2013年11月08日

P「小鳥さんが倒れた!?」

少なくとも、律子達が疑っていたような嘘ではなかったらしい

見慣れない病院支給の服を着た小鳥さんがベッドで横になっていた


小鳥「あ、プロデューサー……それにやよいちゃん、貴音ちゃんまで」

P「大丈夫なんですか?」

小鳥「平気よ。ちょっと無理が祟っただけだから」

いつものような笑顔をみせながら、

小鳥さんは小さな笑い声を洩らした

やよい「ほんとにほんとですか?」

小鳥「そんなに心配しなくて平気だから安心して。ね?」

貴音「……して、身体の具合は」

小鳥「ただの過労だから1日ゆっくりすれば良いらしいわ」

P「1日ですか……事務仕事が溜まりますね」

俺は冗談のつもりで言ったのに、

やよいは頬を膨らませて睨んでるのか見つめてるのか、

視線を向けてきた

やよい「プロデューサー、みんなで手分けするんじゃないんですかっ?」

P「まぁそれが妥当だな」

小鳥「別に良いのに、意外と大変なのよ?」

貴音「それを小鳥嬢は一人でこなしている。それが過労の原因なのでは?」

小鳥「それはそうかもしれないけど……事務員はあたしだけだし」

P「社長に申請しておきましょうか? あと1人か2人事務員が欲しいって」

小鳥「ううん、大丈夫ですよプロデューサー」

小鳥「1人だとちょっと大変だけど、2人3人では多いくらいだから」

P「そうですか? でも、小鳥さんはそれで倒れたんですよね?」

やよい「そうです! 多いとしてもあと1人は入れるべきですよ!」

やよいの押しの強さに困った表情を浮かべつつも、

小鳥さんはそれを拒絶した

小鳥「あたしからそれ取ったらなにも残らないし」

貴音「ではしっかりと休息をとるように致しましょう」

貴音「いえ、取らせましょう。多少強引にでも」

小鳥「そ、そんな必要は……」

貴音「駄目です小鳥嬢。座り続けていたり、」

貴音「こんぴゅーたーにずっと向かっていてはまた悪くしてしまいます」

小鳥「貴音ちゃん……」

最終的に貴音とやよいの勢いに負け、

しかし少しは自分の要望も通し、

2時間に1度は休憩

その中でパソコンとにらめっこは最長1時間半となった

小鳥「仕事終わらないかも」

P「俺も出来る限り手伝いますし、律子は……竜宮のプロデュースで無理かもですけど」

P「とにかくサポートしますよ」

小鳥「ごめんなさい、ダメな事務員で」

貴音「小鳥嬢がダメな事務員だとしたらみんなダメな事務員でしょう」

小鳥「そんなことはないと思うけど……」
ここまで

やよい「とにかく、今日はゆっくりしてください!」

小鳥「うん、言葉に甘えるとしようかな」

P「小鳥さんの無事も判ったし、事務所に戻るか」

貴音「はい。あまり長居するのもお邪魔でしょうから」

小鳥「明日は事務所に行くからねー」

過労なんて嘘とでもいうかのように、

小鳥さんは元気よく手を振り、俺達を見送ってくれた

765事務所

貴音「大事には至らず、問題は無いそうです」

千早「そう……嘘とかではなかったのね」

申し訳なさそうに呟き、

千早はソファに深々と座り込んだ

真美「お姫ちん、いつ戻ってくるって?」

貴音「明日には戻れるとのことですが……話しておきたいことがあります」

貴音は安堵の雰囲気を一転、

緊張の走る空気に変えると、それに合う声で告げた

貴音「明日から極力小鳥嬢に迷惑になら無いようにしましょう」

亜美「ど→いうこと?」

P「過労で倒れたのは仕事のせいもあるが、俺含めて」

P「みんなが小鳥さんに迷惑をかけてるからだと思うんだ」

雪歩「そうですね……騒ぎすぎたりして、それも負担になって……」

春香「亜美と真美は特に……って私の転ぶ癖も直さないと」

やよい「出来る限り心配かけずに、むしろお手伝いするんです!」

響「解った、ピヨ子にはかなり世話になってるからな。協力するぞ」

千早「そうね。また倒れられたりしたら嫌だもの」

みんなが小鳥さんのために行動しようとしてくれている。

本人が知ったらどんな顔するのだろうと思いつつ、

簡単に想像できてしまって、

思わず笑ってしまった

本当に、良い事務所、良い社長、良い事務員、良いアイドルだなぁ。

と、内心、喜んでいた

P「ま……」

P「待ってください!」

ようやく絞り出せた声は大きく、

いきり立ったことで倒れた椅子の音が

店内に響き、周りの客たちからの視線が集まったが、

そんなことは全く気にはならず、

俺は少ししか驚いていない小鳥さんを見つめた

小鳥「そんな驚かなくても……」

P「驚くに決まってるじゃないですか」

あれは冗談のはずだ

もしも。の話だったはずだ

なのに……

P「どういうことですか……?」

俺の問いに対し、

小鳥さんは複雑な表情で小さく笑うと、

定食を二つ注文し、水を口に含んだ

答えに迷っているのか、

答えを探してるのか、

なんだか先延ばしにしているようにも見えた

P「言えないんですか?」

小鳥「そういうわけではないんです……でも、怒ると思うし」

なら怒られるような理由で辞めなければいいだけ……なんて理不尽だろうか?

そもそも言えないなら辞めるなんて言わなければよかったんだ

……それで急にいなくなったら、

それはそれで怒ると思うけど。

P「……………」

小鳥「………」

黙り込み、

周りの喧騒が大きく聞こえるような、

そんな静かな時間

小鳥「予定が早まっちゃいまして」

P「予定ってなんの予定ですか? 期間はどのくらいなんですか? 辞めないといけないようなものなんですか?」

小鳥「質問が多すぎますよ、プロデューサーさん」

小鳥さんにクスッと笑われ、

だんだんと熱は下がっていく

それでも思考回路はまともに機能しそうにもない

P「だって小鳥さんが辞めるなんて言うから……」

小鳥「……ごめんなさい」

P「いや、別に怒ってるわけじゃないですよ」

小鳥さんの申し訳なさそうな表情のせいか、

追求しようとした意志が消えていく

しかし、小鳥さんは1つ……いや、2つだけ答えてくれた

小鳥「辞めないとダメなくらい長い用事です」

P「………………」

どんな用事ですか? と、

もう一度聞くべきだったはずだ、答えてもらうべきだった

でも俺は聞くことができず、

小鳥さんも言えないのか、

運ばれてきた定食を、作業のように食べることとなった

それからは残酷なほどに気まずかった

小鳥さんが765プロを去っていく……

誰よりもこのプロダクションを助けてくれていた人がいなくなってしまう。なのに、

何も言えなかった

加えて、小鳥さんもその用事については中々言えないらしく、

楽しもうと思っていた昼食は面白さのかけらもなくなってしまった

そんな悪い空気を破るように、

小鳥さんはいつもとは少し違う笑みを浮かべながら何かを言おうとした

小鳥「プロデュ―――……」

言おうとしただけで何も言えなかった

言わなかったのではなく、言えなかった

小鳥さんは意識を失い、病院へと運ばれることになった
ここまで、中断

そして俺達はそれをみんなに伝えた

何一つ包み隠さずに、すべてを。

ほぼ全員に怒られた、嘘だ。と問い詰められた

わざわざタクシーを使ってまで確認しに来た子もいた

会いに来て、聞いて、泣いてしまう子もいた

事情を話してから結婚するということを伝えると、

誰しもが、あの美希でさえも、

二つ返事で許可をし、祝福してくれた

小鳥「あの、プロデューサーさん」

P「はい?」

小鳥「大好きです」

P「俺も大好きですよ」

二人して恥ずかしげもなく言い合う。

そんなバカみたいな時間は、最高に幸せな時間だった


そして翌日。

俺達は以前あずささん達の撮影で使った教会を無理言って借り、結婚式を挙げることにした

ここまでで中断

100以内は無理かな。これは

小鳥「呼び捨てはしてくれないんですか?」

小鳥さんの懇願するような瞳に迫られ、

俺は耐え切れず、小鳥さんから視線を外してしまった

小鳥「あっ……」

そこに聞こえた悲しそうな声

そうなればもう、

恥かしいだとかどうだとかは消えてなくなる。それに――

P「こ、小鳥」

小鳥「え?」

P「小鳥、小鳥小鳥小鳥小鳥………」

連続で言えばいい、そうすれば大丈夫

よく解らない結論に至った俺が名前を連呼すると、

小鳥さんはみるみるうちに真っ赤になり、

俺の腕にしがみつくようにして顔を隠した

小鳥「ななななんですか」

P「小鳥……さ、そ、その!」

小鳥「はいっ」

バカみたいに初々しく、

付き合って初日みたいな雰囲気になりながらも、

俺は小鳥を、

小鳥は俺を見つめ、恥ずかしいと思いつつも目を逸らすことはなく。

小鳥「あの!」

P「あの!」

2人して同時に声をかけ、でも譲りはしない

きっと言葉は一緒だから

P・小鳥「家に行きましょう!」

その結果、

俺達は一番近い小鳥さんの家に向かうことにした

ごめん、またあとで

小鳥「思えば、2人きりで来るのは初めてですよね」

P「そうですね……誰かがいるならともかく、2人きりは勇気がなかったんで」

そんな弱い自分自身に呆れた笑いをこぼすと、

小鳥は「そんなことはないですよ」と嬉しそうに笑った

小鳥「あたしも勇気がなくて誘えませんでしたし」

思い返せば誘ってくれたのは、

いつも小鳥に誘われたアイドル達だった

P「……俺、嫌われてるんじゃないかって悩んだんですよ? 割と」

小鳥「ふふっごめんなさい」

P「別に怒ってませんし、怒る理由もないです」

今はこうして一緒にいる

結婚して、2人きりで家に来ている

だから――幸せだ

小鳥「それでですね、一応……手料理を振舞おうかと思いまして」

P「こ、小鳥さんのですか!?」

思わずいつものように呼んでしまうと、

小鳥は少しむっとした表情で見つめてきた

小鳥「やっぱり止めます」

P「ま、待って下さい、小鳥の手料理は是非とも食べたいんです」

好きな人の手料理を食べるのは男の夢

そのチャンスを棒に振るなんて許されない

小鳥「作らないなんて嘘に決まってるじゃないですか」

そんな必死だったのだろうか、

小鳥は笑ってそう言うと、こほんっと咳をした

小鳥「お帰りなさい、アナタ。ご飯にする? お風呂にする? それとも……あ・た・し?」

そんな冗談じみた言葉

最後のが一番気になるのは俺も男だから仕方がない

でもまずは。

P「ご飯が食べたいです」

小鳥「春香ちゃん達に習った腕前……見せてあげるわ!」

小鳥がエプロンをつけているというのは、

かなり新鮮な景色というかなんというか。

家に来た時はいつも食事のあとだったり、

なにか出前を頼んだりするだけで、

小鳥が料理をすることはなく、

それが残念に思えていたことは言うまでもない

小鳥「そんなに見ないでください。失敗しますよ?」

P「たとえ物体Xでも小鳥の料理なら問題ありませんよ」

小鳥「なる可能性あるって思ってません?」

小鳥の物悲しそうな瞳が俺に向く

だって春香達があまり上手ではないって言ってた。なんていうのは野暮だろう

P「例えですよ」

そんな俺のフォローは無意味だった

小鳥「まぁ、否定できないんですけどね」

P「……きょ、極力邪魔はしません」

小鳥「お願いします」

小鳥も真面目に美味しいのが作りたいらしく、

そこからは基本的に無口だった

小鳥の楽しそうで、嬉しそうな鼻歌と、

リズミカルな包丁の音等がBGMとして部屋に響く中で、

手持ち無沙汰だった俺は、

近くのテレビ下の収納のDVDを手にとった

P「……小鳥ライブ?」

そこに書かれた気になる文字

俺はそれを持ってキッチンへと向かった

P「あの、小鳥」

小鳥「はぁい――ぃやぁぁぁぁぁ!」

P「うゎ!?」

小鳥は俺の手にあるそれを見て悲鳴を上げ、

即座に奪い取った

小鳥「ダメですよ!? ダメなんですってこれは!」

P「ものすごく見たいんですが……」

小鳥「それでもダメ! 恥ずかしいっ」

絶対にダメ。らしい

非常に残念だが……諦めることにした

ここまで

P「大丈夫ですか?」

小鳥「……ごめんなさい、弱気になるべきじゃないのに」

P「仕方ないですよ、俺だったら半狂乱になってるかもしれませんし」

実際に小鳥みたいな状況になった時、

俺が落ち着いていられるかどうかと聞かれたら、

それは多分無理だ

そう考えれば、

今までこんなふうに弱気にならなかった小鳥がおかしいのだ

P「ご飯……食べられます?」

小鳥「……大丈夫です」

完全に沈んだ声

無理もないし、これが普通だろう

そんな小鳥に大して俺ができるのは、

小鳥が俺に望むことくらいしかない

俺は箸でおかずを摘み、小鳥に差し向けた

小鳥「プロデューサーさん……?」

P「小鳥もして欲しいんですよね?」

何もできなくて歯がゆい自分

それを笑顔の裏に押し隠し、俺は訊ねた

小鳥「…………」

小鳥は泣いたせいで赤くなった瞳で俺を見つめ、

また悲しそうな表情になり、けれど……嬉しそうに微笑み、

小鳥「はいっ」

そして、俺の差し出したおかずを口に含んだ

P「美味しいですよ?」

小鳥「美味しいです」

ご飯は進んでいく

俺が765プロ来る前の話、

765プロにきた時の話、

765プロに来てからの話

もう全部知ってるはずなのに、

なぜか盛り上がっていた

P「これからどうします?」

小鳥「そうですね。もう夜ですし……」

普通なら、いつも通りならここで解散して、

帰宅するところなのだが、

俺達は一応、夫婦だしそうでなくても――

小鳥「帰っちゃうんですか?」

小鳥の少しだけ遠まわしな言い方

P「いいんですか? 泊まって」

小鳥「何言ってるんですか、ここもプロデューサーさんの家と同じようなものですよ?」

そう言われたなら、そう言われなくても、

P「そうですね。今日は一緒ですよ。ずっと……一緒です」

俺はそう返していただろう

明日になったら――と小鳥の言葉がフラッシュバックし、

俺は辛い表情を隠し笑う

小鳥「じゃぁ、お風呂も一緒ですか?」

P「えっ」

斜め上すぎる言葉に、

俺はたじろぎ、それを見て小鳥は笑った

小鳥「冗談です」

P「へぇ……」

俺は嫌味な笑みを浮かべながら、

小鳥の両肩を掴んだ

P「入りましょう、一緒に。大歓迎です」

小鳥「え、えっえぇっ!?」

赤くなり、顔をそらしても横目がぶつかる。そんな距離

P「小鳥が言ったんですよ?」

小鳥「だ、だからそれは冗談で……」

P「まぁ、俺もそんな勇気ないんですけどね」

小鳥「で、ですよねっ!」

安心したのか、それとも残念なのか、

小鳥は小さく笑った

中断

小鳥「じゃぁ、プロデューサーさんお先にどうぞ」

P「いいんですか?」

小鳥「あたしの方が長いですから」

小鳥は女性だし、時間かかるんだろうなと思いつつ、

髪の長さはそんなに関係ないんだろうか。と、

新しい疑問が浮かんだ

P「それなら……お先に失礼します」

小鳥「はい、どうぞ」

小鳥の笑顔に送られて風呂へと向かう。

なんて新婚生活

ずっと憧れていた生活がここにあるのだ

夢だったら続いて欲しい

いや……夢なら。

夢なら覚めて欲しい

P「小鳥さん――小鳥が使う風呂……」

変なことを考えちゃいけないと思うが、

心頭滅却なんていうことはちょっと出来そうにない

伊織だったり千早だったり。

うちのアイドル達がCMをやっているシャンプーやらリンスやら、コンディショナーやらが並んでいる

そして、それらをあの人がいつも使っているのだ

P「……無心になれ、無心だぞ」

シャワーの流れる一定のリズムに任せ、

自分の心のリズムも一定に保つ

しないなんて無理ではある。

でも、だからといって自分一人そんなふざけた気分になるなど、

許せなかった

P「いつも感じる匂い……」

朝会う時、すれ違った時

香水に混じる匂いの正体

子供みたいに僅かながら心を躍らせていたことを思い出すと、

恥ずかしくて、バカみたいで、

洗い終え、浴槽に使っていた俺は大きくため息をついた

P「本当……バカみたいだ」

そんな時も、彼女の体は蝕まれていた

こうなるまで勇気を出せなかった自分が憎い

彼女を苦しめる世界が憎い

でも……どうすることもできやしない

P「……早く出よう」

今こうしている間も、

彼女は死に近づいているのだから

少しでも長く、少しでも多く……一緒にいたいのだ

小鳥は結局俺の倍くらいの時間をかけていた

だからといってどうこう言ったりはしないけど。

小鳥「ごめんなさい、長くて」

P「全然問題ないですよ」

風呂上りという妖美な雰囲気の小鳥を直視できず、

首を変な方向に曲げつつ答えた

小鳥「すっぴんお断りですか?」

P「いや、そんなことは全然」

ちらっと見えた限り、

すっぴんはすごく綺麗だった

小鳥「見てください、あたしを」

P「え?」

小鳥「プロデューサーさんには見て貰いたい。逸らさないで欲しいです」

そう言われ、直視する小鳥の素顔

綺麗だった可愛かった

P「可愛いですよ」

小鳥「本心ですか?」

P「本心ですよ」

小鳥「なら、プロデューサーさん」

P「はい?」

少し赤い表情で、

小鳥は俺を見上げてきた

小鳥「……キス、しませんか?」

そして問われる言葉

キスとは、キス

結婚式でしたファーストキス

これは2人でする誰にも見られないファーストキス

考える必要もなく、彼女の口元へと近づく

優しく、柔らかく、暖かな感触が広がっていく

そしてそれは少しだけ深くなる

舌と舌が触れ合う深いキス

小鳥「ふふっ」

なんだか筆舌にし難いものだった

小鳥「……………」

P「………………」

そんな経験をしたせいか、

心と体が行為を求めるように赤くなっていく

P「も、もう寝ましょうか!」

でも、できるわけがない

いつ死ぬか解らない彼女にそんな行為はさせられない

理性で抑えてそう訊ねながらも、

俺は用意されていた布団へと横になろうとした

けれど小鳥は服の裾を掴み、止めてきた

小鳥「ダメですか? プロデユーサーさん」

P「でも……」

小鳥「これが最後にしたいこと、貴方としかしたくないことなんです、だから……」

多少無茶だって良い、無理だっていい

やらないままに死ぬのは嫌だからと、願ってくる。求めてくる

P「……解りました」

拒否なんて、拒絶なんて。できるはずもなかった

小鳥「実を言うと、あたし――」

P「いえ、言わなくて平気ですよ」

小鳥「へぇ……プロデューサーさんは経験豊富なんですか。そうですか」

小鳥に睨まれ、

否定しようとも思ったが、

すぐに悪い部分が割り込んだ

P「俺が経験者だったらどうします?」

小鳥「失望しちゃいます、キスが素人なのに経験アリだなんて」

普通に返されてしまった

P「すいません、嘘です」

小鳥「知ってますよ」

なんか傷つく一言だった

小鳥「……えっと、まぁそういうわけなので」

和んだと思えば、

またそんな雰囲気に戻ってしまう

P「そう、ですね……」

思春期を経験した一人の男としては、

ちょっとあれな画像やら動画やらを見たことがないといえば嘘になる

かくいう小鳥も経験はなくてもそういう知識を持っていたりするわけで

P「電気、消します?」

小鳥「消してできるほど慣れてないのに?」

P「面目ない」

小鳥「年上のあたしの方が。ですよ」

彼女は笑うと、

着ているパジャマのボタンを外した

P「こ、小鳥s……」

小鳥「見て下さい、あたしの全てを」

いつも着ている業務服の上からでもわかるほどに、

小鳥のスタイルは凄く良い

それが今、何も纏う事なく目の前にいる

それだけで大喜びしてしまいそうなものなのに、

彼女は俺の手を掴むと、それを自分の胸に触れさせた

小鳥「結構自信あるんですよ? まぁ、そろそろ垂れそうですけど」

困った笑みを浮かべつつ、彼女は言う

小鳥「触って良いですよ、掴んでも握っても、揉んでも。何しても良いんですよ」

P「っ…………」

理性はある。でも、

そう言われて拒絶できるほどに俺は馬鹿じゃなかった

柔らかい感触が手のひらから、指から、その間から。

手全体から伝わってきて、俺はどうしようもなく高ぶり、

けれど優しく、繊細にそれを撫でた

小鳥「控えめなんですね」

P「し、仕方ないじゃないですか!」

思わず語尾が強くなってしまう

悪いが童貞である。

よってどうすればいいだとかは解らない

ちょっとアレなものに映る人たちは手馴れているだけで、

参考にしようとしてできるわけではないのだ

小鳥「なんていうか……もう、枠に囚われるの止めませんか?」

P「はい?」

小鳥の急な言葉に首をかしげると、

不意に視界が一転し、俺の体は小鳥に覆い被さるような形になっていた

小鳥「したいようにして良いですよ。あたし、攻められる方が好きです」

P「って言われても……」

戸惑っていると、小鳥は俺の頭をつついた

小鳥「何のための妄想、シュミレーションですか?」

小鳥「こうなったらこうしたいとかああしたいとか、考えたことないんですか?」

確かにあるにはあるし、参考になるものがない以上、

そう言うのに頼るしかないのも事実だ

P「良いんですか?」

小鳥「お願いします」

そして、俺はもう一度彼女の口を塞いだ

中途半端だけど今日はここまで


200までにはと思ったけど無理だった

さっきよりも長いキス

こうすれば良いのか。と、

少しだけ解って上手くなった……ような気がする

小鳥「っは……ぁ」

P「……はぁ、はぁ」

熱いと息がぶつかって、

ただでさえ熱い体が更に熱くなっていく

けれど、それを気にする余裕はない

小鳥「プ……プロデューサーさんはキスがお気に入りですか?」

少し切らした息で問われ、

P「まぁ……初めてしたことですし」

俺は少し考えて答えた

正直、キスから先に進みたいけど進めないだけだったりする

そんな俺の気持ちを理解してか、小鳥は薄く笑った

小鳥「怖いんですか?」

P「うっ……」

小鳥「じゃぁ、まず見ることから始めましょうか」

そう言い、彼女は最後の下着を外し、その全てを晒した

P「ちょ、ちょっと……」

小鳥「逸らしちゃダメですって、プロデューサーさん!」

動かそうとした頭は、

彼女の両手で抑えられ、俺は思わず目を瞑ってしまった

小鳥「画像とかで見たりしてないんですか?」

P「修正入ってるじゃないですか、そういうの」

小鳥「へぇ……見たんですか」

女性となんていう話をしてるんだろうか……

そんな思考を遮るようにじとっとした視線を感じ、口が曲がった

P「お、俺も男ですし……」

小鳥「じゃぁあたしも見てください」

P「好きな人のはまた一段と恥ずかしいというかなんというか……」

小鳥「ならプロデューサーさんの見ちゃいますよ?」

その言葉のあとに自分の下着が少し動かされたのに気づき、

目を開かざる負えなく、すべてが視界に映った

小鳥「ふふふっ、ちょっと強引でした」

P「っ……もう、優しくしませんよ?」

初めて見るその姿

好きな人の、小鳥の全裸体が視界に映る

押さえ込むための理性までが、

そちら側へと興味を移す

小鳥「そう言いつつ優しいのが貴方じゃないですか」

P「信頼されてますね、俺」

彼女の笑みと共に届いた言葉を、

俺は嬉しく思いながら、彼女の胸へと触れる

P「上手く出来るか解らないですが、やらせてください」

小鳥「お任せします」

その言葉で始まる行為

胸を撫で、揉み、

彼女の全てを記憶に刻み込むかのように全身をくまなく撫で回す

忘れないために、永遠に生きていて貰うために

そしてやがてその手は彼女の恥部へと触れる

小鳥「んっ……やっとですか?」

待ち焦がれていたというような、

そんな瞳で彼女はつぶやき、微笑む

P「俺、好きなものは最後に食べる派なんですよ」

小鳥「食べるなんて……そんなぁ」

いつもの調子の言葉

でも、それは少し淫美な空気を含んでいた

P「えっと、その……」

小鳥「あー……えっとですね」

知識のない俺の為にか、

彼女は自分の指で、自分の感じやすい場所に触れた

小鳥「んっ……っ……」

小さく声を漏らし、彼女はおかしそうに笑いをこぼし呟く

小鳥「プロデューサーさんに見られてると……倍増ですっ」

その声は淫美な空気を持ち、恥ずかしさや嬉しさも篭ったものだった

それを聞いてもなお、何もしないなんていうのは俺でなくてもたぶんきっと不可能だ

P「っ……」

小鳥は亡くなってしまった

俺たちの目の前から居なくなってしまった

今日は葬式。

仕事のあるなしに関わらず、

765プロのみんな、

そして小鳥のご両親や友人たちが集まってくれた

伊織「馬鹿……早すぎるでしょうが……」

やよい「小鳥さんだって死にたくて死んだわけじゃ……」

伊織「解ってるわよ! だから、だから馬鹿なんでしょ!」

やよい「い、伊織ちゃん……」

あの伊織でさえ平常心が保てず、

やよいに対して怒鳴ってしまっていた

あずさ「伊織ちゃん、奥の部屋で休みましょう?」

あずささんの優しい声が伊織を撫で、

少しだけ心を落ち着けた

伊織「っ……ごめん。やよい」

やよい「ううん、良いよ……私も凄く悲しいもん」

雪歩「小鳥さん……私、貰ったもの何も返せてないのに……」

千早「みんなそうよ。萩原さん。何も返すことが出来なかったわ」

真「そうだね。何もしてあげられなかった。してあげたかった。なんて後悔するのさえ苛立ってくるよ」

真や千早、雪歩もまた、

小鳥の死を嘆き、悲しんでいたし、

いつも眠そうな美希や、いたずら好きの亜美真美でさえ、

変な素振りは一切見せず、

小鳥のことを心から大切に思っていてくれたんだな。と、

改めて感謝する。そんな俺の肩を、貴音が叩いた

貴音「大丈夫でしょうか?」

P「貴音……」

あの結婚式のブーケを受け取った少女、四条貴音

彼女は心配そうに俺を見つめ、訊ねてきた

P「………………」

大丈夫なんて言えなかった。

言葉なんて何も言えなかった

そんな俺を、貴音の暖かさが包んでくれた

貴音「堪える必要などありません。悲しいときは泣いて良いのです」

P「貴音っ……」

貴音「わたくしは小鳥嬢より後を任されました……ですから、良いのです」

貴音自身も悲しそうな表情をしながらも、

涙を堪えて俺を見つめ、言う。

貴音「あなた様は泣いて良いのです。泣かねばならぬのです」

P「そんな、こと」

貴音「一番悲しいあなた様が泣かずに、誰が泣くことができましょうか?」

P「…………」

いいえ、できません。と貴音は俺が何かを言うよりも先に答えた

正直に言えば泣きたい。でも、泣けずにいた

それは小鳥を笑顔で送りたいから。

でも、無理だ。ごめん……小鳥

寂しいんです、悲しいんです、悔しいんです、辛いんです、苦しいんです

P「小鳥いぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

抑えきれずに涙声で名を叫ぶ

貴音「それで良いのです……あなた様……」

貴音は俺の頭を撫でながらも、

俺につられるようにして涙をこぼしていた

変に重いので今日はやめておきます

朝にできれば……明日には終わるかも

P「どうして……」

「いや、実はこの放送の後にジュピターのライブの放送があるんだけどねぇ……」

ジュピターと言えば961プロだ

なにか仕掛けて来そうな気がしなくもないが……

身構える俺に対し、ディレクターは困ったように首を傾げると、

その理由を答えた

「少し手間取っているらしくて、空いちゃう可能性があるんだよ」

P「その埋め合わせをうちが?」

「そういうことになるかな。そちらさんと利害も一致するし」

ねがってもないことだ

P「解りました、時間を頂きます」

そして終了間際、

TV画面の方には次の番組の遅延情報がでているころ、

MC側にそれがカンペで伝わった

「次のジュピターさんが遅れているということで、ここは……」

美希「美希達が頑張るの!」

MCの言葉を遮って美希が飛び出す

「ええ、では新曲の――」

あずさ「いえ、実はお話ししたいことがあるんです」

千早「すみません、MCさん」

「い、いえ……」

765アイドルたちの物悲しげな空5気に、

スタジオ全体が暗くなってしまう

そこでようやく、何をするつもりか気付いた

春香「先日、私達765プロの事務員であり元アイドルの音無小鳥さんが亡くなりました」

やっぱりだ……

みんなはここで小鳥さんについての自分達の心境を吐露するつもりなのだ

元アイドルということもありすでにニュースにはなっているが、

ここでもう一度……という魂胆だろう

春香「私達を影で支え続け、沢山の恩恵を与えてくれた小鳥さんはもう居ません」

真「ボク達はその恩返しも込めて一曲披露しようと思います」

一曲?

俺はなにも聞いてないから、

持ってきているものには限りがあるぞ?

そんな心配をよそに、

伊織は一枚のCDを出した

伊織「これは小鳥……彼女がアイドルだったときに出すことができた最初で最後の曲」

それを出した後のライブで不良を訴え、

あの大動脈弁狭窄症というものが発覚し、引退した

いや、そうじゃなくてあいつらいつ練習を……

今や大人気の765アイドル達に練習する時間はほとんどなかったはず

P「……あ」

もしも手本となるものがそばにあれば、いつだって練習できる

そしてそれは、伊織が回し見るといった……

貴音「実は特別げすとも来ています」

「え?」

それは誰も聞いていない

少なくともアイドル達は全員知っているようだが……

伊織「今日限りの復活よ、小鳥」

伊織の笑み混じりの言葉

それは冗談でもなんでもなく、

小鳥「皆さん、お元気ですかー?」

真実として目の前に存在していた

P「こ、小鳥さん……?」

小鳥「今日はあたしの歌を披露しようと思います」

彼女の姿が見える

俺だけに見える幻覚ではなく

彼女の声が響く

俺だけの幻聴ではなく、全員に聞こえる声だ

貴音「本日限り、このお方とともに歌いたいと思います」

小鳥「みんな、よろしくね?」

やよい「はいっ」

千早「はい」

響「任せて欲しいぞ!」

それぞれが嬉しそうに答えを返す

小鳥「では、聞いてください! 音無小鳥で……空」

あのバーできいた曲

それをいまここで、小鳥さんが、みんなが……歌う

ここまで


>>264

真実として~の前に

突然現れた彼女は   ←追加で

真実として目の前に存在していた

07:54│音無小鳥 
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