2014年07月20日

あずさ「星夜」


1日仕事をして、疲れた夜の帰り道。

ふと空を見上げると曇り空。



今日は7月7日七夕。





織姫と彦星が、一年でたった一度だけ逢う事を許された日。

晴れていれば綺麗な星空が見えたのかもしれない。

しかし、そんな二人の恋路を邪魔するかのような、厚い雲が空を覆っている。

無論、そんな雲の遥か彼方に星々はあるのだから、雲がかかっていようと織姫にも彦星にも関係ない。

そもそも、いい歳して織姫と彦星の物語を信じている事自体がナンセンスなのかもしれない。

けれど、そういう物に憧れているのも事実。

いくら歳を重ねても、根っこの部分では私はまだまだ子供なのだろうか。





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暗い夜道を歩いていると温い風がまとわりついてくる。

その風に吹かれて、かさかさと葉擦れの音が聞こえてきた。

どうやら通りがかったスーパーで笹を掲示しているようだ。

色とりどりの短冊が、沢山吊られているのが分かる。



きっと子供達の夢と希望に溢れているのだろうと思った。

そして、自分にもそんな時代があったと独り虚しさを感じてしまう。



ため息を一つこぼし、止まりかけた脚を動かす。

数分も歩くと、もう笹は小さくなっている。

短冊も、付いているのか判然としないくらいに。







いつからだろう。

あの人に逢えなくなったのは。











私が竜宮小町に選ばれて、それから忙しくなって。

最初のうちは事務所に戻れば逢うことは出来た。

けれど、その内にあの人も忙しくなって、滅多に顔を合わせ無くなってしまった。



一年に一度という訳ではないが、小さな事務所の中で、まるで織姫と彦星になったような、そんな気さえする。

そのくらい私達はすれ違ってしまっている。





「寂しい……」



ため息とともに、そんな言葉が口をついて出た。

思わず顔をしかめる。



そんな事を言ったからといって、どうなるものでもない。



自分に呆れるように天を仰いだ。

相変わらず空は雲に覆われている。

少しくらい星が見えていたら、この気持も晴れていたのだろうか。





詮のない事に思いを巡らせていた時だった。

鞄の中で、携帯電話が音を立てて着信を知らせている事に気づく。

取り出して画面を見るとあの人の名前が表示されていた。



心臓が跳ねる。

嬉しさと、緊張。

出ない訳にもいかず、震える指で通話ボタンを押した。





『もしもし?』



電話口から聞こえる少しくぐもった声。



「はい……」



上ずらないでちゃんと声が出てくれた。

それだけで、少しだけホッとする。





『特に用があるワケじゃないんですけど、最近会ってないなと思って』



どうやら向こうも同じ事を思っていたらしい。



『それで、どうしてるのかなって気になって、気がついたら電話かけてました』



おどけたような口調だが、電話口だから相手の表情までは分からない。

けれど、その言葉に思わず頬が緩むのが分かった。





電話越しに、他愛のない話をやりとりする。



お互いに話のほとんどが近況報告のような話だったが、それに気づいてまた口角が上がっていく。



そういえばと前置きしたあの人は



『今日は、七夕なんですよね』



いくら鈍感でも、今日が七夕だということくらいは分かっているらしい。





『ねぇあずささん』



急に名前を呼ばれてどきりとする。



『今から、逢いに行ってもいいですか?』



思いがけない提案に、言葉が詰まってすぐに返事が出来なかった。



『織姫と彦星じゃないけど、久々にあずささんに逢いたいです』



狼狽えながら承諾すると、10分少々で来ると言い通話が切れてしまった。





家はもう、すぐ近く。

とりあえず家で待つ事にして、歩を進める。



疲れているはずなのに足取りは軽くなっていた。

自宅に着いてあの人の到着を待つ。

長い、長い10分。



待ち遠しくて窓を開けてベランダへ。

ふと空に目をやると、あの分厚い雲は流れていったのか、所々に隙間ができている。

雲の切れ間からは少しだけ、星空が顔を覗かせていた。





「笹の葉さらさら



 軒端に揺れる



 お星様きらきら



 金銀砂子」



逸る気持ちを抑えるように。

囁くような歌声は、お世辞にも蒔絵には見えない細切れの星空に吸い込まれていった。







おしまい



23:30│三浦あずさ 
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