2013年11月08日

輿水幸子「ボクの手はあなたのために」

戻ってみると、なんだか事務所はしーんとしていました。


いたのは自分の机でめそめそと泣くプロデューサーさん一人。


「電気もつけずになにをしているんです」


そんな風に声をかけると、


「……ごめん、幸子、ごめん」


ちょっと洒落にできないような失敗をしてしまったそうです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1368901541

「他のみなさんはどうしたんですか?」


と聞くと、


みんなもう帰っちゃったよ。
俺の失敗のせいで、今日の仕事は、全部なしになったからな、とのこと。


なるほど。


ですが、それで本当に帰宅してしまうのも、薄情な話です。


慰めるなり、次の手を一緒に考えるなり……。


逆に気を遣ったのかもしれませんが。




……いや、これほど泣き腫らす彼を置いて帰るんですから、みなさんさぞかしご立腹だったと思うべきですかね。
自分よりよほど幼いボクを前にしても、漏らす嗚咽がいつまでも止まる気配のない、意気地のないプロデューサーさん。


けれどどうでしょう。


さっきも思った通り――ボクは、そんなプロデューサーさんを見て、苛々すると言うよりは――……なんだか、そう、守ってあげたくなるような、少し違うような。


「大丈夫ですよ、プロデューサーさん」


それは果たして優しさなのかは分かりません。


ボクは、彼の背中にそっと手を当てて、ゆっくりと上下させます。


「ボクだけは何処にも行きません」
「……ごめんな、情けないとこ……見せちゃったな」


ようやく、プロデューサーさんの嗚咽が止まりました。
少し名残惜しく思いながら、ボクは彼の背中から手を離します。


「今さらなにを言っているんです」


「プロデューサーさんの情けない姿なんて、もう見飽きたくらいですよ! たまにはシャキッとした姿も見せてください!」


「……うん」


そんなしょぼくれた返事では信じられませんよ!
「なあ、幸子」


「? なんです?」


「……もしまた失敗したときは、……その」


今から失敗したときのことなんて考えていてはだめですよ!


……と、一喝してあげたいところですが……いえ、まあ、今日くらい――ボクくらい、思う存分優しくしてあげましょう。


いいですよ。


これからは、ボクの手はあなたのために、ふふ。
ヤンデレ幸子、共依存的な。

短かったですが失礼しました。
スレタイは、「ボクの手はきみのために」という小説からです。

09:59│輿水幸子 
相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: