、まだ話は終わってないぞ!」

Pくんは、アタシの両肩をつかんで自分からひきはなした。
ちぇーっ。

P「そのために、レッスンを受けてもらうからな」

莉嘉「えー……あ、でも、うん」

P「よし。ふふっ、しばらくしたらまたテレビにも出られるからな」

アタシも、今回は納得した。
お姉ちゃんもレッスンを毎日やって、人気者になった。
そうだ、アタシもがんばってみよう。
そしたらPくんの言うように、お姉ちゃんより人気でるかもね☆
それから、そう。アタシは気がついた。

莉嘉「そっか……杏ちゃんはそれで……」

P「ん? 杏がどうした?」

莉嘉「んーん。なんでもない」

家に帰ると、お姉ちゃんが泣きながら抱きついてきた。
さっきまで顔を合わせづらかったのに、急にアタシもボロボロと泣き出しちゃった。

やっぱりアタシ、お姉ちゃんがだーいすき☆
次の日、アタシは事務所へ走っていった。
ソファーの上で寝ている杏ちゃんを見つけると、そのソファーにダイブした。

杏「ぐえ! な、り……莉嘉?」

莉嘉「えへへへへへへー☆」

杏「ちょ、り、莉嘉、暑苦しいって! 抱きつかないで」

莉嘉「杏ちゃん……ありがとね☆」

杏「はあ?」

莉嘉「こないだー、千鶴ちゃんは言おうとしてたんだよね? アタシはお姉ちゃんに似てるし路線も同じだから、大変だろうって」

杏「そう……だったかな?」

莉嘉「でもそれ聞いたらアタシがショックだろうって、そう思ってくれたんだよね?」

杏「あー……忘れたよ」

莉嘉「アタシ……レッスンする」

杏「へえ……ま、がんばんな。あのプロデューサー、目は確かだから言われた通りに一生懸命やれば、芸能人としてなら美嘉に勝てるかもよ」

莉嘉「勝てるかはわかんないけど、負けないようにがんばる☆」

杏「……莉嘉」

なぜだか杏ちゃんは、少し悲しそうにほほえんだ。
杏「杏は莉嘉のこと、好きだよ。妹ってこんな感じかな、って思ってる」

莉嘉「ほんと?」

杏「莉嘉だけじゃなくて、事務所の年下はみんなだけどね。だから……莉嘉が泣いたりするの、あんまり見たくない」



杏「つまり……なんて言うかな、美嘉とプロデューサーをつきあわせるのはやめといた方がいいよ」

? なんで今、その話?

莉嘉「なんでー? おにあいだよ?」

杏「だからその……なんてゆーか……ふ、文香いる?」

鷺沢文香「なんでしょうか?」

それまで黙って本を読んでいた文香ちゃんが、こっちをむいた。

杏「ピアズ・アンソニィの小説で、あの気位の高い女王様なんて言ってたっけ?」

文香「どの場面でしょうか?」

杏「自分が王座につかなきゃなんなくなったとこ」

文香「思い出しました。『女は欲しいと言っているもの全てが、本当に欲しいわけではない』」

莉嘉「それがどうしたの……あれ?」

杏ちゃんはいなかった。
ぶー!
文香ちゃんに話しかけたのは、アタシから逃げるためだなー!!
もう!
お姉ちゃんはレッスン漬けの日々だったけど、アタシは普通に活動しながらレッスンもすることになった。
お姉ちゃんはセクシー路線だけど、アタシはカワイイ路線だって。
なんだ、前にお姉ちゃんが言ってた通りになっちゃった。
でも……

「あー城ヶ崎莉嘉だー!」「カワイイよね、私ファンなんだー」「ねー。姉の方よりむしろ好きかな」

えへへへへっ☆
またアタシのお仕事は増えるようになった。
それも嬉しいけど、やっぱり聞こえてくる声。
城ヶ崎莉嘉というアタシに対する声が多くなったかな、って思う。

すごいなーPくん。言う通りになったよ。
もっと早く、レッスンしとけば良かったよぉ。
莉嘉「だからね、レッスンちゃんとやんないとだめなんだよ」

薫「そうなの? うん、じゃあやっぱりせんせぇの言ってたとおりにする。ありがとーりかちゃん」

美羽「私も方向性に悩んでて……」

莉嘉「うーん。Pくんに相談するといいよ。そんでレッスン☆」

美嘉「……」

卯月「……」

智香「……」

莉嘉「? なに?」

卯月「う、ううん。偉いね、莉嘉ちゃん」

美嘉「レッスン大事だよねー★」

智香「そ、そうそうっ☆」

? なんだろ?
杏ちゃんも目は閉じてるのに、なんかニヤニヤしてるし。
アタシ変なこと言ったかな?

お姉ちゃんもアタシも、アイドルとしての活動はじゅんちょー☆ になった。
二人で番組に呼ばれて競演も増えたけど、どっちがどっちのオマケじゃなくて、ちゃんとそれぞれとして扱ってもらえるようになった。
やったね☆
でも……
なんでだかアタシは、家を飛び出しちゃったあの日から……
なにかが引っかかってる……

なにか大事なことに気がつきかけてるのに……
どうしても気がつけてない……
そんなカンジ……


いったい、なんだろう…………



お姉ちゃんと競演すると、ときどきお姉ちゃんはいなくなることがあるようになった。
とーこーろーが☆ どっこい!
アタシはお姉ちゃんの考えはわかんなくても、行動はなんとなーくわかっちゃうんだ☆
莉嘉「お姉ちゃん、ここー!?」

美嘉「り、莉嘉////」

P「ん? それで美嘉、なんだって?」

美嘉「い、いや、やっぱりいい……」

莉嘉「?」
莉嘉「お姉ちゃん、おしゃべりしよー☆」

美嘉「……よくわかったね」

莉嘉「うん! ここかなーって☆」

P「で、衣装の件だけど……」

美嘉「……もういい」

P「?」
こんなことが何度もあるようになった。

でもってお姉ちゃんだけがお仕事の時、アタシはメールを送ってあげたりもした。

美嘉「それでね、プロデューサー……////」

♪ピロリロリーン メールダヨ ピロリロリーン メールダヨ♪

P「……メールみたいだぞ、美嘉」

美嘉「……うん。もう……ええと……莉嘉? 『Pくんとデートなの?』……」

P「ははは。莉嘉にからかわれちゃったな」

美嘉「……そうだね」ムスー
アタシはなんとかお姉ちゃんとPくんを恋人同士にしようとがんばってるけど、なかなか二人の仲は進展しないみたいだった。

なんでかなー?
だけどここで、アタシはせんざいいちぐーのチャンスをゲットしちゃった☆
なんとPくんがお姉ちゃんを送ってきて、ママが夕食をおさそいしてくれたのだー!
遠慮してたPくんだけど、お姉ちゃんも熱心に誘って、結局はゴチになってくれることになった。

二人はお姉ちゃんの部屋で、夕食を待ってるらしい。

しめしめ☆
アタシの思い通りになった。
お姉ちゃんはPくんを意識してるみたいだし、Pくんだってお姉ちゃんのこと気にしてる……はず。

お姉ちゃんの部屋で、今ふたりっきり。
きっといつだったか晶葉ちゃんが言ったみたいに、急接近してるに違いないよ!

アタシは、ニコニコがとまんなかった。
だーい好きなお姉ちゃんとかっこいいPくんが、もうすぐ恋人になるんだ!

もしかしてもう二人は部屋で、Chuとかしちゃってるかも☆
アタシはガマンできずに、ベランダからお姉ちゃんの部屋をのぞくことにした。
ふだんはそんなことしないけど、アタシは中で二人がどうなってるのか知りたくってしょうがなかった。

どうかうまくいってますように☆
お姉ちゃんとPくんの仲が、しんてんしてまーすよぉに☆

ドキドキ☆
ワクワク☆
エヘヘヘ☆

アタシはお姉ちゃんの部屋を、ベランダから祈るような気持ちでのぞいた。
P「色々と小物があって、センスがいいな。流石にカリスマギャルの部屋だ」

美嘉「あははー★ おだてたってダメだよ。でも、褒められて悪くないカンジかな」

P「ははは。莉嘉のプリクラにストラップ……本当に仲がいいんだな」

美嘉「ま、ねー★ 可愛くて大事な妹だもん」

P「お、莉嘉と言えば……丁度、今……えっとテレビつけていいか?」

美嘉「あ、リモコンこれ……」

あ! 少しだけ、二人の手が触れたよ☆

美嘉「あ……は、はい、これ////」

P「ああ、ええと……ほら、莉嘉が出演てるぞ」

美嘉「え? あ、ほんとだ。今日は……」

美嘉(あれ? 莉嘉、今日は外ロケ? え? じゃあ今ここにいるの……アタシとプロデューサーだけ? え!?
いつもジャマしてくる莉嘉も……いない!?!?!?)
あれー? なんかお姉ちゃん、急に真っ赤になった。
なにしてんのー! 今だよ、いまー!
Pくんとハグとかしちゃうんだよー!!!

P「……美嘉」

美嘉「ひゃ、ひゃい!」

おっ! Pくん、いっちゃうの?
ファイトだよ、Pくん!

Pくんは、お姉ちゃんの肩に手を置くと、そっと引き寄せた。

莉嘉「え……」
その光景に、というよりそれを見た自分のキモチに、アタシはビックリした。

なにこれ?
なにこれ!

アタシは急に、胸が苦しくなった。

Pくんほんとに?
ほんとにお姉ちゃんと……?

胸が痛い。
壊れちゃったみたいに痛い。

アタシは大慌てでベランダから、自分の部屋に戻った。

やだ……
やだ。
やだ!

やだよPくん……
やめてよ。
お姉ちゃんと、そんなことしちゃヤだよ!
バターン

アタシはお姉ちゃんの部屋に勢いよく飛び込んだ!

P「このヘアゴム、ちゃんと使ってくれてんだな」

美嘉「え? あ、ああ//// その、今日はプロデューサーが……あれ? 莉嘉?」

アタシは、Pくんに抱きついた。

莉嘉「Pくんいらっしゃーい☆」

美嘉「あれ? え? あ、じゃあこの番組は収録……」

莉嘉「今度はアタシの部屋も見てよー☆ こっちこっち!」

アタシは、大事なものを取られないようにするみたいに、Pくんを部屋に引っ張っていった。

そっか……
そうだったんだ。

気がついてなかったことに、とうとうアタシは気がついた。


アタシ……

アタシPくんが……好きだったんだ!



Pくんが帰ってから、アタシはベットに入ったけど眠れなかった。

アタシはPくんが好きだ。
かっこいいし、優しい。
それにアタシのこと、わかってくれてる。
アタシ、ずっとPくんが好きだったんだ。

ようやくそれに気がついた。
そしてあのこと……いつだかお姉ちゃんが怒ったとき、なんでショックだったのか、アタシも気がついた。

アタシは、お姉ちゃんみたいになりたいと思ってた。
お姉ちゃんを参考にしてれば、なれると思ってた。
それはたぶん、間違いじゃない。
お姉ちゃんを参考にしていけば、お姉ちゃんみたいな女の子にはなれるだろう。

でも……
それはアタシ、城ヶ崎莉嘉が城ヶ崎美嘉になるってことじゃない。
城ヶ崎美嘉みたいな城ヶ崎莉嘉でしかない。

アタシはお姉ちゃんみたいにはなれても、お姉ちゃんになるわけじゃない。

アタシは根本的に間違ってたんだ。

涙が出た。
アタシは自分がお姉ちゃんになって、Pくんとつきあうつもりになってたんだ。

それが無理でも、アタシは……このピンゴのブレスみたいに、お姉ちゃんは時々でもアタシにPくんを貸してくれるような気がしてた。

要らなくなったら、アタシにくれるんじゃないかと期待してた。

涙がとまらない。

あの時ショックだったのは、お姉ちゃんも本当に大事な宝物はアタシにはくれないことがわかったからだ。
それがアタリマエなのに、アタシは期待していた。

アタシが気がつかずに夢に見てたことは、ぜんぶ間違いだったんだ。

アタシは枕に顔を埋めて泣いた。
杏「……あー? なにー?」

莉嘉「……」

杏「こんな時間にケータイなんて……莉嘉?」

莉嘉「杏じゃあ゛ん……」

スマホの向こうから、ため息が聞こえた。

杏「見たくないって言ったのに……」

莉嘉「だがら電話にじだ……」

杏「まあ……あれだよ、莉嘉も大人になったんだよ」

莉嘉「え゛?」

杏「人を好きになるって、苦しいもんだよ。それがわかったんだから、もう子供じゃない」

莉嘉「杏ぢゃんも゛?」

杏「……」

莉嘉「どしたの?」
杏「なんでもない。それより泣かないでよ、別に美嘉とプロデューサーがつきあってるわけじゃないんだし、今からでも莉嘉がプロデューサーと恋人になれば?」

莉嘉「アタシ……お姉ちゃんにはかなわないもん……」

杏「そんなことないよ」

莉嘉「……」

杏「人気も美嘉に負けてないんだから」

莉嘉「……そっかな」

杏「プロデューサーはなんて言ってた?」

莉嘉「莉嘉は可愛いって……」

あ、思い出したら急に嬉しくなってきた。
そうだ、そう言われたんだった!
杏「他には?」

莉嘉「莉嘉には莉嘉のいいところがあるって……」

顔が熱い。
そうだ、Pくんそう言ってた☆

杏「ね。自信もちなよ」

なんだか急に、気持ちが軽くなった。
そっか、アタシお姉ちゃんにならなくてもいいんだ。
かなわなくってもいい。
アタシのいいとこで、Pくんを……

杏「わかった? だから……」

莉嘉「杏ちゃん、ありがとう!」

杏「へ? あの……」

アタシは電話を切ると、お姉ちゃんの部屋に行った。
莉嘉「お姉ちゃん!」

美嘉「……莉嘉?」

お姉ちゃんは寝ていた。
でもかまわないや☆

莉嘉「アタシ、お姉ちゃんに負けないから☆」

美嘉「え?」

莉嘉「アタシの魅力で、お姉ちゃんに勝っちゃうから☆」

美嘉「あ、うん」

莉嘉「じゃあね、おやすみー☆」

美嘉「……?」
次の日、アタシはPくんに抱きついた。

P「と、どうした莉嘉」

莉嘉「えへへへー! Pくん大好き☆」

P「そ、そうか。ありがとな」

ぶー。
Pくんまだまだアタシを子供あつかいしてるなー!

でも……へへんだ。
魅力をみがいて、いつかPくんとステディになっちゃうんだもんねー☆

見ててよ、Pくん。

アタシ、Pくんが好きだから☆
だいだいだーい好きだから☆
莉嘉「ねえねえPくん、選挙ね」

P「ん?」

莉嘉「Pくん、もちろんアタシを選んでくれたでしょっ? お姉ちゃんとかに入れてナイナイ? ホント? じゃあアタシがイチバーン☆」

莉嘉「アタシがPくんのイチバーン☆ だよ?」


お わ り
以上で、終わりです。
呼んでくださった方、レスをくださった方、本当にうりがとうございました。
画像先輩、本当に色々とありがとうございました。
そして城ヶ崎莉嘉ちゃん、誕生日おめでとうっ☆
>>134
なんだよ『うりがとう』って……しまらないなあ……orz
ありがとう、でした。
感想もありがとうございますっ☆

21:09│城ヶ崎莉嘉 
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