2013年11月08日

みりあ「やっぱり衣装もかわいい方がいいなー♪」

・アイドルマスター シンデレラガールズの二次創作です。
・ト書き形式ではなく、一般的な小説形式です。人によっては読みにくいかもしれません。
・約4000字、書き溜め済みです。数レスで終わりますので、さっと投下します。

前置きは以上です。お付き合いいただけると嬉しいです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367328287

 赤城みりあは“カワイイもの”が好きである。
 服や動物、アクセサリーなどの小物や人間。
 一般的な小学生の範疇からは出ないが、人並み以上の興味を持っていた。
 赤城みりあは“楽しいこと”が好きである。
 これもまた子供らしい感性と照らし合わせれば至極真っ当な話だが、
 そのためには尽力を惜しまない積極性もまた、彼女の長所だった。

 そんな彼女にとって、アイドルにならないかという誘いは、正に渡りに船と言えた。
 カワイイもの、楽しいこと、どちらも得られる場所。
 子供心で考えても、これ以上の申し出はない。
 両親に精一杯のお願いをした結果、先日晴れてアイドルになったのだ。

 みりあが誘われ、所属したプロダクションは、元の規模が非常に小さかった。
 最初に借りていた事務所はお世辞にも広くなく、しかしそれでも充分だったのだが、
 思いの外プロデューサーの手腕がよかった。
 あれよあれよという間にアイドルが増え、仕事も増え、
 新興ながらもそこそこ注目されるレベルになってしまった。

 勿論それで経営的に困ることはない。
 ただ、どうにも今の事務所では狭過ぎるという話が上がり、
 近場のもう少し大きな物件を借りることに決まった。
 みりあが入ったのは、丁度そんな転換期だ。
 聞くところによれば、以前は更衣室がなかったという。
 衣装合わせや着替えは専ら鍵の掛からない休憩室を使っており、
 だからプロデューサー側もアイドルも、細心の注意を払っていた。

 人が少ないうちはさほど不便でもなかったが、多くなるとそうもいかない。
 保管する個人別の衣装も一着二着では収まらず、混乱を避けるためにも、
 引っ越しした際には更衣室兼衣装室の設置が急務となった。
 一人一人にハンガーラックが用意され、大判の姿見や化粧台が置かれ、
 部屋の扉には鍵が付いた。
 これに最も安心したのは、言うまでもなくプロデューサーである。
 ハプニングで着替えを覗こうものなら、二重の意味で腹を切る状況になりかねない。

 ともあれ、そういった様々な事情によって生まれた更衣室のドアノブに、
 みりあは指を掛けていた。
 母の同伴で訪れて間もない、若干遅めの朝時。
 プロデューサーは別の子を現場に送っていっているらしく、
 スケジュールが書かれた大型のホワイトボードには、
 幾人かの名前と行き先が記されている。

 みりあが外に出るのは、プロデューサーが戻ってきてからだ。
 最近よく一緒に仕事をしている小梅には挨拶済み。
 休憩室で珍しく本を読んでいたので、あまり邪魔はしたくなかった。
 絶賛事務処理中のちひろも、話しかければ相手になってくれるだろうが、
 やはり邪魔になってしまう。となれば、プロデューサーの帰りを待つしかない。
 ……なんて、それで大人しく我慢しきれないのが、みりあが子供たる所以である。
 ホワイトボードの横には、現在事務所にいる人間の名前入りマグネットが貼られている。
 来た時に自分で置き、外出の際は外出欄に、帰宅時は欄外に貼り直す決まりだ。
 そちらを見やると、みりあと小梅以外にも、もう一人いることになっている。
 マグネットには、カタカナで『リーナ』の三文字。

 多田李衣菜。
 みりあより幾分前に入ったアイドルだが、彼女について知っていることは多くない。

 六つ年上の高校生。いつもヘッドホンを着けていて、
 結構それって失礼なんじゃ、と思っていたが、
 別にずっと音楽を聴いているわけではないらしい。
 トレードマークというか、アクセサリーのひとつみたいなものなのだろう。

 たまに耳に入る会話では、しきりに「ロック」と言っていた、と思う。
 音楽のジャンルだってことくらいはわかるが、具体的にどんな意味なのかは謎だ。
 総じて、関わりが薄いのでよくわからない人だった。
 休憩室には小梅だけ。客が来てるという話も聞いた覚えがないから、応接間にもいない。
 じゃあどこにいるんだろうと考えて、みりあの足は自然と更衣室へ向かっていた。

 特別な意図は一切なかった。
 まだ挨拶してないから、声を掛けておきたい。
 そんな程度の気持ちで触れたドアノブは、何故か抵抗なく回った。

 この場合の過失は、どちらにもあったと言えるだろう。
 みりあは鍵の存在を忘れていた。
 ノックで確認するという発想も、たまたま頭の中から抜け落ちていた。
 そして李衣菜の過失は勿論、プロデューサーがいないからと油断して、
 鍵を掛け忘れていたことである。

「李衣菜さーん、おはようございまー……す……?」
「えっ」

 半開きのドアの向こう、姿見の前。
 下着姿でふたつの衣装を両手に持って、
「どっちがいいかなー……へへへ」とにやにやする李衣菜がいた。

 半身で振り返り、固まる。沈黙。どうしようという空気。
 先に動いた李衣菜が、物凄い速度でみりあを中に引き入れた。

 ばたん。がちゃり。

 ハンガーに掛かったままの衣装を片手に束ね、
 機敏な動作で鍵を閉める。困惑するみりあ。
 肩で息をしていた李衣菜は、何とか呼吸を整え、
 空いた右手でみりあの左肩をがっしと掴んだ。

「い、今のは見なかったことに!」
「えっと……とりあえず、服着た方がいいと思います」
「あっ」

 みりあの視線を追い、自分の格好に気づいた李衣菜が、
 先ほど以上の速度で着替えを終えるのは、その僅か二十秒後のことだった。
 私服姿に戻り、テイクツー。

「はぁ……はぁ……さっきの、見なかったことに、してくれないかな……」
「さっきのって、下着姿のことですか?」
「いやそっちじゃなくて、あの、私が……衣装、ふたつ見てたこと」
「うーん、でも、すごく似合ってそうだったけど……
 李衣菜さん、もう一回見せてもらっていいですかっ?」
「え、さすがにそれは……って待って、ストップ!」

 小柄な身体が李衣菜の視界から抜け出し、
 着替えの途中で適当なハンガーラックに掛けられた、件の衣装を手に取る。

 片方は、赤いジャケットに黒と赤のチェックスカート。
 どちらかと言えば、カッコイイ感じの衣装だ。
 そしてもう片方は、水色を基調としたシンプルな上下。
 肩口の膨らみと、柔らかく広がるスカートを見るに、こちらはかわいらしい感じ。
 困惑する李衣菜の首下に合うよう掲げてみると、なるほど両方ともよく似合う。
 とはいえ、どちらかひとつを挙げるとしたら、
「私はこっちの方がいいかなって思いますっ」

 やはり、かわいい方になる。
 ストレートに言われ、李衣菜の頬がさっと薄い赤みを持った。
 が、そこで首を横に振り、

「いやいや、やっぱり私はロックな衣装の方がいいし……
 元々着ようとしてたのもそっちの方だし?」
「ロック……? って、どういう意味なんですか?」
「そりゃあロックは魂の生き様っていうか、縛られない心っていうか、
 滲み出るかっこよさ、みたいな……?」
「よくわからないですけど、李衣菜さんはかわいい衣装がすっごい似合いますよっ!
 自信持っていいです!」

 ばっさり切り捨てられて思わず膝をついた。褒められて嬉しいけど複雑な気分。
 落ち込んだ精神状態を何とか立て直した李衣菜に、
 みりあは“かわいい衣装”をはい、と差し出した。
 それからにっこり笑顔を浮かべてひとこと。

「私、李衣菜さんがこれ着てるところ見てみたいなぁ♪」
 12センチの身長差から来る上目遣い。
 瞳が子供らしい期待の色でキラキラしていた。
 ――結局、李衣菜は折れた。

 女性同士でも、着替えを見られたくない人はいるだろう、ということで、
 更衣室内にはカーテンの仕切りが作られている。
 李衣菜が下着姿だったのは、言ってしまえば調子に乗って気を抜いていたからであり、
 普通はここで脱ぎ着を済ませるものだ。

 一度着直した私服を床に落とし、衣装の袖に腕を通す。
 前のボタンを留め、襟周りを微調整し、スカートを穿いてホックも留める。
 仕切り内の小さな鏡で軽く確認し、一息。
 意を決して、みりあに姿を見せた。

「うわあ……! 思ってたとおり、すっごくかわいいです!」
「そ、そうかな」
「はいっ☆ 私もこんな衣装着てみたいなーって思います♪」

 べた褒めされれば当然悪い気もしない。
 みりあの前でくるっと身を回してみたりして、
 その度絶賛する言葉が李衣菜の耳をくすぐった。
 そうなってくると次第に二人ともテンションが上がり、
 当初の目的もすっぽ抜けてプチファッションショーを開催し始める。
 お互いすっかり、時間の経過を忘れていた。
 だから、少なくとも李衣菜にとって、それは全くの不意打ちだった。

「おーい、みりあいるかー?」
「あ、プロデューサーさんだー♪ 今開けるねー♪」
「ちょ、ちょっ……!」

 こんこん、と控えめなノックの音と共に、みりあを呼ぶ声。
 それにすぐ反応し、李衣菜が止める間もなく鍵を外す。
 掛け忘れならともかく、内側から外されたとなれば、
 入っていいと思うのは当然だろう。
 中にみりあしかいないと勘違いしたまま、プロデューサーは更衣室の扉を開けた。

 一瞬だけ、時が止まった。
 みるみるうちに、李衣菜の顔が林檎色へとシフトする。

「プロデューサーさん、李衣菜さんはやっぱりかわいい衣装が似合うよねー?」
「おう、そうだな。それって確か今度の衣装だったと思うけど、
 うん、よく似合ってる。可愛いぞ、李衣菜」
「うんうん、かわいい!」
「可愛いな!」

 りーなかわいい! かわいい! かわいい! かわいい! かわいい!
 悪意ない連呼に、李衣菜がキレた。

「ああもう! 私はロックなアイドルになりたいんですよぉーっ!!」

 後にみりあが李衣菜と一緒の仕事になった時、
 お揃いの可愛らしい衣装が二人に宛てがわれた。
 みりあは勿論、何だかんだで李衣菜も、満更ではなかったという。
以上になります。
みりあちゃんがメインのはずだったのに、だりー、おそろしい子……!
おだてられたらだりーなはプチファッションショーくらいやってくれそうですよね。ちょろかわいい。
>>7
ガイド的なものも前書きに入れた方がいいでしょうか。ちょっと自意識過剰な気がして……。
この前に三本ほど書いてます。

奈緒「風邪をひいた日のこと」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365425704/

のあ「……たいせつなものは、目に見えない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366291863/

小梅「ともだちの作り方」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367159069/

08:26│赤城みりあ 
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