2013年11月09日

伊織「終わる連休と風邪っぴき」

以下のSSの続きとなります。

 1. 伊織「赤いボールペンと美希の丸文字」
 →http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365268927/


2. 伊織「眠れない夜と美希とのお風呂」
 →http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366039814/
 3. 伊織「この思いを、美希と手を繋いで」
 →http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366639646/


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367601086


 私の誕生日が「こどもの日」なのは、嫌味かしら。
 ……まぁ、そんなことを言ってもどうしようもないんだけど。

 「こどもの日」だし、誕生日はパーティーに参加していたので全然くつろぐことも出来なかった。
 私にとって、ただの慌ただしい一日だったのだ。
 正直、765プロのみんなに祝ってもらうまでは、私は誕生日が大嫌いだった。


 ……美希とこうして住み始めて、パーティーが開催されなくなって。
 「誕生日ぐらいは実家に顔を出せ」とお兄様には言われるけれど、みんな忙しくて家には居ない。
 だから、今日もこうやって美希との家で過ごしている。

 竜宮小町は、スケジュール管理が上手い律子が毎週休日を入れてくれているために、今日は休み。
 毎週毎週、ちゃんと休ませてくれることには感謝している。それに、誕生日は生っすかだ。
 これで、家に帰れない口実ができた。

伊織「……ね、美希」

美希「…………」

 …………その休日は、同居人のダウンによって『看病』へとシフトしているけれどね。


伊織「ぐっすりねぇ……ったく、元気でいなさいよ」

 昨日の夜に「なんだかカラダが重いから、ミキ寝るね」って布団にもぐって。
 朝、「冷えペタと氷まくら、頂戴」って対発熱セットを私に要求して。
 すぐ後に「熱、あるかも」って体温計で熱を測り、買ってあった市販の薬を飲んでそのまま眠ってしまった。

 これが美希のハイライト。

伊織「……?」

 ふとソファの方に目をやると、ソファの下から半分、紙がはみ出ているのが見えた。
 ピッ、と取り出す。

伊織「……これ…………」


 『星井美希はゴールデンウィークにアイスを30種類完食出来るのか!?』

伊織「……そりゃあ、風邪もひくわね」

 おそらく、美希がレギュラーで出演しているバラエティの企画書のようなもの。
 中に赤い字でいろいろ書き込んであるから、仕事で使ったんでしょうね。

伊織「誰よ、こんな仕事取ってきたの」

 1人しか居ないのよね。
 美希のプロデューサーはアイツだけだから。


伊織「文句の一つぐらいなら、言ってもいいわよね」

 この後、プロデューサーが我が家にやってくる。
 真面目で優しいアイツのことだから、きっとこの仕事も美希を信じて引き受けたんだろうけど。
 結果、完食出来たのかしら。出来ても出来てなくても、風邪をひいちゃ台無しよね。

伊織「…………全然起きない」

 すっかり掛け布団は横に追いやられている。毛布はおヘソ辺りまでしかかかっておらず、上半身は多少はだけている。
 パジャマはしっとり濡れているようにも見えた。



 襟の部分を掴むと、まるで水をかぶった後のように濡れていた。

伊織「みき、みーき、起きて」

美希「…………ん」

伊織「着替えた方がいいわ、自分で脱げる?」

美希「……でこちゃんが脱がせて?」

伊織「…………もう」

 仕方ないわね。でもまあ……病気なんだから、多少のわがままは可愛いもんか。
 美希の上半身をおこすと、ボタンを外していった。


 美希にタオルを渡して、身体の汗を拭かせる。本当は入浴が一番いいんだろうけど、風邪っぴきがお風呂だなんてとんでもない。

美希「よい……しょ」

伊織「下着は?」

美希「ん、着替える」

 美希がフラフラっと立ち上がって、下着に手をかけた。

 ……ところで、インターホンの音。

伊織「ちょ、ちょっと待ってて、美希。……はーい」

「よう、見舞いに来たぞ」

伊織「ちょっ、プロデューサー!? そこで3分待ってなさい!」

 プロデューサーだ。一方、美希はほぼ裸。

伊織「これ、新しい下着……だから、早く着替えちゃって。脱いだのはその辺に置いといて」

美希「はーい……なの」

 結局着替えには5分以上かかり、まだまだ冷たい風のふくこの季節に、プロデューサーはずっとマンションの廊下で待っていた。


美希「いらっしゃい、ハニー」

P「ハニーやめい」

 美希の「ハニー」に元気が無い。プロデューサーは「さっさと寝ろ」と美希を布団に戻した。
 2分ぐらいして、美希の寝息が聞こえてくる。

伊織「……こんなに、本当に良かったの?」

P「いいんだよ、早く治してもらわなきゃ」

 プロデューサーが持っていたスーパーの袋の中には、大量のスポーツドリンクと10秒メシゼリー。
 冷えペタシート。あと、いちごババロアが入っていた。

伊織「それに、病人がいちごババロアは食べないと思うけど」

P「完治記念、でいいだろ」

 アイツは笑う。床に座り、眠る美希を眺めながら。


P「美希、ハニーって呼んでたな。俺のこと」

伊織「そうね」

P「やっぱり、弱ってる時にはそういうのも戻っちゃうんかな」

伊織「……家ではずっと『ハニー』だけどね」

P「えっ、そうなのか?」

伊織「ええ」

 美希が『ハニー』を『プロデューサー』と呼び始めたのなんて、つい最近だ。高校に入学してからだから、1ヶ月弱。

伊織「アンタ、『ハニー』じゃないとやっぱり嫌だったりするの?」

P「そういうわけじゃないけど……」


P「他のみんなは、美希が高校に入って心機一転、なんだと思ってる」

伊織「え、違うの?」

 美希は最近「髪の毛切ろうかなぁ」だったり、とにかく去年と違う自分になろうとしている。
 その度に私が「別に変わんなくても、今のままの美希で充分よ」と言うんだけれど。

P「直接言われたよ、美希に」

伊織「何て言われたの?」

P「『ミキのハニーは、でこちゃんになっちゃったから』って」

伊織「へっ……?」


P「俺は、伊織と美希がそういう関係だ、ってこと知ってたからすぐに納得できたよ」

伊織「でも……美希、私の前ではアンタのことを『ハニー』って」

P「プロデューサーって呼ぶより分かりやすい、って思ったんじゃないか?」

伊織「そう……」

 美希のハニーが、プロデューサーから私になった。
 どういう言葉の意味かなんて、言わなくても分かる。美希は美希で、自分の想いをこうやって宣言していたのね。
 私が美希のお姉さん……菜緒さんに宣言したように。

P「なあ、伊織」

伊織「……なに?」


P「そろそろ、事務所のみんなに言ってもいいんじゃないかな」

伊織「……こういうことを?」

P「アイツらがどれだけ優しくて、なんでも理解してくれるか……伊織なら分かるんじゃないか?」

伊織「…………そうね」

 765プロのみんなは優しい。みんなに美希との関係を言ったとして、
 きっと否定的な言葉は出ないだろう。みんなの優しさは、私がよく知っているから。

 ……だから、

伊織「……私と美希が、それを言える状態にあるのか、よね」


P「状態?」

伊織「今は美希も私も、他のみんなも仕事が詰まってて、正直そういう話を出来るようなときは少ない」

P「確かに、全員集まるのは難しいだろうな」

伊織「それに、いつか伝えることだとは思うけれど、今急いで言わなくてもいいんじゃないか、って」

P「ん……そうか」

伊織「美希がどう考えてるかは知らないわよ? でも、私はこう思ってる」


 パサッ、という音。その方向を見ると、また美希が毛布と布団を追いやっていた。

伊織「もう……」

 毛布をかけ直そうと立ち上がって、美希の方へ向かう。

P「なあ、伊織」

伊織「ん?」

 毛布を掴んで、肩より少し下のところまでかけ直した。

P「美希との関係って、どう始まったんだ?」

伊織「…………」


 それは、どこを始点とするのだろう。
 この同居生活なのか、菜緒さんに話したところなのか、それとももっと前?

伊織「……」

P「ほら、美希との関係が始まった時と同じ雰囲気でみんなに……って、伊織?」

 気づけば、美希と一緒にアイドルをしていた。
 気づけば、美希の隣で笑っていた。
 ……気づけば、美希を『特別なスキ』になっていた。

伊織「……明確な始まりはないのかもね」

P「気がついたら始まってた、みたいな?」

伊織「ええ」


伊織「あいまいでいいのよね」

P「あいまい?」

伊織「美希との関係は、世間的には”おかしい”ものでしょう?」

P「……」

伊織「同性に恋愛感情を持っちゃいけないから」

 そんなの承知の上だ。

伊織「だから、このままあいまいでいいのかもしれない。聞かれたら言う、ぐらいで」

P「……うん、なんか伊織っぽいな」



伊織「え?」

P「伊織らしい、良い結論だと思うよ」

伊織「……当たり前よ、私を誰だと思ってんの」

P「明日16歳になるスーパーアイドルの伊織ちゃん、だろ?」

伊織「……」

 明日はついに誕生日。
 かつての、一年で一番嫌いな日。

P「今日中に美希には風邪を治してもらわないとな」

伊織「え?」

P「もちろん、事務所でお祝いするぞ。でもその後は2人っきりがいいだろ」

 プロデューサーは美希を見ながらニヤリと笑った。


P「連休の最後の日は、せっかくだから元気な美希と過ごせよ」

伊織「…………」

P「……じゃあ、看病に邪魔な第三者は帰りますかね」

 プロデューサーがカバンを持った。

伊織「あ、あの……ありがとね」

P「ん、差し入れか? 美希にちゃんとやるんだぞ」

 靴を履きながらアイツが言った言葉は、少しズレていた。

伊織「そ、そうじゃなくて」

P「へ?」

伊織「話……聞いてくれて」

P「あぁ……こっちこそ、楽しかったよ」

 鍵が開く音。アイツが扉を開けて、家を出た。

 一気に静かになる。


 ……美希の寝顔を見る。

 美希に、私にとっての明日のイメージを塗り替えて欲しい。
 パーティーに出るだけで、面白くない5月5日から、大好きな人と一緒に過ごせる素敵な誕生日に。

 ゴールデンウィークも残り少ない。
 私はスポーツドリンクのペットボトルを冷蔵庫に入れながら、未知の『恋人と過ごすバースデー』に思いを馳せていた。



 いおみきを書きたいのにそこに辿り着くまでが長いです。
 pixivにト市さんという素敵ないおみきを描かれる方がおり、その方の絵で妄想して書いています。ぜひどうぞ。
 お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。

13:00│水瀬伊織 
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