2013年12月08日
亜美「ふたりじゃなきゃ、笑えない」
真美も亜美も、ひとしきり泣いた。
だって、信じられないっしょ。あんなこと。
真美とやよいっちがデパートでライブをしているとき。
だって、信じられないっしょ。あんなこと。
真美とやよいっちがデパートでライブをしているとき。
現れた不審な男は、ナイフを持って真美へひとっ走り。
兄ちゃんが真美の前に立ちはだかって、命がけで真美を救った。
春香「…………プロデューサー、さん……」
男はその場で逮捕され、兄ちゃんは倒れた。
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兄ちゃん、死んじゃった。
この間まで事務所でお仕事をしていた兄ちゃんが。
イタズラしても笑っててくれた兄ちゃんが。
みんなと楽しそうに笑い合ってた兄ちゃんが。
いま、告別式の朝。
中央の棺の中では、兄ちゃんが安らかな笑顔で眠ってる。
亜美達、大勢を置き去りにして、兄ちゃんは遠い彼方へ旅立った。
『お前らがトップアイドルになるまで、絶対面倒みるからな!』
うそつき。
兄ちゃんの、ばーか。
ばーか。
美希「ミキ、また頑張るの」
美希「だって、キラキラしてないと、空でハニーが怒るから」
ミキミキはホールを出たすぐ横で、りっちゃんと話していた。
律子「美希。仕事なら、いつでも休みを」
美希「ううん、いらないよ」
律子「……そう」
美希「今休んだりすると、寂しくなっちゃう……って思うな」
そういうと、ゆっくりとミキミキはホールに戻る。
律子「…………亜美?」
見つかっちった。
亜美「ねぇ、りっちゃん。……兄ちゃんの次のプロデューサーは、呼ぶの?」
律子「ええ。…………でも四十九日が終わるまでは、このままで行こうと思ってる」
亜美「大丈夫なの?」
律子「12人面倒見るくらい大丈夫よ。少しの間は」
亜美「でも」
律子「プロデューサーは9人も面倒見てたんだから」
亜美「……りっちゃん、無理しないでね」
律子「……亜美らしくないわねぇ。こんな時こそ、アンタと真美には元気でいてくれなきゃ困るのよ」
亜美「…………うん」
律子「ほら、もうすぐ式が始まるわよ。戻りましょう」
ホールには見慣れない顔もいっぱい。
兄ちゃんの友達かな、あとお父さんお母さん?
兄ちゃん、親不幸者っしょ。
春香「……亜美、隣に座って?」
はるるんが手招き。その周りにはみんなが座って俯いている。服は真っ黒。
まこちん、ゆきぴょん、お姫ちん。ミキミキ、千早お姉ちゃん、いおりん、ひびきん。
はるるん、やよいっち、あずさお姉ちゃん。りっちゃん、……真美。
亜美「うん。……んしょ」
春香「なんか、実感持てないよ」
真「うん、そうだね。……今でも、ひょっこり向こうから出てきそうだよ」
はるるんの後ろに座るまこちんは、疲れた顔をしていた。
やよい「プロデューサーは、真美のことを助けて刺されましたけど、
あのときのプロデューサー、かっこよかったんです」
亜美の左隣から、やよいっち。
そうだ。やよいっちはあの場所にいたんだよね。
亜美「……兄ちゃん、亜美達のこと見ててくれるかな」
貴音「亜美。あの方は必ず、見守ってくださっています。
わたくし達をトップアイドルにする、と約束されたのですから」
亜美「……そうだね」
兄ちゃんはうそつきだ。
だから、せめて見ていて欲しい。自力で這い上がる様を。
そう思うのは、自分勝手かな?
『まもなく、故・――――様の、告別式を執り行います…………』
焼香は、はるるんとやよいっちと、3人で済ませた。
やり方がわからなくてはるるんの方を見たら、目があった。
結局、やよいっちに教えてもらった。さすがお姉ちゃん。
春香「私たちが、最初だったんだね」
焼香台を見ると、あずさお姉ちゃんとりっちゃんと真美が立っていた。
やよい「そうみたいですね」
亜美「まあ、親族の席に座ってるからね」
春香「プロデューサーさんのお父さんが、ぜひ765のみんなをここにって言ったみたいだよ」
亜美「いいオヤジさんですなぁ」
やよい「プロデューサーのお父さんですから」
その後も式は進んでいった。
棺の中の兄ちゃんは真っ白な顔で、魂が抜けた表情をしている。
綿で形作られた袴を着て、ただただ眠っている。
花を納める間、少し泣いてしまった。
ピヨちゃんと社長は、普通の席に座っていたみたい。
……泣いていた。
『それでは、ご出棺となります』
兄ちゃんを乗せて、霊柩車は雄叫びをあげる。
泣いてしまった。
泣いたら、兄ちゃんが死んだことを認めなければいけなくなる。
…………兄ちゃんは生きていると、まだどこかで思っていたかった。
―
火葬は親族だけで、といわれていた。
亜美達はりっちゃんと社長に連れられて、近くのファミレスに入る。
三つの席に分かれた。亜美は、真美とりっちゃんと社長のいる席。
高木「彼の後任は、考えていないよ。入るとしても、当分先だろうね」
律子「プロデューサーのやりかけの仕事は、私がやっておきます」
高木「うむ。……少しお手洗いに行ってくるよ」
社長が席を立つ。
律子「ねえ、真美。大丈夫?」
真美は朝から、全然喋っていない。
真美「……」フルフル
首を横に振った。
律子「そうよね。大丈夫なわけ、ないわよね」
真美「兄ちゃんは、生きてるよ。死んでなんかない」
亜美「え……?」
真美「死ぬわけないよ」
律子「真美。私たちは、受け止めなきゃいけないの。だって」
真美「兄ちゃんは生きてるんだよ」
律子「ねえ真美。私たちはもっと活躍して、プロデューサーに安心してもらわないと」
真美「生きてるよッ!」バン
真美がテーブルを叩くと、騒がしかった店内は一瞬静まり返った。
亜美「真美、亜美達は兄ちゃんに」
真美「……うるさい」
律子「そうやって落ち込んでばかりいたら、プロデューサーが報われないわよ」
真美「…………兄ちゃんは、真美を守ってくれた」
真美は涙を目に浮かべた。
真美「生きてるんだよ」
亜美「……」
真美「それに、まだ……」
亜美「……?」
真美「…………帰る」
律子「ちょっと、真美!」
真美「ついてこないで! …………亜美も」
高木「お待たせ。……あれ、真美君はどうしたのかね?」
律子「…………帰っちゃいました」
高木「帰った?」
亜美「……」
――――
それ以来真美は部屋にこもりきりになった。
亜美はといえば、閉め出されていて今では両親の寝室で寝て起きている。
当然、芸能活動も真美は休んだままだ。
ミキミキやはるるんは、もう仕事をしているというのに。
亜美「おはよー」
だから亜美は、ひとりで事務所に行く。
律子「おはよ、亜美」
小鳥「おはよう」
千早「おはよう」
響「はいさーい」
真「おはようっ」
みんなが真美を探してから亜美に挨拶することも、もう分かってる。
『生放送、あさワントーク。ゲストはアイドル、星井美希さん!』
真「律子。春香が来たらレッスンに行っていいんだよね?」
律子「ええ、いいわよ」
『おはよーなのー! 今日はよろしくねー!』
千早「……我那覇さん」
響「ん?」
千早「リモコンを取ってもらってもいいかしら?」
響「うん、はいっ」
千早「ありがとう」ピッ
『――なんですね。続いては萩原雪歩さんの新曲「Little Match――』ピッ
亜美「千早お姉ちゃん、何を見たいの?」
千早「普通のニュースよ。あの番組はトークになると、ニュースをやらないから」
『――比奈りんのギリギリアタック! 今週はこちらの商店街にお邪――』ピッ
『――ロ所属のJupiter、バレンタインに伊集院君が脱ぐハプニン――』ピッ
亜美「今って、そういう時間だから……多分やってないよ」
千早「……そう。じゃあ美希のトークにしましょうか」ピッ
『――うしてあなたは、赤い洗面器なんて頭にかぶって歩いているのですか? ってね』
春香「おはようございまーす」
真「おっ、来た来たー! 春香、レッスン行こう! レッスン!」
春香「ええ〜? 早いよう」
律子「真、もうちょっと時間にゆとりってものをね」
真「はいはい! はいさい!」
響「はいさい関係ないだろ!?」
千早「ふふっ、賑やかでいいわね」
兄ちゃんがいれば、この中心に居たんだろうな。
ふと、そんなことを考える。
純粋に笑えない自分に嫌気が差した。
真美すら救えない自分に。
真「いってきまーす」
春香「あわわ、行ってきます!」
小鳥「はい、いってらっしゃい」
千早「転ばないようにね」
響「体動かしなよー!」
真「へへっ、言われなくてもね!」
ガチャン
千早「……亜美、元気ないでしょう?」
亜美「へっ!?」
千早お姉ちゃんから突然声をかけられて、身体がビクンとした。
千早「なんだか、あんまり笑っていないから」
亜美「そ、そんなことないYO→! メチャンコ元気だよ!?」
千早「なら、いいのだけれど」
『このジェノベーゼを作ったのは、お前かぁー! って、客席に悲鳴が響いたの……』
元気なわけ、ないよ。真美があんな状態なのに。
元はといえば、兄ちゃんが居なくなって。
千早「…………真美のこと」
亜美「え?」
千早「真美のこと、気にしないでいいと思うわ」
亜美「どう、して?」
千早「今真美のことを気にしながら仕事すると、亜美まで壊れちゃうんじゃないかって」
亜美「……真美は壊れてなんかないよ」
千早「……言い方が悪かったわね。亜美まで、元気がなくなってしまうんじゃないかな、って」
亜美「うん……」
千早お姉ちゃんは目線をテレビから動かさない。
千早「私、力になりたいの。亜美と真美の」
亜美「力?」
千早「でも、今はまだ時期じゃない。……亜美が真美を説得しなきゃ行けないんだと思う」
亜美「説得……」
律子「千早」
千早「なに?」
律子「真美は、言葉を聞いて立ち直れるほど大人じゃないのよ」
千早「いいえ、大人よ」
律子「え?」
千早お姉ちゃんはりっちゃんをまっすぐ見た。
千早「真美は大人よ。大人じゃなきゃ、アイドルなんて出来ない」
律子「……」
亜美「千早お姉ちゃん……」
千早「春香や美希は、プロデューサーに心酔していたわ。
それでも二人は、今日も仕事をしてる」
『そんなのありえないのー! って感じだったな』
千早「真美だって、きっと立ち直れるはず」
律子「……そう、かもしれないわね」
―
AD「小町さん、お疲れ様でした」
律子「お疲れ様です、ありがとうございました」
りっちゃんの挨拶に続いて、3人で「ありがとうございました」と元気に挨拶。
スタッフの人には「大変だったね」なんて声をたくさんかけられた。
律子「番組のプロデューサーと話してくるから、先に戻ってて」
楽屋に向かうまでのテレビ局の廊下。
あずさ「……真美ちゃんは、元気そう?」
亜美「どうだろうね。亜美も、ここ二週間は顔を見てないからさ、わかんないよ」
伊織「お風呂とかトイレはどうしてるの?」
亜美「夜遅くに入ってるみたいだよ」
伊織「そう……」
あずさ「プロデューサーさんだったら、どうしたのかしらねぇ」
伊織「あずさ、プロデューサーが生きてたらこんなことは起きてないわよ」
あずさ「……そうね」
ガチャ
伊織「ねえ」
亜美「?」
伊織「私に、何が出来るのかしら」
あずさ「え?」
伊織「真美に、なんて言えばいいのかしら」
あずさ「……難しいわね」
亜美「『兄ちゃんに顔向け出来ないぞ』、とか」
伊織「ダメよ、真美はプロデューサーが死んだこと、信じてないもの」
亜美「……」
あずさ「『プロデューサーさんが、そばにいる』とか」
伊織「…………真美は、それで笑ってくれるのかしら?」
―
結局何も思いつかないまま、亜美達は事務所に戻った。
お姫ちんとひびきん、はるるん、ゆきぴょんが居た。
呟いてみる。
亜美「ねえ、みんな」
春香「?」
亜美「真美を笑顔にしたいんだ」
雪歩「笑顔……」
亜美「立ち直ってもらって、それで……また、歌いたいんだ」
響「…………亜美」
貴音「ならば」
亜美「お姫ちん……?」
貴音「わたくしに、考えがあります」
お姫ちんの考えは、突飛なものだった。
今度やるドラマから思いついたらしい、なかなかなアイデア。
春香「確かに、亜美ぐらいにしか出来ない作戦だよね。
……でも、貴音さん。実の妹がそんなことやっても、バレちゃうんじゃ?」
貴音「それは運次第です。ですが、真美ならばきっとこれで立ち直れると、信じます」
――題して「双海真美・さわやか笑顔計画」。
動き出した。
響「よし、協力するぞ!」
雪歩「がんばりますっ!」
伊織「真美を笑顔にしてやろうじゃないの!」
あずさ「上手くいくように頑張りましょうね〜」
亜美「みんな、ありがとう……!」
貴音「亜美、礼は全てが成功してから、ぜひ言って下さい」
亜美「う、うん」
―
それは今夜から始まる。
閉ざされた部屋のドアをノックすることから、スタートするんだ。
かつて入り浸っていた亜美と真美の部屋。今では、厚い壁に見える。
コンコン
亜美「……真美、真美」
物音がした。
亜美「真美、ドアを開けてくれないか」
ガタン、と言った。
亜美「頼む、真美。お前だけが便りなんだ」
ガチャ、と解錠される音がして、ドアが開く。
真美「――――亜美?」
随分とやつれちゃったね、真美。
髪ももう、纏めなくなったんだね。
亜美「真美、落ち着いて話を聞いてほしい」
真美「……なに?」
これから始まるすべての出来事が、うまくいくことを祈るしかない。
亜美「――俺は、お前のプロデューサーだ」
お姫ちんが提示した計画……それは、亜美が兄ちゃんを演じることだ。
真美「――――?」
亜美「信じてくれないかもしれないが、亜美の身体に入り込んでしまったみたいなんだ」
真美「にい、ちゃん」
亜美「気づいたら、こうなってて……」
真美「にいちゃんっ!」
押し倒された。低い温度の廊下、肌が触れる。
真美「にいちゃんっ、にいちゃんなんだよね!?」
真美は亜美――兄ちゃんをぎゅっと抱きしめて、何度も「にいちゃん」と言った。
泣いている。
亜美「あ、ああ」
真美「にいちゃん……! にいちゃん、にいちゃん!」
亜美「ま、真美! 落ち着け!」
バッ、と身体を離した。
真美「……?」
亜美「お前らのこと、ずっと見てたんだ。それで……真美に、迷惑かけちゃってるって思って」
真美「迷惑なんかじゃないよ、にいちゃんは、真美のことを守ってくれた……」
亜美「でも、真美は引きこもりがちになっちゃったろ」
真美「…………だって、にいちゃんがいないから」
亜美「悪かった、真美。俺はいつもお前らのこと、見てるよ」
真美「…………うん」
亜美「だから、安心して外に出てくれ。歌ってくれ。踊ってくれ。笑ってくれ」
真美「………………うん」
すらすらと言葉が出てくる。
これは、兄ちゃんの皮を借りた亜美からのメッセージだよ、真美。
亜美「それで――――」
真美「?」
亜美「亜美がさっきから、喋ってくれないんだ」
真美「へ?」
亜美「亜美の身体に入り込んでから、亜美の反応がない」
真美「……亜美が?」
亜美「どうすれば……」
真美「亜美を起こす時はね、いっつもこうやってんの」
そう言うと真美は、亜美のほっぺたをおもいっきりひっぱった。
よく知ってるよ。
亜美「いたっ」
真美「あ、亜美?」
ここは”亜美”の方がいいのか。
亜美「――――あれっ、真美?」
真美「さっきまでね、兄ちゃんが亜美の身体の中にいたんだよ」
亜美「へっ! そなの!?」
真美「うん」
真美が笑う。欠片も疑ってない。
――――
貴音『信用させるために、一度プロデューサーから亜美へと、意識を戻します』
春香『戻す、って?』
貴音『例えば、プロデューサーとして「亜美がいない」などと言い、
一度亜美に戻った後で、もう一度プロデューサーに戻ります』
響『それをやって、どうなるんだ?』
貴音『真美の信用度が上がるでしょう。目の前で妹とプロデューサーに変わる瞬間を見れば』
亜美『なるほど』
――――
亜美「あれ、なんだか眠くなってきたよ……」
真美「へっ、亜美?」
亜美は寝たふりをして、すぐに”兄ちゃん”になる。
亜美「……よかった、さすが真美」
真美「あ、兄ちゃん?」
亜美「ああ。今は寝ちゃったみたいだけどな。聞こえるよ、いびきが」
真美「あはは、亜美の?」
亜美「そう、亜美の」
真美「そっか」
真美はしばらく黙って、
真美「部屋、入る?」
亜美「……ああ」
二段ベッドの上段が、真美。下段が、亜美だった。
下段には物が散乱していて、とても寝れそうじゃあない。
真美「ごめんね、ちらかってて」
亜美「いや、いいんだ。……こもってからずっとこうなのか?」
真美「見てたんじゃないの? そうだよ」
亜美「さすがに部屋までは入れないだろ。……そうなのか」
真美はぎゅーっと亜美のうでに抱きつく。
真美「ねえ、にいちゃん」
亜美「ん?」
真美「なんか今日は疲れちゃったから、もう寝るよ」
亜美「ああ、それがいい」
真美が寝たら、早速お姫ちんに――。
真美「だからさ」
亜美「ん?」
真美「一緒に寝て?」
添い寝のお誘いだったが、真美は数秒で寝入ってしまった。
安心感かなんなのかは分からないけど。
二十分ぐらい横で寝ていて、時期を見てベッドから降りた。
部屋を出て、トイレの中で、携帯を開く。
亜美「……もしもし」
『もしもし、成功しましたか?』
亜美「ああ」
貴音『それは、良かった』
電話報告。それが、お姫ちんの作戦の中に含まれていた。
真美に聞かれても大丈夫なように、亜美は”兄ちゃん”のまま。
貴音『真美は、どんな様子だったのですか?』
亜美「そうだな、最初は俺を抱きしめて、添い寝だな」
貴音『なるほど。心を許したのですね』
亜美「ああ。なあ……貴音」
貴音『なんでしょう?』
亜美「…………本当に、やるのか?」
貴音『………………最終的な判断は、亜美にお任せします」
――――
貴音『まず、亜美がプロデューサーのフリをして真美と会話をします』
亜美『……え?』
貴音『あの状態では、きっと真美が心を開けるのはプロデューサーだけでしょう』
亜美『それでどうして、亜美が兄ちゃんのマネッコをするの?』
貴音『特技がモノマネなのは、この事務所では亜美と真美だけです』
亜美『…………うん』
春香『確かに、亜美ぐらいにしか出来ない作戦だよね。
……でも、貴音さん。実の妹がそんなことやっても、バレちゃうんじゃ?』
貴音『それは運次第です。ですが、真美ならばきっとこれで立ち直れると、信じます』
響『なるほど。それで、どうするんだ?』
亜美『え?」
響『だって、そのまま亜美が一生プロデューサーを演じるわけにも行かないだろ?』
貴音『そこ、なのですが……』
貴音『しばらくして、亜美がプロデューサーとして、真美を探ります。
もうプロデューサーが居なくても活動できると判断した場合は、成仏ということにして
ゆっくりと真美とプロデューサーを離していきましょう』
亜美『…………どうやって判断するの?』
貴音『一言、聞くのです。
「真美のことは、俺がずっと見守っててやるから、亜美に身体を返してもいいか」と』
亜美『……分かった、頑張るよ』
響『よし、協力するぞ!』
雪歩『がんばりますっ!』
伊織『真美を笑顔にしてやろうじゃないの!』
あずさ『上手くいくように頑張りましょうね〜』
――――
もし、真美が「嫌だ」と。「一緒にいて」と言えば。
亜美は、一生兄ちゃんのままだ。
お姫ちんは、みんなの前でこの可能性のことは口にしなかった。
亜美「ふー……」
どうなるかわからない。
真美が、立ち直ってくれるか、くれないか。
どちらにせよ、亜美は兄ちゃんになるだけだ。
真美「……おはよう」
亜美「おう、おはよう真美」
真美「っにいちゃん!」
朝。真美は”兄ちゃん”を強く抱きしめる。
亜美「おいおい、元気有り余ってるな。外、いけるか」
真美「うん。……事務所に、行きたい」
亜美「分かった。行こうか。
でも、俺が亜美の中にいることは内緒な」
真美「分かった」
真美は”兄ちゃん”と手をつないで、家を出た。
真美「おはよー」
亜美「おはおはー」
律子「真美!」
千早「真美!?」
春香「まみっ」
貴音「……真美」
真「真美!」
真美のもとへ、みんなが駆け寄ってくる。
真美は笑いながら一人一人と挨拶を交わした。
事務所では、亜美が出てきていることになっている。
春香「とりあえず、クッキー食べよう♪」
真「みんなにメールしないとっ」
貴音「良かったですね」
律子「良かったわ……本当に」
仕事が始まれば、亜美と真美は別行動が多い。
真美はやよいっちやみんなと組んで、亜美は竜宮小町で。それがメインだからだ。
仕事中は遠慮すること無く双海亜美でいられた。
お姫ちんに言っておきながら、今更兄ちゃんのマネッコが難しいだなんて言えなかった。
車での移動中。
あずさ「――だったんですよ〜」
律子「へぇ、つまり柔道なんですね」
プルルルル
亜美「あっ……電話」
伊織「律子、ラジオ消して」
律子「はーい」カチッ
亜美「もしもし?」
『もしもし、にいちゃん』
亜美「……真美か」
真美だった。
真美『真美ね、お仕事チョー頑張ったよ!』
亜美「そうか、偉いな。亜美も頑張ってるみたいだよ。今は寝てるけど」
亜美が寝ている時、兄ちゃんが出てくる。そういう設定。
強制的に出てくるのも、ありえる。
真美『えへへー。事務所でいっぱい褒めて貰うねっ』
亜美「ああ。……周りには誰も居ないのか?」
真美『えっ? ああ、やよいっちがいるけど、気づいてないよ』
亜美「そうか」
あずさ「…………」
亜美「頑張れよ。じゃあな」
真美『あ、ちょっとまってにいちゃん』
亜美「ん?」
真美『あの時、言えなかったことを……もう一度、言わせて』
あの時言えなかったこと? あの時っていつ?
何を言えなかったの?
どう答えていいのかわからない。”あの時”を知らないからだ。
なぜ知らないのか?
亜美は、兄ちゃんではないからだ。
真美『真美ね』
亜美「ああ」
真美『にいちゃんのこと、大好き』
亜美「――――」
真美『ライクじゃなくて、ラブの方でね』
亜美「――ぇ」
真美『そんじゃあね! 答えは聞いてないっ』
ツー ツー ツー
亜美「…………」
なにそれ。
あずさ「どうしたの? 亜美ちゃん」
亜美「…………あずさ、お姉ちゃん」
あずさ「?」
亜美「どうしよう…………」
伊織「……亜美?」
律子「え?」
亜美「真美が、兄ちゃんのこと、好きだって」
あずさ「…………」
伊織「え?」
律子「……?」
亜美「どうしよう……」
それって、亜美が答えていいの?
たとえ、兄ちゃんの解答と違っても。
電話をした。お姫ちんならば、上手く行けば対処法を教えてくれるかもしれない。
『……はい』
亜美「もしもし、お姫ちん!」
貴音『どうしました? 焦っているようですが……』
亜美「あのね、真美が」
貴音『真美が?』
亜美「真美が、兄ちゃんのことを好きだって」
貴音『…………?』
亜美「真美は、亜美が兄ちゃんだって思い込んでいる。
兄ちゃんが刺される直前に、真美は言いかけてたみたいで」
貴音『…………そう、ですか』
亜美「どうすれば、いいのかな? それって、亜美が答えても」
貴音『…………亜美』
亜美「なに……?」
貴音『……これは、あなたが選ぶべき選択肢です。
【真美を騙し続けて、笑顔を見る】未来と、【真美に真実を告げて、前を向いてもらう】未来です』
亜美「え……?」
貴音『…………亜美はこれから、どちらかを選ばないといけません』
亜美「それって、亜美が兄ちゃんのかわりに、告白しなきゃいけないの?」
貴音『そうするか、もうひとつ』
亜美「…………全部ウソだったって、言うの?」
貴音『出来るだけ、そんなことはしたくありません。ですが、愛情はとても繊細なもの』
亜美「…………だったら」
貴音『真実を告げたほうが、真美にとっては幸せかもしれません』
亜美「そんなの……」
貴音『…………すみません』
亜美「え?」
貴音『わたくしの、見誤りです』
亜美「……お姫ちんは悪くないよ」
貴音『…………すみません』
亜美「…………亜美が、どうしたいか決めていいんだよね?」
貴音『………………はい』
亜美「だったら、亜美は」
貴音『…………』
亜美「亜美は、真美に幸せになって欲しいから」
伊織「…………」
亜美「選ぶよ」
今日の分はここまでです。
また今度書きためてここにきます。
>>25
読んでいただきありがとうございます。
亜美「…………ウソをつく」
貴音『…………』
亜美「…………それが、亜美にとっても真美にとっても、兄ちゃんにとっても幸せだと、思う」
伊織「…………どうすんのよ」
亜美「…………伊織、あずささん、律子」
律子「……」
亜美「…………兄ちゃんっぽいかな?」
あずさ「亜美、ちゃん」
亜美「亜美は兄ちゃんになるよ」
伊織「…………」
律子「ただいま戻りました」
事務所に帰ると真美はソファに座っている。
近くにはお姫ちんが居たが、真美は事務所に一人きりだと思っているらしい。
真美が誰かと二人の時に必ず出すお茶を、出していなかった。
りっちゃん達は社長室に消えた。
真美「にいちゃんっ」
亜美「おっす、真美」
真美が抱きついてくる。
真美「待ちくたびれたよ、にいちゃん」
亜美「悪かったな」
笑顔で甘える真美。
これで良かったんだ。
真美「真美ね、気持ち、伝えるよ」
真美は亜美の胸から離れた。
ついに、亜美が亜美でいられなくなる瞬間がやってくる。
静かに唾を飲み込んだ。
真美「でもね」
えっ?
真美の目はまっすぐと亜美を見据えていた。
真美「真美、先ににいちゃんがあの時言いかけていたこと、聞きたいなぁ」
あの時言いかけていたことって、何?
混乱してくる。
真美「言って?」
真美は腕を亜美の首もとまで伸ばした。
亜美「えっ、と…………」
真美は顔を耳に近づけて、呟く。
真美「いえるわけないよね」
亜美「え?」
真美が顔を離す。笑っているような、泣いているような顔。
真美「言えるわけないよ、亜美。にいちゃんはそんなこと、言ってないから」
亜美「…………え?」
真美「にいちゃんじゃないよね?」
亜美「…………な、なんで」
なんで気がついてるの?
真美「……お姫ちんがいるのにどうして正体を隠さないの?」
亜美「…………あ」
お姫ちんに、気づいてた?
目をやると、お姫ちんは驚いた表情をしていた。
亜美「……貴音は知ってたんだよ、俺のことを」
真美「…………まだ、真美のことをバカにし続けるの?」
亜美「っ! そんなこと……」
しまった。
真美「…………きょう、ひびきんが話してるの、聞いちゃったよ」
真美「わかんないよ」
亜美「…………」
真美「にいちゃんは、やっぱり、もうどこにも……」
亜美「…………」
真美「…………ゴメン」
亜美「…………ぇ」
真美「…………バカになんか、してないよね。
亜美達、真美のこと考えてくれて」
貴音「あの、真美」
真美「……にいちゃんから、答え、聞きたかったな……」バッ
バタン
亜美「真美っ……」
貴音「……見透かされていましたか」
亜美「……うん」
貴音「…………真美は」
亜美「真美は多分、うちにいったよ」
貴音「…………亜美、わたくしに家に行かせてください」
亜美「…………え?」
貴音「真美の笑顔を、まだ見ていません」
亜美「…………笑顔計画は失敗じゃあ……」
貴音「いいえ。まだ計画は続いていますよ」
お姫ちんは、兄ちゃんのデスクに近寄り、机上を撫でた。
亡くなったときのまま、りっちゃんとピヨちゃんが残してある。
貴音「ファイル、ですね」
赤いファイルを手にとった。マジックで「高槻やよい、双海真美」と書かれている。
お姫ちんは微笑みながら、ファイルのページをめくった。
貴音「『2月14日、バレンタインライブ』」
亜美「…………」
貴音「『会場は湘南ショッピングタウン。最高のステージにする!』」
亜美「バレンタインだったね、兄ちゃんの命日」
貴音「もう、2月も終わってしまいます」
当然、バレンタイン以降も兄ちゃんはスケジュールを書いていた。
お葬式の日の撮影は、キャンセルしたんだっけ。
貴音「『2月17日、美希、雑誌表紙』」
亜美「……ミキミキ」
ミキミキ、ずっと泣いてた。
事務所で、誰かにあたるわけでもなく、ただただ泣いていた。
はにぃ、はにぃ、おきてよって。
兄ちゃんの実家で、顔を見て泣きじゃくった。
貴音「『2月19日、春香、スイーツTVロケ』」
亜美「……はるるん」
はるるんは、泣くと言うより、放心状態だった。
ミキミキと顔を見に行っても、静かにお線香をあげただけ。
お通夜の日かな。ホールに入って兄ちゃんの遺影を見たら、
泣き崩れたんだよね。
千早お姉ちゃんは「心酔」って言ったけれど……、
ふたりとも、兄ちゃんに明確な好意を抱いてた。
でも、今は辛い顔一つ見せずに仕事をしている。
ミキミキやはるるんは、完全に立ち直った訳じゃない。
でも、ある程度「兄ちゃんはもういない」という事実を受け止めている。
真美も、兄ちゃんを好きだった。
……なら、真美だってまた笑えるはずだ。
亜美「真美……」
貴音「さて……。参りましょうか」
お姫ちんが、手を繋いできた。
あったかくて、優しいてのひら。
真美の手も握りたいって、ふと思った。
―
貴音「お邪魔します」
静かな家だ。
親は医者だし、昼間はいない。
多分、真美とは電車2本差ぐらい。
階段をのぼる。すぐ、重い扉が見えた。
昨日、ここから始まった計画は、半日も持たなかった。
二回ノック。
亜美「……真美、ただいま」
返事はない。
亜美「……真美、あのね」
亜美「聞いてほしいことがあるんだ」
「……」
感じる。真美の息づかいを。
亜美「兄ちゃんが亡くなってからお葬式までのミキミキとはるるん、覚えてるっしょ?」
「……」
亜美「……特に、兄ちゃんの実家に行ったときの二人」
貴音「……」
亜美「みんな悲しがってたけどさ、あの二人は印象に残るよね」
「……」
――――
P母「顔を、見てあげて」
律子「はい……。っ!」
美希「はにぃ……?」
春香「……」
美希「はにぃ、ミキだよ。ミキがきたよ」
貴音「……あなた様」
美希「はにぃ、はにぃ。おきてよ」
伊織「……なんで、死ぬのよ」
美希「……ねえ、はにぃ。…………わらってよ、めをあけてよっ!」
春香「……………………」
やよい「…………いやです」
――――
亜美「亜美、思うんだけどさ」
「……」
亜美「ミキミキもはるるんも、兄ちゃんのこと、好きだったと思うよ」
「……」
亜美「二人は思いっきり泣いてたから」
「……」
――――
亜美「大きい式場だね」
春香「…………ぁ」
雪歩「……春香ちゃん?」
春香「……やだ……わたし、なんで…………プロ、デュー……」ガン
千早「春香ッ!」
春香「いやだ…………いや…………!」
千早「春香、落ち着いて! 大丈夫よ」
――――
亜美「でもさ」
貴音「……」
亜美「二人とも、受け入れて仕事してるよ」
「……」
亜美「兄ちゃんに見守ってもらうために、絶えず笑顔で」
「……」
亜美「ねえ、真美」
「……」
亜美「お願いだよ、またアイドルやろうよ」
「…………」
亜美「亜美、真美とキラキラしたい」
「…………ミキミキじゃないんだからさ」
亜美「っ! 真美」
「…………なに?」
亜美「ドア、あけて」
貴音「……」
「…………やだ」
亜美「…………なんで」
「…………正直真美ね、気が狂いそうなの」
亜美「…………」
「…………にいちゃんのいない事務所が、寂しくてさ」
亜美「…………うん」
「…………耐えられないんだ、にいちゃんがいないって」
亜美「…………」
「…………だからもう、ほっといて」
貴音「……」
亜美「……真美」
「…………」
亜美「……お願い、ここをあけて」
「…………」
亜美「……ねえ、真美」
「…………」
亜美「……真美お姉ちゃんっ!」
「っ!」
亜美「……お姉ちゃんがそんなんでどうすんの!?」
「…………」
亜美「真美、お願いだから――――」
ぐらり、と視界が揺れた。
亜美「――――貴音」
なにもしゃべれない。
貴音「……ひさかたぶりです、あなた様」
亜美「俺を呼び出すのが狙いだったのか?」
身体がまるでのっとられたみたいに、
自分の意志じゃ動かせなかった。
貴音「…………真美を笑顔にできるのは、あなた様だけです」
亜美「……そうか」
亜美はごほんと咳払いをした。
いや、亜美じゃないか。
それにしても、お姫ちんって何者なんだろ。
亜美「……真美」
「…………え?」
亜美「答えるよ、真美」
「…………何、言ってるの? 亜美」
亜美「貴音に協力してもらってな。亜美の身体を借りてはいるが……」
「…………にいちゃん?」
亜美「ああ」
貴音「…………」
「…………亜美、いい加減にしてよ」
亜美「ウソじゃないぞ、真美。試してもらってもいい」
「…………あの日」
亜美「え?」
「あの、バレンタインライブの日。真美が兄ちゃんとした約束はなに?」
兄ちゃんは何も言っていないんじゃなかったっけ?
貴音「”約束”は交わしたのでしょう」
そうなんだ……。てか、お姫ちん、亜美とも会話できるんだ。
亜美「『これが終わったら、やよいと3人でチョコケーキを食いに行こうな』」
「…………」
亜美「ごめんな、約束守れなくて」
「…………」
亜美「幸せにできなくて、ごめんな。でも……俺はずっとみんなを見てる。真美を、見てる」
「…………にいちゃん」
亜美「765プロのみんなを、見守ってるよ」
次の瞬間、勢い良くドアが開いて、真美が亜美の身体へと飛びついた。
真美「にい、ちゃんっ」
亜美「おう、どうした真美」
真美「にいちゃんっ、にいちゃんっ!」
亜美「よーし、よし。身体は亜美だけど、胸使っていいから」
真美「うわあああああん!」
真美「…………にいちゃん」
亜美「どうした」
真美「にいちゃんの、答えを聞かせて」
亜美「ああ」
兄ちゃんは亜美の口から、ゆっくりと。
亜美「俺は、双海真美のプロデューサーだ」
真美「……うん」
亜美「毎日真美を見てきた。だから、言うよ」
真美「……うん」
亜美「大好きだよ」
真美「…………にいちゃんっ!」
お姫ちんは途中で「一階で待たせて頂きます」と階段を降りた。
亜美「寝ちゃったみたいだな」
ねえ、兄ちゃん。
亜美「どうした?」
なんで知ってるの、真美のキモチ。
亜美「ああ、真美がお前に電話してきたろ?」
うん。
亜美「その時、俺は真美のそばにいたんだ。事務所にな」
……兄ちゃん、本当にそばにいるんだね。
亜美「ウソはつかないよ、プロデューサーだからな」
ありがとう、兄ちゃん。
亜美「ん?」
兄ちゃんのおかげで、真美、またアイドル出来そうだよ。
亜美「……悪かった」
え?
亜美「俺が無様に死んだりしたから、みんなを……」
…………うん、まあ、そうだよね。
亜美「……ごめんな」
でもさ、兄ちゃんは命がけで真美を守ってくれたんだからさ。
チャラにしてあげるよ。
亜美「……亜美」
そのかわり。時々でいいからさ、誰かの身体をこうやって借りて……。
亜美「…………そこらへんは、貴音に聞いてくれ」
ねえねえ、お姫ちんって何者なの?
亜美「……さあ、な。俺が視えるみたいだし」
すごいよねー。
亜美「生きてる時から、不思議な奴だとは思ってたけどなぁ」
…………ねえ、兄ちゃん。
亜美「なんだ?」
ほんと、ありがと。
亜美「…………俺よりもさ」
ん?
亜美「俺よりも、きっといいプロデューサーが来るはずだ。だから、お前らは。
そのプロデューサーを受け入れて、優しくしてやってくれ」
……当たり前じゃん。
亜美「あ、でも……俺のことも、忘れないでくれたら、いいけどな」
…………兄ちゃんの、ばーか。
亜美「なんだよ、突然。あはは」
貴音「……あなた様?」
亜美「貴音……」
お姫ちん。
貴音「真美は、眠っているのですか」
亜美「ああ、泣き疲れかな」
貴音「そうですか……」
亜美「どうしたんだ、貴音」
貴音「いえ……。それ以上亜美の中に入っていると、亜美の負担になってしまいますので」
負担?
亜美「ああ、分かった。そろそろ、出ることにするよ。ありがとな、亜美」
あ、兄ちゃん。
亜美「……どうした?」
貴音「……」
亜美も、兄ちゃんのこと大好きだよ。
亜美「…………おう」
――
亜美「おっはよー!」
真美「おはおはー!」
『おはよー』
小鳥「おはよう、ふたりとも…………って、あら?」
春香「小鳥さん、どうしたんですか? ……あれ?」
千早「真美、髪の毛……」
真美は髪を結ばなくなった。ちょっとオトナっぽくなって生意気だ。
……亜美は結んだまま。
そうしてからの、初めての事務所。
真美「ああ、これ?」
真美は髪の毛を触る。
美希「真美、カワイイの!」
真美「へへーん、オトナっぽいかな?」
やよい「かわいいなぁ」
伊織「……へえ、本当ね」
真「でも、どうして結ばないの?」
真美は「ふふーん」と笑って、
真美「あれは、もうやらないって決めたの」
真「え、どうして?」
真美「ヒミツだよーっ」
真「えー、教えてよぅ、真美ぃ」
ガチャ
高木「うぉっほんっ! やあ、おはよう」
『おはようございまーす』
律子「なんと、今日は新しいプロデューサーが来てるのよ!」
美希「おぉー、なの!」
春香「うわぁ、どんな人なんだろう!」
雪歩「仲良くなれるといいなぁ……」
あずさ「かっこいいかしら〜?」
ワイワイ ガヤガヤ!
律子「はい、静かにー!」
高木「それじゃあ、入ってきてもらおうか。おーい!」
真美「……新しいにいちゃんにも、いたずらしまくろうね、亜美!」
亜美「モチのロンだよ、真美!」
真美がニカッと笑い、髪の毛が揺れた。
――――あの髪型は、にいちゃん専用だもん!
まあ、そう言って笑われたら、
亜美だって納得するしかないよ。
やっぱり、二人で一つ。
亜美と真美。
ふたりじゃなきゃ、笑えないよね!
おしまい
マジオネアの後なのでテンションの差が激しかったような。
憑依が書きたかっただけですが、ご覧頂きありがとうございました!
兄ちゃんが真美の前に立ちはだかって、命がけで真美を救った。
春香「…………プロデューサー、さん……」
男はその場で逮捕され、兄ちゃんは倒れた。
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兄ちゃん、死んじゃった。
この間まで事務所でお仕事をしていた兄ちゃんが。
イタズラしても笑っててくれた兄ちゃんが。
みんなと楽しそうに笑い合ってた兄ちゃんが。
いま、告別式の朝。
中央の棺の中では、兄ちゃんが安らかな笑顔で眠ってる。
亜美達、大勢を置き去りにして、兄ちゃんは遠い彼方へ旅立った。
『お前らがトップアイドルになるまで、絶対面倒みるからな!』
うそつき。
兄ちゃんの、ばーか。
ばーか。
美希「ミキ、また頑張るの」
美希「だって、キラキラしてないと、空でハニーが怒るから」
ミキミキはホールを出たすぐ横で、りっちゃんと話していた。
律子「美希。仕事なら、いつでも休みを」
美希「ううん、いらないよ」
律子「……そう」
美希「今休んだりすると、寂しくなっちゃう……って思うな」
そういうと、ゆっくりとミキミキはホールに戻る。
律子「…………亜美?」
見つかっちった。
亜美「ねぇ、りっちゃん。……兄ちゃんの次のプロデューサーは、呼ぶの?」
律子「ええ。…………でも四十九日が終わるまでは、このままで行こうと思ってる」
亜美「大丈夫なの?」
律子「12人面倒見るくらい大丈夫よ。少しの間は」
亜美「でも」
律子「プロデューサーは9人も面倒見てたんだから」
亜美「……りっちゃん、無理しないでね」
律子「……亜美らしくないわねぇ。こんな時こそ、アンタと真美には元気でいてくれなきゃ困るのよ」
亜美「…………うん」
律子「ほら、もうすぐ式が始まるわよ。戻りましょう」
ホールには見慣れない顔もいっぱい。
兄ちゃんの友達かな、あとお父さんお母さん?
兄ちゃん、親不幸者っしょ。
春香「……亜美、隣に座って?」
はるるんが手招き。その周りにはみんなが座って俯いている。服は真っ黒。
まこちん、ゆきぴょん、お姫ちん。ミキミキ、千早お姉ちゃん、いおりん、ひびきん。
はるるん、やよいっち、あずさお姉ちゃん。りっちゃん、……真美。
亜美「うん。……んしょ」
春香「なんか、実感持てないよ」
真「うん、そうだね。……今でも、ひょっこり向こうから出てきそうだよ」
はるるんの後ろに座るまこちんは、疲れた顔をしていた。
やよい「プロデューサーは、真美のことを助けて刺されましたけど、
あのときのプロデューサー、かっこよかったんです」
亜美の左隣から、やよいっち。
そうだ。やよいっちはあの場所にいたんだよね。
亜美「……兄ちゃん、亜美達のこと見ててくれるかな」
貴音「亜美。あの方は必ず、見守ってくださっています。
わたくし達をトップアイドルにする、と約束されたのですから」
亜美「……そうだね」
兄ちゃんはうそつきだ。
だから、せめて見ていて欲しい。自力で這い上がる様を。
そう思うのは、自分勝手かな?
『まもなく、故・――――様の、告別式を執り行います…………』
焼香は、はるるんとやよいっちと、3人で済ませた。
やり方がわからなくてはるるんの方を見たら、目があった。
結局、やよいっちに教えてもらった。さすがお姉ちゃん。
春香「私たちが、最初だったんだね」
焼香台を見ると、あずさお姉ちゃんとりっちゃんと真美が立っていた。
やよい「そうみたいですね」
亜美「まあ、親族の席に座ってるからね」
春香「プロデューサーさんのお父さんが、ぜひ765のみんなをここにって言ったみたいだよ」
亜美「いいオヤジさんですなぁ」
やよい「プロデューサーのお父さんですから」
その後も式は進んでいった。
棺の中の兄ちゃんは真っ白な顔で、魂が抜けた表情をしている。
綿で形作られた袴を着て、ただただ眠っている。
花を納める間、少し泣いてしまった。
ピヨちゃんと社長は、普通の席に座っていたみたい。
……泣いていた。
『それでは、ご出棺となります』
兄ちゃんを乗せて、霊柩車は雄叫びをあげる。
泣いてしまった。
泣いたら、兄ちゃんが死んだことを認めなければいけなくなる。
…………兄ちゃんは生きていると、まだどこかで思っていたかった。
―
火葬は親族だけで、といわれていた。
亜美達はりっちゃんと社長に連れられて、近くのファミレスに入る。
三つの席に分かれた。亜美は、真美とりっちゃんと社長のいる席。
高木「彼の後任は、考えていないよ。入るとしても、当分先だろうね」
律子「プロデューサーのやりかけの仕事は、私がやっておきます」
高木「うむ。……少しお手洗いに行ってくるよ」
社長が席を立つ。
律子「ねえ、真美。大丈夫?」
真美は朝から、全然喋っていない。
真美「……」フルフル
首を横に振った。
律子「そうよね。大丈夫なわけ、ないわよね」
真美「兄ちゃんは、生きてるよ。死んでなんかない」
亜美「え……?」
真美「死ぬわけないよ」
律子「真美。私たちは、受け止めなきゃいけないの。だって」
真美「兄ちゃんは生きてるんだよ」
律子「ねえ真美。私たちはもっと活躍して、プロデューサーに安心してもらわないと」
真美「生きてるよッ!」バン
真美がテーブルを叩くと、騒がしかった店内は一瞬静まり返った。
亜美「真美、亜美達は兄ちゃんに」
真美「……うるさい」
律子「そうやって落ち込んでばかりいたら、プロデューサーが報われないわよ」
真美「…………兄ちゃんは、真美を守ってくれた」
真美は涙を目に浮かべた。
真美「生きてるんだよ」
亜美「……」
真美「それに、まだ……」
亜美「……?」
真美「…………帰る」
律子「ちょっと、真美!」
真美「ついてこないで! …………亜美も」
高木「お待たせ。……あれ、真美君はどうしたのかね?」
律子「…………帰っちゃいました」
高木「帰った?」
亜美「……」
――――
それ以来真美は部屋にこもりきりになった。
亜美はといえば、閉め出されていて今では両親の寝室で寝て起きている。
当然、芸能活動も真美は休んだままだ。
ミキミキやはるるんは、もう仕事をしているというのに。
亜美「おはよー」
だから亜美は、ひとりで事務所に行く。
律子「おはよ、亜美」
小鳥「おはよう」
千早「おはよう」
響「はいさーい」
真「おはようっ」
みんなが真美を探してから亜美に挨拶することも、もう分かってる。
『生放送、あさワントーク。ゲストはアイドル、星井美希さん!』
真「律子。春香が来たらレッスンに行っていいんだよね?」
律子「ええ、いいわよ」
『おはよーなのー! 今日はよろしくねー!』
千早「……我那覇さん」
響「ん?」
千早「リモコンを取ってもらってもいいかしら?」
響「うん、はいっ」
千早「ありがとう」ピッ
『――なんですね。続いては萩原雪歩さんの新曲「Little Match――』ピッ
亜美「千早お姉ちゃん、何を見たいの?」
千早「普通のニュースよ。あの番組はトークになると、ニュースをやらないから」
『――比奈りんのギリギリアタック! 今週はこちらの商店街にお邪――』ピッ
『――ロ所属のJupiter、バレンタインに伊集院君が脱ぐハプニン――』ピッ
亜美「今って、そういう時間だから……多分やってないよ」
千早「……そう。じゃあ美希のトークにしましょうか」ピッ
『――うしてあなたは、赤い洗面器なんて頭にかぶって歩いているのですか? ってね』
春香「おはようございまーす」
真「おっ、来た来たー! 春香、レッスン行こう! レッスン!」
春香「ええ〜? 早いよう」
律子「真、もうちょっと時間にゆとりってものをね」
真「はいはい! はいさい!」
響「はいさい関係ないだろ!?」
千早「ふふっ、賑やかでいいわね」
兄ちゃんがいれば、この中心に居たんだろうな。
ふと、そんなことを考える。
純粋に笑えない自分に嫌気が差した。
真美すら救えない自分に。
真「いってきまーす」
春香「あわわ、行ってきます!」
小鳥「はい、いってらっしゃい」
千早「転ばないようにね」
響「体動かしなよー!」
真「へへっ、言われなくてもね!」
ガチャン
千早「……亜美、元気ないでしょう?」
亜美「へっ!?」
千早お姉ちゃんから突然声をかけられて、身体がビクンとした。
千早「なんだか、あんまり笑っていないから」
亜美「そ、そんなことないYO→! メチャンコ元気だよ!?」
千早「なら、いいのだけれど」
『このジェノベーゼを作ったのは、お前かぁー! って、客席に悲鳴が響いたの……』
元気なわけ、ないよ。真美があんな状態なのに。
元はといえば、兄ちゃんが居なくなって。
千早「…………真美のこと」
亜美「え?」
千早「真美のこと、気にしないでいいと思うわ」
亜美「どう、して?」
千早「今真美のことを気にしながら仕事すると、亜美まで壊れちゃうんじゃないかって」
亜美「……真美は壊れてなんかないよ」
千早「……言い方が悪かったわね。亜美まで、元気がなくなってしまうんじゃないかな、って」
亜美「うん……」
千早お姉ちゃんは目線をテレビから動かさない。
千早「私、力になりたいの。亜美と真美の」
亜美「力?」
千早「でも、今はまだ時期じゃない。……亜美が真美を説得しなきゃ行けないんだと思う」
亜美「説得……」
律子「千早」
千早「なに?」
律子「真美は、言葉を聞いて立ち直れるほど大人じゃないのよ」
千早「いいえ、大人よ」
律子「え?」
千早お姉ちゃんはりっちゃんをまっすぐ見た。
千早「真美は大人よ。大人じゃなきゃ、アイドルなんて出来ない」
律子「……」
亜美「千早お姉ちゃん……」
千早「春香や美希は、プロデューサーに心酔していたわ。
それでも二人は、今日も仕事をしてる」
『そんなのありえないのー! って感じだったな』
千早「真美だって、きっと立ち直れるはず」
律子「……そう、かもしれないわね」
―
AD「小町さん、お疲れ様でした」
律子「お疲れ様です、ありがとうございました」
りっちゃんの挨拶に続いて、3人で「ありがとうございました」と元気に挨拶。
スタッフの人には「大変だったね」なんて声をたくさんかけられた。
律子「番組のプロデューサーと話してくるから、先に戻ってて」
楽屋に向かうまでのテレビ局の廊下。
あずさ「……真美ちゃんは、元気そう?」
亜美「どうだろうね。亜美も、ここ二週間は顔を見てないからさ、わかんないよ」
伊織「お風呂とかトイレはどうしてるの?」
亜美「夜遅くに入ってるみたいだよ」
伊織「そう……」
あずさ「プロデューサーさんだったら、どうしたのかしらねぇ」
伊織「あずさ、プロデューサーが生きてたらこんなことは起きてないわよ」
あずさ「……そうね」
ガチャ
伊織「ねえ」
亜美「?」
伊織「私に、何が出来るのかしら」
あずさ「え?」
伊織「真美に、なんて言えばいいのかしら」
あずさ「……難しいわね」
亜美「『兄ちゃんに顔向け出来ないぞ』、とか」
伊織「ダメよ、真美はプロデューサーが死んだこと、信じてないもの」
亜美「……」
あずさ「『プロデューサーさんが、そばにいる』とか」
伊織「…………真美は、それで笑ってくれるのかしら?」
―
結局何も思いつかないまま、亜美達は事務所に戻った。
お姫ちんとひびきん、はるるん、ゆきぴょんが居た。
呟いてみる。
亜美「ねえ、みんな」
春香「?」
亜美「真美を笑顔にしたいんだ」
雪歩「笑顔……」
亜美「立ち直ってもらって、それで……また、歌いたいんだ」
響「…………亜美」
貴音「ならば」
亜美「お姫ちん……?」
貴音「わたくしに、考えがあります」
お姫ちんの考えは、突飛なものだった。
今度やるドラマから思いついたらしい、なかなかなアイデア。
春香「確かに、亜美ぐらいにしか出来ない作戦だよね。
……でも、貴音さん。実の妹がそんなことやっても、バレちゃうんじゃ?」
貴音「それは運次第です。ですが、真美ならばきっとこれで立ち直れると、信じます」
――題して「双海真美・さわやか笑顔計画」。
動き出した。
響「よし、協力するぞ!」
雪歩「がんばりますっ!」
伊織「真美を笑顔にしてやろうじゃないの!」
あずさ「上手くいくように頑張りましょうね〜」
亜美「みんな、ありがとう……!」
貴音「亜美、礼は全てが成功してから、ぜひ言って下さい」
亜美「う、うん」
―
それは今夜から始まる。
閉ざされた部屋のドアをノックすることから、スタートするんだ。
かつて入り浸っていた亜美と真美の部屋。今では、厚い壁に見える。
コンコン
亜美「……真美、真美」
物音がした。
亜美「真美、ドアを開けてくれないか」
ガタン、と言った。
亜美「頼む、真美。お前だけが便りなんだ」
ガチャ、と解錠される音がして、ドアが開く。
真美「――――亜美?」
随分とやつれちゃったね、真美。
髪ももう、纏めなくなったんだね。
亜美「真美、落ち着いて話を聞いてほしい」
真美「……なに?」
これから始まるすべての出来事が、うまくいくことを祈るしかない。
亜美「――俺は、お前のプロデューサーだ」
お姫ちんが提示した計画……それは、亜美が兄ちゃんを演じることだ。
真美「――――?」
亜美「信じてくれないかもしれないが、亜美の身体に入り込んでしまったみたいなんだ」
真美「にい、ちゃん」
亜美「気づいたら、こうなってて……」
真美「にいちゃんっ!」
押し倒された。低い温度の廊下、肌が触れる。
真美「にいちゃんっ、にいちゃんなんだよね!?」
真美は亜美――兄ちゃんをぎゅっと抱きしめて、何度も「にいちゃん」と言った。
泣いている。
亜美「あ、ああ」
真美「にいちゃん……! にいちゃん、にいちゃん!」
亜美「ま、真美! 落ち着け!」
バッ、と身体を離した。
真美「……?」
亜美「お前らのこと、ずっと見てたんだ。それで……真美に、迷惑かけちゃってるって思って」
真美「迷惑なんかじゃないよ、にいちゃんは、真美のことを守ってくれた……」
亜美「でも、真美は引きこもりがちになっちゃったろ」
真美「…………だって、にいちゃんがいないから」
亜美「悪かった、真美。俺はいつもお前らのこと、見てるよ」
真美「…………うん」
亜美「だから、安心して外に出てくれ。歌ってくれ。踊ってくれ。笑ってくれ」
真美「………………うん」
すらすらと言葉が出てくる。
これは、兄ちゃんの皮を借りた亜美からのメッセージだよ、真美。
亜美「それで――――」
真美「?」
亜美「亜美がさっきから、喋ってくれないんだ」
真美「へ?」
亜美「亜美の身体に入り込んでから、亜美の反応がない」
真美「……亜美が?」
亜美「どうすれば……」
真美「亜美を起こす時はね、いっつもこうやってんの」
そう言うと真美は、亜美のほっぺたをおもいっきりひっぱった。
よく知ってるよ。
亜美「いたっ」
真美「あ、亜美?」
ここは”亜美”の方がいいのか。
亜美「――――あれっ、真美?」
真美「さっきまでね、兄ちゃんが亜美の身体の中にいたんだよ」
亜美「へっ! そなの!?」
真美「うん」
真美が笑う。欠片も疑ってない。
――――
貴音『信用させるために、一度プロデューサーから亜美へと、意識を戻します』
春香『戻す、って?』
貴音『例えば、プロデューサーとして「亜美がいない」などと言い、
一度亜美に戻った後で、もう一度プロデューサーに戻ります』
響『それをやって、どうなるんだ?』
貴音『真美の信用度が上がるでしょう。目の前で妹とプロデューサーに変わる瞬間を見れば』
亜美『なるほど』
――――
亜美「あれ、なんだか眠くなってきたよ……」
真美「へっ、亜美?」
亜美は寝たふりをして、すぐに”兄ちゃん”になる。
亜美「……よかった、さすが真美」
真美「あ、兄ちゃん?」
亜美「ああ。今は寝ちゃったみたいだけどな。聞こえるよ、いびきが」
真美「あはは、亜美の?」
亜美「そう、亜美の」
真美「そっか」
真美はしばらく黙って、
真美「部屋、入る?」
亜美「……ああ」
二段ベッドの上段が、真美。下段が、亜美だった。
下段には物が散乱していて、とても寝れそうじゃあない。
真美「ごめんね、ちらかってて」
亜美「いや、いいんだ。……こもってからずっとこうなのか?」
真美「見てたんじゃないの? そうだよ」
亜美「さすがに部屋までは入れないだろ。……そうなのか」
真美はぎゅーっと亜美のうでに抱きつく。
真美「ねえ、にいちゃん」
亜美「ん?」
真美「なんか今日は疲れちゃったから、もう寝るよ」
亜美「ああ、それがいい」
真美が寝たら、早速お姫ちんに――。
真美「だからさ」
亜美「ん?」
真美「一緒に寝て?」
添い寝のお誘いだったが、真美は数秒で寝入ってしまった。
安心感かなんなのかは分からないけど。
二十分ぐらい横で寝ていて、時期を見てベッドから降りた。
部屋を出て、トイレの中で、携帯を開く。
亜美「……もしもし」
『もしもし、成功しましたか?』
亜美「ああ」
貴音『それは、良かった』
電話報告。それが、お姫ちんの作戦の中に含まれていた。
真美に聞かれても大丈夫なように、亜美は”兄ちゃん”のまま。
貴音『真美は、どんな様子だったのですか?』
亜美「そうだな、最初は俺を抱きしめて、添い寝だな」
貴音『なるほど。心を許したのですね』
亜美「ああ。なあ……貴音」
貴音『なんでしょう?』
亜美「…………本当に、やるのか?」
貴音『………………最終的な判断は、亜美にお任せします」
――――
貴音『まず、亜美がプロデューサーのフリをして真美と会話をします』
亜美『……え?』
貴音『あの状態では、きっと真美が心を開けるのはプロデューサーだけでしょう』
亜美『それでどうして、亜美が兄ちゃんのマネッコをするの?』
貴音『特技がモノマネなのは、この事務所では亜美と真美だけです』
亜美『…………うん』
春香『確かに、亜美ぐらいにしか出来ない作戦だよね。
……でも、貴音さん。実の妹がそんなことやっても、バレちゃうんじゃ?』
貴音『それは運次第です。ですが、真美ならばきっとこれで立ち直れると、信じます』
響『なるほど。それで、どうするんだ?』
亜美『え?」
響『だって、そのまま亜美が一生プロデューサーを演じるわけにも行かないだろ?』
貴音『そこ、なのですが……』
貴音『しばらくして、亜美がプロデューサーとして、真美を探ります。
もうプロデューサーが居なくても活動できると判断した場合は、成仏ということにして
ゆっくりと真美とプロデューサーを離していきましょう』
亜美『…………どうやって判断するの?』
貴音『一言、聞くのです。
「真美のことは、俺がずっと見守っててやるから、亜美に身体を返してもいいか」と』
亜美『……分かった、頑張るよ』
響『よし、協力するぞ!』
雪歩『がんばりますっ!』
伊織『真美を笑顔にしてやろうじゃないの!』
あずさ『上手くいくように頑張りましょうね〜』
――――
もし、真美が「嫌だ」と。「一緒にいて」と言えば。
亜美は、一生兄ちゃんのままだ。
お姫ちんは、みんなの前でこの可能性のことは口にしなかった。
亜美「ふー……」
どうなるかわからない。
真美が、立ち直ってくれるか、くれないか。
どちらにせよ、亜美は兄ちゃんになるだけだ。
真美「……おはよう」
亜美「おう、おはよう真美」
真美「っにいちゃん!」
朝。真美は”兄ちゃん”を強く抱きしめる。
亜美「おいおい、元気有り余ってるな。外、いけるか」
真美「うん。……事務所に、行きたい」
亜美「分かった。行こうか。
でも、俺が亜美の中にいることは内緒な」
真美「分かった」
真美は”兄ちゃん”と手をつないで、家を出た。
真美「おはよー」
亜美「おはおはー」
律子「真美!」
千早「真美!?」
春香「まみっ」
貴音「……真美」
真「真美!」
真美のもとへ、みんなが駆け寄ってくる。
真美は笑いながら一人一人と挨拶を交わした。
事務所では、亜美が出てきていることになっている。
春香「とりあえず、クッキー食べよう♪」
真「みんなにメールしないとっ」
貴音「良かったですね」
律子「良かったわ……本当に」
仕事が始まれば、亜美と真美は別行動が多い。
真美はやよいっちやみんなと組んで、亜美は竜宮小町で。それがメインだからだ。
仕事中は遠慮すること無く双海亜美でいられた。
お姫ちんに言っておきながら、今更兄ちゃんのマネッコが難しいだなんて言えなかった。
車での移動中。
あずさ「――だったんですよ〜」
律子「へぇ、つまり柔道なんですね」
プルルルル
亜美「あっ……電話」
伊織「律子、ラジオ消して」
律子「はーい」カチッ
亜美「もしもし?」
『もしもし、にいちゃん』
亜美「……真美か」
真美だった。
真美『真美ね、お仕事チョー頑張ったよ!』
亜美「そうか、偉いな。亜美も頑張ってるみたいだよ。今は寝てるけど」
亜美が寝ている時、兄ちゃんが出てくる。そういう設定。
強制的に出てくるのも、ありえる。
真美『えへへー。事務所でいっぱい褒めて貰うねっ』
亜美「ああ。……周りには誰も居ないのか?」
真美『えっ? ああ、やよいっちがいるけど、気づいてないよ』
亜美「そうか」
あずさ「…………」
亜美「頑張れよ。じゃあな」
真美『あ、ちょっとまってにいちゃん』
亜美「ん?」
真美『あの時、言えなかったことを……もう一度、言わせて』
あの時言えなかったこと? あの時っていつ?
何を言えなかったの?
どう答えていいのかわからない。”あの時”を知らないからだ。
なぜ知らないのか?
亜美は、兄ちゃんではないからだ。
真美『真美ね』
亜美「ああ」
真美『にいちゃんのこと、大好き』
亜美「――――」
真美『ライクじゃなくて、ラブの方でね』
亜美「――ぇ」
真美『そんじゃあね! 答えは聞いてないっ』
ツー ツー ツー
亜美「…………」
なにそれ。
あずさ「どうしたの? 亜美ちゃん」
亜美「…………あずさ、お姉ちゃん」
あずさ「?」
亜美「どうしよう…………」
伊織「……亜美?」
律子「え?」
亜美「真美が、兄ちゃんのこと、好きだって」
あずさ「…………」
伊織「え?」
律子「……?」
亜美「どうしよう……」
それって、亜美が答えていいの?
たとえ、兄ちゃんの解答と違っても。
電話をした。お姫ちんならば、上手く行けば対処法を教えてくれるかもしれない。
『……はい』
亜美「もしもし、お姫ちん!」
貴音『どうしました? 焦っているようですが……』
亜美「あのね、真美が」
貴音『真美が?』
亜美「真美が、兄ちゃんのことを好きだって」
貴音『…………?』
亜美「真美は、亜美が兄ちゃんだって思い込んでいる。
兄ちゃんが刺される直前に、真美は言いかけてたみたいで」
貴音『…………そう、ですか』
亜美「どうすれば、いいのかな? それって、亜美が答えても」
貴音『…………亜美』
亜美「なに……?」
貴音『……これは、あなたが選ぶべき選択肢です。
【真美を騙し続けて、笑顔を見る】未来と、【真美に真実を告げて、前を向いてもらう】未来です』
亜美「え……?」
貴音『…………亜美はこれから、どちらかを選ばないといけません』
亜美「それって、亜美が兄ちゃんのかわりに、告白しなきゃいけないの?」
貴音『そうするか、もうひとつ』
亜美「…………全部ウソだったって、言うの?」
貴音『出来るだけ、そんなことはしたくありません。ですが、愛情はとても繊細なもの』
亜美「…………だったら」
貴音『真実を告げたほうが、真美にとっては幸せかもしれません』
亜美「そんなの……」
貴音『…………すみません』
亜美「え?」
貴音『わたくしの、見誤りです』
亜美「……お姫ちんは悪くないよ」
貴音『…………すみません』
亜美「…………亜美が、どうしたいか決めていいんだよね?」
貴音『………………はい』
亜美「だったら、亜美は」
貴音『…………』
亜美「亜美は、真美に幸せになって欲しいから」
伊織「…………」
亜美「選ぶよ」
今日の分はここまでです。
また今度書きためてここにきます。
>>25
読んでいただきありがとうございます。
亜美「…………ウソをつく」
貴音『…………』
亜美「…………それが、亜美にとっても真美にとっても、兄ちゃんにとっても幸せだと、思う」
伊織「…………どうすんのよ」
亜美「…………伊織、あずささん、律子」
律子「……」
亜美「…………兄ちゃんっぽいかな?」
あずさ「亜美、ちゃん」
亜美「亜美は兄ちゃんになるよ」
伊織「…………」
律子「ただいま戻りました」
事務所に帰ると真美はソファに座っている。
近くにはお姫ちんが居たが、真美は事務所に一人きりだと思っているらしい。
真美が誰かと二人の時に必ず出すお茶を、出していなかった。
りっちゃん達は社長室に消えた。
真美「にいちゃんっ」
亜美「おっす、真美」
真美が抱きついてくる。
真美「待ちくたびれたよ、にいちゃん」
亜美「悪かったな」
笑顔で甘える真美。
これで良かったんだ。
真美「真美ね、気持ち、伝えるよ」
真美は亜美の胸から離れた。
ついに、亜美が亜美でいられなくなる瞬間がやってくる。
静かに唾を飲み込んだ。
真美「でもね」
えっ?
真美の目はまっすぐと亜美を見据えていた。
真美「真美、先ににいちゃんがあの時言いかけていたこと、聞きたいなぁ」
あの時言いかけていたことって、何?
混乱してくる。
真美「言って?」
真美は腕を亜美の首もとまで伸ばした。
亜美「えっ、と…………」
真美は顔を耳に近づけて、呟く。
真美「いえるわけないよね」
亜美「え?」
真美が顔を離す。笑っているような、泣いているような顔。
真美「言えるわけないよ、亜美。にいちゃんはそんなこと、言ってないから」
亜美「…………え?」
真美「にいちゃんじゃないよね?」
亜美「…………な、なんで」
なんで気がついてるの?
真美「……お姫ちんがいるのにどうして正体を隠さないの?」
亜美「…………あ」
お姫ちんに、気づいてた?
目をやると、お姫ちんは驚いた表情をしていた。
亜美「……貴音は知ってたんだよ、俺のことを」
真美「…………まだ、真美のことをバカにし続けるの?」
亜美「っ! そんなこと……」
しまった。
真美「…………きょう、ひびきんが話してるの、聞いちゃったよ」
真美「わかんないよ」
亜美「…………」
真美「にいちゃんは、やっぱり、もうどこにも……」
亜美「…………」
真美「…………ゴメン」
亜美「…………ぇ」
真美「…………バカになんか、してないよね。
亜美達、真美のこと考えてくれて」
貴音「あの、真美」
真美「……にいちゃんから、答え、聞きたかったな……」バッ
バタン
亜美「真美っ……」
貴音「……見透かされていましたか」
亜美「……うん」
貴音「…………真美は」
亜美「真美は多分、うちにいったよ」
貴音「…………亜美、わたくしに家に行かせてください」
亜美「…………え?」
貴音「真美の笑顔を、まだ見ていません」
亜美「…………笑顔計画は失敗じゃあ……」
貴音「いいえ。まだ計画は続いていますよ」
お姫ちんは、兄ちゃんのデスクに近寄り、机上を撫でた。
亡くなったときのまま、りっちゃんとピヨちゃんが残してある。
貴音「ファイル、ですね」
赤いファイルを手にとった。マジックで「高槻やよい、双海真美」と書かれている。
お姫ちんは微笑みながら、ファイルのページをめくった。
貴音「『2月14日、バレンタインライブ』」
亜美「…………」
貴音「『会場は湘南ショッピングタウン。最高のステージにする!』」
亜美「バレンタインだったね、兄ちゃんの命日」
貴音「もう、2月も終わってしまいます」
当然、バレンタイン以降も兄ちゃんはスケジュールを書いていた。
お葬式の日の撮影は、キャンセルしたんだっけ。
貴音「『2月17日、美希、雑誌表紙』」
亜美「……ミキミキ」
ミキミキ、ずっと泣いてた。
事務所で、誰かにあたるわけでもなく、ただただ泣いていた。
はにぃ、はにぃ、おきてよって。
兄ちゃんの実家で、顔を見て泣きじゃくった。
貴音「『2月19日、春香、スイーツTVロケ』」
亜美「……はるるん」
はるるんは、泣くと言うより、放心状態だった。
ミキミキと顔を見に行っても、静かにお線香をあげただけ。
お通夜の日かな。ホールに入って兄ちゃんの遺影を見たら、
泣き崩れたんだよね。
千早お姉ちゃんは「心酔」って言ったけれど……、
ふたりとも、兄ちゃんに明確な好意を抱いてた。
でも、今は辛い顔一つ見せずに仕事をしている。
ミキミキやはるるんは、完全に立ち直った訳じゃない。
でも、ある程度「兄ちゃんはもういない」という事実を受け止めている。
真美も、兄ちゃんを好きだった。
……なら、真美だってまた笑えるはずだ。
亜美「真美……」
貴音「さて……。参りましょうか」
お姫ちんが、手を繋いできた。
あったかくて、優しいてのひら。
真美の手も握りたいって、ふと思った。
―
貴音「お邪魔します」
静かな家だ。
親は医者だし、昼間はいない。
多分、真美とは電車2本差ぐらい。
階段をのぼる。すぐ、重い扉が見えた。
昨日、ここから始まった計画は、半日も持たなかった。
二回ノック。
亜美「……真美、ただいま」
返事はない。
亜美「……真美、あのね」
亜美「聞いてほしいことがあるんだ」
「……」
感じる。真美の息づかいを。
亜美「兄ちゃんが亡くなってからお葬式までのミキミキとはるるん、覚えてるっしょ?」
「……」
亜美「……特に、兄ちゃんの実家に行ったときの二人」
貴音「……」
亜美「みんな悲しがってたけどさ、あの二人は印象に残るよね」
「……」
――――
P母「顔を、見てあげて」
律子「はい……。っ!」
美希「はにぃ……?」
春香「……」
美希「はにぃ、ミキだよ。ミキがきたよ」
貴音「……あなた様」
美希「はにぃ、はにぃ。おきてよ」
伊織「……なんで、死ぬのよ」
美希「……ねえ、はにぃ。…………わらってよ、めをあけてよっ!」
春香「……………………」
やよい「…………いやです」
――――
亜美「亜美、思うんだけどさ」
「……」
亜美「ミキミキもはるるんも、兄ちゃんのこと、好きだったと思うよ」
「……」
亜美「二人は思いっきり泣いてたから」
「……」
――――
亜美「大きい式場だね」
春香「…………ぁ」
雪歩「……春香ちゃん?」
春香「……やだ……わたし、なんで…………プロ、デュー……」ガン
千早「春香ッ!」
春香「いやだ…………いや…………!」
千早「春香、落ち着いて! 大丈夫よ」
――――
亜美「でもさ」
貴音「……」
亜美「二人とも、受け入れて仕事してるよ」
「……」
亜美「兄ちゃんに見守ってもらうために、絶えず笑顔で」
「……」
亜美「ねえ、真美」
「……」
亜美「お願いだよ、またアイドルやろうよ」
「…………」
亜美「亜美、真美とキラキラしたい」
「…………ミキミキじゃないんだからさ」
亜美「っ! 真美」
「…………なに?」
亜美「ドア、あけて」
貴音「……」
「…………やだ」
亜美「…………なんで」
「…………正直真美ね、気が狂いそうなの」
亜美「…………」
「…………にいちゃんのいない事務所が、寂しくてさ」
亜美「…………うん」
「…………耐えられないんだ、にいちゃんがいないって」
亜美「…………」
「…………だからもう、ほっといて」
貴音「……」
亜美「……真美」
「…………」
亜美「……お願い、ここをあけて」
「…………」
亜美「……ねえ、真美」
「…………」
亜美「……真美お姉ちゃんっ!」
「っ!」
亜美「……お姉ちゃんがそんなんでどうすんの!?」
「…………」
亜美「真美、お願いだから――――」
ぐらり、と視界が揺れた。
亜美「――――貴音」
なにもしゃべれない。
貴音「……ひさかたぶりです、あなた様」
亜美「俺を呼び出すのが狙いだったのか?」
身体がまるでのっとられたみたいに、
自分の意志じゃ動かせなかった。
貴音「…………真美を笑顔にできるのは、あなた様だけです」
亜美「……そうか」
亜美はごほんと咳払いをした。
いや、亜美じゃないか。
それにしても、お姫ちんって何者なんだろ。
亜美「……真美」
「…………え?」
亜美「答えるよ、真美」
「…………何、言ってるの? 亜美」
亜美「貴音に協力してもらってな。亜美の身体を借りてはいるが……」
「…………にいちゃん?」
亜美「ああ」
貴音「…………」
「…………亜美、いい加減にしてよ」
亜美「ウソじゃないぞ、真美。試してもらってもいい」
「…………あの日」
亜美「え?」
「あの、バレンタインライブの日。真美が兄ちゃんとした約束はなに?」
兄ちゃんは何も言っていないんじゃなかったっけ?
貴音「”約束”は交わしたのでしょう」
そうなんだ……。てか、お姫ちん、亜美とも会話できるんだ。
亜美「『これが終わったら、やよいと3人でチョコケーキを食いに行こうな』」
「…………」
亜美「ごめんな、約束守れなくて」
「…………」
亜美「幸せにできなくて、ごめんな。でも……俺はずっとみんなを見てる。真美を、見てる」
「…………にいちゃん」
亜美「765プロのみんなを、見守ってるよ」
次の瞬間、勢い良くドアが開いて、真美が亜美の身体へと飛びついた。
真美「にい、ちゃんっ」
亜美「おう、どうした真美」
真美「にいちゃんっ、にいちゃんっ!」
亜美「よーし、よし。身体は亜美だけど、胸使っていいから」
真美「うわあああああん!」
真美「…………にいちゃん」
亜美「どうした」
真美「にいちゃんの、答えを聞かせて」
亜美「ああ」
兄ちゃんは亜美の口から、ゆっくりと。
亜美「俺は、双海真美のプロデューサーだ」
真美「……うん」
亜美「毎日真美を見てきた。だから、言うよ」
真美「……うん」
亜美「大好きだよ」
真美「…………にいちゃんっ!」
お姫ちんは途中で「一階で待たせて頂きます」と階段を降りた。
亜美「寝ちゃったみたいだな」
ねえ、兄ちゃん。
亜美「どうした?」
なんで知ってるの、真美のキモチ。
亜美「ああ、真美がお前に電話してきたろ?」
うん。
亜美「その時、俺は真美のそばにいたんだ。事務所にな」
……兄ちゃん、本当にそばにいるんだね。
亜美「ウソはつかないよ、プロデューサーだからな」
ありがとう、兄ちゃん。
亜美「ん?」
兄ちゃんのおかげで、真美、またアイドル出来そうだよ。
亜美「……悪かった」
え?
亜美「俺が無様に死んだりしたから、みんなを……」
…………うん、まあ、そうだよね。
亜美「……ごめんな」
でもさ、兄ちゃんは命がけで真美を守ってくれたんだからさ。
チャラにしてあげるよ。
亜美「……亜美」
そのかわり。時々でいいからさ、誰かの身体をこうやって借りて……。
亜美「…………そこらへんは、貴音に聞いてくれ」
ねえねえ、お姫ちんって何者なの?
亜美「……さあ、な。俺が視えるみたいだし」
すごいよねー。
亜美「生きてる時から、不思議な奴だとは思ってたけどなぁ」
…………ねえ、兄ちゃん。
亜美「なんだ?」
ほんと、ありがと。
亜美「…………俺よりもさ」
ん?
亜美「俺よりも、きっといいプロデューサーが来るはずだ。だから、お前らは。
そのプロデューサーを受け入れて、優しくしてやってくれ」
……当たり前じゃん。
亜美「あ、でも……俺のことも、忘れないでくれたら、いいけどな」
…………兄ちゃんの、ばーか。
亜美「なんだよ、突然。あはは」
貴音「……あなた様?」
亜美「貴音……」
お姫ちん。
貴音「真美は、眠っているのですか」
亜美「ああ、泣き疲れかな」
貴音「そうですか……」
亜美「どうしたんだ、貴音」
貴音「いえ……。それ以上亜美の中に入っていると、亜美の負担になってしまいますので」
負担?
亜美「ああ、分かった。そろそろ、出ることにするよ。ありがとな、亜美」
あ、兄ちゃん。
亜美「……どうした?」
貴音「……」
亜美も、兄ちゃんのこと大好きだよ。
亜美「…………おう」
――
亜美「おっはよー!」
真美「おはおはー!」
『おはよー』
小鳥「おはよう、ふたりとも…………って、あら?」
春香「小鳥さん、どうしたんですか? ……あれ?」
千早「真美、髪の毛……」
真美は髪を結ばなくなった。ちょっとオトナっぽくなって生意気だ。
……亜美は結んだまま。
そうしてからの、初めての事務所。
真美「ああ、これ?」
真美は髪の毛を触る。
美希「真美、カワイイの!」
真美「へへーん、オトナっぽいかな?」
やよい「かわいいなぁ」
伊織「……へえ、本当ね」
真「でも、どうして結ばないの?」
真美は「ふふーん」と笑って、
真美「あれは、もうやらないって決めたの」
真「え、どうして?」
真美「ヒミツだよーっ」
真「えー、教えてよぅ、真美ぃ」
ガチャ
高木「うぉっほんっ! やあ、おはよう」
『おはようございまーす』
律子「なんと、今日は新しいプロデューサーが来てるのよ!」
美希「おぉー、なの!」
春香「うわぁ、どんな人なんだろう!」
雪歩「仲良くなれるといいなぁ……」
あずさ「かっこいいかしら〜?」
ワイワイ ガヤガヤ!
律子「はい、静かにー!」
高木「それじゃあ、入ってきてもらおうか。おーい!」
真美「……新しいにいちゃんにも、いたずらしまくろうね、亜美!」
亜美「モチのロンだよ、真美!」
真美がニカッと笑い、髪の毛が揺れた。
――――あの髪型は、にいちゃん専用だもん!
まあ、そう言って笑われたら、
亜美だって納得するしかないよ。
やっぱり、二人で一つ。
亜美と真美。
ふたりじゃなきゃ、笑えないよね!
おしまい
マジオネアの後なのでテンションの差が激しかったような。
憑依が書きたかっただけですが、ご覧頂きありがとうございました!
