2013年12月08日
貴音「よる…」響「おんせん!」
響「んー……?」
貴音「入浴しませんか」
響「そーだね……」
貴音「…………」
響「…………ぐぅ……」
貴音「響っ」
響へと近づき、ゆっくりと身体を揺らすと……。
響「……んー…………」
貴音「……眠いのですか?」
響「そうだな……でも、お風呂も入りたいぞ……」
貴音「ええ、ここは前に亜美達が自慢していた浴場ですので」
響「でもそれ……朝風呂じゃなかったっけ……?」
貴音「……入浴は夜でこそ、ではありませんか?」
響「んー……でも、自分疲れてるし……」
貴音「その疲れを癒すためには……入浴かと」
響「……じゃあ、ちょっと待ってて」
響は立ち上がり、洗面所へと向かいました。
しばらくして、さっぱりした表情の響が戻って来ました。
響「よーし、準備出来たぞ! はいっ、タオル」
貴音「あ、ありがとうございます、響……何をしたのですか?」
響「うん? あぁ、自分がよくやる目覚めの体操」
貴音「体操……疲れていたのでは?」
響「まあ、だるいけど……それは大丈夫! お風呂入ってなんくるなくしよう!」
貴音「ええ、それでは……!」
響「誘おうか!」
貴音「響、鍵を」
響「ちょ、ちょっと待って貴音! 下着持ってかないと!」
貴音「そうですね……いっそ、このばすろぉぶなるものを着るというのは」
響「バスローブかー」
少し前の撮影で、これを着たことがありました。
一緒に撮影をしていた美希は「貴音、すっごく似合うのーっ!」と言っていましたが、わたくしにはどうなのかは分かりません。
響「それじゃあ、これを着て隣の部屋に行こう」
貴音「ええ」
響「うわぁ、久しぶりだなー」
貴音「響は、よく旅館に泊まるのでは?」
響「そうなんだけど、これを着て動くことはないかなぁ。寝るときに着るだけだからさ」
貴音「なるほど……ばすろぉぶは就寝時にも着るのですね」
そうして、ばすろぉぶを身に纏い。
隣の部屋の呼び鈴を鳴らしました。
「はぁい」という声と共に、ばすろぉぶ姿のあずさが扉を開けます。
あずさ「あら、二人共」
貴音「あずさ、真……大浴場に行きませんか?」
響「お風呂行こうよ!」
真「いいねいいね! ボクたちも、ちょうどそんな話をしてたんだ!」
響「そうなの?」
あずさ「ええ、今これに着替えていたのよ」
貴音「あずさ……」
あずさ「はい?」
貴音「美しいです」
あずさは普段よりも妖艶でした。これが、ばすろぉぶ効果なるものでしょうか。
あずさ「ええっ!? そ、その……貴音ちゃん?」
真「もう準備はできてるからねっ」
響「それじゃあ、行こう! なっ、貴音、あずささん!」
貴音「行きましょう、あずさ」
あずさ「は、はい……」
何故だかあずさが顔を紅潮させていました。
三階の客室から階段を降り、地下の大浴場入口へとたどり着きます。
自動販売機が隙間なく置かれ、少し奥まった場所には機械が多く置いてあります。
響「麻雀ゲームだね」
真「こういうところって、多いよね」
どうやらそれは、麻雀の機械。
あずさ「こういうところでしか、見ないわねぇ」
脱衣場のかごは数個を除いてどれも中身がなく、人があまりいないことを教えてくれました。
貴音「とても楽しみです」
響「春香たちが朝風呂で入ったんだっけ? いいよね」
真「ボクたちも朝風呂行こうよ!」
あずさ「ええ、とっても楽しみねぇ」
真「あずささん、朝起こしますからね!」
あずさ「うふふ、大丈夫よ、真ちゃん。わたし、8時ぐらいには」
真「6時に出発しますよ!」
あずさ「は、早いのね……」
大浴場への扉を横に動かすと、湯気が顔に当たりました。
響「うわー、広いなぁ」
あずさ「早く入りたいわねぇ」
真「あっ、”かけ湯”をするみたいですよ」
貴音「湯を身体にかけるのですね」コトン
響「どれどれ……おっ、良い感じのぬるさだぞ」バシャア
真「そう? それじゃ! ……うん、丁度いいね」バシャン
貴音「……良いですね」バシャ…
あずさ「温かくて、言葉が間延びしちゃうわぁ」
響「あずささん、いつもそうだぞ」
かけ湯をした後は、自由に入っていいと書いてありました。
四人で、一番大きな浴槽へと入ります。
……おや、他に入っている方々は、露天風呂にいるのですね。
真「ふぅー……気持ちいいなあ」
あずさ「ええ、とっても……」
響「疲れが取れるなぁ」
貴音「ええ、今日の収録は楽しめましたが、同時に疲労も溜まるものでしたからね」
あずさ「楽しかったわよね」
真「でも、貴音の言うとおりに疲れましたね……」
響「あずささん、マラソンで疲れてたね」
あずさ「みんなが早すぎるからねぇ」
真「そ、そうでしたか?」
貴音「響も真も、最後は競争をしていましたからね」
響「だ、だって真が!」
真「響が急に加速するからだろ!」
響「むぅー……」
真「ぬぅー……」
響・真「……ふー」
あずさ「うふふ」
貴音「それにしても……気持ちが良いですね」
響「そうだねぇ」
真「後で、露天風呂にも行ってみない?」
あずさ「それじゃあ、あの人が露天風呂を出たら、にしない? 急に大勢で行くと、気を遣わせてしまうから」
貴音「そうしましょう」
真「また行けるかな、事務所のみんなで旅行」
あずさ「楽しかったわねぇ」
貴音「皆で、入浴したいですね」
響「でも、みんな忙しいもんなぁ。この仕事だって本当は……」
真「仕方ないよ。雪歩は舞台だし、美希はファッションショーに出なきゃいけないんだからさ」
響「うん……もう、あんまりみんなで集まれないのかな」
貴音「忙しいことは喜ばしいことですが……少し、残念ですね」
あずさ「いっそのこと、プロデューサーさんにお風呂レポートのお仕事を頼んでみるとか」
響「……うーん、どうかなぁ」
真「いいとは思いますけど……そんなお仕事、あるんでしょうかね」
貴音「様々な温泉を楽しめるのは、良いですね」
響「そうだ、様々な温泉っていえば……このホテル、温泉街の中にあるんだよな」
真「そうなの?」
響「うん、タダでいろんなお風呂に入れるらしいぞ」
あずさ「明日、巡ってみましょうか」
貴音「ふふっ」
響「ふーんふふーん♪」
響の鼻歌は「READY!!」ですね。
真「お風呂って、やっぱりいいなぁ」
露天風呂の扉が開き、入っていた女性がそのまま大浴場を後にしました。
あずさ「それじゃあ、行きましょうか」
貴音「はい」
真「やーりぃ! 露天風呂ですね!」
響「楽しみだなぁ」
夜空の下、落ち着いた雰囲気の岩風呂が見えます。
響「つ、つめたっ」
真「寒いっ」
あずさ「は、早く湯船に」
貴音「ゆっくり、温かさを感じるのです」チャポ
響「……おぉ」
真「……ふぅー」
あずさ「気持ちがいいわねぇ」
真「やっぱり、露天風呂と中のお風呂は違うね」
響「そうだなー……」
貴音「……月が、綺麗ですね」
あずさ「……あら」
響「……本当だ」
真「……そうか、このへんは、あまり明るいものがないから……」
貴音「客室の窓よりも、美しく見えます」
満月の輝く、美しい空。
その光が、わたくし達の佇むこの場所を、深く深く照らしてくれるようでした。
響「ねぇ、貴音」
貴音「はい?」
静寂。ただ湯の流れる静かな音だけが聞こえています。
響「貴音は、月をよく見るよね」
貴音「ええ」
響「貴音にとって、月って……なに?」
貴音「わたくしにとって、月とは……ですか」
真「難しい質問するね、響」
あずさ「月……」
貴音「母親のようなものでしょうか」
あずさ「母親?」
貴音「ええ。本当の母親とは違いますが、空を見上げるといつもそこにある……」
真「……母親、かぁ」
貴音「ええ。皆はありませんか? 月を見ると、心が安らぐことが」
真「ボクは分からないけど……ホッとすることなら、少しはあるよ」
貴音「そうですか……やはり、不思議な力を秘めているのかもしれませんね」
あずさ「ふふっ、貴音ちゃんみたいね」
貴音「はい?」
あずさ「不思議な人だけれど、みんながとっても信頼している、月のように光で辺りを照らす」
貴音「……」
響「あずささん……かっこいいな」
あずさ「うふふ、少し子供っぽいたとえだったかもね」
貴音「わたくしは、月のようになれているでしょうか?」
真「……うん。ボク、貴音に何度も助けられたしね」
貴音「はて」
真「無意識に、みんなのことを支えてくれているんだよ」
響「そうだな、自分もフェアリーで貴音に何度も助けられたぞ」
あずさ「私も、番組でフォローしてもらったり、事務所に連れてってもらったり」
貴音「……ありがとう、ございます」
真「……でも、急にどうしたのさ、響?」
響「いや……なんだか、思いついて」
あずさ「ええ、わかるかも。なんだかお湯のせいか、おかしな気分になるのよね」
貴音「皆の言葉を聞けて、とても嬉しいですよ」
身体を洗い、最後にもう一回湯船に入り……
……響がのぼせそうだと言うので、すぐにあがりました。
のれんをくぐった先にある、椅子で響は横になっています。
時刻は、まもなく23時になろうという頃。結構な時間、入っていたのですね。
響「ひうー……あついぞー……」
真「……大丈夫? 水でも買ってこようか」
響「水なら……フルーツ牛乳がいいな……」
真「フルーツ牛乳? じゃあ、買ってくるよ」
あずさ「真ちゃん、ちょっと待って。私が買ってくるわ」
真「えっ? いいんですか?」
あずさ「ええ。せっかくだから私がみんなにおごりましょう」
貴音「ありがとうございます、あずさ」
真「わ、悪いですよぅ!」
あずさ「ほらほら、気にしないで」
ガコン、と自動販売機が音を立てました。
一本ずつ瓶を取り出していきます。
あずさの横で、わたくしは二本のフルーツ牛乳を持ちました。
響「ありがと……」
真「ありがとう、貴音」
あずさ「それじゃあ、飲みましょう」
貴音「ええ」
亜美は言っていました。
「お風呂あがりのコーヒー牛乳は最高だけど、フルーツ牛乳もいいよNE」と。
フルーツ牛乳とやら、お手並み拝見です。
一体どんな味がするのか、試してあげましょう。
貴音「――!」
響「やっぱりおいしいなー……」
真「うん……あっ、響!」ペタッ
響「つめたっ」
真「顔真っ赤だし、瓶を顔につけると気持ちがいいよ!」
響「なるほろ……サンキュー真、やってみるぞ」
あずさ「ろれつが回っていないし、今日は早く寝たほうがいいわねぇ。お願いね、貴音ちゃん……貴音ちゃん?」
貴音「はっ……すみません、あまりの美味さに言葉を失っていました」
あずさ「貴音ちゃん、フルーツ牛乳は初めて?」
貴音「……はい。幼少時は、風呂あがりはコーヒー牛乳一択とじいやに言われていましたので」
あずさ「うふふ、きっとやみつきになるわねぇ」
真「この味はクセになりますよね、火照った身体に最高ですし!」
響「フルーツ牛乳、おいしいよねぇ」
貴音「……ふふっ、やはり入浴というものは、面白いですね」
ごく、ごく、ごく。
瓶に残ったフルーツ牛乳を一気に流します。
これは、朝風呂後のフルーツ牛乳も楽しみになってきますね。
貴音「皆……朝風呂も、ぜひ行きましょう」
あずさ「ええ」
真「そうだね!」
響「うんっ」
貴音「では、わたくしはおかわりを」
真「ええっ!?」
入浴後のフルーツ牛乳ってやつも素晴らしいですよね。甘さで言えば断然こっち。
お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。
貴音「入浴しませんか」
響「そーだね……」
貴音「…………」
響「…………ぐぅ……」
貴音「響っ」
響へと近づき、ゆっくりと身体を揺らすと……。
響「……んー…………」
貴音「……眠いのですか?」
響「そうだな……でも、お風呂も入りたいぞ……」
貴音「ええ、ここは前に亜美達が自慢していた浴場ですので」
響「でもそれ……朝風呂じゃなかったっけ……?」
貴音「……入浴は夜でこそ、ではありませんか?」
響「んー……でも、自分疲れてるし……」
貴音「その疲れを癒すためには……入浴かと」
響「……じゃあ、ちょっと待ってて」
響は立ち上がり、洗面所へと向かいました。
しばらくして、さっぱりした表情の響が戻って来ました。
響「よーし、準備出来たぞ! はいっ、タオル」
貴音「あ、ありがとうございます、響……何をしたのですか?」
響「うん? あぁ、自分がよくやる目覚めの体操」
貴音「体操……疲れていたのでは?」
響「まあ、だるいけど……それは大丈夫! お風呂入ってなんくるなくしよう!」
貴音「ええ、それでは……!」
響「誘おうか!」
貴音「響、鍵を」
響「ちょ、ちょっと待って貴音! 下着持ってかないと!」
貴音「そうですね……いっそ、このばすろぉぶなるものを着るというのは」
響「バスローブかー」
少し前の撮影で、これを着たことがありました。
一緒に撮影をしていた美希は「貴音、すっごく似合うのーっ!」と言っていましたが、わたくしにはどうなのかは分かりません。
響「それじゃあ、これを着て隣の部屋に行こう」
貴音「ええ」
響「うわぁ、久しぶりだなー」
貴音「響は、よく旅館に泊まるのでは?」
響「そうなんだけど、これを着て動くことはないかなぁ。寝るときに着るだけだからさ」
貴音「なるほど……ばすろぉぶは就寝時にも着るのですね」
そうして、ばすろぉぶを身に纏い。
隣の部屋の呼び鈴を鳴らしました。
「はぁい」という声と共に、ばすろぉぶ姿のあずさが扉を開けます。
あずさ「あら、二人共」
貴音「あずさ、真……大浴場に行きませんか?」
響「お風呂行こうよ!」
真「いいねいいね! ボクたちも、ちょうどそんな話をしてたんだ!」
響「そうなの?」
あずさ「ええ、今これに着替えていたのよ」
貴音「あずさ……」
あずさ「はい?」
貴音「美しいです」
あずさは普段よりも妖艶でした。これが、ばすろぉぶ効果なるものでしょうか。
あずさ「ええっ!? そ、その……貴音ちゃん?」
真「もう準備はできてるからねっ」
響「それじゃあ、行こう! なっ、貴音、あずささん!」
貴音「行きましょう、あずさ」
あずさ「は、はい……」
何故だかあずさが顔を紅潮させていました。
三階の客室から階段を降り、地下の大浴場入口へとたどり着きます。
自動販売機が隙間なく置かれ、少し奥まった場所には機械が多く置いてあります。
響「麻雀ゲームだね」
真「こういうところって、多いよね」
どうやらそれは、麻雀の機械。
あずさ「こういうところでしか、見ないわねぇ」
脱衣場のかごは数個を除いてどれも中身がなく、人があまりいないことを教えてくれました。
貴音「とても楽しみです」
響「春香たちが朝風呂で入ったんだっけ? いいよね」
真「ボクたちも朝風呂行こうよ!」
あずさ「ええ、とっても楽しみねぇ」
真「あずささん、朝起こしますからね!」
あずさ「うふふ、大丈夫よ、真ちゃん。わたし、8時ぐらいには」
真「6時に出発しますよ!」
あずさ「は、早いのね……」
大浴場への扉を横に動かすと、湯気が顔に当たりました。
響「うわー、広いなぁ」
あずさ「早く入りたいわねぇ」
真「あっ、”かけ湯”をするみたいですよ」
貴音「湯を身体にかけるのですね」コトン
響「どれどれ……おっ、良い感じのぬるさだぞ」バシャア
真「そう? それじゃ! ……うん、丁度いいね」バシャン
貴音「……良いですね」バシャ…
あずさ「温かくて、言葉が間延びしちゃうわぁ」
響「あずささん、いつもそうだぞ」
かけ湯をした後は、自由に入っていいと書いてありました。
四人で、一番大きな浴槽へと入ります。
……おや、他に入っている方々は、露天風呂にいるのですね。
真「ふぅー……気持ちいいなあ」
あずさ「ええ、とっても……」
響「疲れが取れるなぁ」
貴音「ええ、今日の収録は楽しめましたが、同時に疲労も溜まるものでしたからね」
あずさ「楽しかったわよね」
真「でも、貴音の言うとおりに疲れましたね……」
響「あずささん、マラソンで疲れてたね」
あずさ「みんなが早すぎるからねぇ」
真「そ、そうでしたか?」
貴音「響も真も、最後は競争をしていましたからね」
響「だ、だって真が!」
真「響が急に加速するからだろ!」
響「むぅー……」
真「ぬぅー……」
響・真「……ふー」
あずさ「うふふ」
貴音「それにしても……気持ちが良いですね」
響「そうだねぇ」
真「後で、露天風呂にも行ってみない?」
あずさ「それじゃあ、あの人が露天風呂を出たら、にしない? 急に大勢で行くと、気を遣わせてしまうから」
貴音「そうしましょう」
真「また行けるかな、事務所のみんなで旅行」
あずさ「楽しかったわねぇ」
貴音「皆で、入浴したいですね」
響「でも、みんな忙しいもんなぁ。この仕事だって本当は……」
真「仕方ないよ。雪歩は舞台だし、美希はファッションショーに出なきゃいけないんだからさ」
響「うん……もう、あんまりみんなで集まれないのかな」
貴音「忙しいことは喜ばしいことですが……少し、残念ですね」
あずさ「いっそのこと、プロデューサーさんにお風呂レポートのお仕事を頼んでみるとか」
響「……うーん、どうかなぁ」
真「いいとは思いますけど……そんなお仕事、あるんでしょうかね」
貴音「様々な温泉を楽しめるのは、良いですね」
響「そうだ、様々な温泉っていえば……このホテル、温泉街の中にあるんだよな」
真「そうなの?」
響「うん、タダでいろんなお風呂に入れるらしいぞ」
あずさ「明日、巡ってみましょうか」
貴音「ふふっ」
響「ふーんふふーん♪」
響の鼻歌は「READY!!」ですね。
真「お風呂って、やっぱりいいなぁ」
露天風呂の扉が開き、入っていた女性がそのまま大浴場を後にしました。
あずさ「それじゃあ、行きましょうか」
貴音「はい」
真「やーりぃ! 露天風呂ですね!」
響「楽しみだなぁ」
夜空の下、落ち着いた雰囲気の岩風呂が見えます。
響「つ、つめたっ」
真「寒いっ」
あずさ「は、早く湯船に」
貴音「ゆっくり、温かさを感じるのです」チャポ
響「……おぉ」
真「……ふぅー」
あずさ「気持ちがいいわねぇ」
真「やっぱり、露天風呂と中のお風呂は違うね」
響「そうだなー……」
貴音「……月が、綺麗ですね」
あずさ「……あら」
響「……本当だ」
真「……そうか、このへんは、あまり明るいものがないから……」
貴音「客室の窓よりも、美しく見えます」
満月の輝く、美しい空。
その光が、わたくし達の佇むこの場所を、深く深く照らしてくれるようでした。
響「ねぇ、貴音」
貴音「はい?」
静寂。ただ湯の流れる静かな音だけが聞こえています。
響「貴音は、月をよく見るよね」
貴音「ええ」
響「貴音にとって、月って……なに?」
貴音「わたくしにとって、月とは……ですか」
真「難しい質問するね、響」
あずさ「月……」
貴音「母親のようなものでしょうか」
あずさ「母親?」
貴音「ええ。本当の母親とは違いますが、空を見上げるといつもそこにある……」
真「……母親、かぁ」
貴音「ええ。皆はありませんか? 月を見ると、心が安らぐことが」
真「ボクは分からないけど……ホッとすることなら、少しはあるよ」
貴音「そうですか……やはり、不思議な力を秘めているのかもしれませんね」
あずさ「ふふっ、貴音ちゃんみたいね」
貴音「はい?」
あずさ「不思議な人だけれど、みんながとっても信頼している、月のように光で辺りを照らす」
貴音「……」
響「あずささん……かっこいいな」
あずさ「うふふ、少し子供っぽいたとえだったかもね」
貴音「わたくしは、月のようになれているでしょうか?」
真「……うん。ボク、貴音に何度も助けられたしね」
貴音「はて」
真「無意識に、みんなのことを支えてくれているんだよ」
響「そうだな、自分もフェアリーで貴音に何度も助けられたぞ」
あずさ「私も、番組でフォローしてもらったり、事務所に連れてってもらったり」
貴音「……ありがとう、ございます」
真「……でも、急にどうしたのさ、響?」
響「いや……なんだか、思いついて」
あずさ「ええ、わかるかも。なんだかお湯のせいか、おかしな気分になるのよね」
貴音「皆の言葉を聞けて、とても嬉しいですよ」
身体を洗い、最後にもう一回湯船に入り……
……響がのぼせそうだと言うので、すぐにあがりました。
のれんをくぐった先にある、椅子で響は横になっています。
時刻は、まもなく23時になろうという頃。結構な時間、入っていたのですね。
響「ひうー……あついぞー……」
真「……大丈夫? 水でも買ってこようか」
響「水なら……フルーツ牛乳がいいな……」
真「フルーツ牛乳? じゃあ、買ってくるよ」
あずさ「真ちゃん、ちょっと待って。私が買ってくるわ」
真「えっ? いいんですか?」
あずさ「ええ。せっかくだから私がみんなにおごりましょう」
貴音「ありがとうございます、あずさ」
真「わ、悪いですよぅ!」
あずさ「ほらほら、気にしないで」
ガコン、と自動販売機が音を立てました。
一本ずつ瓶を取り出していきます。
あずさの横で、わたくしは二本のフルーツ牛乳を持ちました。
響「ありがと……」
真「ありがとう、貴音」
あずさ「それじゃあ、飲みましょう」
貴音「ええ」
亜美は言っていました。
「お風呂あがりのコーヒー牛乳は最高だけど、フルーツ牛乳もいいよNE」と。
フルーツ牛乳とやら、お手並み拝見です。
一体どんな味がするのか、試してあげましょう。
貴音「――!」
響「やっぱりおいしいなー……」
真「うん……あっ、響!」ペタッ
響「つめたっ」
真「顔真っ赤だし、瓶を顔につけると気持ちがいいよ!」
響「なるほろ……サンキュー真、やってみるぞ」
あずさ「ろれつが回っていないし、今日は早く寝たほうがいいわねぇ。お願いね、貴音ちゃん……貴音ちゃん?」
貴音「はっ……すみません、あまりの美味さに言葉を失っていました」
あずさ「貴音ちゃん、フルーツ牛乳は初めて?」
貴音「……はい。幼少時は、風呂あがりはコーヒー牛乳一択とじいやに言われていましたので」
あずさ「うふふ、きっとやみつきになるわねぇ」
真「この味はクセになりますよね、火照った身体に最高ですし!」
響「フルーツ牛乳、おいしいよねぇ」
貴音「……ふふっ、やはり入浴というものは、面白いですね」
ごく、ごく、ごく。
瓶に残ったフルーツ牛乳を一気に流します。
これは、朝風呂後のフルーツ牛乳も楽しみになってきますね。
貴音「皆……朝風呂も、ぜひ行きましょう」
あずさ「ええ」
真「そうだね!」
響「うんっ」
貴音「では、わたくしはおかわりを」
真「ええっ!?」
入浴後のフルーツ牛乳ってやつも素晴らしいですよね。甘さで言えば断然こっち。
お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。
12:30│四条貴音