2013年11月08日

モバP「凛、……あ、間違えた、まゆ〜」まゆ「……」

モバP「まゆ〜、ちょっといいか?」

まゆ「……プロデューサーさん?」

モバP「明日の仕事なんだが、ちょっとスタジオに変更が……」


まゆ「待ってください……」

モバP「うん?」

まゆ「今、聞き捨てならないことを言われたんですけどぉ」

モバP「ああ、だから明日のスタジオが……」

まゆ「そこじゃないです……その前です」

モバP「……前?」

まゆ「私の事を誰かと間違えなかったですかぁ?」

モバP「ああ、すまん、凛と間違えた、それで明日のスタジオの場所なんだけど……」

まゆ「スタジオの場所とかどうでもいいです」

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モバP「いや、よくないだろ、明日どうするんだよ」

まゆ「……」イラァ


ちひろ「……」カタカタ

ちひろ(……どうしよう、まゆちゃんの機嫌が最悪です、主にプロデューサーさんのせいで)

ちひろ「……」カタカタ

ちひろ(……でも私からは何も言いません、どこに地雷原に向かって飛び込むバカがいますか)


まゆ「そもそも、ありえないですよぉ? 私と凛ちゃんは全然似てませんよね?」

モバP「そうか? ……確かに見た目は違うけど、雰囲気はどことなく似てるぞ」

まゆ「……」イラァ
モバP「それでスタジオなんだけども天王洲から虎ノ門へ……」

まゆ「プロデューサーさん……」

モバP「うん?」

まゆ「プロデューサーさんが今、見ているのは誰ですか?」

モバP「まゆだけど」

まゆ「そうですよぉ、プロデューサーさんは今、まゆだけを見ているんです」

モバP「そうだな、まゆをプロデュースするために頑張っている」

まゆ「だったらなおさらあり得ませんよねぇ? プロデューサーさんの口から他の女の子の前が出るなんて」

モバP「そうかな? 普通に他のアイドルの話とかするけど、凛とか」

まゆ「……」イラァ


ちひろ「……」カタカタ

ちひろ(……ああ、まゆちゃんの顔がアイドルとしてあってはいけないものに……)


まゆ「プロデューサーさんはまゆの言いたいことを全くわかってませんよねぇ?」

モバP「なに言ってるんだ、わかってるに決まってるだろ」

まゆ「……本当ですか?」

モバP「ああ、まゆもアイドルとして他のアイドルに対抗意識を持っているのはわかるよ」

まゆ「……どうしよう、まゆ、頭がクラクラしてどうにかなっちゃいそうです」

モバP「風邪か?」

まゆ「……どちらかといえば病気ですねぇ、原因はプロデューサーさんです」

モバP「マジでか、でも俺はピンピンしているぞ」
まゆ「……ふふふ、プロデューサーさんがお元気そうで何よりです……」

モバP「ははは、ありがとう」


ちひろ「……」カタカタ

ちひろ(……これで修羅場にならないのはプロデューサーの人徳ってやつなのかしら……そんなものあってたまるかって話だけど)


まゆ「でも、まゆは……プロデューサーさんのそういうところ、あんまり好きじゃないです」

モバP「え? 俺ってまゆに嫌われてるのか」

まゆ「いいえ、まゆがプロデューサーさんのことを嫌うわけないじゃないですか……ただ、そうやってすぐとぼけるのはプロデューサーさんの悪い癖です」

モバP「それはすまなかった……ちゃんとまゆの言うことには耳を傾けていたつもりなんだが……」
まゆ「…………まあ、反省されているようですし、今回は特別に忘れてあげます……ただ、もう二度間違えないでください、それと……」

モバP「わかった、もう間違えないよ、それでスタジオなんだけど……」

まゆ「……プロデューサー、まだ私の話は終わっていませんよぉ?」

モバP「え? ああ、悪かった、それでなんだ?」

まゆ「……もう二度とまゆの前で他の女の子の話を出さないでください」

モバP「オッケー、わかった、それで虎ノ門の入り時間なんだけど……」

まゆ「……」


ちひろ「……」カタカタ

ちひろ(……この人絶対わかってない……)


モバP「……ってことだ、わかったか?」

まゆ「……」

モバP「まゆ、聞いてるか?」

まゆ「……聞いてますよぉ」

モバP「そうか、それなら大丈夫だな……後、俺も現場に立ち会うから、何かあってもばっちりフォローするぞ」

まゆ「ありがとうございます……」

モバP「それとこの仕事、多分終わるの夜になると思うから、終わったら飯でも食いに行こうぜ」

まゆ「……!」

モバP「日比谷線の沿線で上手いラーメン屋があったんだよ……あ、まゆってラーメンとか脂っこいやつ大丈夫だっけ?」

まゆ「全然大丈夫ですよぉ、まゆはプロデューサーさんの好きなものが好きなんです」

モバP「それはよかった、それじゃあ明日はよろしくな」

まゆ「はい、明日はまゆのことだけを見ていてくださいね」


ちひろ「……」カタカタ

ちひろ(……とりあえず、惨劇は回避できたかしら……なんだかんだで収まっちゃうから不思議よね)


モバP「それじゃあ、ちひろさん、最後に一件だけ行かなくちゃいけないところあるんで……」

ちひろ「……あ、はい、そのまま直帰されますか?」

モバP「いえ、一旦戻ります……あ、先に帰ってもらって大丈夫ですよ、事務所の鍵は持ってるんで」

ちひろ「わかりました、いってらっしゃい」


バタン


ちひろ「……」

まゆ「……ちひろさん」

ちひろ「は、はい……なにかしら?」

まゆ「コーヒーがもう空ですよ、淹れてきますね」
ちひろ「あ、ありがとう……」

まゆ「そういえば……冷蔵庫に買っておいたお菓子が残っているんですけどもいかがですか?」

ちひろ「う、うん、いただくわ……」

ちひろ(……まゆちゃんって、プロデューサーさんが絡まなかったらいい娘なのよね)

まゆ「……はい、お待たせしました」

ちひろ「ありがとね」

まゆ「どういたしまして」

ちひろ「……」

まゆ「……」
ちひろ「……あれ? まゆちゃんってこの後仕事あったっけ?」

まゆ「ありませんよ」

ちひろ「そうなの、だったらもう帰ってもいいんじゃないかしら?」

まゆ「いいえ、プロデューサーさんを待ちますから」

ちひろ「え、でもプロデューサーさんは遅くなるかも……」

まゆ「いつまでも待ちますから大丈夫ですよ、ちひろさんは帰ってもらっても構いません」ニコリ

ちひろ(……すごくいい笑顔で言われちゃった、……でもさすがに未成年のアイドルを1人で事務所においておくわけにもいかないし、私も残らないと)

ちひろ「私も仕事があるしもう少し残っているわね」

まゆ「お疲れ様です、いつも私達のためにありがとうございます」

ちひろ(……やっぱり超良い子よね、それがなんであんな風になっちゃうのかしら)
ちひろ「……そうだ、プロデューサーさん遅くなるんだし、親御さんとかに連絡をした方がいいんじゃない?」

まゆ「大丈夫ですよ、まゆは寮ですから」

ちひろ「あ……そうだったわね、たしか出身は仙台だったかしら」

まゆ「はい」

ちひろ「……良く考えたらすごい事よね、単身で東京に来るんだもの……寂しくはない?」

まゆ「まったく無いです、むしろ毎日が楽しくて仕方がありません」

ちひろ「……ああ、そうよね、アイドルになれたんだもんね」

まゆ「はい、アイドルになってプロデューサーさんのおそばにいられますから」

ちひろ(……その言い方だとアイドルの部分がおまけに聞こえるんだけど……気のせいよね)
ちひろ「……ちなみにまゆちゃんは仙台でプロデューサーさんにどんな風にスカウトされたの?」

まゆ「うふふ、道端を歩いていたら、いきなりプロデューサーに『アイドルにならないか』て言われたんです……最初はビックリして断っちゃったんですよ」

ちひろ「へえ、断ったの……でも、思い直してプロデューサーさんと連絡を取ったんだ?」

まゆ「いいえ、次の日にまた会ったんです」

ちひろ「え? 次の日にまた会ったの?」

まゆ「はい、そこでまた熱心にスカウトされて……」

ちひろ「え、えーと……ぐ、偶然ね、ははは」

ちひろ(……日をまたいだ上にしつこくスカウトしたのね、プロデューサー……そのスカウト方法は警察沙汰になるからやめてって言ったのに!)

まゆ「……いいえ、違います、あれは偶然なんかじゃありません……」

ちひろ「え!? あ、いや、あの人も悪気があったわけじゃなくて……」

まゆ「……今だからわかるんです、あれは運命でした」

ちひろ「どうか警察にだけは……え? そっち?」
まゆ「その時は急いでいてちゃんとお返事できませんでした……だけど家に帰ってすごく後悔したんです、あれはもしかしたら運命だったんじゃないかって……」

ちひろ「そ、そうなの……」

まゆ「まゆは悔しく情けなくて……それで次の日、仙台駅に行ったんです」

ちひろ「……なんで?」

まゆ「スカウトされた時に言われたんです、出張で仙台に来てて明日帰らないといけないって……だから、もしまゆが仙台駅に行った時、プロデューサーさんに逢えたらそれはきっと偶然じゃなくて運命……」

ちひろ「うん……それで会えたの?」

まゆ「はい、会えました……やっぱり運命だったんです、まゆはそのままプロデューサーさんについて行こうとしたんですけど、プロデューサーさんは、まずは両親に挨拶が先だろうって」
ちひろ「……あー、それでプロデューサーさんの出張は長引いたのね、まゆちゃんのご両親に挨拶をするために」

まゆ「はい……ふふふ、いきなりにお母さんとお父さんに会わせるのはちょっと恥ずかしかったんですが、プロデューサーさんも紹介できるし、やっぱり親も公認でないといけませんよね」

ちひろ(紹介、公認……果たして彼女の頭の中でどういった誤変換が行われたのかしら……)

ちひろ「それでこの事務所に来た、と……でも大変よね、読モも所属事務所も辞めちゃって、単身で東京でしょ?」

まゆ「些細な事ですよ」

ちひろ(急に冷めた……プロデューサーさんと出会った時の話はあんなに熱く語っていたのに……)

まゆ「それにまゆ以外でも独りで東京に来ている女の子はいるじゃないですか」
ちひろ「そうね、基本的に東京都とベッドタウン以外に住んでいる場合は寮生活をしてもらっているわ……でも、大抵は成人してる人たちよ? まゆちゃんくらいの年齢はいないわ」

まゆ「まゆくらいの年齢……」

ちひろ「そうね、凛ちゃんとか……あ」

まゆ「凛ちゃん……」

ちひろ(……マズイ、さっきまでプロデューサーさんと揉めていたのに凛ちゃんの話題は……)

まゆ「……ちひろさん」

ちひろ「は、はい」

まゆ「……まゆと凛ちゃんは似ていますか?」

ちひろ「え、えーと、それはつまり……」

まゆ「さっきプロデューサーさんに間違えられてしまって……」
ちひろ「……やっぱりそのことよね」

まゆ「聞いていたんですか?」

ちひろ「え!? あ……ちょっと聞こえちゃってね」

まゆ「……それでどうでしょうか」

ちひろ「……う、うーん……私が見る限りは全然似てないけど……凛ちゃんはクールで、まゆちゃんキュートって感じかしら」

まゆ「……それならなんでプロデューサーさんはあんなことを?」

ちひろ「……さあ? でもこういうのは言った本人の主観によるものだし……あんまり気にしない方がいいと思うわ」

まゆ「……でもプロデューサーさんの言うことですし」
ちひろ「正直、深いことを考えて話しているわけじゃないと思うわ、あのプロデューサー、結構能天気だし……」

まゆ「……」

ちひろ「……? まゆちゃん?」

まゆ「……それはプロデューサーさんの悪口ですか?」ギロ

ちひろ「……あ! いや、そういうのじゃないの、えーと、ほら……おおらかじゃない? そういう意味で言ったのよ」

まゆ「……そうですか、まあ確かにプロデューサーさんは少しおおらかです」

ちひろ「そ、そうよね……」

ちひろ(……こ、恐かった……この娘、本当にプロデューサーさんの事となると見境なくなるのよね……)


ガチャ


凛「ただいま」

ちひろ「え!? ……り、凛ちゃん……おかえりなさい」

ちひろ(まさかこのタイミングで凛ちゃんが帰ってくるなんて……というか今日は収録現場で解散だったはずじゃあ……)

まゆ「……おかえりなさい、凛ちゃん」

凛「うん、ただいま……ところで何の話してたの? プロデューサーがどうとかって聞こえたけど」

ちひろ「え、えーと、ね……」

まゆ「……まゆと凛ちゃんが似ているのかって話ですよね」

ちひろ(あ、普通に話すんだ……)

凛「……どういうこと?」
ちひろ「まゆちゃんがね、プロデューサーさんに凛ちゃんと間違えられたのよ、あの人曰く、雰囲気が似ているとか」

凛「……ふーん」

ちひろ「それでどうなのかって話をね……」

凛「どうというか、それ以前に最低だね、担当しているアイドル間違えないでしょ、普通」

ちひろ(……! まゆちゃんの前でプロデューサーさんの悪口はダメ……)

まゆ「……うふふ、そんなこと言っちゃダメよ、凛ちゃん」

ちひろ(……あ、あれ? 怒るどころか、少し笑顔になってる……なんで……?)

凛「まゆも嫌なら嫌だってちゃんと言わないとダメだよ」

まゆ「……そうね、うふふ」

凛「私だったら許せない」
ちひろ(……やっぱり怒ってない……よかった、基準はよくわからないけど、この話題は怒らないみたい)

ちひろ「そうなのよね、あの人、他人の話を聞かないのよ、よくあれでプロデューサーが……」

まゆ「……」ギロ

ちひろ(……あれ、すごい顔で睨まれてるんですけど? この話題は怒らないじゃなかったの?)

凛「仕方ないよ、プロデューサーって視野が狭いし」

まゆ「うふふ」

ちひろ(あ……また笑顔に戻った……これはつまり、プロデューサーさんの悪口を私が言うとアウトってこと? ……なんで?)

凛「私も昔は意見が合わなくてケンカっぽいことしたよ、今は慣れたけどさ、あの人、時々無駄に熱くなるから」

まゆ「うふふ……まゆはプロデューサーさんとはケンカしたことないですねぇ、仲良しですから」

ちひろ(……ん?)
凛「それに嫌なところもたくさんあるし」

まゆ「うふふ、うらやましいわ、まゆは、プロデューサーさんのいいところしか知らないもの」

ちひろ(……あれ、これってもしかして)

凛「まゆはプロデューサーと仲が良いんだ」

まゆ「ええ、やっぱりそう見えちゃうかしら」

ちひろ(……よく見ればまゆちゃんの表情、笑顔というよりは含み笑いみたいに見える……)

まゆ「実は明日も収録が終わってから食事に誘われたの、プロデューサーさんがまゆのために美味しいラーメン屋さんを見つけてくれてね……」

凛「へー……」

まゆ「まゆはプロデューサーさんにプロデュースされてとても幸せ……きっとプロデューサーさんもまゆをプロデュースして幸せなんだわ」

ちひろ(いつの間にかまゆちゃんのノロケ話になっている……もしかして凛ちゃんにプロデューサーさんとの仲を当てつけるために、この話を?)
凛「……うん、そうかもね、そんなまゆにプレゼント」

まゆ「……え? これは……鍵? それに可愛いキーホルダーね」

凛「プロデューサーの車の鍵、今日、それを返そうと思って事務所に来たんだよね」

まゆ「……どうしてこれを?」

凛「実はプロデューサーの車の中に私物を忘れちゃっててさ……取りに行きたいって言ったら鍵を貸してくれたの、本人はすっかり忘れてるみたいだけど」

まゆ「……」

凛「代わりに返しておいてよ……明日収録あるんだし、その時に会うでしょ?」

まゆ「……うふふ、明日といわず今日返すわ」スッ

凛「どこ行くの?」

まゆ「返しに行くの……うふふ、凛ちゃん、ありがとう」

バタン


凛「行っちゃった……まあ、この時期なら夜も涼しいし熱中症になることはないか」

ちひろ「え、まゆちゃん、プロデューサーの車の中にいったの?」

凛「うん、あの様子だと多分ね」

ちひろ(凛ちゃん、相変わらず落ちつているわね……というかさっぱりしてる、長い間二人三脚でやってきたプロデューサーさんに対してもあっさりしているし)

ちひろ「……凛ちゃんってプロデューサーさんと仲悪かったっけ?」

凛「え、別にそんなことないけど……なんで?」

ちひろ「ううん、なんだかクールだからそう思っただけ」

ちひろ(まゆちゃんのノロケ話を聞いても特に反応しなかったし……まあ、まゆちゃんのプロデューサーに対する執着が異常なだけなんだろうけど)

凛「さばさばしている、とはよく言われてるよ」
ちひろ「そういえば売り出した時は大変だったわよね、無愛想アイドルなんて言われて」

凛「言われてたらしいね、気にしてなかったけど」

ちひろ「でも売り出してからも今でも全然ブレてないじゃない……こんなにメンタル強い女の子初めてみたわ」

凛「そんなんじゃないよ……本当に気にならなかっただけ、というか所詮他人の評判になんて聞く意味ないし」

ちひろ(やっぱりすごいわ……この娘もあのプロデューサーがスカウトしてきた娘だけど、あの人、素質を見る目だけはあるのね)

ちひろ「謙遜しちゃって……ふふ、この調子でいけばトップアイドルも間違いなしね」

凛「うん? うん、そうかもね」

ちひろ「あら、こんなところまでクールじゃなくていいのに」

凛「まあ、別にそれはどうでもいいし」
ちひろ「……え? どうでもいい?」

凛「うん」

ちひろ「……トップアイドルがどうでもいいの?」

凛「私にとってはね、でもプロデューサーの夢だし叶えてあげたいって気持ちはあるよ」

ちひろ「……??? ごめんなさい、ちょっと凛ちゃんの言っていることがよくわからないんだけど……」

凛「なんで? 私、変なこと言った?」

ちひろ「トップアイドルになりたいのはプロデューサーさんじゃなくて凛ちゃんの夢よね?」

凛「ああ、そういうこと……ごめん、変な言い方しちゃった、トップアイドルなるのはプロデューサーと私の、2人の夢だよ」

ちひろ(……いまいち凛ちゃんと会話が噛みあっていない気がする……なんだか、どこかで歯車が一個ずれてしまっているような、そんな感じが……)


ガチャ


モバP「ただいま戻りました!」

凛「おかえり」

ちひろ「あ、お帰りなさい……早かったんですね」

モバP「ええ、思いのほかトントン拍子にことが運びまして……」

凛「プロデューサー」

モバP「うん?」

凛「おかえり」

モバP「ああ……それで聞いて下さいよ、ちひろさん、どうやらこのイベント、いけそうですよ」
ちひろ「そ、そうなんですか?」

モバP「ええ、そろそろまゆもステップアップする時期だと思いますし……」

凛「プロデューサー」

モバP「なんだ?」

凛「おかえり」

モバP「聞こえているよ……そういうわけで明日なんですがスタジオ入りの前に朝方、まゆを向こうに連れて行こうと思います」

凛「……」

ちひろ「は、はい……」

モバP「それでなんですが、電車だとちょっときついんですよ、車を使おうと思うんですが、車の鍵無くしちゃったんですよね」

ちひろ「え、あ、あの……車の鍵ですが?」
モバP「はい、ちひろさん、どこかで見ませんでした? 最悪レンタカーなんですけど、経費で落ちますかね……」

ちひろ「い、いえ、鍵なら……」

凛「プロデューサー」

モバP「なんだ?」

凛「これが必要?」

モバP「お、それだ、その鍵……なんだ、凛が見つけててくれたのか」

ちひろ(え、ええ!? 凛ちゃん、さっきまゆちゃんに鍵を渡したんじゃあ……)

凛「プロデューサーって本当にそそっかしいよね」

モバP「いやあ、面目ない……あれ? この鍵キーホルダーがついてないな……やっぱり違うじゃ……」

凛「ううん、これは間違いなくプロデューサーの車の鍵だよ」
モバP「そうなのか……でもあってよかったよ、どこにあったんだ?」

凛「プロデューサー、覚えてないの? 昨日鍵を貸してくれたよね」

モバP「……あれ、貸したっけ? 記憶にないんだが」

凛「ちゃんと、プロデューサーに声かけたじゃん、借りるよって」

モバP「……?」

凛「そそっかしい上に忘れっぽいとか今までよくアイドルをプロデュースできたね」

モバP「……うーむ、言い返せない、まあ何にせよありがとうな、返してくれ」

凛「……」

モバP「お、おい、ポケットにしまうなよ」

凛「これはあげない」
モバP「な、なんでだよ」

凛「私のだから」

モバP「い、いや、俺のだろう」

凛「ううん、合鍵だから私のだよ、本物は別」

ちひろ(合鍵!? サラッと何言ってるのこの娘……)

モバP「合鍵? なんでそんなものが……」

凛「プロデューサーはさ、そそっかしい上に忘れっぽいからこういう鍵とかすぐに無くしちゃうじゃない? だからその対策のために作っておいたの」

モバP「対策って……それだったらなおさら俺が持ってたほうがいいだろう」

凛「だから、プロデューサーが持ってたら無くしちゃうから私が持ってるんじゃん」

モバP「……ああ、そうか、言われてみればそうだな」
ちひろ「……いやいやいや、待って下さい、プロデューサーさん、色々おかしいですよ」

モバP「え? そうですかね?」

ちひろ「だって、あの車、プロデューサーさんの自前のやつですよね? それの鍵がもう一本あるって、それは……」

モバP「でも、ちひろさん、俺は車の中に貴重品とか資料は置きませんし、そもそも鍵を持っているのは凛ですよ? 身内じゃないですか」

ちひろ「え、いや、それはそうなんですけど……もっとあるでしょう、何か言わなくちゃいけない事が!」

モバP「……ああ! そうだ、凛、間違っても運転するなよ」

凛「しないよ、免許ないし」

ちひろ「そこじゃない!!」

モバP「まあまあ、別に鍵はいくらあっても困りませんから……それに凛なら俺と違ってしっかりしますし、変な事には使いませんよ」
ちひろ「…………あなたが納得しているのならもう何も言いませんけど、私はどうなっても知りませんからね」

モバP「ははは、別にどうにもなりませんよ……凛、それが合鍵でもいいから貸してくれ、明日使うんだ」

凛「いいよ、今日の夕食奢ってくれるんなら」

モバP「それくらいならお安い御用さ」

ちひろ(……はあ、なんか私一人が熱くなってバカみたい…………あれ? 何か大事な事を忘れてるような……)

凛「ラーメン屋さんに行きたい、見つけたんでしょ、美味しいところ」

モバP「あれ? なんで知ってるんだ? まあいいや、日比谷線になるからそのまま直帰だな、車は置いていくか」

ちひろ「……あ! まゆちゃん! プロデューサーの車の中にまゆちゃんが!」

モバP「え?」

凛「ああ、忘れてた」

ちひろ(……忘れてた、て……)

二日後、飲み屋

モバP「仕事終わりに飲む一杯は格別ですね」

ちひろ「そーですねー」

モバP「あれ、テンション低いですね」

ちひろ「最近事務所の空気が良くないので」

モバP「ああ、そうなんですか」

ちひろ「ええ、主にプロデューサーさんのせいですよ」

モバP「俺が何かしましたかね」

ちひろ(正確に言うとまゆちゃんと凛ちゃんなのよね、2人とも本人自身はとてもいい娘なんだけど……)
ちひろ「2日前は本当にひどかったですよ、私、修羅場というのを初めて生で見ました」

モバP「修羅場……?」

ちひろ「まゆちゃんがプロデューサーさんの車に入っていた事件ですよ、凛ちゃんが合鍵作ってたこと知ってまゆちゃん完全にキレてたじゃないですか」

モバP「ああ、あれですか……キレてましたっけ? 確かに少し冷たい感じでしたけど」

ちひろ「プロデューサーさんに対してはそうかもしれないですけど、凛ちゃんへの視線は確実に殺意がこもってましたよ」

モバP「大袈裟ですねえ、まあちょっと険悪な雰囲気でしたけど、今日とか普通だったじゃないですか」

ちひろ(だからそれはプロデューサーの前だけなんですってば……敵意むき出しのまゆちゃんとそれをガン無視する凛ちゃんの構図が見えてないですね)

ちひろ「ああ、胃が痛い……胃薬が欲しいです」

モバP「今度差し入れましょうか」
ちひろ「結構ですから、今後は控えてください」

モバP「何をですか?」

ちひろ「察してください」

モバP「はあ……あ、すみませーん、ハイボール1つお願いしまーす!」

ちひろ「私はグレープサワーで! ……それでどうだったんですか、今日の撮影とかは?」

モバP「ばっちりですよ、まゆも凛もいつも以上に頑張ってました」

ちひろ「それは良かったですね…………あ、そういえば、まゆちゃんで思い出したけど、プロデューサーさんに説教しなくちゃいけない事があったんでした」

モバP「ええ、お酒の席で説教ですか……」

ちひろ「プロデューサーさん、前にも釘をさしましたよね? 強引なスカウトはダメだって」

モバP「されましたね」
ちひろ「やりましたよね、まゆちゃんをスカウトする時に」

モバP「え、まゆは普通にスカウトしただけですよ、強引じゃないです」

ちひろ「ウソですよ、本人が言ってました、最初にスカウトされてから次の日にまた会ったって……」

モバP「ああ、アレですか、ビックリしましたよ、偶然会えたので」

ちひろ「その時にスカウトしましたよね?」

モバP「してませんよ」

ちひろ「え?」

モバP「本人も急いでいたみたいですし、ちょっと世間話をしたくらいですね」
ちひろ「……あれ? ならその次の日に会った時に?」

モバP「それもビックリしましたよ、終電ギリギリで急いで仙台駅に行ったらまゆが改札の前にいたんですもん」

ちひろ「終電ギリギリ……?」

モバP「ええ、俺を見つけるなり、運命を感じましたって言ってきて……そのまま東京までついて来ようとしたので、押しとどめてご両親に会いに行きました」

ちひろ「……終電ギリギリって遅いですよね」

モバP「まあ新幹線だったんですが、それでも夜の10時前くらいに発車するやつでしたね」

ちひろ「……」
モバP「それでまゆを連れて行ったんですが、もう、ご両親にこっぴどく怒られましたよ、『まゆは今日、学校にも行かなかったんだぞ!』て」

ちひろ「え……それって……」

モバP「どうもまゆは朝から晩まで1日中仙台駅の改札にいたらしいですね、偶然ですけど会えてよかったですよ」

ちひろ「……」

モバP「まあその後、ご両親とは日が明けるまで話し合いまして、なんとかアイドルの件を了承してもらったんです」

ちひろ「……私がまゆちゃんから聞いた話とだいぶ話が違うんですが」

モバP「そうなんですか、まゆは感受性豊かですからね、きっと俺とは違う風に物事が見えているんでしょう」

ちひろ(そう言う問題ではないような……)
ちひろ「……まあ、強引な勧誘をしていないのなら、いないでいいんですけど……」

モバP「そうそう、あのやり方は凛の時に懲りましたって」

ちひろ「……凛ちゃんの時はすごかったですよね、スカウト受けているときに冷静に携帯で110番押すって」

モバP「俺は逆にそれで確信しましたよ、この娘は逸材だって」

ちひろ「まったく調子のいいこと言って……でも、そう考えれば随分丸くなりましたよね」

モバP「いやあ大変でしたよ、でも俺の思いが届いたんですね、今じゃあ押しも押されぬ事務所の顔ですし」

ちひろ「……そういえば、凛ちゃんのことでも聞きたいことがあったんですよね」

モバP「なんですか?」

ちひろ「あの娘『トップアイドルになるのはプロデューサーの夢だから叶えてあげる』て言っていたんです」
モバP「……ああ、あの時の事、覚えているんですね、きっと」

ちひろ「あの時?」

モバP「スカウトして間もないころ、いまいちレッスンに身が入っていなかったので一昼夜、凛と今後について語り合った事があったんです」

ちひろ「……そんなことしてたんですか」

モバP「はい、文字通り一昼夜ですので家に帰った後もメールと電話を使っていたんですが」

ちひろ「……よく着信拒否されませんでしたね」

モバP「あいつ、ああ見えて意外と付き合いはいいので……それにあそこで着信拒否されているようなら結局は続きませんよ」

ちひろ「はあ……それでどんなふうに語り合ったんですか?」

モバP「よくは覚えていませんが、確か『俺はお前をトップアイドルに絶対する、それが俺の夢で生まれた意味だ!』的なことを言った気がします」

ちひろ「随分、大袈裟に言いましたね……」
モバP「俺も熱くなっちゃってて……それで凛に『もし失敗したら責任とれるの?』て聞き返されました」

ちひろ「……なんて答えたんですか?」

モバP「『凛が諦めるまで絶対にそばを離れない、そして成功しても最後まで絶対そばにいる、それが俺の責任だ』て言いました」

ちひろ(……前の会話がないと完全にプロポーズじゃない、いや、前の会話があったとしてもプロポーズに聞こえる)

モバP「それ以来、向上心が出てきたみたいですね、結果が今です」

ちひろ「……まあ情熱的でよろしいんじゃないですか、ただ、そんなふうに愛想ばっかり振りまいて、刺されないでくださいね」

モバP「ちょ、怖いこと言わないで下さいよ、俺が誰に刺されるんですか」

ちひろ「知らないですよ、そんなの……ここは私への慰労も兼ねてプロデューサーさんが全部出してくださいね」

モバP「ひ、ひどい……」

翌日・事務所

モバP「うんうん、今日の2人一緒の仕事も息ピッタリだったな」

凛「まあ、仕事をこなすのは当然だし」

まゆ「ふふふ、プロデューサーさんに恥はかかせませんから」

ちひろ(……本当に仕事に支障がないのはすごいわね、凛ちゃんの鋼のメンタルとまゆちゃんの度を越した健気さだから出来ることだわ)

モバP「さて、それじゃあこれから次のイベントの打ち合わせだけど」

凛「まゆの仕事? 私はいいんだよね?」

モバP「ああ、そうだな」

まゆ「うふふ、帰っても大丈夫だってよ、凛ちゃん」

凛「とりあえず、終わったら声かけて、待ってるから」

ちひろ(……この前、他人の評判を聞く意味がないって本人は言っていたけど、やっとその意味がわかったわ、凛ちゃんは基本的にプロデューサーさん以外の言葉をシャットアウトしているのね)
モバP「じゃあ、行こうか、まゆ……とりあえず会議室に」

まゆ「はい、まゆとプロデューサーさんの2人だけの空間に」

ちひろ(……そしてまゆちゃんもプロデューサーさんには従順……結局2人ともプロデューサーさんが手綱を握っている限りは険悪な関係になっても一線を越えることはないかも)

モバP「ちひろさん、それじゃあちょっと会議室使いますね」

ちひろ「はい、どうぞ」

ちひろ(そうよ、滅多な事がない限りはこの絶妙なバランスは保たれるわ、滅多ことがなければ……例えばプロデューサーさんが同時に2人の手綱を放してまうだなんてそんなことが起こらなければ……)
モバP「あ、そうだ、忘れるところだった……まゆ〜」

まゆ「はい? まゆはここにいますが?」

モバP「あ、間違えた、凛、ちょっといいか?」

凛「……」

まゆ「……」

モバP「いやあ、まゆと凛って間違えちゃうんだよなあ、雰囲気が似てるからさ、それで……」

凛「……」

まゆ「……」

ちひろ(……もうこの男は1回刺された方がいいんじゃないかしら)

END

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