2013年11月09日

美希「深夜食堂、今夜も開店。なの」

1日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の1日は始まる。
 メニューは、豚汁定食・ビール・焼酎だけ。
 あとは勝手に注文してくれたら、できるもんは作るよってのが俺の営業方針だ。


人は「深夜食堂」って言ってるよ。
 ……客が来るかって? それが、結構来るんだよ。


ガラガラ
美希「こんばんはー、なの! マスター!」

マスター「おう、いらっしゃい」

 この娘は、星井美希ちゃん。765プロって言うアイドル事務所に勤めてるアイドルさ。

美希「おにぎり!」

マスター「具は、どうするんだ?」

美希「えーっと……、たらこ、ある?」

マスター「あるよ」

美希「じゃあ、たらこで3つ作って欲しいの!」

マスター「……あいよ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1359552491


 美希ちゃんは、いっつもおにぎりを頬張る。具は決まってるもんじゃない。
 たまに注文されるバターおにぎりは、彼女以外の客にも好評だ。

マスター「……はい、お待ち」

美希「やった! 待ってたの〜! いっただっきまーすっ」パクッ

美希「おいしいのーっ! やっぱりマスターのおにぎりは最高なの!」

ガラガラ
千早「…………こんばんは」

マスター「…………いらっしゃい」

美希「ちっ、千早さん? どうしたの?」

千早「美希、あなたこんな夜更けに大丈夫なの?」

美希「今日はこっちに泊まりだから関係ないのっ!」

 彼女は、如月千早ちゃん。美希ちゃんと同じ事務所の、アイドルだ。
 前にこの店に来た時には、その横にはプロデューサーが立っていたが、今日は彼女は一人だ。

マスター「ご注文は?」

千早「えっ……と、……オムライス、で」

マスター「あいよ」

 フライパンに油をしいて、卵をとくボウルを用意する。
 調理場から彼女たちの会話は聞こえていた。

美希「ねえ、千早さん」モグモグ

千早「なに?」

美希「どうしてオムライスなの? 確かに、マスターの卵料理は絶品だけど」

千早「……ええ、私、オムライスには思い出があるのよ。
   ――忘れられない、大切な思い出が」

美希「……弟さんとの?」

千早「っ……ぇ、ええ、そうね。ごめんなさい、突然言われたからびっくりして……」

美希「ううん、こっちこそごめんなさいなの。千早さんの弟さん……春香から聞いたことあるの。
   もしかして、オムライスは二人で食べたご飯なの?」

千早「ええ、というか……母が、私と優……弟に、よく作ってくれたの」

美希「思い出の味、なんだね」

千早「そうね。弟は、もういないけど……。オムライスを作ってくれなんて、半分けんか別れしたみたいな母親には言えないから。
   でも、ファミレスの味は私の思い出と……少し、ズレているの」

美希「だから、此処に来たんだね。……ハニーは、どうしたの?」

千早「プロデューサーと行った時、道を覚えたから。……今日は一人で歩いてきたのよ」

美希「そっか。765プロにも、このお店のファンが広がってるの。嬉しい、って思うな」

千早「前は、普通に豚汁定食だったけれど……。どうしても、今日食べたくなって」

美希「何かあったの?」

千早「今日、命日なのよ」


マスター「……お待ちどうさま、オムライスだ」

千早「ありがとうございます」

 千早ちゃんはスプーンを持って、ゆっくり、ゆっくりと一口ずつ食べ始めた。
 四、五口ほど食べた所で「おいしいです」と言って笑った。

千早「美希、やっぱり此処のお店はおいしいわ」

美希「良かったの。美希も嬉しいな」

千早「本当に、おいしい。バターの加減も、チキンライスの甘さも、卵のふんわりとした感じも。
   とっても、懐かしい」

 美希ちゃんが最後の一つのおにぎりを食べ終わった所で、千早ちゃんはふと言った。
 オムライスは半分ほど残っている。

千早「あの、マスター。これ、ラップに包んでもらっても良いですか?
   墓前に、備えたくて」

マスター「いいよ。タッパーはあるのかい?」

千早「……はい」

美希「半分こ、するの?」

千早「昔から私と優は、一つのお皿を半分こしていたのよ。
   きっと将来は、優が私の分までぜんぶ食べちゃって、それで…………って思ってた」

美希「……そうなんだ」


マスター「お待ちどう。美希ちゃんも、1000円ね」

千早「ありがとうございました、おいしかったです」

美希「美希、また来るね!」

 千早ちゃんがピン札、美希ちゃんが二つ折りの千円札を机に置いて帰っていく。
 ピシャン、と戸が静かに閉まった。

 ―― 「優、来たよ」 ――

 ―― 「これね、お店のマスターに作ってもらったオムライスよ。お皿じゃなくて、タッパーの中だけれど」 ――

 ―― 「昔は、なんでも半分こしていて。楽しかったわね」 ――

千早「ほんと、楽しかった……」

千種「千早?」

千早「……母さん」

千種「……来ていたのね。それは、オムライス……かしら」

千早「……ええ。昔、よく作ってもらった」

千種「誰が作ったものなの?」

千早「よく行くお店の、マスター。母さんの味によく似ていて、とってもおいしかった」

千種「…………そう」



千早「ねえ、母さん」

千種「何?」

千早「私に、今度オムライスを作ってくれないかしら? そして……半分ずつ、食べない?」

ガラガラ
美希「こんばんはー、なの」

貴音「今晩は」

マスター「いらっしゃい」

 美希ちゃんは、相変わらず765プロの同業アイドルをよく連れてきてくれる。
 アイドルにミーハーな客が、サインをねだってくるが彼女たちは断らずに笑顔で対応してくれている。
 どうやら、プロデューサーの兄ちゃんに「深夜食堂の客はみんな仲間」って言われているらしい。

男客A「マスター、俺おにぎり!」

美希「あー、マネしないでほしいな! 美希もおにぎり!
   今日の具は……食べるまで分からないような、マスターのおすすめ!」

マスター「あいよ。……そっちのお客さんは?」


貴音「それでは、らぁめんをお願い致します」

マスター「醤油ラーメン?」

貴音「はい」

マスター「あいよ」

 千早ちゃんは、あれ以来顔を見せなくなっていた。
 美希ちゃんの話によると、母親のオムライスを食べることが出来たらしい。

マスター「……美希ちゃん」

美希「どうしたのマスター?」

マスター「……また、千早ちゃんは来てくれるかねぇ」

美希「来るよ」

 ……即答だった。

マスター「どうして分かるんだ?」

美希「だって、千早さん言ってたの」

 ―― 『今度は、半分じゃなくて。……まるごと、全部食べに行きたいわ』 ――

貴音「……ますたぁ。やはりわたくし、おむらいすに致します」

マスター「え?」

貴音「……わたくしも、なんだか味わいたくなりました。”懐かしい味”の、おむらいすを」


マスター「……あいよ!」


第一話『オムライス』

千早「今日は、オムライスを作る時のワンポイントアドバイスです」


千早「オムライスは、卵とチキンライスのバランスがよくなければ美味しくありません。
   気をつけましょう」


千早「バターは計二つ。入れるタイミングは、フライパンに流した卵が少し固まってきた時が一つ目。
   完成したオムライスのチキンライスの中心に埋めるのが二つ目。高カロリーですが、とても美味しいです」


千早「オムライスの、ワンポイントアドバイスでした」

 初SSですので、お見苦しい点が在ると思います。
 一応、全員分を書いてみたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 今回の話のように、13人分のアイドルの料理をやるわけではありません。
 全員を登場させたいので、頑張ります。

 P=マスターではありません。ドラマ準拠なので、小林薫サンを思い浮かべながらご覧ください。

 また明日頃、書かせて頂きます。

 1日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の1日は始まる。
 メニューは、豚汁定食・ビール・焼酎だけ。
 あとは勝手に注文してくれたら、できるもんは作るよってのが俺の営業方針だ。

 人は「深夜食堂」って言ってるよ。
 ……客が来るかって? それが、結構来るんだよ。

ガラガラ
響「はいさーい、マスター!」

あずさ「こんばんは〜」

真「こんばんは!」

マスター「おう、いらっしゃい」

 最近、嬉しいことだが765プロのアイドルがよく店に来るんだ。
 一番最初に入ってきた、戸を開けた娘が、我那覇響ちゃん。沖縄から単身上京して来ているんだってさ。

響「いつもの、トマトリゾットで!」

あずさ「じゃあ、軽いおつまみと、ビールを〜」

 三浦あずさちゃん。765プロでは数少ない成人らしいけど、俺から見ればまだまだ若いお姉ちゃんだ。

真「ボクは……えーっと、カツサンド! みたいなの、出来ますか?」

 菊池真ちゃん。実際にこうして見るのは初めてだ。よく食いそうだなぁ。

マスター「あいよ」

 最初に作るのは、カツサンド。パンを用意し、カツにパン粉を付ける準備だ。
 同時に、あずさちゃんのおつまみを作る。
 冷蔵庫に小松菜とベーコンがあったので、バターで軽く炒めることにした。

ガラガラ
遠藤「おいっす、親父」

響「遠藤のおじさん、はいさーい!」

遠藤「おぉ、響ちゃん、あずさちゃん。あと、真ちゃん。よくテレビ見てるよ」

マスター「いらっしゃい」

 厨房から入口を見ると、常連の遠藤さんが来ていた。
 このへんの会社に勤めるサラリーマンの親父だ。765プロのアイドルとよく話し、相談相手になってやってるらしい。
 遠藤さんがやって来ると、このめしやはたちまち、相談室に様変わりするんだ。

遠藤「俺は、とりあえずビール」

マスター「あいよ」

 フライパンの上で踊る小松菜とベーコンが、バターと合わさって良い風味を奏でている。
 やがて皿に盛りつけ、ビールを2杯。あずさちゃんと遠藤さんに、おつまみとビールを出した。

マスター「お待ちどう。遠藤さん、おつまみはあずさちゃんのオーダーだけど、サービスするよ」

遠藤「おう、嬉しいね。じゃあ、あずさちゃん。乾杯」

あずさ「はい、乾杯!」

 カツサンドとトマトリゾットを出した時、ちょうど真ちゃんが遠藤さんと話していた。

遠藤「俺は、真ちゃんはそのままで充分いいと思うんだけどねぇ」

真「でも、ボクは今『王子様』のお仕事しか、来ないんですよ」ハムッ

遠藤「いやぁ、お仕事があるだけいいことだよ。
   王子様の仕事を100こなせば、10ぐらいはお姫様のお仕事が来るだろう?」

響「そうだぞー。真は今のまま頑張れば大丈夫さ!」

あずさ「あらら、そういう響ちゃんはどうなのかしら〜?」

響「ふふん、あずささん! 真、遠藤のおじさん。見くびらないで欲しいぞ! 自分、完璧なんだからね!」

遠藤「はいはい、響ちゃんの『完璧』は何遍も聞いてるよ」

響「うがーっ! 別に軽々しく言ってる訳じゃないぞ〜っ!」

 遠藤さんは黒縁の眼鏡をくいっと上げて、笑う。

遠藤「……まぁ、真ちゃんは……頑張りなさい。きっと大丈夫」

真「は、はい! ありがとうございます!」

 こうやって、765プロのアイドルだけじゃない……他の客も、遠藤さんに諭されて元気を取り戻していく。

遠藤「さて、と。……そろそろ、帰るよ。お金置いておくから」

マスター「ああ」

 遠藤さんは1000円札を置いて、ゆっくりと出て行った。

 同じ柄なのに、お札の出し方やその折れ目は三者三様だったね。

真「カツサンド、本当に美味しかったです! ありがとうございます、マスター!」

あずさ「マスターや遠藤さんのお話を聞きながら、みんなと飲むお酒とおつまみは本当に美味しいです〜。
    今度、職場の事務員さんも連れてきてもいいですか〜?」

マスター「ああ、いつでもいいよ」

響「それじゃあ、マスター。そろそろ帰るね! 一応自分達、前からこのお店に来たかったから、
  明日は午前にオフを取ってたんだ」

マスター「そうか、ありがとうな」


真「それじゃあ、また来ます!」

あずさ「おやすみなさい〜」

響「じゃあね、マスター!」

マスター「おう、また来いよ」

 戸が閉まる。時計を見ると、もう四時半ぐらいだ。
 近くのバーのおっちゃんは、五時過ぎから来ることもあるんだ。
 それまでに、皿でも洗っておこうか。

P「響、本当に大丈夫なのか? その捻挫。
 せめて、貴音と美希には伝えたほうがいいんじゃないか?」

響「大丈夫だぞ! 自分が迷惑かけるにはいかないから」

P「そうか……? じゃあ、何かあったらすぐに撮影、中止するからな。
 『ヴァンパイアガール』のPV撮影は、いつにでも変えられるから」

響「うん! じゃあ、スタジオの方に行ってくるね。美希と貴音、いるんでしょ?」

P「ああ。気をつけて行ってこいよ」

 ――

響「おまたせー!」

美希「あーん、響ぃ、遅いの!」

貴音「待ちくたびれましたよ、響」

響「2人とも、待たせてゴメンね!」

貴音「いえ。……響、美希。実は、この撮影所のすぐそばに有名ならぁめん店があるのです。
   仕込みの時間が3時からなので、食べに行きませんか?」

美希「さんせーなの! 貴音が言うってことは、きっとすっごく美味しいのっ!」

響「分かった! まだ12時半だし、大丈夫だよね!」


ガラガラ
響「…………こんばんは」

マスター「……いらっしゃい」

 煙草を片手に新聞を読んでいると、響ちゃんが一人で入ってきた。いっつも友達と一緒にいるんだけどな。
 そして、暗い表情をしている。コートの色も黒で、響ちゃんらしさがまるでなかった。

響「……え……っと、トマトリゾットで」

マスター「……あいよ」

 トマトリゾットは、思われているよりも作りやすい料理だ。
 そりゃあ、多少の仕込みは必要だけれど、それでも充分に作りやすく、味も整う。

 暗く、下を向いたままの響ちゃんに料理を出した。

マスター「……お待ちどうさま」

響「……ありがとう、マスター。いただきます」

 手を合わせて、スプーンで一口、一口とゆっくり食べていく。

響「おいしい。おいしいな。やっぱり」

マスター「…………どうしたんだよ」

響「えっと…………」

 響ちゃんはスプーンをリゾットの皿に立てかけた。

響「自分、失敗しちゃったんだ」

マスター「……何を?」

響「この間自分、このお店に来たでしょ。あの次の日、右足を捻挫しちゃって」

マスター「それで?」

響「2、3日は特にダンスを踊ったりすることもなくて、なんともなかった。
  なんとなく、痛みも引いてきている気がしたんだ。

  でも、今日『ヴァンパイアガール』って曲のPV撮影があって。PVだから、当然歌って踊るんだ。
  自分、捻挫だってことをプロデューサーにしか言わないで、一緒に撮影した美希と貴音に隠してたんだ」

 響ちゃんはスプーンを持って、また一口ずつ食べ始めた。

響「撮影が始まるちょっと前、貴音が『スタジオの近くにあるラーメン屋に行きたい』って言ったんだ。
  そこって3時から仕込みで、そうなると8時まで閉まってるんだけど、その時はまだ12時半ぐらいだったから、
  余裕だと思って『一緒に行こう』って」

マスター「ああ」

響「それでも、捻挫がやっぱり、まだ治ってなくて。転んじゃって。それで焦って、声も出なくて。
  でも自分、『まだやれます』って言い続けて……撮影が中止になったのは、3時すぎだったんだ」

マスター「……ラーメン、食べられなかったのか」

響「直接は言わなれなかったけど、きっと貴音……悲しんでた。
  美希は励ましてくれたけど。自分、何にもできなかった」

マスター「別にさ、そんなに思いつめることないんじゃないかな」

響「……でも、自分」

ガラガラ
遠藤「よう。響ちゃんも来てたのか」

マスター「いらっしゃい」

響「……遠藤の、おじさん」

遠藤「おいおいどうした? 珍しく元気ないじゃねぇか。完璧じゃないのか?」

響「…………、……うん」

遠藤「…………ビール、もらえる?」

マスター「あいよ」


 遠藤さんが「詳しく聞かせてほしい」と言って、響ちゃんが俺に話したことと同じ内容を言った。
 ビールを出すと、遠藤さんは小さく会釈をした。

遠藤「難しく考えることないぞ」

響「えっ?」

遠藤「ラーメンが食えなかったのなら、今度貴音ちゃんを連れて行けばいいんだろ」

響「…………でも、きっと貴音は今日食べたかったって思うんだ」

遠藤「別に貴音ちゃんは、今日食うとか明日食うとか、そんなことにこだわってないだろう。
   美希ちゃんと、響ちゃんとの3人で、ラーメンを食いたかったんだろ」

響「え……」

遠藤「今日食いたかったんだったら、夜にとっくに出かけてるさ。8時からは開いてるんだろ?」

響「うん」

遠藤「でも、きっと貴音ちゃんは食いになんて行ってないよ。だって、響ちゃんと食いたいんだから」

響「そう、なのかな」

遠藤「ああ。…………ところでさ、そのトマトリゾット。毎回食ってるよな。なんか意味とかがあるのか?」

響「えっと、これは……思い出の食事、みたいな」

遠藤「おふくろの味?」

響「ううん。自分、実家が沖縄なんだ。それで、アイドルになりたくて上京してきた時に、
  東京の定食屋さんではじめて食べた食事なんだ。なんで定食屋にトマトリゾットが、って思って」

遠藤「そうか」

響「うん。…………どんな食べ物よりも、おいしかった。それ以来、自分を勇気づけたい時とか、そういう時に食べてるんだ」

遠藤「そういう味は、大切にしなさい」

響「うん、ありがとう、おじさん。……マスター。おいしかった。ごちそうさま」

マスター「おう、お粗末さま」

響「…………ちょっと、元気でたかも」

 響ちゃんは1000円を取り出して、カウンターに置いた。

響「それじゃあ、マスター。遠藤のおじさん。また来るね」

遠藤「気をつけて帰れよ」

マスター「おやすみ」

 響ちゃんは自分の頬を数回叩いて、「よし」と呟いて戸を開ける。

 ――開けた先に、貴音ちゃんが立っていた。

響「うわぁ! たっ、貴音……?」

貴音「響! ここに居たのですね……。携帯にも通じず、家にも居なかったので心配で……」

 貴音ちゃんは自分の携帯を握り締めている。

響「あ、あの、貴音。今日、ラーメン食べられなくて、ごめんなさい」

貴音「え……? ……響。そんなことを、気にしていたのですか?」

響「そ、そんなことなんて言わなくてもいいだろ!」

貴音「いいえ、そんなことです。貴方が謝ることなんてないのです。
   ……わたくしはラーメンでなくても、響や美希と一緒に食事が出来れば。
   二人の笑顔を見ることが、わたくしの一番の幸せです」

響「た、貴音……」

貴音「わたくしは今から、せっかくですのでこのお店でらぁめんを頂きます。
   響。隣にいてくれませんか?」

響「……うんっ!」


第二話『トマトリゾット』

響「トマトリゾットのワンポイントアドバイスだぞ!」


響「トマトリゾットを作るんだったら、やっぱり本物のトマトがいいかな!
  2〜3個買ってきて、ミキサーを使って上手く調理しよう」

響「ご飯にはもちろん水を入れるけど、べちゃべちゃにならないようにした方がいいぞ。
  それでも、そのご飯が好きな人なら、適量で。要するに、好みってことさ」

響「トマトリゾットのワンポイントアドバイス、終わり! また見てねっ」

 響がお仕事で失敗して落ち込むお話にしよう、となんとなく思ったのですが、
 マスターに多くを語らせるのも『深夜食堂』っぽくないなぁ、と思い、
 勝手ながらオリジナルキャラクターの遠藤さんを使わせて頂きました。

 オリジナルキャラクターがあまり好きじゃない方もいると思ったので、
 高木社長に置き換えても違和感のないようにしました。

 第一話より全体的に台詞も長くなってしまいましたが、お付き合いいただきありがとうございました。
 また明日頃、書かせて頂きます。

 1日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の1日は始まる。
 メニューは、豚汁定食・ビール・焼酎だけ。
 あとは勝手に注文してくれたら、できるもんは作るよってのが俺の営業方針だ。

 人は「深夜食堂」って言ってるよ。
 ……客が来るかって? それが、結構来るんだよ。


ガラガラ
伊織「へぇ、ここがお店なのね」

雪歩「こんばんは、マスター」

マスター「いらっしゃい」

 3時を過ぎた頃だったかな。アイドルの2人が店にやってきた。
 萩原雪歩ちゃんは常連で、水瀬伊織ちゃんがここに来るのは初めてだ。

伊織「本当にどんなものも作ってくれるの?」

マスター「できるもんは作るよ」

伊織「雪歩は、何を頼むのよ」

雪歩「私は、いつものハニートーストを頼むよ。マスター、お願いします」

伊織「じゃあ、よくわかんないけど、私もそれ」

マスター「あいよ」

 俺はトーストを二枚取り出して、冷蔵庫からマーガリンとパンケーキシロップを持ってきた。

伊織「……いい雰囲気じゃない?」

雪歩「そ、そう? 良かったぁ。伊織ちゃんが気に入ってくれるか、不安だったんだけど」

伊織「私、基本はどんなお店も、どんな食事も好きよ」

雪歩「でも、さすがにファーストフードは嫌だよね?」

伊織「極論ねぇ、アンタは」

 マーガリンをたっぷり塗った二枚のトーストをオーブンに入れる。
 目盛りは3。3分が、丁度いい焼き加減なんだ。

伊織「明日と明後日、オフなのよ」

雪歩「伊織ちゃんが?」

伊織「私っていうか、竜宮小町ね。最近働き詰めだったでしょう?
   『ファーストバイト』のPVやジャケット撮影、どっとっぷTVの出演。おまけにイベントも多かったしね」

雪歩「確かに、そうだね。事務所全体で仕事は増えたけど、竜宮小町はもっと増えてるもん」

伊織「『七彩ボタン』を歌った時、律子とアイツに褒められたのが嬉しかったわね……。
   あ、これみんなには言わないでよ!」

雪歩「わ、解ってるよ……」

 

伊織「雪歩達も、随分と忙しいみたいじゃない?」

雪歩「そ、そうかな、えへへ……。最近だと、千早ちゃんと一緒に『Little Match Girl』のPVを撮ったけれど」

伊織「あれ、竜宮には合わない曲よね。やっぱり歌いこなせるのは雪歩だけよ」

雪歩「なんか今日の伊織ちゃん、饒舌だね。お酒飲んでるみたい」

伊織「アンタね、アンタが未成年なのにその年下の私が飲めると思う?」

雪歩「だよねぇ」

 チン、とオーブンが音を立てた。
 取り出した2枚の焼きたてのトーストに、ホットケーキシロップをたっぷりとかける。
 最後に砂糖をひとつまみ、トーストにまんべんなく。これで完成だ。

マスター「お待ちどう、ハニートースト」

雪歩「うわあ、おいしそう! いただきます!」

伊織「……これ? ハニートーストって」

雪歩「ん、おいしいっ! ……え、そうだよ?」パクパク

伊織「ま、まぁ見た目が質素でも、味はわからないわよね」パクッ

 あとで聞いたが、伊織ちゃんの実家はお金持ちらしい。
 伊織ちゃんは怪訝そうな目でトーストをじっと見て、やがてパクッと一口食べた。

伊織「……おいしい」

雪歩「あ、よかったぁ」

伊織「甘いわね、でも深夜に食べる分には丁度いい甘さだわ」

雪歩「ね、これをお昼に食べても、あんまり美味しくないんだよ」

マスター「雪歩ちゃん、俺が出してからずっと頼んでるよな」

雪歩「はい、これとっても元気が出ますから」

伊織「ん……出してから、ってことは、最初から雪歩が頼んだわけじゃないの?」

雪歩「うん。最初、私は『お茶漬けシスターズ』さんにならって、お茶漬けを頼んでたんだ」

伊織「誰それ。……そういうお客さん?」

マスター「ああ。俺が勝手に呼んでるんだけどな」

雪歩「プロデューサーは、いっつもしょうが焼きで。それが好きで、その匂いを嗅ぎながらお茶漬けをすすってたんだけど。
   ちょっと前、眠れなくてフラッとこのお店に来た時があったんだ。
   それで、『甘いものをください』って言ったら、これをマスターが出してくれたの」

伊織「へぇ、そんなことがあったのね。それ以来、ずっと?」

雪歩「うん! おいしいからね」

伊織「確かに……納得だわ。夜に甘いものを食べると、元気出るもの」

雪歩「だから、ずっとマスターには世話になってるの。男の人だけど、怖くないし」

 ふぅん、と伊織ちゃんは言って、トーストを完食した。

 ――――

伊織「ねえ、新堂。シェフを呼んで頂戴」

新堂「かしこまりました」

 ――――

シェフ「ハニートースト、ですか」

伊織「ええ。あの味を、再現して欲しいのよ」

 ――――

伊織「ごめんなさい、やっぱり少し違うわ」

シェフ「お力添えできず、申し訳ありません」

 ――――

伊織「……何か、何かが足りない。
   あのマスター、ただはちみつをかけただけじゃないのかしら?」

伊織「……行ってみるしか、なさそうね」

ガラガラ
伊織「こんばんは」

マスター「おう、いらっしゃい」

伊織「ハニートースト」

マスター「あいよ。雪歩ちゃんの影響か?」

伊織「そうかもね」

 トーストをオーブンに入れる。

伊織「ねぇ、マスター」

マスター「どうした?」

伊織「それ、隠し味とかある?」

マスター「いいや。……どうして?」

伊織「今日、うちのシェフに作ってもらったのよ。ハニートースト。
   やよいって娘がいるんだけど、遅くまで起きていられないから。
   でも、昨日のあの味にならないの。はちみつをかけているのにね」

マスター「ああ、じゃあならないさ。俺がかけてるのははちみつでも、
     ホットケーキシロップだからな。あと、仕上げに砂糖をひとつまみ」

伊織「そうなの?」

 あと、オーブンのつまみは3分だ。
 まあ、伊織ちゃんの家ではトーストをオーブントースターで焼くとは限らないか。

マスター「まあ、それであの味になるだろ」

伊織「すごいわね。うちのシェフにならない?」

マスター「光栄だけど、遠慮しとくよ。
     俺には伊織ちゃんの住んでいるようなきらびやかな豪邸より、新宿の裏道にあるめしやのほうが似合うからな」

伊織「なによ、その謙遜」

 無言になってしばらくすると、チンと音がなった。

マスター「お待ちどう」

伊織「ありがとう。……いただきます」ハムッ

 伊織ちゃんは微笑んで何度も頷く。

伊織「美味しいわ、やっぱり。
   それから、この味はここ以外で食べるものじゃない、って気づいたわ。
   友達は眠い目こすらせてでも連れてくるわよ」

マスター「……待ってるよ」

 それから、2日ぐらい経ったかな。
 伊織ちゃんはその友達、やよいちゃんだけでなく、大所帯で店に来た。

伊織「こんばんは」

やよい「こんばんは〜」

真「お久しぶりです!」

千早「お久しぶりです、マスター」

マスター「おう、いらっしゃい」

 他のお客さんは進んで端の席に移動してくれた。
 四人並んで、声を揃える。

「ハニートースト、お願いします!」

マスター「あいよ」

 さすがにトースト4枚は一気に焼けない。
 先にやよいちゃんの分を作ることにした。

 先にやよいちゃんと千早ちゃん、次に伊織ちゃんと真ちゃんのトーストを焼き、同時に渡した。

「いただきまーす!」

 『深夜食堂』らしからぬ、元気な甘い声が響く。

千早「おいしい……甘くて美味しいです、マスター」

真「ん、素朴ですけど美味しいです!」

やよい「すっごく美味しいです〜! これ、家族にも作ってあげたいかなって!
    おやつとかに、ちょうどよさそうです!」

 俺が作り方を簡単に教えようとしたところを、伊織ちゃんが言葉で遮った。

伊織「やよい、残念だけどそれは駄目よ。
   このハニートーストはね、このめしやで、この時間帯に、マスターの真心がこもってるものじゃないと
   美味しくないんだから」

千早「真心?」

真「どういうこと?」

やよい「え?」

 伊織ちゃんは顔を赤らめた。

伊織「……よ、要するに! マスターのトーストが一番美味しいってことよ! にひひっ」



第四話『ハニートースト』
伊織「ハニートーストのワンポイントアドバイスっ!」


伊織「はちみつもいいけど、やっぱり市販のホットケーキシロップが合うわ!」

伊織「ふりかける砂糖は本当に少し。ひとつまみぐらいね」

伊織「ハニートーストのワンポイントアドバイス、終わり。またあしたね、にひひっ」
 
 最初はメインが雪歩だったんですが、今ではこっちのほうがしっくり来ます。
 ハニートーストは夜に食べると美味しいです。カロリーは気にしない方が良いですが……。

 明るめの話に出来たか心配です。今から読み返してみようと思います。
 >>51 の名前欄は書き間違えです。SSとしては、あと2話ぐらいを予定しています。

 本家よりも遅いような投稿時間ですが、本日もお付き合いいただきありがとうございました。
 明日はもう少し早めに、書かせて頂きます。

 1日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の1日は始まる。
 メニューは、豚汁定食・ビール・焼酎だけ。
 あとは勝手に注文してくれたら、できるもんは作るよってのが俺の営業方針だ。

 人は「深夜食堂」って言ってるよ。
 ……客が来るかって? それが、結構来るんだよ。

ガラガラ
亜美「こんちは、タイショー」

真美「へいタイショーっ」

小鳥「こんばんは、マスターさん」

マスター「……いらっしゃい」

 双海亜美ちゃんと双海真美ちゃんは双子のアイドルだ。
 その子守役は、765プロで働く事務員の音無小鳥ちゃん。

真美「月見うどん!」

小鳥「えーっと、豚汁定食とビール」

亜美「きんぴらごぼうで!」

マスター「あいよ」

 亜美ちゃんが頼むのは、毎回きんぴらごぼう。
 なかなかシブい趣味だと思うよ。

真美「ねー、亜美」

亜美「ん?」

真美「どしてきんぴら?」

亜美「んー、なんでかなぁ。美味しいから?」

小鳥「確かに、女子中学生としては、ちょっとシブいわね」

亜美「そかなぁ」

 初めて亜美ちゃんがめしやに来た時は、横にプロデューサーの兄ちゃんがいたんだ。
 プロデューサーの兄ちゃんはカツ丼を頼んだけれど、亜美ちゃんは「夜には食べられないよ」と言って
 俺におすすめを聞いてきた。

――――

P「亜美はどうする?」

亜美「うーん、同じのにしようと思ったけど、カツ丼はさすがに食べられないよ。
   タイショー、今すぐ食べられるものとかってある?」

マスター「今は……きんぴらごぼうとか、あと」

亜美「じゃあ、それで! きんぴら!」

マスター「……あいよ」

P「あ、それと――白米も、お願いします。
 ……なあ亜美、お前きんぴらごぼうなんて食べられるのか?
 おとなの味だぞ」

亜美「兄ちゃん、『おとなのはじまり』を亜美達に歌わせたのは兄ちゃんっしょ?
   もう亜美達はおとななんだよ、きんぴらもきっと美味しいよ」

P「そ、そうか」



マスター「お待ちどう、きんぴらごぼうだ。それと、白米。
     カツ丼は、もうちょっと待ってくれ」

亜美「いただきまーす!」

P「まった、亜美。白米も一緒に食べろ」

亜美「えっ、なんで?」

P「その方が旨い。きんぴらってそういうもんだよ。
 メイン料理に飽きた時の箸休め、みたいな。それだけはあんまり食わない」

亜美「そうなんだ」パクッ

亜美「ん、おいしい……」

P「俺にもちょっと分けてくれよ」

亜美「いいよ」

 プロデューサーの兄ちゃんは割り箸を取ると、
 箸をきんぴらごぼうに伸ばして少しつまむ。

P「……うまいな、このきんぴら。
 マスター、うまいです! 俺のカツ丼にもつけて下さい」

マスター「……あいよ」

亜美「んー、白米と一緒に食べるともっとおいしいね」

P「ああ、なんていうか…………きんぴらって、優しい味だよな」

亜美「うん。優しい味だね。……真美にも、食べさせたいな」

P「真美、喜ぶかな? 中学生にしてはシブ過ぎないか?」

亜美「うーん、そうかもしれないけど……大丈夫っしょ。
   真美グルメだから、本当においしいものは食べるよ」

P「そうかもな」

――――

 そして今日、初めて亜美ちゃんと真美ちゃんが揃ってめしやに来た。
 竜宮小町というグループの亜美ちゃんと、ソロの真美ちゃんはなかなかオフが合わないらしい。
 未成年のアイドルにとって、深夜に外出してここまで来るのは休日の前でもないと辛いのかもな。

マスター「お待ちどう。きんぴらと、豚汁定食と、ビールだ。
     うどんは、もうちょっとだけ待っててくれ」

 亜美ちゃんと小鳥ちゃんの前に、料理を出す。
 きんぴらと一緒に白米を出すのも、亜美ちゃんと俺との間で暗黙の了解となっていた。

亜美「わーい、いただきまーす!」パクッ

小鳥「じゃあ真美ちゃん、お先に……」

真美「うん、食べちゃってー」

亜美「……ん、やっぱおいしい」

小鳥「ね、亜美ちゃん。ちょっとあたしにきんぴら、分けてくれない?」

真美「あ、じゃあ真美にも」

亜美「いいよ。この味は、みんなにも食べてほしいからね」

 亜美ちゃんが皿を動かすと、小鳥ちゃんはビールと一緒に、真美ちゃんは少しだけ箸できんぴらをつまんだ。

小鳥「これ、今まで食べたきんぴらの中でも一番に美味しいわ。
   ……やっぱりビールと合うわ」

真美「おいしいね、これ。真美でも食べられるよ」

亜美「なに、真美好き嫌いあるの〜?」

真美「な、ないよっ! ない、けど……おいしい」

亜美「うん、おいしいね」

マスター「絶賛だなぁ。お待ちどうさま、月見うどん」

真美「わーい! あ、ねえねえタイショー。きんぴらつけてよー」

小鳥「あ、じゃああたしの定食にも、きんぴらを」

マスター「あいよ。……サービスするから」

――――

 その3日後ぐらいだったかな。
 『アイドル双海亜美さん(13)、事故に遭い軽いけが』ってニュースを聞いたのは。
 きんぴらごぼうのオーダーは減ってしまったな。

 ――前に亜美ちゃん達が来た時から1週間が過ぎた、午前2時。

ガラガラ
真美「タイショー!」

小鳥「こんばんは、マスター」

マスター「……いらっしゃい」

 真美ちゃんと小鳥ちゃんがやって来て、俺にこう言ったんだ。

真美「タイショー、真美にあのきんぴらの作り方、教えて!」

小鳥「亜美ちゃんが病室で、どうしても食べたがっていて……。
   明後日退院出来るんですが、お仕事はまだ復帰できないみたいで」

マスター「……分かったよ。一緒に作るんだな?」

真美「うんっ」

 幸か不幸か、客はさっき出たところでだあれも居なかった。
 真美ちゃんにきんぴらをレクチャーするには、丁度いい時間だったんだ。




 小鳥ちゃんにごぼう、真美ちゃんににんじんの千切りを頼んだ。
 二人共とても器用で、俺よりも包丁の扱いには手馴れているように見えた。
 俺は横で口をだすだけで、ほとんど真美ちゃんが作っていたな。

マスター「油、まわったか?」

真美「ええっと、あとちょっと……うん、まわったよ」

マスター「そうしたら、砂糖を入れるぞ。大さじで2杯ぐらいだ」

真美「うん、お砂糖を、大さじで、2杯」

小鳥「真美ちゃん、気をつけてね」

 醤油とみりんを入れる前に、砂糖を多めに入れるんだ。
 こうすると、一層味が引き立つ。

マスター「……あとは、水気の無くなるまで炒めれば完成だ」

真美「うん! 絶対、亜美に持ってく!」

小鳥「ああ、えっと、お皿と、ラップ……用意しなきゃ」

真美「できた!」

 真美ちゃんは完成するやいなや笑顔で叫んだ。
 小鳥ちゃんが用意した皿に盛りつけて、自分でラップをする。

真美「ありがとー、タイショー! 明日あさイチで持って行くよ」

小鳥「本当に、お忙しいなかありがとうございます」

マスター「気にすんな、サービスするから」

小鳥「すみません……」

 財布からお札を出しかけていた小鳥ちゃんは、それをそっとしまった。

マスター「そのかわりさ」

小鳥「はい!」

マスター「亜美ちゃんをまた、連れてきてよ」

小鳥「……もちろん!」

 最後に二人は深々と頭を下げて、店を出て行った。



司会者「……ではこのコーナー、『ディープクエスチョン』!
    今日はこの質問に答えて頂きます。……『好きな食べ物』!」

伊織「あら、これはもうあれしかないわね、亜美」

あずさ「亜美ちゃんと言ったら、あれしか思いつかないわ〜」

亜美「うん、そだね」

司会者「おっと! イケイケ中学生の亜美ちゃんの好きな食べ物は?」

亜美「亜美はね、きんぴらごぼう」

司会者「きんぴらごぼう? そりゃまたシブいねぇ。うまいけど」

亜美「うん。前に亜美が事故に遭って入院した時ね、
   真美が頑張って作って持ってきてくれたんだ。
   元々、きんぴらごぼうが好きだったんだけど……もっと好きになっちゃった」

司会者「そうだったんだ……。すごく嬉しかったでしょう?」

亜美「嬉しい、なんてもんじゃないよ!
   不器用な真美が、料理を作ってきてくれるんだよ?
   亜美、すごくうれしくて。でも、そのはずなのに、涙が止まらなかったなぁ」

あずさ「それ以来、真美ちゃんはよくきんぴらごぼうを作って、
    事務所のみんなに振舞ってくれるんです〜」

伊織「最近はレンコンのきんぴらとかも作ってくれるのよ。
   全然飽きない味だわ」

司会者「僕も一度食べてみたいなあ、亜美ちゃんのきんぴらごぼう――」



ガチャン
亜美「ちょっとジュース買ってくるね〜。……あっ」

律子「気をつけなさいよ、亜美」

P「おう、亜美」

亜美「りっちゃん、兄ちゃん。どして楽屋入らないの?」

律子「プロデューサーと話さなくちゃいけないことがあったんだけどね」

P「乙女の部屋に男がそうやすやすと入るもんじゃないだろう?」

律子「って言って聞かないのよ」

亜美「そんなこと、いおりん以外は気にしないっしょ!」

P「ほら、やっぱり伊織は気にするじゃないか。
 ……なあ、亜美。真美のきんぴら、嬉しいか」

亜美「うん! 真美、家で朝早く起きて作ってるのに、全然見せてくれなくて。
   事務所に行かないと、食べられないんだよ〜?」

律子「真美、頑張っているものね。音無さんも何度も言ってるわよ」

P「なあ。…………亜美はさ、もう深夜食堂に行かなくてもいいのか?」

亜美「えっ……? なんで?」

P「だって、真美がきんぴら、作ってくれるだろ」

亜美「んーとね」

律子「……?」

亜美「……やっぱり、真美のきんぴらと、タイショーのきんぴらは別っしょ。
   どっちもおいしいし、どっちも食べたい味だもん」

P「……そうか」

亜美「うん。だから兄ちゃん、りっちゃん。
   …………また一緒に、タイショーに会いに行こう!」


第五話『きんぴらごぼう』


亜美「きんぴらごぼうの!」

真美「ワンポイントアドバイス! ぱふぱふ〜」


亜美「油で軽く炒めた後、すぐに醤油は入れずに砂糖を多めに入れるのがポイント!
   砂糖で具材をとかちつくそ→!」


真美「さらにさらに〜! 冷えたきんぴらをもう一回あたためておいしくしたいときには、
   レンジで40秒チンすると丁度いいよ!」


亜美「ワンポイントアドバイス、終わり〜!」

真美「夜の食べ過ぎは気をつけよ→ね!」

 前話ですが、はちみつの代用品でホットケーキシロップをかけるので、一応「ハニートースト」でお願いします。

 亜美真美をメインとした、きんぴらごぼうのお話です。
 一話〜四話はリアルタイムで打ち込んでいましたが、今回ははじめて書き貯め、それを修正しながら書き込みました。
 誤字などがあった場合は、修正漏れです。すみません。
 お話としては、あと2話を予定しております。今まで一回も登場していない彼女は、最終回で書きたいと思います。

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。
 そして、たくさんのコメントをいただき本当に嬉しく思っています。ありがとうございます。
 明日も書かせて頂きます。よろしくお願いいたします。

ガラガラ
真「こんばんは!」

マスター「いらっしゃい」

遠藤「おう、真ちゃん」

真「あ、遠藤さん。こんばんは。お一人ですか?」

遠藤「ああ、一人でこうして酒とつまみをね」

 真ちゃんがやってきた時間帯は、いつもアイドルのみんなが来る時間より大分遅い。
 もう少しで日が昇る頃だった。

真「えっと、チャーハンで!」

マスター「あいよ」

遠藤「あ、そうだそうだ。……真ちゃん、聞いたよ。チャーハンのこと」

真「えっ、誰からですか?」

遠藤「美希ちゃんがこの間、話してくれたよ」

真「そ、そうですか」

遠藤「……お父さんに、作ってやったの? チャーハン」

真「は、はいっ。それを、改めてマスターにも報告しようと思って」


マスター「……うまく作れたか?」

真「はい! 父親にも、おいしいって言ってもらえました。
  ……味見した時は、前と変わらずベチャベチャだったのに」

遠藤「そりゃあ、アレだよ。愛娘の手料理がまずいわけ無いからな」

真「へ?」

遠藤「お父さん、すっごく味わってたと思うよ。手料理……」

真「そ、そうですかね……。だったら、嬉しいです」

 お米をパラパラに炒める。やっぱり、味がついていてパラパラのチャーハンが一番うまいんだ。


マスター「お待ちどう。チャーハン」

真「ありがとうございます、いただきます!」ハフッ

遠藤「なあ、俺に半チャーハン頂戴よ」

マスター「あいよ」

真「うん、やっぱりパラパラで、味も良い濃口で。とってもおいしいです!」

マスター「そりゃ、よかった」

真「でも、やっぱりボクの作ったチャーハンは、これよりも味も薄くて、ベチャベチャで」




遠藤「俺、分かったぞ。真ちゃんの料理に足りないもの」

真「えっ!? な、なんですか!?」

遠藤「親父も、分かるだろ?」

マスター「いや、俺には検討もつかないな」

遠藤「そうか……。いや、俺はな。真ちゃんの料理にコレがあれば、
   絶対にもっといいものになると思うんだよ」

真「あの、それはいったい……何ですか?」

 真ちゃんが遠藤さんの目をまっすぐ見る。

遠藤「『自信』だよ。コレさえあれば、真ちゃんの料理、絶対にうまくなるよ」

真「じ、自信?」

遠藤「そそ。だって今の真ちゃん、料理に自信ないだろ」

真「確かに、そうかもしれません……」

遠藤「自信持って作ってみろよ。事務所に持って行ったりしてみてさ。
   な、そう思うだろ、親父?」

マスター「……そうかもな。『自信』持ってみなよ。
     もしうまいのが作れた時は、俺にもちょっと分けてくれよ」

真「は、はいっ!」

 真ちゃんはれんげを持ったまま立ち上がった。

真「ボク、自信持ちます!」

 そんぐらい威勢がいいと――真ちゃんの料理を食えるのも、もうじきかもしれないな。



第六話『チャーハン』

真「チャーハンのワンポイントアドバイスです!」


真「チャーハンのお米、パラパラにならないことが多いと思います。
  そんな時は、卵を多く使いましょう! 卵がお米をコーティングするので、パラパラになります!」


真「あと、混ぜる具材はエビとか、魚肉ソーセージもありです!」


真「チャーハンのワンポイントアドバイスでした! おやすみなさいっ」

 真がメインの「チャーハン」。パラパラなやつってなかなか作れませんよね。
 きっとマスターならチャーハンもパラパラなんだろうな、という勝手なイメージで書きました。
 次で最後になります。メイン回どころか名前しか出ていない彼女と、不器用なアイツです。

 皆様のあたたかいコメントや乙のおかげで、なんとかここまで書くことが出来ました。
 本当にありがとうございます。
 明日、書かせて頂きます。チャーハンは油が多いので、深夜に食べる際はお気をつけください。



 1日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の1日は始まる。
 メニューは、豚汁定食・ビール・焼酎だけ。
 あとは勝手に注文してくれたら、できるもんは作るよってのが俺の営業方針だ。

 人は「深夜食堂」って言ってるよ。
 ……客が来るかって? それが、結構来るんだよ。

ガラガラ
春香「こんばんは、マスターさん!」

マスター「おお、いらっしゃい。久方ぶりだな」

春香「えへへ、最近忙しくて、オフ取れなかったんですよ!」

 天海春香ちゃん。765プロのアイドル達の中心みたいな女の子で、性格もとっても明るい。
 太陽みたいな女の子だ。

マスター「なんにする?」

春香「あ、えーっと……肉じゃが、お願い出来ますか?」

マスター「あいよ。……ちょっと時間かかるけどな」

春香「あ、はい! 全然大丈夫です。急いでないので」

 春香ちゃんはふう、と一息ついた。
 さて、と。玉ねぎ、あったかな。

春香「マスターさん、最近みんなは来てるんですか?」

マスター「ああ……夜遅くに来てくれるよ」


春香「プロデューサーさんも一緒ですか?」

マスター「いいや。最近、あんまり来てねえな」

春香「そう、ですか。……やっぱり、忙しいんでしょうね」

マスター「やっぱり、って。春香ちゃんも会ってないのか?」

春香「はい。最近は、セルフプロデュースです。
   ……私一人をプロデュースするより、いろんな女の子の面倒を見た方が、事務所的にもいいことですから」

マスター「そうなのか?」

春香「……私、最近お仕事が多くて。あ、それは嬉しいことなんですけど! ええと……。
   プロデューサーさん、ただでさえいっぱい面倒見てるのに、私だけで何人分もの量になるんです。
   それで、寂しいですけど社長が……」

マスター「”セルフプロデュース”しろ、って?」

 あまり馴染みのない言葉だ。

春香「おっしゃいました。それ以来、事務所にも立ち寄れなくなって。仲間と会うのも、収録現場ぐらいで。
   テレビ局にもあまり居なくて、プロデューサーさんには全然会えてません」

マスター「そうか……」

 春香ちゃんが初めてめしやに来た時、横にはプロデューサーの兄ちゃんが居た。
 そん時も肉じゃがを二人で食べてたな。

春香「プロデューサーさんに約束したのに、結局まだ肉じゃがも作れてないですし……」

 春香ちゃんは、どう見ても疲れていた。



マスター「そういや、電車はいいのか。家、遠いんだろう」

春香「今日はカプセルホテルかなにかに泊まります。さっきまでずっとお仕事だったんで」

マスター「……あんまり無理するんじゃないぞ」

 具材やだしの入った鍋に白滝を入れて、煮込む。

春香「ありがとうございます、マスターさん」

 春香ちゃんの笑顔は、ひどく枯れていた。

春香「お料理が出来るまで、話してても、いいですか」

マスター「ああ、いいよ」

春香「……最近、仲間のアイドルがいろんなところにいるんです。
   テレビ、雑誌、ポスター、CD。どれもみんなの活躍を表現するもので」

 左手を開いて、閉じて、それを交互に繰り返して、春香ちゃんは下を向いている。

春香「でも、それじゃあみんなと会ったことにも、話した事にもなりません。
   なんだか、一番遠くにいるみたい。ライブの練習も、全然集まれないですし」



春香「私、もう気が……狂いそうで。これじゃ、何のためにお仕事して、何のために笑って、
   ……何のために”キラキラ”してるのか、わからないです」

マスター「…………キラキラ、ねぇ」

 美希ちゃんみたいだな。

春香「みんなの顔を見て、話しただけで、安心するんです。
   この間偶然千早ちゃんと空き時間がかぶった時、お茶をしたんですけど、とっても安心して」

マスター「……ああ」

春香「なんで、ですかね。みんなと話して、笑い合って……。
   会いたい、会いたいんです。みんなに。生の声を、お話を、聞きたいんです。

   そして――プロデューサーさん、に」

マスター「兄ちゃんか」

春香「私、ちょっと前にプロデューサーさんと約束したんです。
   『肉じゃがを差し入れるので、食べてくださいね』って」

 さっき言っていたっけ。

春香「それもまだ、全然で……。作るどころか、レシピも見ていなくて」

マスター「……来てくれれば、いつでも教えるよ」

春香「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

マスター「あ、でも」

 雪歩ちゃんが言っていた言葉を、そのまま呟いた。

マスター「春香ちゃんの真心で作るんだからな」

春香「へっ? は、はい! えへへ……」


マスター「お待ちどう」

春香「うわあっ、ありがとうございます! じゃあ……いただきますっ」

 熱々のじゃがいも、少しの豚肉。アクセントの白滝を、濃いめのだしで。
 肉じゃがは作り手によって出る味の差が大きい料理だ。
 だから恋人に作るのかもしれないな。

春香「おいしいです! やっぱり、おいしい」

 ハフハフ、と熱がりながら、春香ちゃんはいもを頬張っていく。

春香「ああ、でも……1人で食べるのは、もったいないかなぁ」

マスター「誰かと食べたかったか?」

春香「とってもおいしいのに、私しかその味を知らない……今、この瞬間、
   マスターさんの肉じゃがを食べているのは私だけなんですね」

マスター「……そうだな」

春香「でも、それでいいですから……たっぷり、堪能することにします」

 無言で、ゆっくりと肉じゃがを食べる。
 春香ちゃんの姿が、やけに小さく見えた。


春香「ごちそうさまでした」

 春香ちゃんが小皿の肉じゃがを食べ終わったのは、それから5分ぐらい経った頃だ。



マスター「もう帰るのか?」

春香「はい、ホテルも埋まっちゃうかもしれないですから」

マスター「そうか、気をつけろよ」

春香「はいっ」

 春香ちゃんがテーブルに畳んで置いていた赤いコートを手に取り、財布を探す。
 カラフルな長財布を出した瞬間、

ガラガラ
P「……こんばん…………春香?」

春香「ぷっ、プロデューサーさん!」

マスター「……いらっしゃい」

 プロデューサーの兄ちゃんが入ってきた。こっちも疲れた顔だ。

P「どうしてここに? もう終電はとっくに……」

春香「今日は、ホテルかなんかを探そうと思ってたんです……。
   プロデューサーさんこそ、どうしてここに」

P「ああ、今さっき事務作業が終わったんだよ。事務所に鍵かけて、
 でも電車なんて走ってないから、マスターになんか作ってもらおうかと」

春香「そ、そうですか」


 こんな時間まで残業なんてなぁ。
 それほどまでに、春香ちゃん達は人気ってことなんだろう。

P「春香は、何か食べたのか?」

春香「はい、肉じゃがを」

P「肉じゃがかー、いいな。マスター、肉じゃが頂戴。2つね」

マスター「……あいよ」

 2つか。

春香「プロデューサーさん、2つも食べるんですか?」

P「いいや。春香、2皿目いけるか?」

春香「えっ、わ、私?」

P「せっかく久しぶりに会えたんだ。話さないか?」

春香「そ、それじゃあ……」

 春香ちゃんはコートを再び脱いで、財布を懐にしまった。


P「2ヶ月ぶりぐらいか」

春香「はい。……あの、プロデューサーさん!」

P「どうした?」

春香「私、肉じゃが作れてなくて、ごめんなさい!」

 兄ちゃんは最初きょとんとしていたが、やがて微笑んで春香ちゃんの頭を撫でた。

P「覚えててくれたんだな」

春香「そ、それは私のセリフです! プロデューサーさん忙しいし、覚えてくれてるなんて」

P「そんなの、忘れるわけ無いだろう? すごく楽しみにしてるんだ」

春香「えっ……」




 コトン、と2つの小皿を置く。

マスター「お待ちどう。春香ちゃんはサービスするよ」

春香「ありがとうございます」

P「よし。……いただきます」パクッ

春香「……いただきます」

P「うまい。やっぱり、マスターの味は何度でも食べたくなるな」

マスター「兄ちゃん、いろんな娘といろんなもん食いに来るからな」

P「みんな個性的だからね、好物まで」


春香「おいしいですよね、マスターさんの味」

P「ああ。愛情だな。夜更けに来るいろんな客の悩みも、苦しみも全部受け止めるマスターの愛情」

 マスターがいるから、俺達は頑張れるんだ。と兄ちゃんは続けた。

春香「あのっ、プロデューサーさん!」

P「どうした、春香」

 箸を握りしめ、力んでいる春香ちゃんに兄ちゃんは優しく声をかけた。

春香「今度、オフが取れたら……肉じゃが、作って事務所に持っていきます。
   だから、その時は食べてくれませんか?」

 兄ちゃんは春香ちゃんの肩を両手でポン、と軽く叩く。

P「おう、待ってる。絶対に食ってやる。だから春香」

春香「はい」

P「無理するな。お前、泣きそうだ」



春香「え……? あれ……なんで、プロ、デュー……サー、さんの顔が……。
   ……よく、見えない……どうして…………」

 目をゴシゴシ、と腕でこする春香ちゃんに、兄ちゃんは言った。

P「俺の胸の中で泣いていいから」

春香「ひっ……グスッ……うあ、うあああああああん!」


 春香ちゃんは、兄ちゃんの胸に顔を埋めた。
 泣き声が、店の中に静かに響く。

 春香ちゃんの頭をずっと撫で続けるプロデューサーの兄ちゃんは、
 店に入ってきた時と正反対に優しい表情をして、穏やかに微笑んでいた。



第七話『肉じゃが』
春香「肉じゃがのーっ、ワンポイントー、アドバーイス! ですよっ!」


春香「肉じゃがにおいて最難関なのはじゃがいもの煮崩れです! 面取りをすると崩れません」


春香「煮こむ時、強火はNGですよ! 中火でじっくり、優しく煮込みましょう」


春香「ワンポイントアドバイスでした! それでは、おやすみなさい」



 1日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の1日は始まる。
 メニューは、豚汁定食・ビール・焼酎だけ。
 あとは勝手に注文してくれたら、できるもんは作るよってのが俺の営業方針だ。


亜美「やっと来られたよー! タイショー待っててくれてるかなぁ」

美希「決まってるの! マスターのおにぎり、今日は何の具だろ」

やよい「うっうー、今日は寝てきたので平気でーす!」

春香「それじゃあ、お店に入ろうか!」


ガラガラ
「こんばんはー!」


 人は「深夜食堂」って言ってるよ。
 ……客が来るかって? それが、結構来るんだよ。


マスター「いらっしゃい」


 了



 最後は春香とPで定番の肉じゃがです。
 PはバネPでも、そうじゃなくても大丈夫です。

 これにて全て終了いたしました。
 皆様には非常に多くのコメントや乙をいただき、励みになりました。

 ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
 また別のお話でお会いしたいと思います。

13:01│星井美希 
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