2013年12月08日

亜美「ふたりが笑って、乗り越える」

このSSは「 亜美「ふたりじゃなきゃ、笑えない」 」の続きとなりますので、
 まだ読まれていないかたはそちらを先にお読み下さい。よろしくお願いします。

 → http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361107310/


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361961994


 新しいプロデューサーは若い男の人だ。
 兄ちゃんとあんまり変わらないかな。

 アイドルをちゃん付けで呼ぶ以外は至って兄ちゃんっぽい。
 兄ちゃんのことは良く知っていて、彼の分まで任せてほしい、なんて言っていた。

亜美「双海亜美だよ! よろしくね、新兄ちゃん」

真美「で、こっちは真美だよっ! ヨロヨロ!」

新P「よろしく、亜美ちゃん、真美ちゃん。
  髪を結んでいるのが亜美ちゃんで、下ろしているのが真美ちゃんだな」



 兄ちゃんは死んじゃったけど、
 お姫ちんの超パワーで時々亜美に取り憑いたり、話しかけてくることもある。

 つーわけで、朝に急襲されることもあるのだ。
 自室でふと、朝もやの雰囲気を感じて起きた時。

亜美「やっと起きたか」

 あれっ、兄ちゃん?

亜美「おう、おはよう」

 あ、うん、おはよ……じゃなくって!

亜美「ほら、今日竜宮小町とフェアリーは合同ライブだろ?」

 そ、そうだよ? ……じゃなくって、オトメの寝ている身体に入んないでよ!

真美「んー……」



亜美「いや、新しいプロデューサーも不慣れだろうからな。
   亜美の助言って形でさ、俺のプロデュース計画を……」

 ダメだよー、そんなんじゃ新兄ちゃん、成長しないよ。

亜美「だってヒマなんだよ。お前らのプロデュース計画ばっかり溜まっていってさ」

 じゃあ、新兄ちゃんの身体を乗っ取る! とか。

亜美「なんで俺が男の身体に入んなきゃいけないんだよ」

 …………兄ちゃん、まさか亜美の中に入ってくるのって。

亜美「え? あ、いや、違う。そういうことじゃなくてだな」

 うわあああああん! 兄ちゃんのヘンターイ!

亜美「わっ、叫ぶなよ! 脳内でリフレインが凄いんだから!」

真美「んー……? あみ? どしたの?」

亜美「ああ、真美、おはよう」

真美「あれ、にいちゃんか」



 真美、兄ちゃんが亜美を食い物にしようとしてるよぅ!

亜美「そこで叫んだって真美には聞こえないぜ亜美さんや、げへへ」

真美「……?」

亜美「って、テンション低いな、真美」

真美「あたりまえだのビスケットだよー……今何時?」

 クラッカーじゃなかったっけ。

亜美「そうだな、……あー、今は六時半だよ」

真美「早いよー……真美は今日オフなんだから、もうちょっと寝かせて……」

亜美「ばーか、竜宮とフェアリーのライブ見に行くって言ったのはどこの誰だ?」

真美「にいちゃんが真美に入って連れてってよー……」

亜美「んなことしないって……じゃあ亜美、一旦出るぞ」

 あれ? お姫ちん居なくても出れんの?

亜美「頑張れば」

 そっか。じゃーね、兄ちゃん。

亜美「おう…………っとと、戻ってきた」

 唇の自由が戻ってくる。
 ……なんだか、変な生活だなぁ、と思う。
 そりゃ、死人と会話ってだけで変だけどさ。

真美「ふにゅー……」

亜美「真美さんや、今日のライブは10時スタートだから亜美は8時に事務所につかなきゃならんのだよ」

真美「……何時にお家出るの?」



 二段ベッドの下段に亜美、上段に真美なので――顔は見えない。

亜美「えーっとね、ヨユーを持って7時15分ぐらいには」

真美「…………わかった」

 ガタン、と上から音がする。ハシゴを使って下に降りた真美は、
 目をこすりながら大あくびをして部屋を出た。
 アイドルがしちゃあいけない顔だよ。

亜美「……さーて、と」

 竜宮小町×プロジェクト・フェアリー合同ライブ。
 765プロのみんなのお仕事が着々と増えてきている中、この2ユニットがついにライブをする。
 場所は都内の広い公園の屋外ステージ。

亜美「……ワーイルドーよーりデーンジャーラースー♪」

 歌ってみると、声は出ないし音程がメチャクチャだ。
 朝だもん、仕方ないね。

 ――

 765プロに着くと、既に亜美と真美以外の参加者、全員が集まっていた。

新P「おはよ、亜美ちゃん、真美ちゃん。真美ちゃんは応援?」

真美「そーだよ→」

あずさ「真美ちゃんもステージにあがればいいのにねぇ」

響「そうだな。……真美、どう?」

真美「ううん、いいよ! だって、今日は竜宮とフェアリーのライブなんだからさ」

響「そうか、……でも、またいつかみんなでライブやろうな!」

真美「うんっ」

 髪を下ろしてからの真美は、なんだか以前より大人になったような気がする。
 亜美が子供なだけ? うーむ。

 運転席には新兄ちゃん、助手席にりっちゃん。
 後は後ろにテキトーに……と、765プロ流アイドル輸送が完成するのです。

 ワゴン車だけど人はギュウギュウ詰め。うーむ。

伊織「プロデューサー、よろしく」

新P「よし、じゃあ行くよ!」

 ブロロロと、車は走りだす。目指せなんたら公園。

律子「じゃあ、今日のライブについて確認するわね。
   プロデューサー、いいですか?」

新P「はい、お願いします」

律子「今日のライブは765プロ主催のゲリラライブよ。
   竜宮小町とプロジェクト・フェアリーで、まずは一曲ずつ披露してもらうわ」

あずさ「聞いてます〜」



律子「竜宮小町がまず『七彩ボタン』、フェアリーが『ヴァンパイアガール』を歌うわ」

伊織「鬼軍曹の指導の通り踊るわよ」

律子「もう、誰が鬼軍曹よ! ……で、二曲目はそれぞれの歌を交換。
   フェアリーが『SMOKY THRILL』、竜宮が『オーバーマスター』を歌って終わり」

亜美「楽しみだなー、お姫ちんが『恋どろぼOh!』って歌うとこ」

貴音「はて? それは別の歌では?」

響「貴音、SMOKY THRILLの歌詞……解ってる?」

貴音「もちろんです。『きみがふれーたーからー♪』」

新P「それ、七彩ボタンじゃないかな」

貴音「なんと!」

アハハハハハ

美希「…………」



律子「まあ、これはみんな踊れると思うけど、アンコールで『READY!!』をやる予定だから覚えておいて」

伊織「『The world is all one !!』の方がいいんじゃない?」

律子「私も迷ったけど、プロデューサーがどうしても『READY!!』ってね」

新P「あはは」

あずさ「プロデューサーさん、どうしてなんですか?」

響「自分はどっちの曲も好きだけど……理由があるのか?」

新P「なんとなく、オーバーマスターでかっこいい空気になったあとは、
  おもいっきり元気な曲がいいなって思ったんだよ」

亜美「なるほろ!」



 ――

 朝8時40分、車は公園の駐車場に着いた。
 みんな、車から降りてまず最初にするのは背伸び。気持ちはわかる。

新P「さーて、行こうか!」

 屋外ステージだから、リハーサルは出来ない、と言われた。
 ゲリラライブってのもあるのかな。リハーサルやると気づかれちゃうんだろうね。

響「なあ美希、さっきから全然喋ってないけど……大丈夫か?」

美希「…………うん、平気なの」

貴音「美希、熱でもあるのでは?」

美希「だいじょーぶ、だいじょーぶなの」

律子「ちょっと、美希?」

 ミキミキの顔色が随分と悪いのに気づいたのは、控え室に入った後。
 一番後ろの席に乗っていたミキミキは、いおりんの横でずっと眠っていたらしい。
 寝るのは、いつものことなんだけど。動きもフラフラ気味だった。



新P「美希ちゃん、顔赤いぞ」

真美「ミキミキ、辛いなら真美がかわりに」

美希「いいのっ」

 ミキミキは「ステージに立つ」と言って聞かなかった。

美希「ほら、早く衣装を着るの!」

律子「じゃあ、私とプロデューサーは外で待ってるわね」

新P「俺も行きます、律子さん。……美希ちゃん、何かあったらすぐに呼んでな」

美希「なんもないの!」

ガチャン



 衣装は、フェアリーが金色の、竜宮は紫のいつものやつだ。
 着替え中、お姫ちんがふと呟いた。

貴音「それにしても……本日のライブは、いつもと違って変わっていますね」

伊織「変わってる?」

貴音「屋外ステージを使うなど、事務所単体ではありませんでした」

あずさ「確かに、そうねぇ。アイドルジャムとかの企画では歌ったりしたけれど……」

美希「これはね」

貴音「?」

美希「これはね、ハニーが企画してた、最後のライブなの」

あずさ「プロデューサーさんが?」



美希「ハニー、ミキに話してくれてたの」

響「……このライブのことをか? 自分、これを聞いたのは今のプロデューサーが来てからだぞ」

伊織「私も」

美希「……律子と一緒に、頑張るんだーって。ミキも出てくれるよな? って聞かれたの。だから」

 横を向くと、真美と目が合った。
 兄ちゃんってホント、罪作りな男だよね。

美希「ミキ、このステージは……このステージだけは、出なきゃいけないの」

亜美「……だからそんなに無理してるの?」

真美「でも、にいちゃんだってそんなミキミキは見たくないよ!」

美希「…………ミキ、ステージで歌って踊って、ハニーに見守られながら死ねたら、満足なの」



貴音「……そんなことを言ってはいけません、美希」

美希「でも――――」

響「っ美希!」

 ミキミキが膝から崩れ落ちた。
 ひびきんとあずさお姉ちゃんが支える。ミキミキの息は荒い。

あずさ「大変、早くプロデューサーさんと律子さんを呼んできて!」

真美「う、うんっ」

バタン

伊織「美希、美希っ!」

 いおりんがミキミキの身体をゆすり、名前を呼ぶと、突然に。
 スッと、ミキミキが身体を起こした。「いてて」と頭を抑えながら。

美希「…………こいつ、こんな状態で……」



伊織「……み……き…………?」

 一瞬で気がついた。これは、あの時と似ている。お姫ちんと顔を見合わせた。
 「わたくしではありません」って目だね。

美希「伊織、手ぇ貸してくれ」

伊織「……? アンタいま、伊織って……はい」

美希「ああ、悪い。……貴音、悪いな」

貴音「…………いえ……あなた様、なのですね?」

 お姫ちんがそう言った瞬間、みんなが一斉に声を出す。

あずさ「プロデューサーさん!?」

響「プロデューサーなのか!?」

伊織「…………プロデューサー?」



亜美「兄ちゃん、どうしてミキミキに?」

美希「倒れたから、俺が代わりにステージに出る、なんて一瞬思ったんだけど……。
   この身体じゃ無理だな。多分、あんまり俺も入っていられないし」

 ミキミキの身体の息は荒い。全身が呼吸を求めているように。
 そのままソファに横になって、水を飲んだ。

貴音「ええ……15分程度しか、入っていられないでしょう」

伊織「本当に……プロデューサー、なのね」

美希「ああ…………にしても、頭が痛い。身体もあついし」

あずさ「あの、プロデューサーさん。もうすぐ、律子さんと今のプロデューサーさんが」

ガチャ

 りっちゃんと新兄ちゃんが駆け足で入ってきた。
 新兄ちゃんは、一連の流れを知らない。

新P「美希ちゃん、大丈夫か!?」

美希「……あんまり。…………なの」

 兄ちゃんは、思い出したように『なの』と言った。

律子「やっぱり、美希は出さないほうが……いいのかもしれないわね」

新P「ええ、顔が真っ赤だ。……美希ちゃん、病院行くか」

美希「え、それは……ちょっと。…………なの」

 兄ちゃんは俯いて、病院に行くことを拒んだ。

貴音「プロデューサー、すみませんが少し退室していただけませんか?」

新P「どうして?」

貴音「わたくしに、考えがあるのですが……殿方には少し、ですので」

新P「……分かった」

 新兄ちゃんが部屋を出て行き、ドアが閉まる。

貴音「…………さて、あなた様。美希の意識はありますか?」

律子「えっ?」

亜美「りっちゃん、いまミキミキの中には兄ちゃんが居るんだよ」

真美「……にいちゃんが?」

 りっちゃん達と一緒に入ってきた真美も驚いている。

美希「…………いや、全然反応がない」

貴音「そうですか…………」

律子「ね、ねえ。大丈夫なの?」

美希「……律子」

律子「は、はい? 何ですか、プロデューサー」

美希「…………美希がな、すっごく今日のステージに立ちたがってるんだ」

律子「……そう、なんですか?」

美希「だからさ」

律子「はい……」

美希「せめて、『星井美希』って身体だけでも、ステージに立たせてやりたいんだよ」

律子「……え?」

美希「俺が、美希の代わりにステージに立つよ」

響「ええっ!?」

伊織「アンタ何言ってるの!?」

あずさ「あの、プロデューサーさんはダンスを覚えていらっしゃるんですか?」

美希「そりゃあ、プロデューサーですからね。踊れるかどうかは分かりませんが……」

真美「でも、ミキミキの身体は熱なんじゃ……」

美希「そこで、律子におつかい、頼んでいいか」

律子「え?」

美希「頭痛薬、頼むよ」

律子「は、はいっ! 買ってきます!」

バタン

亜美「ねえ、兄ちゃん……それでミキミキはいいのかな?」

美希「え?」

亜美「ミキミキがステージに立った、ってことにはならないよね?」

美希「…………それは、分からない。だけど、何もしないよりはマシだろ」

あずさ「美希ちゃんの身体にも、いろいろと負担がかかるんじゃ」

貴音「……意識が戻るまでは、大丈夫だと思います」

美希「……だそうです」

伊織「じゃあせめて、ステージの順番を変更させて」

響「え?」

伊織「アンタ達じゃなくて、私達」

 いおりんは亜美とあずさお姉ちゃんを交互に見た。
 なるほど。

伊織「竜宮小町が先に歌う」

 いおりんはセットリストの書かれている紙を一枚壁からはがして、
 ボールペンを使って矢印を書き加えた。

伊織「先に私達が『七彩ボタン』と『オーバーマスター』を歌うわ」

亜美「おっけー!」

あずさ「えっと、今の時間は……まだ40分近くもあるわね」

伊織「それだけあれば、ステージ効果も調整し直せるわね! よし、行くわよ!」

 セットリストを持ったいおりんが、あずさお姉ちゃんと亜美を連れて楽屋の外へ。
 新兄ちゃんにそれを渡して、言った。

伊織「今から構成を変えて」

新P「……フェアリーを後ろに?」

伊織「美希をステージに立たせるわ」

新P「そんな、無茶だ! あんな状態のアイドルを出せるわけ……」

あずさ「お願いします、プロデューサーさん」

亜美「ミキミキ、どうしても立ちたがってるんだよ!」

新P「分かったよ」

あずさ「じゃあ――」

新P「でも…………途中で何かアクシデントがあれば、絶対に病院に行かせる」

亜美「それでもいいよ!」

新P「美希ちゃんに頭痛薬でも飲ませてくれ」

伊織「もう律子に買いに行かせたわ」

新P「そうか……。なあ、伊織ちゃん」

伊織「なに?」

新P「こんな時、前のプロデューサーならどうしてた?」

伊織「――――前の?」

あずさ「そう、ですねぇ」

亜美「……兄ちゃんなら、きっと」

伊織「アイツなら、美希の意思を尊重して、そしていろんな対策をしてたわね」

新P「美希ちゃんの、意思か……」

伊織「…………それ、よろしくね」

新P「ああ、分かった」

 新兄ちゃんはバックステージに駆けていく。
 いおりんがぎゅっ、と拳を握った。



 控え室に戻ると、兄ちゃんはブランケットを羽織って、音楽プレーヤーで何かを聞いていた。

美希「…………♪」

伊織「何を聞いてるの?」

響「ヴァンパイアガールだよ。一応ね」

貴音「それと、伊織。立ち位置なのですが……」

伊織「本来の予定は、美希がセンターよね。変える?」

貴音「はい、ヴァンパイアガールは響、SMOKY THRILLはわたくしで……」

伊織「それじゃあ、プロデューサーに伝えてくるわ」

 いおりんが再び外へ出る。

真美「ねえ、にいちゃん」

美希「?」

亜美「……まだ、ミキミキからなんにもないの?」

美希「……ああ」

真美「真美も、それ聞きたかったんだ」

美希「……本当に、意識がないのか、ただ眠ってるだけなのか……わかんないな」

亜美「ミキミキ、大丈夫だといいけど……」

あずさ「プロデューサーさん」

 あずさお姉ちゃんが兄ちゃんを呼んだ。

美希「はい、なんでしょう……?」

あずさ「まだ、息が荒いみたいですけど……歌えます?」

美希「……どうでしょう…………会話で精一杯かもしれないですね」

貴音「でしたら、わたくしと響が美希の分まで歌います」

響「そ、そうだよ! 自分、踊って歌うときに息が切れないのがアピールポイントだからな!」

美希「ありがとな、二人共」

 何分か後。
 りっちゃんが戻ってきて、頭痛薬を手渡した。
 走ってきたみたいで、息が切れている。

律子「水で……飲んで……下さい……」

美希「ありがとな、律子。助かるよ……」

伊織「……律子、変更点があるから、プロデューサーのところに行って確認して」

律子「…………わかった…………」

 またドアが閉まる。
 …………バックステージが騒がしい。そろそろだ。

伊織「さ……先に竜宮小町の出番ね」

あずさ「本番まで、10分前…………よーし!」

亜美「兄ちゃん、待っててね!」

美希「おう、頑張ってこい!」

貴音「よろしくお願いします」

響「みんな、ありがとう!」

真美「めっちゃ応援するよ→!」

亜美「会場のにーちゃーん、ねーちゃーん! 今日はありがとー!」

あずさ「今日は、フェアリーの3人との合同ライブですよ〜!」

伊織「みんなー、元気ー?」

ワアアアアアアアア!

伊織「元気ねー! じゃあ、1曲目!」

伊織・あずさ・亜美「『七彩ボタン』!」

 ――

あずさ「私の『あず散歩』、見てくれている方は手をあげて下さ〜い!」

ワアアアアア

あずさ「うふふ、ありがとうございます〜! では、この間の裏話を〜!」

 ――

 あずさお姉ちゃんのMCで時間を稼ぎ、2曲目へ。
 兄ちゃんが2曲分歌って、踊れる体力を貯めるために。

伊織「これは、プロジェクト・フェアリーの曲のカヴァー!」

亜美「精一杯歌うよ〜!」

あずさ「ワイルドよりデンジャラスな私達を、楽しんで下さい〜!」

伊織・あずさ・亜美「『オーバーマスター』!」

ワアアアアアアア!

 

 ――

 大歓声を背に、バックステージへ戻る。
 フェアリーの3人はまっすぐ、真剣な顔で待っていた。

あずさ「プロデューサーさん、頑張って」

亜美「兄ちゃん、ここで待ってるからね!」

伊織「……無理、しないでよ!」

美希「ああ、分かってる」

響「さっ、行こう。プロデューサー、貴音」

貴音「……ええ」

 3人の登場とともに、会場の盛り上がりは最高潮になった。

響「みーんなー! お待ちどうー!」

貴音「本日は、わたくし達も精一杯歌います」

美希「…………みんな! ミキ達の歌、精一杯聞いてね!」

響「よーし、じゃあ行くぞ! 『きゅんっ!』」

貴音「ヴァン……」

美希「ヴァンパイアガールっ!!」

ワアアアアアアアア!

貴音「あなた様……」

 バックステージで様子を見ていると、真美が何かを持って駆け足でやってきた。

亜美「なにそれ?」

真美「ブランケットだよ! 駅伝の選手みたいに、ミキミキの身体を抱えようって」

あずさ「うーん、ちょっと重いんじゃないかしら?」

伊織「それにしても…………ダンス、すごいわね」

 ひびきんが真ん中で踊り、ミキミキ……兄ちゃんは観客から見て左側。
 ここから一番近い位置だった。

亜美「すごいなぁ、兄ちゃん」

あずさ「……でも、辛そうね」

 兄ちゃんは歌っていない。さっきからずっと、ボーカルはひびきんだった。


 曲が終わる。横につきだした手が異常に震えている。
 それでも、兄ちゃんは観客に手を振った。

美希「ありがとー! …………なのー!」

 お姫ちんのMCは数十秒で終わった。

律子「……貴音、プロデューサーのためにMCをあんなに早く……」


貴音「今回はわたくしがセンターをつとめます!」

響「曲名はっ!」

美希「…………」

響「プ……美希?」

 ミキミキが動かない。ひびきんが少し近寄ると、
 思いっきり顔を上げて、笑顔で叫んだ。

美希「……『SMOKY THRILL』! みんな、よろしくなの!」

ワアアアアアアアア!



 ――そして、ライブは終わった。
 バックステージに戻るといきなり、兄ちゃんは倒れてしまったけれど。
 身体の力が抜けちゃった、んだってさ。
 ちゃんと真美のブランケットが役に立った。

 新兄ちゃんが病院に連れて行くと言い、タクシーを電話で呼んでいた。
 りっちゃんと挨拶に行っている時、控え室で唐突に兄ちゃんが言った。

美希「……美希?」

亜美「!」

美希「……美希か」

真美「あれ、亜美」

亜美「ん?」

真美「ミキミキはにいちゃんがこうやって幽霊になってること、知らないんだよね?」

亜美「知らないよ?」

真美「パニックになっちゃうんじゃ」

伊織「……あんたねえ、美希を見て来なかったの?」

真美「え?」

伊織「美希なら、パニックになんてならないわ」

響「そうだな。プロデューサーとまた話せるようになって、嬉しいかも」

美希「…………あれ」

亜美「どしたの?」

美希「……寝ちゃったみたいだな、すぴぃって聞こえる」

貴音「……ということは、もう大丈夫ですよ」

美希「そっか、じゃあ俺はそろそろ」

亜美「ねえねえ、兄ちゃん。その前に」

美希「どうした?」

亜美「……困ったときとか、みんなに何か伝えたい時は、亜美の身体借りてね」

あずさ「あっ、プロデューサーさん、私も大丈夫ですよ!」

響「じ、自分も!」

美希「みんな、ありがとな」

 そう言って笑うと、ミキミキはゆっくりと目を閉じて、
 横に倒れた。

伊織「っ」

 いおりんが支える。兄ちゃんが抜けたんだなーとミキミキの顔を見ると、
 安心しきって眠っていた。まだちょっと顔が赤いけれど。

 結果的に、兄ちゃんが最後に企画したこの合同ゲリラライブは大成功だった。
 ピヨちゃんの話をあとで聞くと、ネットでの情報がとても多かったらしい。

 これでまた、竜宮小町とプロジェクト・フェアリーの仕事が増え始めた。

 事務所に行く時間も減って、真美の話を聞いてみんなの近況を知るぐらいだ。


 でも、亜美は気づいちゃったんだ。
 ミキミキと新兄ちゃんが抱える問題に。

 テレビ局で一緒のスタジオで仕事をすることになって、
 りっちゃんと新兄ちゃんが脇に並んで収録風景を見ていた。

 収録が終わると、ミキミキは一目散へ新兄ちゃんの元へ駆けて行って、

美希「ハニー!」

 なんて言い出すのだ。

 新兄ちゃんは、ミキミキが兄ちゃんをハニーって呼んでいたことを知らないから、
 急に呼び方が変わって驚いているようだけど。

 

 りっちゃんと亜美で、最近のミキミキの言動を思いつくだけ言ってみると、
 一つの結論が出てきた。

 それは――、


 ――――ミキミキが新兄ちゃんを前の兄ちゃんだと思い込んでいる。

 ミキミキにとって「ハニー」は1人、前の兄ちゃんだけ。
 新兄ちゃんをハニーと呼ぶことは有り得ないし、
 呼ぶことにした、としても時間が早すぎる。


 …………兄ちゃん、どうしよう。
 

 今日の分は以上です。お読みいただきありがとうございます。
 また書きためてきます。

 ――

亜美『うーん……そうだな、それぐらいしか思いつかないな』

真美『そっかー……』

亜美『あとは……エキサイトホールとか?』

真美『あのさにいちゃん、ミキミキと2人きりの思い出ってないの?」

亜美『2人きりの思い出……? あっ!』

 ――

 最初に歩いたのは、にいちゃんと一緒にプリクラを撮ったり、
 買い物をしたという繁華街。

美希「そうそう、ここでハニーがね! この服を……」

真美「ほうほう! にいちゃんってすごいねぇ!」

 ミキミキは、とても嬉しそうににいちゃんとの思い出を話してくれる。

美希「今度また、ハニーと来たいの!」

 ただ、それはにいちゃんの死を忘れているからだ。

美希「ねえねえ真美、これ似合う?」

真美「え? あ、うん! メッチャ似合ってるよ→!」

美希「なーんか、上の空だね」

真美「ご、ごめん!」

美希「もう……今日は、真美がミキのハニーなんだよ?」

 ぎゅっ、と手を握られて、少し顔が赤くなった。

真美「あはは……」

美希「で、どう? 似合う?」

真美「モチのロンだよ! あ、でも……もうちょっとミキミキ、深い色の方が似合うよ」

美希「あはっ!」

真美「え?」

美希「ハニーとおんなじ事言ったの。ハニーもね?」

 ミキミキの持ってきた服よりも、別の服の方がミキミキらしいって言ったんだっけ。

真美「そ、そなんだ!」

美希「じゃあ、どんどん行くの!」

真美「りょーかい!」

 ミキミキは服を置いて、店の外へ……出ようとして、

美希「どうしよう……やっぱり買っちゃおうかな」

真美「あ、だったら……」

 やっぱり買うみたいだね。


 ――

亜美『その後、ゲーセンに入って……』

真美『ほうほう』

 ――

美希「撮ろっ?」

真美「んっふっふ〜、言っとくけど真美のデコ力は強いかんね!」

美希「なーんか、デコちゃんみたいなの!」

 プリをいっぱい撮って、ひとつひとつデコレーション。

美希「なっ、なにそれ! あはは!」

真美「ミキミキ、すごすぎるよ! あははっ!」

 ”ハニー”との思い出を、ひとつひとつ辿っていく。
 屋台でクレープを食べて、もっと服を見て。
 魚を見て。

 そして――公園の池に行き着く。

美希「おしえてはーにぃー♪」

 カモ先生、という鴨がいるらしい。
 ミキミキはごきげんに歌っている。

真美「今日はありがとね、ミキミキ。付き合ってくれて」

美希「なーんか、ハニーみたいな巡り方だったね」

真美「え?」

 ミキミキは振り返って笑った。

美希「ハニーに聞いたの?」

真美「な、何を?」

美希「ミキとのデートコース、なの」

 まあ、聞いたけど。
 にいちゃん、最初はみんなで行った村とか、そういう話ばっかり思い出すんだもん。

真美「……うん」

美希「誰とデートするのかにもよるけど、参考にならないって思うな」

真美「そ、そうかなー?」

美希「だってこれは、ハニーとミキしか楽しめないコースなの。
   真美、あんまり楽しそうじゃないもん」

 そんなことない。

真美「そんなことないよっ」

美希「…………もしかして、真美、ミキが悩んでること知ってて、
   励ましてくれたの?」

真美「えっ?」

美希「……ミキね、最近変な夢を見るの。
   とっても、とってもかなしい夢」

真美「…………夢」

美希「そ。ハニーが死んじゃうんだ」

真美「なっ……」

 夢じゃないよ、ミキミキ。
 それが夢だったら、どんなにいいか……。

美希「でも、ミキはハニーに喜んで欲しいから、頑張ってお仕事するの。
   ……そうやってると、ハニーが化けて出てきてね」

美希「『もう休め』って言うんだ」

真美「……え?」

美希「もう充分だ、って。どうしてこんなに悲しい夢を見るのかな」

真美「…………ミキミキ」

美希「なに?」

 ミキミキ、泣きそう。

真美「にいちゃんはね」

美希「?」

真美「死んじゃったんだよ」

美希「……冗談でも、言っていいことと」

真美「冗談じゃ、なくて」

 ミキミキの顔を見られずに、俯いた。

真美「にいちゃんの顔を最後に見たのは、いつ?」

美希「……昨日の」

真美「だったら」

 雲で太陽が少し隠れた。

真美「いま、にいちゃんの顔を、ハッキリと想い出せる?」

美希「……うん。髪が短くて、目が少しぱっちりしてるの」

真美「…………眼鏡は?」


美希「…………え」

真美「にいちゃん、眼鏡をかけてたよね」

美希「…………」

真美「……思い出せない?」

美希「……」

真美「…………あのね、ミキミキ」

美希「…………?」

真美「にいちゃんは、そんなに目はぱっちりしてないよ」

美希「ぇ……」

真美「それは、今の新しいにいちゃんなんだよ」

美希「…………そう、なのかな」

真美「……ミキミキはね」

美希「……?」

真美「にいちゃんが企画した最後のライブに出たかったんだ」

美希「…………」

真美「フェアリーと竜宮小町の、ゲリラライブ」

美希「あっ……」

真美「でもね」

美希「…………その日は」



 そうだ。

美希「朝から、熱が…………」

真美「ミキミキはそのライブに出る直前、倒れちゃったんだよ」

美希「休んだはずなの……」

真美「そこに、死んだにいちゃんが取り付いてね」

美希「……」

真美「ミキミキの姿で、ステージに立ったんだ」

美希「…………ミキは」

真美「あの日」

美希「……ミキは」

真美「にいちゃんと、ミキミキは歌ったんだよ」

美希「――――あぁ」

真美「…………だから、にいちゃんはもう居ないの」

美希「そう、だね。ミキ……お葬式で」

 ミキミキは膝から落ちる。

真美「っ、ミキミキっ!」

美希「……四十九日、貴音と一緒に…………」

真美「……」

 にいちゃんの死に関する全てを、思い出しているのかな。

美希「…………ハニー、大好きなのって……卒塔婆に……」

真美「……そんなことしたの?」

美希「……うん」

 ミキミキを支える真美の腕は、あまり支えにならない。
 グラグラと身体が揺れてしまう。

美希「…………そっか、そうだね」

真美「……」

美希「ハニーは、居ないんだね」

真美「……うん」

美希「せめて、もう一度」

真美「えっ?」

美希「…………大好きって、言いたかった」

真美「……そっか」

 真美には見えないけど、多分にいちゃんはここにいる。
 ここにいるまま、真美に取り憑かないのは…………。

真美「ミキミキ」

美希「……?」

 顔を上げたミキミキは、目を真っ赤にしていた。

真美「にいちゃんは、きっとここにいるよ」

美希「え……」

真美「だから、言いなよ」

美希「……?」

真美「大好き、って」

美希「…………うん」



美希「ハニー」

 ミキミキは空へ、話しかけ始める。

美希「ミキね、ドラマの主演決まったんだよ」

 やがて、手で雲をつかむように。

美希「だから、ほめて」

 涙を流して。

美希「ハニー」

 最後は、声もほぼ出ない中。

美希「だいすき……なの……っ!」

 絞り出した声で、ゆっくりと。
 にいちゃんに、思いを伝えた。

 その後、真美に抱きついてミキミキはずーっと泣いていた。


 ――


美希「プロデューサー、おはよーなの!」

新P「おはよ、美希ちゃん」

美希「ぶー、まだちゃん付け?」

新P「あはは、これは俺のポリシーみたいなもんだから」

 ミキミキは元気だ。それはもう、この間のデートが嘘みたいに。
 そう亜美に言うと、苦笑いで「でも、それがミキミキっしょ」って返された。

 そうかもしれない。

貴音「……美希は、一体どうやってプロデューサーの死を思い出したのでしょう?」

 お姫ちんがお茶を飲みながらポツリ。

真美「本当は、自然に思い出すのが一番だったんだけどね」

亜美「真美、言っちゃったんだってさ」

貴音「……ふふっ」

真美「わ、笑わないでよう!」

貴音「ふふっ……! 真美、あなたはとても優しい」

真美「え?」

貴音「真美がふさぎこんでいた時は、亜美が。
   そして美希がプロデューサーを混同してしまった時は、亜美と真美が」

亜美「お姫ちん……?」

貴音「ふたりの力があれば、765プロの皆が……困難を乗り越えられるのかもしれませんね」

 お姫ちんは優しく微笑む。

真美「うーんとね。お姫ちん」

貴音「はい?」

真美「真美は、亜美と真美で、みんなをこうやって笑わせることが出来ればいいなーって」

亜美「……笑わせる?」

真美「そそ」

真美「だってさ。真美と亜美のふたりが笑ってれば、みんなも笑ってくれるっしょ?」

貴音「そうですね……ふたりは、皆を優しく笑顔にしてくれます」

真美「だったら!」

 亜美の目を見る。「なるほど」と亜美は言って、

亜美「ふたりが笑ってみんなが悩みを忘れて幸せになれればいい、ってことだね!」

真美「そう!」

貴音「……亜美、真美…………」

真美「ふたりが笑って、みんなが悩みも苦しみも乗り越える。
   そんなアイドル、最高だよね→!」

亜美「ね→!」


 にいちゃんの「おう」って声が、なんとなく聞こえた気がした。
 この空が、いつも真美たちのことを見守ってる。強く、励ましてくれる。
 だから、怖くない。まっすぐ、進んでいけるんだ。


 おしまい

 これで終わりです。お読みいただきありがとうございました。

相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: