2014年11月06日

小鳥「あずささんと一緒に……」

「音無さん、起きてください!」



ゆさゆさと身体を揺さぶられて、目を覚ます。



いつもの事務所のいつもの机で……あっ!!





「あ、あずささん!?今何時ですか!?」



「えっと、13時ですね〜……もう休憩時間、終わりですよ?」



油断していた。お昼食べて眠くなったから仮眠を取ったら……。



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「うう……、お、お仕事戻ります……」



その前に、先ずはコーヒーだ。



「コーヒー入れてきますけど、あずささんは何か飲まれますか?」



些か手持ち無沙汰に律子さんのデスクの椅子に座ってるあずささんは、少し考えた後。



「では、同じのをお願いします〜」



と言って、ぺこりと頭を下げる。



えっと、あずささん……ブラックは飲めるのかしら。

給湯室に歩いていって、インスタントコーヒーを二人分と、あずささんにはお好みでお砂糖を入れられるようにしておきましょう。



お盆にコーヒーを乗せて、デスクに戻ると、あずささんが律子さんのデスクの資料に興味を示しているようだった。



「あずささん。はい、コーヒーです。お砂糖はお好みでどうぞ」



「あっ、ありがとうございます〜。それにしても、律子さん、こんなにお仕事されてるんですねぇ」



「むっ、私も沢山お仕事してるんですよ?」



ちょっと不機嫌な感じで言ってみると、あずささんがみるみる申し訳なさそうな顔になっていく。

「あ、いえ、怒ってるんじゃないんです、ただ、私も頑張ってるから褒めて欲しいな〜って……。あはは、何言ってるんでしょうね私」



「音無さんも、いつもお疲れ様です〜」



「えへへ、ありがとうございます」



嬉しさをエネルギーに変えて、午後の仕事も頑張っちゃいましょう。



私とあずささんしか居ない事務所に、キーボードの音がカタカタと響いていく。



「あずささんは、午後からオフなのに事務所に居ていいんですか?」



資料を作りながらあずささんに訊ねてみると、あずささんは、ちょっと恥ずかしそうに、



「予定が無いんです……」



と答えた。だからと言って事務所に留まる理由は無いだろうけど……。

「家の事とか、しなくて大丈夫なんですか?」



「お休みの時に慌てないように、普段からこまめにやってるんですよ?」



うっ、耳が痛い。私はお休みの時にまとめてやっちゃう、と言うか、時間が無い……。



洗濯と食器洗いくらいはするけども、他はお休みの日に回しちゃうし……。



「あずささんは偉いですね……私はまとめてやっちゃうので……」



「うふふ、だったら私が代わりにやりましょうか?」



「えっ!?いいんですか?」

思わず手を止めてあずささんの方に向いてしまう。



「って……あずささんに任せたら良くないですよね……」



アイドルに洗濯掃除を任せてしまうのは……ちょっと、良くないわよね……。



「音無さん。私は結構本気ですよ〜?あっ、そうだ。むしろ、一緒に暮らしてみませんか?」



「ええっ!?」



また手が止まる。いけない、ダメよ小鳥!アイドルのあずささんにそんな手間を掛けさせてしまうなんて!

「でも、音無さんと一緒に暮らせるなら、私も迷わず事務所に行けますね〜」



あっ、そう言う……。



「そ、そうですね……はぁ」



「どうしましたか?」



「なんでもありませんよ〜」



そっぽを向いて仕事を再開する。ちょっとでもときめいちゃった私が馬鹿みたいだったし。

「あらあら、怒らせちゃったかしら」



怒っては、いないんですけどね。まぁ、仕事の続きをしないとみんな困っちゃいますし、仕事に戻りましょう。



そこからあずささんと世間話を交えながら、およそ6時間。



や〜〜っと、お仕事から解放された。それと同時に、律子さんとプロデューサーさんが帰ってくる。



「ただいま戻りました〜、あれ、あずささん、なんで私の椅子に座ってるんです……?」



「戻りました!あっ、音無さん、これ差し入れです」



「おかえりなさ〜い、プロデューサーさん、律子さん。音無さんとお話ししてたので、椅子お借りしてました〜」



「ありがとうございます、プロデューサーさん」

お二人が帰ってきて少し賑やかになってくるけど、私はもうお仕事終わりなのよね。



「じゃあ、私はお仕事終わったので今日は帰りますね、あ、そうだ。アイドルのみんなは直帰ですか?」



「ええ、アイドルの皆はもう帰しました。と言う訳で音無さん。良かったらご飯でも如何ですか?」



えっ?プロデューサーさんいきなり何を?と混乱していると、あずささんが張り合うように、



「あっ、ダメですよ〜プロデューサーさん。音無さんは私が予約してるんですっ!」



と、私の予約を勝手に取っていた。ど、どういう事なの!?と思ってたら、律子さんがご飯に誘ったプロデューサーさんを咎める。

「それに、プロデューサー殿……ご飯の前に、まだ仕事が終わってないんじゃないんですか?」



「うっ……ば、ばれたか……。」



どうやら、仕事を先延ばしにしたかったみたい。なんだ、そう言う事じゃないのね。と思っていたら。



「音無さん、ご飯いきましょうよ♪」



勝手に予約を取っていたあずささんが私をご飯に連れだそうとしている。



流石に断るのも悪いので、承諾すると、あずささんはあからさまに喜んだ様子で、まだ支度の終わってない私の手を引こうとする。

「わ、私まだ帰る支度出来てないですよ!」



「あ、それは、ごめんなさい……じゃあお待ちしてますね〜♪」



程なく、私の支度も終わってあずささんと連れ添って事務所を出る。



「何処か決めてるんですか?」



「たるき亭で食べましょうか〜」



あずささんのその一言で、事務所から徒歩数秒のたるき亭でご飯を食べる事になった。

お店に入ると、顔なじみの小川さんが奥の席に案内してくれた。



早速お酒を頼もう……!と思ったら、あずささんが制止してくる。



「今日はお酒はめっ、ですよ?」



「えっ、だ、ダメなんですか?」



「ダメですよ〜、音無さんが泥酔したら一緒に帰れないじゃないですか〜」



「へ?」



よく分かってない私に、あずささんは更にたたみかけてくる。

「今日は音無さんのお家に抜き打ちでお泊まりです♪」



「え?えええ!?」



「ダメでしょうか?」



「だ、ダメ、じゃ、ないんですけど、ちょっとだけ片付ける時間が欲しいです……」



「うふふ、じゃあ決まりですね♪ご飯食べちゃいましょう!」



ご飯を待っている間、私は秘蔵の本達を何処に片付けようかを思案していた。



天袋に全部詰め込めばいいかな?整理して入れないと……。

なんて考えてるといつの間にか目の前にご飯が来ていて、一旦考えるのを中断する。



今日は焼き魚定食。あずささんは煮魚だ。



居酒屋だから乾杯の音頭もちらほらと聞こえてくる中、私たちは晩ご飯を食べる。



ちょっと乾杯が羨ましい。混ざってもいいかしら……。



まぁ混ざる勇気も無いので、定食に手をつける。



お魚は程よい焼き加減で美味しい。つけものもお味噌汁もご飯も、全て焼き魚に合う。お魚は偉大だ。

そんな偉大な焼き魚定食も私の胃袋の前には為す術もなく、ただ栄養となるべく破れていった。



「ふー、お腹いっぱいです」



「そうですね〜、それじゃあ、音無さんのお家に行きましょうか〜」



「は、はい……じゃあ、電車で……」



お会計をして、駅まで二人で並んで歩く。あずささんはちょっと目を離すとどこかに消えてしまうので、手を繋ぎながら。



あずささんの手はとても暖かい。



そろそろコートも出さないとダメね……と思いながら、駅までの道を歩く。

そこから、電車に乗って、私の家の最寄り駅まで大体40分。



ずっと握った手はしっとりと汗ばむ。



駅から歩いておよそ10分。私の家に到着する。一人暮らしなので掃除は適当し放題。



あずささんを家の玄関の中で待たせて、ささっと秘蔵の本だけ天袋に入れておく。



それ以外は取り繕う感じで……、うん。大丈夫。

「改めて、お邪魔します〜」



「どうぞ〜」



「あれ、意外と綺麗にしてるじゃないですか〜」



「そうですかね?」



「てっきりもうちょっとごちゃっとしてるかな〜って思ってましたよ」



一人暮らしでアラサー未婚の女なんて、女を捨てた住まいに住んでるんだろうって思われてたんだろうか。



少なくとも私はいつ如何なる時でもフラグが立ち、イベントが発生してもフラグが折れないように心がけているのだ。

「一応、男の人を上げても恥ずかしくないようにしてるんですよ?ただ纏まった家事をする時間が無いだけなので」



「そ、そうだったんですね〜」



「……上げる人なんて居ませんけどね、どーせ」



「あ、あらあら〜……」



妙な雰囲気になったので、お風呂を沸かしに向かう。軽く掃除して、スイッチを押せば後は沸くまで待つのみ。



部屋に戻ると微動だにしないあずささんが座っている。気まずくしちゃったかしら。

「そう言えばあずささん」



「はい?」



「着替えとかってありましたっけ?」



「レッスン用のバッグの中に入ってますよ〜」



あ、良かった。抜かりがなくて……。



「良かったぁ、泊まるのに忘れてたらどうしようかなって思ってました」



「うふふ、音無さんは心配性ですね〜」



「もう!」

まぁ、不思議と嫌な気分ではないんだけどね。



暫く二人で談笑をしていると、お風呂のお知らせ音が鳴る。お風呂が沸いたようだ。



「お先どうぞ、あずささん」



「それじゃあ……あっ」



立ち上がりかけたあずささんの動きが止まる。もしかしてシャンプーの相性とか?



「……良かったら、一緒に入りませんか?」



「ええっっ!?」

予想外のお誘いにビックリしてあずささんの方に向き直る。



「ダメですか?まだまだ話し足りないですし〜」



あ、な、なんだ。そう言う事か。そうよね、同性だからそうよね……。



「そう言う事なら……」



と言う訳で、あずささんと一緒にお風呂に入る事になった。



現役アイドルと一緒のお風呂……ファンの皆さんに知られたら大変ね。



それに、プロデューサーさんに知られても……ああっ、いけない、これ以上の妄想はダメよ小鳥!

なんて馬鹿な事をやってないで早くお風呂に入っちゃいましょう。



あずささんには先に湯船に浸かってもらって、私が先にシャワーを浴びる。



「そう言えばあずささん」



「なんでしょうか?」



「シャンプーとか、何か相性ってあったりしますか?一応、ノンシリコンのもあるので使いたかったらどうぞ」



「そ、それじゃあ試してみてもいいですか?私、そう言うの使った事無いんですよ〜」

意外。あずささんがノンシリコンのシャンプーを使った事が無いなんて。



「シャンプーって意外と馬鹿にならない出費じゃないですか〜、だからなるべく安いのを買うって癖がついてて……」



「あはは、分かりますよそれ。一人暮らしだとついついその辺り不精しちゃうんですよね〜」



「今でも白椿を愛用してます〜」



「あっ、同じですね」



シャワーも終わったので次はあずささんの番。それにしてもあずささんの凄いわね。浮いてるもの……。

「あ、あら〜、これがノンシリコンの……凄いですねぇ、音無さん」



「買ったのは良いんですけど、使いすぎると勿体ない気がして」



「なるほど〜、あ、ちなみにこれおいくらでした?」



「……およそ、4000円です。」



何の気なしに聞いた値段が意外と高くて、あずささんがぴしっと固まるのが見える。

「あはは、あずささんに使って頂けるなら全然構いませんよ」



「わ、私はなんてことを言ったのかしら……すみません、音無さん。高いものを使わせて頂いてしまって」



「勧めたのは私ですから、気にしないでください」



若干申し訳なさそうなあずささんもシャワーを終えたので、身体を拭いて戻る。



二人でもこもこと頭にタオルを巻いている様は、まるでインド旅行をしているよう。

「すみません音無さん、押しかけてしまって」



「いえいえ、いいですよ〜あずささん。私も何だかんだ、楽しかったですから」



「それならいいんですけど……あ、音無さん。明日はオフですか?」



「はい、オフですよ。何かありました?」



「良かった、じゃあ、明日折角なのでお出かけしませんか〜?」



「え?いいんですか?」



「はい〜、音無さんとデートですね♪」

デートって言われて、ちょっとドキっとする。あずささんとデート……ああ、これはますますファンに知られたらまずいわね。



「ぜ、是非!」



「の、前に。私もお手伝いしますから、お掃除とか徹底的にやっちゃいましょう♪」



あっ……お出かけに浮かれてすっかり忘れてた……。



「お、お手柔らかにお願いします……」



「私頑張っちゃいますよ〜♪」

天袋だけは死守しないといけないわね……!



あそこはあずささんに見られてはいけないもの。いわば聖地。ついさっき出来たばっかりの聖地なんだけどね。



「さて、明日も早いですから、寝ましょうか、あずささん」



「そうですね〜、じゃあ、お礼に明日は朝ご飯作っちゃいますよ〜」



「手料理ですか!嬉しいですねぇ、お願いしても大丈夫ですか?」



「はーい、任せてください♪」

ふふふ、明日の楽しみがまた一つ増えたわね。



ウキウキしながら、寝る支度をして、私はソファーで寝ようとすると。



「ダメです、音無さんはこっちです♪」



「え?いや、あずささんがベッド使ってくださいよ〜」



「一緒に寝ましょう♪」



「へ?え、あ、あずささん?」



「うふふ、ガールズトークです♪」

ガールズトーク……ああ、なんて甘美な響きだろうか。



「なら、一緒に寝ちゃいますよ。あずささん、今夜は寝かせませんからね?」



「あ、あら〜、お手柔らかに〜」



明日もあるけど、気にしない!私たちのオフは、これからだもの♪





おわり



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